異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「”ブリッツ1”より各機へ。必ずあのPAK-FAを撃墜せよ」
無線機に向かってそう言ってから、機首を漆黒のPAK-FAへと向ける。加速しつつミサイルのロックオンを開始するが、胴体に奇妙なポッドのようなものをぶら下げた漆黒のPAK-FAは、唐突に急旋回して方向転換。右に旋回しつつぐるぐると機体を回転させて急降下し、こっちが追い始めた瞬間に今度は急上昇する。
くそったれ、相変わらずロシアの戦闘機は素早い…………!
操縦桿を引いてこっちも高度を上げ、PAK-FAの背後について行く。俺が後ろについていることにすでに気付いていたのか、敵のPAK-FAのパイロットは宙返りする最中にいきなり失速したかと思うと、機首を垂直に地表へと向けた。
宙返りの最中に失速…………!?
まるで宙返りの最中にコブラを始めたような状態でPAK-FAが一瞬だけ制止する。その隙に味方のF-35Aが空対空ミサイルを放ったのが見えたが、空中で静止していたPAK-FAは機首を地表へと向けたまま、なんといきなり機体を加速させ、地表へと垂直に飛行し始めたのである。
砂漠に突っ込むつもりなのかと思いながら後を追ったが、さすがにそのまま墜落するつもりはなかったらしく、減速しつつ機首を上げて再び高度を上げた。
何なんだ、あの機体のパイロットは。あんな飛び方をしたら、転生者でも耐えられないほどの強烈なGがかかるというのに。
転生者の防御力は、防御力のステータスが高ければ高いほど上昇していく。最終的には戦車砲にも耐えられるほどの防御力になるというが、あんな凄まじい飛び方をすれば、戦車砲に耐えられるほどの防御力が無ければ耐えられないだろう。
急上昇して追いかけてきたミサイルを回避したPAK-FAだが、そのミサイルを放ったブリッツ3のF-35Aが、PAK-FAの背後につく。
いくらあんな飛び方ができる頑丈な身体のパイロットでも、何度も急上昇や急旋回はできないだろう。ミサイルを躱すために無茶をし過ぎたようだな。
やっちまえ、ブリッツ3!
背後に回り込んだブリッツ3のウェポン・ベイが開く。ミサイルのロックオンを終えたのだろう。もしそのミサイルを躱したとしても、俺が機銃かミサイルで止めを刺せばいい。
そう思いながら後を追っていたのだが――――――――がくん、と再びPAK-FAの速度が落ちた瞬間、俺はぎょっとした。
またあんな飛び方をするつもりなのか、あの化け物は。
再びPAK-FAの機首が天空へと向けられる。コブラで後方へと回り込むつもりかと思ったんだが、天空へと向けられた状態で止まる筈の機首はそのまま後方へと傾いていき、信じられないことに前方へと飛行した状態で、逆さまになった機首が後方の戦闘機を睨みつけていた。
「あれは――――――――!」
”クルビット”…………!?
「ブリッツ3、逃げ―――――――」
後ろに回り込んだ筈の敵機が、いきなり機首をこちらへと向けて来るなんて予測できるわけがない。慌てて味方に「逃げろ」と命令しようとしたが、すでにウェポン・ベイを開いていたブリッツ3が大慌てで操縦桿を倒すよりも、敵機の機関砲が火を噴く方が早かった。
発射された砲弾が、立て続けにF-35Aの背中に喰らい付く。F-22よりも小さな機体の表面が凄まじい勢いで抉れていき、後端部に搭載されたエンジンノズルから炎と共に黒煙が吹き上がる。連続で発射される砲弾が垂直尾翼を叩き折り、尾翼を引き千切っていく。
『うわっ、ブリッツ3、操縦不能! やられた!』
「脱出しろ!」
『ベイルアウトします!』
垂直尾翼と尾翼を破壊された挙句、エンジンが機能を停止した機体のキャノピーが開き、吸血鬼のパイロットが大空の真っ只中へと放り出される。訓練通りに彼がパラシュートを開いて降下していったのを確認してから、俺は呼吸を整えた。
化け物だ、あのパイロットは。
宙返りの真っ只中に失速して方向転換し、そのまま強引に急加速した直後でもあんな飛び方ができるのだから。
ミサイルをフレアで躱すのではなく、あのような飛び方で躱すのが”当たり前”とでもいうのか。
『テンプル騎士団の空軍は練度が低いんじゃないのかよ…………!?』
『なんだよありゃ…………!』
「狼狽えるな!」
一緒に飛んでいるパイロットたちに向かってそう言うが、向こうも高性能なステルス機になっているとはいえ、敵のパイロットの錬度は桁外れとしか言いようがなかった。
確かにテンプル騎士団の空軍は、三大勢力の中では最も練度が低い。いくら春季攻勢(カイザーシュラハト)の前に他の勢力から指導してもらったとしても、練度をすぐに高めることは不可能なのだ。
しかし、練度の低い空軍だからと言って、所属しているパイロットが全て新兵というわけではない。
俺たちは相手の空軍は新兵ばかりだと高を括っていたからこそ、驚愕しているのだ。
「ブリッツ2と4は反対側に回り込め。俺と5で奴を追う」
『『『了解(ヤヴォール)!!』』』
敵機の目的はおそらく偵察だろう。要塞を壊滅させた兵器の正体を突き止め、こっちの攻撃前に潰すつもりに違いない。
あのPAK-FAが敵に情報を送信する前に、なんとしなくても撃墜しなくては…………!
もし仮に、後部座席に乗っているのがカノンやナタリアだったら、俺はこんな飛び方をすることはなかっただろう。ステラは頑丈な身体を持つサキュバスだし、ラウラも俺と同じく頑丈な身体を持つキメラである。パイロットスーツ無しで急旋回を繰り返したとしても耐えることはできるだろう。
しかし、カノンやナタリアはあくまでも人間なのだ。パイロットスーツを着用させるとは言え、滅茶苦茶な飛び方をすると後部座席にいる仲間が死亡してしまう恐れもある。
こんな飛び方を連発する羽目になるのを予測していたから、ステラが立候補してくれたのかもしれない。もしナタリアたちだったら、急旋回する度に躊躇っていた事だろう。
ぐるぐると回転しながら火達磨になった部品を周囲にまき散らし、墜落していくF-35Aからパイロットが脱出したのを確認してから、再びポッドのセンサーを列車砲へと向ける。
『観測再開。現在、14%』
このまま観測を続けられればすぐにタンプル砲の照準を合わせることができるんだが、あの列車砲にはこれでもかというほど対空兵器が搭載されている。攻撃のために接近してくる航空機やミサイルを迎撃するためなんだろう。
ステラが『現在15%』と告げた直後、またしてもコクピットの中を電子音が支配する。
くそったれ、観測データの送信が全然進まない!
飛来するミサイルの数は5発。急旋回と急加速で避けられるだろうかと思ったが、同時に速射砲も火を噴き始めたのを確認してから、舌打ちをしつつ大人しくフレアをばら撒く。ミサイルだけならば急旋回してから強引に急加速すれば避けられるのだが、速射砲で弾幕を張られた状態ではさすがに躱せないだろう。ミサイルを回避した直後に速射砲をぶち込まれてしまう。
まだフレアが残っていることを確認しつつ、可能な限りポッドのセンサーを列車砲へと向けながら回避。少しでも観測データの送信が進んでくれることを祈りながら、ミサイルが刻み付けた白煙に風穴を開けて飛び回る。
あの列車砲はもう既に機関車を全て失っている。別の機関車がやって来ない限り、線路の上に鎮座するでっかい要塞砲だ。さすがにこの対空砲火は激しいが、俺の役割はあくまでもあの列車砲の観測データを送信し、タンプル砲に攻撃目標の位置を教える事だ。もし仮に爆弾や対艦ミサイルであの列車砲を直接攻撃する任務だったら、覚悟を決めてあの対空砲火を突破しなければならなかった。
『現在20%』
やっと5分の1…………!
『ラ・ピュセル1、そっちはどうです?』
「すまん、まだ20%だ」
『了解。もう少し耐えてみます』
向こうも対空砲火を躱し続けているのだろうか。
ちらりとレーダーを確認してみると、敵機のうちの2機がさっきのYF-23から離れて飛び始めていた。別の角度から編隊を組みつつミサイルをぶっ放すつもりなんだろうか。
2つの編隊と対空砲火で挟撃するつもりだ。
再び電子音が響き渡る。操縦桿を左に倒し、機体を左に傾けつつ急降下。地上にいる標的に機銃掃射をお見舞いしようとしているかのように高度を落とし、操縦桿を引く。がくん、とPAK-FAの機首が天空へと向けられると同時に、キャノピーの向こうに太陽が昇ったばかりの青空が広がった。
そのまま急加速し、今度は一気に高度を上げる。
追いかけてくるのは2発の中距離型空対空ミサイル。その後方から、列車砲のキャニスターから発射された6発の地対空ミサイルが駆け抜けてくる。
「はぁ…………」
操縦桿から片手を離し、頭を搔いた。
ミサイルの数が多すぎる。急旋回で躱しても、後続の6発の餌食になるのは火を見るよりも明らかだ。
そういえば、敵機の数は全部で5機だったな。もう既に2機ほど撃墜しているから、あと3機撃墜すれば俺もエースパイロットというわけか。
電子音が響き渡るコクピットの中で、ニヤリと笑う。
エースパイロットになったら、きっとお姉ちゃんは喜んでくれる筈だ。
逆に機体を失速させつつ、両手で操縦桿を握る。まるで大気圏から逃げ出そうとしているかのように天空へと進んでいたPAK-FAに、ミサイルよりも先に重力が喰らい付く。圧倒的なエンジンの出力で誤魔化していた重力が怒り狂い、PAK-FAをどんどん失速させていく。
機体の中にまで入り込んできたGが、座席に座る俺とステラの身体に喰らい付き始めた。
がくん、とPAK-FAの機首が地上へと向けられる。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の向こうに灰色の砂漠が広がったかと思うと、その砂漠の真っ只中から、合計で8発のミサイルがこっちへと突っ込んでくるのが見える。
やかましいGに耐え抜いた機体が、ゆっくりと砂漠へ落ちていく。コクピットの中で機銃の発射スイッチに指を近づけつつ、機銃の照準を接近してくるミサイルに合わせる。
『現在32%』
息を吐いてから、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の向こうを睨みつける。レティクルの向こうから突っ込んでくるのは、獰猛な対空ミサイルの群れだ。もし機銃を外してしまったら、俺とステラは間違いなく戦死するだろう。
子供を作るまでは死ぬつもりはないんだよ。
ミサイルを睨みつけながら発射スイッチを押す。レティクルの向こうから接近してくるミサイルと激突した1発の砲弾が、青空の中でミサイルを爆発させる。その中に突っ込んだ後続のミサイルも誘爆し、爆風を更に肥大化させる。
その中に飛び込み、禍々しい爆炎と黒煙を穿つ。PAK-FAの纏う衝撃波に抉られた爆炎を置き去りにしつつさらに急降下し、6発のミサイルにも機銃を発射。何発かは外れてしまったが、数発の砲弾が2発のミサイルの先端部を穿って爆発させ、2つの爆炎が空の中で産声を上げた。
機体を加速させつつ更に連射。4発のミサイルのうちの1発に命中したらしく、被弾したミサイルが木っ端微塵になる。その爆風に突っ込む羽目になった後続の3発のミサイルが、爆風の中から飛び出した破片の群れや衝撃波に呑み込まれ、同じ運命を辿る。
キャノピーの向こうが真っ赤に染まった。爆炎にまたしても大穴を開けながら加速し、灰色の砂漠へと急降下を続ける。
超高速で急降下するPAK-FAと衝撃波が、爆炎を切り裂いた。大穴を開けられて消えていく爆炎を置き去りにしたPAK-FAの機首の向こうには、空になったウェポン・ベイを開いたままこっちに機首を向けている2機のF-35Aが見えた。
「―――――――フォックス2」
ウェポン・ベイが開き、搭載されていた短距離型の空対空ミサイルが躍り出す。慌ててウェポン・ベイを閉じて逃げようとしたF-35Aの腹に2発のミサイルが突き刺さり、先ほどのミサイルの爆発よりも巨大な爆炎が青空を切り裂く。
その爆風のすぐ近くを通過しつつ、旋回しようとしているF-35Aに機関砲を叩き込む。ウェポン・ベイを突き破った砲弾が炸裂したかと思うと、直撃した砲弾がまだ温存していた対空ミサイルを起爆させてしまったらしく、F-35Aの胴体が弾け飛んだ。
すぐに減速しながら操縦桿を引いて方向転換。再び高度を上げ始めたPAK-FAのすぐ後方に、爆炎の中から落下してきたF-35Aの残骸が落下してくる。さすがに脱出する時間はなかっただろう。パイロットたちはあのコクピットの中で焼死体と化しているに違いない。
―――――――あと1機撃墜すれば、俺はエースだ。
『現在、41%』
観測が終わる前に、お前を撃墜したい。
高度を上げつつ、反対側からミサイルで攻撃しようとしていたステルス機にロックオンする。おそらくあのYF-23に乗っているのはブラドだろう。
「首を貰う」
機関砲はあと157発。ミサイルは合計で6発。
『現在、50%』
5機目の獲物は、お前だ。
ウェポン・ベイが開く。搭載されていた4発の中距離型空対空ミサイルがあらわになると同時に、ブラドが乗っている筈のYF-23へとロックオンを開始する。
もう1機のF-35Aがいるが、あいつは最後に落としてやろう。
レーダー照射を受けたブラドが慌てて旋回を始める。一緒に飛んでいたF-35Aから離れて急旋回し、高度を落としながらこっちを振り切ろうとする。だが、こっちは機動性の高い戦闘機を何機も開発してきたロシアの最新型ステルス戦闘機。そう簡単に逃げ切れるわけがないだろ?
ロックオンを継続したまま、ブラドのYF-23を追撃する。彼を掩護するためにもう1機のF-35Aがこっちの背後に回り込んでくるが、まだレーダー照射は受けていない。だが、電子音がコクピットの中を支配するのは時間の問題だろう。
多分、こっちが先だ。
ロックオンが完了した直後、やはり電子音が鳴り響いた。後方に回り込んだF-35Aがこっちをロックオンしたに違いない。
『データ送信、一時中断。現在62%。…………タクヤ、60%を超えていれば十分です。もう砲撃を要請しますか?』
「ああ。だが、念のためそのまま観測を続けてくれ」
『了解(ダー)』
最低でも50%以上のデータを送信できていれば、タンプル砲は照準を合わせて砲撃する事が可能だ。ただし100%に近くなければ、命中精度は低下してしまう。
だが、完全な観測データを送信するまで飛び続けているわけにはいかない。時間をかけ過ぎるとユージーンたちが敵の対空砲火の餌食になる。
『ラ・ピュセル1よりタンプル搭へ。タンプル砲の砲撃を要請します』
『こちらタンプル搭指令室。砲撃要請を受諾しました。これより砲撃を開始します』
『―――――――観測再開。現在64%』
ブラドのYF-23が高度を上げた瞬間、俺は減速しながらウェポン・ベイの中の中距離型空対空ミサイルを、全て解き放った。
「作業員、退避完了」
「秒読みを開始します」
警報が、広い指令室の中を支配していた。モニターに投影されているのは天空へと向けられた巨大な砲身で、もう既に砲身に取り付けられた薬室は展開している。砲身の根元からは冷却液を注入するためのケーブルが何本も伸びており、地面の中に設置されたタンクへと伸びていた。
ついに、再びタンプル砲が火を噴くのである。
今回はミサイルではなく砲弾だが――――――――弾頭は、通常の砲弾よりも圧倒的な攻撃力を誇る、MOAB弾頭。200cm砲から解き放たれたそれが炸裂すれば、最新型の戦車も消滅してしまうことだろう。対吸血鬼用の装備ではないものの、凄まじい爆炎で吸血鬼の肉体を完全に消滅させることができるため、水銀や聖水を充填する必要はない。
「
「―――――――
「発射(フォイア)!!」
オペレーターが復唱した直後だった。
タンプル砲に取り付けられた複数の薬室の内部で、立て続けに爆炎と衝撃波が産声を上げる。薬室の中で生まれた爆風が、発射されたMOAB弾頭を押し出していく。
”塔”にも見える巨大な砲身から炎を纏ったMOAB弾頭が躍り出ると同時に、巨大なキノコ雲が砲口から飛び出した。あっという間に大空へと飛んで行った砲弾を追いかけようとするかのように噴き上がった黒煙が、岩山の向こうからやってきた砂漠の熱風を浴びて溶けていく。
「冷却液、注入開始」
「各薬室に破損無し。第二射発射体制に入ります」
「排出ハッチ開放。放熱開始」
砲身に搭載されたハッチが一斉に開き、猛烈な蒸気が巨大な砲身を瞬く間に飲み込んだ。しかし、その蒸気たちもキノコ雲を形成していた黒煙のように熱風を浴びると、あっという間に溶けてしまう。
排出ハッチがゆっくりと閉じていったのを確認したナタリアは、唇を噛み締めながらモニターを睨みつけた。
この砲撃が命中すれば、出撃したタクヤたちが帰ってきてくれるのだから。