異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ステルス機VSスーパーハインド

 

「ふん、躱したか」

 

 今しがた放ったミサイルは、どうやらどちらも回避されてしまったらしい。

 

 舌打ちしながら操縦桿を倒し、機体を旋回させながらスーパーハインドを睨みつける。ちらりと上を見ながら味方の航空隊を掩護するべきだろうかと思ったが、未だに戦闘を続けているラファール隊は奮戦を続けている。Su-27の背後に回り込んだラファールが機関砲で敵機を蜂の巣にしたのを見た俺は、安心しながらもう一度ヘリを睨みつけた。

 

 航空部隊はまだ大丈夫だろう。ならば、俺が狙わなければならないのは敵の航空機ではなく、こっちの地上部隊を蹂躙しているあの忌々しいスーパーハインドだ。

 

 あのヘリを早く撃ち落とさなければ、要塞を占領した部隊に大きな被害が出るのは想像に難くない。ただでさえこちらの戦力はテンプル騎士団の連中よりも少ないのだから、タンプル搭襲撃の前に被害を出したくはないし、ここで損害を出せば兵士たちの士気まで下がってしまうだろう。

 

 せっかく突撃歩兵と後方の列車砲からの砲撃で要塞を陥落させ、兵士たちの士気が上がっているのだ。こんなところで大打撃を受ければ、上がったばかりの士気が台無しになってしまう。

 

 スーパーハインドは相変わらず要塞の上を旋回し、分厚い装甲で兵士たちの銃撃をことごとく弾き飛ばしながら、地上へとガンポッドとターレットが放つ砲弾をばら撒いている。

 

 そのスーパーハインドの中から長大なライフルの銃身を突き出し、地上部隊を狙撃しているのは―――――――漆黒のフードがついたコートに身を包み、そのフードに2枚の深紅の羽根を付けた”転生者ハンター”。俺の父を殺した忌々しい魔王から、あらゆる技術を受け継いだ男。

 

「ナガト…………ッ!」

 

 あの男は、何としても排除しなければならない。

 

 俺と同じ第二世代型転生者の試作型である上に、忌々しいキメラなのだ。こいつを殺さない限り、メサイアの天秤を使って父上を復活させるのは不可能だろう。まずはこいつを殺して鍵を奪い、天秤を手に入れて父上を復活させなければならない。

 

 その後に、復活した父上と共にオルトバルカへと攻め込み、忌々しい魔王共を血祭りにあげてやるのだ。

 

 旋回しているこっちに向かって、兵員室の中にいるナガトがアンチマテリアルライフルを向けてくる。古めかしい対戦車ライフルなのではないかと思えるほど長い銃身を持つ得物をこっちに向けてきたかと思うと、何発か発砲したらしく、マズルフラッシュが煌いたのが見えた。

 

 とはいえ、こっちは高速で飛んでいる戦闘機。大昔のプロペラ機だったのならば撃墜できたかもしれないが、俺の乗っているこの機体はアメリカで開発された高性能なステルス機だ。対物(アンチマテリアル)ライフルごときで撃墜できるわけがない。

 

 それに、狙撃用の得物を命中させるのはかなり困難だ。ガトリングガンのように連射速度の速い武器か、ロックオン可能な対空ミサイルを装備していない限り、歩兵が戦闘機に対抗するのは不可能に近い。

 

 そう思いながら旋回を終えようとしたその時だった。左側の主翼から、カツン、と何かが激突するような音が聞こえてきたのである。

 

「…………?」

 

 ちらりと左側の主翼を見てみると、灰色に塗装された主翼の一部に何かが激突したような傷跡が刻まれていた…………。

 

 立て続けに兵員室の中で煌くマズルフラッシュ。その光が消えたと思った頃にコクピットの中に聞こえてくるのは、カツン、という先ほど主翼の方から聞こえてきた何かが激突する音。

 

 まさか、狙撃を命中させている…………?

 

「やるじゃないか」

 

 優秀な狙撃手のようだな、ナガト。

 

 だが、こっちは高性能なステルス機だ。お前も戦闘機に乗っていたのであれば互角に戦えたかもしれないが、お前が乗っているのは戦闘機よりもはるかに鈍重な戦闘ヘリ。しかも武装は対空用ではなく、対地攻撃用の物ばかり。対空用の武装がない以上、戦闘ヘリでは戦闘機に勝つことは不可能なのだ。

 

 またしてもナガトの狙撃がYF-23に着弾する。今度はキャノピーのすぐ近くだったが、ナガトの狙撃をものともせずに突進する。速度をどんどん上げていきながら機関砲の発射スイッチを押すが、あのスーパーハインドのパイロットも優秀らしく、すぐに方向転換して機関砲の群れを回避してしまう。

 

 こっちも照準を合わせてもう一度ぶちかましてやろうと思ったんだが、照準を合わせるために機首をヘリへと向けてしまえば激突してしまいそうな距離になっていたことに気付き、舌打ちしながら攻撃を断念する羽目になる。

 

 今度は一旦距離を取り、ミサイルと機関砲の攻撃をお見舞いしてやろう。もし仮にフレアをばら撒きながらミサイルを回避したとしても、回避しているヘリに照準を合わせて機関砲を連射すれば、あの優秀なパイロットでも回避することはできないだろう。ナガトの狙撃には注意する必要があるが、あいつの得物の銃弾はおそらく12.7mm弾か14.5mm弾。航空機を叩き落すには威力不足としか言いようがない。

 

 上空の航空隊もまだ奮戦している。A-10隊は全滅してしまったようだが、生き残ったラファール隊はまだ錬度の低いテンプル騎士団の航空隊を蜂の巣にし、ミサイルを叩き込んで撃墜しているようだ。

 

 錬度ならばこっちの方が上だろう。諜報部隊が入手した情報では、テンプル騎士団の兵士の大半はヴリシアの戦いの後に入団した新兵ばかりで、中には実戦経験すらない兵士もいるという。どれだけ優秀な装備を支給されて訓練を受けた兵士でも、実戦を経験しなければ力はつかないし、練度も上がらない。

 

 それに対し、こちらの兵士たちの大半はヴリシアの戦いの敗残兵。敗残兵とはいえ、あの死闘から生還した兵士たちばかりだ。それゆえに入団したばかりの新兵たちと比べると練度が違うし、士気もこちらの方がかなり高い。

 

 だからと言って油断するわけにはいかないがな。前回は、油断して敗北したのだから。

 

 再び旋回を終え、減速しつつ機首をヘリへと向ける。減速したとはいえ、ヘリと戦闘機の速度にはかなりの差がある。この状態でもすぐにヘリを通過する羽目になるだろう。減速したと思って安心しながら攻撃していれば、すぐにヘリにタックルする羽目になる。

 

 こっちには再生能力があるから問題はないが、もちろん痛覚もある。それに貴重なステルス機がスクラップになってしまう。

 

 ミサイルのロックオンが始まる。きっとあのスーパーハインドのコクピットの中では、こっちのレーダー照射を受けている事を意味する電子音を聞きながら、パイロットが慌てふためいて回避しようとしている頃だろう。ナガトの奴もミサイルを放たれる前にこっちを撃墜しようとしているに違いない。

 

 しかし、残念ながらあいつの対物(アンチマテリアル)ライフルでミサイル発射前にこっちを迎撃するのは不可能だ。確かに、大口径の弾丸と高性能なスコープを兼ね備えた対物(アンチマテリアル)ライフルは超遠距離狙撃にはうってつけと言えるだろう。だが、”うってつけ”と言えるのはあくまでも地上で敵の歩兵や敵の装甲車を狙う場合だけだ。常に高速で大空を飛び回る戦闘機の武装の射程距離は、歩兵が装備できる武装の射程距離とは格が違うのだ。

 

 先ほどのように近距離で旋回し、機関砲を叩き込もうとしていたのであれば攻撃前に対物(アンチマテリアル)ライフルで反撃することはできるだろうが、今度はミサイルを放ってから機関砲で攻撃するために少しばかり距離を空けている。ナガトの得物の射程距離外だ。

 

「フォックス2」

 

 操縦桿にある発射スイッチを押した瞬間、がごん、と機体の胴体にあるウェポン・ベイから空対空ミサイルが空中に放り出される音が聞こえてきた。胴体の両脇に搭載されたウェポン・ベイから躍り出た2発のミサイルが、エンジンから炎を吐き出しながらスーパーハインドへと向かっていく。

 

 まだ距離には余裕があるから、もし仮にここでヘリがフレアをばら撒いてミサイルを回避したとしても、機関砲で追撃できるだろう。可能性はかなり低いが、ナガトがもし仮にミサイルを狙撃で撃墜したとしてもこちらが機関砲で追撃できるのは変わらない。

 

 旋回しながら、がっちりした形状のヘリがフレアをばら撒き始める。ヘリへと向かって飛んでいたミサイルが急に直進できなくなり、全く違う方向へと飛んで行ってから爆発してしまう。

 

 ―――――――フレアか。想定内だ。

 

 機首をヘリへと向け、機関砲の発射スイッチへと指を近づける。確かに戦闘ヘリの装甲は厚いが、戦闘機に搭載されている機関砲の口径は歩兵用のライフルとは格が違う。装甲車の主砲に匹敵するほどの破壊力があるのだ。いくら装甲が厚いヘリでも、瞬く間に木っ端微塵になるだろう。

 

 じゃあな、ナガト。

 

 俺はお前が嫌いだ。虐げられる人間の苦しさを一番知っている筈なのに、あんな生き方をしていたお前が許せない。それに、俺たちから全てを奪っていったお前たちの一族も許せない。

 

 同胞を奪い、父まで奪った。

 

 だから俺も、お前たちから全てを奪ってやる。

 

 けれども、少しばかり期待してたんだよ。…………もしかしたら、また前世で一緒に遊んでた頃みたいに、仲直りできるかもしれないって。

 

 かなり確率は低いけれど、そうなればいいなって思ってた。

 

 でも無理だ、ナガト(ビックセブン)。俺たちの一族とお前たちの一族が戦いを止めることなど、多分永遠にないだろう。俺たちがこの世を去って子孫たちの時代になったとしても、この戦いは止まらないかもしれない。

 

「―――――――じゃあな、バカ野郎」

 

 呟きながら発射スイッチを押そうとしたその時だった。

 

 兵員室の中で煌いていたマズルフラッシュが消えたかと思うと――――――――今度は、蒼い光が兵員室の中からあふれ始めたのである。スーパーハインドの巨体を覆いそうなほど拡散していたその蒼い光は、揺らめきながら再び兵員室の中に吸い込まれ始めたかと思うと、手榴弾よりも一回り大きい炎の球体を形成する。

 

 その光が溢れ出すと同時に俺が感じ取ったのは、猛烈な量の魔力だった。並みの魔術師どころかベテランの魔術師ですら、長い詠唱を終わらせなければ形成できないほどの加圧された魔力の塊。それが、たった数秒で形成されてしまったのである。

 

 蒼い光だが、属性はおそらく炎。―――――――ナガトが得意とする属性だ。

 

「あいつ…………ッ!!」

 

 魔術で狙撃するつもりか!!

 

 魔術は現代兵器と比べると、詠唱が必要になる上に攻撃力も劣る。中には現代兵器を上回るほど強力な魔術もあるが、そのような魔術を発動するには長い詠唱が必要になるため、現代兵器よりもはるかに実用性が低いと言わざるを得なかった。

 

 だが―――――――あれほど加圧した魔力を短時間で生成できるのであれば、現代兵器に匹敵する破壊力となるだろう。しかも詠唱の必要もないのだから、他の魔術よりもはるかに素早く発動することができる。

 

 はっきり言うと、魔術をかなり見下していた。治療魔術(ヒール)さえできるのであれば、それ以外の魔術は必要ないと思っていた。

 

 しかし――――――――ナガトの野郎の武器は、銃だけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 折り畳んだOSV-96を背中に背負い、右手を突き出して魔力の生成を続ける。もう既に体内には炎属性と雷属性に変換済みの魔力があるのだから、普通の魔術師とは違って、何の属性もない体内の魔力を何かしらの属性に変換するという手順は必要ない。

 

 それゆえに、俺やラウラは自分の体内にある魔力の属性と同じであるならば、詠唱をせずに魔術を放つことができるのだ。

 

 照準は、もちろんこっちに接近してくるYF-23。さすがに14.5mm弾で撃墜するのは困難だが、この超高圧の魔力ならば戦闘機に風穴を開けることはできるだろう。しかも魔術の場合は、魔力を加圧すればするほど”弾速”が速くなるという特徴がある。人間が放り投げた手榴弾とほぼ同じ弾速のファイアーボールを遥かに上回る弾速になるに違いない。

 

 悪いな。俺の魔術は、ちょっとばかり”変”なんだよ…………!

 

 普通にファイアーボールを放とうとしても、どういうわけか必要以上の魔力が加圧されちまう。だから俺のファイアーボールは、はっきり言うと蒼いレーザーみたいな攻撃になっちまうんだ。

 

 けれどもその速い弾速は、戦闘機のように高速で飛び回る獲物を捉えるにはうってつけだろう。

 

「ステラ、ちょっと遊びに行ってくる」

 

『構いませんが、無茶をしてはいけないのです。タクヤの悪い癖ですよ』

 

「気を付けるよ」

 

 悪い癖か。親父も同じ癖があったらしい。

 

 直したいんだが、なかなか直らないんだよなぁ。

 

 苦笑いしながら、接近してくるYF-23のキャノピーを睨みつける。ステルス機のキャノピーの中では、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)や酸素マスクを身につけたパイロットが、こっちを睨みつけているところだった。

 

 YF-23に搭載された機関砲が火を噴き始める。全速力で飛行するスーパーハインドの巨体を掠めていく機関砲の砲弾の群れの中で、蒼い外殻に覆われた右手を敵へと向けていた俺は、距離が十分近くなったのを確認してから、生成していた炎属性の魔力の塊を放った。

 

「―――――――ファイアーボール」

 

 普通の魔術師のファイアーボールは、真っ赤な炎の球体が1つだけ―――――――アレンジを加えれば拡散させることもできる―――――――飛んで行く。弾速は人間が放り投げた手榴弾と同じくらいで、解するのは簡単だ。

 

 しかし、俺が放ったファイアーボールは、やっぱり変だった。

 

 炎の球体ではなく――――――――燃え盛る蒼いレーザーが、1本だけ飛んで行ったのだから。

 

 加圧された魔力の塊とも言えるそれの破壊力が、下手をすれば戦闘機に風穴を開けてしまうほどだという事を感じ取ったのか、敵のパイロットが慌てて機関砲の連射を止めながら高度を下げる。しかし、対空ミサイルにも匹敵する弾速で飛来した俺の一撃は、回避しようとしていたYF-23の左側の尾翼の先端部を捥ぎ取ると、その衝撃でアメリカ製のステルス機をぐらつかせてしまう。

 

 さて、遊びに行こう。

 

 放った蒼いファイアーボールが残した火の粉が舞う兵員室の中から――――――――夜空へと踊り出す。

 

 全速力で飛び続けるスーパーハインドの兵員室から飛び出した俺の目の前に急接近してくるのは、今しがたファイアーボールの狙撃を回避し、尾翼の一部を失って未だにぐらついているYF-23。

 

 必死に体勢を立て直そうとしているパイロットと、そのステルス機の背中に着地しようとしている俺の目が合うと同時に、体内の血液の比率を変化させ、身体中を蒼い外殻で覆った。いくら転生者のステータスのおかげで防御力が上がっているとはいえ、回避を終えた直後の戦闘機の背中へと激突すれば、転生者でもただでは済まない。

 

 そして、前進が蒼い外殻で覆われると同時に、ステルス機の”背中”が俺の右肩を思い切り殴打した。

 

「―――――――せんちゅりおんっ!?」

 

 か、肩外れたんじゃないか…………? 

 

 硬化させた状態の左手をYF-23の胴体に食い込ませ、尻尾も突き刺して振り落とされないようにしながら、凄まじい風の中で右腕を動かしてみる。叩きつける羽目になった肩は少しばかり傷んだけど、いつものように動いた。どうやら外れたわけではないらしい。

 

 その右腕も機体に食い込ませ、少しずつコクピットの方へと進んでいく。ヘリを仕留め損なって旋回しているだけなのか、それとも俺が機体に着地したことを察知して振り落とそうとしているのか、YF-23は先ほどから急旋回を繰り返していた。

 

 幼少の頃から受けた訓練で鍛え上げた筋肉をフル活用し、急旋回する戦闘機から振り落とされないように堪えつつ、コクピットのすぐ近くまで移動する。

 

『…………!』

 

 再び、コクピットの中にいるパイロットと目が合った。

 

 口元は酸素マスクのせいで見えなかったが、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の向こうに見える鋭い眼を見た瞬間、そのパイロットが誰なのかを理解してしまう。

 

 そうか、お前も最前線で戦ってたのか。

 

「久しぶりだな、ブラドぉ…………ッ!!」

 

 

 

 




※センチュリオンは、イギリスの戦車です。

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