異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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最強の砲手

 

 大海原と大空が持つ”蒼”が、人工的に作り出された禍々しい閃光にかき消される。まるで鮮血のような深紅の閃光は瞬く間に空と海を真っ赤に染め上げると、自分のすぐ下に広がる海面の水を加熱し、少しばかりそれらを蒸発させながら、身に纏う衝撃波で海面を滅茶苦茶にしつつ突き進む。

 

 大海原を深紅に染め直すほどの猛烈な輝きを放つ魔力の激流は、唐突に拘束から解放されたことで怒り狂っているかのようだった。しかしそんな仕打ちをした魔術師たちは、もう既に進行方向の真逆に置き去りにしている。突き進む魔力の塊に与えられた1つだけの進行方向には、海上を突き進む無数の艦隊しかない。その怒りを叩きつけられる相手が目の前に展開する艦隊しかないのならば、それに叩きつけるしかないのだ。

 

 掠めた波を一瞬で蒸発させ、衝撃波と水蒸気を纏いながら飛来したその魔力の激流に、標的となった艦隊の乗組員たちは辛うじて気付いていた。艦橋やCICの中では乗組員たちの怒号や命令が飛び交い、顔を青くした乗組員たちが舵輪を精いっぱい回して回避しようとする。しかし、先ほど連合艦隊に飛来した対艦ミサイルに一瞬で追いつくほどの速度を持つ魔力の塊を、いくら速度が速い駆逐艦でも回避するのはほぼ不可能であった。

 

 瞬く間に艦隊の先頭を進んでいたソヴレメンヌイ級駆逐艦『ボロジノ』へと接近した深紅の閃光は、ボロジノに命中することはなかったものの、纏っていた高熱で左舷に搭載されていたミサイルポッドを融解させた。もちろん中のミサイルもその高熱の餌食となり、融解したミサイルポッドの中で誘爆を起こしてしまう。艦橋付近に搭載されたミサイルポッドの爆発はそのままボロジノの艦橋の左半分を抉り取ると、先頭を航行する駆逐艦を深紅の閃光の傍らで沈黙させてしまう。

 

 しかし、まだボロジノは幸運だった。その一撃が掠める程度で済んだのだ。

 

 その左後方を航行していたウダロイ級駆逐艦『ナヴァリン』は、一番最初に損害を受けたボロジノを掠めた魔力の激流を真正面から浴びる形となったのである。掠めただけでミサイルポッドを融解させるほどの熱を纏うそれが直撃するよりも先に、ナヴァリンの艦首は熱で溶解を始めていた。それに気づいたのは艦橋で舵輪を必死に回していた乗組員たちだった。

 

 あっという間に光の中に吞まれたナヴァリンは一瞬で船体の装甲を融解させられ、内部も焼き尽くされていく。この世界の人々から見れば戦艦にも見えてしまうほどの巨体を持つソ連製の駆逐艦は、瞬く間に乗組員もろとも消滅する羽目になった。

 

 ナヴァリンの残骸すら残さなかった深紅の閃光が次に吞み込んだのは、ナヴァリンの後方で回避をしようとしていたソヴレメンヌイ級駆逐艦『ポベーダ』と、スラヴァ級巡洋艦『オスリャービャ』の2隻だった。まだ身軽なソヴレメンヌイ級は、襲来する閃光の外へと逃げる途中だったため消滅を免れたが、艦尾をスクリューごと捥ぎ取られて航行不能にされた挙句、艦尾に搭載されていた速射砲の砲身が熱で融解し、使用不能になってしまう。艦尾に乗り込んでいた乗組員たちは瞬く間に燃え尽き、消滅することになった艦尾と運命を共にする羽目になったが、それよりも大きな損害を被ったのはオスリャービャである。

 

 ソヴレメンヌイ級よりも船体が大きく、やや鈍重だったオスリャービャは回避が間に合わず、真横から襲来した閃光を左舷に喰らう羽目になったのである。艦橋部の左右に対艦ミサイルが装填されたミサイルポッドをこれでもかというほど搭載するスラヴァ級は、一番最初に大打撃を受けたボロジノよりも過酷な運命を辿ることになった。

 

 まず、ミサイルポッド内の対艦ミサイルが、閃光の熱ですべて誘爆してしまったのである。一撃でも駆逐艦を戦闘不能にしてしまうほどのミサイルを一気に誘爆させられてしまったオスリャービャは、ゲイボルグⅡが放った閃光が直撃するよりも先に轟沈してしまうほどの損傷を受けた。もし閃光が直撃しなかったとしても、5分足らずで傾斜し、そのまま沈没してしまっていたことだろう。

 

 しかし無慈悲な閃光は、船体が傾斜するよりも先に喰らい付くと、オスリャービャの艦首を微かに残し、船体のほとんどを消滅させ、次の獲物へと襲い掛かった。

 

 たった一撃が、500隻以上の大艦隊に恐怖を与えていた。回避に成功した艦もあったが、閃光によって消滅させられることは防ぐことができても、そのまま味方の駆逐艦や空母と激突して艦首をへこませる艦や、いきなり目の前で回避運動を始めた味方艦の艦尾に激突する艦が続出した。

 

 圧倒的な戦力でヴリシアへと攻め込むはずだった連合艦隊の巨大な輪形陣の中から黒煙が上がり、航行不能になった駆逐艦や巡洋艦が漂流する。閃光から逃れるために回避した駆逐艦が漂流する味方艦と衝突を繰り返し、大艦隊の損害が増えていく。

 

 しかも深刻なのは、損害だけでない。

 

 圧倒的な戦力を誇る連合艦隊が、たった一撃で大損害を被ったという現実が、”これだけの戦力があるから勝てる”と高を括っていた乗組員や兵士たちの心を、折り始めていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駆逐艦ボロジノ、艦橋大破! 戦列を離れます!」

 

『こちら駆逐艦ポベーダ! 我、航行不能! 救助を要請する!』

 

「空母『アバカン』、応答ありません! 同じく空母『リガ』も通信途絶!」

 

「くそったれ、なんだよ今の!? あんな兵器があるなんて聞いてないぞ!!」

 

 仲間たちが、狼狽しているのが分かる。

 

 CICに用意された指揮官用の椅子に座りながら、俺はエミリアやシンヤたちと共に、乗組員やスピーカーが発する報告や悲鳴をずっと聞いていた。味方の損害を可能な限り正確に報告しようとしている者の声も聞こえてくるし、パニックになりかけている若い乗組員の声も聞こえてくる。

 

 敵の奇襲を迎撃し、これから敵の航空隊を血祭りにあげてから艦隊を撃滅しようとしていた時に、いきなり予想外の敵の攻撃で大損害を受けたのだ。CICにいても感じたあの凄まじい魔力の塊が、この艦隊のどれだけ大きな損害を与えたのかは簡単に想像がつく。

 

 士気が下がるのを防ぐため、俺は近くにいた乗組員に声をかけた。

 

「損害は?」

 

「く、駆逐艦14隻が………しょ、消滅………。巡洋艦は5隻が消滅し、空母も2隻ほどやられたようです…………」

 

「今の一撃で21隻もか」

 

「さ、幸い強襲揚陸艦は無傷です。しかし、空母を2隻も失ったのは…………」

 

「ああ、問題だ。――――――それに、今の一撃で多くの同志たちを失ってしまった」

 

 きっとあの光に吞み込まれて消えていった同志たちの中には、まだ若い兵士もいた筈だ。タクヤやラウラのような年齢の兵士もいたに違いない。

 

 そう思った瞬間、ずきりと頭の中が痛み出した。脳味噌を少しずつ切っていくような、地味でしつこい痛み。それと同時にフラッシュバックするのは―――――――14年前に壊滅した、ネイリンゲンの惨状だった。

 

 崩れ落ちた建物の群れや、石畳が完全に吹き飛んだ大通り。いたるところに横たわっているのは、身体中に風穴を開けられた死体や焼死体たち。五体満足で横たわっている死体もあれば、上顎から上がなくなっている死体や、手足が瓦礫で押し潰されている無残な死体もある。

 

 大人の死体だけではない。――――――子供の死体も、その中に含まれていた。

 

 突然、左手を小さな子供の手に握られたような感触がした。身体が変異してサラマンダーになったあの時から、常に外殻に覆われたままになっている俺の左腕の手のひらを握った小さな子供。燃え上がるネイリンゲンの街の中で、助けることのできなかった幼い男の子の姿がフラッシュバックする。

 

 あの時から、俺は魔王になった。

 

 仲間たちを殺されたから、その復讐をするために。

 

 そして、今しがたまた仲間を何人も殺された。俺の後をついてきてくれた大切な同志たちを、吸血鬼の一撃が消し去ったのだ。

 

 全員いい奴らばかりだった。入社試験で実施した面接で彼らが喋ったことはバラバラだったけれど、彼らは全員”家族を養うため”に俺を頼って、モリガン・カンパニーへとやってきてくれたのである。

 

「…………発射地点の特定は?」

 

「す、済んでいます」

 

「よろしい」

 

 拳を握り締めながら、椅子から立ち上がる。左手を小さな子供の手が掴んでいるような感覚は、いまだに消えない。21年前に失った左足が幻肢痛(ファントムペイン)に苛まれることは何度もあるが、このような感覚は初めてだった。

 

 あの時の怒りを忘れるな、とあの時の少年が俺に告げているように思える。隣国から少女を連れ、彼女の許婚に追われながら亡命してきた俺たちを受け入れてくれた街の人々を蹂躙された怒りがあったからこそ、ファルリュー島では勝利した。だからあの時のように、仲間を殺された怒りを動力源にすればいい。

 

 そして、この戦いにも勝利する。同志たちの墓標の前で、ヴリシア侵攻作戦で勝利したのは俺たちだ、と宣言してやるのだ。そうすれば散っていった同志たちも報われるに違いない。

 

「テンプル騎士団艦隊に伝えろ。『攻撃目標は敵艦隊ではなく、今の攻撃をぶっ放しやがったクソ野郎に変更し、原形を留めなくなるまで40cm砲で砲撃せよ』とな」

 

「しかしそれでは、敵艦隊に側面から攻撃されてしまいます! 同志、そちらの方が危険です!」

 

「いや、その心配はない」

 

「なぜです? あの艦隊にいるのはあなたの子供たちでは!?」

 

「そうだ。でもな、同志」

 

 傍らへと歩いて乗組員の肩にがっちりした右手を置きながら、俺は告げた。

 

「――――――俺はもう、あいつらを子供だとは思っていない。一人前の兵士だと思っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中給油を終えた最後の戦闘機が、緩やかに空中給油機から離れていく。最寄りの飛行場から駆けつけてくれた空中給油機に手を振ると、窓からこちらを見守ってくれていた乗組員が、酸素マスクをかぶったまま手を振り返してくれた。

 

 これが、最後の空中給油。今から私は仲間の航空部隊を率いて、戦場へと突入する。

 

 給油を終えた最後の機体が編隊に戻ったのを確認した私は、息を吐いてから仲間たちの様子を確認した。

 

(”ヴェールヌイ1”より各機へ。これより、ウィルバー海峡へと突入し、友軍艦隊を支援する)

 

 コールサインは、14年前にファルリュー島上空で無数の戦闘機部隊と死闘を繰り広げた時と同じ。あの戦いで多くの仲間が戦死してしまったけれど、壮絶な空戦を生き延びてくれたベテランのパイロットたちも、この戦いに参加してくれている。

 

 ちなりと右を見てみると、その生き残りのエースパイロットたちが乗る漆黒の殲撃20型の編隊が飛んでいる。私が見ていることに気付いたのか、酸素マスクを着用したパイロットが私に向かって手を振ってくれた。今では殲虎公司(ジェンフーコンスー)で戦闘機部隊を率いているベテランのパイロットたちが引き連れているのは、あの戦いの後に戦闘機に乗ることになった若手のパイロットたち。私よりも年下の色んな種族のパイロットたちが、空対空ミサイルを搭載した殲撃20型を操縦している。

 

 そして左側を飛んでいるのは、やはり漆黒に塗装されたF-22の編隊。こちらはモリガン・カンパニーのフランセン支社やジャングオ支社から派遣された航空隊だった。転生者戦争に従軍したパイロットは含まれていないものの、本社や殲虎公司(ジェンフーコンスー)に所属するエースパイロットたちとの訓練を繰り返している精鋭部隊みたい。

 

 そして私が編隊を組んでいる仲間たちの機体は―――――――モリガン・カンパニーの主力ステルス戦闘機として採用された、PAK-FAだった。これもやはり漆黒に塗装されているけれど、私が乗る機体の主翼にはモリガン・カンパニーのエンブレムではなく、2枚の深紅の羽根が描かれている。モリガン・カンパニーの”原点”となった、モリガンのエンブレムだ。

 

 私が率いることになった航空部隊の数は、全てステルス機で構成されている。F-22と殲撃20型が15機ずつで、PAK-FAが5機。合計で35機のステルス機部隊だった。敵の航空隊を蹴散らすには十分な数かもしれないけれど、実はこの航空部隊ですら氷山の一角。リキヤさんが投入すると決意した航空戦力の1割に過ぎない。

 

 私たちに与えられた任務は、まず最初に”艦隊を襲撃する艦載機部隊を排除し、艦隊の進撃を支援すること”。更に”可能であれば敵艦隊に攻撃を加え、打撃を与えること”という任務も受けているけれど、後者は二の次でいい。上陸部隊を乗せた強襲揚陸艦の艦隊がやられてしまったら、この作戦は失敗してしまうのだから。

 

 やがて、キャノピーの向こうに黒煙が見え始めた。もう既に戦いが始まっているのは分かっていたけれど、黒煙が上がっているのは敵艦隊ではなく、モリガン・カンパニーの連合艦隊からみたい。まさか力也さんやエミリアさんがやられてしまったのではないかと思ってぞっとした私は、仲間たちや最愛の夫が乗るアドミラル・クズネツォフを探した。艦首が上へと曲がったような外見をしているから、他の艦とはすぐに見分けがつくかもしれないと思ったけれど、同型艦も混ざっているし、中には駆逐艦と衝突している空母や黒煙を上げている空母もある。そういった空母を目にする度に、あれがアドミラル・クズネツォフなんじゃないかと思って、私は焦ってしまう。

 

 必死に夫の乗る空母を探していると―――――――PAK-FAのレーダーが、接近する敵航空部隊を捕捉した。

 

『か、数が多い…………!』

 

 仲間のパイロットのうちの誰かが、その反応を目の当たりにして驚愕した。

 

 その反応の数は、あのファルリュー島上空での空戦を彷彿とさせた。僅かな航空部隊で圧倒的な数の敵航空部隊に戦いを挑んだ時の光景が、フラッシュバックする。

 

 火達磨になって墜落していく敵。キャノピーのすぐ近くで爆発した敵の空対空ミサイル。

 

『狼狽えるな、同志。ファルリューはもっとヤバかったんだ』

 

『でも、先輩。敵は100機以上ですよ!?』

 

『何言ってんだ、戦果をあげてエースの仲間入りをするチャンスじゃないか』

 

『そうだぜ。それに、俺たちにはヴェールヌイ1がついてる』

 

 な、なんだか恥ずかしいなぁ…………。

 

 訓練が終わった後に若いパイロットが私にサインしてほしいって言い出した時はびっくりしたけれど、14年後までそう呼ばれ続けるのは予想外だった。

 

 レーダーに表示される敵の反応が近づいてくる。そろそろミサイルでロックオンできる距離になる。

 

(――――――ヴェールヌイ1、会敵(エンゲイジ))

 

 仲間たちも次々に戦闘態勢に入る。仲間たちの様々な声を聴きながら、私はミサイルの発射スイッチへと指を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まった」

 

 CICのモニターに映る反応を見た俺は、仲間を意味する蒼い点の群れが、すさまじい勢いで赤い点の群れへと戦いを挑んでいくのを確認しながら呟いていた。100機以上の艦載機の群れに対し、作戦通りに空中給油を受けつつウィルバー海峡へと駆けつけたステルス機部隊の数はたった35機。性能に大きな差があるものの、いくら何でも3分の1の数では不利なのではないかと思ってしまう。

 

 けれども、あのステルス機部隊を率いているのは”第一次転生者戦争”で墜落してもおかしくないほどの損傷を受けたF-22を操り、火達磨になった状態の機体で敵機を血祭りにあげ続けたエースパイロットがいる。ジャック・ド・モレーの後方を航行するキーロフ級の『ビスマルク』に乗るノエルの母親の、『ミラ・ハヤカワ』である。

 

 フランセン共和国騎士団との戦いでも、榴弾砲を搭載したA-10Cで駆けつけてくれた人だ。エイナ・ドルレアンの家で出会った時はパイロットとは思えなかったけれど、今の彼女は昔の彼女に戻りつつある。

 

 モニターの中で、早くも赤い点が減り始めている。蒼い点にも反応が消えるものがあるけれど、それでもやはり性能の差のおかげで圧倒しているのか、敵の反応の方が凄まじい勢いで減っている。その中でも凄まじい動きをしながら敵機を撃墜している反応が1つだけある。きっとそれが、ミラさんの乗る機体なのだろう。

 

 ちなみに、キーロフ級の名前がドイツの戦艦の名前になったのは、向こうの艦長を務めるクランが「戦艦ビスマルクに乗りたかった」と言い出したかららしい。でもロシアの艦なんだから、できるならばロシアに関係のある名前を付けてほしかった。でも、俺も24号計画艦に『ジャック・ド・モレー』っていう名前を付けているから、人のことは言えない。

 

「艦長、敵艦隊の反応を確認!」

 

「数は?」

 

「アーレイ・バーク級駆逐艦15隻、タイコンデロガ級巡洋艦7隻、キティホーク級空母3隻!」

 

 合計で25隻か…………。連合艦隊と比べるとかなり規模が小さいが、だからと言ってたった5隻の艦隊で殴り込みをするべきではないのは明らかだ。向こうにはイージスシステムを搭載したイージス艦がいるのに対し、こっちにはイージスシステムを搭載した艦は1隻もない。いくら戦艦の装甲が分厚いとはいえ、対艦ミサイルを喰らえば致命傷に貼るのは火を見るよりも明らかだ。

 

 もし仮にこいつらを撃滅しろという命令を受けていたら、距離をあけて対艦ミサイルを撃ちつつ接近し、敵のミサイルを迎撃しつつ主砲で仕留めるような戦い方になっていたかもしれない。けれども距離を詰めるまでに犠牲が出るのは明らかだし、下手をすれば射程距離に入る前に撃沈される可能性もある。

 

 俺たちの目的は、あの大物たちよりもさらに大きな獲物に変更されたのだ。あいつらを仕留めるのは後回しという事である。

 

 そう、俺たちが仕留めるべきなのは、あの艦隊よりもさらに後方に居座っているクソ野郎共だ。連合艦隊にたった1発で大打撃を与えた敵がいるならば、艦隊の被害を増やさないためにも俺たちが撃滅する必要がある。

 

「カノン、聞こえるか?」

 

『はい、お兄様』

 

 無線機から聞こえてきたのは、主砲の砲塔で砲手を担当することになったカノンの声だ。戦車砲を親父に命中させるほどの腕を持つ彼女が砲手を担当してくれるならば、かなり心強い。

 

 それに、もう1人心強い人も特別に乗り込んでいる。

 

「カレンさんもいる?」

 

『いるわよ』

 

 そう、モリガンのメンバーの1人であり、当時から戦車で砲手を担当していた、カノンの母親のカレンさんである。連合艦隊と合流した際に、親父が「彼女ならばきっと戦艦の主砲も必ず当ててくれるさ」と言ってこっちに配属してくれた、最強の砲手である。

 

 シンヤ叔父さんも「イージスシステムよりすごいかも」って言うほどの腕前なのだから、かなり頼りになる。モリガンで戦っていた頃は戦車砲で2体の敵を1発で撃破したこともあるらしい。

 

 ドルレアン親子が配属されているのは、ジャック・ド・モレーの第2砲塔。第1砲塔にはステラとイリナの2人が配属されている。

 

「攻撃目標は艦隊ではなく陸上の兵器です。砲弾は徹甲弾ではなく榴弾でお願いします」

 

『分かってるわ』

 

 徹甲弾は貫通力が高い砲弾だが、あくまでも装甲が分厚い戦艦や戦車などの破壊に向いている砲弾だ。だから陸地を砲撃する際は貫通力よりも、爆発範囲の広い榴弾を使用した方が効率がいいし、効果も大きい。

 

『それにしても、さっきの魔力の反応って…………まさか、ゲイボルグ?』

 

「ええ、おそらく」

 

『へえ、懐かしいものを持ってるじゃない』

 

 21年前にタイムスリップした際に、俺たちもゲイボルグを目の当たりにしている。若き日の母さんを救出する際にラトーニウス王国のナバウレアへと進行した時、俺たちやモリガンの迎撃にために投入された兵器だ。下手をすれば戦車を消滅させる威力を誇る恐ろしい兵器だが、カレンさんが一撃で破壊してしまったのである。

 

 そう、その兵器を撃破した砲手が、今度は戦艦の砲手を担当しているのだ。

 

「頼みます」

 

『任せなさい』

 

 砲塔の中にいるカレンさんの声は、前に話した時よりも獰猛な雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 


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