異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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テンプル騎士団VS戦車部隊

 

 巨大な車輪の群れが、瓦礫の上に巨大な溝を刻みつけながら疾走していく。明らかに列車の車輪や馬車の車輪よりも大きな車輪が、取り付けられたロケットモーターで加速させられながら突っ込んでくるのを目の当たりにすれば、どんな歴戦の兵士でも恐怖を覚えてしまうことだろう。

 

 しかもその車輪は1基だけではない。ずらりと横に1列に並んだ20基の車輪が高速回転しながら、軸の部分に搭載された大量の爆薬を使って自爆するために殺到してくるのである。しかも破壊力と威圧感を増すために大型化されたその車輪は、命中さえすれば装甲車を木っ端微塵に破壊し、最新型の主力戦車(MBT)ですら擱座させることができるほどの破壊力を秘めているのだ。

 

 だが、その車輪がそれほどの破壊力を秘めていると予測できた敵は、1人もいなかったに違いない。

 

 予測している暇などないのだ。目の前から人体を容易く踏みつぶしてしまえるほどのサイズの車輪が、ロケットモーターの恩恵で高速回転しながら突っ込んでくるのだから。

 

「う、うわ、何だあれ!? でっ、でっかい車輪が――――――」

 

「撃て! 敵の攻撃だ!」

 

 カチューシャの一斉攻撃が生み出した爆風を突き破って姿を現した大型パンジャンドラムの群れへと砲塔を向けたレオパルト2A7+の車長が、無線機に向かって叫びながらキューポラの中へと潜り込み、ハッチを閉じる。正面から向かってくるはずの敵部隊を待ち伏せする予定だった歩兵部隊も、建物の破片や灰をかぶったままアサルトライフルや重機関銃をパンジャンドラムの群れへと向ける。

 

 パンジャンドラムは、車輪に取り付けられたロケットモーターで回転しながら敵へと突っ込んで大爆発する兵器である。当然ながら人間は乗っておらず、自衛用の機銃やアクティブ防御システムのような装備もないため、接近を許さなければ損害を被ることはありえない。しかも戦車のような装甲を持つわけでもないため、それなりに貫通力のある弾丸で急所を狙うか、砲弾やロケットランチャーで攻撃するだけで無力化することができるのだ。しかも歩兵のように小さな目標ではなく、戦車や装甲車を踏みつぶせるほどの巨体であるため、命中させるのは容易い。

 

 キューポラから目標を睨みつけながら、そのレオパルトの車長はニヤリと笑った。一番最初に降り注いだロケット弾の攻撃には度肝を抜かれたが、その次に繰り出してきたのはロケットモーターのついた巨大な車輪による突撃というわけのわからない作戦である。

 

「当てろよ」

 

「任せてください」

 

「よし、撃て(フォイア)!」

 

「発射(フォイア)!」

 

 元々正面から進撃してくる敵の戦車部隊との交戦を想定していたため、装填されていたのは極めて獰猛な貫通力を持つAPFSDS。戦車のような分厚い装甲を持たないパンジャンドラムでは防げないのは、火を見るよりも明らかである。

 

 120mm滑腔砲から放たれた砲弾が、キューポラの向こうでまるで空中分解を起こしてしまったかのように剥離する。その中から姿を現したのは、まるで捕鯨船に乗る漁師が持つ銛にも似た、鋭利な形状の砲弾だった。

 

 脱ぎ捨てた部品を後方へと置き去りにしたAPFSDSは、砲手が狙った通りに真っ直ぐに飛翔していき、見事に中央を疾走していたパンジャンドラムの胴体へと直撃する。やはり戦車のような装甲は装備されていなかったらしく、新型の戦車の装甲すら貫通する威力を持つ砲弾に食い破られたパンジャンドラムは回転を続けながら火を噴くと、歩兵や戦車を踏みつぶすよりも先に大爆発を起こした。

 

 風穴から火柱が吹き上がり、すさまじい衝撃波が一瞬でパンジャンドラムの部品を木っ端微塵に吹き飛ばしていく。車輪の部分やロケットモーターの一部が空へと舞い上がっていくのを目の当たりにしたレオパルトの乗組員や他の歩兵たちは、そのパンジャンドラムの爆発に恐怖を覚えた。

 

 直撃すれば、いくら最新型の戦車でも大損害を被ることになるのは想像に難くない。戦車よりも装甲の薄い装甲車ならば一撃で木っ端微塵になってしまう事だろう。

 

 恐ろしいと思う原因が、高速回転しながら突っ込んでくる事ではなく、今しがた目の当たりにした大爆発へと変わる。落下してくるパンジャンドラムの部品を見つめながら、まだ残りのパンジャンドラムが何基も生き残っていることを確認した車長は、冷や汗をかきながら叫んだ。

 

「ぜっ、全車、全力で迎撃しろ! あんなのを喰らったら木っ端微塵だぞッ!!」

 

 他の車両の主砲が火を噴き始める。あんな兵器に懐に入られたら、強烈なタックルを受け止める羽目になるだけでなく、あの大爆発で木っ端微塵にされてしまう。

 

 訓練を受けた時間はそれほど長くはなかったとはいえ、砲手たちの砲撃が接近中のパンジャンドラムを血祭りにあげ始めた。左側の車輪にAPFSDSの直撃を喰らったパンジャンドラムが進路を変え、部品をいくつも脱落させながら隣を並走する味方のパンジャンドラムと激突する。そのまま2基ともコースを外れたかと思うと、半壊したアパートの廃墟に突っ込んで一緒に大爆発を引き起こした。

 

 半壊していたとはいえ、産業革命で発達した技術を生かして建築された5階建てのアパートが一瞬で消し飛んだように見えた。最初の爆撃で抉り取られたアパートの”傷口”に2基のパンジャンドラムが突っ込んだ直後、唐突に半壊したアパートの窓やドアから一斉に炎が吹き上がったかと思うと、その炎さえ吹き飛ばしてしまうほどの衝撃波が荒れ狂い、アパートを木っ端微塵にしてしまったのである。

 

 顔を青くした戦車の乗組員たちや歩兵たちが必死に応戦するが、パンジャンドラムはもう既にかなり加速しており、全て迎撃しきれないのは明らかであった。

 

 車長が味方の戦車に後退を命じようとしたその時、爆風の向こうから急迫するパンジャンドラムが、よりにもよって分隊長の乗るレオパルトに狙いを定めた。分隊長のレオパルトはすぐに後退しつつ砲撃し、主砲同軸に搭載されている機銃で必死に迎撃するが、パンジャンドラムを一撃で貫通するAPFSDSはパンジャンドラムの左側を通過したため命中せず、主砲同軸の機銃もパンジャンドラムの軌道を変えられないようだった。

 

 そして次の瞬間、車外から鉄板がひしゃげるような音が聞こえてきて、車長は目を見開きながら分隊長の車両を見た。

 

 砲撃を外したせいで接近を許してしまったパンジャンドラムが牙を剥いたのである。真正面から真っ直ぐに突っ込んで行ったパンジャンドラムは、正面装甲に傷跡をつけながら滑腔砲の砲身を叩き折ると、必死に後ろへと逃げようとするレオパルトに肉薄した状態で自爆する。

 

 巨躯の中に埋め込まれていた大量の爆薬が起爆し、生れ落ちた荒々しい爆風が一瞬で分隊長の乗るレオパルトを飲み込んでしまう。複合装甲で守られているため、運が良ければ分隊長のレオパルトはまだ動くことだろう。しかしパンジャンドラムと激突する羽目になった瞬間、戦車にとっては”矛”である戦車砲を叩き折られている。いくら分厚い装甲を持つ戦車でも、主砲同軸の機銃だけでは戦えない。

 

 やがて、爆風の中から火達磨になったレオパルトが姿を現した。今の一撃に耐えたのだろうかと期待しながら見守っていると、唐突に砲塔のキューポラが開き、中から戦車と同じく火達磨になった乗組員と分隊長たちが絶叫しながら姿を現す。

 

 火のついた服を必死に脱ぎ捨てた彼らの皮膚は、もう既に黒焦げになりつつあった。まだエリクサーを飲めば助かるだろうかと思った次の瞬間、地面に転がって火を消そうとする彼らを、後続のパンジャンドラムの車輪が押しつぶしていった。

 

 巨大な車輪が通過する音が、彼らの苦しそうな声を飲み込む。すっかり声がしなくなったという事は、彼らはもう絶命したに違いない。

 

 目の前で仲間が死ぬ瞬間を見てしまった車長は、目を見開きながら息を呑んだ。敵に撃ち殺されたならばここまでショックは受けなかっただろう。

 

 左隣で応戦していたレオパルトが、分隊長たちを轢き殺したパンジャンドラムに喰らい付かれる。ぐしゃ、と砲身のへし折れる音が聞こえてきた次の瞬間、同じようにそのレオパルトも炎に包まれ、動かなくなってしまった。

 

「車長、正面から敵の戦車部隊! 歩兵もいます!」

 

「来やがったか…………ッ!」

 

 耳を劈(つんざ)くホイッスルの音の後に聞こえてきたのは、兵士たちの雄叫びとエンジン音だった。パンジャンドラムの攻撃で擱座したレオパルトの残骸の向こうから殺到してくるのは、漆黒に塗装された戦車の群れだった。その後方には対戦車用のロケットランチャーやアサルトライフルで武装した黒服の歩兵部隊がおり、雄叫びを上げながら守備隊へと突撃してくる。

 

 一番最初のロケット弾の雨で歩兵の数を減らし、戦車を支援する歩兵の減少で小回りの利かなくなった戦車部隊にパンジャンドラムの自爆攻撃で追い討ちをかける。そしてやっと戦車部隊が攻撃を仕掛けるという濃密な先制攻撃である。

 

 戦闘を突き進んでくるのは、黒と灰色の迷彩模様に塗装されたチーフテン。砲塔の右側面にはオルトバルカ語で『ウォースパイト』と書かれており、その下にはエンブレムが描かれている。

 

「指揮権は俺が引き継ぐ! 各員、前方の戦車部隊を撃滅せよ!」

 

 戦車同士の死闘が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想以上に効いたみたいだな」

 

 モニターに映る映像を見ながら呟きつつ、アイスティーの入った水筒を口へと運ぶ。突撃させた大型パンジャンドラムは半数ほどが迎撃されたせいで戦果をあげられなかったが、残りの半数は敵兵の群れを吹っ飛ばしたり、レオパルトに喰らい付いて擱座させるという戦果をあげた。モニターの向こうには炎上しながら擱座するレオパルト2A7+が映っており、戦車の矛である戦車砲はパンジャンドラムとの激突のせいで見事にへし折れている。

 

 歩兵を轢き殺すか、戦車にちょっとしたダメージを与える程度だろうと思っていた。そもそもあのパンジャンドラムたちの突撃は現代兵器で武装していない人間の軍隊にならば通用するが、目の前にいる敵の守備隊のように戦車やアサルトライフルでしっかりと武装した敵には効果が薄い。自爆する前に迎撃されるだろうし、命中したとしても戦車の装甲は厚いから、撃破するのは難しいだろうと思っていた。

 

 けれど、戦果は予想以上だった。戦車を何両も擱座させ、歩兵の数もそれなりに減らすことができたのだから。

 

 今度は、俺たちが突っ込む番だ。

 

 砲手を担当するイリナに砲撃する目標を知らせようとしたその時、黒煙の向こう側で何かが煌いたかと思うと、その黒煙の柱に真っ黒な穴が開き、そこから銀色の銛にも似た鋭い何かが飛来した。こっちに向かって飛んできたその物体はチーフテンの砲塔を掠めると、後ろを走行していた無人型のルスキー・レノの砲塔を易々と貫通して撃破してしまう。

 

 無人化されているとはいえ、防御力はほとんど変わらない。そのため、現代の戦車砲が直撃すれば当然ながら木っ端微塵になる。敵の攻撃に耐えるのは不可能だ。

 

 敵の戦車の砲撃だ。今のはAPFSDSか?

 

「ラウラ、回避!」

 

「了解(ダー)!」

 

「イリナ、目標は12時方向!」

 

「了解! 早く撃たせて!」

 

 イリナの返事を聞いて苦笑いしながら、冷や汗を拭い去る。

 

 このチーフテンは可能な限り装甲を複合装甲にすることで、防御力を向上させた近代化改修型である。とはいえ、ルスキー・レノを除くテンプル騎士団の戦車の中ではおそらくもっとも旧式の戦車だろう。いくら近代化改修で性能を底上げすることができても、最新型の戦車に比べると性能は劣るのだ。

 

 車体は複合装甲で覆われているが、砲塔は残念ながら複合装甲ではく従来の装甲だ。だから車体への被弾ならば戦闘を継続できるが、砲塔に直撃した場合は致命傷になる。

 

 だから砲弾は極力回避しなければならない。

 

「全車、散開!」

 

 戦車部隊に間隔を取らせつつ、前進する。密集した状態で前進すると、敵の砲弾やミサイルを回避する際に味方と衝突する危険があるため、少しでも味方の邪魔をしないようにするための作戦である。

 

 再びAPFSDSがウォースパイトの砲塔を掠める。

 

 キューポラから、今の砲撃が飛来した場所を確認した。砲弾の衝撃波に引き裂かれた黒煙の向こうに、灰色の迷彩模様で塗装されたレオパルトがいる。砲塔と砲身の角度を変え、チーフテンへと再び狙いを定めているらしい。

 

「イリナ、やれ!」

 

「発射(アゴーニ)っ!」

 

 レオパルトが砲撃するよりも先に、こっちの120mm滑腔砲が火を噴いた。装填してあるのはもちろん貫通力が高いAPFSDSである。

 

 砲身から解き放たれた砲弾が外殻を脱ぎ捨て、銀色の銛にも似た形状の砲弾があらわになる。衝撃波で黒煙を突き破ったその一撃は動きを止めていたレオパルトへと向かうと、まだ照準を合わせている途中だったレオパルトの砲塔の正面に突き刺さった。金属と金属が激突する音がチーフテンの車内にも入り込んできて、撃破できたかどうか確認しようとする俺を焦らせる。

 

 自動装填装置がAPFSDSを装填する音を聞きながら、俺は息を呑んだ。今度の標的は今まで一撃で粉砕してきたような魔物ではなく、分厚い装甲に包まれた主力戦車(MBT)である。今までの相手とは比べ物にならないほど頑丈だ。

 

 もし今の一撃で撃破できていなければ、もう1発叩き込まなければならない。

 

「――――――くそ、レオパルトは健在! イリナ!」

 

「もう一発お見舞いするよ!」

 

 何とか再装填は終わっている。後は彼女が照準を合わせて発射スイッチを押せば、あのレオパルトに止めを刺せる!

 

 しかし――――――レオパルトに止めを刺したのは、俺たちが放った砲弾ではなかった。チーフテンから見て左側を並走していた戦車から放たれた1発のAPFSDSが、先ほどの砲撃で俺たちがレオパルトの砲塔に刻み付けた穴へと飛び込み、そこから更に砲塔の傷口を抉ったのである。

 

 今度は流石に貫通したらしく、こちらを向いていたレオパルトの滑腔砲の砲身が、ゆっくりと垂れ下がっていく。砲身の根元からはゆっくりと真っ白な煙が吹き上がり、キューポラのハッチからもゆっくりと白い煙が漏れ始めていた。

 

「うわ、ナタリアたちに横取りされちゃった!」

 

「やるな、カノン…………!」

 

 こっちが命中させた場所に、走行中の砲撃を正確に叩き込める砲手は、テンプル騎士団にはカノンしかいない。ちらりと隣を並走する戦車を見てみると、やはりそこを疾走していたのは漆黒に塗装されたチャレンジャー2だった。砲塔の右側面にはオルトバルカ語で『ドレッドノート』と書かれており、その上にはテンプル騎士団のエンブレムがある。

 

『タクヤ、しっかりしなさいよね!』

 

「おいおい、獲物を横取りすんなよ! ――――――こんてんだー!?」

 

 獲物を横取りしたチャレンジャー2に乗るナタリアに言い返した直後、何の前触れもなくチーフテンの車体が大きく揺れた。砲弾が直撃したのではないかと思ってぞくりとしたけど、聞こえてきたのはレンガの建物が倒壊する音だった。

 

 その衝撃でハッチの縁に思い切り顎をぶつけてしまった俺は、赤くなってしまった顎を手で押さえながらモニターを見下ろす。どうやらラウラが間違って倒壊しかけの建物に激突させてしまったらしく、辛うじて残っていたレンガ造りの建物は、チーフテンの全速力のタックルで完全に倒壊することになった。

 

「ふにゃあ!? ごっ、ごめんなさい!」

 

「だ、大丈夫…………」

 

 顎を押さえながら、再びキューポラの外を覗く。今しがたナタリアたちが撃破したレオパルトの残骸を盾にして、数名の歩兵がテンプル騎士団の歩兵部隊にLMGを乱射しているのが見える。ルスキー・レノの部隊をすかさず差し向けつつ、敵の戦車を探す。

 

 すると、今度は雑貨店と思われる建物の陰で何かが光った。敵の戦車だろうかと思いながら凝視していた俺は、次の瞬間にまたチーフテンが揺れたせいで、今度は顔面をキューポラの縁に思い切りぶつける羽目になった。

 

「まがふっ!?」

 

 くそ、今度は何だ!?

 

 建物を倒壊させた衝撃ではない。微かに金属が溶けたような臭いもする。

 

「被弾した!」

 

「!」

 

 さっきのは砲撃した時の光だったのか! ということは、あの雑貨店の陰に戦車が隠れてるってことだな!?

 

「損害は!?」

 

「支障なし! 車体に当たったみたい!」

 

「複合装甲のおかげだな…………!」

 

 車体の装甲を複合装甲に変更しておいたおかげで、辛うじて貫通することはなかったらしい。もし複合装甲に変更せず防御を疎かにしていたら、今頃車体を貫通したAPFSDSに3人とも串刺しにされていたことだろう。

 

 ひやりとしながら息を呑み、俺は敵の戦車を捕捉する。

 

 くそったれ、鼻血が出てる…………。あの戦車のせいだ!

 

「イリナぁ! あの雑貨店の影を狙えぇッ!」

 

「えっ? た、確かに戦車が隠れてるの見えるけど、何で怒ってるの!?」

 

「鼻血の仕返しじゃぁぁぁぁぁッ!」

 

「ふにゃあっ!? タクヤが怒ってる!?」

 

 APFSDSで乗組員もろとも串刺しにしてやる!

 

 鼻血を拭い去りながらモニターを見ていると、俺の顔を見ていたイリナが急にニヤニヤと笑いだした。まるでいつも俺から血を吸うときのように一瞬だけうっとりとした彼女は、ウインクしてから照準器を覗き込む。

 

 こいつ、戦いが終わったら俺から血を吸う気だ。俺の鼻血を見て食欲が出たらしい。

 

撃て(アゴーニ)!!」

 

「発射(アゴーニ)!!」

 

 イリナが雑貨店の陰に隠れている戦車へと、APFSDSを放つ。どうやら車体を本隊の方へと向け、砲塔だけをこっちに向けて砲撃していたようだ。慌ててそのレオパルトは前進して逃げようとするけど、回避するためにレオパルトが移動したせいで、そのままならば砲塔を直撃する筈だったAPFSDSは、よりにもよって左側のキャタピラへと突き立てられた。

 

 ずごん、と鉄板が滅茶苦茶になる大きな音がして、レオパルトの左側面から煙が出る。前進して逃げようとしていた戦車の巨体がぴたりと止まり、中から乗組員たちが大慌てで姿を現す。

 

 俺はキューポラのハッチを開けると、ハッチのすぐ外に装備されているKord重機関銃のグリップを握った。アンチマテリアルライフルにも似た形状のでっかい機関銃を逃げていく敵兵へと向け、トリガーを引く。

 

 弱点以外で人間と吸血鬼を判別するのは不可能であるため、使用する銃弾は全て銀の弾丸に変えてある。これならばいちいち吸血鬼と人間を見分けつつ使い分ける必要はない。人間も、銀の弾丸を叩き込まれれば死ぬのだから。

 

 擱座した戦車を棄てた敵兵たちが、片っ端から肉片になっていく。ハンドガンで応戦してくる最後の1人を蜂の巣にしてやった俺は、「ざまあみろ、クソ野郎!」と叫んでから、鼻を片手で押さえつつ車内へと戻った。

 

 

 

 

 




※コンテンダーは、アメリカ製の単発型ハンドガンです。
※マガフは、イスラエル製の戦車です。

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