異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「はぁ…………」
水筒の中に入っているアイスティーを飲んでから溜息をつき、狭い戦車の砲塔の中で、目の前に広げたネイリンゲンの地図を見下ろす。あの惨劇で壊滅する前の地図だが、いくら多くの建物が倒壊した上に環境が変わってしまったとはいえ、訳には立つだろうと思って購入しておいたのだ。
砂塵で汚れた地図の表面に、ポーチの中から取り出した白いチョークを走らせる。こういう白いチョークは、冒険者の必需品の1つだ。構造が複雑になっている遺跡の中やダンジョンを調査する際に目印を付けられるし、仲間に情報を知らせるのにも使えるため、魔物の臓器を摘出するためのメスと同じようにこれを身につける冒険者は多い。
調査を終えた地域を白い円で囲み、まだ終わっていない部分だけを残す。ラウラのエコーロケーションのおかげで効率的に調査を進め、大気流の風圧が再びレベル4や5に達する前にネイリンゲンの3分の2を調査することに成功し、暴風から身を守るための戦車の中に避難したものの、天秤と思われる物の反応はなかった。残っている3分の1の地域に天秤が存在していることを祈りたい。
というか、本当にここに天秤があるのか?
願いを叶えることができる神秘の存在なのだから、存在するだけで猛烈な魔力を発していてもおかしくはない筈だ。なのにこのネイリンゲンの中から感じるのは、無数の魔物たちの殺気や微かな魔力のみ。神秘の天秤が眠る場所とは思えない。
「ふむ…………」
「あと3分の1くらいね。…………ラウラ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよっ♪」
そう言いながら微笑んだラウラは、自分の持っていた水筒のキャップを外し、中に入っているアイスティーを飲み始めた。
エコーロケーションを使って索敵すると、かなり集中力を使うらしい。なので休憩時間も必要だとは思っていたんだが、この大気流が段々と強くなっていったタイミングは丁度良かったな。これでお姉ちゃんを休憩させられる。
「シュタージ」
『あら、どうしたの?』
クランの声だな。
「この大気流、次にレベルが下がるのはいつ頃だ?」
『ええと、ちょっと待って…………。予測だけど、あと1時間くらいはかかりそうね』
1時間か…………。
砂塵まみれになってしまった転生者ハンターのコート―――――――親父のお下がりだ―――――――の内ポケットから懐中時計を引っ張り出し、今の時刻を確認する。
今の時刻は午後3時40分。次に調査できるようになるのは4時40分頃だな。
「了解(ダー)、ありがとう」
『どういたしまして』
「同志諸君、次は1時間後だ。今のうちに武器の点検と腹ごしらえを済ませておこう」
隣で早くもPP-2000をほんの少し分解し、砂塵が入り込んだ影響で作動不良が起こらないように点検を始めているナタリアにそう言うと、彼女は顔を上げてから頷いた。傍らに置いていた部品を拾い上げて素早く組み立て、マガジンをグリップの中へと装着する。コッキングレバーを引く前に安全装置(セーフティ)をかけてからホルスターに戻した彼女は、息を吐いてから自分のポーチの中へと手を突っ込んだ。
そしてそのポーチの中から、任務に出撃する際はいつも携行している”非常食”を取り出したのだが―――――――明らかにそれは、”食品”とは思えない姿をしている。
まるで、大昔の帆船に搭載されていた古めかしい大砲に装填するような丸い砲弾を、そのまま野球のボール程度の大きさまで小さくしたような、黒い物体である。
傍から見れば口径の小さな大砲の砲弾にも見えてしまうが―――――――実は、これがテンプル騎士団の兵士たちが携行する非常食なのだ。
大砲に装填すればそのままぶっ放せそうな外見だが、この砲弾にも似た物体は、カルガニスタンで栽培される特殊なライ麦で作られたパンなのである。一番最初に目にしたときは冗談だと思ったが、カルガニスタンでは伝統的な非常食だという。
原料となるカルガニスタン産のライ麦は、水分を失った状態で加熱されると外側が段々と硬くなっていき、最終的には本当に砲弾として使えそうなほど硬くなる。逆にあの硬い部分の内側は非常にふわふわしており、甘みと微かな酸味があるのだ。栄養価も極めて高く、外側が非常に硬いおかげで200年以上も保存することができる優秀な非常食らしい。
200年も保存する意味はあるのだろうかと思ってしまうが、この世界に住む種族の中には平均寿命が500年を超える種族もいるため、200年でもまだ”短い”と言える。
美味しいパンなのだが、やはり外側が非常に硬いせいでこのまま食べるのは非常に骨が折れる。このまま食べる場合はでっかいハンマーで叩き割って中にあるふわふわした部分だけを食べるのだが、このパンは水やお湯に浸しておくとすぐに崩れてお粥になるので、どちらかというとそのままではなくお粥にしてから食べる人の方が多いという。
確かに、いちいちハンマーで叩き割って食べるよりもお粥にした方が手っ取り早そうだからな。
砲弾や鉄球ににているため、このライ麦パンは”鉄球パン”とも呼ばれている。
その鉄球パンを取り出したラウラとナタリアの2人は、ポーチから取り出した小さな皿の上にそのパンを置くと、その上に水筒の中の水を垂らし、側へと置いた。どうやらこの2人はお粥にして食べるつもりらしいけど、お粥にすると甘みが消えてしまうので、俺はいつもお粥にはせずにそのまま食べている。
「あら? タクヤ、お粥にしないの?」
「俺はこのままでいいよ」
そう言いながら、体内の血液の比率をちょっとずつ変えていく。
すると、コートの袖の中で右腕の皮膚が段々と変異していき、蒼と黒の2色で彩られた外殻が指先まで覆っていく。今ではもう咄嗟にこの外殻を生成して防御することができるようになったが、訓練を始めた頃はなかなか外殻の生成のコツが分からなくて苦戦したんだよね。
これはキメラの代表的な能力で、ノエルも同じく外殻による硬化が可能となっている。キメラは基本的に体内の魔物の遺伝子によって能力が大きく異なるんだが、外殻を持つ魔物の遺伝子を持つ場合は基本的にこの外殻を使う事ができるらしい。
ちなみにサラマンダーの場合は、オスには外殻があるが、メスのサラマンダーは卵や子供たちを温める際に外殻が邪魔になってしまうため、身体を覆うのは柔らかい鱗のみ。基本的に巣でずっと生活するので、外殻が退化しているのだ。その特徴を受け継いでいるのか、ラウラは俺と比べると外殻による硬化が苦手なのだ。
左手で鉄球パンを支えつつ、外殻に覆われた右腕を振り上げ―――――――瞬発力を活用しつつ、素早く振り下ろす。
がちん、と、まるで本物の鉄球をハンマーで殴打したような金属音にも似た音。明らかに食品が発する音じゃない異音である。
そんな音を奏でた鉄球パンの表面には、小さな亀裂が生じていた。
「え、そのまま食べるの?」
「こっちの方が甘みがあるからな」
亀裂の入った部分を指先でほぐしつつ、血液の比率を更に変更。すると今度は、口の中に生えている歯が変異を始め、人間と殆ど変わらない歯から、まるでドラゴンの口の中に生えているような鋭い”牙”へと変貌する。
このように、変異させたい部位の血液の比率を変えれば、自由に身体を変異させることができるのである。ちなみに全身を外殻で覆う事も可能で、その際の顔は人間というよりはドラゴンに近い形状になるのだ。
俺たちは人間とサラマンダーのキメラだからな。
「す、凄い牙…………」
「ぼ、僕のより鋭いよ…………!」
でも、こんな牙を生やしたままだと生活し辛いんだよね。口の中に牙が刺さっちゃうしさ。
手にした鉄球パンを口へと運び、そのまま強引に噛み砕く。亀裂に牙が突き刺さったかと思うと、あっさりとそれを突き破った牙が中に詰まっている柔らかい部分へと突き刺さり、あっという間に硬いパンを齧り取ってしまう。
やっぱり硬いものは、こっちの牙の方が食べやすい。
そのまま口に含んだパンを咀嚼するけれど、口の中から響くのは、まるでドリルを鉄板にお見舞いしたかのような、金属音にも似た奇妙な音。中身は確かにふわふわしていて甘いんだけど、これが本当にパンなのだろうか。
なんだか、本物の鉄球を食ってるみたいだ。
ちょっとした酸味と甘みがする中身を硬い外側もろとも噛み砕き、アイスティー入りの水筒を手に取る。口の中のパンを飲み込んでからアイスティーを飲んでいると、パンを強引に噛み砕くのを見ていたナタリアやイリナたちが、ポカンとしながらこっちを見ていた。
「ん?」
「べ、便利な身体なのね…………」
「うー…………その牙、羨ましいなぁ…………。僕のももっと鋭かったら、楽に血が吸えそうなのに」
いや、お前の牙がもっと鋭くなったら死んじゃうからね? それと、お前の食事は結構痛いんだからな? いつも首筋に穴が開くんだぞ?
とりあえず、いちいちこの硬い部分を噛み砕くのは面倒なので、あとは柔らかい中身だけ取り出して食べよう。血液の比率を元に戻し、牙をいつもの”歯”に戻すと、こっちをじっと見つめていたイリナとナタリアが何故か残念そうな顔をする。
な、なんだよ。
「すごい、牙が元の歯に戻った!」
「タクヤ、もう一度やってください! ステラも見てみたいのです!」
「お兄様、是非もう一度!」
「いや、ラウラもできるよ?」
「ふにゅー…………お姉ちゃんももう一回みたいなぁ♪」
「何で!?」
お姉ちゃんもできるでしょ!?
ナタリアはメンバーの中でもまともな奴だから、何とかしてくれないと思いつつ彼女の方を見たんだが…………どうやらナタリアも見てみたいらしく、水ですっかり崩れてしまった鉄球パンのお粥を携帯用のスプーンでゆっくりとかき混ぜながら、ちらちらとこっちを見ている。
あ、あれ…………? ナタリア先生、助け舟は出してくれないの…………?
「な、ナタリアさん…………?」
「なっ、何よ?」
「もしかしてさ…………見たいの?」
「えっ? …………そ、そうね、さっきのはよく見てなかったら、もう一回見てあげてもいいわよ?」
嘘つくなって。さっき間近で見てただろうが。
よし、ちょっとからかってみるか。
食べかけの鉄球パンを傍らに置き、片手で口元を隠しながら血液の比率を再び変更する。そしてお粥を口へと運びながらちらちらとこっちを見てくるナタリアの方を見つめてニヤリと笑ってから―――――――ドラゴンの牙へと変貌した自分の歯を晒した。
「ほら」
「ほ、本当にドラゴンの牙みたい…………!」
さっき見てたくせに。
『こちらシュタージ。
おっと、通信だ。
「こちらゴライアス。どうぞ」
『こっちの予測が外れたわ。大気流のレベルが急激に低下中。そろそろレベル1まで低下するわね』
「了解だ、では――――――――」
そう言おうとしたところで、何度も耳にした大きな音が聞こえてきた。戦車に匹敵する重量の脂肪と肉と骨の塊が、脂肪だらけの太い足で大地を踏みつぶす音。それがもし遠ざかっていくのであれば、俺は通信の途中でいきなり喋るのを止めて耳を傾けることはなかっただろう。
―――――――近づいてくる。
段々と音が大きくなっていき、振動も微かにオブイェークト279の車体まで伝わってくる。とはいえキメラの発達した五感でやっと察知できる程度で、常人ではまだ気づかないだろう。車内を見渡してみると、他の仲間たちはお粥の乗った皿を持ったまま、いきなり黙った俺を見て心配そうな表情を浮かべている。
オイルとお粥の香りが混ざり合った狭い重戦車の中へ、微かに血の臭いと腐臭が入り込んでくる。
くそ、せめて食事が終わるまではこんな臭いは嗅ぎたくなかった。食欲がなくなっちまうだろうが。
自分の発達した嗅覚を恨みつつ、イリナと一旦席を代わってもらってペリスコープを覗き込んだ。シュタージの予測はやはり正確で、東西南北に展開しているドローンたちの観測通りに大気流の勢いは弱まりつつある。宙を慌ただしく舞う砂塵の濃度が薄まり、先ほどまでは砂嵐にも似た砂塵のカーテンに覆われていたネイリンゲンの街の残骸があらわになっていく。
崩れ去った鍛冶屋の建物や傭兵ギルドの事務所。木造の建物は大半が吹っ飛び、辛うじて残った残骸には15年前に壊滅した際に刻まれた焦げ目がまだ残っている。
その”惨劇の残滓”が連なる大通りだった道の向こうからやって来るのは――――――――戦車を一撃で叩き潰せそうな剛腕を持つ巨躯の群れ。口の中に生えている大きな牙には小さな肉片や血痕がびっしりと残っており、眼球の大きさは人間の頭よりもでかい。モスグリーンの皮膚に覆われた頭から伸びるのは、巨大な触手を思わせる無数の頭髪。
「トロールか…………」
しかも3体。
どうやら食事の最中というわけではないらしい。でっかい目でこの戦車を睨みつけながら、明らかに敵意を放ちつつ接近してきている。
先ほどまでレベル4か5くらいの暴風があった筈だが、こいつらは無事だったのか?
ネイリンゲンへとやってくる前に、偵察機が送ってくれていた映像でトロールが吹っ飛ばされていたのを思い出す。先ほどの暴風もそれと同規模だったのだから、こいつらも吹っ飛ばされていてもおかしくはない筈だ。
やはり、どこかにあの暴風から身を守るためのシェルターがあるのだろう。しかもトロール共がこっちに接近してきた時間と風圧が低下したタイミングを考慮すると、そのシェルターはすぐ近くにあった可能性がある。
「逃げる?」
「無理だな。トロール共の動きは鈍重に見えるが、平均的な最高速度は62km/hだ。個体によってはそれ以上の速度で突っ走ってくるぞ」
そう、トロールたちの突進はオブイェークト279最高速度を上回っているのである。
テンプル騎士団で採用されているチョールヌイ・オリョールやT-90ならば置き去りにできる相手だが、このオブイェークト279はあくまでも冷戦の真っ只中に開発された旧式の戦車。速度でも新型の戦車には劣ってしまう。
だからもし仮に追いかけっこをする羽目になったら、トロール共には追いつかれてしまう。
くそ、エンジンもカスタマイズしておけば良かったな。今すぐカスタマイズできるだろうか?
メニュー画面を開こうとしている俺の傍らで、砲手の座席に座るカノンが、砲塔の中に鎮座する自動装填装置をちらりと見た。もう既に130mm戦車砲の砲身には徹甲弾が装填してあるらしく、あとはカノンが照準を合わせて発砲するだけで、立ち塞がる敵は木っ端微塵になる。
「やってみせますわ」
「あー…………しょうがないな」
あまり戦闘はしたくなかった。魔物共を刺激すれば、こんな廃墟の真っ只中で無数の魔物の相手をする羽目になりかねないからである。
けれども、もう戦うしかなさそうだ。
幸い視界はある程度良くなっているし、風圧も低下している。降車して戦っても問題はないだろう。
「イリナ、後は頼む」
「任せてっ! カノンちゃん、真ん中の奴からやるよ!」
「了解(ダー)!」
「ステラちゃん、タクヤたちが降りたら後退!」
「了解(ダー)!」
はははっ、頼もしい車長だ。戦車(ゴライアス)は彼女に任せよう。
砲塔の上にあるハッチを開け、まだ微かに砂塵が舞う廃墟の真っ只中へと踊り出す。車体の装甲を踏みつけてから、荒れ果てたネイリンゲンの大通りへと降り立つと同時に、素早く腰のホルダーに刺さっている対戦車手榴弾を引き抜いた。
メインアームはPP-2000。使用する弾薬は一般的なハンドガンと同じく9mm弾であるため、あんなでっかい身体を持つトロールを倒すには火力不足である。
そこで、ソ連製対戦車手榴弾の”RKG-3”をぶち込んでやるというわけだ。
今では戦車の装甲が分厚くなった上に、その戦車を撃破するためのロケット弾がより強力になったため、射程距離が短い上に威力も足りない対戦車手榴弾は廃れてしまっている。
しかし、俺たちがこれから戦うトロールは堅牢な外殻を持っているわけではない。身体を覆っているのは、モスグリーンの皮膚と大量の脂肪だ。ロケットランチャーと比べれば威力不足かもしれないが、それよりもサイズが小さくて携行し易い兵器だ。それに相手は戦車ほどの防御力を持っていないため、こいつでも十分なのだ。
「ナタリア、安全装置(セーフティ)の解除とコッキングレバーを忘れるな」
「えっ? あ、ありがとう」
さっき分解してた時に、安全装置(セーフティ)をかけてたからな。コッキングレバーもマガジンを装着してから操作していなかったから、安全装置(セーフティ)を解除したとしても発砲はできない。
忠告通りに安全装置(セーフティ)を解除し、PP-2000のコッキングレバーを引くナタリア。彼女の隣で既に戦闘準備を終えたラウラに目配せしてから、安全ピンを引き抜く準備をしつつ近くの建物の中へと駆け込む。
土埃とカビの臭いがする建物の中を突っ切り、反対側へと踊り出す。完全に砂塵まみれになったゴミ箱の上を飛び越えて狭い路地を駆け抜けていくと、段々とトロールの発する足音が大きくなっていった。
息を殺しながら立ち止まり、ちらりと建物の影から大通りの方を確認する。ずしん、とでっかい足音を響かせながら進軍するトロールの上半身が、ゆっくりと味方の戦車の方へと進んでいくのが見える。
幼少の頃に読んだ図鑑に、『トロールの聴覚はそれほど鋭くない』と記載されていたことを思い出し、それが本当であることを祈りながら、RKG-3の安全ピンを引き抜いた。そのまま足音を立てないようにトロールへと向けて突っ走っていく。
近付き過ぎると踏み潰されてしまいそうだ。少し離れた位置から放り投げてやろう。
とはいえ、いくらキメラの腕力でもこいつをトロールの顔面まで放り投げるのは不可能だ。腹にぶち込んだとしても、抉れるのは脂肪だけだろう。内臓や肋骨を傷つけて致命傷を与えることはできない。ならば―――――――ナタリアにはまた怒られるかもしれないが、狙う場所はある。
トロールの側面から、戦力で突っ走ってトロールのすぐ目の前に飛び出す。いきなり足元に獲物が現れたことにびっくりしたのか、戦車に向かっていた3体のうち一丸右側にいたトロールは、まるで目の前にやってきたご馳走を見つけて喜ぶかのようにニヤリと笑うと、汚らしい指を俺に向かって伸ばしてくる。
こいつと力比べをしたら十中八九負けるだろうな。いくら転生者でも、こんなでっかい魔物と力比べをして勝てる奴は少ない。勝てそうなのは、親父のようにレベルの高い転生者くらいだろう。
だから俺たちは、小回りの良さをフル活用する。
のろまなトロールに鷲掴みにされるよりも先に後ろへとジャンプし、巨大な手を回避した俺は―――――――安全ピンを引き抜いた対戦車手榴弾を、思い切り投擲した。
まるでドラム缶をかなり小さくし、それに柄を取り付けたような形状のでっかい手榴弾は、ぐるぐると回転しながらトロールへと飛来していくかと思いきや、その最中に小さなパラシュートを吐き出す。やがて小型パラシュートの影響で回転が緩やかになっていき、最終的には殆ど回転しなくなってしまう。
そして、対戦車手榴弾が少しずつ高度を落としていき――――――――太い両足の付け根にある息子の辺りに直撃し、通常の手榴弾を上回る大爆発を引き起こした!
『グオォォォォォォォォ!?』
「よし、やっぱりオスだったか!」
ざまあみろ、くそったれ!
『ちょ、ちょっとタクヤ!?』
「なんだよ!?」
『い、今の見てたわよ!? あんた、何でそんなところばかり狙うのよ!? この変態ッ!!』
「だから、正々堂々戦ってどうするんだよ!?」
フィエーニュの森で戦った時も、ナタリアにこんなこと言われたなぁ…………。なんだか懐かしい。
対戦車手榴弾はやはり通用していたらしく、強烈な一撃で吹っ飛ばされた”息子跡地”を、でっかい両手で押さえつつ涙目になっているトロールにPP-2000の銃口を向けながら、俺は笑った。
おまけ
懲罰部隊のラウラ
タクヤ「ねえお姉ちゃん」
ラウラ「どうしたの?」
タクヤ「気になってたんだけど、懲罰部隊にいた頃ってさ…………発情期の衝動が来た時ってどうしてたの?」
ラウラ「ふにゅ?」
タクヤ「…………ま、まさか、他の男と…………ッ!?」
ラウラ「そんなことしないよ! 私がそういう事をする男の人はタクヤだけなのっ!」
タクヤ「よ、よかったぁ…………」
ラウラ「ええと、衝動が来ちゃった時は…………えへへっ、タクヤの事を考えながら自分の尻尾で――――――――」
タクヤ「!?」
完