異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
タンプル搭の中には、大きな会議室がある。広大な円形の部屋の中に鎮座する巨大な円卓には
30人分の椅子が用意されていて、テンプル騎士団のメンバーの中でここに座ることが許された者たちが、ここで会議を行う。
ここに座るのは、テンプル騎士団本隊とシュタージのメンバーに加え、兵士や非戦闘員の中からちょっとした選挙で選ばれた議員たち。この巨大な円卓で会議を行う議員の事を、俺たちは”円卓の騎士”と呼んでいる。
会議の内容は様々だ。食料や生活に必要な物資について会議を行ったり、設備の拡張についての会議や、生活している非戦闘員や兵士たちからの要望を聞き、それの解決策の議論を行う。いつもはそういう会議が主に行われているけれど、場合によっては”敵”が襲撃してきた際の指揮や、テンプル騎士団の安寧を脅かす脅威への宣戦布告するか否かの採決もここで行う。
民主主義や平等さを最も重視しているため、そう言った重要な議論や採決が行われる場合、基本的には円卓の騎士全員の承認がない限り許可は下りないというルールになっている。だからもし仮にテンプル騎士団が全兵力を投入して敵へと宣戦布告するという採決を行った場合に、1人でもそれを承認しなければ宣戦布告は否決されるのだ。
慎重すぎるかもしれないが、強行採決を防ぐための決まりである。
いつものように円卓の席に腰を下ろす円卓の騎士たち。制服の襟には巨大な円卓の中央に30個の小さな赤い星が刻まれたバッジがつけられている。円卓の騎士の証だ。
きっと彼らは、自分の席にいつものように腰を下ろした瞬間びっくりした事だろう。
なぜならば―――――――自分の席の目の前に、1丁の拳銃が置かれているのだから。
ロシア製ハンドガンのPL-14だ。テンプル騎士団で正式採用しているハンドガンの1つで、多くの兵士た戦車兵たちがサイドアームや自衛用の武器として携行している、9mm弾を使用する新型ハンドガンである。
しかしそれが置かれているのは29人の円卓の騎士だけ。俺の目の前には、何も置かれていない。
「…………本当なのか、タクヤ」
腕を組んだまま俺の話を聞いてくれていたウラルが、低い声で言いながらこっちを見た。いつものように冷静な表情をしているが、やはりいきなりあんなことを言われてかなり困惑しているのだろう。ウラル以外の円卓の騎士のメンバーも動揺しているらしく、不安そうな顔をしながら俺の方を見ている。
無言で頷くと、会議室の中が一気に静かになった。
誰も、喋らない。無言で俺の顔と目の前のPL-14を見つつ、誰かが話し始めるか、その目の前の拳銃を拾い上げるのを待っている。
「そうか…………お前は転生者だったんだな」
数十秒前、俺はついにここにいる円卓の騎士たち全員に自分の正体を明かした。
俺はこの世界の人間ではなく、前世の世界で死亡した男子高校生が生まれ変わった、”次世代型転生者”なのだという事を。
それを聞いた仲間たちは、やっぱり困惑している。今まで一緒に戦ってきた組織の団長が、実は転生者だったのだから。
「―――――――だから、どうするか決めてほしい。…………覚悟はできてる」
みんなの目の前に置かれたPL-14を一瞥しながらそう言うと、仲間たちは一斉に目の前に置かれたハンドガンを見つめた。中にはしっかりとマガジンが入っていて、その中にはいつものように9mm弾が装填されている。
基本的に銃は強力な武器だが、転生者が生産した武器の場合は、転生者のレベルやステータスも銃の威力にほんの少しだけ影響を与える。テンプル騎士団に所属する転生者の中では現時点で俺が一番レベルが高いため、もし仮にそれで”俺を撃つ”事になれば、外殻を展開して身を守らない限りは銃弾は俺の身体を食い破る事だろう。
そう、撃たれれば死ぬ。普通の人間のように。
だからこそ、俺は仲間たちの目の前にハンドガンを用意した。今まで自分の正体を隠していた事のけじめをつけるために。
円卓の騎士たちのルールは、基本的に何らかの採決をする場合は1人でも拒否すればただちにそれは否決される。だから今のこの採決は――――――『今まで正体を隠していた俺を生かすか否か』。
生かすのであれば全員に承認してもらう必要がある。誰か1人でもハンドガンを手にして俺へとぶっ放せば―――――――そう、否決される。俺の命と共に。
息を吐いてから、静かに目を閉じた。
俺の事を許せないのならば、撃って構わない。俺はそういうことをしたのだから。
仲間に殺されるならば…………それでいい。
さあ、誰だ。俺を撃つのは。
しばらく目を瞑り、身体の力を抜いたまま起立していた。けれどもこうして仲間たちに決断を頼んでから、早くも2分くらいは経過している。未だに誰かがハンドガンを拾い上げる音は聞こえてこない。
団長の命を奪うことになるから困惑しているのだろうか? そう思いながら更にじっと待ってみるが…………相変わらず、静かだ。誰もハンドガンのグリップを握る音もしない。
さすがに遅すぎると思った俺は、思わず目を開けてしまった。
「…………えっ?」
円卓の席に腰を下ろす円卓の騎士たちは、黙って俺の顔をじっと見ているだけだった。許せないのであればすぐに粛清できるように、彼らのためにハンドガンを用意しておいたというのに、誰もそれに手を伸ばそうとしていない。黙って起立していた俺の顔を見つめているだけだ。
「…………バカじゃないの?」
「えっ?」
いきなりそう言ったのは、俺の左の席に腰を下ろすナタリアだ。
メンバーの中でもしっかりしている彼女は腕を組みながら、ハンドガンには手を伸ばそうともせずに俺の顔を見上げている。どうしていきなり彼女に「バカじゃないの?」と言われたのか理解できずに少しばかり困惑していると、頭にかぶっていた軍帽を静かに円卓の上に置いたナタリアが微笑んだ。
「―――――――何であんたを撃つ必要があるの?」
「…………でも、俺は…………」
俺は、今までずっと正体を隠してたんだ。
「あんたが本当に他の転生者みたいならクソ野郎だったら、テンプル騎士団なんて設立されてないわよ?」
「そうですわ、お兄様。力を悪用するような転生者だったら、こんなに多くの人々は救われていませんもの」
「それに、クソ野郎だったら”人々が虐げられない世界を作る”って天秤にお願いしない筈です」
ナタリアだけではなく、カノンとステラもそう言い始める。誰か1人は俺に銃を向けていてもおかしくはないだろうと思って覚悟を決めていたんだが、困惑しながら円卓を見渡してみると―――――――誰も銃を手にしていない。
みんな、微笑んでいる。
まるで、俺を歓迎してくれるかのように。
「クソ野郎だったら、ジナイーダのためにお墓を作ってくれたりしないよ」
「それに、俺たちはいつもお前に助けられてるからな。そういう男がクソ野郎とは思えん」
イリナとウラルも、微笑んでいる。
シュタージのメンバーの方を見てみると、やっぱり彼らも笑っていた。相変わらず木村はこういう時もガスマスクをかぶっているせいでどんな表情をしているのかは分からないけど…………多分笑ってるんだろう。
「俺らも同意見だ。お前は誠実な男だよ」
「そうよ。粛清する必要なんてないわ。むしろ
「みんな…………」
認めてくれるのか。
受け入れてくれるのか。
撃たれずに済んで安堵したのか、それとも仲間に受け入れてもらえたことが嬉しいのか、身体から本当に力が抜けたような気がした。いきなり後ろに引っ張られたような感じがしたと思った直後、身体から力が抜けてしまった俺は自分の席に勢いよく着席する羽目になる。
まるで後ろに倒れたように見えたのか、みんなが心配してくれたけど―――――――俺は笑いながら「大丈夫、みんなありがとう」と言いつつ、息を吐いた。
なんだか、やっとみんなに受け入れてもらえたような気がする。
もう、隠し事はない。全てこの円卓の上にさらけ出したのだから。
「それよりも…………気になる事があるんだけど」
みんなの笑い声が消えてから、間髪入れずにクランが真面目な声音で言う。いつもは飄々としているいたずらが大好きなシュタージの隊長だけど、こういう真面目な話や実戦では一気に凛々しい女傑になる。だから彼女の声音が変わると同時に、みんなの表情もまるで作戦介護の最中のように一気に真面目になった。
「”次世代型転生者”…………ということは、私たちがベースなら”第二世代”って事よね?」
「ああ。だが、あくまでも”試作型(プロトタイプ)”に過ぎないみたいだが」
「試作型(プロトタイプ)…………」
それゆえに、ブラドは俺の事を
けれども、他にも実験体がいる可能性はある。もしかしたらブラドは
転生者は一般的に、17歳に若返った状態でこの世界へと放り込まれる。まず最初にポケットの中に入っている端末で”初期装備”を生産しつつ使い方を説明され、それが終わり次第すぐに異世界へと転生するのである。
けれども、俺やブラドのような”第二世代型”の場合は違う。能力の使い方を説明された後は17歳の姿に若返っているのではなく―――――――赤ん坊になっている。もちろん、前世の自分とは別人だ。この世界で転生者を生んでしまった母親と父親の遺伝子を受け継いだ別人として生まれ変わるのである。
それゆえに、”第一世代型”の転生者と比べると最初のうちは無力でしかない。初期のステータスは非常に低く、しかも武器を作って抗おうとしても身体は幼児のものでしかない。どれだけ強力な剣を作っても幼児の筋力では振るうどころか持ち上げる事すらできないし、高性能な銃を作っても反動(リコイル)に耐えられない。武器によっては重くて動けなくなる可能性もある。
しかも別人として生まれ変わる以上、”才能”は完全に両親の遺伝子に依存するしかない。第一世代型の転生者と比べると非常のリスクが大きいが、俺やブラドのように強力な種族の子供として生まれることができたのならば、その戦闘力は他の転生者を圧倒する。
まだ実験段階なのは、やはり第一世代型の転生者よりもリスクが大きいからなのだろう。いくら第二世代型が強力とはいえ、成長する前に魔物に食い殺されてしまっては意味がない。しかも真価を発揮するのはちゃんと成長してからである。力を振るう事ができるようになるまで、その転生者が生きている保証はない。
しかも、敵にすると厄介な点がある。
「転生者なのか見破るのは難しいわね…………」
そう、それだ。
普通の転生者ならば端末を持っているからすぐに分かる。けれども端末を持たず、その端末の機能を自分自身の能力として身につけている第二世代型の転生者は、そいつの正体をすぐに見破ることができない。実際にヴリシアの戦いでは、俺はブラドと最初に出会った時はあくまでもあいつの銃は他の転生者から与えられたものだと思っていた。
しかも身につけている能力という事は、端末を破壊して能力を無力化したり、端末を奪って彼らのステータスを低下させるという作戦は無意味になる。
転生者は、あの端末を身につけていなければステータスが一気に下がってしまうという弱点があるのだ。21年前の魔剣との戦いの際に親父はラトーニウス王国騎士団に身柄を拘束されて尋問を受ける羽目になったが、その時は端末を身につけていなかったため、レベルの高い転生者にも拘らずただのレイピアや焼き印でかなりのダメージを受けていた。
しかし第二世代型は、そもそも端末を持っていないため、端末を破壊したり奪って無力化することは不可能なのだ。
「ドラッヘ、見分ける方法はないの?」
「すまん、分からん」
俺でも見分けられない。何も目印がないのだ。
だから、彼らが自分の能力を使うためにメニュー画面を開く瞬間を見なければ、第二世代型の転生者だということを見破るのは不可能に等しい。
現時点ではまだ実験段階というのは幸運だが、もし転生者を生み出している何者かが俺とブラドのデータを目にして成功したと判断し、第二世代型転生者の”量産”を始めたとしたら…………かなり面倒なことになる。
転生者だと見抜くことができない上に、能力は第一世代型よりも強力なのだから。
「第二世代型が増加しても対処できるように、手を打つ必要がありそうですね。同志タクヤ」
「ああ。とりあえず軍拡と…………”特殊部隊”の設立を考えている」
「特殊部隊ですか?」
「そうだ」
円卓の反対側にいる、頭にターバンを巻いたムジャヒディン出身のメンバーにそう言いながら、俺は会議室の天井にぶら下がっているシャンデリアへと手を伸ばし、魔力を放出し始めた。
やけに歯車やボルトなどの機械の部品を意識したデザインのシャンデリアには、実は小型のフィオナ機関が搭載されているのである。魔力の放出を検知するとそれを取り込んで動力源にして、円卓の上にちょっとした立体映像を投影する仕組みになっている。
シャンデリアからゆっくりと魔法陣が回転しながら降りてきたかと思うと、その魔法陣が円卓の上でゆっくりと崩壊していき、蒼い立体映像を形成し始めた。
映し出されたのは、現時点でテンプル騎士団に所属する部隊である。大雑把に分類したが、今のところは通常の戦闘を行う戦闘部隊と、諜報活動を行う諜報部隊(シュタージ)の2つに分類できる。
「現時点でテンプル騎士団を構成する部署は、戦闘に関してはこの2つだ。俺たちが表舞台で暴れまわり、シュタージが舞台裏で敵を探るというわけだが、いつまでもこの2つだけで”仕事”をするのは難しくなってきた」
シュタージはメンバーが少ない。だから情報収集だけでなく、敵の拠点への潜入や暗殺なども行う必要がある。それに場合によってはヴリシアの戦いのように、最前線で戦わなければならない。あんな激戦を経験したにもかかわらずメンバーが1人も欠けていないのは彼らの錬度が高いという証だが、いつまでも彼らに負担をかけるわけにはいかない。
だから、より舞台裏での戦闘に特化した部隊を編成することにした。
「――――――――というわけで、特殊部隊(スペツナズ)を編成しようと思う」
「スペツナズか…………」
「ああ。それ以外にも、指揮系統の整理のために軍隊みたいな階級も検討中だ」
ヴリシアのような地獄の戦いで、これ以上戦死する同志を増やさないために。
必要なのは、このテンプル騎士団の改革だ。
仲間たちから認めてもらえたのだから、これからもしっかりと人々を守るために戦い続けなければならない。俺にできることは銃を構えて敵陣に突っ込み、クソ野郎共を抹殺して人々を救う事だけなのだ。
「さあ、改革だぞ。同志諸君」
だから、俺たちは戦い続ける。銃から排出した空の薬莢が大地を埋め尽くし、この漆黒の制服がクソ野郎共の返り血で真っ赤になったとしても。
虐げられている人々が―――――――救われる世界を実現するために。
第十三章 完
第十四章へ続く
おまけ
クランの家系は戦車だらけ?
ケーター「そういえば、お前のお爺さんも戦車に乗ってたんだよな? 西ドイツ軍で」
クラン「そうよ。レオパルト1に乗ってたんですって。…………ふふっ、曽祖父も第二次世界大戦でティーガーⅠに乗ってたの。パパは現役の車長よ♪」
ケーター「戦車一家だなぁ…………もしかして、第一次世界大戦でも戦車に乗ってたんじゃないよな?」
クラン「あ、ご先祖様は乗ってたみたい。A7Vに」
ケーター「マジで!?」
木村「子孫はレオパルト2ですねぇ…………」
ノエル(なんで諜報部隊にいるんだろう…………?)
完
今回で第十三章はやっと終了です。長引かせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
次回から第十四章スタートです。よろしくお願いします!
※A7Vは第一次世界大戦の最中に少しだけ生産されたドイツ初の戦車です。