異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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もう1人の狙撃手

 

 瓦礫の山と死体の群れの周囲に転がるのは、無数の薬莢たち。テンプル騎士団で使用されている7.62mm弾の薬莢だけでなく、12.7mm弾や14.5mm弾で使用する大きな薬莢も含まれていて、まだ身に纏っている熱を放出し続けている。

 

 砂漠の冷たい風に冷やされ続けても、必死に熱を発し続ける薬莢たち。砂漠の気温に立ち向かう薬莢たちと同じように、それらの周囲では傷だらけの兵士たちが、要塞の中へと攻め込んできた無数の戦車や吸血鬼の兵士たちへと反撃を続けていた。

 

 倒壊した管制塔を盾にしながら、突っ込んでくる突撃歩兵をLMGで薙ぎ払うテンプル騎士団の兵士たち。砂埃や鮮血で汚れた制服を身に纏う彼らは傷だらけで、中には破片で片方の目が潰れてしまっている兵士も含まれている。

 

 エリクサーのおかげで傷のない兵士もいるが、回復アイテムで治療することができた兵士はごく僅かだ。大半は回復アイテムが行き渡らず、非常用の包帯を傷口に巻き付けるか、自分の制服を破いて包帯代わりにしている兵士が殆どである。

 

「12時方向、また突撃歩兵!」

 

「くそ、もう弾が…………ッ! おい、誰か! 弾は余ってないか!?」

 

「使え、同志!」

 

 弾薬がたっぷりと入った箱の中からマガジンを取り出したハーフエルフの兵士が、7.62mm弾を使用できるように改造されたRPK-12で弾幕を張り続けていた兵士にマガジンを渡す。

 

 吸血鬼たちによる砲撃で要塞には大穴が空き、地上に展開していた守備隊は壊滅状態に陥っていた。しかもその砲撃による衝撃波で通信設備にも動作異常が生じており、タンプル搭に増援を要請することも不可能な状態に陥っている。負傷兵の数も多く、戦車も大半が撃破されてしまっており、敵部隊を突破して要塞を放棄し、離脱することもできない状態であった。

 

 戦闘の序盤で飛行場も破壊されてしまっており、航空部隊も出撃させることはできない。要塞の上空では未だに航空部隊が奮戦しているものの、航空部隊は殆どが対空用の装備を搭載した戦闘機ばかりである。対地攻撃用の爆弾や対戦車ミサイルを装備していないため、航空支援を受けることもほぼ不可能である。

 

 敵の砲撃によって武器庫も埋まってしまっており、弾薬の数も少ない。それに対して敵は身体能力の高い吸血鬼のみで構成された精鋭部隊で、士気は非常に高い。

 

 練度で劣る上に士気まで低く、増援部隊も要請できない守備隊が壊滅するのは、時間の問題であった。

 

 それでも生き残った守備隊の兵士たちは、まだ使える武器を必死に探し出して装備し、応戦を続けていた。

 

 ここが突破されれば、タンプル搭への攻撃を許すことになる。ブレスト要塞にも民間人や兵士たちの家族が住む居住区はあったが、そこに住んでいた家族たちは安全なタンプル搭へと避難しており、要塞には残ってはいない。

 

 彼らにとっては家族を巻き込むことはないのだが、ここを突破されるという事は、今度こそ家族が吸血鬼たちによって皆殺しにされる可能性があることを意味していた。

 

 それゆえに、生き残った守備隊は必死だった。

 

 大切な家族や、恋人たちを守るために。

 

「撃ちまくれ!」

 

「くそ、ジョナサンがやられた!」

 

「エリック、射手代われッ!!」

 

 吸血鬼が放った銃弾で額を貫かれたエルフの兵士の代わりに、彼よりもまだ若いハーフエルフの兵士がRPK-12のグリップを握る。訓練通りに重傷をしっかりと肩に当て、ブースターとホロサイトを覗き込んでトリガーを引く。

 

 今しがた先輩(ジョナサン)の額を撃ち抜いた吸血鬼の兵士が、主翼を叩き折られた状態で滑走路の上に転がっているSu-35の陰に隠れるよりも先に、銀の7.62mm弾のフルオート射撃が吸血鬼の肉体をズタズタにする。大口径の弾丸たちに手足を抉られた吸血鬼の兵士は、傷口を再生することなく崩れ落ちると、ヴリシア語で仲間たちに向かって叫んでから動かなくなった。

 

 彼を撃ち殺したエリックは、その兵士は最後に何と言ったのだろうかと考え始める。仲間たちに「構うな」と言ったのだろうか。それとも、死ぬ前に仲間たちに指示を出したのだろうか。

 

 殺したのだ。数秒前に、敵がジョナサンを殺したように。

 

 自分も敵を殺した。

 

「エリック、しっかりしろ!」

 

「!」

 

 倒壊した管制塔の陰に隠れていた彼の傍らに、敵の放った5.56mm弾や6.8mm弾が着弾する。咄嗟にRPK-12から手を離して屈みつつ、懐から手榴弾を取り出す。普通の対人用の手榴弾ではなく、内部に銀の破片や水銀を充填した”対吸血鬼用手榴弾”だ。

 

 炸薬の量は通常の手榴弾と比べると減少しているものの、起爆した瞬間の衝撃波によってばら撒かれる水銀は、吸血鬼が苦手とする銀の斬撃となって周囲の物体を切り刻む。更に銀の破片まで被弾するため、相手が吸血鬼であるのであればこれ以上ないほど凶悪な武器となる。

 

 22年前にレリエル・クロフォードと交戦したモリガンの傭兵たちが編み出した、対吸血鬼用の兵器の1つだ。

 

 それから安全ピンを抜いたエリックは、息を吐いてから残骸の向こうへとそれを放り投げた。

 

 管制塔の向こうから、ドイツ語にそっくりな語感が特徴的なヴリシア語の悲鳴が聞こえてくる。その悲鳴が聞こえなくなると同時に、まるで取って代わろうとしているかのように爆音が響き渡り、管制塔の残骸に着弾した銃弾が発する跳弾の音が一時的に聞こえなくなる。

 

 すぐに立ち上がり、再びRPK-12のグリップを握る。ホロサイトを覗き込むと、そのレティクルの向こうには手足を失った吸血鬼たちや、腹から内臓が飛び出している吸血鬼たちが転がっており、呻き声を上げているところだった。

 

「エリック、よくやった!」

 

「よく…………やった………?」

 

 彼は、手榴弾を放り投げただけだ。

 

 その手榴弾が生み出した水銀の刃と銀の破片が、吸血鬼たちの手足を切り落とし、腹に大穴を開けて、人間と全く同じ形状の内臓を飛び出させただけである。

 

 彼らに苦痛を与えたのが、自分だ。

 

(お、俺が…………!?)

 

「くそったれ…………正門から戦車ッ! でかいぞ!」

 

「ッ!」

 

 異世界で生み出された”戦車”という兵器は、凄まじい攻撃力と防御力を兼ね備えた怪物である。遠距離の敵を瞬く間に蜂の巣にしてしまう銃ですら全く通用しない怪物に、自分の持っている得物が通用するわけがない。

 

 しかし、エリックは正門へとRPK-12を向けた。

 

 敵の砲弾によって木っ端微塵にされた門を、巨大なキャタピラで踏みつけながら要塞の中へと入ってくる怪物。カーキ色で塗装された分厚い装甲と、戦艦に搭載していたものをそのまま車体の上に乗せたのではないかと思えるほど巨大な砲塔。それから突き出ているのは、あらゆる装甲を撃ち抜く160mm滑腔砲の武骨な砲身と、接近する歩兵たちを瞬く間に木っ端微塵にする75mm速射砲の短い砲身。

 

 かつてドイツ軍が開発していた超重戦車に、吸血鬼側の転生者(ブラド)が近代化改修を施した超重戦車。最新型の戦車の主砲を分厚い装甲で防ぎ、巨大な砲身から放つ一撃で全ての戦車をスクラップにする巨人が、ゆっくりと要塞の中へと入り込んできたのである。

 

「ろ、ロケットランチャーは!?」

 

「ダメだ、武器庫の中にあるが、瓦礫のせいで取りに行けない!」

 

「くそったれ…………!」

 

 もし仮にロケットランチャーがあったとしても、あの怪物の装甲を形成炸薬(HEAT)弾で穿つのは不可能であったことだろう。正面装甲どころか側面の装甲に戦車がAPFSDSを放ったとしても、貫通させることができないほどの防御力を誇る存在なのだから。

 

 戦車部隊も先ほどまでは奮戦していたが、もうすでに壊滅してしまっている。周辺の前哨基地からも戦車部隊が出撃したという話を聞いていたが、その話を聞いたのはもう1時間以上前だ。要塞にやってくる前に敵の戦車部隊と遭遇してやられてしまったのだろうか。

 

 超重戦車(マウス)の巨大な砲塔が、ゆっくりと旋回を始める。それを睨みつけながら、エリックはRPK-12のトリガーを引いた。

 

 7.62mm弾が通用しないのは分かっている。けれども、もう要塞からは逃げられない。奮戦するための武器も瓦礫のせいで埋まっており、敵部隊をここで壊滅させることもできない。

 

 足掻き続けてから、敵に殺されるしかないのだ。

 

 タンプル搭へと避難した恋人の事を思い出し、雄叫びを上げながらエリックはトリガーを引き続けた。マウスの装甲に命中した弾丸たちが跳弾する音を発しながら、無数の火花を生み出して弾かれていく。

 

 風穴が開くわけがない。

 

 数秒後に、エリックはあの巨大な戦車砲に吹っ飛ばされ、木っ端微塵にされてしまうのだ。

 

 そう思いながらもトリガーを引き続けていた彼だったが―――――――戦車砲が火を噴くよりも先に、巨大な砲塔の上に居座っていたアクティブ防御システムのターレットから火花が散ったかと思うと、対戦車ミサイルを迎撃するために搭載されていたそれが黒煙を吹き上げ、機能を停止してしまう。

 

「え―――――――?」

 

 故障だろうかと思った直後、今度はキャタピラの音をかき消そうとしているかのように、ヘリのローターが発する轟音が夜空を支配し始める。

 

 要塞から吹き上がる黒煙に大穴を穿ち、ローターの轟音で要塞の上空を支配しながら姿を現したのは―――――――テンプル騎士団が正式採用している、重装備の戦闘ヘリであった。

 

 古めかしい大型の爆撃機の胴体を縮め、主翼の代わりにこれでもかというほど武装を搭載したスタブウイングを搭載して、機首にセンサーと機関砲を搭載した大型のターレットを吊るしたような外見のヘリは、高度をやや落としたかと思うと、機首のターレットから機関砲を吐き出し始める。

 

 マウスの周囲で銃撃を続けていた兵士たちが、瞬く間に砲弾の群れの中に呑み込まれた。装甲車の装甲すら貫通してしまうほどの威力を誇る砲弾は被弾した吸血鬼たちの肉体を粉々にし、彼らの内臓や肉片で要塞の滑走路を染め上げていく。

 

 超重戦車にも機関砲の砲弾は襲い掛かったが、さすがに大口径の機関砲でも、その怪物の装甲は貫通できない。

 

 しかし――――――――テンプル騎士団のエンブレムが描かれた戦闘ヘリ(スーパーハインド)は、しっかりと戦車を撃破するための”矛”も搭載していた。

 

 様々な武装が搭載されたスタブウイングから、武骨な対戦車ミサイルが切り離される。エンジンから炎を吐き出して加速し始めたその対戦車ミサイルは、機関砲の砲弾を弾き続けながら進撃していたマウスの車体の後部を直撃すると、圧倒的な破壊力でマウスのエンジンを破壊し、超重戦車を擱座させてしまう。

 

「あ、あれは…………スーパーハインド…………!?」

 

「どうしてここに…………!?」

 

 要塞のヘリポートは破壊されており、格納庫の中にある筈のカサートカやスーパーハインドは全て台無しになった筈である。だから、あのスーパーハインドはブレスト要塞の物ではない。

 

 他の拠点から救援に来てくれたのだろうかと思いながら、エリックは上空で旋回するスーパーハインドを見上げた。マウスの弱点に対戦車ミサイルを叩き込み、一撃で擱座させたスーパーハインドへと吸血鬼たちの銃弾が放たれるが、分厚い装甲を持つスーパーハインドは5.56mm弾が立て続けに被弾しても意に介さず、ターレットの機関砲とスタブウイングのガンポッドから放たれる機関砲で、逆に吸血鬼の歩兵たちを蜂の巣にしていく。

 

『―――――――こちら”ジェド・マロース”。同志諸君、応答せよ』

 

「こ、こちら守備隊。どうぞ」

 

 無線機から聞こえてきたのは、少女のような声だった。しかし、可愛らしいというよりも勇ましい兵士の声にも聞こえる、気の強そうな声である。

 

 守備隊の兵士たちは、以前にその声を聴いていた。

 

 その声は、彼らが所属するテンプル騎士団の団長の声であった。

 

『よく頑張ってくれた。だが、これ以上の奮戦は必要ない。残存兵力を集め、要塞から離脱せよ。こちらは上空から援護する』

 

「団長…………!」

 

 助けに来てくれたのは、テンプル騎士団の団長だったのである。

 

 普通の指揮官なのであれば、指令室の中で指揮を執る筈だ。だというのに、テンプル騎士団の総大将は指揮を執りながら、要塞の守備隊のためにヘリに乗り込み、援護しに来てくれたのである。

 

「おい、残存兵力を集めろ! 離脱するぞ!」

 

「りょ、了解!」

 

 RPK-12のフルオート射撃でまだ残っている敵兵に掃射をお見舞いしてから、エリックもその場を離れ、負傷兵たちが集まっている区画へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵員室の中で、長大な得物のスコープを覗き込みながら、要塞の様子を確認する。

 

 防壁の一部は倒壊して敵の突破口と化しており、正門も砲撃で破壊されている。要塞の周囲にあった筈の塹壕はすっかり壊滅していて、無数の吸血鬼や味方の死体によって埋め尽くされていた。

 

 要塞の飛行場の滑走路には大穴が開いており、管制塔も倒壊している。けれども、それよりも大きな穴が要塞のほぼ中心に開けられていることに気付いた俺は、スコープを覗き込んだまま息を呑んでしまう。

 

 ―――――――要塞が応答しなくなった原因は、これか。

 

 その大穴は、明らかに艦砲射撃や戦車の砲撃によって開けられたものではない。ジャック・ド・モレーの40cm砲や、戦艦大和の46cm砲の砲撃でもこんな大穴を開けることは困難だろう。さすがにタンプル砲の破壊力よりは下かもしれないが、これは”艦砲射撃”なのだろうか。

 

 敵のミサイルか? それども、砲撃なのか?

 

 もし砲撃なのだとしたら、かなり巨大な兵器を用意する必要がある。

 

 こんな大穴を開けられる巨大兵器の事を考えようと思ったが、偵察部隊を派遣すればすぐにこんなでっかい穴を開けた敵の正体は判明するだろう。今は守備隊を撤退させる必要がある。

 

 旋回を終えたスーパーハインドが、機関砲を掃射しつつ前進していく。兵員室の中でOSV-96を構えたまま、でっかいT字型のマズルブレーキが搭載された銃口を機体の外に晒し、こっちに機関銃を向けている敵兵へと照準を合わせた。

 

 レティクルが揺れる。地上での狙撃ならば、バイポッドを展開しながら伏せて狙撃すれば簡単に敵兵を射抜けるのだが、ヘリの中で長大なロシア製アンチマテリアルライフルのバイポッドを展開し、そのまま伏せて狙撃するわけにはいかない。より大口径の弾丸を使用するために銃身を延長したことで、旧式の対戦車ライフルに匹敵するサイズになってしまったせいで小回りが利かなくなってしまったが、こいつは何度も使った得物だ。

 

 息を吐き、レティクルを少しばかり左にずらす。相変わらず銃身が揺れるが、多分狙撃は命中するだろう。

 

『タクヤ、やれる?』

 

「当たり前だ」

 

 テンプル騎士団の中で最強の狙撃手は、間違いなくラウラだろう。才能と能力をフル活用した彼女ならば、飛んでいる弾丸を真横から狙撃して叩き落すことも可能だ。

 

 けれども、俺も親父から訓練を受けた狙撃手の1人なのである。最近はアサルトライフルを装備して突っ込んだり、ナイフやスコップを使って白兵戦をすることが多いが、あくまでも”本職”は狙撃なのだ。

 

 息を呑んで、もう一度レティクルを注視する。

 

 ヘリの”揺れ方”は把握した。

 

 相変わらず揺れるレティクルを睨みつけながら―――――――トリガーを引く。

 

 T字型のマズルブレーキから溢れ出たマズルフラッシュが、瞬く間に冷たい風にかき消されていく。けれどもそこから放たれた1発の14.5mm弾は微かに炎を纏いながら飛んで行き、ヘリを叩き落すために機関銃を撃ち続ける敵兵へと襲い掛かる。

 

 エジェクション・ポートから煙と熱を纏ったでっかい薬莢が落下し、メインローターの音の中で小さな金属音を奏でると同時に、機関銃を撃ち続けていた敵兵の胸板に大穴が空いた。

 

 胸骨もろとも心臓や肺を抉り取られた挙句、背骨の一部まで吹き飛ばされた敵兵は、弾丸が纏っていた猛烈な運動エネルギーに突き飛ばされ、後方に置いてあった要塞の土嚢袋の山に激突して動かなくなった。

 

「命中」

 

『嘘でしょ!?』

 

『イリナ、タクヤを舐め過ぎです。タクヤも優秀な狙撃手なのですよ?』

 

『そ、そうだったんだ…………』

 

 ラウラが戦果をあげすぎてるせいで、俺も狙撃手の1人であるという事を知っている団員は結構少ない。旅をしてきた本隊のメンバーですら、俺が狙撃手であるという事を知らない奴もいるほどだ。

 

 苦笑いしながら、俺は次の標的を探し始めるのだった。

 

 

 

 


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