異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
「
「装填完了じゃ!」
倒壊していく戦車の格納庫の壁を戦車の車体で突き破りつつ、後ろの砲手の座席に腰を下ろすガルゴニスに指示を出す。彼女の傍らで自動装填装置が唸り声を上げながら砲弾を主砲の152mmガンランチャーへと装填していくのを確認しつつ、俺は倒壊した格納庫から戦車を脱出させた。
やはり核の爆発で壊滅したネイリンゲンの街は、最早地獄絵図としか言いようがなかった。防壁がないおかげで開放的な雰囲気を放っていたあの田舎の街の面影はもうない。燃え上がる建物や倒壊した建物の残骸で埋め尽くされ、まるで活火山のように燃え上がっている。
街に住んでいる人々の事を思い出して不安になってしまうが、今は―――――――こんなことをしたクソ野郎共を始末しなければならない。
ペリスコープの向こうから銃弾が飛来する。だが、こっちは分厚い装甲で身を包んだ戦車だ。いくら人間の肉を容易く引き裂くアサルトライフルの弾丸でも、この分厚い装甲は撃ち抜けない。そもそも戦車の装甲は、第二次世界大戦の中盤から”弾丸”で貫くことはもはや不可能なほどに分厚くなっているのだ。だから対戦車ライフルは廃れてしまったのである。
こいつを撃破したいんだったら、ロケットランチャーか無反動砲でも叩き込みやがれ。
「砲塔、左20度旋回! 仰角そのまま!」
「照準よし!」
「
ペリスコープの向こうで、MBT-70に搭載された152mmガンランチャーが火を噴いた。先ほど装填された
微かに炎を纏いながらガンランチャーから飛び出した砲弾は、この戦車に向かってアサルトライフルを乱射してくる敵兵の群れのど真ん中に突き刺さったかと思うと、瞬時に起爆して強烈な爆風と無数の破片を周囲にばら撒いた。
被曝を防ぐために迷彩模様の防護服に身を包んでいた兵士たちの肉体が、爆風と破片で一気に引き裂かれる。弾着した砲弾の近くにいたせいで一瞬でバラバラになった奴もいるし、肩どころか鎖骨から先を捥ぎ取られ、絶叫しながら瓦礫の上をのたうち回っている奴もいる。
いくら転生者のステータスが高ければ弾丸の直撃にも耐えられるようになるとはいえ、戦車砲の圧倒的な破壊力を完全に無効化するためには、少なくともレベル300以上のステータスでなければならない。少なくともそれくらいまでレベルを上げれば、砲弾の破片や爆風で四肢を捥ぎ取られることはないのだ。
しかし生産した武器や兵器の破壊力は、転生者の攻撃力のステータスによって向上することがある。
今の俺のレベルはすでに900を超えているため、この戦車の攻撃をステータスを頼りにして防ぐことはもはや不可能なのだ。
「前進する!」
「力也、次は!?」
「次も同じ!
「了解なのじゃ!」
戦車を前進させると、先ほどの一撃で仲間を殺された敵兵の群れが後ずさりを始めた。中には果敢に銃撃を続けたり、HK416の銃身の下に搭載されているグレネードランチャーからグレネード弾を放ってくる奴もいるが、グレネード弾が直撃した車体にはきっと焦げ目しかついていない事だろう。装甲車だったら痛手になっていたかもしれないが、こっちはそれよりもはるかに装甲の厚い戦車なのだ。
それに、旧式とはいえあのエイブラムスの原型となった戦車なのである。
足を吹っ飛ばされた兵士を仲間が引きずって連れて行こうとしているが、MBT-70が前進を始めたことに気付いたその兵士は――――――なんと負傷した仲間を見捨てることにしたらしく、呻き声を上げている味方の兵士から手を放したかと思うと、逃げていく味方と共に一目散に逃げ始めた。
可哀そうに…………。
一瞬だけそう思ったが―――――――こいつらはネイリンゲンで核を使ったクソ野郎共だ。”可哀そう”と思ってはならない。
そこにいるというのならば、可能な限り無残に殺してやるまでだ。
「おい、待てよ! 置いて行かないでくれ!」
戦車の外から、見捨てられた兵士の悲痛な声が聞こえてくる。そいつは傍らに転がっている自分のライフルを掴みながら、辛うじてまだ動く左右の腕をフル活用して這い出したが、人間が歩く速度よりもはるかに遅い。逃げていく敵を追撃する戦車から逃げられる速度ではなかった。
でも俺は、ブレーキをかけるつもりはなかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
銃を撃ちまくれば戦車が止まると思ったのか、キャタピラに踏みつぶされそうになっている敵兵が絶叫しながらアサルトライフルを乱射し始める。しかし、5.56mm弾で戦車の装甲を貫通するのは不可能だ。どれだけ叩き込んでも、戦車の強靭な正面装甲に風穴を開けることはできないのである。
銃弾が跳弾する音を聞きながら、諦めの悪い敵兵に引導を渡すために、俺は少しだけ速度を上げた。
そして――――――フルオート射撃の銃声と、敵兵の絶叫が同時にぴたりと止まる。
「ひぎっ…………がぁ―――――――」
最後に聞こえてきた”声”は、そんな声だった。
その直後に聞こえてきたのは、骨が砕け、肉が潰れて皮膚から飛び出す生々しい音。そして湿った地面を思い切り踏みつけたような音が連なり、戦車の中へと入り込んでくる。
それが、50tを超える重装備の巨体に人間が踏み潰される音だった。
別に心は痛まない。奴らは核を使ったクソ野郎なのだから。それゆえにどんなに無残に殺しても許される筈だ。
ペリスコープの向こうに、ネイリンゲンの街へと逃げていくクソ野郎共の姿が見える。どうやら彼らは対人戦を想定したらしく、ロケットランチャーや無反動砲のような対戦車兵器を殆ど装備していなかったらしい。
「―――――――薙ぎ払え、ガルゴニス」
徹底的に潰せ。
砲塔の上に搭載されている20mm機関砲のターレットが旋回し、立て続けに火を噴き始める。被弾した哀れな兵士たちの肉体が弾け飛んでいくのをペリスコープから見つめながら、燃え上がる市街地へと逃げていく敵兵たちを追った。
ネイリンゲンの街は、地獄だった。
通りに並んでいた傭兵ギルドの事務所の群れは全て倒壊し、瓦礫が燃え上がっている。その瓦礫の中に埋もれているのは、核爆発の際の熱線で焼かれた焼死体だ。
エミリアやフィオナたちと食材や日用品を買いに来ていた露店の列はもう残っていない。辛うじて露店の一部だったと思われる木材が、街の真ん中の大通りにいくつも転がっているだけだ。
「なんてことだ…………」
生き残っている人はいるのだろうか? 俺はそう思いながら周囲を見渡した。だが、俺の周囲に広がるのは見慣れたあの開放的な街並みではなく、蹂躙された跡ばかりだった。
これは悪夢なのか…………?
思わず、これは現実ではないと思い込んで逃げ出したくなってしまう。だが、逃げ出すわけにはいかない。核爆弾が爆発した。これは現実なんだ。
しっかりしろ。
「力也、前方!」
「ッ!」
砲手を担当しているガルゴニスに言われて慌ててペリスコープの向こうを覗き込んだ俺は、燃え上がる建物の残骸を踏みつぶしながら前進してきた巨体を目の当たりにして、息を呑む羽目になった。
目の前からやってきたその巨体の形状は、よく見るとMBT-70に似ている。けれども砲塔はもっとがっちりしていて、その砲塔から伸びる砲身も太い。試作型の戦車であるMBT-70をベースにして、最新の技術をフル活用して洗練させたような戦車だ。
「――――――エイブラムス…………ッ!」
そう、その戦車はアメリカ軍で採用されている世界最強の戦車(エイブラムス)だったのである。
搭載されている主砲は44口径120mm滑腔砲。口径だけならば152mmガンランチャーを搭載しているこっちの方が大きいものの、向こうの方が発射できる砲弾の種類が多く、更に戦車の装甲を容易く貫通するAPFSDSを使用することができる。更に装甲も向こうの方が分厚いため、こっちの武装で撃破するのは至難の業だ。少なくとも真正面からの攻撃は通用しないと考えるべきだろう。
しかも1両だけではない。馬小屋の残骸を踏み潰しながら現れた戦闘の1両の後方から、さらに後続のエイブラムスが2両も姿を現したのである。
相手は最新の技術で生み出された、アメリカが誇る世界最強の
隠居生活をしていた老人が、鍛え上げられた3人の若者に挑むようなものだ。
「力也、どうする!? 3両もいるぞ!?」
「逃げるわけにはいかん。ここで打ち破る」
ジジイを舐めるな…………!
「”シレイラ”、装填!」
「も、もう使うのか!?」
「当たり前だ。敵は戦車だぞ」
MGM-51シレイラは、アメリカで開発された対戦車ミサイルである。大口径のガンランチャーから発射できるミサイルであり、命中すれば最新型の戦車でも致命傷を与えられるほどの破壊力を持つ。ガンランチャーを搭載する戦車の”切り札”とも言える対戦車ミサイルだ。
自動装填装置が唸り声を発し、砲身へと虎の子のシレイラを装填していく。
いくら虎の子のシレイラとはいえ、エイブラムスを確実に撃破するには正面装甲以外を狙うべきだろう。できるならば車体後部のエンジンを狙いたいところだが、それは後ろに回り込んで奇襲しない限り無理だ。せめて側面か砲塔の上面に叩き込むことができれば、上手くいけば一撃で擱座させることは可能かもしれない。
その時、エイブラムスの滑腔砲が火を噴いた。
衝撃波が火の粉を吹き飛ばし、その向こうから外殻を脱ぎ捨てたAPFSDSが飛来してくる!
「ッ!」
咄嗟に
「力也、移動した方がいい! すぐに次の砲撃が―――――――」
「いや、エイブラムスに自動装填装置はない。装填時間は装填手の作業の速さに依存する。それより先に叩き込めばいい」
そう、エイブラムスは4人乗りなのだ。自動装填装置を搭載していないため、操縦手、砲手、装填手、車長の4人が必要になるのである。ロシアや日本の戦車では自動装填装置を搭載しているため装填手が乗る必要はないのだが、エイブラムスを運用するのであれば4人の乗組員を用意しなければならない。
上手くいけば、向こうの装填手が砲弾を装填するよりも先に、こっちが攻撃を叩き込めるだろう。
「シレイラは!?」
「装填完了じゃ!」
「よし。目標、先頭のエイブラムス。砲塔左に15度旋回! 仰角10度!」
「ぎょ、仰角!? 何をする気じゃ!?」
「―――――――”トップアタック”だよ」
トップアタックとは、戦車や装甲車の上面に攻撃を叩き込む事である。砲塔の上面などは戦車の装甲が薄い部位の1つでもあるため、ここに対戦車ミサイルを叩き込むことができれば、最新の戦車でも撃破することはできるのだ。
「いいか? 1、2の3で仰角を0に戻せ」
「りょ、了解じゃ。砲塔、左15度。仰角10度…………よし」
「
「発射(ファイア)!」
命中してくれと祈りながら覗き込むペリスコープの向こうが、解き放たれたシレイラの纏う炎で一瞬だけ明るくなる。まるで宇宙へと打ち上げられるロケットのように火の粉の舞う空へと旅立ったシレイラは、撃破する筈のエイブラムスを無視しようとしているかのように少しずつ高度を上げていく。
相手の車長は、こっちが照準を上へとずらしてしまったと勘違いしたらしく、上へと飛んで行くシレイラを無視するかのように砲塔を旋回させ、虎の子のミサイルを”上へと放ってしまった”
「1………2の………3! 今だ!」
「ふんっ!」
俺の合図を耳にしたガルゴニスが、一気に仰角を0にした。
空へと放たれたシレイラはそのまま飛び去るかと思いきや、砲手を担当するガルゴニスが仰角を0に戻すと同時に、まるで地上を逃げ回るウサギに狙いを定めた猛禽のように、唐突に急降下を開始したのである。
頭上で何の前触れもなく軌道を変え、一気に急降下してくる対戦車ミサイル。隙だらけの獲物に照準を定めていたエイブラムスの車長はそれに気づいたらしく、砲撃を中断して回避しようとしたらしいが――――――エイブラムスのキャタピラが微かに動いた頃には、もう既に虎の子のシレイラが砲塔の真上にあるハッチに突き刺さっていた。
凄まじい運動エネルギーでエイブラムスの上面へと襲い掛かったシレイラは、そのまま車長用のハッチを貫通して車内で起爆すると、狭い車内をメタルジェットと獰猛な爆風で満たした。しかし、エイブラムスはかなり堅牢な戦車であり、内部で対戦車ミサイルが起爆したにもかかわらずキューポラやペリスコープなどから微かに火を噴いた程度で木っ端微塵には吹っ飛んでくれない。
だが―――――――乗っていた乗組員たちや車内がどうなったかは、言うまでもない。
いくら転生者でも、対戦車ミサイルの爆風に耐えられるわけがないのだ。
ハッチやペリスコープから黒煙を上げるエイブラムス。もしかしたらすぐに息を吹き返して襲い掛かってくるのではないかと思ってしまうほど原形を留めているものの、中に乗っている乗組員は黒焦げだ。あの戦車はもう二度と動かない。
「よし、突っ込む! もう1発シレイラを!」
「ま、待て! 突っ込むってどういう事じゃ!?」
「しっかり掴まってろよッ!」
「お、おい、力也ぁッ!?」
いきなり先頭のエイブラムスがやられて動揺しているのか、後続のエイブラムスが一旦後退を始める。まるで撃破されたエイブラムスを盾にするかのように残骸の陰に隠れながら後退していく敵の戦車の位置を確認しつつ、俺はどんどん速度を上げていった。
要塞(フォートレス)と言うよりは、まるで”猛牛”だな。
進路を少し変更し、右側にある倒壊しかけのレンガの建物の傍らに広がっている残骸の山へと向かう。元々そこに何かの建物があったのか、ちょっとした斜面になっていた。
まるで、ジャンプ台のように。
敵の戦車の砲撃が
情けない砲手だな。
どうやら敵の錬度はそれほど高くないらしい。最新の兵器に頼ってるという事か。
「もうちょい技術を身につけな」
どれだけ高性能な兵器でも、使い手の技術が低ければ宝の持ち腐れでしかないのだ。
なかなか攻撃を当てられない不甲斐ない敵の砲手を嘲笑いながら、残骸の山へと向かう。もう既に
「り、力也! 目の前に残骸の山じゃ! よ、避けるのじゃ!」
「いいから掴まってろ!」
「ぶ、ぶつかるぅ!! ”こーつーじこ”じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
安心しろ、戦車の操縦には自信がある。絶対に”交通事故”なんか起こさない。
全速力で爆走する
次の瞬間、ペリスコープの下に広がっていた地面との距離が―――――――開いた。
キャタピラが残骸を踏みしめる音も聞こえない。車体の下から聞こえてくるのは、キャタピラが空回りする音だけである。
そう、飛んだのだ。
重量50t以上の巨体が―――――――ジャンプしたのである。
きっと敵の戦車の操縦士たちも、複合装甲で覆われた戦車の中で目を丸くしている事だろう。
「目標、敵戦車」
今なら弱点の上面が狙い放題だぜ、ガルゴニス。
俺たちは、あいつらよりも高いところにいるのだから。
「―――――――
「発射(ファイア)ぁっ!!」
ガルゴニスが叫んだ直後、宙を舞う