異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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防衛戦準備

 

「よーし、この土嚢袋はそっちだ! あっ、迫撃砲はこの辺で頼むぜ! …………おいおい、戦車は向こうだぞ!? お前、ちゃんと配置聞いてたか!?」

 

 敵兵の”いなくなった”図書館の中へと、ぞろぞろと歩兵たちが入り込んでいく。本部とは違って真っ白な制服に身を包み、白と灰色の迷彩模様で塗装されたRk-95を手にしている兵士たちは、身につけている服や得物だけでなく、その兵士たち自身の肌や髪の色まで真っ白だった。

 

 先天性色素欠乏症(アルビノ)のハイエルフだけで構成されるスオミ支部からやってきてくれた、里の戦士たちである。

 

 ハイエルフは優秀な魔術師になる者が多いが、彼らが剣ではなく杖を選ぶのは、彼らの種族が他の人類と比べると華奢で、力比べでは圧倒的に不利になってしまうからだ。それに生まれつき人類の中ではチップクラスの量の魔力を体内に持つため、魔術師にも向いているのである。

 

 普通のハイエルフたちならば、そのような理由で魔術師を選ぶ。しかしスオミの里の戦士たちは違う。

 

 幼少の頃から農業や狩猟を経験しているため、優秀な戦士が多いのだ。確かに他の種族と比べると本当に華奢で、小口径のアサルトライフルのフルオート射撃の反動に耐えられないほどだった。けれども今は訓練を積み重ねて体を鍛えたらしく、何と大口径の7.62mmを使用するRk-95も簡単に使いこなしてしまうという。

 

 中には使い慣れたモシン・ナガンM28を担いでいる兵士もいるし、2人で迫撃砲を運搬している兵士たちもいる。ちらりと外を見てみると、図書館の外では本部の兵士たちやスオミ支部の兵士たちが協力して、スコップで塹壕を掘っているところだった。土を土嚢袋に入れてバリケード代わりにし、塹壕の縁に積み重ねていく。そして機関銃や迫撃砲がずらりと並ぶ塹壕の近くには、スオミの里から派遣されたStrv.103が待機していた。その戦車の上では、乗組員のハイエルフたちと本部の兵士たちが、雑談しながら一息ついている。

 

 どうやら仲良くしているらしい。スオミ支部はハイエルフのみで構成されているけれど、本部は彼らとは違って種族がバラバラだから防衛戦の前に変な軋轢が生まれないか心配だったんだが、問題はなさそうだな。

 

「お」

 

 俺もそろそろ一息つこうかと思ってさっきのラノベが並んでいた本棚を探していると、中庭の方からヘリのローターの音が聞こえてきた。中庭の方を見てみると、灰色に塗装された2機のヘリがゆっくりと高度を下げ、中庭へと舞い降りていく。

 

 機首に描かれているのは2枚の純白の翼と蒼い十字架。そしてその斜め上には、小さな赤い星が煌ている。

 

 テンプル騎士団スオミ支部のエンブレムだ。

 

 ステルス機を彷彿とさせる機首に、ロケットポッドや対戦車ミサイルが搭載されたスタブウイングを持つそのヘリは、間違いなくあの時スオミの里に託した虎の子のコマンチだった。ステルス機とヘリを融合させたような形状のヘリに乗っているのは、スオミの里が誇る2人のエースパイロットである。

 

 片方は”ついてないカタヤイネン”。そしてもう片方は、”無傷の撃墜王”。

 

 5分で到着するって言ってたんだが、どうやら俺たちは予定よりも早くここを制圧してしまったらしい。この2人にも獲物をとっておけばよかったかなと思いつつ、俺も彼らに挨拶するために外に出た。

 

 崩れかけの階段を駆け下りて壁の穴から外に飛び出すと、ちょうどヘリが中庭に作られた即席のヘリポートに降り立ち、中からパイロットが降りてきたところだった。

 

「よう、イッル!」

 

「ああ、コルッカ!」

 

 彼は俺を見つけると、微笑みながら駆け寄ってきた。

 

「酷いじゃないか、コルッカ。獲物を全部仕留めちゃうなんて」

 

「悪い悪い。でも、本番はちゃんと取ってあるぜ?」

 

 そう、問題はこの後の防衛戦である。

 

 先ほどHQ(ヘッドクォーター)に確認をとったが、どうやら第二防衛ラインの攻略に手間取っているようだ。第一防衛ラインとは違って第二防衛ラインの指揮官は優秀らしく、圧倒的な物量で前進してくる本隊をありったけの対戦車地雷や爆薬で待ち伏せし、勢いが止まった部隊に火力を集中させるという。そうすれば他の部隊を援護に回さなければならなくなり、他の部隊の攻撃力が落ちる。そしてそのまま消耗戦になっていくのだ。

 

 まだ橋頭保すら確保できていない親父からすれば、消耗戦はかなりの痛手になる。だからと言って部隊を一ヵ所に集めて強行突破を図れば、そこに集中砲火が襲来するため、むしろ損害が大きくなっているという。

 

 さすがのシンヤ叔父さんも手を焼いているらしい。

 

「ああ、そうだね。問題はこれからだ」

 

「期待してるぞ」

 

 彼の肩をそっと叩くと、イッルは頷いてから踵を返した。

 

 こっちの戦力はStrv.103を含む主力戦車(MBT)が19両。ルスキー・レノの生き残りは7両。とりあえず戦車の数だけならば申し分ない。歩兵の兵力は、戦車の乗組員も入れると160名。スオミの里は派遣できる歩兵を全員派遣してくれたみたいだけど、俺たちは戦いに慣れている精鋭だけを連れてきたため、それほど人数は多くないのだ。

 

 しかし、俺たちにはジャック・ド・モレーがついている。いざとなったら海上で待機している戦艦に艦砲射撃を要請すればいい。

 

 とにかく、本隊が第二防衛ラインを突破して合流してくれるまでここを死守しなければ。

 

「…………雪か」

 

 壁に開けられた大穴から中に戻ろうとしていると、空から静かに降ってきた白いものが俺の肩に舞い降りた。体温ですぐに溶けてしまったその白いものは、幼少の頃から何度も目にしている。雪国のオルトバルカで生まれた人々は必ずこれと共に育つのである。

 

 すっかり忘れていたが、明後日はクリスマスだ。もう12月の終盤に差し掛かっているのだから雪が降るのは当たり前だな。

 

「わっ、凄い! これが雪!?」

 

 久しぶりに目にした雪が降る夜空を見上げていると、壁の大きな穴からやってきたイリナが両手を広げながらはしゃぎ始めた。いつもは日光から身を守るためにかぶっているフードをかぶらずにはしゃいでいる彼女は、舞い降りてきた雪を掴み取ろうとする。降り積もった雪の塊なら掴めるけれども、振ってきたばかりの雪を掴めるわけがない。体温であっという間に溶けてしまい、彼女が手のひらを広げた頃にはただの小さな水滴になってしまっている。

 

「あれっ? 掴めないよ?」

 

「当たり前だよ。すぐに溶けて水になっちゃうからね」

 

「へぇ…………!」

 

「生まれて初めてか?」

 

「うん。カルガニスタンには雪は降らないから。…………それにしても、感激だなぁ!」

 

「じゃあ、余裕があったら雪合戦でもやるか?」

 

 戦闘中に余裕があるわけがないと思いつつ提案すると、彼女は微笑みながら首を縦に振った。

 

「ユキガッセンって、相手が動かなくなるまで雪を投げ続けるやつだよね!?」

 

 死人出てるじゃん。

 

「違うよ、もう少し優しく投げるんだ。死人は出しちゃダメ」

 

 苦笑いしながら言うと、彼女はニコニコしながらまた雪を掴み取り始めた。でもやっぱり彼女が掴み取った雪を見るために手のひらを広げる頃にはすっかり溶けていて、手のひらの上に小さな水滴が乗っているだけである。

 

「ところで、準備は?」

 

「ああ、もう済んでるよ。ベランダにこいつらが使ってた機関銃が残ってるし、弾薬の箱もたっぷりあった」

 

「じゃあしばらくは鹵獲した兵器を使うか」

 

 基本的に転生者が生産した武器を鹵獲するのは難しいと言われている。

 

 転生者が生産した武器は、端末を数回タッチして装備を解除するだけで消滅させることができるからだ。だから彼らが作った銃を鹵獲して転生者に向けても、その転生者が装備している武器の一覧からそれを解除してしまえば、一瞬で無力化されてしまうのである。

 

 だが、転生者が自分の生産した武器を”鹵獲された”ということを認識していない限り、鹵獲しても問題はない。

 

 こいつらの使ってた機関銃ってことは、ドイツのMG3か。確かに連射速度が速い優秀な機関銃だから、迫りくる敵を薙ぎ倒すのには向いている事だろう。

 

 ケーターたちの戦車が開けた大穴から中へと戻ろうとしたその時、コートの裾を後ろから引っ張られたような気がした。

 

「ん?」

 

 もう雪を掴み取るのに飽きてしまったのか、先ほどまではしゃいでいたイリナが俺の目をじっと見つめながら、コートの裾をぎゅっと掴んでいる。

 

「ねえ、悪いんだけど…………お、お腹空いちゃったの」

 

「ああ、ご飯ね」

 

 吸血鬼たちもサキュバスと同じく、主食である血を吸わない限り空腹感が消えないという特徴がある。どれだけ沢山ステーキやパンを口の中に放り込んで呑み込んでも、彼女たちの空腹感が消えることは絶対にないのだ。

 

 テンプル騎士団にはイリナと兄のウラルの2人しか吸血鬼はいない。そのブリスカヴィカ兄妹に血を提供しているのは、言うまでもないけれど、団員たちである。当番になっている数名のメンバーが注射器で自分の血を抜き、それを試験管にも似たガラスの容器に入れて2人に提供するのだ。

 

 けれども、最近のイリナはどうやら俺の血がすっかり気に入ってしまったらしく、抜かれた血よりも直接噛みついて血を吸う方が好きらしい。

 

 滅茶苦茶になった図書館の中を歩きながら、誰にも見つからないような場所を探す。どの部屋も穴だらけになっているけれど、どうやら職員用の休憩室と思われる部屋は無事だった。埃だらけになった扉を開けて中に入り、休憩用のソファに腰を下ろす。

 

「で、今日はどこから吸うの?」

 

 この前は首筋だったけど、その前は腕から吸った時もある。

 

「え、ええとね…………く、首がいいな」

 

「はいはい」

 

 コートのチャックを下ろし、その下に身につけている黒いワイシャツのネクタイを緩める。彼女が噛みつきやすいように首筋を露出させると、イリナは我慢できなくなったのか――――――呼吸を荒くしながら、俺の上にのしかかってきた。

 

「うわっ」

 

「はぁっ、はぁっ…………ふふふっ、やっぱり美味しそう…………♪」

 

 そう言いながら首筋の匂いを嗅いでいた彼女は、人間よりも少しだけ長い舌を伸ばすと、これから噛みつく場所を俺に教えるかのように、優しく首筋を舐めまわし始めた。そして吸血鬼の特徴である長い犬歯をあらわにすると―――――――静かに、首筋にその犬歯を突き立て始める。

 

 吸血鬼の牙で噛みつかれる痛みに堪えながら、上にのしかかっているイリナをぎゅっと抱きしめた。彼女はうっとりしながら血を吸いつつ、同じように両手を伸ばして抱き着いてくる。

 

 いつものように身体の力が抜けてくる。それに伴って彼女を抱きしめる両腕にも力が入らなくなり、そのままソファの上に落ちてしまう。あまり血を吸い過ぎると当たり前だが俺は死んでしまうので、彼女の身体を抱きしめている腕に力が入らなくなるのを目安にして、彼女は血を吸うのを止めるのだ。

 

 そっと牙を離し、傷口を何度か舐めてからうっとりするイリナ。彼女は俺の上に乗ったまま、しばらく俺の身体にしがみついていた。

 

「僕、やっぱりタクヤの血の味が一番好き」

 

 何とか右手に力を入れ、コートのホルダーにある試験管のようなガラス製の容器の中からブラッド・エリクサーを取り出す。栓を取って血のような紅い液体を口の中に流し込み、息を吐きながら天井を見上げる。

 

 やがて、少しずつ力が入るようになってくる。今しがた飲み込んだブラッド・エリクサーが吸収され、彼女に吸われた分の血液を補充してくれているのだ。

 

「ごめんね。痛くなかった?」

 

「慣れちゃった」

 

「ふふっ、じゃあ今度はもっといっぱい吸っていい?」

 

「死んじゃうって」

 

 微笑みながら、イリナが顔を近づけてくる。彼女が何をするつもりなのか予測した頃には、のしかかっている彼女の唇が俺の唇に押し付けられ、イリナの長い舌に自分の舌を絡み合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリクサーを少しだけ飲んで首筋の傷口を塞ぎ、3階へと向かう。3階のホールのドアを開けて中へと入ると、敵兵の死体の片づけが終わったのか、ホールはある程度は綺麗になっていた。

 

 近くにあった埃だらけの椅子を引っ張り、埃を手で払ってから腰を下ろす。

 

 3階のベランダには、鹵獲したMG3と7.62mm弾が連なる弾薬のベルトがずらりと並んでいた。どうやら敵の転生者はまだ図書館の守備隊が使っていた武器が鹵獲されたことに気付いていないらしく、装備は解除されていない。

 

 もう既に、HQ(ヘッドクォーター)に図書館を制圧したという連絡は送った。後は第二防衛ラインをあの親父がとっとと突破してくれれば、俺たちはさらに前進できるだろう。

 

 そう思いながら近くにあるラノベが並んでいる本棚へと手を伸ばし、適当にその中から1冊だけ引っ張り出す。

 

 何だコレ? タイトルは…………『異世界で魔術師が禁術を使うとこうなる』?

 

 オルトバルカでは売ってないラノベだな。しかもヴリシア語で書かれてるし。小さい時にヴリシア語も習ったけど、色々と他の言語と比べると独特だから難しいんだよね。部分的にしかわからない。

 

 どうやらこのラノベは、魔術や魔物が存在しない世界へと転生した天才魔術師の少年が、向こうの世界で魔術を駆使して人々を助ける話らしい。要するに、俺や親父とは逆ってことだな。

 

 まだ1巻らしいけど、最後の方ではなんとその魔術師の少年がエイブラムスと戦うことになったらしい。エイブラムスの主砲を魔術で防ぎながら、ファイアーボールで反撃している。

 

 おい、ちょっと待て。何でファイアーボールでエイブラムスの正面の装甲を貫通してんだよ!? アメリカ軍の誇る戦車はこんなに貧弱じゃねえぞ!? しかもそのファイアーボールで空母まで撃沈してるし!

 

 知っている兵器が魔術で蹂躙される描写が出てくる度に憤ったけど、こっちの世界の人からすれば強力な魔術が見たこともない現代兵器で打ち破られるのは納得できない光景なんだろうなと思い、息を吐く。

 

 というか、これの作者って転生者なんじゃないだろうか?

 

「くそったれ、このラノベの作者を後で粛清してやろうか」

 

「ふにゅっ、ここにいたっ♪」

 

「おお、ラウラ」

 

 ラノベを本棚に戻しながら後ろを振り向くと、ニコニコしながら走ってきた彼女が抱き着いてきた。

 

 彼女を抱きしめると、ラウラはすぐに両手と尻尾を使って俺を抱きしめてくれる。

 

「ねえ、さっきイリナちゃんと何してたのかな?」

 

「…………」

 

 …………見られてた?

 

 血を吸わせるだけなら、まだ彼女にご飯を上げていたことになるからきっと許してもらえる。けれど、その後にやったことを思い出した俺は彼女に抱きしめられながら凍り付く羽目になった。

 

 き、キスしてましたね…………。

 

 ヤバい。こ、殺されるんじゃないだろうか…………?

 

 彼女の目はもう虚ろになってるんだろうなと思いながら、恐る恐る顔を上げる。俺を抱きしめている彼女の瞳は―――――――いきなりイリナと何をしていたのか問い詰めてきた割には、いつもとあまり変わらなかった。

 

 あれ? いつもなら虚ろになってるよね?

 

「ふふふっ。今度からイチャイチャする時は、お姉ちゃんも誘ってね♪」

 

 そう言ってから頬にキスしたラウラは、彼女がいつも通りだったことに驚いている自分の弟をぎゅっと抱きしめ続けた。

 

 もしかして、もうヤンデレじゃなくなったのかな…………?

 

 元通りになってくれたことを祈りながらメニュー画面を開き、ラウラの好感度を確認する。相変わらず彼女のハートマークはヤンデレを意味する紫色に染まっているのを確認した俺は、どういうわけか安心してしまうのだった。

 

 


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