異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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帝都への爆撃

 

 帝都サン・クヴァントへの上陸地点として選ばれたのは、海からの攻撃から帝都を守るために配置されたヴリシア帝国騎士団本部の近くにある浜辺だった。サン・クヴァントは海に面した大都市で、騎士団の本部は海からの攻撃を防ぐために、まるで防壁のように海の近くに屹立している。やけに分厚い壁の中をくり抜いて、そこに兵舎や迎撃用の設備を用意したような感じの建物だ。それが海と帝都の街並みを隔てている。

 

 モンタナ級との壮絶な砲撃戦を制したジャック・ド・モレーの傷だらけの後部甲板からその騎士団本部を見つめていた俺は、前に並んでいた兵士がボートに乗ったのを確認してからタラップを駆け下りた。

 

 これからジャック・ド・モレーとは戦闘が終わるまでお別れをしなければならない。俺たちはボートに乗り込んで強襲揚陸艦に乗り換え、そこから上陸して本隊のサポートをしなければならないのだ。

 

 作戦会議で聞いた説明を思い出しつつ、任務を確認しておく。

 

 テンプル騎士団に与えられた任務は、まず最初に”敵を側面から攻撃して攪乱し、本隊の進撃を支援すること”。親父が率いる連合軍の上陸部隊がいくら圧倒的な兵力とはいえ、正面から敵へ攻撃を仕掛ければ大損害を受けることになるのは想像に難くない。そのまま物量と力に任せて強引に前進しても、満身創痍のまま補給も受けずに前進すれば、どんな大群でも進撃し続けることができなくなるのは明らかだ。だから俺たちも側面から並行して進撃し、敵の防衛ラインを側面から攻撃。敵の注意をこちらへと向けさせるか、他にも別動隊がいると錯覚させて敵を攪乱することができれば、本隊も被害を最小限に抑えたまま進撃できるというわけだ。

 

 そしてある程度進撃したら、俺たちは本隊に先行して橋頭保を確保する。橋頭保として選ばれたのは、騎士団本部の近くにある”王立サン・クヴァント図書館”。そこを占拠して拠点とすることで、友軍も動きやすくなる。

 

 その後はそのまま大通りを突破し、宮殿へと突入。内部の吸血鬼たちを駆逐して占拠し、帝都サン・クヴァントの奪還に貢献する。

 

 そして、ついでに最後の鍵も手に入れるのだ。

 

 シュタージが手に入れた情報では、吸血鬼の本拠は帝都の象徴であるホワイト・クロックか、避難勧告の発令後は無人となっている宮殿のどちらかだという。俺たちが進撃するように指示されたのは本拠である可能性のあるサン・クヴァント宮殿。運が良ければ、進撃した際に鍵も手に入るかもしれない。

 

 もし仮に親父たちが手に入れることになったら、その時は交渉する必要がありそうだ。もしくはこっそりとモリガン・カンパニーに潜入して鍵を盗む事にもなりそうだが、そういう事はこの戦いが終わってから考えよう。

 

 まだ海戦しか経験していないが、はっきり言うとこの戦いは、”戦いが終わった後の事”を考えている余裕がないほど熾烈な戦闘になるだろう。モンタナと砲撃戦を繰り広げていた時も、もしかしたら次に飛来する砲弾が装甲をぶち破ってCICを直撃するかもしれないと思って少しばかりビビっていた。

 

「ふにゅ?」

 

「ん?」

 

 ボートに乗り込んで出発を待っていると、俺の後にボートに乗り込んだラウラがにっこりと笑った。

 

「そういえば、明後日はクリスマスだね♪」

 

「…………そういえばそうだな」

 

 今日の日付は12月22日。そろそろクリスマスだ。もしかしたら俺たちは、18回目のクリスマスを戦場で過ごすことになるかもしれない。

 

 他の仲間たちもクリスマスが近いという事を思い出したのか、ボートに乗った兵士たちは笑いながら「サンタクロースは戦場まで来てくれるかな?」と言い出し始める。

 

 仲間たちの笑い声を聞いていると、いつの間にかタラップの上にウラルとカレンさんが来ていた。カレンさんはどうやらカノンを見送りにやってきたらしく、いつものように凛々しい雰囲気を纏っている。けれども最愛の娘を戦場に向かわせることはやはり心配らしく、彼女の纏う凛々しい雰囲気はいつもと比べると”切れ味”が足りないようだった。

 

「カノン」

 

「お母様…………」

 

「これを持っていきなさい」

 

 カレンさんはそう言うと、腰に下げていた2本の曲刀のうちの片方を鞘ごと取り外し、ゆっくりとタラップを降りてからボートの上のカノンにそれを手渡した。古代文字が刻まれた柄と橙色の鞘に包まれたその曲刀を受け取ったカノンは、ゆっくりと鞘の中から刀身を引き抜く。

 

 鞘の中から姿を現したのは―――――――純白の美しい刀身だった。日本刀のようにほんの少し曲がっているけれど、峰の方ではなく刃がある方向へと緩やかに曲がっている。そのためカマキリの鎌を彷彿とさせるような形状だ。

 

 変わった形状だけど、その得物が内包する高濃度の風属性の魔力は、それが普通の曲刀ではないという事を宣言しているかのようだった。大きさは普通の日本刀とそれほど変わらないサイズだけど、その内側で渦巻いているのは、解放するだけで迫りくる魔物の群れを吹き飛ばしてしまうことができるほどに圧縮された風属性の魔力である。

 

「これは…………”リゼットの曲刀”…………?」

 

「ええ。きっとご先祖様(リゼット様)が守ってくれるわ」

 

 カレンさんがカノンに渡したのは、かつて若き日のカレンさんが当主になるための試練で、あのドルレアン家の地下墓地から回収してきたというリゼットの曲刀らしい。

 

 風属性の魔力を自由自在に操ることができると言われている伝説の曲刀を手に入れたリゼットは、当時はまだ小さかったドルレアン領の民を守るためだけにその力を振るったという。しかしその力を手に入れようとして裏切った家臣たちによって殺されてしまったのだ。その後、最後まで彼女に忠誠を誓い続けた忠臣たちによって遺体と共にドルレアン家の地下墓地に封印されていたという。

 

 それを鞘に納めたカノンは、自分の腰に下げているもう1本の真っ直ぐな得物を見下ろした。

 

 こちらは、その地下墓地を彷徨っていたリゼットの中心の1人であるウィルヘルムからドロップした『ウィルヘルムの直刀』だ。漆黒の護拳がついており、日本刀のような形状の真っ直ぐな刀身には古代文字が刻み込まれている。

 

 リゼットの曲刀とは対になる、忠臣の直刀だ。

 

「それに、きっとウィルヘルムも守ってくれる」

 

「はい、お母様」

 

「…………必ず帰ってくるのよ」

 

「ええ。行ってきますわ、お母様」

 

 娘をぎゅっと先閉めたカレンさんは、リゼットの曲刀を彼女に託すと、タラップの上へと戻っていった。彼女はウラルたちと共に傷だらけのジャック・ド・モレーに残り、艦砲射撃で俺たちを支援してもらう予定である。モンタナを撃沈した凄腕の砲手が援護してくれるのだから、非常に心強い。

 

 ウラルに向かって頷くと、ウラルも頷いた。

 

「…………よし、出発!」

 

 ジャック・ド・モレーから強襲揚陸艦へと乗り換える乗組員を乗せたボートのエンジンが起動し、ゆっくりと航行するジャック・ド・モレーの船体から離れていく。後方からやっと追いついてくれた連合艦隊の間をすり抜けていくと、強襲揚陸艦へと向かう俺たちを見つけた他の艦の乗組員たちが、様々な種族や国の言葉で俺たちに声援を送ってくれた。

 

 聞き慣れたオルトバルカ語で「頑張れ」と言う声も聞こえてきたし、転生者も混じっているのか、懐かしい日本語で「死ぬなよー!」と叫ぶ声も聞こえてくる。中には習ったことのない国の言語や少しだけ聞いたことのある言葉も聞こえてきた。

 

 モリガン・カンパニーや殲虎公司(ジェンフーコンスー)は種族や国籍で差別をすることなく、志願兵は平等に扱っているという。だから各地で差別を受けたり、迫害されている種族たちがよく集まってくると聞いたことがある。

 

 俺たちに声援を送ってくれている乗組員たちの種族はやっぱりバラバラだった。人間やエルフだけでなく、オークやドワーフの乗組員もいる。街の奴隷販売所では檻の中にいる事が多いハーフエルフやダークエルフの乗組員たちも、俺たちに向かって帽子を振りながら声援を送ってくれていた。

 

 彼らに手を振り返しながら進撃する艦隊の間をすり抜けていくと、やがて俺たちに割り当てられた強襲揚陸艦が見えてきた。傍から見ると空母のようにも見えるけれど、アドミラル・クズネツォフ級の特徴であるスキージャンプ甲板は見当たらないし、空母のアングルド・デッキもない。

 

 その艦は空母ではなく、上陸する歩兵部隊や戦車部隊を乗せた『強襲揚陸艦』と呼ばれる艦だった。艦隊の最後尾を航行していたおかげで先ほどの艦隊戦に巻き込まれることはなく、更にゲイボルグの遠距離砲撃にも晒されることのなかった強襲揚陸艦の群れには傷一つついておらず、甲板の上ではずらりと並んでいるヘリの傍らで作業員たちが武装のチェックに勤しんでいる。

 

 俺たちが割り当てられたのは、フランスの『ミストラル級』と呼ばれる強襲揚陸艦のうちの1隻だった。

 

 この戦いに参加することになった強襲揚陸艦の数はなんと50隻。1隻でも10両以上の戦車を格納することができるため、数隻あれば海岸にある敵の拠点を制圧できるほどの地上部隊を上陸させることができる。その強襲揚陸艦が、50隻もこの戦いに参加しているのである。

 

 黒と灰色の迷彩模様で塗装されたミストラル級強襲揚陸艦『ソロムバル』に近づいていくと、甲板の上から手を振っている乗組員が見えた。

 

 この強襲揚陸艦に乗り換え、俺たちが上陸準備をしている間に、他の艦隊が一足先に帝都へと大規模なミサイル攻撃や艦砲射撃を開始することになっている。それだけでなく、作戦説明では無数の爆撃機による徹底的な空爆も実施されると聞いていたんだが、今のところ爆撃機が飛来する様子はない。

 

 予定が変更になったのだろうかと思いながら乗組員の指示に従おうとしたその時だった。

 

 強襲揚陸艦の群れの上空を、エンジンの発する轟音を響かせながら、無数の戦闘機に守られた漆黒の巨大な何かの編隊が通過していったのである。傍から見れば旅客機のようにも見えるその巨大な機影から伸びる主翼が、俺たちの頭上で角度を変えたかと思うと、その飛来した巨大な機体の群れは段々と速度を落とし始めた。

 

 あのように、翼の角度を変えることができる『可変翼』と呼ばれる方式を採用した戦闘機や爆撃機が存在する。俺たちの頭上を通過していった巨大な機体の群れは、まさにその可変翼を採用した爆撃機の群れだった。

 

「あれは…………Tu-160か?」

 

 俺たちの上を通過していったのは、ロシアで開発された『Tu-160』と呼ばれる爆撃機の群れだった。従来の爆弾だけではなく、大型のミサイルまで搭載可能な爆撃機で、その気になれば核ミサイルの搭載も可能と言われている。さらに爆撃機の中でも速度が非常に速いため、迅速に目標地点を爆撃して離脱することも可能だ。

 

 だがさすがに転生者は核兵器を作り出すことができないため、もしそのような兵器を運用するならば自分で核兵器を作る必要がある。モリガン・カンパニーなら本当に核爆弾を作り上げてしまってもおかしくないが、親父がそんな攻撃を許可するとは思えない。きっとあの爆撃機の群れが搭載しているのは通常の爆弾やミサイルなのだろう。

 

 通過していったTu-160の群れの数は数えきれない。間違いなく100機以上は飛んでいたのではないだろうか? もしかしたら空があの爆撃機の群れで覆いつくされてしまうのではないかと思えるほどの数の編隊が、帝都の上空へと殺到していく。

 

 あんな数の爆撃機に爆撃されたら、帝都は一瞬で焼け野原になってしまうだろう。

 

「魔王が本気になったらこんな規模の兵力が動くのか…………」

 

「ヴリシアのクリスマスには、サンタクロースじゃなくて魔王がやってきたってわけだ」

 

 帝都の爆撃に向かう無数のTu-160を見送りながら、俺たちはしばらくボートの上で待機することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強襲揚陸艦の甲板の上には、ヘリで帝都へと降下する部隊を乗せるためのカサートカやスーパーハインドの他にも、武装をこれでもかというほど搭載したロシア製攻撃ヘリの『Ka-50ホーカム』が出撃の準備をしていた。

 

 ホーカムはカサートカやスーパーハインドのように歩兵を乗せることはできないが、その分搭載できる武装も強力なものばかりであり、更に機体がスーパーハインドと比べると遥かに小型であるため小回りが利きやすいという長所がある。しかも操縦するのはたった1名のみであるため、人材不足が深刻な問題となっているテンプル騎士団でも運用しやすいという利点がある。

 

 テンプル騎士団のエンブレムが描かれたホーカムの隣では、テンプル騎士団スオミ支部のエンブレムが描かれたコマンチも出撃の準備をしていた。俺たちがスオミの里を訪れた時に彼らに託した、あの時のコマンチたちである。

 

 2人乗りのステルス機の傍らで、整備士と話をしているハイエルフの少年を見つけた俺は、ニヤニヤしながらそいつに声をかけることにした。

 

「よう、ニパ」

 

「あ? おお、コルッカ! 久しぶりじゃねーか!」

 

 やっぱり、ハイエルフの少年の正体はニパだった。

 

 俺はスオミの里の人々には『タクヤ』という名前ではなく、『コルッカ』と呼ばれている。どうやら古代スオミ語で”狙い撃つ者”を意味するらしく、優秀な戦士に送られる称号らしい。俺にその称号を与えてもらえるのは光栄だが、その名前で呼ばれるのには慣れていないから、時折コルッカと呼ばれても別の人の事だろうかと思ってしまう事が多々ある。

 

 ニパは整備士との話を中断すると、誇らしそうに自分のコマンチの機首に描かれている撃墜マークを指差し始めた。どうやらあれから撃墜したドラゴンをこうして記録していたらしく、もう10体以上のドラゴンを撃墜しているようだ。

 

「エースになったのか」

 

「元からエースだっつーの。それにしても、まさかこの俺たちがリュッシャ(オルトバルカ人)共と共闘する羽目になるなんてな…………」

 

「気にすんな。みんないい人さ」

 

「まあ、コルッカが言うなら信用できる」

 

「ところでアールネは?」

 

「下のウェルドッグで出撃前の最終調整中だ。橋頭保を確保したら、俺たちはお前たちが宮殿を占領するか、逃げ帰ってくるまで図書館を守り通すのが任務らしいからな」

 

 そう、彼らの任務はあくまでも橋頭保となる図書館の死守だ。

 

 いくら橋頭保を確保したとはいえ、敵が占拠された図書館をそのままにしておくとは思えない。奪還するために攻撃を仕掛けてくるだろう。もし仮に俺たちが帝都の中枢へと進行した後に橋頭保が敵の手に堕ちるようなことがあれば、瞬く間に中枢へと進行した部隊は敵に包囲されることになる。だから図書館を守る彼らに、俺たちは命を預けることになるのだ。

 

 その防衛にスオミ支部の戦士たちが選ばれた理由は、彼らが長年経験してきた戦い方にある。

 

 スオミの里は、あの極寒の山脈の麓に里ができてから、一度も”侵略”をやったことがない。長年領地を広げることもなく、祖先たちが開拓した土地を大切に守り抜いてきた種族なのである。だから防衛戦闘を最も得意としているが、逆に自分たちから攻撃を仕掛けるような戦い方は全く経験がないのである。

 

 だから彼らには、その防衛戦闘の経験をここで生かしてもらうために図書館の守備隊を任せることになったのだ。

 

 里に配備されている兵器も防衛戦に特化したものが多い。

 

「安心しろ。敵が攻めてきても、戦車とヘリで蹴散らしてやる」

 

「戦車まで持ってきたのか?」

 

「ああ。ウェルドッグでLCUに戦車を乗せてるぜ」

 

 スオミの里にも戦車を配備しておいた。とはいえ里の人数も少ないので、配備したのは合計で14両。訓練用の車両を除くと10両となる。そのうちの3両は、モリガンでも運用されていたドイツ製主力戦車(MBT)の『レオパルト2A6』だ。残りの7両は、彼らの戦い方に合う戦車である。

 

「分かった。支援よろしくな」

 

「おう。俺とイッルがいるんだから、大丈夫だ。ヤバくなったら連絡くれよ?」

 

「頼む」

 

 ニパとイッルは、スオミの里の誇るエースパイロットだ。彼らに支援してもらえるのはありがたいけど、不慣れな侵攻作戦で無茶はしてほしくない。

 

 彼との話を終えた俺は、仲間たちと一緒に出撃の準備をするため、強襲揚陸艦の下部にあるウェルドッグへと向かうことにした。

 

 甲板の向こうに見える帝都サン・クヴァントは、無数の爆撃機による徹底的な爆撃で、早くも炎に包まれつつあった。

 

 

 

 


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