異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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市街地戦の開幕

 

 

 帝都サン・クヴァントの写真を、小さい時に読んだ本のあるページで目にしたことがある。オルトバルカ王国と並ぶ大国の帝都はしっかりと舗装された大通りと、伝統的な建築様式によって建てられた美しい建物たちによって彩られた華やかな大都市だった。

 

 大通りに並ぶ露店は常に買い物客で埋め尽くされ、時折そこで冒険者たちもダンジョンの中で使うアイテムを購入していく。私服と防具姿の買い物客が混ざり合う、典型的なこの世界の大都市の風景である。

 

 丁度俺がいる場所は、その写真に写っていた大通りだろう。けれども今の帝都の大通りは、その写真とは全く違う風景だった。

 

 産業革命によって新しい建物がどんどん増えていく中で、伝統的な古さを頑なに守り続けるかのように建てられた古い建築様式の建物たちは、ほとんどが木っ端微塵に倒壊してしまい、大都市を瓦礫の絨毯へと変えていた。もちろんしっかりと作られた高級な絨毯ではなく、ボロボロの絨毯のようだった。至る所に穴が開いたボロボロの絨毯のように、レンガや建物の残骸の中からは鉄骨や折れた木柱の骸が顔を出し、”絨毯”の隙間から吹き上がる炎が真っ黒な大地で輝き続ける。

 

 辛うじて生き残っている建物も、殆ど倒壊しかけていた。稀に原形を留めている建物も見受けられるけれど、殆どの建物は半壊しているのが当たり前だ。壁が剥がれ落ちたせいで寝室や子供部屋があらわになっている。住人が避難したことによって誰もいなくなった家の子供部屋の中で、いつも遊び相手になってくれる子供に置き去りにされたぬいぐるみが、寂しそうに転がっていた。

 

 そしてその傍らの瓦礫の中からは、腕が伸びていた。

 

 服と皮膚は真っ黒に焦げ、指は中指と薬指が欠けている。辛うじて燃え残っている服は軍服か制服らしく、その腕の根元にはG36Cと思われるアサルトライフルが転がっていた。

 

 住民はもういない。この帝都に残っているのは吸血鬼か、奴らの味方をする人間のみ。

 

「クソ野郎共の味方なんかするからだ」

 

 俺たちのチーフテンの隣を進むエイブラムスのキューポラから身を乗り出していたテンプル騎士団のメンバーが、瓦礫の絨毯から顔を出す敵兵の死体を見ながら吐き捨てるように言った。世界中を蹂躙しつくし、最終的にこの世界を支配しようとする過激派の吸血鬼に味方をしたところで、仮に俺たちに勝利したとしても、奴らが作り上げる世界では吸血鬼たちの食料にされるのが関の山だろう。確かにこの世界に不満があるのかもしれないけれど、そのような理由で奴らの味方をした人々は、きっと先が見えていないのだ。

 

 チーフテンのキューポラから身を乗り出しつつ、周囲を警戒する。時折双眼鏡を覗き込んで敵がいないか確認するが、見受けられるのは倒壊した建物や、バラバラになった状態で瓦礫の絨毯の一部と化している人間の死体ばかりである。至る所に転がる瓦礫と見分けがつかないほどズタズタにされた死体の傍らには珍しく装甲車の残骸もあった。

 

 親父が投入した航空部隊の爆撃がどれだけ凄まじかったのかを痛感しながら、チーフテンと共に並走する小ぢんまりとした戦車の群れを見渡す。改造によって無人型に改造された軽戦車のルスキー・レノたちは瓦礫の山に紛れ込んでいる死体を目の当たりにしても心を痛めることはなく、搭載されている制御装置の命令に従いつつ、淡々と走り続けている。

 

 チーフテンの隣を並走している通常型は、砲塔に搭載された37mm砲と、主砲同軸と車体前部に7.62mm弾が装填された機銃を搭載している。歩兵ならば容易く蹴散らしてしまう火力を持っているけれど、戦車どころか装甲車の攻撃にも耐えられないほど装甲が薄く、更に戦車の装甲を貫通できる火力は持ち合わせていないため、あくまでも敵の歩兵の撃滅が役割だ。

 

 他にも通常タイプにカチューシャを搭載した台車を牽引させた火力支援型と、主砲と機銃の代わりに火炎放射器を搭載した近距離型もある。他にも種類を増やそうと思っているんだが、大半がテスト中であったため、ヴリシア侵攻への投入は間に合わなかった。

 

『同志、瓦礫の数が少なくなってきましたね』

 

 チーフテンの左斜め後ろを走るエイブラムスに乗る仲間が、無線機を使って俺にそう言った。彼らの乗るエイブラムスには『マレーヤ』というコールサインがつけられており、砲塔の左側面にカルガニスタン語でマレーヤと書かれている。名前の由来は、第一次世界大戦と第二次世界大戦で大きな戦果をあげたイギリスの『クイーン・エリザベス級戦艦』の5番艦『マレーヤ』だ。

 

 基本的に、テンプル騎士団の保有する戦車のコールサインにはイギリスの戦艦の名前が割り当てられている。俺たちの乗るチーフテンのコールサインである”ウォースパイト”の由来も同じくクイーン・エリザベス級の2番艦『ウォースパイト』だし、ナタリアたちの乗るチャレンジャー2の”ドレッドノート”の由来も、イギリスの戦艦『ドレッドノート』からである。

 

「そろそろカチューシャの出番だな。全車停止」

 

 爆撃で破壊された建物の数が段々と減りつつあるということは、ここは比較的爆撃による被害を受けなかったという事になる。それゆえに敵が生き残っている可能性も大きい。

 

 無数のTu-160で爆弾をこれでもかというほど落としていったとはいえ、その爆撃だけで敵部隊を殲滅できるわけがない。大打撃を与えられたおかげで戦いやすくなっているだろうけど、だからと言って俺たちや連合軍の本隊の出番がなくなったわけではないのだ。

 

 テンプル騎士団の任務は、本隊を側面から支援すること。あくまでも俺たちが戦うことになる敵は”氷山の一角”程度となるため、敵の本隊と真正面から激突することになる連合軍本隊と比べればまだ安全だろう。しかし、敵は吸血鬼を含む地上部隊。しかも銃や戦車で武装している。

 

 今までのように、銃という異世界の武器で蹂躙するような戦いではない。同じような武器を持った歩兵や戦車同士の”現代戦”となる。

 

 無線機に向かって命令すると、進軍していた戦車部隊が一斉に停止した。エイブラムスやチーフテンの間を必死に走っていたルスキー・レノの群れもぴたりと停止し、エンジンの音を立てながら廃墟を睨みつけている。

 

「…………011、偵察に向かえ」

 

 そう命令すると、チーフテンの近くで待機していた1両のルスキー・レノが動き出し、仲間たちに激突しないようにゆっくりと走ると、単独で目の前の辛うじて爆撃の被害を受けなかった大通りへと突き進んでいった。

 

 砲塔に”011”とペンキで描かれた無人型の軽戦車に偵察命令を出した俺は、他の戦車の砲塔から顔を出す車長たちを見渡してから頷く。間違いなく、この大通りで敵は連合軍の本隊を迎撃するために待ち伏せしている。大通りへと入り込んできた本隊に奇襲を仕掛け、そのまま一気に攻撃して殲滅してしまうつもりに違いない。

 

 とはいえ、親父たちの戦力は吸血鬼たちのおよそ20倍。すでに爆撃で大きな損害を出している敵にどれほど無事な戦力が残っているかは定かじゃないけど、エンジンとキャタピラの音を響かせながら進軍する本隊を食い止めきれるほどの戦力が残っているとは思えない。

 

 そろそろ戦闘が始まると察したのか、他の戦車の車長たちが続々とキューポラのハッチを閉め始めた。仲間たちが戦闘準備に入ったのを見守ってから、俺も同じように車内に潜り込み、ハッチを閉じる。

 

 息を吐きながらモニターを見てみると、偵察に向かわせたルスキー・レノの砲塔に搭載されたカメラからの映像が映し出されているところだった。所々に爆弾が落ちたと思われるクレーターが出来上がっているが、辛うじて道を覆う舗装は残っているし、露店や喫茶店も建物の破片が散乱している程度で、ほんの少し掃除すればすぐに営業を再開できそうである。

 

 そういう光景ばかりなのだろうかと思いながら画面を見ていると、ルスキー・レノがいきなり動きを止めた。このまま前進するのは危険だと判断したのか、ぴたりと動きを止めてから小さな砲塔を左右に振り、建物や大通りの向こうをズームしながらスキャンし始める。

 

 そして―――――――獲物を見つけてくれた。

 

「見つけたぞ」

 

「どこどこ?」

 

 水筒に入ったアイスティーを飲みながら、砲手を担当するイリナが俺の隣へとやってくる。

 

「ほら、ここ。雑貨店の隣」

 

「…………うわ、強そうな戦車だねぇ」

 

 ズームされた映像に映っていたのは、ドイツ製主力戦車(MBT)であるレオパルト2A7+だ。シュタージが潜入した際に遭遇したと報告してくれた敵の戦車と同じタイプらしい。どうやらアクティブ防御システムも搭載しているらしく、砲塔の上にはセンサーが搭載されたターレットが乗っているのが分かる。

 

 灰色と白の迷彩模様で塗装されたレオパルトは、偵察をしているルスキー・レノから見て左側に主砲を向けながら、本隊を狩るタイミングを待っているようだった。戦車以外にもロケットランチャーを装備した歩兵も見受けられるし、土嚢袋を積み上げて作ったバリケードの後方で重機関銃をチェックしている奴もいる。

 

 第二次世界大戦中のドイツ兵を彷彿とさせる制服に身を包んでいる兵士たちは、緊張しながら待ち伏せを続けているようだった。やはり敵兵は練度の低い兵士が多いらしく、敵との戦闘開始が近い状況で落ち着いている兵士は少ない。

 

 幸い、まだ発見されていない。今すぐ攻撃命令を出せば先制攻撃ができる。

 

「HQ(ヘッドクォーター)、応答せよ。こちらウォースパイト」

 

『こちらHQ(ヘッドクォーター)、どうぞ』

 

「敵の防衛部隊を確認。現在、我々は敵防衛ラインの左翼を捕捉している。攻撃許可を」

 

『――――――ウォースパイト、同志リキノフからだ。”徹底的にやれ”だそうだ。どうぞ』

 

 はははっ、許可を出してくれたってことか。

 

「了解(ダー)。親父に『子供たちに戦果を取られるなよ』って伝えておいてくれ」

 

『ははははっ、了解だ』

 

 さて、攻撃を始めようか。

 

 目の前の画面をタッチし、偵察に向かっていたルスキー・レノに移動命令を出す。こっちに呼び戻すのではなく、そのまま敵に発見されないように迂回しながら進み、敵の配置を報告してもらうのだ。その情報は俺たちの攻撃に役立つし、進行中の本隊にも役立つ。待ち伏せしている敵の位置を的確に教えてくれるのだから。

 

「ナタリア、ヘリボーンで降下する予定の部隊はどうなってる?」

 

『配置についてるみたい。敵防衛ラインの右翼ね』

 

 なるほどね。テンプル騎士団が左翼を攻撃し、防衛ラインの右翼をヘリボーンで降下した歩兵部隊が攻めるってことか。そうすれば敵部隊は前進するか後退することしかできなくなるし、歩兵部隊を降下させるヘリはしっかりと武装も搭載している。しかも真正面から突っ込んでくるのは、親父が率いる連合軍地上部隊の本隊。実質的に、敵の逃げ場は後方しかない。

 

 まだ橋頭保として確保する予定の図書館にすら到着していない。おそらく、敵はまだ後方に部隊を残しているだろう。ここにいるやつらは、あくまでも”第一防衛ライン”を死守する部隊に違いない。

 

 それでも、徹底的にやる。そういう命令が下されたのだから。

 

「同志諸君へ。ルスキー・レノ隊によるロケット弾の一斉攻撃の後、パンジャンドラムを突撃させる。俺たちが突っ込むのはその後だ」

 

 テンプル騎士団が敵に攻撃を仕掛ける場合、まず最初にカチューシャの一斉攻撃で敵の数を減らす。戦車を撃破できる可能性は低いが、歩兵を減らすことができれば敵は小回りが利かなくなるというわけだ。更にパンジャンドラムを突撃させて追い討ちをかけてから、戦車で本格的な攻撃を始めるのである。

 

 フランセン共和国騎士団との戦いで大きな戦果をあげた戦法だからなのか、この先制攻撃の方式はモリガン・カンパニーでも採用されているという。

 

 キューポラから顔を出し、片手を突き出してメニュー画面を開く。すでに生産済みの兵器の中からパンジャンドラムを選んでタッチする。普段ならばそれだけでパンジャンドラムが姿を現すのだが、いくつも生産している場合はその前に、全て装備するか、それとも1つだけ装備するか選択するための選択肢が出てくるのだ。

 

 迷いなく全て装備する方をタッチした次の瞬間、戦車部隊の隊列の前に、無数の巨大な車輪が姿を現した。

 

 戦車よりも巨大な車輪に取り付けられているのは、その巨体を前進させるためのロケットモーター。軸の部分はやけに太くなっているが、それは改造で搭載する爆薬の数を可能な限り増やしたからだ。至近距離で爆発すれば、装甲車を確実に行動不能にするほどの破壊力を持つ改造型パンジャンドラムを全て出現させた俺は、ずらりと並んだ20基のパンジャンドラムを見渡してから再びキューポラのハッチを閉め、別のモニターを睨みつける。

 

「アールネ、聞こえるか?」

 

『おう』

 

「スオミの部隊は後方から支援してくれ」

 

『おいおい、俺たちだけ仲間外れか?』

 

「何言ってんだ。この後に大活躍してもらう予定なんだぜ? 余力を残しておけってことさ」

 

『はいはい。じゃ、一番槍は頼むぜ』

 

「はいよ」

 

 それに、スオミ支部の戦車の中にはレオパルトも含まれているが、大半は防衛戦闘に向いたタイプの戦車が配備されている。占拠する予定の図書館の防衛で運用するため、この戦いに参加しているのだ。

 

 防衛戦では貴重な戦力となるため、ここで1両でも失うわけにはいかない。

 

 画面をタッチし、ここまでカチューシャを搭載した重い台車を牽引してくれていた10両のルスキー・レノに攻撃準備を指示する。基本的に無人戦車は自立行動をするようになっているけれど、このように俺が直接命令を出す事もできるのだ。とはいえ戦闘中に1両ずつ的確な命令をしている余裕はないため、こんなことができるのは攻撃前の準備か、こちらが安全圏にいる時くらいしかない。

 

 命令を受信した無人戦車の群れが、台車の上に乗っているカチューシャの角度を調整し始めた。やがて、1両目の反応の傍らに表示されている準備中を意味する黄色いマークが準備完了を意味する赤いマークに変わったかと思うと、他の車両の反応も連鎖的に赤くなっていき、全ての車両が発射準備を終えた。

 

 ロケット弾が着弾する予測範囲を把握し、どこに向かって発射すればより多くの敵を殺傷できるのか判断したのだ。

 

「――――――撃て(アゴーニ)

 

 無線機に向かってそう言った直後だった。

 

 キューポラの外で、敵へとカチューシャの発射台を向けていたルスキー・レノの台車の後端が、立て続けに火を噴き始めた。発射台からは凄まじい勢いでロケット弾が飛び出していき、瞬く間に他の車両から放たれたロケット弾と合流すると、廃墟と化したサン・クヴァント上空に白煙の軌跡を刻み付けていく。

 

 1両の台車に搭載されているロケット弾の数は20発。それが10両も一斉攻撃を開始したため、これから敵に飛来するロケット弾の数は合計で200発という事になる。何の前触れもなく頭上から無数のロケット弾が降ってくるのだから、その攻撃範囲内にいれば大損害を被ることになるのは想像に難くない。

 

 敵の戦車はアクティブ防御システムを搭載している。対戦車ミサイルやロケット弾を撃墜してくれる頼もしい防御システムだが、さすがに200発のロケット弾の雨を完全に防ぎ切ることは不可能だ。数発の撃墜に成功したとしてもそれ以外に被弾するだろうし、歩兵部隊にも確実に被害が出る。

 

 さらに、その後にはパンジャンドラムの出番もある。

 

 モニターの向こうへと飛翔していくロケット弾の終着点が爆炎に変わったのを確認した俺は、今度はパンジャンドラムに突撃命令を下すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傍から見れば、その光景は廃墟に無数の火柱が屹立したかのようだった。散発的に地面を抉る大爆発をもたらすのは、先ほど爆弾が降り注いできた空から同じように降り注ぐ、合計200発のロケット弾。大地に喰らい付いた獰猛なロケット弾たちはたちまち爆風を結び付かせ、廃墟を火の海へと変えていく。

 

 双眼鏡の向こうで繰り広げられる容赦のない攻撃を見ていた男は、双眼鏡から片目を離しながら笑った。双眼鏡だというのに片目しか使っていないのは、彼にもう片方の目が無いからだ。14年前に繰り広げられた戦いで負傷してからは、左目には真っ黒な眼帯をつけている。そのせいで”貴族の護衛”というよりは、”山賊のリーダー”のような風貌に見えると度々言われることを、彼は気にしている。

 

テンプル騎士団(ガキ共)が動いたぜ、野郎共!」

 

 続々と黒い制服を身につけた兵士たちを降下させていくヘリのローターの音をかき消してしまいそうなほどの大声で言うと、戦闘準備を終えた他の兵士たちが一斉に銃の安全装置(セーフティ)を解除する音が聞こえてくる。声を使う返事よりも戦意の伝わりやすい、好戦的な返事だった。

 

 その部隊を構成している種族は、ハーフエルフやオークなどの奴隷にされやすい種族ばかりである。

 

 王都や帝都の奴隷売り場へと足を運べば、必ずと言っていいほど檻の向こうで手枷や足枷をつけられた状態で放置されている奴隷たち。その大半を占めるのは、ハーフエルフやオークである。

 

 再生能力を持つ吸血鬼や外殻による硬化が可能なキメラを除く人類の中で最も強靭な肉体を持つのは、オークとハーフエルフと言われている。その両者が奴隷にされやすいのは、正確に言うならば”不衛生な場所に放り込んでも壊れにくい”という理由である。身体が華奢なハイエルフはあっさりと感染症の餌食になる上に、傷めつけ過ぎるとあっさりと死亡してしまう。普通の人間やエルフもハイエルフほどではないが、しっかりと管理しなければ”出荷”前に死亡してしまうため、放っておいても死なない頑丈な両者は奴隷を売る者たちから見れば、手間のかからない扱いの楽な”商品”なのだ。

 

 しかし、そこにいるオークやハーフエルフたちは、奴隷ではない。

 

 人権と高い賃金を与えられ、本格的な訓練を受けた精鋭部隊なのである。

 

 彼らの所属する部隊の名は『ハーレム・ヘルファイターズ』。屈強な肉体を持つハーフエルフとオークだけで構成された、”突撃部隊”なのだ。

 

 そしてその隊長を務めるのは、転生者同士の戦争となった第一次転生者戦争を生き延びたモリガンの傭兵の1人である、ギュンター・ドルレアン。カノンの実の父親であり、エースパイロットのミラの兄である。

 

「さて、そろそろ俺たちも突撃するぜ」

 

 銃剣を装着したショットガンを肩に担ぎながら、ギュンターは彼の背後にずらりと並ぶ隊員たちを見渡した。身長にばらつきがあるが、身長が低くても170cm後半の巨漢ばかりで構成されている部隊の隊員たちの身体には、当たり前のように傷がある。中にはギュンターのように片目のない隊員や、ハーフエルフの特徴でもある長い耳が片方だけ欠けている兵士もいる。

 

 この部隊を構成する隊員の大半は、奴隷として売られる筈だった者たちなのだ。

 

「まさか、ビビってる奴はいねえよな?」

 

「いるわけないでしょう、隊長」

 

「全員覚悟を決めてるんです。ビビってる奴なんて1人もいません」

 

「それでいい。”この程度の火の海”でビビるような○○○が小せえ腰抜けはいらねえ」

 

 ニヤリと笑いながら、ギュンターは踵を返した。

 

 テンプル騎士団によるロケット弾攻撃が終わり、爆風が薄れつつある。その爆風の残滓を引き千切りながら突撃していくのは、ロケットモーターが取り付けられた鋼鉄の車輪たちだ。

 

 ショットガンを構えながら―――――――彼は、命令を下した。

 

「――――――Charge(突撃)!!」

 

 

 

 

 


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