異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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再起動

 

「ステラ、イリナ! 聞こえるか!?」

 

『…………』

 

 猛烈な砂嵐の中を突っ走りながら、スーパーハインドに乗っていた2人の仲間の名前を何度も呼ぶ。けれども、スーパーハインドの無線機が破損してしまったのか、俺の持っている無線機の向こうからは2人の声は聞こえてこない。聞こえてくるのはノイズの音だけだ。

 

 まさか、墜落した時に死亡してしまったのだろうか…………!?

 

 けれども、ステラとイリナがそんなに簡単に死ぬわけがない。ステラは身体が頑丈なサキュバスの末裔だし、イリナは弱点で攻撃しなければ死なない吸血鬼の1人なのだから。

 

 2人が生きていてくれることを祈りながら、全力で砂漠の真っ只中を突っ走る。

 

 幸い、この猛烈な砂嵐がスーパーハインドが発していると思われるオイルの臭いを俺の鼻孔まで運んできてくれている。スーパーハインドには何度も乗っているし、俺の嗅覚はラウラや親父よりも発達しているおかげで、スーパーハインドのオイルの臭いは分かるのだ。

 

 臭いの発生源とスーパーハインドが墜落していった方向を思い出しながら、自分の現在位置を思い浮かべる。おそらく俺がいるのは、ブレスト要塞の西側だろう。スーパーハインドが墜落していったのはブレスト要塞の正門側だから、もう少しで墜落した戦闘ヘリが見えてくるはずだ。

 

 しかし、墜落したのが正門側という事は、そっちには侵攻してきた吸血鬼共が何人もいるという事になる。ブレスト要塞が陥落してしまった以上、この要塞や敵が進軍してきたルートはすでに敵の”勢力圏内”なのだから。

 

 念のため武装を変更しておく。敵の勢力圏内という事は、迂闊に銃をぶっ放せば敵部隊に気付かれ、そのまま袋叩きにされてしまうのは想像に難くない。敵の勢力圏内に墜落したヘリから、敵に気付かれないように味方を救出するためには、適度な殺傷力を持ち、高性能なサプレッサーを装着した狙撃可能な得物を装備しておくことが望ましい。

 

 というわけで、一旦OSV-96を装備している武器の中から解除。サイドアームのPL-14はそのままにしておき、メインアームをロシア製スナイパーライフルのVSS(ヴィントレス)に変更する。スナイパーライフルとは思えないほど銃身が短いこいつなら扱いやすいし、高性能なサプレッサーと銃声を小さくしやすい9×39mm弾ならば敵に気付かれることはないだろう。

 

 念のため、PL-14にもサプレッサーを装着しておく。

 

 メニュー画面を出現させ、指先で立体映像のようなメニュー画面をタッチしながら突っ走るのはお手の物だ。これは俺やブラドのような”第二世代型”の転生者だけが使うことのできる能力だという。

 

 従来の転生者のように端末を使わないため、能力を使うために必要な端末を盗まれたり、紛失する恐れが一切ないというメリットがあるし、いちいち端末を操作するためにポケットからそれを出す必要がない。こっちは片手を突き出すだけで、目の前に近未来的なメニュー画面が姿を現すのだから。

 

 装備を変更して突っ走っているうちに、段々とオイルの臭いが濃密になってくる。さすがにタンプル搭の格納庫の中のように強烈な臭いはしないけど、ヘリがこの近くに墜落したという事はよく分かる。

 

 多分、この砂嵐の中では嗅覚が発達している種族じゃなければ臭いを探知できないだろう。最初の頃は俺もラウラみたいな視力を欲しがってたんだが、今はこの嗅覚に感謝するとしよう。

 

 このまま突っ走ってヘリを探そうと思ったが――――――――砂嵐の向こうから微かにヴリシア語で話している男たちの声が聞こえてきた瞬間、咄嗟に走るのを止めて伏せた。仲間の中にもヴリシア語が話せるメンバーはいるけれど、あのヘリに乗っていた乗組員の中でヴリシア語が話せるのは、吸血鬼であるイリナだけである。

 

 敵の勢力圏内に味方が残っている筈がない。つまり、無効からヴリシア語で話す男たちの声が聞こえてくるという事は、そこにいるのは敵兵であるという事を意味しているのだ。

 

 くそったれ、早くも敵兵と鉢合わせか?

 

 VSSの安全装置(セーフティ)を解除し、射撃準備に入る。スコープを覗き込み、彼らの軍服の臭いが流れてくる方向やヴリシア語が聞こえてくる方向から敵の位置を予測し、そこにレティクルを合わせながら、幼少の頃に教わった言語の1つでもあるヴリシア語を聞き取り始めた。

 

 オルトバルカ語は英語にそっくりな言語で、ヴリシア語はドイツ語にそっくりな言語だ。どちらも五感だけでなく、文字までそっくりだという特徴がある。

 

『こちら突撃歩兵第11分隊。墜落したヘリを確認した。パイロットは2名とも生存している模様。片方の身柄は拘束した』

 

『了解、もう片方を拘束してから後方まで連れてこい。尋問する』

 

『了解』

 

『おいおい、本隊に渡しちまうのかよ? 女だぜ?』

 

『そうですよ、隊長。ちょっとくらいは良いでしょう? さっきまで最前線で戦ってたんですし』

 

 匍匐前進して距離を詰めながら、歯を食いしばる。

 

 間違いなく、あいつらはステラとイリナを敵の本隊へと連れて行って、テンプル騎士団の作戦について色々と”尋問”するつもりだ。この世界には前世の世界のような条約は存在しないため、基本的に何をやっても問題はないのだ。

 

 だから平然と毒ガスを使えるし、平然と核兵器を使うこともできるのである。

 

 そんな状態の敵が拘束された捕虜にどんな尋問をするかは想像に難くない。条約(ルール)がない尋問を経験するという事は、地獄に放り込まれるのと同じなのだ。

 

 匍匐前進で進んでいるうちに、女の声が聞こえてきた。おそらくイリナだろう。普段使っているオルトバルカ語ではなく、本来の自分たちの母語(ヴリシア語)で吸血鬼の兵士たちを罵っているらしい。

 

『触るな、このクソ野郎ッ!』

 

『おいおい、何でそんなことを言うんだ? お前だって同胞じゃないか』

 

『確かに同胞だけど…………僕はお前たちみたいなことはしないッ!』

 

『おい、ちょっとその女を黙らせてやれ』

 

 分隊長らしき男の声が聞こえた直後、人を思い切り殴るような音とともに、イリナの苦しそうな声が聞こえてくる。

 

 殴りやがったのか、イリナを…………!

 

 くそったれ、早く助けないと!

 

 スコープを覗き込むと、辛うじて分隊長らしき兵士の後頭部が見えた。墜落したスーパーハインドから剥がれ落ちたスタブウイングの上に腰を下ろし、水筒の中身―――――――多分血だろう――――――――を飲みながら、部下がイリナを殴っているのを見守っている。

 

 今すぐに9mm弾で脳味噌をグチャグチャにしてやりたいところだが、敵の数と配置が分からない。最低でも敵兵の位置と距離さえ分かれば、最低限の敵兵を排除して彼女たちを救い出し、逃げることができるのだが、他の敵兵はどこだ…………?

 

 2人目の兵士は分隊長のすぐ近くで腕を組んでいたが、墜落したスーパーハインドの近くで殴られているイリナを見ているうちに、自分も彼女を痛めつけるつもりになったらしく、彼女を殴っている兵士に『おい、そろそろ代われよ』と言いながら分隊長の元を離れていった。

 

 イリナを殴っていた兵士はニヤニヤ笑いながら彼女を殴るのを止め、近くにやってきた仲間がイリナの服を脱がせようとしているのを笑いながら見守っている。

 

 どうやら3人だけらしい。

 

 まずはあの分隊長だ。

 

「死ね、くそったれ」

 

 レティクルを後頭部に合わせ、トリガーを引く。

 

 高性能なサプレッサーから解き放たれた1発の9×39mm弾は、舞い上がる砂塵の群れの中に風穴を開けながら疾駆すると、部下たちが同じ種族の少女を犯そうとしているのを見守っていた分隊長の後頭部へと突き刺さる。

 

 頭皮と頭蓋骨を容易く貫通した一撃は、そのまま吸血鬼の脳味噌を木っ端微塵にしてしまう。もちろん使用した弾薬は奴らの再生を防ぐための銀の弾丸だから、今しがた後頭部を撃ち抜かれた分隊長が起き上がることはないだろう。

 

 後頭部に風穴を開けられた分隊長が、がくん、と頭を揺らしてから動かなくなる。もしかしたら崩れ落ちる音でバレるのではないかと思ってヒヤリとしたが、分隊長の死体はそのままスタブウイングの上に腰を下ろした状態のままだった。

 

 砂塵が付着し始めていた冷や汗を拭い去り、VSSを腰に下げる。代わりにサプレッサー付きのPL-14とスペツナズ・ナイフを引き抜き、姿勢を低くしながら突っ走った。死亡した分隊長の脇を通過して部下たちの近くへと足音を立てずに接近してから、イリナを犯そうとしているクソ野郎の頭に照準を合わせる。

 

『やめてっ………やめてよッ!』

 

『まったく、吸血鬼のくせにキメラなんかに味方しやがって』

 

『教育してやろうぜ。もう二度とキメラに味方できないようにさ――――――――ギッ』

 

『え?』

 

 PL-14のスライドがブローバックする。小さな薬莢がハンドガンから飛び出す頃には、イリナを犯そうとしていた男のうなじに9mm弾がめり込んでいた。

 

 ライフルで開けられた穴と比べると小さな風穴を片手で押さえながら、ゆっくりと崩れ落ちていく吸血鬼の兵士。もう片方の兵士が慌ててこちらを振り返るよりも先に、右手に持っていたPL-14を投げ捨てて肉薄し、右手でその兵士の口を押えながら左手のスペツナズ・ナイフを突き付ける。

 

『!?』

 

「た、タクヤ…………!?」

 

『教育してやるよ。―――――――もう二度と、俺の女を犯せないように』

 

 吸血鬼達(こいつら)の母語でそう言いながら、左手のナイフを喉元に突き刺す前に―――――――イリナを犯そうとしていたバカの息子に、思い切り突き刺してやった。

 

『――――――――ッ!!』

 

 絶叫しようとする吸血鬼だが、俺が片手で口を押えているせいで叫ぶこともできない。

 

 ちなみにこの刀身は銀に変更してあるので、ブラドのように強力な再生能力がない限り再生は不可能だ。つまりこのバカは、もう二度と子供を作ることができないというわけである。

 

 ナイフを引き抜いてから、今度はその吸血鬼の喉に思い切り突き刺す。突き刺し過ぎたせいなのか、刀身の切っ先がそのまま首の骨を貫き、うなじから少しばかり顔を出した。

 

 強引に刀身を引っこ抜き、痙攣を続ける兵士の死体を投げ捨てる。返り血を拭い去りながらナイフを鞘に戻してイリナの方を見ると、彼女は目を見開きながらこっちを見ていた。

 

 殴られた痕はもう再生しているようだけど、脱がされた服は破かれていたらしい。黒いミニスカートは健在だけど、上着はすでに脱がされており、やや大きめの胸とピンク色のブラジャーがあらわになっている。

 

 あ、危なかったな…………。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん…………。ありがとね、タクヤ。助かったよ」

 

「気にすんなって。それより…………ほら、これ着ろ」

 

 転生者ハンターのコートの上着を脱いで彼女に渡すと、イリナは顔を赤くしながら俺の顔を見上げた。

 

「い、いいの? これタクヤの服でしょ?」

 

「いいから着ろって。ちょっとデカいかもしれないけど」

 

「あ、ありがと…………」

 

 このコートは親父のお下がりをちょっとばかり改造したものだ。だから俺よりも体格ががっちりしてる親父のサイズであるため、俺が着ても大きいのである。

 

 案の定、イリナにはこのコートは大きいらしい。袖に腕を突っ込んでも、微かに指先が袖の中から覗く程度だ。コートというよりはまるで魔術師のローブのようだ。真っ黒な帽子と杖を渡せば、魔女にも見えるかもしれない。

 

「ところで、ステラは?」

 

「こっち。コクピットの中で身動きが取れなくなってるの」

 

 墜落したスーパーハインドは、逆さまの状態になっているようだった。

 

 片方のスタブウイングは千切れ飛び、もう片方はひしゃげてしまっている。メインローターは墜落した衝撃で全て千切れ飛んでしまっており、テイルローターは見当たらない。墜落した瞬間に千切れたというよりは、そこに被弾してしまったのだろう。おそらくブラッドレーの機関砲が運悪く当たってしまったに違いない。

 

 テイルローターを失ったスーパーハインドは、ぐるぐると回転しながら砂漠の真っ只中へと墜落。その際の衝撃でひっくり返ってしまったようだ。

 

「ステラ、大丈夫?」

 

『イリナ………!? 無事なのですか!? 敵は!?』

 

「タクヤがやっつけてくれたから大丈夫だよ」

 

『タクヤ…………!?』

 

 イリナが座っていた座席からは、墜落した衝撃で装甲とキャノピーが歪んだおかげで自力で脱出できたらしい。彼女が自力で突き破ったと思われる穴が、コクピットの近くに残っているのが分かる。

 

 けれどもステラが座っていた方の座席は衝撃で歪んでおらず、逆さまになった状態で墜落しているため、キャノピーを砂と機体の重量が抑え込んでしまっている。いくらステラがガトリング砲を持ち上げられるほどの腕力を持っていても、さすがにヘリを持ち上げて脱出するのは無理だろう。

 

「ステラ、今から機体を少しだけ持ち上げるから、その隙に脱出しろ。いいな?」

 

『わ、分かりました』

 

「イリナ、手伝ってくれ」

 

「了解!」

 

 2人でスーパーハインドの機首を掴む。急いで彼女を救出しなければ、さっき仕留めた敵兵の死体が発見されてしまう。そうなれば、敵の部隊が自分たちの同胞を殺した俺たちを探し始めるだろう。下手をすれば春季攻勢のために攻め込んできた敵の侵攻部隊全てを相手にする羽目になるかもしれない。

 

 しかもここは敵の勢力圏内だ。早く離脱して、ナタリアと合流しなければ。

 

「せーのッ!」

 

 イリナとタイミングを合わせ、2人で機体を持ち上げる墜落していたスーパーハインドの機首がゆっくりと傾いていき、砂の中に埋まっていた機首のキャノピーが少しずつあらわになり始める。

 

 もう一息だ…………!

 

 両腕に力を込めているうちに、つい血液の比率を変えてしまったのか、勝手に両腕が外殻で覆われていく。まるで鉤爪のように鋭い指先がスーパーハインドの装甲に食い込み始めたかと思うと、割れたキャノピーの隙間から銀髪の幼い少女が這い出し始めた。

 

 ヘルメットとHMD(ヘッドマウントディスプレイ)は機内に残してきたらしく、毛先の方が桜色になっている変わった銀髪があらわになっている。

 

 彼女がコクピットから脱出したのを確認してから、やっと両腕から力を抜く。ずしん、とスーパーハインドの巨体が再び元の状態へと戻り、少しばかり派手な砂塵を舞い上げた。

 

「ふー…………。よう、ステラ。大丈夫か?」

 

「申し訳ありません、助かりました。タクヤはステラの命の恩人なのです」

 

 そう言いながら抱き着いてくるステラ。彼女の身体についている砂を払い落としながら優しく抱きしめていると、俺の上着を着たイリナが呼吸を整えながら、ついさっき俺が投げ捨てたPL-14を拾い上げてくれた。

 

 とりあえず、早く脱出しよう。

 

 ここは要塞の反対側。簡単に言えば、吸血鬼たちが進軍してきた方向だ。何とかして要塞の反対側へとたどり着く必要があるが、要塞を陥落させた敵がブレスト要塞の周囲に展開しているのは想像に難くない。

 

 最優先にするべきなのはもちろん脱出だが、敵の戦車と遭遇した時に備えて火力も欲しいところだ。ロケットランチャーで足りるだろうか?

 

「よし、脱出しよう。ケガはないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「ステラも大丈夫です」

 

 どうやら怪我はしていないらしい。

 

 いつの間にか、砂嵐は収まりつつあった。荒れ狂っていた砂塵たちが大人しくなってくれたおかげで、墜落したスーパーハインドの周囲の状況が良く見える。

 

 ここで戦車部隊が奮戦してくれたのか、スーパーハインドの周囲にはレオパルト2やマウスの残骸が何両も転がっていた。ブレスト要塞は壊滅してしまったが、守備隊は敵部隊に大打撃を与えてくれたらしい。

 

 大穴を開けられたレオパルトの残骸を見ながらそう思ったが、俺はすぐに違和感を感じた。

 

 戦車部隊が奮戦したにしては、味方の戦車の残骸があまりにも少なすぎる。しかも転がっている戦車の残骸は、125mm滑腔砲を搭載したT-90やT-72B3の残骸のみ。152mm滑腔砲を搭載したチョールヌイ・オリョールでなければ、マウスの撃破は難しいだろう。

 

 要塞砲で撃破されたわけでもないらしい。

 

「タクヤ、あれ…………!」

 

「…………こいつか」

 

 ステラが指差した方向に――――――――ここで数多の戦車を食い止めた、超重戦車が鎮座していた。

 

 普通の戦車に搭載する主砲と言うよりは、駆逐艦や戦艦に搭載されているような連装砲を搭載し、160mm滑腔砲の直撃すら防いでしまうほどの分厚い複合装甲に覆われた巨体。

 

 そこに佇んでいたのは―――――――ブレスト要塞に配備されていた、シャール2Cの『ピカルディー』だったのである。

 

 元々は歩兵の進撃を支援するために採用した無人型超重戦車だけど、ステラの要望でマウスを撃破できるように武装と装甲が大幅に強化され、最終的にテンプル騎士団の切り札の1つとなった怪物だ。第二次世界大戦勃発前に開発された旧式の兵器であるにもかかわらず、近代化改修を何度も繰り返したせいでコストは駆逐艦やイージス艦に匹敵するほど高くなっており、テンプル騎士団でも10両しか運用していない。

 

 そのうちの1両が、こいつだ。

 

 車体の左側にあった筈の37mm戦車砲の小型砲塔は抉れていて、風穴が開いている。分厚い正面装甲には何度も砲弾を防いだ痕が残っているのが分かる。

 

「――――――――ん?」

 

「どうしたの?」

 

 今、砲塔がちょっとだけ動いたような気がした。

 

 違和感を感じながら、俺はシャール2Cの巨体に近づくと、何度も砲弾を防いだ跡が残っている巨体をよじ登り始めた。武骨なキャタピラの上を乗り越えて砲塔をよじ登り、戦艦の副砲なのではないだろうかと思えるほど巨大な砲身が突き出ている砲塔のハッチを開ける。

 

 機能を停止しているならば中は真っ暗になっている筈だが―――――――ハッチの中では、まだモニターが青白い輝きを放ち続けていた。

 

 こいつは無人戦車なんだけど、場合によっては兵士が乗り込んで操縦できるように、『有人操縦モード』も搭載してあるのだ。その際に必要になる乗組員は、砲塔の中で全ての砲塔の制御を担当する砲手と、この巨体を動かす操縦士と、車体の中央部にあるエンジンを操作する機関士の3名のみ。車長は砲手が兼任する。

 

 本来はオミットする予定だった機能なんだが、念のために残しておいたのだ。

 

「おい、2人とも」

 

「どうしたの?」

 

 このシャール2Cは――――――まだ戦える。

 

 凄まじい戦闘で集中砲火を浴びたにもかかわらず、まだ完全には機能を停止していなかったのだ。

 

 フランスの戦車はすげえな…………!

 

「この戦車、まだ使えるぞ」

 

 ニヤリと笑いながらそう言って、俺はシャール2Cの砲塔の中へと潜り込むのだった。

 

 


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