異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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兵士たちの死闘

 

 

 いつも目を覚ますと、窓の外には工場の排煙で曇った空が広がっている。相変わらず石炭の匂いがする薄汚れた服に身を包み、なけなしの金が入った財布や仕事に必要な道具が入ったカバンを背負い、壁にいくつも穴が開いた安いアパートから職場を往復する日々。休日はあるけれども仕事の疲れのせいで1日中寝ているのは当たり前で、目を覚ました頃にはすっかり夜になっている。

 

 そんな日常に必死に耐え続け、俺は賃金のために働き続けた。けれども工場を牛耳る貴族や資本家は俺たちに与える賃金を増やすどころかどんどん減らしていき、仕事をより過酷なものに変質させていく。そのうち過労死するんじゃないかと思ってしまうような日常を象徴するのが、あの曇ったサン・クヴァントの空。

 

 その空に、火の粉が舞っていた。

 

 雪が降るせいで真っ白になった空へと、火の粉が舞い上がっていく。灼熱の粒子とすれ違った雪たちは瞬時に溶けてしまい、地上に降り立つ前に姿を消してしまう。

 

 それどころか、地上に降り積もっている筈の雪も姿を消していた。

 

 鬱陶しいと思ってしまうほど屹立していたあらゆる建物が残骸と化し、それに降り積もっていく雪たち。先ほどまで俺が目にしていたのは、そういう景色だった筈だ。

 

 けれども、今は全く違う。そんな景色の面影などどこにもない。

 

 目の前にあるのは―――――――まるで火山のような光景と化した、俺たちの生まれ育った街だ。

 

 降り注ぐ無数のロケット弾が雪を蹴散らして残骸を吹き飛ばし、派手な音を立てながら着弾した砲弾の群れが、太陽が吐き出すフレアにも似た火柱をいくつも生み出していく。もうクリスマスだというのに、寒さは全く感じない。むしろ工場の溶鉱炉の近くで仕事をしていた時のように、熱い。

 

「おいおい、何だこの火力は…………」

 

 隣でブローニングM2の弾薬がきっしりと入った箱の蓋を開けていたフランツが、前方に着弾した砲弾が産み落とした火柱を見上げながら呟いた。このような異世界の兵器の扱い方は吸血鬼共から教わったが、あんな破壊力を持つ兵器を見たことはない。明らかに戦車砲とは比べ物にならないほど大口径で、射程距離の長い兵器なのだろう。

 

 すでに第一防衛ラインと第二防衛ラインを失った挙句、敵に橋頭保まで与える羽目になってしまったため、俺たちが配属されたこの最終防衛ラインの兵力は、2つの防衛ラインと比較するとかなり多い。つい最近”徴兵”されたばかりの訓練が不十分な奴らも含めれば、守備隊の人数はおよそ290000人。ヴリシア帝国が誇る騎士団の兵力を凌駕するほどの数だが、敵はこれまでの戦いで損害を出しているとはいえ、未だに俺たちの戦力の20倍。ここに並ぶ俺たちを容易く呑み込んでしまうほどの敵部隊が押し寄せる光景は、できるならば思い描きたくはない。

 

 割り当てられたブローニングM2重機関銃の最終チェックをしていると、俺の隣でG36Cを抱え、積み上げられた土嚢袋に背中を押し付けながら若い兵士がブルブルと震えているのが見えた。俺よりも10歳くらいは年下だろうか。

 

 確かこいつは、数週間前に俺たちの部隊に配属になった若い兵士だ。資本家が過酷な仕事をさせたせいで一度倒れてしまい、それが原因で解雇されてしまった哀れな若者。しかもそれで職を失ったことが原因で、病気の母親に薬を買ってやることもできずに、結局自分の母親を病気で失ってしまった青年だ。

 

 哀れな奴だが、そういう奴はこの国に何人も存在する。だからこそ俺たちは資本家や貴族を憎む。

 

 しかし彼の怒りは、魔王たちの軍隊が放つ圧倒的な砲撃に敗北してしまったらしい。戦う前に『オルトバルカ人共を皆殺しにしてやる』と言っていた彼とは思えないほど、今の彼は怯えていた。

 

 ああ、それでいい。戦いってのは怖いんだよ。

 

「分隊長…………あんな奴らに勝てませんよ…………」

 

「おい、ヨーゼフ…………」

 

 震えながら言う青年をフランツが咎める。俺は得物を点検しつつ、弾薬の入った箱がどこに置いてあるか確認するふりをしながら、今のこいつの弱音が吸血鬼に聞かれていないか確認した。あいつらは俺たちに力を与えてくれたが、味方の指揮を下げるような行動や敵前逃亡をする兵士には容赦がない。塹壕の中に転がる死体の半数は、奴らによって敗北主義者という汚名を着せられ、”粛清”された仲間の骸だ。中には過酷な労働に耐えながら、一緒に小さな硬いパンを齧った親友もいる。

 

 幸い、吸血鬼の奴らは塹壕の後方にいるようだった。だから彼の弱音は聞こえないし、仮にもう少し声が大きかったとしても、忌々しい魔王共の砲撃がそれをかき消してくれる。それだけは、リキヤ・ハヤカワに感謝しておこう。

 

「俺たち、ここで殺されるんです…………前線で戦ってた奴らみたいに」

 

「そうかもな」

 

 前線で戦った奴らだけじゃない。俺たちのいる塹壕に転がってる奴らみたいに、吸血鬼に消されるかもしれない。俺はむしろそっちの方が恐ろしい。

 

 ヨーゼフのヘルメットを軽く叩きながら、俺は息を吐いた。

 

「死にたくないなら、敵を殺せ。いいな?」

 

 吸血鬼に消されないなら逃げた方がいいだろう。けれども逃げ出す兵士を粛正するクソッタレが後ろにいるならば、あいつらの思惑通りに戦い抜いた方がまだ生存率は高い。

 

 ヨーゼフはまだ震えていたが、少なくとも聞く度に吸血鬼がいないか警戒する羽目になりそうな弱音を吐くのを止めてくれた。震えながら頷き、G36Cを構えながら銃口を前線へと向ける。

 

 果たして、俺たちに割り当てられた武器と弾薬だけで敵を退けることができるのだろうか? ヘルメットをいつの間にか覆っていた泥を払い落とした次の瞬間、俺たちの塹壕の近くで待機していた戦車が何の前触れもなく潰れた。

 

 まるで粘土の塊の上に、重い鉄球を落としたようだった。ぐしゃ、と堅牢な装甲で覆われた砲塔があっさりと潰れ、身を守るための装甲が中にいた乗組員たちの肉体を瞬く間に押し潰す。しかし彼らが絶叫を上げるよりも先に、分厚い装甲をひしゃげさせるほどの運動エネルギーを纏って突っ込んだ砲弾が起爆し、彼らの肉体を戦車もろとも消し去った。

 

 レオパルトが一瞬で火柱と化し、砲身の一部や千切れ飛んだキャタピラが炎を纏いながら降り注ぐ。

 

 先ほどから降り注いでいた砲撃が、”運悪く”レオパルトを直撃したのだ。塹壕から身を乗り出して叫びそうになっていたヨーゼフの口を押えながら慌てて塹壕の中に押し込んだ直後、先ほどまで降り注いでいた砲撃がぴたりと止まる。

 

「砲撃が…………」

 

 それが何の予兆なのか、すぐに分かった。

 

 どれだけ屈強な兵士たちでも、味方がこれでもかというほど砲弾を降り注がせている戦場を突っ切ろうとは思わないだろう。この異世界の兵器を使わない場合でも、魔術師や弓矢の使い手たちは前衛が突撃することを考慮し、攻撃を一時的に中断するものだ。きっと異世界の兵器で武装した場合でも、味方を巻き込まないために攻撃を中断するという鉄則は変わらない。

 

 火の海と化したサン・クヴァントの市街地の向こうから―――――――勇ましいホイッスルの音と、荒々しい兵士たちの雄叫びが聞こえてきた。やがて戦車のエンジンのような音や、ヘリのローターが空気をズタズタにする音も聞こえてくる。

 

 もう一息で俺たちを打ち破れるからなのか、敵もこの攻撃で勝負を決めるつもりなのだろう。戦車や歩兵だけでなく、戦闘ヘリまで投入して総力戦を仕掛けるつもりなのだ。

 

「敵が来るぞ! 攻撃用意!」

 

 塹壕の中に滑り込み、双眼鏡を覗き込みながら指揮を執る吸血鬼の指揮官を一瞬だけ睨みつけ、俺はすぐに照準器を覗き込む。さっきの砲撃にビビって地下壕に避難してたんじゃないんですか、と言ってやりたかったが、戦う前に拳銃で頭を撃ち抜かれるのはごめんだ。兵士たちの士気も下がってしまうからな。

 

 もう一度重機関銃をチェックしようと思ったが―――――――そのために手を伸ばすと同時に、まるで防壁のように屹立していた黒煙の向こうから、無数の戦車が姿を現した。砲塔の脇にハンマーとレンチが交差し、その上で赤い星が輝いているエンブレムが描かれた無数の戦車が、まるでコアラのように背中に数人の兵士たちを乗せ、火の海を突っ切って突っ込んでくる。

 

 戦闘の戦車が主砲をぶっ放した。しかし、その砲弾は俺たちの塹壕や戦車には命中せず、燃え盛る大地の一角に突き刺さっただけだ。損害はない。

 

「――――――撃てぇ(フォイア)!」

 

「攻撃開始(フォイア)!!」

 

 復唱しつつ、トリガーを引いた。

 

 重機関銃の銃弾では戦車を撃破することはできない。だが、少なくともあの戦車の上に乗っている兵士たちを薙ぎ倒すことはできる筈だ。塹壕に近づいてくるころには、敵の戦車の装甲は歩兵の血と内臓で彩られている事だろう。

 

 照準器の向こうで、漆黒の制服に身を包んだ兵士の肉体が弾け飛ぶ。エンブレムが飛び散った兵士の肉片で覆われ、完全に見えなくなってしまう。

 

 他の塹壕で準備していた重機関銃の射手たちも、立て続けに12.7mm弾を放ち始めた。中には対戦車ミサイルで攻撃を始めた仲間もいるらしく、味方の塹壕からいくつも真っ白な線が飛び出していく。

 

 そしてその対戦車ミサイルを放った奴らが―――――――真っ先に戦車砲の餌食になった。

 

「!」

 

 ボン、と地面が砕ける音がしたかと思うと、先ほど対戦車ミサイルを発射していた塹壕の1つから火柱が上がっていた。榴弾で反撃されたらしく、周囲には俺たちと同じ制服に身を包んだ死体の一部が、泥まみれになって転がっている。

 

「くそったれ! フリッツ、撃ちまくれ!」

 

「分かってます!」

 

 吸血鬼の指揮官に向かって叫びながら、フルオート射撃で敵兵を狙う。照準器の向こうでは戦車から飛び降りようとした敵兵や突っ走ってきた敵兵が、腕や足を吹っ飛ばされて倒れていく。

 

 そういえば、俺はどうしてこの戦いに参加したのだろうか? なぜ吸血鬼たちの下僕になる代わりに、この力を欲しがったのだろうか?

 

 確か、協力すれば今の賃金以上の報酬を与えると言われたからだ。収容所で待っている子供たちを養うための金を、全く賃金を払ってくれない資本家の代わりに吸血鬼たちが与えてくれると約束してくれたから、俺はこうして戦っているんだ。

 

 幼い子供たちの顔を思い浮かべた瞬間、隣でどさりと何かが倒れる音が聞こえてきた。順調に重機関銃が飲み込んでいく銃弾のベルトがだらんと垂れ下がったのを見た瞬間、いったい誰が倒れたのかを理解した俺は、唇を噛みしめながら隣にいた筈の戦友を一瞥する。

 

 箱の中から伸びるベルトを押さえてくれていたはずのフランツは、いつの間にか横になっていた。目を開けたまま火の粉の舞う空を見上げている戦友の額には、やけに大きな風穴が開いている。

 

 フランツ…………。

 

 もし戦闘中でなければ、泣き叫んでいたかもしれない。けれども仲の良かった戦友のために泣いている時間はない。今は目の前の敵を薙ぎ倒し、こいつの仇を取る必要がある。

 

「ヨーゼフ、弾薬をよこせ!」

 

「や、了解(ヤー)!」

 

 フランツの死体の傍らにある箱の中からベルトを取り出し、ブローニングM2重機関銃のカバーの中に引きずり込む。どうやら先ほどから敵兵を始末し続けたせいで敵に狙われているらしく、先ほどから銃弾が立て続けに土嚢袋に被弾しているのが分かる。

 

 大慌てで再装填(リロード)を済ませ、再び射撃。しかし再装填(リロード)をしている間にかなり接近されていたらしく、照準器の向こうの敵兵たちはアサルトライフルに銀の銃剣を装着して、雄叫びを上げながら塹壕へと突進を始めていた。

 

 フルオート射撃で薙ぎ払うが―――――――敵兵の人数が多すぎる。オークと思われる兵士の頭を吹き飛ばし、ハーフエルフの兵士を血祭りにあげたが、今の攻撃の餌食にならずに済んだ数名のハーフエルフの兵士が、銃剣のついたショットガンを構えながら塹壕の中に入り込みやがった。

 

「う、うわ―――――――」

 

 吸血鬼の指揮官がハンドガンを引き抜くが、銃口を向けるよりも先に、銀の銃剣が彼の心臓を貫く。この指揮官は吸血鬼とはいえ下っ端だったらしく、銃剣で刺された挙句至近距離で散弾を喰らった指揮官は、もう動かなかった。口から血を流しながら、まるで大きく抉り取られたかのような穴が開いている自分の胸元を見下ろしているかのように、やや下を向きながら崩れ落ちていく。

 

 そいつの仇を取ろうと思ったわけではない。むしろ、少しだけすっきりした。気に食わない奴だったし、仲の良い仲間を何人も粛清しやがったクズだからな。

 

 でも、塹壕に入り込んだ敵は処理する必要がある。

 

 近くに転がっていたスコップを拾い上げ、ヨーゼフに銃口を向けたハーフエルフの後頭部を思い切り殴りつける。そのままくるりと回転しながら後ろにいたエルフの兵士の顔面も殴りつけ、地面に倒れたそいつの喉元にスコップの先端部を突き立てた。

 

 びくん、と痙攣してから、そのエルフの兵士は動かなくなる。

 

 はははっ…………。舐めるなよ。いつもスコップで石炭を窯の中に放り込む仕事をしてたから、スコップの扱い方には自信があるんだよ。

 

「ヨーゼフ、無事か?」

 

「は、はい…………」

 

 良かった。どうやら彼は無傷らしい。

 

「…………よし、お前は後方の塹壕に撤退するふりをして、逃げちまえ」

 

「え? 分隊長、それでは敵前逃亡に――――――」

 

 こいつには、もう家族はいない。これ以上失うとしたら自分の命くらいだろう。俺と違って人質に取られている家族がいないのだから、簡単に逃げられるはずだ。

 

 傍らに転がっている吸血鬼の死体を一瞥してから、俺は言った。

 

「もう粛清する奴なんかいない。だからとっとと逃げて、幸せに生きろ」

 

「でも…………」

 

「いいから、早く行け。俺はもう一仕事してから行く」

 

 ヨーゼフが反論するよりも先に、俺は射撃を再開し、銃声で彼の反論を遮った。マズルフラッシュの向こうでまた敵兵の身体が砕け散り、火の海へと崩れ落ちていく。

 

 後ろを見たわけではなかったが―――――――困惑していたヨーゼフが、俺に向かって敬礼したような気がした。俺やフランツよりも軽そうな足音が徐々に小さくなっていき、本来の戦場に轟くはずの爆音が蘇る。ちらりと後ろを振り向いてみると、やはり怯えていた青年の姿は見当たらなかった。

 

「ふん」

 

 人生を憎しみで台無しにするなよ、若造。

 

 彼が無事に戦場から逃げ出してくれることを祈りながら、数秒後に戦車砲が塹壕で攻撃を続ける俺を直撃する瞬間まで、機関銃のトリガーを引き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撃て(アゴーニ)!」

 

 車長の命令を聴いてから、復唱して主砲の発射スイッチを押す。無人の砲塔から放たれた砲弾が外殻を脱ぎ捨てて、照準器の向こうに鎮座する敵の戦車を直撃すると、着弾した個所から凄まじい量の火花を吐き出した敵の戦車はそのまま沈黙してしまう。

 

 後方にある砲塔の中で自動装填装置が次の砲弾を装填する音を聞きながら、僕はモニターを凝視した。

 

 やはり、最終防衛ラインの守備隊は数が多い。今しがた撃破した敵の戦車の後方には、まだ2両も敵の戦車がいる。隣を並走する味方のT-14がAPFSDSを放つけど、隣の戦車の砲撃は左に逸れてしまったようだ。すかさず敵のレオパルトがAPFSDSを味方の戦車に向かって撃ち返したけど、敵の砲手の方が一枚上手だったのか、APFSDSは正確に仲間のT-14の砲塔に突っ込んだ。

 

 撃破されたわけではなかったみたいだけど、致命傷を負ってしまったらしい。隣の戦車が車長に向かって無線で連絡してから速度を落とし、後退していく。

 

 代わりに隣へと突出してきたのは殲虎公司(ジェンフーコンスー)の99式戦車。タンクデサントさせていた兵士が犠牲になったのか、砲塔の後方や車体には兵士たちの物と思われる返り血や肉片がこびりつき、まるで食後の肉食獣のようにも見える。

 

「撃て、フレッド!」

 

「発射(アゴーニ)!」

 

 致命傷を負ったT-14に砲弾を叩き込みやがった戦車にAPFSDSをお見舞いする。隣の味方を砲撃するために微妙に横を向けていた砲塔の側面に命中したらしく、装甲の破片と火花をまき散らしながら、傷を負ったレオパルトが後退していく。

 

 もう1発お見舞いしてやる。APFSDSをもう1発叩き込めば、息の根を止められる筈だ。

 

 どうして、ヴリシアの人間は吸血鬼なんかに味方するのだろうか。あいつらは人間を見下しているし、大昔にはこの世界を侵略したクソ野郎だというのに、どうしてそういう奴らに力を貸す? お前たちは蹂躙されたいのか?

 

 訳が分からない。あんな奴らに力を貸したって、自分たちも殺されるかもしれないのに。

 

 バカなのか、あいつらは。

 

 こっちにロケットランチャーを向けていた敵兵を発見した僕は、すぐさま砲塔を旋回させ、主砲同軸に搭載されている14.5mmの機銃で蜂の巣にしてやった。いや、こんな大口径の銃弾で撃たれれば蜂の巣では済まない。手足や肉が千切れ飛ぶのは当たり前で、確実に原形を留めることはない。

 

 モニターの向こうでは、進撃していく味方の戦車が奮戦している。遠くの方ではテンプル騎士団を率いる”ウォースパイト”と名付けられた戦車が、凄まじい速度で前進しながら主砲を放ち、片っ端から敵の戦車を撃破しているのが見える。

 

「すげえな、テンプル騎士団のガキ共は」

 

「ガキ? 彼ら、子供なんですか?」

 

「ああ。お前と同い年だってさ、フレッド」

 

 僕と同い年か…………。ということは、あの戦車に乗っているのは18歳なのかな?

 

 彼らとは仲良くできるだろうか。

 

 モニターの向こうで奮戦するウォースパイトを見つめてから、再び照準器を覗き込む。敵の戦車はまだ残っているだろうか?

 

 今のところは僕たちが勝っているみたいだ。いたるところにある敵の塹壕には続々と味方の歩兵が雪崩れ込み、狭そうな塹壕の中ではモリガン・カンパニーの兵士が得意とする白兵戦が開幕している。スコップやその辺に堕ちていたレンガの破片を拾い上げて殴り合う兵士たちを見守ってから、僕はまた機銃で敵兵をミンチにする。

 

 次の標的に照準を合わせようとしたその時だった。何かがすぐ近くで爆発したような音が聞こえ、バギン、と金属の塊が割れたような音が車内に流れ込んでくる。

 

「どうした!?」

 

「くそ、地雷です! キャタピラがやられた!!」

 

「ッ!」

 

 操縦士が必死に戦車を動かそうとするけれど、先ほどまで敵の銃弾を弾きながら前進していたT-14は微動だにしない。今の地雷で僕たちまで吹っ飛ばずに済んだのは幸運だけど、このままでは敵の集中砲火の餌食になる…………!

 

「やむを得ん…………戦車を放棄する! 脱出だ!」

 

 戦場の真っ只中で戦車を棄てる羽目になった僕は、舌打ちをしながら車内に備え付けてある武器を手に取り、一足先に外に出ようとしていた操縦士に手渡した。AKS-74Uを手にした彼は安全装置(セーフティ)を外し、頷いてから頭上のハッチを開け、外へ飛び出していく。

 

 そして―――――――装甲が銃弾を弾く音と同時に、すぐに車内に戻ってきた。

 

 身体中に風穴が開いた、無残な姿で。

 

「アンディ…………?」

 

「くそ、集中砲火か! フレッド、まだ主砲は生きてるな!?」

 

「はい!」

 

 くそ、よくもアンディを!

 

 自分の分のAKS-74Uを投げ捨て、主砲の照準器を覗き込む。幸い砲弾の装填は終わっていたからすぐに砲撃できる状態だったけど―――――――僕が照準器を覗き込んだ頃には、塹壕の向こうにいるレオパルトがこっちに主砲を向けていた。

 

 戦場の真っ只中で擱座した戦車に止めを刺そうとしているのだと思った瞬間、反撃を続けていた3両のレオパルトの砲口が強烈な光を放って―――――――まるで銛のような形状の鋭い砲弾が、こっちに向かって飛んでくる。

 

 その瞬間、僕は故郷のエイナ・ドルレアンに住んでいる母さんの顔を思い出した。元気な母さんだけど、もし息子がヴリシア帝国で戦死したって聞いたら…………やっぱり、泣くだろうか。

 

 ごめんなさい、お母さん。

 

 できればクリスマスには家に帰りたかったよ…………。

 

 装甲が砕ける音が聞こえたと同時に車体が揺れた直後、 T-14の装甲を立て続けに直撃したAPFSDSがついに装甲を貫通し、僕の身体を木っ端微塵にしていった。

 

 

 


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