異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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サキュバスの末裔

 

 サキュバスの伝説は、ママから何度も教えてもらった。

 

 様々な種族から魔力を吸い取り続けた悪いサキュバスたちは魔女と呼ばれ、彼女たち以外の種族によってついに絶滅されたという伝説。絵本でも何回か読んだし、この魔女狩りを題材にした小説や演劇は今でも街に行けば見る事ができる。

 

 私は今まで、サキュバスはもっと邪悪な種族なんだと思っていた。問答無用で魔力を他者から吸い上げ、滅ぼしていく恐ろしい怪物。だからこの子が魔女の末裔だと転生者が言っていたのを聞いた瞬間、私はこの幼い少女が本当にあの恐ろしいサキュバスの末裔なんだという事が信じられなかった。

 

 でも、目の前でこの少女はタクヤから魔力を吸収した。魔力を吸収する事ができる種族はサキュバスのみ。擬似的に他社から魔力を吸収する魔術は存在するけど、詠唱にかなり時間がかかるから、今のように一瞬で魔力を吸収するという芸当は出来ない。

 

 この幻想的な雰囲気を放つ幼い少女が、サキュバスの生き残り………!

 

「う、動かないで」

 

 少女にハンドガンの銃口を向けながら、私はそう言った。先ほどこの少女はタクヤにも声をかけられていたけど、言葉が通じていなかったらしく、首を傾げるだけだったわ。だからこの言葉が通じているわけがない。

 

 すると彼女は小声で、奇妙な語感の言語で話し始めた。今まで聞いたことのない言語ね。古代語かしら………?

 

 どうすればいいの? この少女に攻撃すればいいの? でも、この少女は幼いとはいえサキュバスだし、サキュバスの戦闘力は吸血鬼をはるかに上回る。かつて吸血鬼が絶滅寸前まで追い詰められたのも、その戦闘力の高さが原因の中の1つと言われているから、迂闊に攻撃して怒らせたら私に勝ち目はない。

 

 何とか意思疎通の方法を考えていると、少女が小さな唇を静かに開いた。

 

「――――――落ち着いてください」

 

「!?」

 

 先ほどの古代語と思われる言語ではない。現代の世界で使われている聞き慣れた言葉だった。しかも全く感情がこもっていないという点を除けば発音も完璧で、全く訛っていない。

 

 冷たい感じのする声だったけど、敵意は含まれていないようだった。

 

 それにしても、なぜいきなり現代の言語を喋り始めたのかしら? 私たちの会話を聞いて学習したというの? でも、ほんの数回しか喋っていないし、学習するにしては参考にするべき言語が少なすぎる。元々喋る事ができたのならタクヤの言葉が理解できた筈だし、彼の言葉に古代語で返答する必要はない。

 

「見たことがない武器ですが、それを下ろしてください。あなたと敵対するつもりはありません」

 

「え………?」

 

 どういうこと? 敵じゃないの………?

 

 彼女は長い髪を引きずりながら倒れているタクヤの傍らにしゃがみ込むと、彼のコートを羽織ったまま再び気絶している彼の顔に自分の顔を近づけた。

 

 まだ12歳くらいの幼い少女だというのに、まるで眠る我が子を見守る母親のように見えてしまう。

 

「先ほどは申し訳ありませんでした。長い間魔力を食べていなかったので、お腹が空いていたのです。吸い過ぎてしまいました」

 

 気を失っているタクヤに向かってそう言った彼女は、私の目の前で再びタクヤの唇を奪った。彼の頭の後ろに真っ白な手を回しながら抱き締め、自分の小さな唇を彼の唇に押し付ける。

 

 また彼から魔力を吸い上げるつもりなのかしら? でも、タクヤはもう気絶してしまうほど魔力を吸い上げられてしまったから、もう吸収できる魔力の量はかなり減っている筈よ。

 

 魔力を吸収するためではなくキスを楽しむように唇を奪い続けた彼女は、頬を少しだけ赤くしながらゆっくりと唇を離し、伸ばしていた小さな舌を戻していく。

 

 よく見ると、彼女の下には小さな魔法陣のような模様が刻まれていた。

 

「少し、魔力をお返ししました。………起きてください」

 

「う………」

 

「タクヤ!?」

 

 キスを終えて再び無表情に戻った幼い少女が、自分の小さな膝の上に乗せたタクヤの頭を優しく叩く。すると目を瞑って気を失っていたタクヤの瞼がぴくりと動き、幼い少女の膝の上で彼は呻き声を上げながら目を覚ました。

 

「あれ………? なんで幼女に膝枕されてるんだ………?」

 

「タクヤ、大丈夫!?」

 

「あ、ああ。………確か、この子にキスされたんだっけ?」

 

 ゆっくりと身体を起こしながら頭を掻くタクヤ。もしあの光景をラウラが見ていたら、きっとスナイパーライフルで2人とも頭を撃ち抜かれていたでしょうね。

 

 でも、タクヤが男の子に見えないせいなのか、まるで女の子同士でキスしているように見えたわよ………?

 

「申し訳ありません。魔力は少しお返ししました」

 

「喋った…………!?」

 

「あなたから魔力を吸収した際、魔力に含まれれていた言語に関する情報も一緒に吸収させていただきました」

 

「そんな事ができるのか?」

 

「はい。魔力には様々な情報が含まれていますので」

 

 彼のコートを羽織ったままそう言った少女は、相変わらず無表情のままだった。魔力を吸収するために彼とキスをした時以外は、まるで最初から感情を持っていないかのように全く表情を変えない。それに声にも感情がこもっていないから、冷たいような感じがする。

 

「すごいな………」

 

「先ほどは美味しい魔力を食べさせていただき、本当にありがとうございました」

 

「魔力を食べた? さっきキスをした時?」

 

「はい」

 

 顔を赤くしながら私の方を見てくるタクヤ。どうやらキスをした時の事を思い出したみたいね。ラウラがこの場にいなくて本当に良かったわ。

 

「ということは、君はサキュバスなのか?」

 

「はい。ステラ・クセルクセスと申します」

 

 表情を全く変えないまま自己紹介するステラ。やっぱり声にも感情はこもっていないから、冷たい口調のように聞こえる。でもタクヤは彼女が敵意を持っていないことに安心したのか、微笑みながら頷いた。

 

 彼女と戦う羽目にならなくて良かったわ。いくら銃という便利な武器があると言っても、本気を出したサキュバスの戦闘力は一般的な吸血鬼の5倍。ドラゴンの頭を片手で握りつぶすほどの握力を持つ種族だから、少なくとも私に勝ち目はない。

 

 タクヤが戦ったらどうなるか分からないけどね。

 

「俺はタクヤ・ハヤカワ。彼女はナタリア・ブラスベルグ。それと、ここの外にもう1人仲間がいる。3人で冒険者をやってるんだ」

 

「冒険者ですか。………ところで、タクヤさん」

 

「ん?」

 

「ステラは、先ほどからあなたの角と尻尾が気になっています。あなたは人間ではないのですか?」

 

「えっと………俺はキメラなんだよ。人間とサラマンダーのな」

 

「キメラ…………? 新しい種族ですか?」

 

「ああ。まだこの世界には、俺とお姉ちゃんと親父の3人しかいない」

 

「ふむ…………面白いです」

 

「ところでタクヤ、ここから脱出した方が良いと思うんだけど」

 

 転生者は逃げていったし、警備していた奴らもステラちゃんが復活したという事を聞いたと思うわ。だからここに警備兵がやってくるかもしれない。

 

 タクヤは頷くと、耳に装着していた小型の無線機に手を当てた。脱出するならばラウラに援護してもらった方が良いわね。彼女はタクヤにいつも甘えているという点を除けば優秀な狙撃手だし、頼りになるわ。

 

「ラウラ、聞こえるか?」

 

『ふにゅ。聞こえるよ』

 

「転生者を逃がしちまった………。でも、女の子を1人保護した。サキュバスの末裔だよ」

 

『ふにゃあああああ!? さ、サキュバスっ!?』

 

「安心しろって。この子は危険な奴じゃない。大人しい子だから。――――――それで今から脱出するんだけど、援護してもらえるかな?」

 

『えへへっ、その必要はないよ。―――――――もう、みんな死んだから』

 

 え……?

 

 もう狙撃で殲滅しちゃったって事? 

 

 ラウラの冷たい声にぞっとした私は、タクヤと目を合わせてから頷いた。ラウラがもう外の警備兵を殲滅してしまったのならば、援護してもらう必要はないわね。転生者も一緒に片付けちゃったのかしら?

 

「転生者は?」

 

『ごめん、そいつだけは逃がしちゃった………。早く逃げた方が良いよ。増援を呼びに行ったのかも』

 

「了解。庭に出たら合図する」

 

 あの転生者が生き残っている限り、ナギアラントの人々は虐げられ続ける。だから転生者を狩るまで、この街を出るわけにはいかないわ。

 

 私の顔を見て頷いたタクヤは、ステラちゃんを連れて地下室の出口へと歩き出す。もう一度この実験室を見渡した私は、一応ハンドガンを手にしたままタクヤの後について行った。

 

 

 

 

 

 

 

「様子はどうだ?」

 

「結構集まって来てるよ。他の拠点から警備兵を連れてきたのかな?」

 

 廃棄された宿屋の最上階にある部屋のベランダからアンチマテリアルライフルのアイアンサイトを覗き込むラウラは、俺の質問にそう答えると、ミニスカートの下から出した紅い尻尾をゆっくりと左右に振り始めた。

 

 オルトバルカ教団のナギアラント支部から脱出した俺たちは、ナギアラントの北部にある廃棄された宿屋に潜んでいた。ここの店の主は魔女だと決めつけられて数年前に処刑されてしまったらしく、宿屋の中には誰もいない。缶詰もいくつか残っていたし、部屋を使って休息もできるから潜伏するにはうってつけの場所だ。

 

 ステラからコートの上着を返してもらった俺は、久しぶりにフードをかぶらないままラウラの隣に伏せると、アンチマテリアルライフルのOSV-96を装備し、バイポッドと銃床のモノポットを展開してスコープを覗き込む。

 

 スコープに搭載されたレンジファインダーによると、ここから教団の支部までの距離は1.8km。俺とラウラの持つアンチマテリアルライフルならばここから支部を狙い撃ちに出来る。ラウラならばここからでもスコープを使わずに命中させられるだろうが、俺は外してしまうかもしれない。1km以上の狙撃は訓練を受けているが、成績はラウラよりも下だった。

 

 親父には「お前も優秀な狙撃手になれる」って言われたんだが、ラウラが優秀過ぎるせいで自信が持てない………。

 

 ちなみにラウラはスコープだけでなく、レンジファインダーも必要ない。エコーロケーションで標的との距離を測定できるからな。だからカスタマイズするポイントの節約にもなるし、いちいち照準の調整も必要ないんだ。

 

「敵の数は…………30人以上いるな」

 

「41人だね」

 

 41人か。支部を最初に警備していた奴らよりも人数が多いな。しかも重装備の兵士ばかりだ。全身に防具を装着し、巨大な盾と槍を持っている。中には巨大なハンマーや大剣を装備している奴もいるようだ。サキュバス用の装備なのかもしれない。

 

 一般的なロングソードを持っている奴はいないから、小回りの良さではこっちの方が上だな。

 

 アンチマテリアルライフルの12.7mm弾ならあの程度の防具や盾は貫通できるが、念のため貫通力が非常に高い徹甲弾を生産しておこう。これならば確実に防具や分厚い盾を貫通できる筈だ。それにこいつの貫通力なら、イージスを貫通して転生者を仕留められるかもしれない。

 

 生産済みのアンチマテリアルライフルのメニューを開き、カスタマイズの中から徹甲弾を生産。他の種類の弾丸も生産できるが、現時点では徹甲弾を最優先で生産するべきだろう。

 

「ほら、徹甲弾」

 

「ふにゅ? 通常の弾丸で大丈夫じゃない?」

 

「あの転生者、イージスを使ってやがる」

 

「厄介だねぇ………」

 

 銃身の脇に用意されたホルダーの中へと徹甲弾を差し込むラウラ。俺も自分の分を生産すると、4つのマガジンのうち2つをコートのポケットの中に入れ、残りの2つを銃床の脇に用意したホルダーに収めておく。

 

 再び教団の支部を監視しようと思ってスコープに目を近づけたその時、コートの外に出していた尻尾を誰かが掴んだような気がした。

 

「ん?」

 

「ドラゴンの尻尾みたいです………」

 

 尻尾を掴んでまじまじと見つめていたのは、先ほどあの支部の地下から救出したサキュバスのステラだった。彼女は俺の尻尾をさすりながら片手をラウラの尻尾に伸ばすと、外殻に覆われていない柔らかい彼女の尻尾を掴み、同じようにさすり始める。

 

 くすぐったいのか、ラウラは顔を少し赤くしながらぷるぷると震えていた。

 

 ステラが身に着けているのは、救出された時に身に着けていたボロボロの服ではなく、この宿の中で見つけた純白でシンプルなワンピースだった。彼女の放つ幻想的な雰囲気とよく似合っている。

 

 床についてしまうほど長かった髪もナタリアが切ってくれたらしいんだけど、まだ彼女の髪はお尻に届くほど長い。でも彼女にはこのくらいの長さが似合うのかもしれない。

 

 そういえば、彼女はどうしてあんなところにいたんだろうか? サキュバスは大昔の魔女狩りで絶滅してしまったのではなかったのか?

 

「なあ、ステラ」

 

「なんでしょう?」

 

「何でお前はあそこにいたんだ? サキュバスはもう絶滅してしまったんじゃないのか?」

 

 問い掛けてみると、ステラはラウラの尻尾から手を離した。そして俺とラウラの間までやってくると、ちょこんと腰を下ろす。

 

「―――――1200年前、私たちの種族は確かに滅びました。ナギアラントでの最後の抵抗で劣勢になった時、ママが私をあそこに封印し、隠してくれたのです」

 

「他の同胞は?」

 

「…………おそらく、みんな処刑されてしまった事でしょう」

 

 辛い話だというのに、彼女は表情を全く変えない。感情がこもっていない冷たい声を聞いていた俺は、彼女にこの事を聞くべきではなかったと思い始めた。

 

「ですから、ステラが最後の生き残りという事になります」

 

「つまり、ステラが死んだら―――――――」

 

「はい。今度こそサキュバスは完全に絶滅するでしょう」

 

 自分と同じ種族がもういない。周囲はサキュバスを忌み嫌う人々ばかり。ステラはこの世界に、たった1人だけで放り出されてしまったのだ。

 

 彼女が表情を変えないのは、感情を捨ててしまったからなんだろうか? それとも強引に抑え込んでいるだけなんだろうか?

 

 自分しかサキュバスがいない。もし感情を出せば、その孤独が彼女を蹂躙してしまう事だろう。だからステラは、きっと必死に感情を出さないようにしているんだ。

 

「ですからステラは、子供をたくさん作ってサキュバスを再興しなければなりません。それがママの遺言ですし、同胞たちの宿願である筈です」

 

「そうか…………」

 

 左手を伸ばし、彼女の頭の上に置く。そのままステラの頭を撫でようとしていた俺は、はっとして動かしかけていた手を止めてしまう。

 

 ラウラは大喜びしてくれるが、ステラは嫌がるかもしれない。しかもすぐ近くにはそのラウラがいて、虚ろな目でじっと俺を睨んでいる!

 

 しまった……。ラウラがすぐ近くにいたのを忘れていた……!

 

「………」

 

「す、ステラ。すまん。癖で――――――」

 

 謝ろうとしていると、今度はすぐ近くからお腹が鳴る音が聞こえてきた。その音にラウラへの恐怖を吹っ飛ばされてしまった俺は、呆然としながらラウラのほうを見る。

 

 てっきりラウラのお腹の音かと思ったんだが、俺と目を合わせたラウラは同じように呆然としながら首を横に振っていた。ラウラじゃないのか?

 

 ということは、ステラか? ちらりと隣にいる彼女の顔を見上げてみると、無表情の顔が恥ずかしそうに赤くなっていた。

 

 お、お前か………。

 

「―――――お腹が空きました」

 

「そ、そうか。えっと、非常食とか缶詰があるけど――――――」

 

「いえ、サキュバスの主食は魔力です。普通の食べ物を食べても空腹感は消えません」

 

「そうなのか?」

 

「はい。ですので、魔力が食べたいです」

 

 まさか、またキスするわけじゃないよね……? 

 

「す、ステラ……?」

 

「出来るならタクヤの魔力がいいです。ステラはタクヤの魔力の味が気に入りました」

 

 そ、それは拙いだろ!? ヤンデレの姉の目の前で幼女とキスをするって事だろ!?

 

 しかも魔力を吸われた後は力が入らなくなるから、機嫌を悪くしたラウラから逃げるどころか抵抗できなくなるという事だ。

 

 なんてこった。

 

 無表情のまま口元のよだれを拭い、ぺろりと小さな舌で口の周りを舐め回すステラ。どうやらもう我慢できないらしい。でも、こんなところでキスされたら俺はお姉ちゃんに殺されちゃうんだよ。お願いだから我慢してくれないかな?

 

 すると、いきなりステラの長い髪が逆立ち始めた。まるで触手のように動き始めた彼女の髪が俺に向かって伸びてきたかと思うと、そのまま縄のように俺の手足に絡みつき、動けないように束縛してしまう。

 

「お、おい、ステラ!」

 

「タクヤの魔力……早く欲しいです」

 

「待てって。もう少し我慢してくれよ!」

 

「無理です」

 

 彼女の髪を振りほどこうとするが、まるでトロールに掴まれているかのように身体が全く動かない。足掻いていると、ステラが髪を動かし、今度は俺を床に押し倒してしまう。

 

 尻尾で髪を切って脱出しようとしていると、その尻尾まで彼女の髪に絡みつかれて束縛されてしまった。

 

 動けなくなっている俺の上に乗り、顔を近づけてくるステラ。ちらりとラウラのほうを見てみると、彼女は虚ろな目つきで笑いながら早くもボウイナイフを鞘から引き抜き始めていた。

 

「す、ステラッ! 落ち着けって! ラウラが機嫌悪くしてるから!!」

 

「いただきます。―――――はむっ」

 

「ステ――――――むぐぅっ!?」

 

 無視して唇を押し付けてくるステラ。口の中へと彼女の小さな舌が入り込んで来て、俺の下を舐め回し始める。

 

 拙い。お姉ちゃんに殺される………。

 

「あははははっ。タクヤったら、小さい女の子の方が好きだったのかなぁ………?」

 

 ナイフを手にゆっくりと近付いてくるラウラ。もちろん目つきは虚ろで、いつもの甘えん坊なお姉ちゃんの目つきではない。

 

 まだ冒険を始めたばかりだというのに、俺は幼女が原因で姉に殺されるのか………。

 

 前世と転生した後の人生で、結局童貞のままだったなぁ………。そう思っていると、いきなりステラが俺から唇を離した。口元についている唾液をぺろりと舐め取ると、手足を縛り付けていた髪を解き、今度はそれをラウラへと向かって伸ばし始める。

 

 ラウラはナイフを振り払って迎撃しようとするが、ステラの髪は彼女のナイフをあっさりと躱し、逆にラウラの両手と両足を同じように縛り付けてしまう。

 

「ふにゃあっ!?」

 

 俺よりも筋力が劣るラウラが足掻いても逃げられるわけがない。同じように押さえつけられたラウラも床に押し倒され、その上にステラが乗る。

 

 まさか、ラウラからも魔力を吸い取るつもりなんだろうか? 

 

 必死に足掻くラウラに唇を近づけていくステラ。だが、彼女はラウラの唇を奪う前に動きを止めると、いきなりラウラの大きな胸を見下ろしてから自分の胸を見た。

 

「………羨ましいです」

 

 ステラのは小さいからなぁ……。

 

「ふにゃ―――――――むぐっ!? んっ………!?」

 

 2人のおっぱいの大きさを比べながらそんなことを考えていた俺の目の前で、ステラが自分の小さな唇をラウラの唇に押し付けた。ラウラは首を振って抵抗していたんだけど、ステラの小さな両手に押さえつけられ、ついに抵抗できなくされてしまう。

 

 ベレー帽を床に落としてしまったラウラの頭では、キメラの証でもある角が早くも伸び始めていた。先端部が炎のように赤くなっている彼女の角が、もうダガーのような長さになっている。

 

「―――――ぷはっ。……ラウラの魔力は甘くて美味しいです。はむっ」

 

「ふにゅ――――――むぐぅっ!?」

 

 助けるべきだろうか? 起き上がるために手足に力を入れてみるけど、結構魔力を吸い取られてしまったらしく、力を入れても指先がぴくりと動く程度だ。もう少し休まないと。

 

 もう少し休むことにした俺は、隣で唇を奪われ続けるラウラをじっと見つめていた。

 

 

 

 


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