異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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異世界のエースパイロット

 

 ブレスト要塞へと進撃する魔物たちは、要塞へと到達する直前で足止めされていた。

 

 彼らがどれだけ堅牢な外殻を身に纏い、人間を容易く叩きのめせるほどの強靭な筋力を持つ化け物であっても、異世界の科学力によって生み出された兵器を持つ兵士たちへと肉薄する事すらできていない。ブレスを吐き出して攻撃できる魔物であればまだ応戦はできただろうが、地上を進む魔物たちの中でそのような芸当ができる魔物はいない。

 

 ゴーレムは周囲に岩石があればそれを投擲し、デッドアンタレスは尻尾の先端部から高圧の毒液を射出することができるものの、周囲に岩石は存在しないせいでゴーレムは遠距離攻撃ができず、デッドアンタレスの毒液も射程距離が20m程度しかない。

 

 その魔物たちを迎え撃つのは、ブレスト要塞の守備隊である。

 

 魔物たちが接近しているという報告を受けた兵士たちは、すぐに防壁の外に掘られた塹壕の中へと滑り込み、そこに設置されていた機関銃や迫撃砲で必死に応戦し始めた。

 

 AK-12やRPK-12から放たれる7.62mm弾が押し寄せるゴブリンたちを粉砕し、塹壕に設置されたKord重機関銃から放たれる12.7mm弾の弾幕がデッドアンタレスやゴーレムの外殻を木っ端微塵に破壊する。剣や槍の一撃をあっさりと弾いてきた魔物たちの外殻は、獰猛な運動エネルギーを纏って飛来する大口径の銃弾には無力としか言いようがない。

 

 テンプル騎士団では、可能な限り大口径の弾丸の使用が推奨されている。

 

 現代の各国の軍では、5.56mm弾や5.45mm弾などの小口径の弾丸が使用されており、アサルトライフルだけでなくLMG(ライトマシンガン)や、一部のPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)にも使用されている。従来の大口径の弾丸よりも反動が小さい上に命中精度も高いため、様々な銃の弾丸では小口径の弾丸が選ばれることの方が多い。

 

 それは、あくまでもアサルトライフルで”対人戦”のみを想定しているからである。

 

 相手が人間の兵士であることを想定しているのならば、小口径の弾丸は確かに理想的で、合理的な弾丸と言える。しかし転生者たちが放り込まれる異世界で兵士たちの目の前に立ち塞がるのは、人間だけとは限らない。むしろ人間の兵士が敵として現れることの方が少ないのだ。

 

 そう、魔物が相手になる事の方が多いのである。

 

 人間の纏う防具よりもはるかに硬い外殻や強靭な筋肉を持つ魔物たちに対して、その小口径の弾丸では効果が薄くなってしまうのである。外殻で覆われていない部位などを正確に狙えればダメージは与えられるものの、無数の魔物の群れが押し寄せてくるような状況でのんびりと弱点を狙って狙撃している暇などない。

 

 そこで、モリガンの傭兵たちは大口径の弾丸を使用し始めた。

 

 反動が大きくなり、命中精度も落ちてしまうため小口径の弾薬よりも扱いにくくなってしまうという欠点があるものの、その破壊力は魔物たちの外殻を貫通するには十分であったのである。彼らの戦いによって、”魔物の外殻の貫通には最低でも6.8mm弾が必要”という事が立証されたのだ。

 

 そのためテンプル騎士団でも、彼らのように大口径の弾薬を使用している。それゆえに本来ならば5.45mm弾を使用するAK-12やRPK-12も弾薬を7.62mm弾に変更して運用されている。

 

 だからといって小口径の弾薬が消え失せてしまったというわけではない。そういった小口径の弾薬は、”対人戦のみ”を想定しているスペツナズや、あまり大型の武器を携行できないシュタージのエージェントたちによって愛用され続けている。

 

「撃ちまくれ!」

 

「おい、弾薬を持ってこい!」

 

「ほら、ここにある!」

 

 傍らにいる仲間にアサルトライフルで援護してもらいつつ、機関銃の射手は大急ぎで弾薬の入った箱の中から12.7mm弾が連なるベルトを引っ張り出す。上部のカバーを開けてその中へとベルトを放り込み、カバーを閉じてコッキングハンドルを思い切り引っ張る。がちん、と重々しい音を銃声の轟音の中へと解き放ったKord重機関銃のグリップを握った兵士は、再びアイアンサイトを覗き込んで弾幕を張る。

 

 マズルフラッシュの向こうで砕け散っていく魔物の群れを見つめながら、その射手は頭上にいるドラゴンに襲われないことに安心していた。

 

 ドラゴンは堅牢な外殻を身に纏う強敵である。その外殻で人間の放つ弓矢や魔術を弾き飛ばし、強靭な爪や灼熱のブレスで全てを焼き尽くしてしまう恐ろしい存在だ。そのため、産業革命で武器の威力が劇的に向上した現在でも、ドラゴン討伐に向かう場合は、たとえ相手が1体だけでも一個中隊を投入することがあるという。

 

 ドラゴンたちの襲撃で命を落として言った冒険者は数えきれない。魔物に襲撃されて命を落とした冒険者のうち4割はドラゴンによって殺された者たちだと言っても過言ではないのだ。

 

 しかしその恐ろしい怪物たちは、空に釘付けにされている。

 

(航空部隊のおかげだな)

 

 おそらく、大急ぎで飛行場から飛び立ったのだろう。頭上の様子は砂塵のせいで何も見えないが、先ほどから蜂の巣にされたドラゴンたちの死体が砂漠の中へと墜落しているのが見えている。

 

『こちら増援部隊。守備隊の同志諸君、聞こえるか?』

 

「こちら守備隊、どうぞ」

 

『これより諸君らを全力で援護する』

 

 無線機の向こうから聞こえてきた少女のような声を聴いた指揮官は、もうこの戦いが終わることを確信していた。

 

 なぜならば、増援部隊を率いているのは―――――――あの”円卓の騎士たち”なのだから。

 

 円卓の騎士は、あくまでもテンプル騎士団の上層部で会議を行う”議員”たちに過ぎず、テンプル騎士団を創設したメンバー以外の円卓の騎士は住民や兵士たちの選挙によって選ばれる。そのため、円卓の騎士であるからといって最強の兵士の1人であるということではない。

 

 しかし、最前線で戦う兵士たちから見れば、円卓の騎士はまさに騎士団の力の象徴と言っても過言ではなかった。

 

 その円卓の騎士たちが増援に来てくれたのだから、負ける筈がない。双眼鏡を覗き込みながら魔物たちの群れの状況を確認していた指揮官は、ヘリから降下していく黒服の兵士たちの姿を見て息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 操縦桿を右へと倒し、そのまま機体を旋回させつつキャノピーの外を見る。地上から舞い上がった砂で段々と視界が悪くなりつつあるものの、俺が叩き落すべき敵の姿はまだ辛うじて見えている。

 

 ちらりと一瞬だけキャノピーの下の方を見てみると、上顎から上を消し飛ばされたやや小さめのドラゴンが、ぐるぐると回転しながら砂塵の中へと消えていくところだった。もしこの風がなくなって視界が良くなったら、砂漠の上にはドラゴンの死体がいくつも鎮座しているに違いない。

 

 もう既にドラゴンは6体くらい撃墜した。地上に無事に戻れたら、エースパイロットと呼んでもらえるだろうか?

 

 祖父や先祖のようにエースパイロットになる事ができたというのに、達成感を味わう余裕はない。一刻も早く旋回し、突進しながら機銃と機関砲を掃射して敵の数を減らさなければならないのだ。武装の残弾数も気になるが、一番気になるのは燃料の方だ。

 

 メッサーシュミットBf109は速度の速い戦闘機ではあるが、飛行可能な距離は他国の戦闘機と比べると劣ってしまう。幸い燃料はまだ残っているものの、あまりドラゴンとの戦いに時間をかけ過ぎれば燃料切れで墜落してしまう。

 

 もしそうなったら、ドラゴンの空襲と地上の魔物たちに挟み撃ちにされてしまう。あの化け物の群れの襲撃をルガーだけで迎え撃つのは不可能だろう。

 

 旋回を終え、機銃の照準器を覗き込む。

 

 残ったドラゴンは3体。一番最初に撃墜してやったドラゴンのボスと比べると小柄だが、それ以外のドラゴン共と比べるとがっちりした体格だ。

 

 そのうちの1体が、さすがに何体も仲間を撃墜されていることを警戒したのか、こっちへと突進するのを途中で止めてしまう。そのまま急に降下し始めたかと思いきや、のこった2体のドラゴンへと向かう俺の斜め下から襲撃しようとしていたらしく、急上昇を始めた。

 

 真正面からは2体のドラゴン。斜め下からは1体のドラゴンの奇襲。

 

 ここで上昇するのは愚の骨頂だ。もちろん旋回して回避しようとすれば、絶対に後ろにつかれてしまう。

 

 ならば―――――――あいつから仕留める!

 

 操縦桿を思い切り倒し、機体の下部を天空へと向ける。照準器の向こうに見える2体のドラゴンの姿が逆さまになり、キャノピーの真上に砂塵の舞う大地が広がる。

 

 そのまま操縦桿を手前へと引くと―――――――照準器の向こうに、俺の斜め下から奇襲を仕掛けようとしていたドラゴンが、完全に逆さまになった状態で姿を現した。

 

 体格は上にいる2体よりもがっちりしている。口から炎を覗かせて咆哮し、突っ込んでくるドラゴンへと照準を合わせてから、機銃ではなくモーターカノンの発射スイッチを押した。

 

 ドン、とプロペラが吹っ飛んだのではないかと思ってしまうほどの轟音と衝撃が、メッサーシュミットBf109の機首で産声を上げる。プロペラの軸を砲身にしたモーターカノンから、20mm弾が真正面へと放たれたのだ。

 

 7.92mm機銃と比べると破壊力は圧倒的に上。しかし弾数は少ないため、ここぞという時にだけ使うことが望ましい。

 

 だからそれほど連射はせず、3発ほど発射されたのを確認してからすぐに発射スイッチから手を離し、逆さまになったまま操縦桿を思い切り引いた。こっちに向かってくるドラゴンの巨体が機体の機首へと隠れてしまう直前に、翼の一部と思われる物体が俺の機体を追いかけるように地上へと落下していったかと思うと、続けざまに真っ赤な飛沫が青空の中へと飛び散り、巨大な何かがメッサーシュミットBf109の胴体のすぐ近くを通過していく音が聞こえた。

 

 きっと胴体の下部は血まみれだろうなと思いつつ、操縦桿を引き続ける。大地がキャノピーを埋め尽くしたかと思うと、やがてその光景すら機体の機首の影へと隠れていき、再び青空が俺を出迎えてくれる。

 

 モーターカノンで撃ち抜かれたさっきのドラゴンが、肉片を巻き散らしながら墜落していく。どうやら3発の20mm弾で首と片方の翼を捥ぎ取られたらしく、長い首の先にある筈の恐ろしい顔と、右側の翼が見当たらなかった。

 

 仲間との挟み撃ちに失敗したドラゴンが大慌てでこっちへと旋回してくるが、こっちが機銃をぶっ放せる前に旋回が終わる様子はない。

 

 照準器を覗き込むと、まだ赤黒い外殻から伸びた棘がいくつも生えているドラゴンの武骨な背中が見える。

 

 今からその背中も、蜂の巣になるのだ。

 

「―――――――じゃあな」

 

 必死に旋回を続けるドラゴンの背中へと、容赦なく機銃とモーターカノンを叩き込んだ。2つの武装のマズルフラッシュが一瞬だけキャノピーを埋め尽くし、猛烈な轟音がプロペラの音すらかき消す。マズルフラッシュの残滓と火薬の臭いが後方へと置き去りにされた頃には、照準器の向こうのドラゴンの背中には無数の風穴や大穴が穿たれており、外殻の割れ目からは粉砕された背骨の一部や内臓のようなものが覗いていた。

 

 口から炎の代わりに血を吐き出し、墜落する戦闘機が吐き出す黒煙の代わりに鮮血を空へとまき散らしながら、ドラゴンが墜落していく。

 

 残りは1体だ。

 

 最後の生き残りは墜落していく仲間を見つめてから、こっちを睨みつけて咆哮する。

 

 やはり、空を統べるべきなのはお前らではない。科学力が生み出した戦闘機であるべきだ。

 

 だからお前らなんかは、この戦闘機の敵ではない…………!

 

 操縦桿は倒さず、機体を加速させ続ける。機首の向こうに広がる青空を突き破ろうとするかのように上昇を続けるメッサーシュミットBf109の後方から、生き残った最後のドラゴンが追撃してくる。

 

 機動性ではこの機体と同等かもしれないが―――――――速度では大きな差がある。

 

 そう、こっちの方が速度では上なのだ。それゆえに機動性が同じでも速度が全く違うならば、もう勝負にはならない。

 

 仲間を殺した俺を追いかけてくるドラゴンまで、どんどん置き去りにされていく。

 

 十分に距離が開いたところで―――――――操縦桿を手前に引いた。

 

 がくん、とメッサーシュミットBf109の機首が更に上を向き、天空を隠してしまう。

 

 このまま宙返りして、ドラゴンの背中を撃ち抜いてやる。

 

 やがて青空が完全に機首と主翼の陰に隠れてしまい、その代わりに砂塵の舞う砂漠がキャノピーの向こうに広がる。俺はこのままドラゴンの背中を撃ち抜くつもりだが、当然ながらそのドラゴンも真っ直ぐに突っ込んでくるわけではない。仲間を殺した怨敵を追いかけているわけなのだから、宙返りを試みるこっちを追撃している事だろう。

 

 案の定、ドラゴンは口から無意味に炎を吐き出しながら追いかけてきていた。完全に血走った眼でこの機体を睨みつけ、咆哮を上げながら迫ってくるドラゴン。いくら速度でこちらが有利とはいえ、宙返りの最中ではその速度は生かせない。

 

 もう少しだ。もう少し近づけ…………。

 

 キャノピーの向こうから迫ってくるドラゴンの炎と火の粉がはっきりと見えるようになった瞬間、俺はそこで機体を減速させた。

 

 機首で回転を続け、凄まじい轟音を発し続けていたプロペラが回転速度を落としていく。やがてはっきりと見えるくらいの速度まで低下したかと思うと、先ほどまで勇ましく回転していたプロペラが弱々しい音を発しながら、ぴたりと止まってしまう。

 

 そうなれば、もちろん速度も落ちる。メッサーシュミットBf109が誇る最大の長所は、プロペラの停止と共に死ぬ。

 

 しかし、それでいい。

 

 エンジンが止まれば、飛行機は地上へと落下していく鉄の塊に過ぎない。

 

 もう既にドラゴンはすぐ近くまで接近していたが―――――――全速力でこっちを追いかけてきていた上に、仲間を殺されて激昂していたのだろう。いきなりプロペラを停止させて減速し、段々と地上へ落下し始めたメッサーシュミットBf109を捉えることができず、全力の突進は見事に空振りしてしまう。

 

 悔しそうな咆哮がキャノピーの中にも聞こえてくる。

 

 それが遠ざかっていくのを聴きながら、再びエンジンを再起動。一時的に眠っていたプロペラが回転を始め、再び轟音をコクピットの中へと響かせ始める。

 

 すぐに操縦桿を引き、機首を天空へと向ける。先ほど突進を空振りしたドラゴンも宙返りを始めたようだが、突進にスタミナを使った上に、まだその突進の勢いを自分で殺し切れていないらしい。先ほどの旋回よりも、その速度は鈍い。

 

 こっちは機械だから、故障したり燃料が切れない限りは”疲れない”。でもドラゴンは生き物だから、”燃料切れ”は無くても疲れてしまう。

 

 生物と機械の違いさ。覚えておけ。

 

 照準をまだ宙返りする途中のドラゴンへと向けた俺は、ニヤリと笑いながらモーターカノンの発射スイッチを押した。

 

 機首のモーターカノンが火を噴き、巨大な弾丸を立て続けに放つ。

 

 一瞬で消えていくマズルフラッシュの輝きの向こうで、20mm弾を一気に叩き込まれたドラゴンの巨体がバラバラになっていった。

 

 

 

 


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