異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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報復攻撃

 

 タンプル搭のすぐ近くには、広大な河が流れている。

 

 超弩級戦艦が並走できるほど広く、潜水艦が潜航したまま河を上れるほどの進度がある巨大な河は、そのままヴリシア帝国とフランセン共和国の間にあるウィルバー海峡へと続いており、艦隊を出撃させればすぐにウィルバー海峡へと展開させることが可能となっている。

 

 任務を終えた艦艇は、その河を上っていくことでタンプル搭の軍港へとたどり着くことができるというわけだ。河の流れは小型艦でも登れるほど緩やかなので、帰還する際でも全く問題はない。

 

 タンプル搭のある位置は砂漠の真っ只中であるが、その河の幅を広げ、岩山の中に軍港を作ることで、砂漠の真っ只中にある要塞からも容易く艦隊を出撃させることができる上に、分厚い岩盤で停泊中の艦艇を守ることができる堅牢な軍港となったのである。

 

 そこまでたどり着くことができれば、いきなり空襲を受けて艦が破壊されることもない。味方への物資の補給が安全に行えるうえに、補給も受けることができる”シェルター”なのだ。

 

「見えました、運河の入り口です」

 

 双眼鏡を覗き込む見張り員の報告を聞いた艦長は、頷いてから目の前にある地図を見上げた。このまま無事に運河の入口へと飛び込むことができれば、あとは敵の襲撃や魔物の襲撃を受けることはない。運河の中はテンプル騎士団のレーダーによってしっかりと警備されており、もし敵が入り込めば対艦ミサイルを搭載したコルベットがすぐに出撃して、勝手に入り込んできた敵を処理してくれるからだ。

 

「よし、タンプル搭に連絡して、受け入れの準備を進めてもらえ」

 

「はっ!」

 

 彼らは、殲虎公司(ジェンフーコンスー)から派遣された輸送艦隊である。2隻の輸送艦と、護衛を担当する2隻のソヴレメンヌイ級駆逐艦で構成されており、輸送艦の中には中国製の兵器や物資などが満載されている。

 

 殲虎公司側も、吸血鬼たちが春季攻勢の準備を進めているという情報はとっくにキャッチしていた。しかし、殲虎公司はまだヴリシアの戦いで大きな被害を被った部隊の再編成が済んでおらず、今回の戦いには加勢できないため、吸血鬼たちと戦うことになっているテンプル騎士団へとこうして物資や戦術の指導などの援助を積極的に行っているのである。

 

 第二次転生者戦争で何人も犠牲になってしまったものの、殲虎公司(ジェンフーコンスー)の社員の中には、第二次転生者戦争だけではなく第一次転生者戦争も経験したベテランが多いため、兵士の錬度は三大勢力の中ではトップクラスだ。

 

 現在のテンプル騎士団では、吸血鬼たちの春季攻勢に備えて人員の増強や軍拡を積極的に行っているのだが、兵士たちに新型の兵器がまだ完全に行き渡っておらず、辺境の拠点では旧式の戦車や銃を装備した兵士たちが警備を担当しているという。

 

 そのため、コストが安い中国製の兵器を採用している殲虎公司からテンプル騎士団へと兵器を供与することになったのだ。

 

 もう既に、艦橋の窓の向こうにはタンプル搭へと続く運河の入り口が見えている。このまま河を上っていけば、やがて分厚い岩盤に守られた堅牢な軍港へとたどり着くだろう。

 

 輸送艦の艦長が、運河の入り口を見つめて安堵していたその時だった。

 

『警告。こちら駆逐艦”老風(ラオフェン)”! 9時の方向より、魚雷が接近中!』

 

「!?」

 

 運河に辿り着く直前だったため、完全に油断していた。

 

 スピーカーから聞こえてきた護衛の駆逐艦からの報告を耳にした艦長は、大慌てで乗組員たちに「最大戦速! このまま運河に突っ込め!」と号令を発する。

 

 護衛の駆逐艦たちは、しっかりとレーダーで索敵を行っていた筈だ。敵が接近しているという報告がなかったという事は、今しがた魚雷を放ったのは敵の駆逐艦などではなく、海中に潜行している潜水艦という事なのだろう。

 

 当たり前だが、潜水艦はレーダーではなくソナーで探知しなければならない。しかしソヴレメンヌイ級は、同じくソ連製駆逐艦のウダロイ級と比べると対潜用の装備があまり搭載されていないため、潜水艦の襲撃を受けた際にあまり対処ができないという欠点がある。

 

「タンプル搭に救援要請! ウダロイ級の派遣を!」

 

「了解です!」

 

(くそ、なんてことだ…………運河への突入寸前に潜水艦の奇襲だと…………!?)

 

 回避するよりも、このまま速度を上げて運河へと飛び込んでしまうべきだろう。運河にさえ入ることができれば、敵の潜水艦が追撃してきたとしても、タンプル搭から出撃してきた対潜ヘリやウダロイ級の餌食になるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 逃げ切ることができれば、こちらは勝てるのである。

 

 運河の向こうを睨みつけながら軍帽をかぶり直したその時、ドン、と何かが爆発するような轟音が、輸送艦の艦橋の中へと入り込んできた。

 

「何事だ!?」

 

「くそ、老風(ラオフェン)が魚雷を喰らいました! 速度が低下しています!」

 

 はっとした艦長は、艦橋の窓から左舷を睨みつけた。輸送艦の左側を進んでいたソヴレメンヌイ級駆逐艦”老風(ラオフェン)”の船体から火柱が上がっており、甲板の上では制服に身を包んだ乗組員たちが駆け回っているのが見える。魚雷を喰らう羽目になった老風(ラオフェン)はどんどん速度を落とし始め、やがて運河へと突入していく輸送艦にすら置き去りにされてしまう。

 

 あの状態では、次の一撃で撃沈されかねない。

 

「老風(ラオフェン)、戦線離脱します!」

 

「艦長、3時方向からも魚雷! 数は2―――――――こ、今度は4時方向からも! 複数の潜水艦に狙われています!!」

 

「…………ッ!?」

 

 輸送艦隊を狙っていたのは、最初の1隻だけではなかった。

 

 魚雷が放たれたのは3時方向と4時方向。最初から、複数の潜水艦たちがこの輸送艦隊を狙っていたのである。1隻が魚雷を放ち、艦隊がその魚雷を回避した直後に残った艦が魚雷を放って確実に仕留めるという作戦だったのだろう。

 

 タンプル搭への運河の入り口で待ち構えていたという事は、狙いはタンプル搭へと物資を運び入れるための輸送艦隊に違いない。このような作戦を実行したのは、十中八九テンプル騎士団と敵対している組織に違いない。

 

(吸血鬼共め…………ッ!)

 

 おそらく、春季攻勢の前に輸送部隊を襲撃して物資の補給を妨げることで、テンプル騎士団の戦力を削ぎ落とすことが目的なのだろう。

 

 もう既に、春季攻勢の”前哨戦”は始まっていたのだ。

 

 輸送艦の船体が激震する。先ほど駆逐艦が魚雷を喰らった時よりも大きな音が艦橋を揺るがし、船体の横で生じた火柱の熱風が、艦橋へと入り込んでくる。

 

 もう逃げ切ることはできない。敵の潜水艦が猛獣の群れならば、自分たちの乗る輸送艦は傷を負った草食動物でしかないのだから。

 

 輸送艦の艦長は、歯を食いしばりながら魚雷が襲来する海の向こうを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、これで5件目だな…………ッ!」

 

 味方のウダロイ級駆逐艦に護衛されながら、傾斜した状態で軍港へとたどり着いた1隻の輸送艦の姿を見つめながら、俺は唇を噛み締めていた。

 

 吸血鬼たちの春季攻勢に備えて軍拡を進めていたのだが、テンプル騎士団ではまだ最新の兵器が辺境にある前哨基地や駐屯地にまでは行き渡っていない状況だった。彼らも春に攻め込んでくる吸血鬼たちを迎え撃つための貴重な戦力なのだから、しっかりと新しい装備を支給しなければならない。

 

 だが、その新しい装備は主力部隊に最優先で支給する必要がある。そこで同盟関係にある殲虎公司(ジェンフーコンスー)に要請し、兵器を提供してもらっていたのである。

 

 おかげで辺境の拠点にも中国製の兵器が行き渡るようになり、戦力は向上しつつあったのだが、最近はその兵器を乗せた輸送艦隊が運河の入り口付近や、ウィルバー海峡に入った瞬間に潜水艦によって襲撃を受けており、殲虎公司(ジェンフーコンスー)側にも損害が出ている。

 

 今回の輸送作戦も、予定ではソヴレメンヌイ級駆逐艦2隻と輸送艦2隻が入港する予定だったのだが、タンプル搭の軍港までたどり着いたのは、魚雷を喰らって傾斜した輸送艦が1隻のみ。同行していた3隻の艦は、運河に入る前に魚雷攻撃で轟沈してしまったという。

 

「申し訳ありません、同志タクヤ。やられてしまいました…………」

 

「いえ、気にしないでください、同志。これは運河の入り口で潜水艦を警戒していなかった我々の責任です」

 

 悔しそうな顔をしながら敬礼をする輸送艦の艦長に敬礼を返しながらそう言うと、彼は傾斜した状態で港に停泊している自分の艦を見つめながら唇を噛み締めた。何とかあの艦に搭載していた物資は無事だったが、全ての物資を無事に届けられなかったことが悔しいのだろう。

 

「潜水艦で襲撃してきたのは、おそらく吸血鬼共でしょう」

 

「そうでしょうね。攻勢前に、あなた方の戦力を削ぎ落とすつもりなのかもしれません」

 

 こうやって輸送艦を襲撃することで、タンプル搭へと送り届けられる物資はどんどん減っていく。今のテンプル騎士団は兵器だけでなく、食料も足りなくなりつつある。それに、戦闘になればエリクサーなどの回復アイテムももっと必要になるだろう。

 

 全ての兵士に5つずつエリクサーを支給できるほどの数はあるのだが、戦闘になれば5つだけでは絶対に足りなくなるだろう。もっと蓄えておく必要がある。

 

 そして物資を守るために、こっちからも護衛の駆逐艦などを派遣すれば、今度はその分タンプル搭にいる艦隊の数が減る。テンプル騎士団はモリガン・カンパニーのような大艦隊を持っているわけではないので、駆逐艦が1隻戦闘に参加できないだけでも痛手になるのだ。

 

 間違いなく、この攻撃は吸血鬼共の仕業だろう。タンプル搭へと近づく艦に対しての攻撃を実行することで、輸送艦隊を派遣する勢力にも損害を与えつつ、テンプル騎士団の戦力を削ぎ落とせるというわけだ。

 

 まるでドイツの無制限潜水艦作戦だな…………。

 

 第一次世界大戦の真っ只中に、ドイツも潜水艦でこのような作戦を実行したことがあるのだ。潜水艦で片っ端から輸送艦などを攻撃して撃沈していったが、イギリスの客船である”ルシタニア号”をその際に撃沈してしまう。このルシタニア号には、当時はまだドイツと敵対していなかったアメリカの人々も乗り込んでいたのである。

 

 最終的にアメリカも第一次世界大戦に参戦する事になり、ドイツは敗北してしまうのだ。

 

「同志」

 

「はい、何でしょうか」

 

「…………同志李風には、『仇は我らが取ります』とお伝えください」

 

「…………感謝します、同志タクヤ」

 

 これで5件目だ。今回の襲撃の生存者は何人かいるが、輸送艦と護衛の駆逐艦に乗り込んでいた乗組員たちの大半が犠牲になっている。

 

 犠牲になった彼らのためにも、そろそろ反撃するべきだろう。

 

 艦長に敬礼をしてから踵を返すと、すぐ近くにはアルフォンスがいた。

 

「なんだか、吸血鬼共は大昔のドイツ(ドイッチュラント)と同じ轍を踏むような気がする」

 

「無制限潜水艦作戦か」

 

 こいつも同じことを考えていたらしい。いくら俺たちの戦力を削ぎ落とすためとはいえ、テンプル騎士団以外の勢力の艦隊まで攻撃すれば、春季攻勢の際に敵が増えてしまうことになる。かつてのドイツも無制限潜水艦作戦でアメリカと言う敵を作ってしまうという失敗をしているのだ。

 

「安心しろ、同志アルフォンス」

 

「ん?」

 

「―――――――あいつらには、同じ轍を踏ませてやる」

 

 あとで、殲虎公司(ジェンフーコンスー)にも春季攻勢の防衛戦への参戦を打診してみよう。彼らも吸血鬼の連中に輸送艦を沈められ続けたまま高みの見物をするつもりはない筈である。

 

 もしかしたら殲虎公司(ジェンフーコンスー)も参戦してくれるかもしれない。あのPMCにはベテランの兵士が何人もいるから、練度不足も補えるはずだ。

 

 けれどもその前に――――――――こっちから報復攻撃を仕掛けておくべきだろうな。

 

 調子に乗るなよ、吸血鬼(ヴァンパイア)共…………!

 

 耳に装着していた小型の無線機のスイッチを入れながら、エレベーターへと向かって歩く。

 

「クラン?」

 

『あら、どうしたの?』

 

「輸送艦隊の一件は聞いてるな?」

 

『ええ』

 

「奴らへの報復攻撃を実施する。―――――――『タンプル砲』を使うぞ」

 

『…………あなた、正気? あれを使うの?』

 

「そうだ」

 

 タンプル砲とは、このタンプル搭の中心に鎮座しているこの要塞の”主砲”だ。今までには周囲の”副砲”ならば何度も使ったことがあるが、このタンプル砲を実際に発射したことは一度もない。

 

 トレーニングモードを使ったシミュレーションでは何度も発射しており、砲撃はすべて成功している。しかしこれは非常に扱いにくい代物である上に、発射の際の衝撃波が36cm要塞砲を遥かに上回るので、発射すれば要塞に確実に被害が出てしまう。そのため、これを使用する際は円卓の騎士全員の承認が必要になる。

 

「テンプル騎士団団長として――――――――タンプル砲による報復攻撃を申請する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がごん、と凄まじい金属音を奏でながら――――――要塞の中心に鎮座していた巨大な要塞砲が、鳴動する。

 

 このタンプル搭には、正確に言うと”塔”は1つも存在しない。けれども団員たちからタンプル”塔”と呼ばれているのは、分厚い岩山に囲まれた要塞の地上に、6門の巨大な36cm要塞砲と共に鎮座している1門の更に巨大な要塞砲が由来なのだ。

 

 遠くから見れば巨大な鋼鉄の塔にも見えるため、ここはタンプル搭と呼ばれているのである。

 

 その塔が、ついに動き出す。

 

 巨大な塔にも見えてしまうその砲身の長さは、なんと210mにも達する。がっちりとした巨大な台座だけでなく、複数の太いワイヤーや5つの武骨な支柱まで用意しなければ支えきれないほどの重量を誇る砲身には、複数の円柱状の部品が上下左右に取り付けられており、それが等間隔に8組も取り付けられている。

 

 台座や砲身の表面には、まるで大蛇を思わせるケーブルが何本もつなげられており、その周囲では防護服に身を包んだ砲兵たちが、最終チェックをしているところだった。

 

 タラップを駆け上がり、キャットウォークの上にあるレバーを倒してケーブルを砲身へと接続。大蛇のようなケーブルからしっかりと砲身に冷却液が送り込まれるかどうかを確認してから、大慌てでタラップを駆け下りていく。

 

「冷却液、準備よし!」

 

「逆流防止弁、作動正常!」

 

「全薬室オールグリーン!」

 

「よし、警報鳴らせ!! 全ての作業員は、直ちに地下へ退避!!」

 

 指揮官の命令で、防護服を身につけた作業員たちが地下へと続くエレベーターの中へと駆け込んでいく。一番最後にタンプル砲を離れた指揮官が分厚い隔壁を閉鎖し、部下たちと共に地下へと避難していく。

 

 地上に留まっていれば、タンプル砲が発射された際の衝撃波で、確実に木っ端微塵になってしまうのだから。

 

 無人になったタンプル搭の地上では、地下の管制室から操作されているタンプル砲が、寂しそうに旋回を始めていた。全長210mに達する超巨大要塞砲が、管制室にいるテンプル騎士団の団員たちの手によって、吸血鬼たちの本拠地であるディレントリア公国へと向けられていく。

 

 この要塞砲のベースとなっているのは、かつてドイツが第一次世界大戦で使用したパリ砲だけではない。第二次世界大戦で使用しようとしていた、もう1つの巨大兵器もベースになっている。

 

 もう1つのベースになった兵器は、同じくドイツが開発していた『V3 15センチ高圧ポンプ砲』と呼ばれる超巨大兵器である。

 

 『V3 15センチ高圧ポンプ砲』とは、従来の砲身よりも更に長大な砲身に、炸薬がぎっしりと収められた薬室をいくつも搭載した”多薬室砲”と呼ばれる兵器の1つである。砲弾がその薬室を通過する瞬間に薬室の中に詰め込まれた炸薬を爆発させることで、発射されていく砲弾をその爆発の勢いで更に押し出し、従来の兵器を遥かに上回る弾速で砲弾を超遠距離の標的へと撃ち込むことが可能なのである。

 

 タンプル砲は、簡単に言えばパリ砲とこの『V3 15センチ高圧ポンプ砲』を組み合わせ、そのまま大型化した超巨大要塞砲と言える。

 

 砲身の中にはライフリングは一切ない。しかし、砲撃の際には砲撃目標の周辺に偵察機を派遣して観測と砲弾の誘導を行わせるため、あくまでも要塞砲の方は正確に照準を合わせる必要はないのだ。

 

 びっしりと取り付けられた薬室の中には5回分の炸薬が内蔵されており、5発まで連続で発射可能となっている。砲弾の種類は非常に多く、一般的な榴弾や徹甲弾だけでなく、対吸血鬼用の聖水榴弾や、広範囲の敵を一瞬で消滅させることが可能なMOAB弾頭も用意されている。

 

 しかし、最も特徴的なのは、この砲身から”大陸間弾道ミサイル(ICBM)まで発射できるという点だろう。

 

 まるで戦車のガンランチャーのように、砲弾だけでなくミサイルまで発射可能なのだ。

 

 とはいえ、さすがにミサイルをそのまま装填すれば薬室の爆発で破損する恐れがあるため、ミサイルは砲弾を思わせる形状の保護カプセルに収められた状態で装填される。発射された後、ミサイルは一切誘導せずにそのまま一旦大気圏を離脱。そこで保護カプセルから切り離され、慣性を利用しながら宇宙空間を飛行し、地上で観測を行う偵察機に誘導されながら大気圏へと再突入。そのまま目標を攻撃するという代物だ。

 

 そのため、テンプル騎士団のメンバーがその気になれば、オルトバルカの王都ラガヴァンビウスをミサイルで直接攻撃できるという恐ろしい代物である。

 

 簡単に言えば、このタンプル砲は複数の薬室を搭載する超巨大ガンランチャーのようなものだ。

 

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射できるよう、要塞砲の口径は200cmとなっている。

 

大陸間弾道ミサイル(ICBM)、装填完了。保護カプセル、異常なし』

 

『偵察機からの観測データ受信を確認。ミサイルへ送信開始』

 

 管制室からの報告を聴きながら、俺は中央指令室のモニターに映し出される映像を睨みつけていた。もう既に観測データの送信とミサイルの誘導を行う偵察機は、ディレントリア公国にある吸血鬼たちの本拠地へと狙いを定めていた。

 

 あとはこちらがミサイルを発射すれば、この大陸間弾道ミサイル(ICBM)は確実に吸血鬼共を蹂躙するだろう。装着している弾頭は、もちろん聖水を詰め込んだ聖水弾頭である。

 

「同志、発射準備が整いました」

 

 敬礼をしながら報告する同志の顔を見ながら、俺も頷く。

 

 これは吸血鬼たちに対する報復攻撃だ。すでに円卓の騎士たちからは承認を得ており、円卓の騎士のメンバーたちはこの中央指令室に集まっている。

 

 このタンプル砲が真価を発揮するのは超遠距離攻撃の場合だ。敵の春季攻勢が始まって攻め込まれた状態では、むしろ味方を巻き込む恐れがあるため使用できないことが多くなる。

 

 だからこそ、決戦兵器をここで投入するのだ。

 

「―――――――よし、秒読みを開始しろ」

 

「はっ!」

 

 ついに、戦争が始まる。

 

 この春季攻勢では、間違いなくまたブラドと戦うことになるだろう。

 

 今度こそ、あの男と決着をつけてやる…………!

 

 

 

 

 


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