異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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アーサー隊が出撃するとこうなる

 

 タンプル搭の地下にある軍港で、巨大な主砲を持つ怪物がゆっくりと動き始める。

 

 ダークブルー、ライトブルー、グレーの3色で洋上迷彩に塗装された巨体の上には、巨大な3連装40cm砲だけではなく、対艦ミサイルを4発も装填可能な4連装キャニスターがずらりと並び、連装型の副砲や対空ミサイルなどの兵器がこれでもかというほど装備されている。

 

 大昔の戦艦に最新の装備を搭載し、近代化改修を施されたその怪物は、ヴリシアで勃発した第二次転生者戦争で大きな戦果をあげたテンプル騎士団の力の象徴である。

 

 停泊していた軍港からゆっくりと動き出した戦艦ジャック・ド・モレーの艦橋で、艦長を務める『イワン・ブルシーロフ』大佐は軍港で手を振る整備兵たちに手を振り、巨大な洞窟の中に作られた軍港の出口へと進んでいくジャック・ド・モレーの艦首を見つめた。

 

 新型のイージス艦や駆逐艦に搭載されているような武装がずらりと甲板の上に並んでいるが、やはり一番目立つのは、甲板の上に2基も並んでいる3連装40cm砲だろう。後部甲板にも同じ砲塔が1基搭載されている上に、合計で40発も対艦ミサイルを発射可能なキャニスターまで併せ持つこの超弩級戦艦は、テンプル騎士団が保有する戦艦の中でも最も高い攻撃力を誇る。

 

 停泊していたウダロイ級駆逐艦やソヴレメンヌイ級駆逐艦も動き出し、まるでジャック・ド・モレーを先導するかのように洞窟の出口へと進んでいく。

 

「艦長、『ソビエツキー・ソユーズ級』が出航します」

 

「よろしい。軍港を出たら、戦艦は訓練通りに単縦陣だ」

 

「了解(ダー)」

 

 タンプル搭の軍港の外に続く河は、超弩級戦艦が並走できるほどの幅がある上に、潜水艦が潜航したまま軍港に入港できるほどの水深がある。しかし、艦隊が出撃する際に超弩級戦艦が並走すれば、駆逐艦や巡洋艦などの比較的小型の艦艇の進路を塞いでしまうので、テンプル騎士団海軍では軍港の外の河を複数の超弩級戦艦で航行する場合は、友軍の進路を開けておくためにも必ず単縦陣で航行するように訓練している。

 

 複数の駆逐艦や、対艦ミサイルの入ったキャニスターをこれでもかというほど搭載しているスラヴァ級巡洋艦が航行する後を進むジャック・ド・モレーの後方を、他の艦よりも巨大な超弩級戦艦が航行する。

 

 傍から見ればジャック・ド・モレーの同型艦にも見えるが、ジャック・ド・モレーは1隻のみ。テンプル騎士団艦隊の旗艦に”同型艦(姉妹)”は存在しないのだ。

 

 ジャック・ド・モレーの後に続くのは、第二次世界大戦中にソ連軍で建造されていた『ソビエツキー・ソユーズ級』戦艦である。24号計画艦(ジャック・ド・モレー)と同じく3連装40cm砲を3基装備する超弩級戦艦であるが、1隻も完成する前に建造が中止されてしまったため、実戦投入どころか航海も経験したことのない戦艦である。

 

 テンプル騎士団では、そのソビエツキー・ソユーズ級にも近代化改修を施し、『ソビエツキー・ソユーズ』、『ソビエツカヤ・ウクライナ』、『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』、『ソビエツカヤ・ロシア』の4隻を運用している。魔物の掃討や海賊の討伐などを担当している戦艦なのだが、普段の任務で出撃する海域が違うためか、4隻の塗装はバラバラだ。ジャック・ド・モレーにそっくりな塗装の艦だけでなく、ダズル迷彩を施されている艦もある。

 

 こちらも対艦ミサイルを装填したキャニスターを合計で8基搭載しており、攻撃力は非常に高い。しかし対潜用の装備が少ない上に小回りが利かないため、駆逐艦の護衛が必要となる。

 

 この5隻だけでも、敵艦隊をあっという間に海の藻屑にするほどの火力があるが、出航したソビエツキー・ソユーズ級の後方に、更に複数の超弩級戦艦が続く。

 

 ソビエツキー・ソユーズ級の四番艦『ソビエツカヤ・ロシア』の後に続くのは、ロシア帝国が建造した『インペラトリッツァ・マリーヤ級』。かなり旧式の艦であるため、こちらもかなりの近代化改修を受けている。

 

 本来ならば前部甲板と後部甲板に1基ずつ3連装30cm砲を搭載し、艦橋や煙突の間にも同型の主砲を搭載していたのだが、煙突と艦橋の間に装備されていた主砲は一旦撤去されている。艦橋はソヴレメンヌイ級と同じ艦橋へと変更され、そのまま船体中央部へと寄せられており、前部甲板と後部甲板に3連装30cm砲を2基ずつ搭載するように変更されている。艦橋や煙突の脇には、対空用のコールチクや対艦ミサイルを装填したキャニスターが並んでいる。

 

 テンプル騎士団では、インペラトリッツァ・マリーヤ級は『インペラトリッツァ・マリーヤ』、『インペラトリッツァ・エカテリーナ2世』、『インペラートル・アレクサンドル3世』の3隻を運用しており、主に海賊の殲滅や地上部隊を支援するための艦砲射撃などに投入している。

 

 同じく軍港から出航し、インペラトリッツァ・マリーヤ級の3番艦『インペラートル・アレクサンドル3世』の後方に続くのは、ロシア帝国が建造した『ガングート級』戦艦たちだった。

 

 インペラトリッツァ・マリーヤ級よりも前に産声を上げた戦艦であり、テンプル騎士団が保有する戦艦の中では最も古い戦艦である。こちらもインペラトリッツァ・マリーヤ級のように艦橋と煙突の間に30cm砲を搭載していたのだが、近代化改修を受けた際に4基の主砲のうち2基は撤去されており、その代わりにヘリを搭載するための格納庫とヘリポートを後部甲板の主砲と艦橋の間に搭載されている。

 

 主砲である3連装30cm砲はたった2基に減ってしまったものの、他の戦艦とは違ってヘリを搭載しているため、汎用性は高くなっている。また、他の戦艦と同じく対艦ミサイルを装填した4連装キャニスターを艦橋の左右に2基ずつ搭載している。

 

 運用されているのは、『ガングート』、『マラート』、『ポルタワ』、『セバストーポリ』の4隻。こちらもインペラトリッツァ・マリーヤ級と同じく艦砲射撃による地上部隊の支援に投入されているが、乗組員たちの訓練にも使用されている艦でもある。

 

 合計で12隻の近代化改修を受けたロシアの戦艦たちが、駆逐艦や巡洋艦の群れと共にタンプル搭の軍港から出撃していく。テンプル騎士団が保有する戦艦を全て投入する戦いは、この吸血鬼たちの春季攻勢が初めてであった。

 

 軍港を後にした艦隊に与えられた任務は、ブレスト要塞を砲撃していると思われる超重戦車や砲兵隊の撃滅と、艦砲射撃による地上部隊の支援。もし敵艦隊がウィルバー海峡に展開しているのであれば、そのまま海峡へと出て敵艦隊を撃滅する事であった。

 

 洞窟の外には、超弩級戦艦が並走できるほど広い河が広がっており、その上には無数の星を引き連れた三日月が鎮座している。けれども砂漠の向こうからは爆音が轟いており、安堵しながら見つめることのできる光景ではない。

 

 この爆音さえなければ最高だろうと思いながら、ブルシーロフ大佐は溜息をついた。彼はヴリシアの戦いでもこのジャック・ド・モレーに乗り込んでおり、CICでオペレーターの1人としてあの激戦を経験していたのである。

 

「全艦、軍港を離れました」

 

「分かった。全艦、第二戦速。まずはブレストの支援に向かう」

 

「了解(ダー)。全艦、第二戦速」

 

 乗組員たちが復唱し、機関室で作業を続ける乗組員たちも復唱する。少しばかり経ってからジャック・ド・モレーの速度が上がり始め、艦橋の窓から流れ込んでくる風の勢いが強くなり始めた。

 

「よし、私はそろそろCICに行く。全艦、戦闘準備」

 

「了解(ダー)。全艦、戦闘準備」

 

 乗組員たちが復唱した直後、艦橋の中に警報が鳴り響く。甲板の上で作業していた乗組員たちが急に慌ただしく走り回り始めたのを艦橋から見守ってから、ブルシーロフ大佐はジャック・ド・モレーのCICへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は地下にある飛行場に違和感しか感じなかったが、もう慣れてしまった。

 

 照明で照らされた薄暗い格納庫の中でHMD(ヘッドマウントディスプレイ)や酸素マスクを身につけ、自分の機体へと向かう。もう既に出撃命令を受けたSu-35たちが、エンジンから轟音を発しながら、作業員に誘導されて滑走路の方へとゆっくり移動を始めている。

 

 格納庫の中に鎮座しているのは、5機のユーロファイター・タイフーン。主翼と垂直尾翼の先端部のみを深紅に塗装され、それ以外の部位は真っ黒に塗装されている。禍々しい塗装を施された機体の主翼と垂直尾翼には、アーサー隊のエンブレムである”岩に刺さったエクスカリバーと純白の翼”が描かれている。

 

 キャノピーへと続くタラップを上り、コクピットの座席に腰を下ろす。キャノピーを閉じる前に素早く機器をチェックし、異常がないか確認しておく。すると女性の整備兵がタラップを上がってきて、「整備は完璧です。ただ、無茶はしないでくださいね」と言ってくれた。

 

 俺よりも年下だろうか。オイルで少しばかり汚れた金髪の中からは長い耳が伸びていて、エルフだという事が分かる。彼女はにっこりと微笑みながら搭載されている武装について説明した後に、タラップを降りようとした。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「その…………関係ない話なんだが、君の名前は?」

 

「アンジェラです、同志アルフォンス。よろしくお願いしますね」

 

「アンジェラか…………Danke(ありがとう)」

 

 綺麗な子だなぁ…………。

 

 下を向きながらニヤニヤしているうちに、アンジェラはタラップを降りてしまった。機体に掛けられていたタラップが外されたのを確認してから、キャノピーを閉じて出撃準備に入る。

 

 テンプル騎士団の兵士や整備兵たちの大半は、彼らによって保護された奴隷たちだったらしい。この世界では奴隷が売買されているのは当たり前のことで、大都市の貴族たちは奴隷たちに過酷な労働をさせているという。

 

 前世の世界では考えられない事だ。

 

 とはいえ、団長(タクヤ)の父親たちの努力のおかげで、段々と奴隷を開放するべきだという意見が増えつつあるらしい。このまま勢いを増せば、いずれ奴隷たちは完全に解放されることだろう。

 

 そうすれば、苦しむ人々はいなくなる。

 

『隊長、何でニヤニヤしてたんです?』

 

 深呼吸していると、無線機から楽しそうな声が聞こえてきた。ぎょっとして隣のユーロファイター・タイフーンを見てみると、隊員の1人がこっちを見つめながらニヤニヤ笑っているのが見えた。もしかすると、さっきアンジェラと話した後にニヤニヤしていたのを見られてしまったのかもしれない。

 

 最悪だな…………。

 

「何でもない、アーサー2」

 

『アンジェラちゃんって可愛いですよね』

 

「…………そ、そうだな」

 

 あとで一緒に食事してみたいものだ。帰還したら声をかけてみようか。

 

『でも、隊長ってシュタージのクラン大佐と幼馴染なんですよね?』

 

「何言ってんだ。クーちゃんにはケーターとかいう男がいるんだぞ? 他の男から女を奪う勇気はない」

 

 それに、クーちゃんはケーターの奴に惚れてるみたいだからな。小さい頃は彼女にお世話になったし、俺は彼女を応援することにするさ。恩返ししないといけないし。

 

 幼少の頃、俺はよく虐められてたんだ。でも、いつもクーちゃんが身体のでかいクソガキ共をボコボコにして、俺を助けてくれた。ちょっと情けないかもしれないけど、俺は強い彼女に憧れてたんだ。

 

 けれどもいつまでも彼女に守られているわけにもいかないから、ラグビーで身体を鍛えることにした。おかげで身体がでかくなっちまったけどね。こんな体格になってしまったからなのか、俺が虐められていたという事を誰も信じてくれない。

 

 多分、それを知っているのはクーちゃんだけだろう。

 

『こちら管制室。アーサー隊、滑走路へ』

 

「了解(ダー)」

 

 さっきのSu-35たちが全て飛び立ったのだろう。管制室からの報告を聞いた俺は、機体の前に誘導を担当する作業員がやってきてくれたことを確認してから、機体をゆっくりと滑走路の方へと進ませる。

 

 目的はブレスト要塞を攻撃する敵部隊の撃滅。とはいえ俺たちの相手は地上の戦車ではなく、敵が出撃させたヘリや戦闘機たちだ。そのため、武装は対空用のミサイルとリボルバーカノンのみ。

 

 隔壁が開き、その向こうに伸びる広い滑走路があらわになる。壁にはやけに明るい誘導灯がいくつも埋め込まれていて、左側にある壁の上には、戦闘機の離着陸を見守る管制室の窓が見える。窓の向こうでは様々な種族のオペレーターたちが航空隊に指示を出しているらしい。

 

 滑走路の出口はアドミラル・クズネツォフ級のスキージャンプ甲板のようになっており、そのまま地上へ繋がっている。着陸する時はそのまま逆方向から着艦することになるので、このタンプル搭の飛行場は着陸の難易度が非常に高いのだ。この滑走路に降り立つのが苦手なパイロットたちが、他の拠点への異動を希望することもあるという。

 

 そろそろ俺たちも離陸だな。撃墜されないように気を付けないと。

 

 目標は、第二次世界大戦でスピットファイアを血祭りにあげた祖父さんの戦果を超える事だ。機首を撃墜マークだらけにして、あの世にいる祖父さんをびっくりさせてやる。

 

 そう思いながら、誘導してくれた作業員へと手を振る。するとその作業員は顔を上げ、コクピットの中にいる俺に向かってウインクしてくれた。

 

 誘導してくれたのは、アンジェラだったのである。

 

「…………最高だな」

 

『隊長、またニヤニヤしてません?』

 

「してますよー」

 

 苦笑いしながらそう言って、滑走路の向こうを睨みつける。

 

 今までの敵は飛竜どもだったが、今度の敵は戦闘機だ。パイロットは人間よりも身体能力がはるかに高い吸血鬼たち。しかも、ヴリシアとかいう国で戦った時の生き残りらしい。練度では間違いなく俺たちよりも上だろう。

 

 面白いじゃないか。

 

 祖父さんがスピットファイアを血祭りにあげたように、俺も吸血鬼共を血祭りにあげてやる…………!

 

『アーサー隊、離陸を許可します。幸運を』

 

「了解。アーサー隊、出撃する」

 

 アンジェラが滑走路から退避したのを確認してから、俺はユーロファイター・タイフーンを加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の航空部隊です!」

 

 オペレーターからの報告を聞いた瞬間、ブレスト要塞の指揮を執るラフチェンコ少将は絶句した。すでに塹壕は完全に壊滅しており、吸血鬼たちの突撃歩兵や戦車部隊が要塞へと接近しつつある。シャール2Cが奮戦してくれているおかげで敵の進撃速度は落ちているものの、敵の集中攻撃で”ピカルディー”が戦闘不能になるのも時間の問題だ。

 

 更に、遠距離からの敵の艦砲射撃と思われる砲撃も未だに続いており、滑走路と管制塔が完全に破壊されている。要塞砲の射程距離外からの砲撃であるため、ブレスト要塞の要塞砲では一切反撃できない状態だ。

 

 現時点でも劣勢だというのに、更に敵の航空部隊が接近しているのである。

 

 まさに、ダメ押しであった。

 

 辛うじて対空火器は健在だが、滑走路と管制塔が完全に破壊されて機能を停止しており、航空部隊の出撃は不可能。タンプル搭から航空隊はすでに飛び立ったようだが、まだ到着はしていないらしい。

 

 またしても指令室が激震する。天井が砕けて降り注いでくるのではないかと思ってしまうほどの振動を感じた少将は、その振動の原因が敵の砲撃であるという事を理解していた。

 

「敵戦車部隊、防衛ラインを突破! 防壁に到達します!」

 

「要塞砲の集中砲火で食い止めろ! 防壁を突破させるな!」

 

 この状態で航空部隊による空爆を受ければ、間違いなくブレスト要塞は陥落するだろう。

 

 拳を握り締めながら、防壁へと肉薄してくる敵の反応を睨みつけていたその時だった。

 

 何の前触れもなく、接近していた航空部隊の反応が消え始めたのである。

 

「…………何事だ?」

 

『―――――――こちらアーサー隊。これより、敵部隊を迎撃する』

 

 オペレーターが報告するよりも先に、指令室の中に若い男の声が響き渡る。

 

「アーサー隊です! 精鋭部隊が救援に来てくれました!」

 

 アーサー隊は、テンプル騎士団の航空部隊の中から選抜された優秀なパイロットで構成された精鋭部隊である。主翼と垂直尾翼の先端部のみを深紅に塗装された漆黒のユーロファイター・タイフーンは、まさに”空軍の象徴”と言っても過言ではない。

 

 相手は飛竜ばかりとはいえ、パイロットは全員飛竜を50体以上も撃墜しているエースパイロットばかりだ。戦闘機同士での模擬戦でも未だに無敗のままという、優秀なパイロットたちである。

 

「よし…………ッ! 航空部隊は彼らに任せろ! 我々は地上の敵を血祭りにあげるんだ!」

 

「了解(ダー)!!」

 

 これで守備隊の士気も上がるだろうと思いながら、ラフチェンコ少将は息を吐くのであった。

 

 

 

      


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