異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤとラウラが2人目の獲物を狩るとこうなる

 

 ナギアラントは、かつてサキュバスが絶滅する前に最後に抵抗した街と言われている。各地で魔女と呼ばれて迫害された彼女たちは、このナギアラントに立て籠もり、自分たち以外の種族たちと戦って玉砕したのだ。

 

 街を他の種族たちに包囲され、食料となる魔力も他の生物から吸収することも出来ず、戦いではなく魔力不足で餓死していったサキュバスも数多いと聞いている。

 

 防壁を突破した他の種族たちの連合軍はサキュバスたちを徹底的に殺し尽くし、命乞いする者や、動けない老婆までも焼き尽くした。もちろん捕虜など取らずに皆殺しにしたため、生き残りなどいる筈がない。

 

 疲弊しきったサキュバスたちは一矢報いようと死に物狂いで連合軍の兵士たちに襲い掛かり、彼らに大きな傷跡を遺してから、この異世界から姿を消していったという。

 

 それが、この異世界に転生して来て聞いた伝説の1つだ。サキュバスは絶滅し、生き残りはいない。伝説の通りに本当に絶滅してしまったのだと思い込んでいた俺は、教団に入り込んでこの街を支配してから、その伝説が誤っていたのだという事を知る羽目になる。

 

 支部の施設を増築するために地下を掘り続けていた部下が、地中で奇妙な装置を発見したと報告してきたのだ。機械ではなく魔術が発達したこの異世界で機械が見つかるわけがない。おそらく見間違えか、他の転生者の仕業だろうと思いながら現場に向かった俺は、部下が掘り続けていた竪穴の最深部で、そのサキュバスの伝説を否定する証拠と出会ってしまった。

 

 明らかに異世界のものとは思えない機械的な外見の奇妙な装置と、その装置の上に浮遊する液体の中で眠る幼い少女。部下の魔術師が調査した結果、なんとその幼い少女がサキュバスの生き残りで、この装置の中で休眠状態になっているという。

 

 おそらく他のサキュバスたちが、最後の攻撃を仕掛ける前にまだ幼い彼女だけでも生き残らせようと、封印して地中に隠したんだろう。その上に教団の支部が建てられ、拡張のために掘っていたら偶然最後の末裔を発見してしまったという事だったのだろうか?

 

 端末の能力で洗脳して戦力にしようと何度か考えた。他者から魔力を奪い取り私腹を肥やすサキュバスを眷族にして戦わせるのはオルトバルカ教団の禁忌とされているが、サキュバスと俺の力があれば本部の兵力は容易く返り討ちにできる。

 

 しかし、サキュバスは強力な魔術の扱いに秀でる種族で、戦闘力では吸血鬼を上回るとされている。迂闊に復活させてこちらが返り討ちに遭ってしまったら意味がないため、確実に洗脳できるほど俺のレベルが上がるまであの封印を維持しておくことにしていたのだ。

 

 だが、その封印は俺を暗殺しに来た蒼い髪の少年の流れ弾のせいで、解けてしまった。俺が弾き飛ばしてしまった1発の弾丸が、他の種族たちを苦しめた古(いにしえ)の破壊者の末裔の封印に終止符を打ってしまったのだ。

 

 あの少年とサキュバスを戦わせれば、上手くいけばサキュバスが少年を倒してしまうかもしれないし、サキュバスの実力を目にする事ができるかもしれないと考えていた。だが、なんとそのサキュバスは少年と行動を共にし、彼らと共に俺たちの拠点へと攻め込んで来ている………。

 

「馬鹿な………」

 

 部下たちの肉体の破片が転がる石畳を見下ろしていた俺の鼓膜に、銃声と部下の断末魔が流れ込んでくる。おそらく階段の辺りに配置しておいた部下たちの断末魔だろう。サキュバスとあの少女のような少年が攻め込んできたんだろう。

 

 俺の計画を台無しにしやがって………。

 

 壁に立て掛けている愛用の杖を拾い上げ、メガネをかけ直す。サキュバスと共に襲い掛かって来るというのならば、俺が返り討ちにするまでだ。

 

 俺にはイージスという便利な魔術がある。こいつで攻撃を無力化しながら魔術で反撃していけば、いくら銃を持っているとはいえ叩き潰す事が可能だろう。

 

 そういえば、なぜあの少年は銃を持っているんだ? この世界に銃は存在しない筈だ。他の転生者から譲り受けたのか、それとも奪い取ったのか? もし奪い取ったのならばその銃の持ち主が端末を操作して装備から解除すればすぐに奪い返されてしまうから、奪い取ったという可能性はないだろう。

 

 まさか、あの少年が転生者なのか? 

 

 恐怖心を考察で誤魔化しながら待ち構えていると、広い執務室のドアがいきなり蒼い炎に包まれ始めた。あらゆるものを焼き尽くす赤い炎ではなく、まるで蒼空のように開放的な蒼い炎。獰猛で幻想的な蒼い炎はたちまち執務室のドアを焼き尽くすと、その奥にいた3人の人影を蒼い火の粉で彩り始める。

 

「―――――よう、支部長さん」

 

「お前か…………」

 

 男のような口調だが、声が高いせいで少女の声に聞こえてしまう。頭にかぶった黒いフードの前から覗く彼の顔つきも明らかに少女のようで、髪も長いようだ。おそらく今まで何度も女だと間違えられていた事だろう。

 

 しかも来客は彼だけではない。彼の傍らには、まるで母親の傍にいる幼い子供のように件(くだん)のサキュバスが立っているし、彼の反対側には蒼い髪の少年に顔つきがよく似た赤毛の少女が立っている。この赤毛の少女もまさか男なのかと思って警戒してしまったが、ちゃんと胸は膨らんでいる。

 

 胸が開いた黒い上着を身に纏う赤毛の美少女を見つめて安心した俺は、息を吐きながら杖をくるりと回し、柄頭にある狼の頭を模した装飾を彼女たちへと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手は1人のみ。周囲に他の兵士はいないから3人で集中攻撃できるが、敵にはイージスという厄介な魔術がある。大口径のアンチマテリアルライフルやロケットランチャーならば貫通できると思うが、やや広いとはいえこの執務室の中でアンチマテリアルライフルをぶっ放すのは難しいだろう。せめて外まで吹っ飛ばすか、誰かが隙を作って強引に叩き込むしかない。

 

 あるいは、ステラの鉄球でイージスもろとも叩き潰してしまうべきだろう。敵兵の群れを一撃で壊滅させてしまった恐ろしいサキュバスの鉄球ならば、いくら凄まじい防御力を誇るイージスでも防ぎ切れない筈だ。

 

 しかし、こちらも小回りが利かない。何とかイージスを引き剥がすことさえ出来ればボコボコに出来るんだけどなぁ………。

 

 何とかダメージを与えるしかないか。俺とラウラで攪乱して、ステラに叩き潰してもらうとしよう。それが一番安全な作戦かもしれない。

 

「ステラ、俺とラウラで隙を作る。お前の鉄球でぶっ潰してやれ」

 

「了解です。ですが………グラシャラボラスは燃費が悪いです。何度も振り回していればまたお腹が空いてしまいます」

 

「わ、分かった。ちゃんとご飯は食べさせてやるから」

 

「はい。タクヤはとても美味しいので、楽しみです」

 

 無表情のまま小さな唇の端からよだれを垂らすステラ。余程俺の魔力が気に入っているらしいんだが、よだれは垂らさないでくれ。

 

 ポケットの中に常備しているハンカチを取り出して彼女の口元を優しく拭き取った俺は、戦闘直前だというのに機嫌を悪くし始めているラウラの頭を大急ぎで撫で回し、片手でハンカチをポケットにしまってから大型トレンチナイフを鞘から引き抜いた。

 

 ラウラもサバイバルナイフとボウイナイフを鞘から引き抜き、俺に甘えている時の目つきから獲物を狙っている時の鋭い目つきへと変わっていく。もう頭を撫でている必要はないなと思って彼女から手を離し、左手でコートの内ポケットの中からMP412REXを引き抜く。

 

 ほんの少しだけ埃の臭いがする執務室の中で、得物を構えて臨戦態勢に入った者たちの睨み合いが始まる。だが、いつまでも睨み合ったままなのは好ましくはない。サキュバスであるステラが体内に蓄える魔力は、魔術を使わなくてもまるで漏れ出て行くかのように勝手に消費されてしまうのだ。しかも今の彼女は、燃費が悪いグラシャラボラスを召喚している。彼女の攻撃力を頼りにしている以上、グラシャラボラスの償還を維持できるだけの魔力を使い果たす前に勝負を決めなければならない。

 

 だから俺の銃声で、睨み合いに終止符を打つことにした。

 

 .357マグナム弾の荒々しい雄叫びが、10秒足らずの短い睨み合いを強制的に終了させる。片手で構えたリボルバーから放たれたマグナム弾は、一番最初に地下で彼と戦った時と同じように蒼白い光に弾かれてしまったが、ラウラが接近するための隙を十分に作ってくれた。

 

 弾丸を弾き終えた蒼白い残光が消えていくよりも早く飛び出したラウラが、豪華な紅い絨毯を荒々しく踏みつけながら、まるで狼のように駆け抜けて行く。転生者の少年は杖を構えながら魔法陣を展開するが、おそらくラウラが接近する方が先だろう。スピードでは彼女は俺を上回っているのだから。

 

 ステラが攻撃の準備をしている間に、俺も移動することにした。接近戦を仕掛けるため突撃しているラウラを誤射しないよう、発砲はせずに俺もナイフを構えながら走り始める。

 

 逆手持ちのサバイバルナイフを振り払うラウラ。今まで魔物や敵兵を引き裂いてきた彼女のサバイバルナイフの一撃は、やはり弾丸を弾き飛ばした忌々しいあの蒼白い光によって弾かれてしまう。まるで突き飛ばされたように彼女のナイフが弾かれたが、ラウラは距離を取らずにそのまま追撃する事を選んだらしく、今度は転生者の腹に向かってボウイナイフを振り上げる。

 

 その一撃も弾かれてしまったが、いつまでも近距離で攻撃を叩き込まれ続けていれば自分の反撃できないし、いずれイージスという防壁が破壊されてしまうかもしれないと危惧したのだろう。転生者の少年は杖を振り払ってラウラを牽制して横へとジャンプし、距離を取ろうとする。

 

 ラウラは追い討ちを断念する羽目になったが――――――彼女に遅れて突っ込んだおかげで、俺はすぐに転生者に奇襲を仕掛ける事ができた。

 

「!」

 

「やっほー」

 

 目を見開く転生者に向かってニヤニヤと笑いながら、右手の大型トレンチナイフを振り下ろす。しかし隠密行動のために漆黒に塗装された俺の愛用のナイフは、転生者の白衣もろとも肉体を切り刻む直前に、まるで反発する磁石を強引にくっつけようとしているかのように突き放されてしまう。

 

 蒼白い残光の中で舌打ちをしながら後へとジャンプし、こっちに杖を向けてきた転生者へとリボルバーを向ける。彼は赤い魔法陣を展開して魔術をぶっ放そうとしてきたが、やはり魔術よりも銃の方が速い。魔術をぶっ放される前に2発も弾丸をお見舞いできた。

 

 狙いは顔面だ。もちろんイージスのせいで弾かれてしまうが、攻撃を弾いた時に生じる蒼白い光が転生者にとって仇になる。蒼白い光が目の前で煌めいたせいで照準が狂ったのか、転生者の放った砲弾のような大きさの炎の塊は俺には命中せず、発砲した地点に残っていた火薬の臭いを飲み込んで後方の壁へと突っ込んだ。

 

 火の粉の中でくるりと時計回りに回転し、右手の大型トレンチナイフを転生者へと向かって投擲する。投げナイフの訓練も受けていたからナイフの投擲には自信があったが、魔術を放ち終えて舌打ちする転生者の首筋の辺りにめり込むはずだった得物は、イージスに弾かれ、転生者の少年をビビらせるだけだった。

 

「うおっ!?」

 

「チッ!」

 

 そろそろステラも準備を終えるかな?

 

 ちらりとステラの方を確認すると、彼女は何かの詠唱を始めているところだった。言語は俺たちが話している言語ではなく、スペイン語やロシア語のような語感のあの古代語のようだ。サキュバスたちが編み出した古代の魔術なんだろうか?

 

 転生者の少年の方を見てみると、彼はラウラの攻撃をイージスで弾き返しながら、再び彼女から距離を離そうとしていた。もう一度先ほどと同じように突っ込もうかと思ったが、2回も同じ手を使うわけにはいかない。

 

 そういえば、俺の得物はどこまで弾かれた?

 

 執務室の中を見渡してみると、ラウラと転生者の少年が戦っている向こうの壁に、黒光りする漆黒の何かがめり込んでいるのが見えた。分厚い刀身とフィンガーガード付きの俺の相棒だ。弾かれた後、あの壁に突き刺さったらしい。

 

 にやりと笑って右手を伸ばした瞬間、まるで図書室のような雰囲気を放つ執務室の中を照らし続けていたイージスの蒼白い煌めきと、ナイフが弾かれ続ける音が聞こえなくなった。

 

 荒々しい攻撃を繰り返していたラウラが、いきなり攻撃を中断したんだ。小さい頃から常に俺と一緒にいた彼女は、俺が何をするつもりなのか理解したんだろう。

 

 さすがお姉ちゃんだ。

 

 俺が操ることのできる属性は炎と雷。炎は親父からの遺伝で、雷は母さんからの遺伝だ。特に雷属性の方が得意なんだが、俺が操れるのは電撃だけじゃないんだぜ?

 

 既に変換済みの雷属性の魔力を右腕へと集中させる。血液の比率が勝手に変化し、黒い革の手袋の中で白い皮膚が蒼い外殻へと変貌を始めていく。

 

 すると、向こうの壁に突き刺さっていた大型トレンチナイフがガタガタと上下に小さく揺れ始めた。上下に揺れるせいで段々と刀身が白い壁から抜け始め、まるで誰かが引き抜いたかのように、ナイフが壁から解放される。

 

 解放されたナイフはそのまま床に落下する筈だったが、俺の得物は床には落下せず、なんとそのまま回転しながら俺の方へと帰ってきたんだ。

 

 ナイフは俺の前にいた転生者の少年に激突する。俺が何かをするつもりだと思って魔術の準備をしていた最中にいきなり背後からナイフで攻撃された彼は、まだ仲間がいたのかと誤解したらしく、後ろを振り向いて杖を向ける。だが彼の背後にあるのは穴の開いた壁だけだ。俺たちのもう1人の仲間は、今頃外で生き残った警備兵を弓矢で翻弄していることだろう。

 

 ナイフが勝手に壁から抜け落ちたのは、俺が磁力を使ってナイフを引き寄せたからだ。雷属性の魔力があれば電撃を自由自在に操る事ができるが、雷属性の魔力で操れるのは電撃だけではない。応用すれば、磁力等も自由に操る事ができるし、電磁波も発生させる事ができるようになるだろう。

 

 便利な能力だぜ。

 

 磁力を使ってナイフを呼び戻し、再びナイフを構える。攻撃を中断したラウラと目を合わせて同時に突っ込もうとしたが、執務室の入口の方で煌めいた紅い光が、俺たちに追撃は不要だと告げた。

 

「―――――お待たせしました」

 

「なっ………!?」

 

「ふにゃ………!」

 

「おいおい………」

 

 真紅の煌めきが、シャンデリアの光を蹂躙する。まるで部屋の中が全て血で真っ赤に染まってしまったかのように照らし出される執務室の中で、その紅い光源を掲げる幼い少女は、1人の転生者に向かってサキュバスの力を解き放とうとしていた。

 

 彼女の華奢な腕に装着されていた腕輪と鎖はいつの間にか消えていて、解放された鉄球の部分だけが彼女の頭上に浮遊している。血のように紅い光を放っているのはこの鉄球だった。表面を覆っている配管やバルブの間から血のように紅い光が漏れ出し、無数の棘のように生えているドリルの溝が紅く発光している。

 

 紅く煌めく鉄球は、まるで太陽のフレアのように紅い光のリングを纏い始める。炎ではなく犠牲になった者たちの鮮血を纏っているかのような禍々しいその機械の太陽は、幼い少女の頭上でゆっくりと回転を始めると、やがてドリルの先端部に紅い光を集中させ始める。

 

 回転が徐々に速くなっていった直後、ついに回転する鉄球から伸びるドリルの先端部から、鮮血のような紅い光が溢れ出した。

 

 紅い光を放射し始めた鉄球は、ステラの頭上でミラーボールのように回転しながら、吐き出される紅い光で壁や本棚を無差別に寸断していく。おそらくあの紅い光は、かなり圧縮された超高圧の魔力だろう。圧縮された魔力を放射することで、触れた物質を無差別に切断しているに違いない。

 

 俺たちまで巻き込まれるかと思ったが、どうやらステラが魔術でバリアを張ってくれたらしく、俺とラウラを寸断しようとしていた紅い光は白い光に弾かれ、拡散して消滅してしまう。

 

「ぐっ………ぐああああああああああッ!?」

 

 彼女の紅い光が牙を剥いたのは、転生者の少年だけだった。

 

 鮮血のようなレーザーは少年が纏っている蒼白い光に最初は弾かれていたが、かなり圧縮されていたらしく、地盤を巨大なドリルが削っていくかのように蒼白い光を抉り始め、ついにはイージスを貫通して少年の左肩を貫いていた。

 

 すぐにまたイージスを発動し、肩を抑えながら後ろにジャンプする少年。だが、ステラの頭上でミラーボールのように回転する鉄球が吐き出す紅い光の嵐は収まらない。まるで虐殺されていたサキュバスたちの怒りのように荒れ狂い、部屋の中を蹂躙するだけだ。しかも無差別な攻撃だから見切れる筈がない。新たに展開したイージスもすぐに最初のイージスの二の舞となり、削られて消滅していく。

 

「すげえ………!」

 

 このまま攻撃を続ければ転生者を倒せるぞ………!

 

 そう思いながらバリアの内側から傍観していたんだが、徐々にステラの鉄球が吐き出す紅い光が細くなり始めた。そのまま細くなっていき、ついに紅い光が小さな粒子に退化してしまう。

 

「………ごめんなさい。魔力がありません」

 

「いや、よくやった!」

 

 こいつを倒したら、たっぷり魔力を吸わせてやる! 

 

 バリアが消滅すると同時に、俺とラウラは同時に走り出していた。魔力を使い果たしてしまったステラはもう攻撃できない。召喚していたグラシャラボラスも、紅い光を放ちながら消滅を始めている。

 

「こ、この………ッ!」

 

「ラウラッ!」

 

「うん、終わらせるよ!!」

 

 止めは俺たちが刺す!

 

 左手のMP412REXを発砲しながら接近する。最初の1発はイージスで弾かれてしまったが、かなり転生者の魔力は削られてしまったらしく、2発目のマグナム弾は蒼白い光の防壁をあっさりと突き破ると、先ほど彼がステラに貫かれた方の穴の近くに喰らい付き、少年の肩を抉る。

 

 これでこのリボルバーは弾切れだ。素早くポケットの中に戻しながらラウラと共に接近し、ナイフでの攻撃に切り替える。

 

 最初に足のサバイバルナイフを展開し、少年の右足のアキレス腱を斬りつけるラウラ。既に彼の魔術は機能していない。攻撃を散々弾いていた光は姿を現さず、アキレス腱を容易く切り裂かれた少年は絶叫しながら身体を揺らした。

 

 左足を振り上げ、少年が崩れ落ちる前に彼の息子を思い切り蹴り上げる。もしナタリアがいたら変態と言われているだろうが、今頃ナタリアは外で戦闘中だ。そろそろ終わったかもしれないけどな。

 

「ぎゃッ!?」

 

「ふんッ!」

 

 更にもう一度息子を蹴り上げる。悲鳴を上げる少年の顎に膝蹴りを叩き込んで天井まで蹴り上げると、ナイフを構えていた俺とラウラは同時にジャンプして追撃した。

 

 俺がトレンチナイフを突き立てると同時にボウイナイフを少年の胸に突き立てるラウラ。落下しながらナイフを引き抜き、鮮血を吹き上げて致命傷を負いながらまだ反撃しようとする少年の右腕へと蹴りを叩き込み、彼の手から杖を叩き落とす。

 

 もう反撃する事ができなくなった少年の腹に、両足のナイフを展開したラウラが落下してくる。2本のサバイバルナイフを突き立てられて絶叫する少年から強引にナイフを引き抜いた彼女は、俺と目を合わせてからにっこりと笑った。

 

「いくよ!」

 

「おう、お姉ちゃん!」

 

 魔女狩りはこれで終わりだ。

 

 一番最後に魔女として狩られるのは――――――てめえだよッ!!

 

「「――――――УРаааааа(ウラァァァァァァァァァァ)!!」」

 

 ラウラと同時にそう叫びながら、落下していく少年に向かって同時にナイフを振り下ろす。漆黒の3本のナイフに胸元を切り裂かれて床に落下した転生者は、床に叩き付けられて何度か痙攣していたが、段々と動かなくなっていった。

 

 これで、もう魔女狩りは終わりだ。この街の人々が虐げられることはない。

 

 2人で同時に返り血の付いたナイフをくるりと回してから鞘に戻した俺とラウラは、目を合わせて微笑んでからハイタッチする。

 

 俺とラウラがタッチする音が、魔女狩りが終わったばかりの執務室の中に響き渡っていった。

 

 

 

 


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