異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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連合軍の攻勢

 

 

 俺たちが地下鉄の駅から外に飛び出した頃には、もう状況がすっかり変わっていた。

 

 あの危険すぎる任務を引き受ける羽目になった時は、敵の戦車にこっちの戦車が追い立てられている状況だった。至る所に砲弾が着弾して火柱を噴き上げ、運悪くそれを喰らう羽目になった戦車が次々に爆炎と装甲の破片を噴き上げながら沈黙していく。擱座した戦車から悲鳴を上げながら這い出てくる兵士たちが後続の砲弾に吹っ飛ばされ、目の前で次々にミンチにされていく光景を、俺はシュタージのレオパルトの上からなんとも見ていた。

 

 けれども、俺たちが敵の防衛ラインから生還した時、その状況はすっかり真逆になっていた。キャタピラとエンジンの音を派手に響かせながら前進していくT-14や99式戦車の群れが、次々に降り注ぐ砲弾の雨に追い立てられているレオパルトたちを追撃していく。中には鈍重としか言いようがないほどの速度で後退しようとするマウスの生き残りも見受けられたけど、戦車の砲撃でキャタピラを吹っ飛ばされて行動不能になった直後に、沖の艦隊から放たれた艦砲射撃の餌食になり、先ほどまで最新式の戦車を蹂躙していた筈の超重戦車が爆散する。

 

 そう、逆転していたのだ。

 

 こちらに全く被害がなかったわけではない。けれど、撤退した時に目の当たりにしたような地獄絵図はもう消え失せている。まるで百獣の王の群れが、自分よりも小さな草食動物の群れに追い立てられているような光景である。

 

「おお、勝ってる」

 

 地下鉄の駅の出入り口からバイクに跨って飛び出し、進撃する味方の戦車の群れの邪魔にならないように走りながら呟いた。後退しながら砲撃してくる敵の戦車を主砲で吹き飛ばしつつ進撃する戦車の群れの中には、先ほどの敵の反撃から生き残ったテンプル騎士団のエイブラムスやチャレンジャー2も混じっているらしい。

 

 反撃を開始した戦車部隊の中からチャレンジャー2(ドレットノート)を見つけた俺は、バイクで戦車の近くへと走っていく。俺の観測手(スポッター)を担当するために連れて行ったカノンの代わりにイリナが砲手を担当している筈だが―――――――百発百中が当たり前のカノンとは違って、彼女はそれほど砲撃が得意ではない。技術がカノンよりも低いからなのか、先ほどから火を噴いている120mm滑腔砲から放たれていくAPFSDSは敵の戦車に命中することはなく、砲塔を掠めて後方の廃墟を直撃している。

 

「あらあら、わたくしでなければダメですわね」

 

 俺の後ろで肩をすくめながら、カノンがそう言った。

 

 彼女の本職は砲手ではなく、あくまでもマークスマンライフルを使用した選抜射手(マークスマン)である。場合によっては迫撃砲や無反動砲で味方の支援を担当するとはいえ、彼女が一番使い慣れている得物はセミオートマチック式のライフルなのだ。

 

 でも、本職でないとはいえ彼女の砲撃は当たり前のように敵に命中する。今まであらゆる魔物や敵の戦車を葬ってきたし、最強の転生者と言われている親父にも、信管を抜いていたとはいえ粘着榴弾を直撃させるという戦果をあげたこともある。

 

 やっぱり砲手に一番向いているのは、こいつかもしれない。

 

 進撃しながらの砲撃で砲弾を外し続けている戦車に苦笑いしながら近寄っていき、バイクの速度を合わせながら装甲の表面をコンコンと叩く。雪が降り注ぐ戦場を走り回っていた戦車の装甲はひんやりとしていて、表面は溶けた雪が残した水滴が覆っている。それに舞い上がった塵が付着したせいなのか、走行を軽く叩いた左手の手袋には泥が付着してしまう。

 

 顔をしかめながら左手をハンドルに戻すと、今の音を聞いていたのか、キューポラの中から金髪の少女が顔を出してくれた。至る所で戦車や装甲車の残骸が焼ける臭いが充満する戦場の風を吸ったのか、一瞬だけナタリアは顔をしかめる。

 

 けれども俺たちの姿を見た瞬間、彼女は目を見開いた。

 

「た、タクヤ!? 2人とも無事だったのね!?」

 

「おう、敵の指揮官を消してきた! ほら、砲手は返してやるよ!」

 

 俺がそう言いながらちらりと後ろを振り向いてみると、後ろに乗っていたカノンは残念そうな顔をしながら制服の後ろをぎゅっと掴んでいた。どうやら彼女はもう少し俺と一緒にバイクに乗っていたいらしいが、そうしたら砲撃がそれほど得意ではないイリナに砲手を押し付ける羽目になる。

 

 今は戦闘中なのだ。吸血鬼の過激派を一掃し、メサイアの天秤を使って俺たちの理想を手に入れるために、奴らが持っている最後の鍵を手に入れなければならない。

 

 もう既に俺たちは、2つの鍵を持っている。あいつらが持っている鍵を手に入れれば、俺たちは天秤を手に入れることができるのだ。それゆえにこの戦いは、絶対に負けることは許されない。

 

 カノンは息を吐いてから手を離すと、そっと耳に小さな口を近づけてきた。まさかナタリアの前でキスをするつもりなのではないだろうかと思ったけれど、どうやら耳元で何かを囁くつもりらしい。

 

「お兄様、ところで…………わたくしがホテルでベッドを見た時、『また後で』と言った後に返事をしてくださいましたよね?」

 

「…………」

 

 はい、返事をしました…………。

 

 数十分前に、壁に空いた穴のせいでやけに寒かったホテルの部屋の中でアンチマテリアルライフルを構え、標的を狙撃する緊張と格闘していた時にそんな返事を返してしまったことを思い出した俺は、ヒヤリとしながら首を縦に振る。

 

 どうして断らなかったのだろうかと思ったけど―――――――カノンとは何度かキスをしているし、俺も彼女の事が好きだ。いつもはエロ本を堂々と読んでいる変態だけど、しっかりとしているところもあるし、時折幼少の頃の彼女を彷彿とさせるところも見せてくれる。

 

 俺やラウラにとっては大切な妹分だ。

 

 もしカノンとキスをした事がカレンさんやギュンターさんにバレたらどうなるだろう? カレンさんはきっと認めてくれるかもしれないけど、昔から過保護だったギュンターさんは難敵かもしれない。

 

 そういえば、もう俺はパーティーの全員とキスをしているじゃないか。しかも相手は5人である。

 

 いつの間にか、ハーレムが出来上がっていた。

 

 ニヤニヤしてしまいそうになったけれど、今は戦闘中だ。そういうことを思い出すのはタンプル搭に帰ってからでいいじゃないか。今は吸血鬼共を倒すことに集中しなければならない。

 

 カノンもそう思ったらしく、首を縦に振った俺を見て微笑みながら、隣を並走している戦車の上に飛び乗った。彼女の真っ黒な靴がチャレンジャー2の複合装甲を踏みしめ、靴と複合装甲が奏でた音が彼女が着地したことを告げる。

 

 やがて、戦車部隊が速度を落とし始めていた。砲塔の後ろや車体の上に乗っていた歩兵たちを下ろし始めたかと思うと、タンクデサントしていた歩兵たちが素早く整列し、敵の最終防衛ラインへ攻撃を仕掛けるための準備を始める。

 

 どうやらこのまま歩兵部隊と戦車部隊で突撃し、敵の最終防衛ラインに引導を渡すつもりらしい。

 

 しかも最終防衛ラインへの攻撃に参加するのは、地上部隊ではない。

 

 先ほどまで繰り広げられていた死闘を生き延びたヘリ部隊や、地上部隊をマウスやラーテの群れから救ってくれたA-10Cの群れが―――――――段々と、地上部隊の上空に集まり始める。

 

 タンクデサントしていた兵士だけではなく、戦車部隊の後方を爆走していた装甲車の兵員室からも、続々と重装備の兵士たちが姿を現す。フェイスガードのついた武骨なヘルメットやボディアーマーを身に纏う兵士がLMGを肩に担ぎながら隊列を組み、屈強な数名の兵士が迫撃砲を運搬していく。

 

 彼らを最前線に下した装甲車たちは再び戦車部隊の後方に並び、大口径の機関砲と対戦車ミサイルを装備した砲塔を、敵の最終防衛ラインがある方向へと向ける。その上空ではスタブウイングに対戦車ミサイルやロケットポッドをこれでもかというほど搭載し、機首にセンサーと機関砲が搭載されたターレットをぶら下げたスーパーハインドやホーカムが飛び交い、更に上空ではA-10Cの群れが編隊を組み直している。

 

 すべての戦力を最終防衛ラインに叩きつける、連合軍の攻勢だ。

 

 戦車たちが速度を落としている間に、俺もバイクから降りた。敵の防衛ラインから俺とカノンを無事に撤退させてくれた相棒に感謝しながら装備から解除し、メニュー画面を素早くタッチ。いつも装備している武器を装備し、攻勢に参加する準備を整える。

 

 まず、狙撃にも使ったOSV-96はそのまま背中に背負っておく。メインアームはポーランド製グレネードランチャーのwz.1974パラドを装備したAK-12で、グリップやマガジンやハンドガードなどをベークライト製の部品に変更している。チューブタイプのドットサイトとブースターを装備しており、マークスマンライフルほどではないけれど中距離狙撃にも対応可能だ。使用する弾薬は従来の5.45mm弾ではなく、より大口径の7.62mm弾。もちろん弾丸は銀の弾丸に変更してある。

 

 サイドアームはロシア軍のためにアメリカが製造したウィンチェスターM1895をソードオフ型に改造したレバーアクションライフル。それを2丁装備しておく。銃身をかなり切り詰めたため本来の命中精度はかなり落ちており、近距離での射撃でなければ真価を発揮できないほどだ。そのため照準器は従来の物ではなく、やや大きめのピープサイトを採用した。使用する弾薬はモシン・ナガンと同じく7.62×54R弾であるため、貫通力や殺傷力はハンドガンとは比べ物にならない。とはいえ5発しかライフル弾を装填できない上にレバーアクション式であるため、連射速度がハンドガンよりも遅いという欠点がある。

 

 あとはいつも愛用しているテルミット・ナイフ。黒色火薬で柄の中に内蔵しているカートリッジの中にある粉末に着火し、テルミット反応を起こした超高音の粉末を敵にぶちまけるというとんでもないナイフである。その代わり古めかしいフリントロック式であるため、粉末をぶちまけるには手間がかかるという欠点がある。しかも今回は対吸血鬼用に、カートリッジの中身は銀の粉末にしてある。

 

 それと、逃げていく敵を殲滅するために―――――――もう1つとんでもない代物を用意しておいた。

 

 メニュー画面を素早くタッチして出現させたそれは―――――――銃身の下部ではなく、上部からマガジンが突き出ているのが特徴的なLMGである。新型のLMGでは一般的なピストルグリップではなく、旧式のボルトアクションライフルを思わせる銃床になっている。長い銃身を覆っているのはバレルジャケットで、銃身の上から突き出たマガジンの脇からはキャリングハンドルが突き出ている。

 

 俺が装備したこの得物は、第一次世界大戦が勃発するよりも前に生産された『マドセン軽機関銃』と呼ばれるデンマーク製のLMGである。大昔に活躍したLMGで、構造が複雑である代わりに非常に頑丈であり、しかも様々なライフル弾をフルオートでぶっ放すことができるという特徴がある。

 

 とはいえ、装着されているマガジンに装填されている弾丸の数はアサルトライフルとあまり変わらないため、当たり前のように50発以上の弾丸をフルオートで連射できる現代のLMGと比べると劣ってしまう。

 

 使用する弾薬を7.62×54R弾に変更し、マガジンや銃床などの部分をベークライト製の部品に変更することで可能な限り軽量化したマドセン軽機関銃をチェックしながら、俺も兵士たちの隊列に紛れ込む。他の兵士たちがAK-12ばかり装備しているせいなのか、古めかしい銃を装備して紛れ込むと目立っているような気がする。

 

「ほう、マドセンか。いいものを持ってるじゃねえか」

 

「おう、親父」

 

 突撃の号令を待っていると、いきなり後ろから親父に声を掛けられた。この大軍を指揮する総大将が最前線にいるのは考えられないことだが、はっきり言うとこの男は司令部やCICで指揮を執るよりも、最前線で一般の歩兵と一緒に突っ込ませた方が似合っているような気がする。指揮を執るのに向いていないというわけではないが、こいつが突っ込んだ方が味方の生存率も上がるだろう。

 

 周囲の兵士たちは親父がいる事に気付くとざわつき始めたけど、もう慣れてしまったのか、「あまり無理はしないでくださいよ、同志」と言いながら苦笑いし、自分の得物の最終チェックを始める。

 

 よく見ると、この歩兵の群れの中には母さんやエリスさんも紛れ込んでいるようだ。親父の後ろにはこいつが手塩にかけて育てたリディアもおり、風穴の空いたシルクハットをかぶったまま静かに目を瞑っている。

 

 リディアは銃を持っていないが、銃を使うつもりはないのか? 本当に刀だけで突っ込むつもりか?

 

 じっと彼女を見つめていると、親父の近くへとやってきた母さんが静かに俺の頭をフードの上から撫でてくれた。小さい頃はよく撫でてもらっていたけれど、成長して身長が伸びたせいなのか、当たり前だけどあの頃よりも母さんが小さく見える。

 

「無理はするなよ、タクヤ」

 

「分かってるって。心配し過ぎだよ、母さん」

 

「うむ。…………だが、この男の息子だからなぁ…………」

 

 そう言いながらじろりと親父を睨みつける母さん。かつて転生者を絶滅寸前に追い込んだ魔王でも、未だにこの最強の奥さんには敵わないらしい。必死に目を逸らしながら冷や汗を拭い去り、わざとらしくAK-12のチェックを開始する。

 

 母さんにも「無理をするなよ」って言いたかったけど―――――――俺たちの両親には、そんなことは言えない。なぜならば俺たちの父と母たちは、最強の傭兵ギルドであるモリガンの傭兵たちなのだから。

 

 1人で騎士団の一個大隊並みの戦力を持つと言われたモリガンの傭兵たちを心配できるわけがない。というより、心配する必要がない。

 

「ふふふっ。それにしても、たくましくなったわねぇ…………」

 

「え、エリスさん…………」

 

 エリスさんは俺たちが旅立った時から全然変わっていない。さすがに海底神殿で戦った時は真面目だったけど、今は家にいる時と全く変わらない。

 

『ふにゃあっ!? ママ、タクヤを襲っちゃダメだよ! タクヤは私の弟なんだから!』

 

「え? ダメ?」

 

 襲うつもりだったのかよ!?

 

 エリスさん、戦闘前ですよ!? しかも周りにたくさん兵士がいますし、俺たちは親子ですからね!? 息子を襲わないでくださいよ!?

 

 というか、ラウラは俺を見張ってたのか…………。どこから見張ってるんだろう?

 

『ダメに決まってるでしょ!? ママはパパを襲いなさいっ!!』

 

「「はぁっ!?」」

 

「はーいっ♪ というわけでダーリン、いいわよね?」

 

「べ、別に構わないけど…………家に帰るまで我慢しろよ?」

 

「はーいっ♪」

 

 ハヤカワ家の男って、本当に女に襲われやすいんだなぁ…………。親父も俺たちが生まれる前は、子供が何人生まれてもおかしくないほど搾り取られていたらしい。

 

 これって呪いなのかな?

 

「はぁ…………」

 

「す、凄い両親だね…………」

 

「ああ、イリナか」

 

 隣にやってきたイリナはどうやらさっきの親父たちの話を聞いていたらしく、顔を真っ赤にしながらサイガ12Kの安全装置(セーフティ)を解除している。

 

 ラウラは後方で狙撃して俺たちの進撃を支援する予定なのか、こっちに合流する気配はない。そのため俺はイリナや他の戦車部隊と共に進撃し、最終防衛ラインの敵を蹂躙することになる。

 

 歩兵の隊列の前に、ホイッスルを手にした兵士が躍り出る。モリガン・カンパニーの制服に身を包んだその兵士はホイッスルを口に咥えると、得物を構えて突撃する準備をする歩兵たちや戦車の群れを見渡してから―――――――廃墟と化した帝都に、ホイッスルのけたたましい音を響かせた。

 

『ピィィィィィィィィィィィィッ!!』

 

「「「「「「「「「「УРааааааааааа!!」」」」」」」」」」

 

 ホイッスルの甲高い残響を、無数の兵士たちの雄叫びが突き破る。AK-12を手にしてもう突進を始めた兵士たちの頭上をヘリやA-10Cたちが通過していき、兵士から適度に間隔をとった戦車部隊もエンジンの音を響かせながら前進を開始する。

 

 沖と図書館で待機している戦力以外をすべて投入した、連合軍の猛攻撃。漆黒の制服に身を包んだ兵士たちが瓦礫の山と化した帝都を駆け抜け、最終防衛ラインへと逃走していく敵の戦車部隊を追う。

 

 無数の黒い兵器が、雪に覆われ欠けている白い大地を蹂躙する。

 

 やがて逃走していった戦車の群れが停車し―――――――再びこちらに砲身を向けた。これ以上後退するわけにはいかないと判断したのだろうかと思いつつ射撃の準備をしたが、どうやらあのレオパルトたちが停車した位置が最終防衛ラインらしい。よく見てみると、俺とカノンが狙撃に利用させてもらったホテルの建物が右側にうっすらと見えている。

 

 ここが、敵の本拠地前の最後の防衛ライン。ここを突破すれば、ついに本拠地への攻撃に移ることが許される。

 

 だが―――――――瓦礫や廃墟の中でLMGや重機関銃を構え、無反動砲を準備している敵の数はかなり多い。敵部隊やこちらは未だに1発も撃っていないが、ここでも死闘が繰り広げられることになるのはすぐに理解できた。

 

 そして、敵が先制攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

 

 まるでサイレンのような音が響いたかと思うと―――――――凄まじい速度で急降下してきた1機のA-10が、分厚い主翼の下部に搭載されている2門の榴弾砲を同時にぶっ放し、それをレオパルトの砲塔の上部に叩き込んだのである。キューポラを正確に射抜いたその一撃は車内へと飛び込むと、瞬く間にそのレオパルトを火達磨にしてしまう。

 

 体勢を立て直しながら再び上昇していくA-10。2門も榴弾砲を搭載するというとんでもないカスタマイズをしているその機体のパイロットは、きっとミラさんに違いない。

 

 彼女の一撃が―――――――最初に放たれた一撃だった。

 

 その直後、今度はヘリ部隊が一斉に襲い掛かる。こちらに照準を合わせていた敵の戦車部隊に対戦車ミサイルを撃ち込み、無反動砲や対戦車ミサイルの準備をしていた敵兵をターレットの機関砲で始末していくホーカムたち。

 

 爆風の中で、戦車が木っ端微塵になっていく。容赦のないロケット弾や機関砲の雨が歩兵を吹き飛ばし、雪を敵兵の血肉や身体の破片で覆っていく。

 

 そして、ついに俺たちの番になる。

 

 今の攻撃の餌食にならなかった射手が、大慌てで設置されている重機関銃のグリップを握る。照準器で俺たちに照準を合わせるが、奴がトリガーを押すよりも先にその兵士の頭に風穴が開いた。

 

 がくん、と頭が大きく揺れ、後方に頭蓋骨の一部や血肉が飛び散る。

 

 そいつの命を奪ったのは、俺が持つマドセン軽機関銃から放った1発の7.62×54R弾だった。モシン・ナガンが発射する弾薬と同じ弾薬で頭を撃ち抜かれる羽目になった兵士はそのまま仰向けに崩れ落ちると、風穴から溢れ出る鮮血で雪を赤く染めはじめた。

 

「イリナぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「分かってるッ!」

 

 サイガ12Kを構えるイリナが、人間を上回る瞬発力で最前列へと飛び出す。そしてフラグ12がたっぷりと装填されたショットガンを敵の隊列へと向け――――――凄まじい勢いでぶっ放し始めた。

 

 爆発する得物を好む彼女の猛攻は、味方を誤って巻き込む可能性はあるものの、味方が巻き込まれる可能性が低い状況ではこれ以上ないほど獰猛な破壊力を発揮する。立て続けに炸裂弾を叩き込まれた敵の最終防衛ラインからは爆炎だけではなく肉片や腕の一部が舞い上がり、無数の小さな爆風が敵兵たちを蹂躙していく。

 

 敵の塹壕に肉薄した兵士たちが飛び込んでいき、至る所で白兵戦が勃発する。スコップを引き抜いた兵士が敵兵に殴りかかり、慌てふためく敵兵たちをアサルトライフルのフルオート射撃で薙ぎ倒していく。

 

 ヴリシア侵攻作戦は、もう終盤だ。ここを突破すれば、あとは敵の本拠地を攻撃するだけである。

 

 とはいえ、本拠地が一番危険だろう。そこには―――――――吸血鬼の女王である、アリア・カーミラ・クロフォードがいるのだから。

 


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