異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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鮮血の魔女

 

 味方の80cm列車砲の強烈な一撃を叩き込まれたブレスト要塞は、まさに陥落寸前であった。飛行場はズタズタに破壊されて使用不能になり、装甲や隔壁をぶち破って地下へと突き刺さった榴弾によって中央指令室も消失してしまった。数名の守備隊の兵士たちや防壁の外で奮闘していた戦車部隊は辛うじて生き残ったものの、敵の数が多すぎる上に指令室が消失したため、烏合の衆でしかなかったのである。

 

 それゆえに、吸血鬼たちはあと少しでこの要塞が陥落するだろうと思っていた。まだ抵抗してくる敵兵を撃ち殺し、敵の戦車を木っ端微塵にしてやれば、ブレスト要塞はすぐに陥落する。後はブレスト要塞の跡地を橋頭保代わりにして体勢を整え、敵の本拠地であるタンプル搭を攻め落とすだけだ。

 

 ヴリシアでは自分たちの拠点が攻め落とされる羽目になったが、今度は自分たちが敵の拠点を攻め落としてやれるのだ。第二次転生者戦争(ヴリシアの戦い)で多くの同胞を失った彼らにとって、この春季攻勢(カイザーシュラハト)は弔い合戦なのである。

 

 しかし、もう少しで陥落する要塞へと攻め込んでいる兵士たちに、何の前触れもなく飛来した1機の戦闘ヘリが、損害を与えつつあった。

 

「撃て! さっさとあいつを撃ち落とせ!」

 

「くそ、スティンガーは!?」

 

 XM8から5.56mm弾や6.8mm弾を放ち、戦車のハッチの近くに装備されているMG3で弾幕を張る兵士たち。しかし彼らが狙っているたった1機のスーパーハインドは、立て続けに飛来する無数の銃弾を意に介さず、逆にターレットやガンポッドの機銃掃射と、兵員室に乗り込んだ1人の狙撃手の正確な狙撃で、弾幕を張る吸血鬼の兵士たちをことごとく返り討ちにしていく。

 

 1人の吸血鬼の兵士が慌ててスティンガーミサイルの準備をするが、それを一足先に察知したのか、兵員室の中でマガジンを交換していた狙撃手が再装填(リロード)を終え、兵員室の中から長大なライフルの銃身と、特徴的な大きいT字型マズルブレーキを突き出し、トリガーを引いた。

 

 マズルブレーキから噴き上がるマズルフラッシュが、一瞬だけスーパーハインドの漆黒の装甲を照らし出す。その煌きを突き破って吸血鬼へと牙を剥くのは、かつて第二次世界大戦中に対戦車ライフルの弾薬として活躍し、戦争が終わってからも装甲車に搭載する機関銃の弾薬として採用された、大口径の14.5mm弾。

 

 その一撃は、正確にスティンガーミサイルを構えていた兵士の喉元へと襲い掛かると、凄まじい運動エネルギーで容易く兵士の首から上を捥ぎ取り、鎖骨や胸骨まで抉り取ってしまう。ヘルメットをかぶったまま千切れ飛んだ兵士の首が大地に落下し、鎖骨まで抉られたせいでスティンガーミサイルを構えていた腕が落下する。

 

 胸板から上を抉られた兵士は、猛烈な運動エネルギーに突き飛ばされ、そのまま後ろへと崩れ落ちてしまう。胸板どころか頭まで吹っ飛ばされてしまったせいで、もう両足に力を込めて踏ん張る事すらできなくなってしまったのだ。

 

 弱点の銀で作られた14.5mm弾の強烈すぎる一撃は、敵兵を問答無用でミンチにしてしまったのである。

 

 テンプル騎士団がこのような大口径の弾丸の使用を好む理由は、彼らの戦い方の”原型”となったモリガンの傭兵たちの影響が大きい。

 

 異世界へと転生し、本格的に現代兵器を使った戦いを始めた速河力也は、最初は小口径の5.45mm弾を使用するAN-94を使用していた。優秀な命中精度と驚異的な連射速度を誇る2点バーストで魔物や敵兵を次々に薙ぎ倒していったのだが、強靭な外殻を持つ魔物との戦いで、小口径の弾丸が弾かれてしまうという事が判明したのである。

 

 弱点を狙えば5.45mm弾でも貫通はできたのだが、乱戦の真っ只中で正確に弱点を狙っている余裕はない。そこで彼は、異世界で銃を使うのであれば”可能な限り大口径で、魔物だけでなく対人戦にも対応できるような弾丸が望ましい”という事に気付き、積極的に大口径の弾丸を使っていくことになる。

 

 口径が大きければ、当然だが破壊力は上がる。そうすれば魔物や人間の兵士を瞬く間にミンチにできる上に、防御力に差がある転生者が相手だったとしても、強引に風穴を開けることができた。

 

 それゆえに、モリガンの傭兵たちは大口径の弾丸を使用する銃を好んで使用した。そのような破壊力の大きな得物の方が、確実に敵を”消せる”からである。

 

 彼らから戦い方を教わったタクヤやラウラが率いるテンプル騎士団が、同じように大口径の弾丸を使うのは、彼らの影響を受けているからなのだ。もし仮にモリガンの傭兵たちが最後まで小口径の弾丸を使用していたのであれば、テンプル騎士団の兵士たちも小口径の弾丸を使用する武器を使い続けていただろう。

 

「くそ、あのヘリに攻撃を集中―――――――」

 

 味方に指示を出そうとしていた吸血鬼の指揮官の後頭部が、唐突に叩き割られる。

 

 ヘリからの機銃掃射や、兵員室に居座る狙撃手からの狙撃ではない。もしヘリや兵員室の狙撃手からの攻撃であったのならば、もっと木っ端微塵になっているだろう。後頭部が割れて脳味噌の破片を周囲にばら撒く程度では済まない。

 

 ぐらりと前に崩れていく指揮官。近くにいた兵士たちがぎょっとするよりも先に、更に後方の崩れた防壁の向こうから飛び込んできた2発の.338ラプア・マグナム弾が、慌てて振り返ろうとする兵士たちのこめかみや側頭部を正確に貫く。あっさりとヘルメットを貫通された兵士たちの頭蓋骨が砕け、その破片が脳味噌を串刺しにする。

 

 吸血鬼たちには再生能力があるものの、弱点である銀や聖水によって攻撃されると、その再生能力は機能しなくなる。耐性の高い吸血鬼であれば再生することは可能だが、弱点による攻撃を叩き込まれても再生できる吸血鬼は非常に少ない。

 

 それゆえに、頭を砕かれた兵士たちは1人も起き上がることはなかった。

 

「こっ、後方にも狙撃手!?」

 

「バカな!? いつの間に…………ッ!?」

 

「か、隠れろ! 遮蔽物の陰に隠れるんだッ!!」

 

 仲間たちに指示を出しながら、1人の吸血鬼の兵士が慌てて近くの防壁の残骸へと飛び込む。そのままアサルトライフルを構えてヘリを狙撃しようとしたのだが―――――――防壁の向こうから飛来した1発の23mm徹甲弾が、薄くなっていた防壁の残骸を貫通し、その後ろに隠れていた兵士の背骨を砕くと、猛烈な運動エネルギーで内臓をミンチにしてから腹を突き破り、肉片と化した腸の残骸を目の前にばら撒きながら突き抜けていく。

 

 凄まじい衝撃を感じたその兵士は、すぐに口から血を吐いて絶命した。

 

 彼が隠れた残骸は、普通のライフル弾で貫通するのは不可能だっただろう。それゆえに、彼の判断は正しかった。普通のライフル弾で貫通できないほどの遮蔽物ならば安全なのだから。

 

 しかし―――――――敵の狙撃手の中には、1人だけ普通では考えられないほど口径の大きな対物ライフルを平然と扱う怪物が紛れ込んでいる事に、気付けるわけがない。

 

 普通の対物(アンチマテリアル)ライフルならば、12.7mm弾を使用する。しかしその狙撃手の1人である少女が装備しているライフルは、タクヤ・ハヤカワの手によって12.7mm弾ではなく、より大口径の23mm弾が使用できるように改造された代物だ。第二次世界大戦で活躍した対戦車ライフルですら、最も口径の大きなものは20mm弾を使用する代物であったのである。それ以上の口径の弾丸を放つ上に徹甲弾を使用したのだから、残骸を貫通して兵士を木っ端微塵にすることができたのだ。

 

「くそ、何だあれは!? スナイパーライフルじゃないのか!?」

 

「対物ライフルだッ!」

 

「バカか!? 対物ライフルにあんな破壊力があるわけないだろッ!? 防壁の残骸を貫通して―――――――」

 

 遮蔽物を砕く音が響いた瞬間、一緒に遮蔽物の陰に隠れていたその兵士の首から上が砕け散った。かぶっていた筈のヘルメットすら粉砕してしまった巨大な弾丸が、頭蓋骨と脳味噌を木っ端微塵にし、肉片と2つの眼球で飛行場の滑走路の上を真っ赤に染めてしまう。

 

 それを見てしまった味方の吸血鬼は、目を見開きながら震え上がった。

 

「な、なんで…………こっ、こっちは隠れてるのに、何で場所が…………ッ!?」

 

「まさか…………”鮮血の魔女”か…………!?」

 

「「「!?」」」

 

 ヴリシアの戦いで、吸血鬼たちに大打撃を与えた赤毛の狙撃手が存在した。

 

 狙撃をする筈の得物から、遠距離用のライフルには必需品ともいえるスコープを取り外し、超遠距離から大口径の弾丸で兵士たちを狙撃していった謎の狙撃手が、図書館へと進撃していたマウス部隊や歩兵部隊に大損害を与えたという話を仲間の兵士たちから何度も聞いていた兵士たちは、ぞくりとしながら反射的に隠れていた遮蔽物から背中を離す。

 

 誰もいない筈の場所から飛来した弾丸に、次々に兵士や戦車のアクティブ防御システムが射抜かれていったのだ。しかも、砲塔の軸に何度も弾丸を叩き込まれた戦車は、そのせいで砲塔が旋回不能になるという損害を被っていたのである。

 

 辛うじて生還した兵士の話では、その狙撃手は大口径の対物(アンチマテリアル)ライフルを手にした、赤毛の美しいキメラの少女であったという。

 

 吸血鬼たちはその赤毛の少女を『鮮血の魔女』と呼んでいた。

 

「狙撃している位置は分かるか!?」

 

「くそ、ダメだ…………どこにいるか分からん」

 

「顔を出すなよ。顔面に銀の弾丸をプレゼントされるぞ」

 

 そのまま隠れていても、今しがた首から上を撃ち抜かれて木っ端微塵にされた兵士と同じように、遮蔽物もろとも撃ち抜かれるかもしれない。

 

 ヴリシアで戦死した同胞たちの弔い合戦の最中に、自分たちまで戦死し、あの世で同胞たちに会うわけにはいかないのだ。

 

 いっそのこと遮蔽物から離れるべきかと階級が一番高い兵士が提案しようとした、その時だった。

 

「狙撃手かしら」

 

「あ、アリーシャ様…………?」

 

 砂と冷たい風が支配する砂漠の向こうから放たれる威圧感に耐えていた彼らに声をかけたのは、白いフリルのついたメイド服とヘッドドレスを身につけ、背中にスコープのついた大型のライフルを背負った、銀髪の少女であった。オリーブグリーンの軍服やボディアーマーに身を包み、ヘルメットをかぶっている兵士しか見当たらない戦場の真っ只中に、まるで貴族の屋敷で働くメイドがそのまま紛れ込んだような光景を目にすれば、誰だろうと違和感しか感じないだろう。

 

 彼女の名はアリーシャ。ヴリシアで吸血鬼たちが惨敗してディレントリアへと逃げ込んだ後に、ディレントリアの商人が販売しようとしていた、吸血鬼の奴隷だった少女である。ブラドが彼女を救い出した後は、ブラドの専属のメイドとして働いている。

 

 それゆえに、彼女は鮮血の魔女の恐ろしさを知らない。彼女が背負っている得物がスナイパーライフルであることに気付いた兵士たちは、魔女に挑もうとする彼女を慌てて止め始めた。

 

「お、お止め下さい! 相手は鮮血の魔女ですよ!?」

 

「アリーシャ様、危険です!」

 

「分かってるわ。でも、ブラド様のためよ」

 

 そう言いながら、彼女は背負っていたスナイパーライフルを構えた。

 

 普通のスナイパーライフルと比べると、銃身はやや太いようにも見える。ライフル本体の下部からはマガジンが装着されており、後方からはすらりとした形状の銃床が伸びている。一見するとセミオートマチック式のマークスマンライフルにもみえるが、ライフル本体の右側面からはボルトハンドルが突き出ており、ボルトアクション式のスナイパーライフルであるという事が分かる。

 

 アリーシャが装備していたのは、アメリカで開発された『チェイ・タックM200』と呼ばれるボルトアクション方式のスナイパーライフルだ。スナイパーライフルの中ではトップクラスの命中精度を誇ると言っても過言ではない代物であり、射程距離も超遠距離狙撃を想定したアンチマテリアルライフルに匹敵するほど長い。更に殺傷力も非常に高い代物だが、コストが非常に高いという欠点がある。

 

 使用する弾薬は、.408チェイ・タック弾だ。

 

 非常にコストが高いため、転生者の能力でも生産に必要なポイントはスナイパーライフルの中でも最も高くなっている。そのため兵士たちに装備や銃をしっかりと支給しなければならないブラドでも、数丁しか用意する余裕がない。

 

 アリーシャにそれが支給されたのは、彼女が狙撃の訓練を受けた吸血鬼側のスナイパーであるからだろう。

 

 しかし、いくら吸血鬼たちの中でも優秀な狙撃手でも、鮮血の魔女に挑むのは無謀としか言いようがない。向こうは魔王から訓練を受けていた上に狙撃の才能があり、何度も実戦を経験しているため練度も桁違いだ。それに対し、アリーシャは現代兵器同士が戦う戦闘はこれが初陣で、まだ錬度も高いとは言えない。

 

 ここで彼女を出撃させれば、あっさりと魔女の狙撃の餌食になるのは明白である。

 

 しかしアリーシャは、黙ってライフルにマガジンを装着した。スコープの蓋を外して息を吐き、背中から蝙蝠のような翼を生やしたかと思うと、目の前に鎮座しているブレスト要塞の防壁の上へと舞い上がっていく。

 

 魔女を放置すれば、兵士たちが大きな被害を被る。この攻勢が失敗すれば、今度こそ吸血鬼たちは壊滅するだろう。

 

 そんなことになれば、ブラドたちの願いは完全に費える。

 

「安心してください、ブラド様。魔女は必ず私が討ち取ります」

 

 そう言いながら後方へと一旦戻ったブラドの顔を思い出したアリーシャは一瞬だけ微笑んだ。沈黙した要塞砲の近くに着地すると、彼女は狙撃する位置へと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エジェクション・ポートから大型の薬莢が躍り出す度に、スコープの向こうでは鮮血と肉片が混ざり合った紅い飛沫が飛び散る。胸板に大穴を開けられたり、上半身を弾丸に捥ぎ取られた死体が要塞の中に転がって、砂が満たしている大地を上書きしようとしているようにも見える。

 

 ガンポッドとターレットの機銃掃射や、スタブウイングのロケットポッドが吐き出すロケット弾の連射の方が、多分俺よりも敵兵を殺している事だろう。14.5mm弾よりも口径の大きな弾丸が敵兵をグチャグチャにし、ロケット弾の爆風が肉や内臓を捥ぎ取る。

 

 そういう光景は、何度も目にしてきた。

 

 魔物の死体や人間の死体が転がる大地は、何度も見たのだ。

 

 前世の日本ではありえないかもしれない。けれどもこの世界は、前世の日本のように平和ではない。当たり前のように人権が存在しない奴隷たちや、平民を見下す貴族たちが存在する異世界なのだ。生き残るためには強くならなければならない。自分の大切な物や仲間を奪われる前に、こっちに敵意を向ける敵を殺して、生き残るしかない。

 

 だから俺は、大切な仲間を守るために敵を殺す。

 

 そうしなければ、仲間たちが殺されてしまうのだから。

 

 もう俺は、日本人ではない。

 

 長距離狙撃用のスコープで狙撃するには近過ぎると判断した俺は、咄嗟にそれから目を離し、ライフル本体の左斜め上に搭載されたロシア製のPEスコープを覗き込む。確かマガジンにはあと1発だけ14.5mm弾が残っていた筈だから、それを撃ち終わったらマガジンを交換しなければ。

 

 すぐに戦車のハッチから顔を出してMG3を連射している敵兵の頭を銀の14.5mm弾で吹き飛ばしてから、空になったマガジンを取り外す。通常の14.5mm弾にするべきだろうと思ったけど、レオパルトの残骸の陰に隠れていたM2ブラッドレーが顔を出したのを確認した俺は、通常のマガジンではなく、ライフル本体の左側にあるホルダーに装着されていた徹甲弾のマガジンを取り外し、ライフルに装着する。

 

 右手でコッキングレバーを引き、再装填(リロード)を済ませる。次の標的はあのM2ブラッドレーだが、いくら徹甲弾とはいえ、14.5mm弾でブラッドレーを撃破するのは困難だ。

 

 だから、撃破するのではなく無力化する。

 

 ヘリを撃墜するつもりなのか、ブラッドレーが機関砲の砲身をこっちへと向けてくる。その機関砲の砲身へと照準を合わせ、敵がこっちを蜂の巣にする前にトリガーを引く。

 

 深紅のラインが刻まれた徹甲弾のマガジンから解き放たれた1発の弾丸が、自分が生み出した轟音とマズルブレーキを置き去りにして、標的へと向かって疾走していく。その1発の徹甲弾は、まだ砲身をこっちに向けている最中だったブラッドレーへと急接近すると、ブラッドレーの機関砲の砲身へと命中した。

 

 確かに、徹甲弾でも装甲車の装甲を貫通して撃破するのは難しいだろう。そのように戦車や装甲車を木っ端微塵にするのは、ロケットランチャーの役割なのだ。銃弾が装甲を貫通して敵の兵器を撃破するのは、第二次世界大戦で終わったのである。

 

 徹甲弾を叩き込まれた砲身が折れ曲がり、射撃不能になる。慌てて後退を始めるブラッドレーだが、どうやらガンナーを担当するイリナがブラッドレーに気付いたらしく、機首の機関砲をブラッドレーへと向けて連射し始めた。

 

 息を吐きながら次の標的を探そうと思った瞬間、ヘリの機内を電子音が支配する。

 

「どうした?」

 

『レーダー照射です。敵機にロックオンされています』

 

『フレア!』

 

 くそ、上空の戦闘機がこのヘリに気付いたか…………!?

 

 舌打ちをしながらスコープから目を離すと同時に、スーパーハインドが旋回しながらフレアを吐き出す。夜空に向かってばら撒かれたフレアの群れは、まるで新しい星のように煌きながらゆっくりと落下していった。

 

 そのフレアの群れの周囲を掠めていったのは――――――――2発の、荒々しい空対空ミサイル。

 

 ミサイルが飛来した方向にライフルを向け、スコープを覗き込む。敵の戦闘機がこっちの航空隊と交戦しているのはもっと上空だ。つまりあのミサイルを放った敵機は、増援という事なのだろうか。

 

 対空用の装備も搭載すればよかったと後悔しながらスコープを覗き込んだ俺は、レティクルの向こうから飛来してくる戦闘機の姿を目にした瞬間、歯を食いしばった。

 

 敵の戦闘機はラファールらしいが、今しがたミサイルをぶっ放してきたのはラファールではない。

 

 F-22を彷彿とさせる主翼が特徴的だ。最初はF-22がやってきたのかと思ってぞっとしたが、F-22にしては尾翼が見当たらない。まるで尾翼を更に上へと傾け、2つの垂直尾翼を取り外してしまったような形状である。

 

 あれはF-22ではない…………!

 

「くそったれ、『YF-23』だッ!!」

 

 俺たちのヘリに襲い掛かってきたのは――――――――アメリカで開発された、YF-23と呼ばれるステルス機だった。

 

 

 


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