異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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円卓の騎士たちの会議

 

 タンプル搭の地下には、巨大な円卓が設置された会議室がある。30人分の木製の椅子と一緒に会議室の中に鎮座するそれは、ここに腰を下ろす事を許された者たちのための席であり、いつもは定期的にここで会議が行われている。

 

 議題は主に、徐々に成長しつつあるテンプル騎士団という組織の今後の活動方針や、兵士や住民たちからの要望だ。例えばもう少し食料を増やしてほしいという要望があれば地下にある畑を拡張して人員を増員したり、コストがかかってしまうが商人からの食糧の購入を積極的に行ってそう言った問題点の解決を図るようにしている。

 

 ここで会議をする議員は、基本的に俺やラウラなどのテンプル騎士団本隊やシュタージのメンバーに加え、住民たちからの投票で決められた者たちだ。

 

 この円卓の席に腰を下ろす事を許された者たちは、”円卓の騎士”と呼ばれる。簡単に言えば議員のようなものだ。だから別に実力者の象徴というわけではないのだが、どういうわけか選挙で選ばれた者たちも含めて兵士の中でも極めて高い戦闘力を持つ猛者ばかりが選ばれてくるせいで、円卓の騎士は精鋭部隊のような扱いになってしまっているという。

 

 確かに、選挙で選ばれてきた奴らはどいつもこいつもがっちりした体格である。

 

「―――――――というわけで、本日の議題は資金の獲得方法だ。現時点では兵士全員に冒険者の資格を取ってもらい、訓練も兼ねてダンジョンの調査に派遣しているのは分かっていると思うが、住民や兵士の増加によってこれでは段々と賄いきれなくなりつつある」

 

 訓練を終えて部隊に配属された兵士には、その日のうちに冒険者の資格を取ってもらい、訓練も兼ねてダンジョンへと派遣している。その報酬の中から2割か3割を組織の運営資金として納めてもらい、残った分の報酬を彼らの物として受け取ってもらっている。

 

 運営資金として回収する分は少ないようにも思えるが、ダンジョンの調査は当たり前だが命懸けであり、場合によっては危険度が低いという情報があるダンジョンでも危険な魔物と遭遇することもあるので、調査に行った兵士が受け取る報酬の量は極力多めにしている。

 

 いくら運営資金が不足しつつあるとはいえ、彼らが必死に調査して得てきた報酬を取り上げるような真似はしたくない。今までダンジョンの調査をしてきたからこそ、実際に命懸けで調査する冒険者たちの苦労はよく分かる。

 

 だから報酬の中から収めてもらう額を増やすのは論外だ。これ以外の方法を模索するしかない。

 

「何かいい案はないか?」

 

「さすがに、我らの武器を売るわけにはいきませんよね………」

 

「うーん…………それは無理な話だ、同志。俺たちの武器を売れば、すぐに戦争になるぞ」

 

 もし仮に商人たちに大量の銃を売ると言えば、飛びついてくる商人たちは後を絶たなくなるだろう。なぜならばテンプル騎士団が売るといった武器は、かつてモリガンの傭兵たちと共に大きな戦果をあげた異世界の飛び道具なのだから。

 

 魔力を一切使わないために探知することは不可能。射程距離は弓矢を凌駕し、攻撃に移るまでの時間は魔術を遥かに上回る。更に防具での防御も不可能で、武器によっては魔術による防御も不可能。当たり前だが剣や槍を持った騎士たちでは相手にならない。

 

 そんな兵器が世界中の騎士団に行き渡れば、間違いなく新たな争いが産声を上げる。

 

「同志、我が騎士団には優秀なドワーフやハイエルフの職人が何人もいますし、何かを作って販売するというのはどうでしょう?」

 

「それはいい! 同志、そうしましょう!」

 

「それも悪くないが…………」

 

 武器ではなく、何かを作って売るというのは名案だ。カルガニスタンはフランセン共和国のおかげで発展しつつあるとはいえ、まだ”発展途上国”である。生活の役に立つ物を販売すれば、きっと凄まじい勢いで売れる事だろう。

 

 それにテンプル騎士団が保護した奴隷たちの中には、かつては職人として働いていた者たちも多い。実際に彼らの持つ技術で我々はかなり助けられている。

 

 しかし…………やはりこの案にも問題がある。

 

「モリガン・カンパニーには”フィオナ博士”がいるんだよなぁ…………」

 

「あぁ…………」

 

 頭を抱えてしまう円卓の騎士。彼に頭を下げつつ、俺も溜息をつく。

 

 モリガン・カンパニーには、フィオナ博士という天才技術者がいる。モリガンの傭兵の1人であり、産業革命の発端となったフィオナ機関を製造した張本人だ。しかも当たり前のように新発明を繰り返して特許を取り続けており、今までに取った特許の数はもう既に数えきれないほどだという。

 

 しかもモリガン・カンパニーにはちゃんとカルガニスタン支社があり、そういった発明品の販売も行っている。確かに奴隷だった職人たちが発明したものを販売するのはいい案かもしれないが、そうなればあの天才技術者(マッドサイエンティスト)と勝負する羽目になる。

 

「団長さんよ、あの博士には俺らじゃ勝てねえ。格が違い過ぎるぜ」

 

 席に腰を下ろすドワーフのバーンズさんも、腕を組みながら息を吐いた。居住区の拡張や設備の新設だけでなく、鍛冶職人まで請け負っているバーンズさんの技術力はテンプル騎士団の職人の中でもトップクラスと言えるが、そのバーンズさんが腕を組みながら負けを認めてしまうほどの大きな差があるのだ。

 

 やっぱりモリガンは手強い…………。

 

「同志団長、では私の案を聞いてもらえますでしょうか」

 

「どうぞ」

 

 手を上げたその円卓の騎士の1人は席から立ち上がると、この円卓の席に腰を下ろす議員たちを見渡してから咳払いする。

 

 なんだこいつ…………。

 

「この騎士団には、美しい少女たちが何人も所属していますよね?」

 

 なんだか変な案が飛び出しそうな気がする。粛清の準備をしておくべきだろうか。

 

 ちなみに、テンプル騎士団の志願兵のうちの4割は女性である。大半はラウラが訓練をしている狙撃部隊や後方の砲撃部隊に所属するか、治療魔術や治療技術に特化したメディックを担当してもらっているが、中にはショットガンを装備して先陣を切る勇敢な兵士もいるという。

 

 もちろん男女で差別は起きていないし、休日の日はよく街へと出かけていくカップルも見受けられる。

 

「それで?」

 

「はい。この少女たちに協力していただき、風ぞ―――――――」

 

 ごとん、とわざとらしく音を立てて、俺はソードオフ型に改造した愛用のウィンチェスターM1895を円卓の上に置いた。ついでに5発の7.62×54R弾をその傍らに並べる。

 

 銃床が取り外されている上に銃身もかなり短く切り詰められているため、ループレバーのついた古めかしいフリントロック式のピストルのようにも見える。でっかいピープサイトのついたそれのループレバーを引き、上部のハッチからやはりわざとらしくライフル弾を1発だけ装填すると、今しがた意見を言ったバカは顔を青くしながら息を呑んだ。

 

「こいつの弾数は5発だ、同志。変な意見が出る度に1発ずつ装填していく。…………全部入ったらどうするかは言うまでもないよな?」

 

「…………す、すいません」

 

 まったく…………。彼女たちにそんなことをさせるわけがないだろうが。

 

「ふにゅー…………お姉ちゃんはタクヤが相手だったら大丈夫だけどなぁ♪」

 

「俺以外が相手になるから問題なんだよ」

 

「ふにゃっ!?」

 

 というか、大問題である。

 

 ため息をつきながら紅茶の入ったカップを持ち上げて口へと運ぶと、ニヤニヤと笑いながら座っていたクランがいきなり手を上げて立ち上がった。

 

「はーい! じゃあメイド喫茶にしちゃいましょうっ♪」

 

「「ブッ!?」」

 

 め、めっ、メイド喫茶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

 いきなりそんなことを言われて、びっくりした俺は飲んでいた紅茶を吹き出してしまう。どうやらケーターも同じタイミングで紅茶に口をつけていたらしく、自分の彼女がいきなりそんなことを言い出して吹き出してしまったらしい。

 

「ゲホッ、ゲホッ!?」

 

「ゲホッ…………くっ、クラン!? 本気か!?」

 

「ええ。一回でいいからメイド服を着てみたかったのっ♪」

 

「いいですねぇ、きっと似合いますよ! ケーター、承認するべきです!」

 

「落ち着けガスマスク馬鹿ァ! 確かに可愛いだろうけど、他の男に『ご主人様っ♪』って言わせるのは許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」

 

「きゃあああ!? け、ケーターさん、暴れないで!」

 

「お、落ち着け! 暴れるなって!」

 

「離せ坊や(ブービ)ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! クランは俺の女じゃあああああああああああ!!」

 

「も、もう、ケーターったら…………ふふっ、”俺の女”かぁ♪」

 

 楽しそうですね、シュタージの皆さん。でも今は資金獲得の手段の話し合いをしているので、そういう話は部屋に戻ってからにしてください。部屋で話し合うならどれだけイチャイチャしても構いませんから。

 

 それにしても、メイド喫茶か…………。そういえば、前にナタリアが俺の部屋でメイド服を着てくれたことがあったな。いつもしっかりしてて強気な彼女が「ご主人様」って言ってくれた時は、多分俺の顔は真っ赤だったことだろう。

 

「はぁっ、はぁっ…………」

 

「落ち着いた?」

 

「な、何とか」

 

「ふふっ。…………安心しなさい。私の”ご主人様”はケーターだけだからっ♪」

 

「お前、最高の女だよ」

 

 もう一発装填していいかな? 話が進まないんだけど。

 

「はい、お兄様」

 

「カノンか」

 

 絶対まともな案じゃないよね。

 

 椅子から立ち上がったカノンは胸を張りながら咳払いすると、何故か俺とラウラを見てニヤリと笑う。その時点で俺の右手は反射的に7.62×54R弾を掴み、装填する準備を終えていた。

 

「簡単ですわ。”少女のような容姿の弟とヤンデレの姉の恋愛を描いた成人向けのマンガ”を書店で販売すればすぐに―――――――」

 

 はい、装填。

 

 がちん、とまたライフル弾がレバーアクションライフルに装填される音が響き渡り、誇らしげに意見を発表していたカノンがゆっくりとこっちを見てから青ざめる。

 

「なるほどね、少女のような容姿の弟とヤンデレの姉の恋愛かぁ…………。凄まじく聞き覚えのある恋愛だなぁ? しかも成人向けぇ? …………ふっふっふっふっふっ…………いやー、ユニークな意見だな、同志カノン」

 

「ひぃっ!?」

 

 もう1丁のレバーアクションライフルを左手で何度もスピンコックしながらカノンをじっと見ていると、彼女はぶるぶると震えながらゆっくりと着席した。

 

 少し脅しすぎたかな。

 

「はい! 次は僕!」

 

「どうぞ」

 

「ええと、鉱山の発破! 爆破できるじゃん!」

 

 タンプル搭の地下の鉱脈以外に鉱山は殆どないんだけど…………。しかもタンプル搭の地下の発破ももう既にお前がやってるじゃん。もちろん”爆破できるから”という乙女の願望とは思えない物騒な理由で。

 

「ごめん、まだまともだけど却下」

 

 というか、この意見がまともに思えるほど凄まじい意見を出してる奴らは何なんだろうか。ここにいるのって、主要メンバーを除けば選挙で選ばれた奴らだよね?

 

「じゃあクソ野郎の爆破!」

 

「それはいつもやってる」

 

「うーん…………難しいねぇ」

 

 難しいよねー。

 

 とりあえず、俺も何か意見を考えよう。他人に任せるのはよくないし、多分この調子だと日が暮れるまでまともな意見が出ることはないだろう。向かいの席にいるやつらはなんだかニヤニヤ笑いながら変な雑談始めてるし。どうせ変な意見の準備でもしてるんだろ。

 

 ちくしょう。もう一発装填してやる。

 

「同志、クソ野郎共から金目の物を奪うというのは? 少しは資金の足しになると思いますが」

 

「悪くないが、そういう奴らが巻き上げた金は、元は虐げられていた人々の物だ。それを盗ったら俺たちまで同じになっちまう」

 

「ダメですか…………」

 

「ああ。だが悪くはない案だ。もっとこういう案を出してくれ」

 

 さっきのメイド喫茶とか成人向けマンガよりははるかにマシだ。というか、どうしてみんなふざけるんだろうか。

 

「ねえ、私に案があるんだけどいいかしら?」

 

「「「お?」」」

 

 このまま変な案ばかり聞いてライフル弾を装填し続ける作業が始まるのだろうかと思って諦めかけていた、その時だった。

 

 俺の右隣の席に腰を下ろしていたナタリアが―――――――手を上げてくれたのである。

 

 いつも厳しい少女だけど、こういう時は本当に頼りになる。相変わらず彼女のビンタは痛いけどね。

 

「どうぞ」

 

「みんな聞いて。転生者戦争や日々の転生者の討伐を経験して、テンプル騎士団は確実に成長しているわ。―――――――そこで、そろそろテンプル騎士団も”傭兵ギルド”の真似事をしてもいいんじゃないかしら?」

 

「傭兵ギルド?」

 

「同志ナタリア、つまりそれって…………あのモリガンのように、傭兵になるという事でありますか?」

 

「そういうこと。私たちにはそれなりの物量もあるし、練度も上がっているわ。その辺の盗賊や騎士団には負けないくらいの力がある」

 

 傭兵ギルドか…………。確かに報酬は高額だし、ダンジョンが全て解き明かされれば仕事がなくなる冒険者と違って、傭兵はいろんな仕事がある。魔物の退治はもちろんあるし、盗賊団の討伐や要人の暗殺のような汚れ仕事も相変わらず多い。

 

 どの仕事も、戦闘で培った俺たちの力をフル活用できる魅力的な仕事ばかり。テンプル騎士団の兵士たちから見れば、天職としか言いようがない。

 

「いい案だ。…………だが、ナタリア。傭兵という分野には、もう既にモリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)という二大勢力が鎮座している。傭兵として名乗りを上げるという事は―――――――彼らと依頼の最中に激突するという最悪のシナリオもあり得るという事だ」

 

 一番恐ろしいのは、それだ。

 

 依頼を受けた傭兵が、敵の勢力が雇った傭兵と仕事の最中に殺し合いに発展してしまうのは決して珍しい事ではない。例えば騎士団から盗賊団の討伐を依頼された傭兵が、事前にそれを察知していた盗賊団が雇った凄腕の傭兵と戦う羽目になり、拠点に辿り着く前に全滅してしまったという事例も存在する。

 

 もし仮に、依頼の最中にその二大勢力が派遣した傭兵部隊と遭遇してしまったら―――――――はっきり言うと、勝ち目はない。何度も実戦を経験した兵士ばかりだし、中には転生者戦争を2回も経験したベテランもいるという。

 

 それに対し、こっちは辛うじて第二次転生者戦争から生還した新兵や、ごく少数のベテランのみ。兵器の質では同等かもしれないが、その物量や、それを扱う兵士の錬度では大きく劣ってしまっている。

 

「そう言うと思ったわ」

 

「え?」

 

「安心しなさい。ちゃんと解決策もセットで考えてあるの」

 

 さすが参謀総長。

 

 ナタリアは誇らしげに胸を張ると、こっちを見ながらウインクする。

 

「その二大勢力と交渉するのよ。『万一仕事の最中にこちらの勢力と敵対する羽目になった場合、ただちに双方の受けている依頼を破棄して離脱する』という規定を定めるためにね」

 

 なるほど。それなら”身内”で殺し合う危険性もなくなる。

 

 引き受けた仕事を破棄する羽目になるが、そうすれば少なくとも同盟関係にある勢力と敵対することはなくなるというわけだ。とはいえいきなりそんなことをすればクライアントも反発するだろうから、依頼する際の注意事項にこの規定を書いておけばいい。

 

「もちろん報酬は全額後払いにしてもらう。それを利用して私たちを騙し討ちしようとするクライアントだったら、逆にそのクライアントを殲滅して報酬分の金品を貰っていけばいいわ。そうすればちゃんと元も取れるし」

 

「名案だ。みんなはどう思う?」

 

「悪くないですね。自分は賛成です」

 

「自分もです」

 

 よし。

 

 こういう新しいルールや法案をここで審議する場合、テンプル騎士団は円卓の騎士全員の承認がなければならないというルールがある。理不尽な強行採決を防ぐためのルールだ。

 

 だが、今のところ反発する議員は見受けられない。これならばこれはあっさりと承認されるだろう。

 

 面白いじゃないか。俺たちもただの武装組織ではなく、ちゃんとした民間軍事会社(PMC)に生まれ変わるのだから。

 

 それに実戦に出れば、兵士たちの錬度も上がる。資金も報酬で得られるから一石二鳥というわけだ。

 

 誇らしげに席に腰を下ろし、腕を組むナタリア。こっちを見ながら顔を赤くする彼女に向かって微笑んだ俺は、テーブルの上に置いていたレバーアクションライフルをホルスターへと引っ込めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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