異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「艦長、敵艦が移動を開始しました」
前衛突撃艦隊の旗艦を務める駆逐艦『メルクーリイ』のCICにいる乗組員が、指揮を執っている艦長に報告する。
先ほどの対艦ミサイルによる攻撃で、ビスマルク級戦艦に損傷を与えた上に、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦の撃沈に成功している。テンプル騎士団艦隊も奮戦してビスマルク級を撃沈しているため、残っている吸血鬼たちの艦隊は、ビスマルク級2隻とプリンツ・オイゲンのみであった。
下手をすれば敵艦隊に止めを刺すのは自分たちかもしれないと考えていたメルクーリイの艦長は、乗組員の報告を聞いてから頭を掻きつつ、CICに居座っているモニターに投影されている敵艦の反応を見上げた。
手負いのビスマルク級は、真正面にいるテンプル騎士団艦隊へと向けて前進を始めている。損傷のせいで速度は低下していたものの、船体に搭載されている速射砲やCIWSはまだ健在であるため、こちらの対艦ミサイルを迎撃しながらテンプル騎士団艦隊へと接近することはできるだろう。
しかし、その隣にいた筈のプリンツ・オイゲンは――――――――まるでビスマルクを見捨ててしまったかのように、右へと進路を変更していた。
「敵の巡洋艦は旗艦を見捨てたのでしょうか?」
「いや、おそらく撃沈された巡洋艦の乗組員を救助し、戦線を離脱するつもりなんだろう」
損傷して速度が低下した戦艦が戦線を離脱しようとしても、速度が低下している上に損傷している状態では、ミサイルの集中砲火を叩き込まれて呆気なく撃沈されてしまうのが関の山だ。
それゆえに敵艦隊の指揮官は、未だに無傷だった巡洋艦プリンツ・オイゲンに離脱を命じたのだろう。
モニターでプリンツ・オイゲンの進路を予測した艦長は、目を細めた。
モリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)の大艦隊がこのウィルバー海峡を埋め尽くしているとはいえ、敵艦隊を包囲しているというわけではない。あくまでも敵艦隊の後方に居座り、損傷している敵艦たちに容赦なくミサイルの飽和攻撃をお見舞いしただけである。
それゆえに、敵艦隊の左右に進路を変更して最大戦速で航行しつつ、立て続けに発射される対艦ミサイルを迎撃することができればこの大艦隊から逃げ切ることは可能であった。
「艦長、どちらを攻撃しますか?」
戦線を離脱しようとしている巡洋艦に乗っているのは、間違いなくあの撃沈された巡洋艦の乗組員たちだろう。負傷兵や戦意を失った乗組員たちがあの艦で離脱しようとしているに違いない。
もう既に吸血鬼たちの海軍や地上部隊は大損害を被っているため、仮に巡洋艦を取り逃がしてしまっても、吸血鬼たちが部隊や艦隊の再編成を行うのは不可能だろう。テンプル騎士団を撃滅するために投入した彼らの切り札はテンプル騎士団の反撃によって破壊されてしまっている上に、2回も惨敗する羽目になってしまうのだから、生き残った吸血鬼の兵士たちの士気も劇的に低下する筈である。
それゆえに、その巡洋艦は逃がしてしまっても問題はないだろう。
「…………あのビスマルク級を狙えるか?」
「はい、同志。ミサイルもまだ残っています」
「よろしい」
たった1隻で敵艦隊に突撃していくという事は、乗組員の士気は高いという事を意味している。敵の指揮官が乗組員たちに強要している可能性もあるが、基本的に吸血鬼はプライドの高い種族である。あの戦艦の指揮を執る艦長が強要している可能性は、人間よりも低いと言える。
前進を始めたビスマルク級の先では、丁字戦法を敢行したビスマルク級の生き残りであるティルピッツとテンプル騎士団の戦艦たちが砲撃戦を繰り広げている。しかもティルピッツに向けて砲撃しているのは、40cm砲を搭載している複数の超弩級戦艦たちである。ティルピッツが40cm徹甲弾に貫かれ、海の藻屑となるのは時間の問題だろう。
テンプル騎士団へと突撃を開始したビスマルクの目的は、手負いのティルピッツを掩護する事ではなく、手負いのテンプル騎士団艦隊旗艦ジャック・ド・モレーを道連れにすることであるのは想像に難くない。
ジャック・ド・モレーは、吸血鬼たちが最初に丁字戦法を始めた際に立て続けに38cm徹甲弾が被弾しており、アーレイ・バーク級たちが放ったハープーンを何発も叩き込まれている。戦闘を続けられる状態ではあるものの、艦内で火災が発生している上に、船体が右へと傾斜している状態であった。
仮にビスマルクがジャック・ド・モレーを道連れにしたとしても、テンプル騎士団はこの戦いに間違いなく勝利する事だろう。しかし、テンプル騎士団が保有する最強の戦艦が轟沈すれば、テンプル騎士団海軍が大打撃を被るのは火を見るよりも明らかである。
「全艦、モスキート用意。標的はあのビスマルクだ」
「了解(ダー)!」
道連れにされてもこちらが勝利できるとはいえ、”味方”を犠牲にするわけにはいかない。
モニターに映っているビスマルクの反応を睨みつけながら、メルクーリイの艦長は息を呑むのだった。
ビスマルクの前部甲板に居座る巨大なレールガンの砲身は、傷だらけだった。冷却液を注入するための配管や電力を伝達するためのケーブルはズタズタにされており、主砲の砲塔よりもはるかに巨大な砲身の表面には、ハープーンの破片がいくつも突き刺さっている。
倭国支部艦隊旗艦『こんごう』が放ったハープーンによって損傷し、漏電が発生したせいで発射できなくなってしまったものの、乗組員たちの応急処置のおかげで、1発だけ発射できるようになっていた。
とはいえ、電力を充電できるのは40%までである。100%で発射することができれば今すぐに超遠距離用のレーダーを搭載した観測気球で敵艦隊旗艦『ジャック・ド・モレー』をロックオンし、超弩級戦艦を一撃で轟沈させられるほどの破壊力を誇る
敵にレールガンを叩き込むためには、ジャック・ド・モレーの主砲の射程距離内まで近づかなければならない。しかも充電できる電力が減少した影響で砲弾の破壊力も低下してしまっており、下手をすれば超弩級戦艦の装甲に弾かれてしまう恐れもあった。
だが――――――――ジャック・ド・モレーも砲弾の集中砲火を受けた挙句、アーレイ・バーク級たちが放ったハープーンが数発命中しており、右舷へと傾斜した状態で応戦している。レールガンが弱体化してしまったとはいえ、命中させることができれば道連れにすることは可能だろう。
「リントヴルム、充電開始!」
「速度をもっと上げろ!」
「後方の敵艦隊がミサイルを発射! 数は24!!」
「レールガンを何としても守れ! 迎撃開始!」
無数の破片が突き刺さっているレールガンの砲身が、少しずつ蒼い電撃に包まれていく。損傷した砲身から溢れ出した電撃たちが荒れ狂い、甲板に開いた大穴を蒼い光で照らし出した。
まだ健在だったキャニスターからシースパローが飛び出し、煙突の両脇に搭載された速射砲の群れが立て続けに火を噴く。猛烈な閃光を置き去りにして飛翔するシースパローの群れがモスキートたちと激突して夜空に緋色の爆炎を刻み付けた直後、その爆炎を通過したモスキートたちに、速射砲の砲弾たちが襲い掛かった。
先端部を砲弾に穿たれたモスキートが爆発し、その爆炎に突っ込む羽目になった後続のモスキートが誘爆していく。肥大化した爆炎に風穴を穿ったミサイルたちに、ビスマルクに搭載されたCIWSが牙を剥く。
砲身の先端部が凄まじい閃光に覆われ、その閃光を突き破った無数の砲弾たちがモスキートたちを蜂の巣にしていく。胴体に被弾したミサイルが強制的に減速させられ、ふらつきながら海面に突っ込んで大爆発を起こし、巨大な水柱を生み出した。
しかし、イージスシステムを搭載していない上にすでに損傷していたビスマルクが、全てのミサイルを迎撃するのは不可能だった。
爆炎を突き抜けて疾走してきた2発のミサイルが、ビスマルクの後部甲板へと激突する。甲板をあっさりと貫通したミサイルが、爆炎でビスマルクの船体を抉った。ジャック・ド・モレーを道連れにするために進んでいたビスマルクの船体がぐらりと揺れ、後部甲板が火の海になる。
更に今度は、煙突のすぐ近くに1発のモスキートが着弾した。
煙突の側面が爆発で抉られ、近くで迎撃を続けていた速射砲やCIWSの砲塔が吹き飛ばされてしまう。砲塔を失ったせいで弾幕が一気に薄くなり、ビスマルクへと牙を剥こうとしていたミサイルたちの生存率が上がる羽目になってしまった。
薄くなった弾幕を躱しながら接近してきたモスキートが後部環境の主砲の砲塔を直撃し、砲塔の天井に大穴を開けた。砲身の付け根や砲口から火柱が飛び出し、装填される筈だった砲弾が誘爆する。砲塔を覆っていた装甲が弾け飛び、へし折られた主砲の砲身が海面へと吹き飛ばされていく。
艦内で必死にダメージコントロールを続けていた吸血鬼の乗組員たちは、何度も爆炎に呑み込まれて火達磨になる羽目になった。しかし、その対艦ミサイルには吸血鬼たちの弱点である水銀や聖水は一切内蔵されていなかったため、火達磨になってもすぐに身体を再生させ、ダメージコントロールを継続した。
ダメージコントロールを止めてしまえば、敵の旗艦を道連れにする前にビスマルクが撃沈されてしまうのだから。
ビスマルクに残った乗組員たちは、間違いなく生還することは不可能だろう。圧倒的な数の敵艦隊の集中砲火を受け、乗っているビスマルクもろとも海の藻屑になるのが関の山である。
「ジャック・ド・モレーが、まもなく射程距離に入ります!」
「充電率40%! アリア様、これが限界です!!」
「ジャック・ド・モレー、ロックオン完了!」
乗組員たちからの報告を聞いた直後、ビスマルクがまたしても揺れた。
対艦ミサイルが直撃したのであれば、もっと揺れていた事だろう。ミサイルが船体に着弾した時と揺れ方が違うことに気付いたアリアは、モニターに映っているジャック・ド・モレーを睨みつける。
ビスマルクが接近してくることに気付いたジャック・ド・モレーが、主砲で砲撃を開始したのだ。立て続けに砲弾を叩き込まれた挙句、数発の対艦ミサイルを喰らう羽目になったとはいえ、ジャック・ド・モレーの主砲は未だに全て使用できる状態である。射程距離に入れば、前部甲板に搭載された6門の40cm砲が敵艦へと牙を剥くのだ。
40cm徹甲弾が、ビスマルクの周囲に立て続けに着弾する。
既にロックオンは終えているため、敵艦はレーダー照射を受けていることを察知している筈だ。しかし真正面で砲撃を継続する戦艦ジャック・ド・モレーは、回避するつもりはないらしい。まるで前進するビスマルクとそのまま激突するかのように、真正面から突撃しつつ砲撃してくるのである。
その時、CICの中が激震した。
対艦ミサイルが着弾した際の衝撃にそっくりであることに気付いた直後、CICの壁がいきなり吹き飛び、爆炎がCICの中へと飛び込んできた。
敵艦の砲撃がビスマルクに命中し、CICのすぐ近くで起爆したのだ。無数のモニターが設置されたCICの中が焦げた金属や血の臭いに蹂躙され、その爆発に巻き込まれる羽目になった乗組員たちの絶叫がCICを支配する。
亀裂の入ったモニターには、未だにジャック・ド・モレーやテンプル騎士団の戦艦たちの反応が表示されていた。複数の超弩級戦艦と死闘を繰り広げていたティルピッツの反応は既に表示されていないことに気付いたアリアは、唇を噛み締めながらジャック・ド・モレーの反応を睨みつけた。
「―――――――
ジャック・ド・モレーとソビエツキー・ソユーズの主砲を叩き込まれたティルピッツの船体の右舷から、巨大な火達磨が姿を現した。合計で5発の40cm徹甲弾を艦橋のすぐ近くに叩き込まれる羽目になったティルピッツの船体に亀裂が入ったかと思うと、その亀裂の間から小さな火柱や爆炎が飛び出していく。
たった一隻で奮戦していたティルピッツが、そのまま転覆していく。
すでに、丁字戦法を敢行していた敵のビスマルク級の一隻である『ファルケンハイン』は、後続の戦艦『ソビエツカヤ・ロシア』と『インペラトリッツァ・マリーヤ』が主砲の集中砲火で撃沈している。
残っているのは、真正面から突っ込んでくる吸血鬼たちの艦隊の旗艦と、戦線を離脱しようとしている巡洋艦『プリンツ・オイゲン』のみであった。
「艦長、敵艦隊の旗艦からレーダー照射を受けています!」
「っ!」
ブルシーロフ艦長は、CICのモニターに映っている敵艦隊旗艦『ビスマルク』の反応を睨みつけながらヒヤリとしていた。
ソビエツカヤ・ベロルーシヤとインペラトリッツァ・エカテリーナ2世を一撃で葬った敵艦の謎の兵器が、ジャック・ド・モレーに牙を剥こうとしているのである。先ほどまではジャック・ド・モレーの前に立ち塞がっていた3隻のビスマルク級や7隻のアーレイ・バーク級たちのおかげで超遠距離砲撃から身を守ることができていたのだが、味方の”頼もしい飽和攻撃”のおかげで盾にしていた敵艦隊が全滅してしまっているため、敵の攻撃を回避するしかないのである。
しかし、ジャック・ド・モレーはティルピッツとの砲撃戦でまたしても右舷に3発の砲弾を叩き込まれており、火災と浸水が始まっている。ダメージコントロールは始まっているものの、船体は右に傾斜したままである。
つまり、敵の砲撃を回避することはもう不可能であった。
「砲撃用意! 目標、前方の敵戦艦!」
「了解(ダー)! ―――――――砲撃用意! 目標、前方の敵戦艦!」
ティルピッツを撃沈した第一砲塔と第二砲塔がゆっくりと旋回を始め、砲弾の装填を終えてから砲口を前方のビスマルクへと向ける。
「
命令を下した直後、ジャック・ド・モレーのCICの中に轟音が入り込んできた。
前部甲板に搭載された主砲の砲口から爆炎が躍り出る。敵の砲撃でズタズタになった甲板を照らし出した爆炎の残滓を纏って、6発の40cm徹甲弾たちが疾駆していく。
第一砲塔から放たれた砲弾たちは、ビスマルクの船体の周囲に着弾した。巨大な水柱たちが立て続けに産声を上げ、ジャック・ド・モレーへと突撃してくるビスマルクの巨体が激震する。
その直後、ビスマルクの艦橋のすぐ近くに、第二砲塔から発射された1発の徹甲弾が激突した。
甲板に開けられた大穴から火柱が飛び出す。火柱と一緒に噴き上がった無数の破片たちがビスマルクの艦橋へと突き刺さり、艦橋の乗組員たちに襲い掛かっていく。
「第二砲塔の砲撃が命中!」
「さすが同志カノンだ…………!」
モリガンの傭兵であった母親から砲撃の技術も受け継いだカノンの砲撃は、百発百中と言っても過言ではない。ヴリシアの戦いでモンタナを撃沈する事が出来たのは、第二砲塔に乗り込んでいたカノンと母親のカレンの2人のおかげなのだから。
しかし、その一撃でビスマルクを撃沈することはできなかった。
艦橋のすぐ近くに大穴を開けられたビスマルクの前部甲板に搭載されたレールガンの周囲で、青白い電撃の群れが荒れ狂う。ソビエツカヤ・ベロルーシヤとインペラトリッツァ・エカテリーナ2世を轟沈させた際よりも輝きは弱かったが、その破壊力はビスマルク級の主砲どころか、ジャック・ド・モレーの主砲の破壊力を遥かに上回っているのである。
ジャック・ド・モレーが砲弾の装填を行っているうちに、ビスマルクのレールガンが火を噴いた。
荒れ狂う電撃を纏った砲身の内部で爆発が発生し、健在だったケーブルが何本も千切れ飛ぶ。機能を停止してしまったレールガンの砲身を置き去りにした砲弾が、青白い電撃を纏ったままジャック・ド・モレーへと飛翔していく。
そして、その最後の一撃が、ジャック・ド・モレーに牙を剥いた。