異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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図書館制圧

 

 

 図書館へと突っ込んで行ったドラゴン(ドラッヘ)たちを見守ってから、俺もレオパルトの砲塔の中へと滑り込んだ。改造する前と比べると砲身が太くなった上に長くなり、砲塔も大きくなった割にはハッチの広さは変わらないから、ここから出入りする時だけは改造された戦車に乗っているという実感がない。

 

 けれどもこいつが攻撃力を強化されたと実感するのは、俺の座席の近くにある弾薬庫に並ぶ、やたらと大きな砲弾の群れとにらめっこをする時だ。一般的な120mm滑腔砲よりも巨大な140mm滑腔砲はかなり強力で、直撃すれば最新型の主力戦車(MBT)を容易く撃破したり、擱座させることが可能である。けれども、当たり前だが大口径の滑腔砲ということは、砲弾もでかいという事だ。他の車両のように自動装填装置を搭載していないこのホワイトタイガー(ヴァイスティーガー)の装填は、機械ではなく俺が行うのである。

 

「さて、そろそろ私たちも前に出るべきかしら?」

 

「そうかもな」

 

 先ほど聞いていた無線では、図書館の中庭に敵の戦車が潜んでいるという。歩兵部隊の中にはロケットランチャーを装備している奴らもいるが、分厚い装甲を持つ戦車はそう簡単に撃破することはできない。RPG-30を装備しているおかげでアクティブ防御システムは怖くないが、戦車を相手にすれば歩兵部隊にも被害が出るだろう。

 

 それに、この戦車が搭載している140mm滑腔砲は、歩兵を吹っ飛ばすために搭載しているのではない。分厚い装甲で守られた戦車を撃破し、味方を掩護するために搭載されているのである。その強力な主砲を歩兵にばかり使っていたらこんなでっかい主砲を搭載してきた意味がなくなってしまう。

 

 こっちを見てから頷いた木村が、俺たちの乗るレオパルトを前進させた。すると車内で待機していたノエルが装填手用のハッチから身を乗り出すと、備え付けてあるMG3を図書館のベランダへと向け、歩兵を狙っている射手たちへフルオート射撃を叩き込み始める。

 

「こちらホワイトタイガー(ヴァイスティーガー)。これより前進するわ。敵と間違って撃たないでね」

 

 敵は灰色に塗装されているのに対し、こっちはこれでもかというほど真っ白に塗装されている。雪原での戦闘では役に立つかもしれないけど、こんな焦げた瓦礫だらけの市街地では何の役にも立たない。むしろ、逆に目立ってしまうかもしれない。

 

 真っ白な戦車を間違って撃つ味方がいないことを祈りながら、いつでも砲弾を装填できるように準備しておく。

 

「敵の戦車を捕捉!」

 

 MG3を撃ち続けていたノエルが車内へと引っ込むと同時に素早く報告する。ハッチを閉めてからキューポラから覗き込むと、確かに図書館の渡り廊下の向こうで蠢く鋼鉄の巨躯が、搭載されているでっかい主砲をこっちへと向けているところだった。

 

 装填されているのはAPFSDS。命中すれば装甲の厚い新型の戦車でも大損害を被るのは確実だ。しかも俺たちの主砲の口径はでっかい140mm。直撃すれば、下手をすれば新型の戦車でも一撃で沈黙してしまう事だろう。

 

 そしてそれをぶっ放すのは――――――シュタージの誇る、最強の砲手である。

 

 俺たちの周囲に敵の歩兵が放った迫撃砲が着弾し、火柱と瓦礫の破片を舞い上げる。外の景色が舞い上がる土屋瓦礫の破片に埋め尽くされているにもかかわらず、坊や(ブービ)は脇目も振らずに照準器を覗き込み続けている。きっと彼の覗き込んでいる照準器の向こうは、忌々しい迫撃砲の着弾で舞い上がる瓦礫や煙のせいで何も見えない状況になっている事だろう。辛うじて煙の向こうのシルエットが見える程度に違いない。

 

 砲手や狙撃手が攻撃を行う場合は、まさに最低な条件と言える。両者の攻撃方法は異なるものの、どちらも自分の”目”を頼りにして照準を合わせなければならない。辛うじてシルエットが見える程度の状態で正確に砲弾を叩き込むのは、不可能に近い。

 

 けれども、坊や(ブービ)は悪態をつかない。黙って照準器をじっと睨みつけ、クランが命令を下すのを待っている。

 

 シュタージの仲間たちは、この少年ならばきっと敵に砲弾を叩き込んでくれると信じているのだ。今までそうやって敵に砲弾を叩き込み、この戦車に何度も勝利をもたらしてきたのだから。

 

「――――――Feuer(撃て)!」

 

「発射(フォイア)!」

 

 ついに、俺たちのレオパルト2A7+に搭載されていた140mm滑腔砲が火を噴く。

 

 キューポラの向こうで、砲口の周囲に停滞していた空気が、飛び出してきたでっかい砲弾に追いやられたかのように吹き飛ばされた。一瞬だけ衝撃波の”形”がそこであらわになったかと思うと、その衝撃波を生み出した張本人は早くも砲弾の外殻を脱ぎ捨て、戦車の装甲すら貫通する荒々しい真の姿へと変貌していた。

 

 敵の戦車は相変わらず見えない。本当に輪郭が見えているのだろうかと思った瞬間、黒煙の向こうから凄まじい轟音が聞こえてきたかと思うと、一瞬だけ真っ赤な火柱が見えたような気がした。

 

 どうだ? 撃破したか?

 

「――――――命中!」

 

『おい、こちらマレーヤ! 俺たちの獲物を横取りしたのはどいつだ!?』

 

「文句ある?」

 

 にやにやと笑いながら無線機に向かって言い返したクランは、一撃で敵の戦車を撃破するという戦果をあげた坊や(ブービ)に向かって微笑むと、次のAPFSDSを装填するために手を伸ばしていた俺に向かってウインクし、胸を張った。

 

 やっぱり坊や(ブービ)なら命中させるか。

 

 相変わらず腕の良い砲手だと思ったけれど、仲間が戦果をあげたという喜びを、砲塔のすぐ近くを掠めていった砲弾の音が見事に粉砕していきやがった。どうやら敵にはまだ戦車が残っているらしい。しかも狙われているのは、今しがた奴らの戦車を破壊した俺たち。

 

 なるほどね、味方の仇討ちってわけか。

 

「おいおい、狙われてる!」

 

「あらあら、危ないじゃないの。…………ところで装填は?」

 

「終わりましたよ、お嬢様(フロイライン)

 

「そう。じゃ、あいつも鉄屑にしちゃいなさい♪」

 

はーい(ヤー)

 

 装填を終えた俺は、座席の近くにあるモニターを確認した。ターレットに搭載されているカメラからの映像には、確かにこっちに砲塔を向けているレオパルトが映っている。とはいえ味方にも位置がバレてしまったらしく、仲間の仇を討とうと努力するレオパルトの周囲には、立て続けにAPFSDSが着弾して地面を抉り、破片を装甲に叩きつけていた。

 

撃て(トゥータ)!』

 

『兄貴、あいつら逃げる気だ!』

 

『くそ、建物を盾にする気か! 回り込め!』

 

 ん? スオミ支部の戦車部隊か?

 

 ターレットを旋回させて隣を見てみると、いつの間にかスオミ支部のエンブレムが描かれたStrv.103が隣まで前進してきており、逃げようとするレオパルトに向かってAPFSDSをぶっ放し続けていた。防衛戦に特化した戦車なんだから、もう少し後方から狙い撃ちにしてもらいたいものである。

 

 無線機の向こうから聞こえてくるスオミ支部の兵士たちの声を聴きながら肩をすくめると、クランも苦笑いした。近くに置いてある水筒を拾い上げて中に入っているアイスコーヒーを飲んだ彼女は、息を吐いてから無線機を手に取る。

 

「私たちが対処します。あなた方は後退を」

 

『何だって? おい、敵は建物の後ろだぞ?』

 

「任せてください。こっちには140mm滑腔砲がありますので。では」

 

「…………おいおい、坊や(ブービ)に結構無茶させるじゃないか」

 

 ため息をつきながらターレットを旋回させ、先ほどまで味方の集中砲火を喰らっていたレオパルトを探す。どうやらあのまま砲撃を続けるのは危険だと判断したらしく、図書館の建物の反対側へと退避したようだ。キャタピラの後は残っているが、このまま深追いをすれば不意打ちを喰らう可能性は大きい。

 

 小回りが利かない上に防御力も低いStrv.103を向かわせなかったのは正しい判断だが、こっちだって装甲がさらに分厚くなっているとはいえ、キャタピラに喰らえば身動きが取れなくなるし、エンジンに被弾すれば擱座してしまう。

 

 けれど、クランが何をさせようとしているのかは何となく予想できた。

 

坊や(ブービ)目標1時方向」

 

はいはい(ヤー)

 

 クランが指示した場所を、俺も確認する。ターレットを向けてズームしてみると、建物に空いた壁の向こうにレオパルト2の砲塔の縁が辛うじて見える。けれども見られているという事に気付いたのか、すぐに移動して完全に建物の陰に隠れてしまった。

 

 無駄だな。

 

 建物の壁を見ながら、俺はそう思った。いくら帝都の大きな図書館とはいえ、壁はあくまでも伝統的なレンガである。建物を支えるためにそれなりに大きなレンガが使われているようだが、そんなものが何枚か重ねてあったとしても、戦車の装甲を貫くAPFSDSを止められるわけがない。

 

「撃つよ?」

 

「どうぞ?」

 

「じゃあ、発射(フォイア)」

 

 発射されたAPFSDSが、外殻を脱ぎ捨てるよりも先にレンガの壁を易々と貫通する。まるで積み木で作った壁を、巨大な鉄槌で思い切り殴りつけたかのようにも見えてしまうほどの破壊力だった。

 

 そこから先は煙のせいで見えない。辛うじてAPFSDSが脱ぎ捨てた外殻が落下していくのが見えたけど、砲弾が最終的に何に命中して戦果をあげることになるのかは、モニターに映る煙のせいで全く見えない。

 

 けれど、坊や(ブービ)なら本当に当ててしまうかもしれない。相手が建物を盾にしていたとしても関係なく、そこにいる敵を射抜いてくれるだろう。

 

 期待しながら見つめていると、やはり煙の向こうで火柱が上がった。

 

 衝撃波が煙を吹き飛ばしてくれたおかげで、煙の向こうの光景があらわになる。

 

 APFSDSが突き破った壁の向こうでは、やはり火柱が上がっていた。燃え上がっているのは灰色と白の迷彩模様に塗装された1両のレオパルト。砲弾はどうやら車体と砲塔の繋ぎ目へと飛び込んだらしく、隠れていたレオパルトはハッチや砲塔と車体の間から炎を吐き出し、動かなくなっていた。

 

「撃破!」

 

「よし、さすが!」

 

 炎上するレオパルトの残骸を見ながら、俺も歓声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カウンターの向こうから姿を現した敵兵に7.62mm弾のフルオート射撃をお見舞いしてから、本棚がずらりと並んだ広間の中を突き進む。パンマガジンの中にはあと何発の弾丸が残っているのだろうかと思った瞬間、今度はその部屋の中から安全ピンを引っこ抜かれた手榴弾が飛んできて、俺の足元へと転がってきた。

 

 咄嗟に射撃を中断しつつ、隣でサイガ12Kをぶちかまそうとしていたイリナを思い切り突き飛ばす。同時に前進を外殻で覆って姿勢を低くした俺は、歯を食いしばって衝撃に耐えることにした。

 

 どうやら建物の中にまでたどり着いたのは、現時点で俺とイリナだけらしい。ラウラは建物の外にある狙撃ポイントを移動しつつ20mm弾で隙を見せた敵兵を狙撃してくれているので、対処しきれない敵は彼女に任せることにしていた。

 

 手榴弾の爆発が本棚を吹っ飛ばし、綺麗に並んでいた分厚い図鑑を埃まみれの床の上にぶちまける。熱風と破片が俺たちの上を通過していったのを確認してから姿勢を少しだけ高くしつつ、イリナを連れて最寄りの本棚の影へと移動する。

 

「タクヤ」

 

「ん?」

 

 飛び出して仕返ししてやろうとしていると、武器を確認していたイリナが俺のコートの袖を引っ張り始めた。

 

「その…………何で庇ったの? 僕、吸血鬼だから…………再生できるよ? ぐちゃぐちゃにされても」

 

「…………銀が混じってたらどうする」

 

 確かにイリナは吸血鬼だから、弱点で攻撃されない限りは再生する。もしここでそのまま飛び出して5.56mm弾の餌食になったとしても、その弾丸に聖水が仕込まれていたり、弾丸そのものが銀で作られていない限りは再生することができるのである。

 

 でも、再生できると言っても痛覚まで消えるわけではない。身体中を蜂の巣にされる激痛やミンチにされる激痛をしっかりと味わう羽目になるのだ。仲間にそんなことを味わわせたくはないし、敵の中にイリナが吸血鬼だと見破った奴がいて、銀の弾丸をこの中に紛れ込ませているかもしれない。

 

 仲間は失いたくない。だから俺は、再生能力がある彼女を庇った。

 

 本棚の影から銃身を突き出し、先ほど手榴弾を放り投げてくれた敵にフルオート射撃を叩き込む。突入してから5回もマガジンを交換しているため、残っているのは今装着しているこれだけである。おそらく、残りの弾薬は20発を切っている筈だ。

 

 一旦本棚の影に引っ込みながら、隣にいるイリナの深紅の瞳を見つめる。

 

「大事な仲間だからな。傷つけさせたくないんだよ」

 

「え…………?」

 

 彼女の顔が少しばかり赤くなる。それを見てニヤリと笑った俺は、耳に装着している小型無線機のスイッチを入れた。

 

「ラウラ、今どこだ?」

 

『今2階の敵を狙撃中。そっちは3階のホール?』

 

「ご名答。悪いけど、カウンターの向こうのクソッタレを片付けてくれないか? 射撃が凄くてな―――――――うおっ!? く、くそ、読書できそうにない!」

 

『はーい。お姉ちゃんに任せて♪』

 

 もう一度本棚の影から銃身を覗かせて、弾丸をばら撒いた。照準器を除いたわけではないから狙いは定めていない。これで敵を倒せたら幸運だろう。

 

 しかし敵はこんなでたらめな攻撃を回避するために、姿勢を低くしてカウンターの陰に隠れやがった。俺が放つ7.62mm弾の豪雨は彼らの頭上にあるカウンターの縁や上に置かれている小さな棚に風穴を開け、彼らの頭上に破片を降らせるだけである。

 

 というか、俺たちが隠れてる本棚に並んでるのってラノベじゃん。しかも俺が買ってるラノベの新刊までさり気なく並んでいやがる…………! よし、この戦いが終わったらこっそり読もう。もちろん盗む気はないけど。

 

 そしてすぐにマガジンの中が空になる。たった数秒だけのフルオート射撃だったけど―――――――無意味だったわけではない。

 

 弾切れになったLMGを投げ捨て、腰のホルスターの中からソードオフ型にカスタマイズされたウィンチェスターM1895を引き抜く。頭を上げた敵にヘッドショットでもお見舞いしてやろうかと思いながら大型化されたピープサイトを睨みつけていたその時、カウンターの後ろにあったやたらと大きな窓が割れ―――――――1発の弾丸が、カウンターの中へと駆け込んでいった。

 

 ずぼっ、とカウンターに大穴が開く。その穴の向こうに見えるのは、凄まじい運動エネルギーによってミンチにされた人体の一部と、木っ端微塵になった彼らのヘルメット。何の前触れもなくミンチにされた仲間の内臓の一部や肉片をぶちまけられた若い兵士が、仲間の血肉まみれになりながらぶるぶると震えて立ち上がる。

 

 しかし、窓の外からその弾丸を放り込んだ張本人は無慈悲だった。

 

 次の瞬間、その若い兵士の上半身が消滅する。いきなりどこかに瞬間移動したのではないかと思えるほどの速さで消え失せた彼の上半身の一部は、仲間たちと同じようにズタズタにされた状態で、床の上やカウンターの上に転がっていた。

 

 装甲車の装甲を貫通できるほどの破壊力を秘めた20mm弾が、人体に牙を剥いたのである。普通の銃弾で殺されたのならばまだ人間の姿をした死体になるけれど、大口径になればなるほど死体は原形を留めなくなる。

 

 そんな代物で狙撃したのは――――――窓の向こうに見える屋根の上に、唐突に姿を現した赤毛の美少女。

 

 例の氷の粒子を身体中に纏う事で周囲の光景を反射し、まるでマジックミラーのように自分の姿を隠すことができる疑似的な光学迷彩である。生まれつきそんな能力を扱える才能を持ち合わせていた彼女に狙撃を組み合わせた戦い方は、獰猛としか言いようがない。

 

 援護してくれた彼女に手を振りつつ、俺とイリナは中を確認する。他の部屋も同じように殲滅してきたが、ここにももう敵兵は残っていないようだ。

 

 とりあえず、制圧完了だな。

 

 

 

 

 


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