異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第17章 ブラスベルグ攻勢
強襲殲滅兵


 

 砂漠に、鋼鉄の装甲で覆われた巨躯がいくつも鎮座している。分厚い装甲が搭載された車体の上には巨大な砲身が伸びた砲塔が居座っていて、その砲塔の上には重機関銃を搭載した武骨なターレットが装備されている。まるで円盤を半分に切り取り、後部に普通の砲塔の後部を搭載したような形状の砲塔だ。

 

 車体に取り付けられているのは無数の爆発反応装甲である。灰色の砂で覆われた砂漠の上に鎮座するその怪物たちは黒と灰色のスプリット迷彩やダズル迷彩で塗装されているが、中には灰色のみの塗装や、白と黒のダズル迷彩で塗装されている戦車も見受けられる。車体に書かれている番号も全く異なるため、その戦車たちが同じ拠点の戦車ではなく、別の前哨基地や重要拠点に配備されていた車両であることが分かる。

 

 寄せ集めの部隊ではあるものの、その規模は”寄せ集め”という言葉が似合わないほどの威容を誇っていると言ってもいいだろう。

 

 様々な塗装が施されたチョールヌイ・オリョールたちと一緒に並んでいるのは、テンプル騎士団で運用されているT-90やT-72B3たち。兵士たちの生存率を底上げするため、ほぼ全ての車両にロシア製アクティブ防御システムの『アリーナ』が搭載されており、敵からの対戦車ミサイルを迎撃する事が可能になっている。

 

 その戦車部隊と一緒に並んでいるのは、その戦車たちと比べると幾分か旧式の戦車だ。円盤状の砲塔ではなく、球体を半分に切り取って少しばかり潰したような形状の砲塔となっている。砲塔の前部や車体に更に装甲を装備しているせいなのか、砲塔の形状はチョールヌイ・オリョールにそっくりだ。敵が見たら、152mm滑腔砲を搭載したテンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールと誤認してしまうに違いない。

 

 その戦車は、ソ連が開発した『T-55』と呼ばれる戦車を、イラクが改造した『T-55エニグマ』と呼ばれる戦車である。本来なら主砲はソ連製の100mmライフル砲なんだが、いくら戦車が搭載する主砲とは言っても吸血鬼たちが運用している戦車に効果が薄いため、T-90と同じく125mm滑腔砲へと換装して攻撃力を底上げしている。主砲の大型化と共に砲塔もやや大型化してしまったものの、火力が上がった上に様々な砲弾が発射できるようになったため、汎用性も向上していると言える。

 

 もちろん、アクティブ防御システムも標準装備している。大切な同志たちを失うわけにはいかないからな。

 

 この戦車の砲塔や車体に搭載されている装甲は、『スペースドアーマー』と呼ばれる装甲だ。普通の装甲とは違って中にちょっとした空間がある変わった装甲である。そんな空間を開けると逆に装甲が薄くなり、防御力が下がってしまうのではないかと思ってしまうけれど、これはあくまでも形成炸薬(HEAT)弾などの砲弾から身を守るための装甲なのである。

 

 形成炸薬(HEAT)弾は、基本的に砲弾が爆発した瞬間に産声を上げる”メタルジェット”によって装甲に風穴を開ける仕組みになっている。スペースドアーマーは、まず一番表面の装甲で敵の砲弾を爆発させてしまうことで、その装甲の後にある空間でその恐ろしいメタルジェットを”空振り”させてしまうのだ。

 

 そのスペースドアーマーを装備しているせいでチョールヌイ・オリョールにそっくりな形状になっている。上手くいけば、敵がこの戦車をテンプル騎士団仕様のチョールヌイ・オリョールだと誤認して攻撃を躊躇ってくれる可能性があるため、意図的に塗装も同じにしている。

 

 T-55エニグマはT-90やT-72B3が行き渡っていない小規模な前哨基地に配備している戦車だ。魔物との戦闘では魔物の群れを一蹴するほどの火力を誇るものの、最新型の戦車には性能が大きく劣っているため、可能な限り素早く退役させてT-90を配備する予定だ。

 

 そして、その戦車の群れの先頭にずらりと並んでいるのは――――――――虎の子の、12両の超重戦車部隊。

 

 各地の重要拠点に配備されている、全長10m以上の巨体を持つフランスのシャール2Cである。圧倒的な破壊力を誇る152mm連装滑腔砲を搭載した巨大な砲塔には、アクティブ防御システムを搭載している上に分厚い装甲まで装備されているため、対戦車ミサイルが命中した”程度”では戦闘不能になる事はない。さすがに側面の装甲は薄くなってしまっているため、120mm滑腔砲から放たれる砲弾に貫通されてしまう恐れがあるものの、正面装甲の防御力は凄まじいとしか言いようがない。

 

 なんと、160mm滑腔砲から放たれたAPFSDSが立て続けに被弾したにもかかわらず、装甲の表面がへこむ程度で済んでいたのだから。

 

 ヴリシアで吸血鬼たちが投入した近代化改修型マウスの砲撃を想定した防御力であるため、対戦車ミサイルどころか戦車砲ですらこの正面装甲を貫通するのは困難なのである。

 

 しかも車体の側面には37mm砲と5.45mm対人機関銃を搭載したルスキー・レノの砲塔が装備されているため、側面に回り込んだ歩兵を即座にミンチにすることが可能になっている。さらに、車体の後部には100mm低圧砲と30mm機関砲を搭載している挙句、アクティブ防御システムまで装備した砲塔が装備されているため、後方に回り込んだとしてもその圧倒的な火力で敵をすぐに”駆除”することができるようになっているのだ。

 

 欠点は正面装甲以外の装甲が薄い事と、最高速度がたった20km/hしかないことだろう。

 

 ブレスト要塞から生還した『ピカルディー』も、すでにタンプル搭で修理を受けて復帰していた。『プロヴァンス』の隣に鎮座しているピカルディーの装甲は元通りになっており、大破したルスキー・レノの砲塔もしっかりと搭載されているのが分かる。

 

 シャール2Cは第二次世界大戦前の戦車であるため、生産する際は思ったよりも少ないポイントで生産する事が可能だ。しかしそのまま実戦に投入してもあっという間に対戦車ミサイルを喰らって擱座するのが関の山なので、近代化改修を施した挙句、性能をこれでもかというほど底上げしてから実戦投入することにしている。そのため、生産よりもカスタマイズに使うポイントの量が膨大になってしまうので、最終的にイージス艦1隻分に匹敵するとんでもないコストになってしまうのだ。

 

 なので、テンプル騎士団ではたった10両しか運用していない。だが――――――――ブレスト要塞で撃破された筈のピカルディーがまだ動くほど頑丈だったことと、進撃していく敵の戦車部隊を蹂躙できるほどの火力を持っていたため、最終防衛ラインで戦闘が始まる前に2両ほど増産することに決まった。

 

 その増産された11号車『ジャンヌ・ダルク』と、12号車『ジル・ド・レ』も先に生産されていた”先輩たち”と一緒に並んでいる。

 

 この2両は先に運用されていた10両の欠点をある程度補った”後期型”といえる存在だ。

 

 まず、車体を10mから14mに延長し、エンジンを3基ではなく5基搭載することで機動力を底上げすることに成功した。おかげで車体が大きくなってしまったものの、最高速度は20km/hから30km/hまで向上している。

 

 更に、車体側面にも複合装甲を搭載することによって、側面の防御力の底上げにも成功した。

 

 元々は歩兵部隊の支援を想定した戦車だったんだが、たった1両でも戦車部隊を蹂躙できることが立証されたため、このシャール2Cたちの任務は対戦車戦闘に絞ることになった。そのため装甲の薄い場所には爆発反応装甲を搭載し、少しでも防御力を底上げするようにしている。

 

 そしてこの2両の”後期型”は、他の先輩たちとはちょっとだけ装備が違った。

 

 まず、11号車『ジャンヌ・ダルク』の車体後部にある砲塔が撤去されており、その代わりにT-90の砲塔を125mm滑腔砲やアクティブ防御システムごと移植している。そのため、背後に回り込んだ敵の戦車の迎撃も可能となっている。ジャンヌ・ダルクは火力に特化したタイプと言えるだろう。

 

 そして12号車『ジル・ド・レ』も、同じく後部にある砲塔が撤去され、代わりにロシアの自走対空砲である『2K22ツングースカ』の砲塔を、機関砲やレーダーごと移植した。もちろん地対空ミサイルも搭載しているため、超重戦車であるというのに対空戦闘も可能となっている。こいつを撃破するために接近してきた航空機に反撃することができるのだ。

 

 テストが終わったばかりだが、この2両も最終防衛ラインに配備することになっていた。

 

 もちろん、全ての車両は無人型に改造済みで、後期型は有人操縦モードは完全にオミットされてしまっている。

 

 ずらりと並ぶ戦車たちを見つめながら、俺は水筒を口元へと運んだ。ナタリア特製のちょっと甘めのジャムが入ったアイスティーを飲んでから、息を吐いて傍らに置いてあるロシア製のヘルメットとガスマスクへと手を伸ばす。

 

 キメラの兵士―――――――とは言っても俺や親父たちしかいない―――――――は、ヘルメットを装備することは全くない。遺伝子にもよるが、基本的に頭には角や触覚が生えているため、ヘルメットをかぶると逆に邪魔になってしまうためだ。だからどちらかと言うと帽子やフードを好むんだが、今回は最前線に突っ込むことになるため、少しでも防御力を上げるためにヘルメットをかぶることにした。

 

 もちろん、角が伸びても邪魔にならないように角のための穴を開けてある。

 

 ガスマスクは敵がマスタードガスを使ってきた時のための装備だ。身につけている服は、いつもの転生者ハンターのコートではなく防護服に変更してある。黒と紅の迷彩模様が施された禍々しい防護服の上に同じ色のボディアーマーや、予備のマガジンが入ったポーチを装備してから、もう一度守備隊の様子を確認した。

 

 兵士たちはマスタードガスから身を守るため、ガスマスクと防護服を装備している。スオミ支部からやってきた兵士たちやアールネも同じく防護服を装備しており、戦車のハッチの上から身を乗り出しながら砂漠の向こうを見つめていた。

 

 敵の戦力は、こっちの戦力の7分の1。こっちが有利だが、絶対に勝てない相手(モリガン・カンパニー)が明日に参戦する事が決まっているため、今夜のうちに決着をつけるために死に物狂いで攻撃してくるのは想像に難くない。

 

 おそらく、この戦いはテンプル騎士団が単独で戦った戦闘の中では最も激しい戦いになるだろう。

 

 ガスマスクをかぶる前に、俺は後ろを振り返った。

 

 後ろに整列しているのは、真っ黒な防護服に身を包んだ兵士たちとは異なり、俺と同じく黒と紅の迷彩模様の防護服に身を包んだ兵士たちだ。すでにロシア製のがっちりしたヘルメットとガスマスクを装備しているため顔は全く分からないが、背丈は明らかに常人よりも大きいため、屈強なハーフエルフやオークの兵士たちであることが分かる。

 

 無線機のスイッチを入れる前に、ちょっとだけ深呼吸をする。整列している兵士たちを見つめてからスイッチを入れ、俺は演説を始めた。

 

「―――――――同志諸君、ついに吸血鬼共との最終決戦が始まる」

 

 俺の目の前に並んでいるのは、ナタリアに頼んで招集した兵士たちである。地上部隊の中でも屈強な身体を持つ兵士たちを選んで編成した、”強襲殲滅兵”たちだ。

 

 強襲殲滅兵の任務は、味方の砲撃の直後にすぐさま突撃し、敵の防衛線をズタズタにすることである。敵の突撃歩兵とは異なり、砲撃の直後に敵陣の中心部を装備した重火器で真正面から粉砕することで敵の傷口を更に抉り、強引に突破するのが目的である。

 

 簡単に言えば、”重装備の突撃歩兵”のようなものだ。

 

 単独でも敵の戦車を撃破できるように対戦車用のロケットランチャーや対戦車手榴弾を支給しているし、メインアームもアサルトライフルだけではなく、重機関銃やLMGを支給している。普通の兵士ならばこんな重装備で敵陣に突撃するのは不可能だが、屈強な身体を持つハーフエルフやオークならば可能なのだ。

 

 ”強襲殲滅兵”は、圧倒的な火力で敵を叩き潰す”殲滅部隊”なのである。間違いなく、この異世界で最も攻撃的な部隊だろう。部隊の名前やエンブレムはまだ決めてないが、名前とエンブレムは後で考えておこう。できればロシア語がいいな。

 

「ブレスト要塞では、何人もの同志たちが散っていった。…………我々は、あの吸血鬼共に何度も殴り続けられている状態である」

 

 ラウラも左腕と左足を失った。戦死したわけではないものの、彼女の手足を奪った吸血鬼共にはしっかりと報復しなければならない。

 

 あのメイドと同じく、あの世に送ってやるのだ。

 

「何度も殴られ続けたせいで、我々はもう傷だらけだ。―――――――しかし、もう既に反撃の準備はできた」

 

 こっちの戦力は敵の7倍。しかも最終防衛ラインに終結したのは、虎の子の超重戦車や強襲殲滅兵たち。攻め込んできた敵兵は震え上がるに違いない。

 

「―――――――殴り返そうじゃないか、同志諸君」

 

 思い切り殴り返そう。散っていった仲間のために。

 

「銀の7.62mm弾を、これでもかというほど叩き込んでやれ。逃げようとする敵兵は銀の銃剣で串刺しにしろ。―――――――俺たちには、AK-12(カラシニコフ)がある!」

 

『『『『『『『『『『Ураааааааааа!!』』』』』』』』』』

 

 兵士たちが一斉に装備したAK-12を振り上げる。中には銃剣を装備したAK-12や、グレネードランチャーを装備したAK-12を掲げた兵士もいた。

 

 テンプル騎士団の兵士たちの士気は、かなり高い。

 

 ここを突破されてしまえば、間違いなくタンプル搭が蹂躙されてしまうからだ。タンプル搭には兵士たちの家族だけでなく、事前に避難してきたブレスト要塞の住民たちも避難してきている。

 

 自分の家族や恋人を吸血鬼たちから守るために、ここで食い止めなければならないのである。

 

「―――――――迫り来る吸血鬼共を、125mm滑腔砲と7.62mm弾の弾幕で出迎えろ! 敵兵を全てこの砂漠で粉砕するんだ!」

 

 そう言った瞬間、AK-12を装備していた兵士たちが一斉に安全装置を解除した。ガチン、という音が最終防衛ラインの中で膨れ上がり、灰色の大地を蹂躙する。

 

 俺もガスマスクをかぶり、自分のAK-12を肩に担いだ。

 

「―――――――血も涙もないクソ野郎共に、カラシニコフの鉄槌を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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