異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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怪物たちの艦隊

 

 蒼い光に包まれた1発の徹甲弾が、まるで流星のような光を放ちながら海面を抉っていく。凄まじい弾速を誇るミサイルや砲弾すら置き去りにしてしまうほどの弾速で海の上を突き抜けていく徹甲弾は、身に纏う衝撃波で海面を蹂躙しながら、それを発射した戦艦『ビスマルク』から指示された目標へと向かって突進していく。

 

 3隻のビスマルク級に置き去りにされたアーレイ・バーク級たちの側面を通過し、抉った海面に生じた波で彼らの船体を微かに揺らしながら、今度は丁字戦法で敵艦隊の旗艦『ジャック・ド・モレー』に集中攻撃をしている戦艦『ファルケンハイン』の艦尾の近くを瞬く間に通過する。まるで海底が真っ二つに裂け、そこへと水が吸い込まれているようにも見えるほどの海水の溝を刻み付けて飛翔していく砲弾をファルケンハインの見張り員が目にしたころには、その光を纏う砲弾は、標的の戦艦『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』を直撃していた。

 

 ジャック・ド・モレーと比べると防御力は若干劣ってしまうものの、ソビエツキー・ソユーズ級も砲弾が直撃した程度ではそれほど損害を受けないほどの堅牢さを誇る。同型艦であるソビエツカヤ・ウクライナも対艦ミサイルを喰らう羽目になったものの、未だに戦闘を継続している。

 

 だが――――――――さすがに、遠距離から放たれたレールガンの砲弾に耐えることは、不可能であった。

 

 ビスマルクに装備されたレールガン(リントヴルム)は、50cmの徹甲弾か榴弾を発射する事が可能な大型レールガンである。戦艦大和の主砲よりも大型の砲弾を、従来の対艦ミサイルを遥かに上回る遠距離から凄まじい弾速で発射することができるのだから、その破壊力は対艦ミサイルとは別格としか言いようがない。

 

 立て続けに被弾する戦艦ジャック・ド・モレーを支援するために左右へと散開したソビエツカヤ・ベロルーシヤの艦首の斜め右側へと直撃した徹甲弾が、堅牢なソビエツキー・ソユーズ級の装甲を呆気なく食い破る。その風穴を、砲弾に置き去りにされつつあった衝撃波が更に抉った頃には、砲弾は艦内の設備や機関部を蹂躙し、乗組員たちを衝撃波で木っ端微塵にしながら、艦尾の斜め左側にある装甲にも風穴を開け、反対側へと躍り出る。

 

 未だに艦内を蹂躙していた衝撃波が、最大戦速で散開したばかりのソビエツカヤ・ベロルーシヤを後方へと押し戻した頃には、滅茶苦茶にされた機関室が大爆発を引き起こし、レールガンの徹甲弾が食い破っていった風穴から巨大な火柱を吐き出す。弾薬庫もその火柱に呑み込まれてしまったらしく、巨大な主砲と対艦ミサイルのキャニスターがこれでもかというほど搭載された巨体が、瞬く間に火達磨となった。

 

 レールガンの餌食になったのはソビエツカヤ・ベロルーシヤではなかった。超弩級戦艦の装甲を貫通し、反対側から突き抜けていったにもかかわらず、まだ敵艦を蹂躙できる運動エネルギーを維持し続けていた徹甲弾は、そのソビエツカヤ・ベロルーシヤを護衛するために後方を進んでいたソヴレメンヌイ級駆逐艦『ディミトリ』の艦首を貫く。

 

 目の前で火達磨となったソビエツカヤ・ベロルーシヤのように、艦首を徹甲弾に食い破られる羽目になったディミトリの船体が、徹甲弾の衝撃波で抉られていく。装甲の表面にも亀裂が生まれた頃には艦尾に大穴が空き、爆発するディミトリを置き去りにして飛翔した徹甲弾が、今度はその後方を航行していたキーロフ級巡洋艦『ジノヴィ』へと突き刺さった。

 

 まだ進路を変更する途中だったジノヴィは、その徹甲弾を右舷に叩き込まれる羽目になった。もし進路を変更するのがもう少し遅れていたら、ジノヴィは超高速で飛来した徹甲弾に艦首を捥ぎ取られる程度で済んだだろう。しかし、まだ温存していた対艦ミサイルを叩き込むために慌てて進路を変更したせいで、轟沈する羽目になってしまう。

 

 よりにもよって、直撃した徹甲弾が、まだ温存していた対艦ミサイル『P-700グラニート』の群れを直撃したのだ。ミサイルの群れを運動エネルギーと衝撃波で叩き折り、そのミサイルたちが爆発するよりも先に反対側から飛び出していった徹甲弾は、ミサイルが一斉に爆発したことによって真っ二つになってしまったジノヴィを置き去りにし、傍らを航行していたソヴレメンヌイ級のキャニスターを捥ぎ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっさと砲身を冷却しろ!』

 

『電力は!? 機関室、大丈夫か!?』

 

『こちら機関室! 今の一撃で艦内の電力を90%喪失! 充電完了まであと30分!』

 

 レールガンの発射で艦内の電力を90%も失う羽目になったビスマルクのCICの中で、アリアは目の前のモニターに表示されている敵艦隊の反応を見つめながらニヤリと笑った。

 

 発射すれば艦内の電力を90%も喪失する上に、砲身の放熱や再装填を行うために、30分経過するまでレールガンの発射は不可能になってしまうとはいえ、たった1発で3隻の敵艦を轟沈することができたのは予想外であった。

 

 とはいえ、あと30分経過するまでは残った10%の電力しかないため、ビスマルクはなけなしの電力で次の充電完了まで耐えなければならない。もし今の状態で敵に奇襲されれば、傍らを航行する重巡洋艦『アドミラル・ヒッパー』と『プリンツ・オイゲン』の2隻に迎撃してもらうしかないのである。

 

 近代化改修を受けたとはいえ、その2隻の重巡洋艦にはイージスシステムは搭載されていないため、もし猛烈な飽和攻撃を受ければ、ミサイルを喰らう羽目になってしまうだろう。

 

 しかし、敵艦隊は河の出口のすぐ近くで丁字戦法と対艦ミサイルによる攻撃を受けており、迂闊に目の前の艦隊の側面へと回り込もうとすれば、後方のビスマルクにレールガンで狙い撃ちにされてしまう。レールガンを防ぐためには単縦陣を維持する必要があるのだが、そうすれば今度は先頭のジャック・ド・モレーが3隻のビスマルク級たちに袋叩きにされてしまう。

 

 完璧な作戦だった。

 

 このまま敵艦隊がレールガンから身を守るために単縦陣を維持すれば味方の艦隊に袋叩きにされる。もし目の前の艦隊を突破するために左右へと散開したのであれば、ビスマルクのレールガンで狙い撃ちにすればいいのだから。

 

 敵艦隊を壊滅させた後は、そのまま河を上ってタンプル搭へと接近し、敵の本拠地を艦砲射撃で蹂躙することができるのである。

 

 アリアは微笑みながら、レールガンによって撃沈された敵艦が表示されていたモニターに触れた。

 

 撃沈したのは、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』、ソヴレメンヌイ級駆逐艦の『ディミトリ』、キーロフ級巡洋艦の『ジノヴィ』の3隻。圧倒的な攻撃力を誇る超弩級戦艦だけでなく、まだ対艦ミサイルを温存していた―――――――アリアはミサイルを温存していた事を知らないのだ―――――――キーロフ級を撃沈することができたのは、大きな戦果と言える。

 

 これで残った敵の戦艦は7隻。その中でビスマルク級を上回る主砲を搭載しているのは4隻。戦艦たちの戦いではまだ不利と言えるが、このまま丁字戦法を続けることができれば、こちらが勝利することができる筈だ。

 

 敵艦隊はこちらの艦隊を突破することもできない上に、側面に回り込むこともできないのだから。

 

 そう思いながら、なけなしの電力で未だに動き続けているモニターの反応を見つめた。敵艦隊がそのまま後方へと下がれば、またしても狭い河の中へと逆戻りだ。そうすれば前方の艦隊を退去させ、狭い河に逃げ込んだ敵をレールガンで追撃できる。充電中は再び他の艦で河を塞ぎ、温存していたミサイルや砲弾をこれでもかというほど叩き込んでやればいい。

 

 いくらジャック・ド・モレーがこの世界で最強の戦艦とはいえ、たった1隻で3隻のビスマルク級を突破することはできないのだ。もし仮に突破しても、後方のアーレイ・バーク級が温存している対艦ミサイルの餌食になるだろう。

 

 海戦では、吸血鬼たちの方が有利であった。

 

「勝てますね、アリア様」

 

 丁字戦法とレールガンによる攻撃で敵艦隊が大損害を出したのを見て、自分たちが勝てるだろうと油断したのか、乗組員の1人がニヤリと笑いながらそう言った。

 

 あのまま撤退すれば河の中でレールガンに狙い撃ちにされるうえに、ミサイルと砲弾で集中砲火をお見舞いされる。だからと言って強引に突破すれば、温存していた対艦ミサイルで袋叩きにされてしまう。しかも敵艦隊はもう対艦ミサイルを使い果たしてしまっているのだから、ミサイルで反撃することはできない。

 

 傍から見れば、確かにテンプル騎士団艦隊は風前の灯火である。しかし、アリアはまだ自分たちが勝利できるとは思っていなかった。

 

「どうかしら?」

 

「えっ?」

 

「レリエル様が仰っていたの。『人間は執念を持つ怪物だ』って」

 

「執念を持つ…………怪物…………?」

 

「そう。だから油断してはダメよ」

 

 その”執念を持つ怪物”たちに、吸血鬼たちは何度も打ちのめされてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦艦ソビエツカヤ・ベロルーシヤ、轟沈!」

 

「駆逐艦ディミトリ、巡洋艦ジノヴィもやられました!」

 

「バカな…………何なんだ、今の攻撃は…………!?」

 

「乗組員の生き残りはいるか!? 救助用のボートを降ろしてやれ!」

 

 散開していた味方の艦が、たった一撃で3隻も轟沈したのを目の当たりにしたブルシーロフ艦長は、モニターを睨みつけながら拳を握り締めた。

 

 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦は、テンプル騎士団が運用している超弩級戦艦である。対艦ミサイルや砲弾に耐えることができるほどの防御力を誇るのだから、たった一撃で轟沈したのは信じられなかった。しかし、モニターに表示されていた筈のソビエツカヤ・ベロルーシヤの反応は消滅しており、その後方を航行していた駆逐艦ディミトリと巡洋艦ジノヴィの反応も消失しており、たった一撃で轟沈してしまったという事を告げている。

 

「か、艦長…………」

 

「…………展開した艦隊を後方に戻せ。あの攻撃で狙い撃ちにされる」

 

「だ、了解(ダー)」

 

 今しがた攻撃を受けたソビエツカヤ・ベロルーシヤは、後方の敵のイージス艦たちが展開している範囲から”はみ出して”しまったから、そのさらに後方にいる敵の超弩級戦艦に狙い撃ちにされたのだ。ならば、敵のイージス艦たちを盾にすれば、少なくとも狙い撃ちにされることはないだろう。

 

「さっきの攻撃は、レーダーに反応はあったか?」

 

「ありません」

 

「魔力センサーは?」

 

「魔力反応は一切なし」

 

 ジャック・ド・モレーには、魔力を探知するための魔力センサーという装備が搭載されている。ヴリシアの戦いではこれで敵のゲイボルグに攻撃が命中した瞬間に、敵が魔力を使って攻撃を防いでいたことを見抜いている。

 

 それに反応がないという事は、あの攻撃は魔力を使っていないという事だ。

 

(ということは、ヴリシアに配備されていたゲイボルグの発展型ということではないのか…………)

 

 敵のイージス艦を盾にすれば、狙い撃ちにはされない。しかしこのまま単縦陣を維持すれば、目の前の3隻のビスマルク級の集中砲火を喰らい続ける上に、後方のイージス艦から対艦ミサイルで袋叩きにされるという事を意味している。

 

 退却するべきかと思ったが、後方に下がれば河の中に逆戻りしてしまう。超弩級戦艦が並走できるほどの広さがあるとはいえ、狭い河の中であの攻撃を回避するのは不可能だろう。

 

 それゆえに、退却は許されなかった。

 

『また艦首に被弾!』

 

『煙突付近に被弾! 火災発生中!』

 

『さっさと消火しろ!!』

 

『くそ、こちら第11副砲! 近くに被弾した! こっちも火災だ!』

 

「トラックナンバー088、撃墜!」

 

「第二砲塔の砲撃が、敵艦に命中!」

 

 強引に前進するべきかと思っていたブルシーロフ大佐は、その報告を聞いてモニターを凝視した。

 

 カノン・セラス・レ・ドルレアンが乗り込んでいる第二砲塔の砲撃が、ついに敵の戦艦『ルーデンドルフ』へと命中したのだ。

 

 立て続けに被弾するジャック・ド・モレーから放たれた徹甲弾は、戦艦ティルピッツの後方を進んでいたルーデンドルフの前部甲板を直撃。第二砲塔の装甲を突き破って爆発し、ジャック・ド・モレーを袋叩きにしていた戦艦にダメージを与えたのである。

 

 この攻撃で第二砲塔が使用不能になったルーデンドルフであったが、さすがに撃沈することはできなかったらしく、モニターからはまだ反応は消えていない。

 

「…………待て」

 

 敵艦隊の更に後方から飛来した一撃を思い出したブルシーロフ艦長は、ヴリシアで目にしたゲイボルグの事を思い出した。

 

 超高圧の魔力を前方へと放つゲイボルグは、発射する際に膨大な量の魔力を注入する必要がある。しかもそれを加圧しなければ発射はできないため、一発発射した後は魔力の充填と加圧をする必要がある。

 

 つまり、マシンガンのように立て続けには発射できないのだ。

 

 先ほどソビエツカヤ・ベロルーシヤを轟沈した敵の一撃も、超弩級戦艦だけでなく駆逐艦と巡洋艦まで轟沈するほどの威力と、対艦ミサイルを遥かに上回るほどの射程距離を誇っていた。魔力の反応がないという事は、タクヤたちの世界の兵器である可能性が高いが、おそらくゲイボルグと同じく立て続けに連射できる兵器である可能性は低いと言える。

 

 モニターには、味方艦隊の反応も映っている。ジャック・ド・モレーの右側へと散開した艦の中にはまだ後方へと移動し終えていない駆逐艦や巡洋艦もいるのだが、連射できる兵器なのであれば、次にその味方を狙い撃ちにしている筈である。

 

 なのに、攻撃はない。

 

(…………なるほど、連射はできないという事か)

 

 第一、連射できる兵器なのであれば、このように丁字戦法や対艦ミサイルによる攻撃でこちらの艦隊を削り取るような真似はしない筈である。

 

「すまない、また味方の艦を左右に散開させてくれないかね?」

 

「かっ、艦長! 散開すればまた狙い撃ちにされますよ?」

 

 他の乗組員たちが反論するが、ブルシーロフ艦長はニヤリと笑ったまま言った。

 

「いや、あれほど強烈な攻撃を連射できるわけがない。第一、連射できるのであればあの戦艦やイージス艦を投入せず、最初からあの装備を搭載した艦のみでこちらを片っ端から狙撃していた筈だ。なのに、こうやって他の艦も投入し、我々を封じ込めようとしているのは何を意味していると思う?」

 

「…………なるほど、次の攻撃まで時間がかかるということですね?」

 

「そういうことだ。…………その前に距離を詰めるぞ。全艦、散開した後は最大戦速。また狙い撃ちにされる前に後方の敵艦を撃沈する! 後方の空母にも艦載機の出撃を要請するんだ!」

 

 上流のダムを破壊されても艦隊が損害を受けないように、軍港内部の艦は全て出撃している。テンプル騎士団が保有するアドミラル・クズネツォフ級の『ノヴゴロド』も出撃しており、河の中で待機している状態だ。

 

 距離を詰める前にまた狙撃されても、左右に旋回していれば貫通した砲弾が後方の艦を直撃することはない筈だ。もしジャック・ド・モレーがあの攻撃を喰らって轟沈する羽目になっても、他の艦が必ず敵艦を討ち取ってくれる筈である。

 

 そう思いながら、左右に散開していく味方の艦の反応を見つめた艦長は、拳を握り締めるのだった。

 

 

 

 

 


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