異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ラウラにプレゼントしてもらったお気に入りのリボンで髪型をいつものポニーテールにし、部屋の洗面所にある鏡で寝癖が残っていないことを確認する。ついでにネクタイも確認してから洗面所を後にし、壁にかけてあるいつものコートの上着を身に纏う。
これは、親父が身につけていたコートを冒険者向けに改造してもらったものだ。かつてはベルトのような装飾がいくつもついていたからなのか、まるでコートではなく拘束具の一種にも見えてしまうような禍々しいデザインだったというが、今ではその余分な装飾は取り除かれ、代わりに回復アイテムやメスを収納するためのホルダーや、短いマントが追加されており、実用性が高められている。
フードを一旦かぶり、転生者ハンターの象徴でもある深紅の羽根が取れていないか確認しておく。この深紅の羽根は、親父が自分よりも格上の転生者を倒すためにレベル上げをした際の戦利品なのだ。それをフードにつけたまま転生者の討伐を繰り返したからなのか、やがて深紅の羽根を付けた親父は”転生者ハンター”と呼ばれるようになり、この戦利品も段々と転生者を狩る者たちの象徴となっていたのである。
しっかりとそれがついていることを確認してから、近くにあるテーブルの上にあるホルスターを拾い上げ、手入れを終えたPL-14をそのホルスターに突っ込む。傍らにある2本のスペツナズ・ナイフを鞘に納めて腰のホルダーに放り込み、部屋を後にする前にベッドの方を振り向いた。
ベッドの上に腰を下ろしてベレー帽をかぶっているのは、幼い頃からずっと一緒にいる腹違いの姉。容姿は大人びているのに性格は幼く、俺がいなくなると泣き出してしまう事もあるようだ。
彼女はベッドの上で微笑みながら、じっとこっちを見ている。
真相を知ってショックを受けたというのに、彼女はいつものままだった。涙を流して泣き叫んだのもあの地下室の中だけ。タンプル搭に帰ってきてからは、一切涙を流すことはなく、その代わりに涙を流す羽目になった俺を一晩中抱きしめてくれた。
彼女は親父が死んでいたという事を受け入れたと言っていたけれど、受け入れたとはいえ未だに動揺はしているのだろう。いつもなら幼い性格に戻っている筈なのに、昨日の夜からずっと大人びた性格のままなのだから。
「………ごめんね、ラウラ。昨日は眠れた?」
「ええ。可愛い弟を抱きしめながら眠れたんですもの」
「そうか…………。ありがとう、おかげで何とか受け入れられそうだ」
俺も、ラウラに依存している部分があるらしい。今まではラウラの方が俺よりも子供っぽいと思っていたけれど、もしかしたら彼女の方が俺よりもしっかりしているのかもしれない。
そろそろ部屋を出よう。今日は朝早くから軍拡についての会議があるし、各地に潜伏しているシュタージのエージェントからの報告書を確認しなければならない。いくら親父が死んでいた事を知ってショックを受けたとはいえ、団長が会議を休むわけにはいかないからな。
一晩中抱きしめてくれた彼女にお礼を言ってから踵を返そうとしたその時、ぷにぷにした柔らかい尻尾が、いつの間にか左手に伸びていた。真っ赤な柔らかい鱗に覆われたキメラの尻尾はそのまま左手の手首に絡みつくと、まるで子供と手を繋ぐ母親のように優しく俺を後ろへと引き寄せる。
まだ何か話したいことがあるのだろうかと思った頃には、柔らかい唇に、俺の唇を奪われていた。
石鹸の香りと花の匂いを混ぜたような甘い匂い。幼少の頃から嗅ぎ慣れている、大好きな匂いだ。その匂いに包み込まれていると、段々と真相を知って受けたショックが小さくなっていくのが分かる。完全には消えないかもしれないけれど、これくらい希釈できれば何とか受け止められそうだ。
もう少し、こうしてキスをしていたい。けれどもちらりと部屋にある時計が見えた瞬間、はっとしながらラウラから唇を離す羽目になった。
会議が始まるまで、あと15分くらいしかないのだ。
「や、ヤバい…………! そろそろ行かないと!」
「タクヤっ」
団長が会議に遅れるわけにはいかない。だから俺は慌てて部屋から出て行こうとしたんだけど―――――――ラウラはまだ伝えたいことがあるらしく、彼女から離れようとする俺の腕を掴む。
「お姉ちゃん?」
「…………もし耐えられなかったら、いつでもお姉ちゃんに甘えてね」
―――――――やっぱり、ラウラの方が大人だ。子供っぽいのは俺か。
「お姉ちゃんは、いつでもタクヤの近くにいるんだから」
「…………ありがとう」
俺も、いつでもお姉ちゃんの近くにいる。
絶対に守るよ、ラウラ。
とは言っても、ラウラもかなり強いんだけどね。転生者程度ならばあっさりと氷漬けにするか、大口径のライフルで木っ端微塵にしてしまうほどだ。俺が守る必要はないのかもしれないな。
そう思って苦笑いし、会議室まで全力で走っていけば間に合う筈だと思った俺は、もう一度彼女とキスをした。
「火力不足?」
「はい、ステラはそう思います」
格納庫へと戻ってきた鋼鉄の巨体の前で、小柄で幼いサキュバスの少女はそう断言する。
彼女の後ろに停車し、ツナギ姿の整備兵たちに整備されているのは、テンプル騎士団で採用している戦車の中では最も巨大な、無人戦車に改造されたフランスの『シャール2C』。10mにも達する巨大な車体は堅牢な装甲に覆われており、その車体の上にはMBT-70にも搭載されている152mmガンランチャーが搭載されている。
エイブラムスやレオパルトの主砲は120mm滑腔砲。口径だけならばこちらのガンランチャーの方が上だし、こっちは対戦車ミサイルのシレイラも発射可能だ。いくら複合装甲を搭載した最新型の戦車でも、こいつが直撃すれば木っ端微塵である。
凄まじい破壊力を誇る対戦車ミサイルが撃てる上に、車体後部には機関銃を搭載したターレットを搭載。主砲同軸、左右、後部に大口径の機銃を装備しているため、さすがに戦車には通用しないものの、こちらの攻撃力も絶大となっている。
しかし、このシャール2Cはあくまでも第二次世界大戦の頃の戦車であるため、近代化改修しているとはいえ最新の戦車と比べると性能は低いと言わざるを得ない。それに絶大な破壊力の主砲を搭載しているものの、タンプル搭や他の拠点には152mm滑腔砲を搭載したチョールヌイ・オリョールが少しずつ配備されているので、対戦車戦闘になればチョールヌイ・オリョールのほうが主役になるだろう。
ヴリシアの戦いで、吸血鬼たちはアクティブ防御システムを搭載し、防御力を底上げした戦車を積極的に投入してきた。歩兵が使用できる対戦車ミサイルやロケットランチャーは片っ端から迎撃されてしまうので、奴らを撃破するのには手を焼いた。
もし敵がまたアクティブ防御システムを搭載した状態で攻め込んでくれば、このシャール2Cにも出番はあるだろう。こいつは歩兵たちを守りつつ、戦車を薙ぎ倒しながら進撃するために生み出された巨人なのだ。しかし、戦車を薙ぎ倒すための対戦車ミサイルをアクティブ防御システムで迎撃されたら意味はなくなってしまう。
それに、多分ステラは「これだけ車体が大きいのだから、もっと威力のある武装を搭載するべきだ」と言いたいのだろう。チョールヌイ・オリョールを踏みつぶせるほどの巨体だというのに、搭載している武装はそのチョールヌイ・オリョールと口径が同じガンランチャー。十分強力な代物だが、強力な敵を薙ぎ倒しながら強行突撃させるにはもっと火力が必要だ。
「機動性は二の次で構いません。もっと武装を搭載できないでしょうか?」
「うーん…………」
エンジンを最新のエンジンに換装してあるから、今の状態でもこのシャール2Cは54km/hくらいの速度を出すことができる。全長10mの怪物が、最新型の戦車に匹敵する速度で爆走できるのだ。
しかし、この速度を犠牲にすれば確かにもっと武装は詰める筈だ。余裕があるならば装甲も厚くして、防御力を高めるべきかもしれない。
「そうだな、武装を増やそう」
「はい、ステラもそうするべきだと思います」
「ちなみにステラはどういうのを搭載するべきだと思う?」
質問すると、ステラは首を傾げながら答えた。
「戦艦の主砲を搭載するのはどうでしょうか?」
お前はシャール2Cをラーテに作り替えるつもりか。
武装を強力にするのには同意するが、さすがに戦艦の主砲はやり過ぎだ。それは艦砲射撃で我慢してもらいたいものである。第一、戦艦の主砲が発射の際に生み出す衝撃波は凄まじいので、歩兵を守りながら進撃するシャール2Cにそんなものを搭載したら、周囲にいる歩兵部隊に大きな損害が出てしまう。
これは歩兵を守りながら強行突撃する巨人だ。もう少し歩兵に影響の少ない武装にするべきだろう。
「ごめん、それは却下だ」
「なっ!? で、では、いっそのことラーテを採用しましょう!」
あの…………あれ1両で重巡洋艦とか巡洋戦艦並みのポイントを消費することになるんですけど、そんなことしたら軍拡に使うポイントを全部戦車で使ってしまうことになりますよ?
というか、ブラドの奴よくあんなにラーテを配備できたな。レベル上げを頑張ったに違いない。
「いや、ポイントがかかり過ぎる」
「ではレベル上げに行きましょう! ステラも付き合いますから!」
「あ、あの、この辺の魔物倒しても全然レベルは上が―――――――」
「魔物を倒して、食べられそうな魔物は持って帰りましょう! そうすれば今夜の夕飯にできます!!」
「レベル上げじゃないの!?」
そんなこと考えてたからよだれ垂らしてたのか…………。確かに食べれる魔物もいるけど、中には毒を持ってる魔物もいるんだよ? 迂闊に食べたらいくらサキュバスでも危ないから、そういうことをするならしっかりと毒があるかどうかを調べておかないと。
というか、俺のレベル上げじゃないのか。食料の調達に行くの?
とりあえず、搭載する武装は滑腔砲にしたほうがいいだろうな。強力なAPFSDSがぶっ放せるし、様々な砲弾を発射することが可能だから汎用性が高い。口径は、いざとなったらチョールヌイ・オリョールに砲弾を補給できるように同じ口径の152mmにするか。
そう思いながら、ステラの後ろでメンテナンスを受けている”プロヴァンス”と名付けられたシャール2Cを見上げた。あの砲塔を取り外し、チョールヌイ・オリョールと同じ砲塔を搭載すればいいだろうかと考えたけれど、この大きさならもっと搭載できる筈だ。
「―――――――ステラ、今度の魔物の掃討作戦っていつだっけ?」
「ええと、明日です」
大丈夫そうだな。
「…………今夜のうちに、試運転でもやっておくか」
いい事を考えた俺は、メンテナンスを受けているプロヴァンスを見上げながらニヤリと笑うのだった。
タンプル搭の周囲にも魔物はよく出現する。テンプル騎士団がここに要塞を建設し、本格的に武装組織として機能するようになってからは、大半の魔物が兵士たちの”遊び相手”になってくれる。兵士たちの錬度も上がるし、タンプル搭や周辺の前哨基地への被害も減るというわけだ。なのでテンプル騎士団でも、他国の騎士団のように定期的な魔物の掃討作戦を実施している。
熱風と砂塵が支配するカルガニスタンの砂漠。魔物たちが住む大地にキャタピラの跡を刻み付けながら進軍するのは、チョールヌイ・オリョールとT-90の混成部隊。チョールヌイ・オリョールは性能が高い代わりにコストも非常に高いので、こいつだけを大量に生産するとすぐにポイントが底をついてしまう恐れがある。なので、コストの高いチョールヌイ・オリョールだけでなく、コストが低いT-90やT-72B3も運用している。
砂漠を進軍するT-90の数は4両。その戦車たちの前を進むのは、2両のチョールヌイ・オリョール。片方のコールサインは”ドレットノート”で、もう片方は俺やラウラの乗る”ウォースパイトⅡ”だ。
『タクヤ、質問があります』
「なんだ?」
『タクヤが改造したシャール2Cと、この”ちょーりゅりゅい・おりょーる”はどっちが強いのでしょうか?』
ステラ、”ちょーりゅりゅい・おりょーる”って何だ。噛んだのか?
とりあえず砲塔の中でニヤニヤ笑いながら、ステラの質問に答えることにする。
「多分、”ちょーりゅりゅい・おりょーる”じゃない?」
『…………タクヤのバカ』
お、怒った?
苦笑いしながら肩をすくめていると、砲手の座席に座っているイリナも苦笑いしていた。溜息をつきながらハッチを開け、身を乗り出して熱風を浴びることにする。
隣を走行する”ドレットノート”のハッチの上では、ナタリアも同じように身を乗り出して前方を進む巨大な
多分、今回の掃討作戦で俺たちの出番はないのではないだろうか。
戦車部隊の先頭をゆっくりと進む2両の巨人は、そのままバックしてきたらチョールヌイ・オリョールを踏みつぶしてしまえるほど巨大だ。装甲で覆われた車体の両サイドにはがっちりしたキャタピラが搭載されているのが見える。まるでルスキー・レノをそのまま大型化させたような形状にも見えるけれど、車体の左右からは普通の戦車ではありえない物が突き出ていた。
なんと車体の左右に、37mm戦車砲を搭載したルスキー・レノの砲塔が搭載されているのだ。武装も同じく37mm戦車砲で、敵の戦車には効果が薄いため、あくまでも歩兵や小型の魔物を蹴散らすために榴弾を装填している。戦艦で例えるならばあれは”副砲”と言うべきだろうか。
車体の後部にも砲台があるが、元々その砲台の武装は機銃だった。しかし、ステラから『火力不足』と言われたので―――――――昨日の夜に、これでもかというほど武装を搭載しておいたのである。
そこに搭載されている砲塔もやはり大型化されていた。傍から見ると戦車の砲塔のようにも見えるけれど、砲塔から伸びる砲身のすぐ脇には、主砲同軸に搭載する機銃にしてはやけに太い銃身が伸びているのが分かる。
車体の後部に搭載されているのは、ロシアで開発された『BMD-4』と呼ばれる
主砲は100mm低圧砲。主砲同軸に搭載されているのは、戦車が搭載しているような12.7mm弾を発射する機銃ではなく、装甲車すら撃破可能なほど強力な30mm機関砲。強力な低圧砲と機関砲の集中砲火で、敵を殲滅することが可能なのだ。
その強力な武装を搭載した砲塔を、シャール2Cの車体後部に搭載。これで後方と側面から襲撃してきた敵を返り討ちにできるだろう。
けれども、一番目立つのは車体に搭載されている主砲だろうな。
前までは152mmガンランチャーを搭載していたのだが、チョールヌイ・オリョールに砲弾を供給できるように、ガンランチャーではなく152mm滑腔砲を搭載することにしたのである。砲塔もチョールヌイ・オリョールの砲塔とほぼ同じ代物に換装したので、砲塔の形状だけならばチョールヌイ・オリョールのようにも見えるだろう。
けれどもその砲塔は、チョールヌイ・オリョールの砲塔と比べるとやけに厚みがある。
多分、その原因は砲塔を横から見ればすぐに分かるだろう。
砲塔が厚くなってしまった原因は――――――――砲塔に、152mm滑腔砲を2門も搭載してしまったからだ。そのため、自動装填装置や弾薬庫まで、最初に搭載されていた砲身の上から突き出ているもう1門の分も搭載することになったので、砲塔が大型化してしまったのである。
こんなに大型化してしまったため、改造前は54km/hも速度を出せたのだが、重装備になってしまったせいで最高速度は19.5km/hまで一気に低下してしまっている。その代わり正面の複合装甲はより厚くなったし、ロシア製アクティブ防御システムのアリーナを搭載しているので、防御力は極めて高いと言える。
速度は遅くなってしまったが、圧倒的な防御力と凄まじい攻撃力で、敵を薙ぎ払う超重戦車となったのである。
一応、夜中に砂漠で試運転と武装の試し撃ちはしたから問題はない筈だ。おかげで俺の睡眠時間が結構減っちゃったけど、戦闘中にトラブルを起こすことはないだろう。
『タクヤ、昨日の夜はあれを作ってたの?』
「カッコいいだろ?」
『ええ、悪くはないけど…………』
隣を走るドレットノートの上で、ナタリアが苦笑いしているのが見える。
今回の掃討作戦に参加するのは、”プロヴァンス”と”ブルターニュ”の2両。テンプル騎士団は合計で10両もシャール2Cを運用しているのだが、改造を施したのはあの2両のみ。この作戦で無人型超重戦車が大きな戦果をあげることができれば、全ての車両に同じ改造を施して吸血鬼共との戦いに投入する予定である。
『こちらオリョール1-1。魔物の群れを捕捉した』
――――――――掃討作戦が始まる。
偵察機からの報告を聞いた2両の無人超重戦車が、同時に巨大な砲塔を旋回させ始めた。
おまけ1
全部知った
ガルゴニス「私はあいつの記憶を全て引き継いだのじゃ…………。だから、あいつの仕草を全て知っている」
タクヤ「そんな…………ッ!」
ガルゴニス「それに…………リキヤのバカが、真夜中にエミリアやエリスと何をしていたのかも全て知ってしまったッ!」
タクヤ&ラウラ「!?」
ガルゴニス「なんじゃあれは!? 毎晩エリスやエミリアと〇〇〇〇ばかりしおって! 子供がたった2人で済んだのは奇跡じゃよ! しかもあいつは胸の大きな女が―――――――」
力也(本物)『ぎゃあああああああああ!?』
おまけ2
折れそうだ!
タクヤ「ラウラ、俺も抱きしめてもいいかな…………? 心が折れそうなんだ…………」
ラウラ「うん、いいわよ」
ラウラ(タクヤもショックなのね…………。よし、思い切り抱きしめて癒してあげよう!)
ラウラ「えへへへ…………♪」
タクヤ「ら、ラウラ…………」
ラウラ「ふにゅ?」
タクヤ「ち、力入れ過ぎ…………せ、背骨が折れそうだ…………!」
ラウラ「ふにゃああああああ!?」
完
シャール2Cが更に凶悪に…………。
※ラウラはキメラですので、腕力は常人以上です。