異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
テンプル騎士団の軍拡
フランセン共和国の植民地となっているカルガニスタンの国土の大半は、広大な砂漠に覆われている。フランセンの騎士たちによってある程度開拓されるまでは、砂漠の真っ只中にあるオアシスにぽつんと小さな村がある程度で、海外の人々たちに介入される前までは、先住民たちは太古からの掟に従って生活していた。
今ではオアシス以外の場所にも開拓が進み、各所に海外の企業が進出して、急速に先進国へと追いつきつつある。
そのような面だけを見れば、ここも”豊かな国”と言えるかもしれない。けれどもよく見てみれば、その”豊かさ”を謳歌しているのはカルガニスタンを占拠するフランセンの騎士や貴族のみ。殆どの先住民たちは奴隷として売られるか、その豊かさを謳歌できずに、昔と同じ生活をしているのが当たり前だ。
しかし、きっとそれは近いうちに変わるだろう。
人々を虐げるクソ野郎共は、確実に減っているのだから。
『――――――”アクーラ1”より”ウォースパイトⅡ”へ。目標は救出した』
「了解(ダー)。こっちでも確認した。直ちに離脱し、タンプル搭へ帰投せよ」
『了解(ダー)、同志。幸運を祈る』
車長用のハッチから身を乗り出し、首に下げている双眼鏡で目標の大きな馬車を確認する。夜の砂漠の冷たい風を浴びながら双眼鏡をズームさせると、砂漠の砂を舞い上げながら漆黒のカサートカが舞い上がりつつ、乗組員がドアガンで地上へとフルオート射撃をぶちかましているところだった。
ヘリは戦車や装甲車と比べると装甲は薄い。しかし、いくら装甲が薄いからとはいえ、クロスボウや古めかしい弓矢でヘリを撃墜するのは不可能だ。
双眼鏡をヘリの下へと向けると、頭上のカサートカへと弓矢や旧式のクロスボウで応戦する騎士たちが見えた。一見するとフランセンの騎士たちにも見えるが、防具にフランセン共和国騎士団に所属していることを意味するエンブレムはなく、防具の規格もバラバラだ。正規の騎士団でないことは一目瞭然である。
そしてその傍らで沈黙しているのは、巨大な鉄格子のついた牢獄を彷彿とさせる荷台のある荷馬車。典型的な”奴隷運搬用”の荷馬車であり、奴隷の売買をする商人たちがよく使用する。街の中でも目にすることのある忌々しい荷馬車である。
しかしその鉄格子はひしゃげていて、中に奴隷が残っている形跡はない。なぜならばその鉄格子の向こうにいる筈だった”積み荷”は、もうカサートカの兵員室の中に収容されているからだ。操縦士は『ど、同志! 重量オーバーギリギリです!』と泣き言を言っていたが、彼はテンプル騎士団の誇る優秀なパイロットの1人である。多少ふらつくかもしれないが、無事に帰投してくれることだろう。
あとは、俺たちが”仕上げ”をするだけだ。
「”ウォースパイトⅡ”より”ドレットノート”へ。スペツナズは目標を救出した」
無線機に向かってそう報告しつつ、ちらりと自分の乗る戦車の左側に停車する同型の戦車を見つめる。
がっちりとした装甲に覆われた車体の上に、長い砲身の突き出た砲塔が乗っているのだが、その砲塔の形状は以前からテンプル騎士団で運用しているエイブラムスやチャレンジャー2と比べると、一風変わったユニークな形状をしている。
エイブラムスやチャレンジャー2と異なり、砲塔の前面のみはまるで円盤のような形状をしているのである。装甲で覆われた円盤のようにも見える砲塔の後部は形状が変わっており、がっちりした形状となっている。まるで円盤を半分に切り取り、その後端に西側の戦車を彷彿とさせる形状の砲塔の後部を取り付けたような異質な砲塔だ。
この戦車は、かつてロシア軍が正式採用する筈だった『チョールヌイ・オリョール』と呼ばれる
ロシアで採用されている戦車を凌駕する性能の新型戦車を開発するために設計された戦車であるが、最終的には開発は中止され、T-14に取って代わられることになる。
このチョールヌイ・オリョールが、テンプル騎士団で新たに正式採用することになった戦車のうちの1つだ。
先月に終結した第二次転生者戦争で、テンプル騎士団と殲虎公司(ジェンフーコンスー)とモリガン・カンパニーの連合軍が勝利したものの、吸血鬼たちの凄まじい反撃によって3つの勢力は大きな損害を被ることになった。その中でもテンプル騎士団は、その際に運用していたエイブラムスの大半を戦闘で喪失することになり、戦車部隊は壊滅的な大打撃を受けることになった。
その原因は―――――――やはり、最終防衛ラインで敵が投入した改良型のマウスとラーテによる、強力な遠距離砲撃である。複合装甲ですら受け止めきれないほどの大口径のAPFSDSや
そのため、エイブラムスの代わりに新たな戦車を運用することになったのである。
とはいえあのような戦車を最前線に投入してくる転生者がいる可能性は低いし、あんな大口径の主砲から放たれる砲弾を受け止めるのは無理があるので、とりあえず防御面は装甲の増設やアクティブ防御システムの装備でカバーしつつ、主砲を可能な限り大型化することによる攻撃力の増強でカバーすることになった。
まず、このチョールヌイ・オリョールの主砲を変更した。本来は従来のロシア製戦車と同じく125mm滑腔砲を搭載しているのだが、少しでも火力を底上げするため、主砲をロシア製の”152mm滑腔砲”に換装。重量が大幅に増え、弾薬庫に搭載できる砲弾の数も減少してしまった上に車体と砲塔のサイズも大きくなってしまったものの、場合によっては最新の戦車の正面装甲を貫通できるほどの破壊力を誇る。更にはこの戦車砲から対戦車ミサイルも発射できるため、攻撃力は最新型
砲塔のハッチには、14.5mm弾を使用するロシア製重機関銃のKPVを装備。主砲同軸にはこれを改造したKPVTを搭載しており、歩兵だけでなく装甲車などにも多少は損傷を与えることが可能だ。
防御力は爆発反応装甲や複合装甲の増設で補いつつ、ロシア製アクティブ防御システム『アリーナ』を搭載。アリーナはロケット弾を射出するアクティブ防御システムで、一緒に搭載されているレーダーで接近してくる対戦車ミサイルやロケット弾を察知し、ロケット弾の爆風で攻撃を迎撃することが可能なのである。
高性能な戦車だが、さすがに生産に必要なポイントが高く、このチョールヌイ・オリョールのみで戦車部隊を編成するのは不可能であるため、よりコストの低いロシア製戦車の『T-90』や『T-72B3』も一緒に運用することにしている。
俺たちが乗るチョールヌイ・オリョールには、『ウォースパイトⅡ』というコールサインがつけられている。あのヴリシアの戦いで撃破されてしまったウォースパイトの名前を受け継いでいるのだ。
『こちらドレットノート。これより砲撃を開始するわ』
「了解(ダー)、俺たちも砲撃を開始する。全部焼き払ってやれ」
照準はもちろん、まだヘリに向かって攻撃を続けているバカ野郎共だ。
正規の騎士団ではないという事は、おそらくどこかの貴族の私兵たちか? だが防具の規格がバラバラという事は、ただの傭兵たちかもしれない。貴族の私兵の装備は騎士団と同じ規格であることが多いからな。
とりあえず、そういうことを考えるのは止めよう。数秒後には爆風と破片でバラバラにされている連中の事なのだから。
双眼鏡から目を離しつつハッチを閉め、車長用の席に腰を下ろす。チョールヌイ・オリョールを運用するために必要な乗組員は、操縦手、砲手、車長の3人だけでいい。自動装填装置が装備されているから、砲弾を砲身に装填する装填手は不要なのだ。
というか、152mm滑腔砲を装備しているのだから、そんなでっかい砲弾を手動で装填するのはどうしても骨が折れてしまう。だから自動装填装置の方が望ましい。
「イリナ、
「ふふふっ。僕、あれの爆発気に入ってるんだよね♪」
砲手を担当するイリナが、ニコニコと笑いながら自動装填装置に命令を下し、砲身に
「撃ち過ぎるなよ」
「はいはーい♪」
不安だよ、イリナ…………。
テンプル騎士団にはどういうわけか変人ばかり集まるんだが、その中でもイリナはトップクラスの変人である。
兄であるウラルの話では、彼女はどういうわけか”爆発が大好き”らしく、魔術では初歩的な魔術を無視して爆発するような攻撃用の魔術ばかりを習得しており、現代兵器を手にしてからも武装の大半をグレネードランチャーや炸裂弾などの爆発する武器ばかりで統一しているのである。
そんな武装ばかり装備していたらいつか味方を巻き込むのではないかと思ってしまうが、現時点では1人も味方を巻き込んでおらず、しかも敵が密集している場所に的確に撃ち込んでくれるため、むしろ作戦が早く終わっている。
頼もしいんだけど…………よだれを垂らしてニヤニヤ笑いながら照準器を覗き込む彼女を見ていると、その頼もしさを全く感じない。
「へへっ…………へへへへへっ、いた。ああ………早く吹っ飛ばしたいなぁ♪」
「…………しょ、照準は?」
「ばっちりっ♪」
『こちらドレットノート。こっちもばっちりですわ』
普段は変態だけど、こういう時はカノンが真面目でまともな奴に見えるよ…………。
珍しく凛々しい妹分からの報告を聞いた俺は、これからイリナの容赦のない砲撃で木っ端微塵になる事になる敵を見つめながら、命令を下すのだった。
「あ、発射(アゴーニ)」
俺たちがヴリシアへ遠征に行く前と比べると、今のタンプル搭はまさに”要塞”と言えるほど発展していると言える。
戦車や戦闘機を収納するための格納庫はさらに拡張され、要塞の敷地内だけでなく周囲を取り囲む分厚い岩山の中にも、対空砲や巡洋艦の主砲に匹敵するサイズの要塞砲がこれでもかというほど設置された。どれだけ強大な兵力を率いて攻めてきても、慌てて逃げ出してしまうに違いない。
更に3ヵ所の入り口にある検問も警備が増強されており、以前までは無人戦車に改造したルスキー・レノ1両と警備兵が数名いる程度だったのだが、今では警備を担当する”警備班”の兵士たちが完全武装で警備をしており、場合によっては他の部隊と連携して侵入者や魔物を撃退することになっている。
警備班の兵士に敬礼をしてから戦車を奥へと進ませ、2つ目のゲートを通過する。
タンプル搭のシンボルともいえる巨大な要塞砲の群れを見上げながら、操縦手を担当するラウラに格納庫に進むように指示を出す。
タンプル搭の地表には無数の要塞砲や対空砲が設置されているが、基本的に指令を出す設備や居住区は装甲に守られた地下にあるのである。そのため、大型の爆弾でも投下しない限り、地下にある居住区に被害が出ることはない。
居住区で生活しているのは兵士だけではないからな。保護した奴隷たちや、兵士たちの家族も生活している。最早このタンプル搭は”城郭都市”や”要塞”というよりは、ちょっとした国と言える。
地下の格納庫へと続く隔壁が警報と共に開いていき、壁に設置されたランプが点滅する。隔壁を開けてくれた兵士に敬礼すると、ライトを点灯させたラウラが戦闘を終えたチョールヌイ・オリョールを格納庫へと進めていく。
「それにしても、随分とテンプル騎士団も大きくなったよね」
「ああ」
俺たちがいない間も、残った兵士たちは訓練と奴隷たちの救出に精を出し、ダンジョンの調査で資金を貯め続けてくれていた。おかげで志願兵や設備の拡張を行ってくれる人員も一気に増えており、軍拡は着実に進んでいる。
先ほど地上では、ウラル教官と一緒に志願兵と思われる兵士たちがランニングをしているところだった。あのランニングは兵士たちの間ではちょっとした名物と化しているようで、”要塞砲ランニング”と呼ばれている。ただ単に要塞砲の外周部をひたすらランニングするだけなのだが、一周でも3kmくらいの距離があるので、それを何週も続けていれば大半の志願兵はそこで音をあげてしまう。
けれども遅れれば、後ろを追いかけてくるウラル教官に蹴られるので、みんな必死に突っ走るのだ。
格納庫の中には、もう既に他のチョールヌイ・オリョールたちや、整備中のT-72B3が停車していた。
T-72B3も、ロシア製の
ちなみに冷戦の真っ只中に設計された旧式の戦車であるものの、T-72B3は今でもロシア軍で現役の戦車だ。
武装は125mm滑腔砲。機銃は12.7mm弾を使用するKordで統一しているが、各車両の車長の要望に合わせて兵装に差異がある場合がある。もちろんアクティブ防御システムも乗組員の生存性を高めるために標準装備してあり、すでに「ゴーレムが投擲した巨大な岩を迎撃して乗組員や随伴歩兵を守ってくれた」という逸話を耳にしている。
「お疲れさまであります、同志団長」
「整備お疲れ様」
砲塔のハッチから降りると、近くに停車しているT-72B3を整備していたエルフの整備した顔を上げて敬礼してくれた。オレンジ色のツナギに身を包んだ若いエルフの整備士の顔にはオイルが付着しており、基本的に肌が白い者が多いと言われるエルフの肌を彩っている。
彼は敬礼の最中にそれに気づいたらしく、慌ててツナギの袖でオイルを拭い去ってから仕事に戻った。どうやらエンジンの整備と弾薬の積み込みを並行して行っていたらしく、彼の後ろでは見習いと思われるダークエルフの少年が、12.7mm弾の入った箱を重そうに持ちながら砲塔の中へと運び込んでいるのが見える。
「ちゃんと休憩してくれよー」
「了解でーす!」
ずらりと戦車たちが並ぶ格納庫の中に反響する音を聞きながら、戦車から降りた仲間たちを連れて通路へと向かう。薄暗い格納庫の中は火薬とオイルの香りに常に支配されていて、毎日ここで戦車の整備をする整備兵たちの声や工具の音が響き渡っているのが当たり前だ。
ちなみに、さっきのエルフの整備兵も数ヵ月前までは奴隷だった。俺たちが保護した後に「何か手伝いがしたい」と申し出てくれたので、彼の希望を聞いて戦車の整備を任せている。
以前までは人員不足で満足に拠点を警備したり、部隊も編成できずに困っていたんだが、今では着々と人員も増えて様々な部隊が産声を上げつつある。そもそもこのテンプル騎士団の本部がここに建設された当初は、戦車を整備する整備兵はいなかったのだ。
人員が増えてくれたのは嬉しいが、今度は新しい問題も増えつつある。
「あー…………資金どうしよう」
「ふにゅー…………やっぱりお金が足りないよねぇ…………」
隣を歩くラウラと一緒に溜息をつきながら、財布の中に少ししか入っていない銀貨の数を数えてまた溜息をついてしまう。
そう、今のテンプル騎士団で一番大きな問題は、「人員の増加による資金不足」である。
いくら人員を集めて軍拡を薦めたとしても、このテンプル騎士団を構成するのは様々な種族の”人”である。さすがに彼らにタダ働きをさせるわけにはいかないからちゃんと給料を支払うようにしており、その資金を獲得するためにも兵士たちに冒険者の資格を取らせ、各地のダンジョンに訓練も兼ねて出撃させているんだけど、もうそれだけでは間に合わなくなりつつある。
確かに冒険者は大きな収入を得られるが、ダンジョンの難易度や発見した成果によって報酬の金額が上下するため、”当たり外れ”が大きいのだ。
今のところはウラルが積極的に新兵たちを簡単なダンジョンに派遣して経験を積ませたり、自分も精鋭部隊を率いて危険なダンジョンに調査に向かって資金を得てくれているけれど、やはり資金が足りなくなってしまう。
「何とかしないとなぁ…………。今度の会議の議題でもあげておくよ」
「大変だよね、団長って」
「そうなんだよねぇ…………戦闘が終わればデスクワークだし、訓練とか他の拠点の視察にもいかないといけないし、住民たちからの要望も聞いて色々と新しい規則を考えないといけないからさ」
最近、俺の睡眠時間も激減しつつあるからなぁ…………。
大変だけど、何とか頑張らないと。