異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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シャール2Cが大暴れするとこうなる 前編

「よし、これで大丈夫だろう」

 

 右手の指を覆っていた外殻を元に戻しつつ、指先からバーナーのように噴射していた炎を消してから、ブレスト要塞の郊外にずっと置き去りにされていたシャール2Cの巨体を見上げる。

 

 まだ機能を完全に停止していなかったとはいえ、さすがに擱座する原因となった側面の風穴をあらわにしたまま出撃するわけにはいかないだろう。瀕死の負傷兵を強引に戦わせるようなものだ。そんなことをすれば、風穴から飛び込んだ銃弾でエンジンを破壊され、今度こそ完全に機能を停止してしまいかねない。

 

 そこで、周囲で擱座している敵の戦車や味方の戦車の残骸からエンジンの部品や装甲の一部を巨躯解体(ブッチャー・タイム)で切り取って(拝借し)、ピカルディーの修理に使わせてもらったというわけだ。レオパルト2の複合装甲を何とか切り取り、炎属性の魔術を使って溶接して風穴を塞ぎ、T-90やT-72B3のエンジンの部品を使って機関室の中に鎮座するエンジンを修理したのである。

 

 いくら刃物の切れ味を劇的に強化する能力とはいえ、圧倒的な防御力を誇る複合装甲を切り取るのにはかなり手を焼く羽目になった。雷属性の魔力まで放出してさらに切れ味を底上げしていたにもかかわらず、切断に使ったスペツナズ・ナイフの刀身が3本も刃こぼれを起こしてしまったのだ。

 

 その後に更に炎属性の魔術を使い、敵兵に魔力を察知されないように細心の注意を払いながら大急ぎで溶接した。これで被弾しても大丈夫だとは思うが、やはり側面は狙われないように気を付ける必要がありそうだな。

 

 溶接した部分の点検を素早く済ませてから、巨体をよじ登って砲塔の中へと転がり込む。敵との戦いで右側の37mm戦車砲―――――――改造を施したルスキー・レノの砲塔をそのまま移植したものだ――――――――は完全に破損していたため、修復するのは不可能だった。左側の37mm戦車砲はまだ健在だけど、敵は砲塔のない右側の攻撃を集中してくるのは想像に難くない。

 

 ちなみに、武器の弾薬や兵器の燃料などは12時間経過すれば自動的に補給され、最善の状態に勝手にメンテナンスされる仕組みになっているんだけど、数日前に実施された能力のアップデートによって兵器のメンテナンスされる時間が12時間から48時間に一気に伸びてしまったため、2日間も放置しなければ兵器は元通りにはならなくなってしまっている。

 

 輪廻の仕業なんだろうか。

 

 いくら何でも12時間で兵器が元通りになるのは強力かもしれないけれど、この春季攻勢の前にそういうアップデートをするのは止めてほしいものである。けれども銃などの武器がメンテナンスされるのは12時間のままなので、こちらは問題ないだろう。

 

 撃破されて機能を停止していなければ、転生者が生み出した兵器は48時間後に元通りになる。というわけで、このピカルディーも48時間後には元通りになるのだ。これから始まる戦闘で撃破され、完全に機能を停止しなければ。

 

 砲塔の座席には座らずに、そのまま車体の方へと降りていく。本来は無人型の戦車であり、装甲の厚い車体の中央には巨大なボールを思わせる形状の制御装置や自動装填装置などが居座っているため、でっかい戦車の中であるにもかかわらず内部は非常に狭い。車体の正面の方には操縦士の座席があり、早くもステラが座って点検をしているところだった。本来なら人間が乗り込む必要のない操縦士の座席も改造を受けており、戦車の操縦席というよりは車の運転席のようになっている。

 

 少しばかりがっちりしたハンドルがあり、足元にはアクセル、ブレーキ、クラッチの3つのフットペダルが並んでいる。ステラの足がフットペダルに届くかどうか心配だったけど、もう座席の高さを調整していたらしく、彼女の可愛らしい小さな足はちゃんとフットペダルに届いているようだった。

 

 一応覗き窓は用意してあるけれど、操縦士の座席の前には上下に2つの大きなモニターが並んでおり、そこに砲塔や車体正面に搭載されている小型カメラの映像が映し出されている。あくまでも覗き窓は、カメラが破損した際の非常用だ。

 

 このシャール2Cはイージス艦の生産に使えるほどのポイントを消費してかなりの近代化改修を受けているため、あらゆる装備が最新のものに変更されているのだ。

 

「痛っ」

 

 制御装置へと繋がる細い配管に頭をぶつけながら、そのまま奥へと進む。シャール2Cの車体の中央部は機関室になっており、そこにずらりとエンジンが並んでいるのだ。もちろんこのエンジンも近代化改修によって変更されており、T-90と同じエンジンが3基も機関室の中に並んでいる。

 

 そのため、もしエンジンが故障した場合は、T-90のエンジンの部品を流用して簡単に修理することができるのである。おかげで修理は15分程度で完了した。

 

 エンジンが小型化された代わりに、空いたスペースは152mm滑腔砲から発射する砲弾のための弾薬庫に流用されている。

 

 狭い機関室の中で、レンチを片手に持って俺のコートを羽織りながらエンジンの様子を見ているのは、シャール2Cの機関士を担当してもらうイリナだ。本来なら彼女に砲手をお願いし、俺が機関士を担当するつもりだったのだが、「タクヤみたいに砲撃しながら指示は出せないよ」と言われたため、俺が車長と砲手を兼任することになったのだ。

 

 彼女は何度か戦車の整備の手伝いをしていたらしいので、機関士をお願いしても問題はないだろう。

 

「イリナ、調子は?」

 

「うーん…………なんだか、一番後ろのエンジンが不調みたい」

 

「え? さっき修理したやつか?」

 

「うん…………」

 

 そう言いながら、イリナはもう一度機関室の一番後ろ側にあるエンジンの点検を始める。

 

 機関室の中には、T-90と同じエンジンが一列に並んで置かれている。このピカルディーは側面に被弾した際に、貫通した砲弾―――――――おそらくAPFSDSだ――――――――によって側面の装甲もろとも一番後ろのエンジンの一部を捥ぎ取られており、風穴からオイルが溢れている状態だった。

 

 擱座したT-90のエンジンの部品を使って修理したものの、まだ調子は悪いらしい。

 

 くそ、せめて整備兵がいればしっかりと修理してくれるかもしれないんだが、俺たちの本職は整備じゃなくて戦闘だからな。

 

 俺も点検を手伝おうかと思ったその時、先ほどイリナたちを襲っていた吸血鬼から奪い取った無線機から、ヴリシア語の声が聞こえてきた。

 

『くそ、死体だ…………突撃歩兵が殺されてる!』

 

『クソ野郎共…………ッ! 敵兵がこの近くにいる! 探し出すんだ!!』

 

「拙いね…………」

 

「くそったれ、死体が見つかったか」

 

 一応、イリナを殴りつけたり犯そうとしていたバカ野郎の死体は擱座した戦車の中に放り込んでおいたんだが、味方の様子を確認するためにやってきた吸血鬼の部隊にその死体を発見されてしまったらしい。

 

 拙いぞ。シャール2Cの機能は停止していないとはいえ、走行や砲撃はできない。非常用の電力のおかげでモニターを使うことはできるけれど、その電力を使って走り出すことはできないのだ。

 

 敵の戦車がやってきたら、間違いなくシャールはやられる…………!

 

「ステラ、敵兵は見えるか?」

 

「はい、見えます。10時方向に7人ほど」

 

 くそ…………!

 

『戦車の残骸に隠れてるかもしれない。この辺の残骸の中を探せ』

 

『『『了解(ヤヴォール)』』』

 

「くそッ! イリナ、まだか!?」

 

『ごめん、まだ!』

 

 なんてこった…………!

 

 もしこのままピカルディーが動いてくれなかったら、俺たちは敵に発見されて集中砲火を受ける羽目になるだろう。そうなる前にエンジンの修理を終えるか、この虎の子の超重戦車を放棄して脱出する必要がある。

 

 それとも、俺が降りて敵にあえて発見され、時間を稼ぐべきだろうか?

 

『ぐっ…………動いてよ、お願いだから…………ッ!』

 

 もう一度エンジンの点検をするイリナを一瞥してから、砲塔にある砲手の座席へと戻る。座席のすぐ近くにあるモニターを見てみると、まるで第二次世界大戦の頃のドイツ兵を思わせるデザインの軍服に身を包み、背中にXM8を背負った吸血鬼の兵士たちが、戦車の残骸の中を覗き込んで仲間たちを殺した怨敵を探しているところだった。

 

 擱座したマウスやレオパルトの中を見渡しながら、段々とこっちに近づいてくる………ッ!

 

『見当たらんな』

 

『あのでかい戦車の中はどうだ? 隠れるにはうってつけかもしれん』

 

『もし本当に隠れてたら、生け捕りにして死ぬまで血を吸ってやる』

 

 か、隠れてるんですよ…………!

 

 ゆっくりとこっちに近づいてくる吸血鬼たち。歯を食いしばりながら、メニュー画面を表示して武器の準備をする。もしあいつらに発見された後もエンジンが動かなかったら、残念だけどこの戦車を放棄して逃げるしかない。

 

 かなり危険だが、このまま奴らに発見されて集中砲火を喰らうよりはかなりマシだ。

 

 銀の5.45mm弾を使用するように改造したAKS-74Uを装備し、安全装置(セーフティ)を解除。息を呑みながら、戦車の車体をよじ登ってきた敵兵が頭上のハッチを開けようとするのを待ち続ける。

 

 死ぬわけにはいかないんだ。

 

 絶対に生きて帰って、天秤を消さなければならない。ガルゴニスの奴は、自分自身の命を対価に使って親父を生き返らせるつもりなのだから。

 

 家族にそんなことをさせるわけにはいかない。

 

 それに、生きて帰らなければお姉ちゃんと結婚できないからな。

 

 俺にとって、結婚してから子供を作って、子育てをしてから老衰で死ぬ以外の死に方は全てバッドエンドでしかないのだ。個人的にバッドエンドの物語は好きだけど、だからといって自分の人生までバッドエンドにするわけにはいかない。

 

 だから、とっとと動いてくれよ、ピカルディー…………!

 

 銃口を頭上のハッチに向けたまま、またしても息を呑んだその時だった。

 

 砲塔の後ろにある機関室の方から――――――――猛烈なエンジンの音が聞こえてきたのである。

 

「イリナ、どうだ!?」

 

『やった…………タクヤ、エンジンが動いたよ!!』

 

「よし………ッ! やっと起きやがったか、この野郎! 寝坊してる場合じゃないぞ!」

 

 笑いながら銃床でシャール2Cの砲塔の内側を軽く叩き、砲手の座席に座る。モニターを何度かタッチして機関部のエンジンの状態が表示されている画面を確認してみると、確かに3基のエンジンはしっかりと動き始め、シャール2Cの巨体へと動力の供給を始めているようだった。

 

 ロシア製の主力戦車(MBT)を動かすためのエンジンを3基も搭載しているにもかかわらず、最高速度はたったの20km/hのみ。こんなに遅くなってしまったのは、強烈な武装と分厚い装甲をこれでもかというほど搭載したことが原因だ。

 

 機動性は最悪としか言いようがないが、この火力と防御力は最高としか言いようがない。160mm滑腔砲から放たれるAPFSDSを防ぐことができるほどの正面装甲と、152mm連装滑腔砲を併せ持った怪物なのだから。

 

「ステラ、前進!」

 

『了解(ダー)』

 

 巨体に搭載されているがっちりとしたキャタピラが動き始め、シャール2Cの巨体がゆっくりと動き始める。砲塔や車体に取り付けられた小型のカメラには、撃破された筈の戦車がいきなり動き出したのを目の当たりにしてぎょっとしている兵士たちが映っており、砲塔を見上げながら目を見開いている。

 

 砲弾に貫かれ、残骸と化した筈の戦車が動き出したのだ。重傷を負った筈の負傷兵が自分の包帯を引き千切り、再び最前線にやってきたようなものだろう。

 

『お、おい、でっかい戦車が動いてるッ!!』

 

『ギャ――――――ガッ、アァァァ………ッ!』

 

『う、うわっ、アドルフが轢かれた!』

 

 どうやら誰かを轢いてしまったらしい。キャタピラは銀ではないので、この巨体に踏み潰されても再生できるだろう。でも全長10mの戦車に踏み潰されるのだから、多分死体はかなりグチャグチャになっているに違いない。

 

 可哀そうな奴だ。

 

 敵兵がいるのは車体の左側。そちらには、まだ健在な37mm戦車砲の砲塔が残っている。

 

 左側にあるコンソールをタッチし、同じく左側にある画面を確認。その画面に37mm戦車砲の照準用のレティクルが表示されていることを確認してから、近くにある発射スイッチを押す。

 

 37mm戦車砲は、はっきり言うと第一次世界大戦で使われていた旧式の戦車にしかダメージは与えられないほど貧弱な武装だ。けれども、相手が歩兵ならば、37mm砲でも凄まじいダメージを与えることができる。

 

 このシャール2Cの37mm砲は、対戦車用の代物ではなく、歩兵の排除のみを考慮しているため、使用可能な砲弾は爆発範囲の広い榴弾のみとなっている。砲塔には対人用に5.45mm対人機関銃も搭載しており、側面からロケットランチャーで攻撃しようとしている敵兵を粉砕する事が可能なのだ。

 

 水銀榴弾が地面に突き刺さり、いきなり動き出した超重戦車を見上げて狼狽する敵兵たちを粉砕する。爆風と衝撃波に押し出された水銀はちょっとした斬撃と化し、爆風から逃げようとしていた吸血鬼の背中を、右上から左下へと斬りつけて両断した。

 

 自動装填装置が37mm水銀榴弾を装填している間に、側面の砲塔に搭載されている5.45mm対人機関銃を連射しながら薙ぎ払う。生き残った兵士たちも瞬く間にミンチと化し、戦車たちが擱座している戦場を真っ赤に染めていく。

 

 この超重戦車を有人型ではなく無人型にしたのは、乗組員の削減のためだ。規模が小さくなっているとはいえ、テンプル騎士団は三大勢力の中では未だに最も規模が小さい武装集団である。そのため、人員は可能な限り歩兵や戦艦の乗組員にしておくことが望ましいため、大量の武装やエンジンの操作が必要なシャール2Cを有人型にするわけにはいかなくなった。

 

 そこで、大量のポイントと引き換えに無人化することになったのだが、念のため有人操縦モードは残しておいたのだ。

 

 しかしこの機能も、本来ならばオミットされる筈だった。理由は、砲手と車長を兼任する乗組員にかなりの負担がかかってしまうからである。

 

 このシャール2Cの武装は、砲塔に搭載された152mm連装滑腔砲と主砲同軸の14.5mm機銃だけではなく、車体の両サイドにある37mm戦車砲と5.45mm対人機関銃や、後方の砲塔にある100mm低圧砲や30mm機関砲などだ。本来ならば何人も砲手が必要な武装をたった1人で操作しなければならない上に、操縦士や機関士に指示まで出さなければならない。

 

 そんなことができる乗組員はいないため、有人操縦モードもオミットされる予定だったのである。

 

 もし吸血鬼たちの春季攻勢があと1週間か2週間くらい遅かったら、この機能は取り外されていた事だろう。

 

 俺たちは、オミットされずに済んだその機能に救われたという事だ。

 

 正面にあるキーボードをタッチし、自動装填装置を操作する。2つの主砲にAPFSDSを装填するように指示を出した俺は、カメラからの映像を見つめながら、自動装填装置が砲弾を装填していく音を聞いていることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中佐、そろそろ夜が明けます」

 

「ふん、忌々しい太陽め…………」

 

 敵の銃弾が命中した跡がいくつも残るマウスの砲塔から身を乗り出しながら、戦車部隊を率いていたマウスの車長は空を見上げた。すでに美しかった三日月と星たちが支配していた夜空は消え始めており、徐々に蒼い空へと変色しつつある。

 

 藍色に変わってしまった空の向こうから上り始める太陽を睨みつけ、息を吐いた。

 

 吸血鬼たちは太陽を苦手としているが、太陽の光が与える影響の大きさには個人差がある。耐性がないものは光を浴びた瞬間に身体が燃え上がったり、消滅してしまう者もいる。しかし耐性が高い者たちは浴びても身体が発火することはなく、具合が悪くなったり、再生能力が低下する程度で済んでしまう。

 

 とはいえ、彼らにとって太陽の光が厄介な存在であることに変わりはない。大昔から彼らを苦しめてきた天敵を睨みつけた車長は、近くにあった無線機に向かって言った。

 

「諸君、まもなく夜明けだ。耐性の低い者は直ちに車内か要塞の地下へ退避せよ」

 

 陥落したブレスト要塞の中へと入っていく戦車たちを見守りながら、車長は溜息をついた。

 

 もう既に要塞の上空から敵の戦闘機たちは撤退しており、襲撃してきた敵の戦車や狙撃手部隊も少しずつ後退しているという。すでにその狙撃手部隊を血祭りにあげるために一部の突撃歩兵たちや戦車部隊が派遣されているため、敵の超重戦車に足止めされていた彼らまで動く必要はない。

 

 そう思いながら、水筒の中に入っている奴隷の血を飲もうとした車長は、いつの間にか忌々しい日光の中に黒い影が出現していることに気付き、口へと近づけていた水筒をぴたりと止めた。

 

「ん?」

 

 先ほど太陽を睨みつけた時には、そのような影は見当たらなかった。

 

 血を飲むのを止めて双眼鏡を取り出し、覗き込もうとしたその時、その太陽の光とともに姿を現した巨大な影が―――――――火を噴いた。

 

「?」

 

 その炎の中から飛び出した何かは、飛翔しながら自分の体を覆っていた外殻らしき物体を脱ぎ捨てたかと思うと、それを置き去りにして真っ直ぐに飛翔してくる。砂漠の上に置き去りにされた外殻の中から姿を現したのは、まるで鯨を仕留めるために用意された、鋭利な銛のような形状の砲弾。

 

 飛来した砲弾が何なのかを理解した直後、自分の乗っていたマウスの目の前を掠めた2発の砲弾が、要塞へ入るために進路を変えたばかりのレオパルトの砲塔を直撃した。

 

 猛烈な火花と鉄の溶ける臭い。その向こうで、砲弾が命中した砲塔を吹っ飛ばされて車体だけになってしまったレオパルトが、ぴたりと動きを止める。黒煙を発しながら沈黙した車体の上では、今舌が直撃したAPFSDSの凄まじい運動エネルギーによって捥ぎ取られたレオパルトの砲塔が、ぐるぐると回転しながら落下し始めたところだった。

 

 その一撃は、明らかに普通の戦車の一撃などではない。

 

 続けて、更に2発の砲弾が飛来する。今度はそのレオパルトの近くを通過していたM2ブラッドレーが脇腹を貫かれ、大穴を開けられるどころか、車体の屋根と機関砲が搭載されている砲塔まで抉り取られて大破してしまう。

 

「な、なんだ!? 敵の戦艦か!?」

 

「何言ってんだ、ここは砂漠だぞ!? 戦艦がいるわけないだろ!?」

 

(まさか、あの影は…………)

 

 車長はぞくりとしながら、双眼鏡を覗き込む。

 

 その向こうに見えたのは――――――――ブラックとダークブルーのスプリット迷彩で塗装された、巨大な戦車であった。砲塔からは従来の戦車よりも太い2本の砲身が伸びており、アクティブ防御システムらしき装備も搭載されていることが分かる。分厚そうな正面装甲には砲弾を防いだ痕がいくつも刻まれていて、車体の両サイドにある巨大なキャタピラは、新型の戦車を踏みつぶしてしまえるほどの大きさがある。

 

 スプリット迷彩が特徴的な巨人を目にした車長は、双眼鏡を覗き込んだまま目を見開いた。

 

 その戦車が後方からやってくる事が、ありえない事だったからだ。

 

 なぜならば、後方から姿を現した超巨大戦車は――――――――自分たちが、集中砲火をお見舞いして何とか倒した、テンプル騎士団の超重戦車だったのだから。

 

「生き返ったとでも言うのか…………死んだ戦車が――――――――」

 

 次の瞬間、飛来した2発のAPFSDSが彼の乗るマウスの後部を貫いた。

 

 

 

 

 

 




大暴れよりも起動するシーンとシャール2Cの細かい説明がメインになってしまいました…………。
申し訳ありません。

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