異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ラウラの夢とタクヤの決意

 

 敵陣の真下に穴を掘って爆破するという作戦は、第一次世界大戦にも行われている。

 

 メシヌ高地と呼ばれる場所に拠点を用意していたドイツ軍を撃破するために、イギリス軍がその拠点の下まで穴を掘り、そこにこれでもかというほどの爆薬を設置して起爆させ、ドイツ軍に大打撃を与えていたのである。

 

 さすがに現代の戦闘ではこういう戦い方をすることは殆どない。

 

 ナタリアがブレスト要塞の地下でタンプル砲専用のMOAB弾頭を起爆させるという作戦を発表した瞬間、俺はイギリス軍のその作戦を思い出した。春季攻勢が始まる前に、参謀総長であるナタリアに「異世界の戦術を教えてほしい」と言われた時に、俺はこの地下で爆薬を爆破して敵陣に大打撃を与えた話をしたのだ。

 

 もちろん一般的な現代戦の戦術も教えたけれど、彼女はどうやら第一次世界大戦でイギリス軍がドイツ軍に大打撃を与えたこの作戦に興味を持っていたらしい。

 

 けれども、これは合理的な作戦かもしれない。撤退していく吸血鬼たちに紛れ込んでブレスト要塞に潜入しているニコライ4―――――――彼を紛れ込ませたのはウラルの独断である―――――――からの報告では、吸血鬼たちはやっぱり要塞の周囲にこれでもかというほど対戦車地雷を設置している上に、要塞の防壁に28cm要塞砲を4基ほど設置して迎撃する準備をしているという。

 

 数は少ないものの、要塞内部にある飛行場では生き残ったF-22たちが出撃の準備をしているらしい。敵は風前の灯火だと高を括れば、大損害を被る羽目になるのは火を見るよりも明らかである。

 

 そこで、ナタリアが立案したこの作戦で、あいつらに強烈な一撃をお見舞いすることにした。

 

 まず最初に航空隊が攻撃を開始し、制空権を確保する。ニコライ4からの報告では生還したF-22はたった19機だけだ。それに対しこちらは合計で200機のステルス機と無数の艦載機たちを出撃させる予定であるため、制空権が確保できるのは時間の問題だろう。

 

 ちなみに出撃するステルス機たちは、ロシアのPAK-FAが80機、アメリカのF-22が50機、中国の殲撃20型が70機である。

 

 敵の航空隊を撃破した後に、今度は攻撃機たちの空爆と砲兵隊による遠距離砲撃を実施する。その間に俺たちは地下のトンネルにMOAB弾頭を設置し、要塞の真下で起爆させることになっている。

 

 起爆させた後はトンネルを脱出してそのまま要塞の防壁の内側へと攻め込み、敵を攪乱しつつ敵の指揮官であるブラドを討ち取るのである。ブラドがいなくなれば敵の士気は一気に下がるし、彼が自分の能力で生産した武器はすべて消滅する。歩兵たちが手にしているXM8や戦車部隊に配備されている頼もしいレオパルトたちが消えてしまうのだ。

 

 転生者はポイントを消費して強力な武器や能力を生産できるのだが、その転生者が死亡すれば、転生者の能力によって生産された武器や兵器はすべて消失するという仕組みになっている。もちろん転生者が与えられる端末も機能を停止するので、それを鹵獲して使うことは絶対にできない。

 

 おそらく、俺たちの世界の武器がこの異世界の人々に鹵獲されないようにするための機能なんだろう。つまり転生者の集団を相手にする場合は、積極的に転生者を狙った方が敵の武装勢力を無力化しやすいのだ。

 

 とはいえ、あくまでも端末が機能を停止することが分かっているのは、転生した際に端末を与えられる”第一世代型転生者”の話だ。けれども今回の標的であるブラドは――――――――俺と同じく、端末を持たない”第二世代型転生者”である。武器の鹵獲を防ぐために同じ仕組みにされている可能性は高いものの、第一世代型と異なっている可能性もあるのだ。

 

 場合によっては、敵の残党を叩き潰す必要もあるのである。

 

 溜息をつきながらちらりと部屋の時計を見上げて時刻を確認する。今の時刻は深夜0時。総攻撃が始まるまであと7時間だ。

 

『最終防衛ラインの突破に失敗した吸血鬼たちは、ブレスト要塞へと撤退しています。モリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)の連合軍と共同で実施される総攻撃に耐えることは不可能でしょう。ですが、念のため戦闘が終了するまでは、住民の皆さんは外出をしないようにしてください。部屋の中で、勇敢な同志たちが勝利する事を祈りましょう』

 

 部屋に置いてあるラジオから聞こえてくるのは、シュタージのメンバーたちによる放送だった。いつもならナタリアとクランの”ラジオ・タンプル”の放送が終わる時間なんだが、春季攻勢の最中はシュタージの隊員たちによる放送が延々と続けられている。

 

 けれども、この作戦が終われば殺風景な放送は終わるだろう。来週の夜からは再びラジオ・タンプルが再開されるに違いない。

 

 お盆の上にボルシチの入った皿を乗せて、俺はベッドの方へと向かった。普段はラウラと一緒に眠っている少し大きめのベッドの上にはパジャマ姿のラウラが横になっていて、シュタージの放送を聞きながら壁に掛けてあるランタンをじっと見つめていた。

 

「ラウラ、出来たよ」

 

「あっ、ありがと。…………えへへっ、美味しそうだね♪」

 

「はははっ、自信作だよ。…………あーん」

 

「あーんっ♪」

 

 スプーンで、ボルシチの中に入っていた野菜とハーピーの肉をラウラの口へと運ぶ。本当なら牛肉を使おうと思ってたんだが、牛肉はこの総攻撃に参加する兵士たちに支給されてしまっているので、代わりにハーピーの肉を使っている。

 

 いくらテンプル騎士団が圧倒的に有利とはいえ、1人も死者を出さずに勝利できるわけがない。それに牛肉を支給すれば作戦に参加する兵士たちの士気も上がるだろう。

 

 柔らかいハーピーの肉や野菜を咀嚼するラウラは、微笑んでいた。

 

「えへへっ、やっぱりタクヤの料理が一番美味しいよっ♪」

 

「ありがとね、ラウラ。でもまだ母さんには敵わないよ」

 

 ハヤカワ家の中で一番料理が上手いのは間違いなく母さんだろうな。母さんも作戦に参加する親父のために、手料理を振る舞っているのだろうか。

 

 すでに戦闘で使用する新しい武器の試し撃ちも済んでいるし、しっかりと眠ったから大丈夫だろう。

 

 スプーンの上に乗っている野菜を美味しそうに食べる姉の頭を撫でながら、もう一度時計の時刻を確認する。先ほど時計を見た時から時間はあまり経っていないというのに、作戦が始まる時間が気になってしまう。

 

 その時間が、一時的に彼女(ラウラ)と”お別れ”をする時間になってしまうから。

 

 しかも再会できるという保証はない。下手をすれば爆破を終えてトンネルから出た直後に、俺たちの奇襲に気付いた戦車の戦車砲にミンチにされるかもしれないし、敵の狙撃兵に頭を撃ち抜かれ、脳味噌の破片をばら撒きながら死ぬ羽目になるかもしれない。

 

 ブレスト要塞にいる敵の士気は非常に高いという。俺たちが襲い掛かれば、彼らは死に物狂いで襲い掛かってくるのは想像に難くない。

 

 戦死するかもしれないと思った俺は、”お別れ”する時間になる前に、出来るだけラウラと一緒にいようと思った。死ぬつもりはないけれど、”死”はどんな敵よりも容赦がない存在だ。ボディアーマーで身を守っていたり、戦車の陰に隠れていたとしても、死はあらゆる兵士を問答無用で殺してしまう。

 

 だから、戦場に向かう前にラウラと一緒に過ごそうと思ったのだ。戦争に行く羽目になった兵士たちも、こういう感覚を味わっているのだろうか。

 

 頭を撫でているうちに、毛布から伸びたラウラの柔らかい尻尾が、俺の頭を撫でてくれていた。柔らかい真っ赤な鱗で覆われた彼女の尻尾は俺の頭を撫でながら、先端部を伸ばして頬も一緒に撫でてくれる。

 

 大丈夫だよと言わんばかりに撫で始めた彼女の尻尾に触れると、ラウラが俺の顔を見上げていた。

 

 不安になっていたのを見抜いたのだろうか。

 

 彼女とは生まれた時からほぼずっと一緒にいる。おかげでちょっとした仕草でも彼女が何を考えているか分かるようになってしまったし、戦闘中もいちいち指示を出さなくても連携を取ることができるようになっている。もちろん彼女も俺の考えていることを把握できるらしく、何も言わなくてもかなり正確にサポートしてくれるのだ。

 

「タクヤ、無理をしちゃダメだからね」

 

「…………ああ」

 

 無茶をしてしまうのは、親父から遺伝しちまった悪い癖だ。若き日の親父は何度も無茶をしてボロボロになり、母さんを心配させていたという。

 

 仲間たちに何度も無茶はしないと誓ったんだが、それを守れたことは今のところ一度もない。どうせ今回も守れないんだろうなと思いつつ返事をすると、彼女は右手を伸ばして俺の顔を引き寄せ、そのまま唇を奪った。

 

 舌を絡み合わせてから、ラウラが静かに唇を離す。けれども彼女の尻尾はまだ俺から離れるつもりはないらしく、相変わらず頭と頬を同時に撫で続けていた。

 

「お姉ちゃんはタクヤ以外の男と結婚する気なんてないんだからね?」

 

「分かってるって」

 

 小さい頃から何回も『タクヤのおよめさんになる!』って言ってたからな。

 

 俺が死んだら、彼女の夢を叶えることができなくなってしまう。だから死ぬわけにはいかない。

 

「ラウラの夢は絶対に叶えてみせるよ」

 

「うんっ♪」

 

 いつの間にか不安が完全に消滅していたことに気付いた俺は、ベッドの上で微笑んでいるラウラを優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極秘に建設された駅のホームは、タンプル搭の最下層に存在する。極秘に建設されていたため、当然ながらタンプル搭の内部にあるエレベーターで向かうことはできない。最下層という事になっている第11戦術区画の西側にある隠し階段から下に降りて行けば、そのホームに辿り着くことができるのだ。

 

 そのホームに、装甲で覆われた巨大な列車が居座っていた。

 

 ただ単にモリガン・カンパニー製の機関車と車両に装甲を搭載し、自衛用のKord重機関銃を車両に搭載しただけの装甲列車である。あくまでもこの列車は緊急脱出用の列車であるため、機関砲や戦車砲を搭載する必要はなかったのだ。拠点から脱出する時にしか走らないのだから、これでもかというほど武装を搭載する必要はないのである。

 

 機関車はフィオナ機関を搭載したD51にそっくりな機関車だ。オルトバルカ王国では旧式になってしまったものの、同盟国ではまだ現役の高性能な機関車である。非常に頑丈で値段も安いので、モリガン・カンパニーから何両か購入しておいたのだ。

 

 装甲で覆われた機関車の前には、1両だけ貨車が連結されているのが見える。要塞に奇襲を仕掛ける兵士たちが乗り込む車両よりも大きな車両のハッチから覗いているのは、戦艦の主砲よりもはるかに巨大な砲弾だった。本来ならばテンプル騎士団の切り札であるタンプル砲から発射される筈だった200cm多薬室ガンランチャー専用のMOAB弾頭である。

 

 列車でその車両を起爆させる位置まで押していき、そこで貨車を切り離してから時限式の起爆装置を起動させ、車両もろとも爆発させるのだ。爆発する前に装甲列車は安全な位置まで下がりつつ、本来ならば敵の侵入を防ぐための分厚い隔壁を何枚も閉鎖して爆風から身を守ることになっている。

 

 俺たちまで生き埋めにならないことを祈りながら、テンプル騎士団仕様のAK-12を装備した他の兵士たちと共に装甲列車の前に整列する。この奇襲に参加するのは、最終防衛ラインの戦闘で死闘を繰り広げた強襲殲滅兵たちの生き残りとスペツナズの兵士たちである。あとは、俺とナタリアとステラとイリナの4人だ。

 

 爆破した後は、爆風が穿った大穴から要塞へと侵入して奇襲を敢行することになっている。いくら敵の戦力が大きく減っているとはいえ、敵兵の人数は合計で8000人だという。たった100人足らずの兵士で奇襲を仕掛けるのはかなり危険だろう。

 

 けれども俺たちの役割は、可能な限り的に損害を与えつつ攪乱する事だ。

 

 この戦いでは室内戦が想定されるため、俺は装備を変更していた。

 

 サイドアームはお気に入りのPL-14である。メインアームは生産したばかりのAK-15で、ホロサイト、ブースター、グレネードランチャーをすでに装着している。

 

 もう1つのメインアームは、アメリカで開発された『AA-12』と呼ばれるショットガンだった。まるでアメリカのM16の銃身をかなり短くしてキャリングハンドルを取り外したような外見をした銃である。

 

 大半のショットガンはポンプアクション式かセミオートマチック式なのだが、このAA-12は強力な散弾をフルオート射撃で敵に叩き込むことができる獰猛な代物なのである。無数の散弾が立て続けに連射されるため、近距離にいる敵は瞬く間に蜂の巣になってしまうだろう。

 

 ちなみに、こいつをアンロックする条件は『白兵戦で1500人の敵兵を倒す』という条件だ。俺は白兵戦が得意なのでとっくにアンロックされていたのだが、まだ生産していなかったのだ。

 

 生産したAA-12にはフォアグリップとオープンタイプのドットサイトを取り付け、マガジンを32発入りのドラムマガジンに変更している。使用する弾薬は近距離にいる敵兵をミンチにできるように通常の散弾にした。

 

 おそらく、そろそろ飛行場から航空隊が飛び立つ頃だろう。まだ未完成のホームの天井を見上げながらそう思った俺は、整列している兵士たちの前に出てから、無線機のスイッチを入れた。

 

「―――――――同志諸君、いよいよ我々は敵が占拠しているブレスト要塞へ総攻撃をかける。敵は大損害を被ったとはいえ、未だに士気は高いという。死に物狂いで反撃してくる事だろう」

 

 親父に演説をしてもらおうと思ったんだが、親父に「お前の方が上手そうだから任せる」と言われたので、俺が担当することになった。テンプル騎士団の兵士たちの士気は上がるかもしれないが、モリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)の兵士の士気を上げることはできるのだろうか?

 

「だが、我々はブレスト要塞を何としても奪還し、我々の領土を奪い返さなければならない。戦死した同志たちや、犠牲になったグランバルカ号の乗客たちを弔うためにも、あの吸血鬼たちには鉄槌を下す必要がある」

 

 ブレスト要塞では何人もテンプル騎士団の兵士たちが犠牲になっているし、グランバルカ号に乗っていた何の罪もない乗客たちも犠牲になっているのだ。彼らの仇を取らなければならない。

 

 それに、この戦いでブラドと決着をつける必要つもりだ。報告では艦隊を率いていた女王のアリアは既に海の藻屑になったという。ブラドが死ねば、過激派の吸血鬼たちを束ねるリーダーがいなくなるのだ。そうすれば、過激派の吸血鬼たちはもう二度と人々を虐げることができなくなるに違いない。

 

 前世で一緒に遊んだ親友の事を思い出した俺は、溜息をついた。

 

 あいつとはもう絶交したんだ。あいつはもう俺たちの敵なのだから、消さなければならない。

 

「この戦いが歴史に残ることはないだろう。俺たちがどれだけ戦果をあげても、それをたたえてくれるのは関係者だけだ。…………だから、歴史に残らない戦いで死ぬのは絶対に許さない」

 

 転生者戦争は歴史に残るが、この春季攻勢は転生者の関係者たちだけの戦いだ。それゆえに、絶対に歴史には残らない。

 

「…………一緒に戦果をあげて、みんなで英雄になろうじゃないか。こんな歴史に残らないちっぽけな戦いで死ぬのは面白くないだろう?」

 

 目の前に並んでいる兵士たちの顔を見渡す。整列している兵士たちの種族はバラバラだったけれど、大半の兵士はハーフエルフかオークだった。どちらも屈強な種族であるため、5.56mm弾や6.8mm弾に被弾した程度ではすぐに死なない。

 

 けれども、最終防衛ラインの戦闘では強襲殲滅兵たちが何人も犠牲になっている。あの戦闘に参加した強襲殲滅兵は50名だったんだが、最終的に生き残ったのは俺を含めてたった23名だけだ。

 

 屈強な兵士でもあっさりと死んでしまうほど過酷な戦いになるだろう。

 

 でも、俺は死ぬつもりはない。

 

 ラウラの夢を叶えなければならないのだから。

 

「―――――――戦いを終わらせよう、同志諸君」

 

 

 

 

 

 


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