異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ゲイボルグⅡ

 

 

「同志リキノフ、敵艦隊よりミサイルが飛来」

 

 モリガン・カンパニー艦隊の旗艦『アドミラル・クズネツォフ』のCICで紅茶を飲んでいた俺へと報告したのは、まだ若い乗組員だった。魔物や盗賊共に狙われることには慣れているはずだが、やはりこういった戦いで自分たちが持っている兵器を装備する敵に狙われることには全く慣れていないようだ。

 

 自分たちが散々振るってきた圧倒的な力と同等の力が、自分たちへと向けられているという不安はかなり大きい。その力を間近で見ているからこそ、その不安は大きくなる。

 

 俺も最初は不安だった。銃や戦車があればこの世界を支配することができるんじゃないかと思ったことは何度かある。もちろん実行に移すつもりなんかなかったが、あの時はそんなことが本当にできるかもしれないと期待していた。

 

 しかし、他にも転生者がいるという事を知った瞬間、俺は今後の戦いは常に格上との死闘になるのだと悟った。相手を侮れば敗北に近づく羽目になる。だから相手は全て各上なのだと思い、更に自分と同じく銃を使う敵と遭遇することも想定し、必死に訓練した。自分や仲間を脅かす敵を打ち倒し、不安を叩きのめすために。

 

 そういった経験があるからこそ、空母を数発で撃沈できる対艦ミサイルが接近していると報告されても、まだ紅茶を一口飲む余裕がある。

 

「同志、紅茶を飲んでいる場合では―――――――」

 

「ふふっ。やはり、オルトバルカの紅茶が一番美味い」

 

 ニヤリと笑いながら、隣に立ってモニターを睨みつけるエミリアの顔を見上げた。彼女は俺の顔を見下ろすと、いい加減指揮を執ったらどうだと言わんばかりに微笑む。

 

 ああ、そろそろ指揮を執るさ。さすがにミサイルが接近しているのを知っていながら何も言わずに紅茶を飲み続けるつもりはない。

 

「全艦、対空戦闘用意。…………同志、ミサイルのコースは分かるか?」

 

「はい。敵艦隊より発射されたミサイルは、高度を上げつつ我が艦隊に接近中です。数は10発。おそらく、我が艦隊の頭上まで飛行させてから急降下させて攻撃するつもりかと」

 

「高度を上げて?」

 

 報告を聞いた瞬間、違和感を覚えた。

 

 ミサイルだけでなく航空機も同じだが、高度を上げればレーダーに探知される可能性は上がる。逆に高度を落とせばレーダーに探知される可能性は減少するため、上手くいけば目標が迎撃態勢に入る前に奇襲を仕掛けることができるのだ。目標を攻撃する前に撃墜されては元も子もないため、少しでもミサイルの生存率を上げるために低空を飛行させることも多い。このような低空飛行を『シー・スキミング』と呼ぶ。

 

 はっきり言うと、高度を上げた状態で頭上から攻撃させるよりもはるかに効率的なのだ。敵はそれを知らずにハープーンをぶっ放したのか、それともその高高度を飛行するハープーンたちが囮であるという可能性がある。

 

 これほど現代兵器を配備させられるような転生者が、ハープーンの特徴を知らずに運用するとは思えない。

 

「低空に警戒しろ。対艦ミサイルが低空飛行で突っ込んでくるかもしれん」

 

「低空ですか?」

 

 レーダーを睨みつけていた乗組員が、くるりとこちらを振り向いた。

 

「同志、お言葉ですが敵のミサイルは我々の頭上へと接近しています。それらを無視し、何もいない低空を警戒しろと仰るのですか?」

 

「無視しろとは言わん。陣形の後方を航行している駆逐艦に処理させ、他の艦は全て低空を警戒だ。それとECMも忘れるな。可能な限りミサイルの誘導を妨害しろ」

 

「はっ。……………!」

 

 敬礼をしてから再びレーダーを見つめ始めた乗組員の顔が、一瞬で強張ったのが分かった。どうやら俺に反論する前に見ていた時と、レーダーに映っている反応が異なるのだろう。表情が強張ったという事はレーダーから悪いニュースを告げられたに違いない。

 

 やはり、俺の仮説は当たっていたのかもしれない。念のために改造して可能な限りレーダーを強化するべきだという意見を言ってくれたシンヤに感謝しつつ、俺はもう一口紅茶を飲んだ。

 

「てっ、低空にもハープーンです! 数は30! 距離は80km!」

 

 やはり、高度を上げた状態で飛んできたハープーンは囮だったようだ。こっちが飛来するミサイルを迎撃することに必死になっている隙に、感知されにくいように低空を飛行させたミサイルで一気に殲滅するつもりだったのだろう。

 

 どうやら敵の司令官はかなり狡猾らしい。俺の息子(あのクソガキ)とどっちが狡猾なのだろうか。

 

 自分の妻にそっくりな容姿の息子の事を思い出した俺は、そう思いながらCICのモニターの1つを見つめた。自分たちの乗るアドミラル・クズネツォフよりも前を航行する戦艦のCICでは、今頃その悪ガキが指揮を執っているに違いない。あいつもこの低空を飛んでくるハープーンの奇襲に気付いているだろうか。

 

「友軍艦隊、迎撃開始! 駆逐艦『ウラジオストク』、『メルクーリイ』、『アルマース』、対空ミサイル発射! その他の駆逐艦も迎撃を始めます!」

 

「よろしい。同志諸君、この海戦に勝たない限りヴリシアには辿り着けんぞ。なんとしてもここで敵艦隊を打ち破る!」

 

「「「УРааааа!!」」」

 

  CICのモニターには、この空母アドミラル・クズネツォフを護衛する駆逐艦たちから発射される数多のミサイルが既に映し出されていた。高い高度から接近するミサイル10発に加え、低空から奇襲してくる本命のハープーンは30発。それだけ数があるのだから、合計で40発ものミサイルでこの空母だけを狙うメリットはないだろう。おそらくその一斉攻撃で可能な限りこちらの艦隊の数を減らすつもりだ。

 

 仮にすべてのミサイルの迎撃に失敗した場合、この500隻を超える艦隊はそれほど大きな損害は受けない。しかしこの作戦に参加する多くの同志たちが犠牲になってしまう。

 

 それだけは避ける必要がある。犠牲が出ることは覚悟しているが、だからと言って何もしないまま仲間たちが焼き殺されていくのを眺めているのは論外だ。抗えるのならば、徹底的に抗う。

 

 かつて圧倒的な数の守備隊に、僅か260人の海兵隊で戦いを挑んだファルリューの死闘のように、抗うのだ。

 

 目の前のモニターで、低空を飛行する30発のハープーンと、味方の駆逐艦に搭載されている対空ミサイルの『3M47グブカ』から放たれた対空ミサイルの群れが、モニターの中と大空の中で絡み合う。

 

 センサーなどのシステムが搭載された”胴体”の左右に、対空ミサイルを左右に3発ずつ装備したグブカは、傍から見るとミサイルランチャーを3本ずつ束ねたものを両肩に担いでいる巨人の上半身にも見える。元々は歩兵に持たせるための対空ミサイルランチャーである『9K38イグラ』を改造したものなのだ。

 

 歩兵用だったとはいえ、航空機や戦闘ヘリを一撃で撃墜する威力を持っている。更にこちらの艦隊は全て近代化改修済み。1隻の性能はイージス艦には及ばないが、その差をかなり縮める事には成功している。

 

 あとは、シンヤが計算した戦力差が合っていることを祈るだけだ。

 

「トラックナンバー001から021、迎撃成功! さらに022から030、撃墜! 残り10発は撃墜ならず!」

 

「駆逐艦メルクーリイ、アルマース、速射砲で迎撃中! ――――――やった! メルクーリイが更に3発撃墜!」

 

「アルマースもやりました! 残り4発……………あっ、メルクーリイが横取りしやがった! 同志、全弾撃墜です!」

 

 メルクーリイの乗組員は優秀だな。撃ち漏らしたミサイルを素早く速射砲で迎撃してくれたおかげで、艦隊に被害は出なかったようだ。仲間たちからも味方の艦が撃沈されたり、損傷を受けたような報告はない。CICにいる乗組員たちは味方艦の状況を確認しつつ、安心した声で報告をしてくる。

 

「よし、メルクーリイの乗組員には、『生きて帰れたら給料を上げてやる。必ず生きて帰れ』と伝えろ」

 

「はい、同志!」

 

 ひとまず、最初の攻撃はしのいだ。だがまだ敵の艦載機も接近しているし、その奥には敵の艦隊も待機している。このまま前進して航空部隊を打ち破り、そのまま敵艦隊に飽和攻撃を叩き込んでやってもいいが、そうすればこっちにも損害が出てしまう可能性がある。

 

 最低でも最後尾の強襲揚陸艦を守れればいい。だが、彼らを海上から支援するのは艦隊の仕事だ。この海戦で生き残った艦隊の数が、今後の支援攻撃の密度にそのまま影響する。

 

「艦隊を分けた方がいいだろうね」

 

 モニターを睨みつけながら考えていると、一緒にモニターを見ていたシンヤがそう言った。

 

「さすが、”第一次転生者戦争”を勝利に導いた名将だな」

 

「僕は指図してただけさ」

 

 肩をすくめながら微笑むシンヤだが、彼の指図のおかげであの戦いに勝利できたのだ。10000人の守備隊と260人の海兵隊が戦えば、普通ならばどうなるかは言うまでもないだろう。

 

 こちらには500隻の艦隊がある。このまま直進して敵を押しつぶすよりも、ある程度分散させて包囲するか、少数の艦隊に奇襲させるほうが効率がいいという事なのだろう。

 

 もし分けるとしたら、練度がそれなりに高く、なおかつ連携が取れるような艦で分けた方がいい。だからと言って多くの艦をそちらの方に編成すれば肝心な強襲揚陸艦を守る戦力が手薄になってしまうので、あくまでも10隻以下の艦隊にするべきだ。

 

 練度が高く、連携が取れるという条件を満たしているのは―――――――あいつらしかいない。

 

 目の前のモニターに表示されている大型艦の反応を見つめながら、俺は息を吐いた。

 

「テンプル騎士団艦隊に、敵を側面から奇襲させろ」

 

「同志、いいのですか? 敵の航空機に狙われますよ?」

 

「問題ない」

 

 子供たちを捨て駒に使うつもりはない。むしろ、あいつらを信頼しているからこそこういった任務を任せるのだ。テンプル騎士団は俺たちから見ればまだまだ未熟な子供たちとは言え、もう既に何度も死闘を経験し、成長している。前に作戦会議に来た時に見た子供たちの面構えは、あのラガヴァンビウスの防壁の向こうへと旅立っていった日と比べると遥かに大人びていたのだから。

 

 それに、そろそろ”あいつら”が到着する頃だ。

 

「はい。では、テンプル騎士団艦隊に奇襲させます」

 

「ああ、頼む」

 

 頼むぞ、タクヤ。ラウラ。

 

 子供たちの顔を思い浮かべながら、俺は通信担当の乗組員に言った。

 

「……………『必ず生きて帰れ』と伝えてくれ」

 

了解です(ダー)、同志リキノフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハープーン、撃墜されました!」

 

「ほう」

 

 部下からの報告を聞きながら、海の向こうを見つめた。

 

 ここからでは吸血鬼の優れた視力でも、あの向こうで戦っている筈の敵艦隊やこちらの艦隊の姿は見えない。音も聞こえないし、火薬の臭いもしない。だからなのか、”戦争中”という実感が全くない。

 

 どれだけ魔術師が魔力を放出し、鎧を身につけた騎士たちが俺の傍らで鎧の音を響かせても、全く戦争中だという実感は感じない。床に落ちる薬莢の金属音と銃声が鼓膜を満たし、炸薬の強烈な臭いに鼻孔を蹂躙されて、やっと俺は戦争をしているという実感を感じることができるのかもしれない。もしそうならば、俺がそれを実感するために何人の兵士が犠牲になることになるのだろうか。

 

 海の向こうを眺め続けたが、やはり味方の艦隊の姿は見えない。

 

 アーレイ・バーク級駆逐艦とタイコンデロガ級巡洋艦に加え、空母のキティホーク級で編成した艦隊の数は、明らかにモリガン・カンパニー艦隊よりも大きく劣っている事だろう。イージス艦も編成されている点がこちらの有利な点だが、いくら高性能なイージスシステムのおかげで数多のミサイルを叩き落すことができたとしても、敵の数はおそらくこちらの15倍以上。しかもモリガン・カンパニーは実戦を何度も経験している部隊が多いため、練度で比べればこちらが劣るのは明らかだ。

 

 もし仮に敵艦隊がそのまま直進すれば、敵の対艦ミサイルをことごとく迎撃することはできても、イージス艦はやがて海の藻屑にされてしまうに違いない。この海戦で敵の数を可能な限り減らし、少しでも敵の支援攻撃の破壊力を下げなければ、この後の市街地戦で劣勢になる。何とかして巻き返そうとしても、海上からの攻撃で潰される羽目になるのだ。

 

「ブラド様、ゲイボルグⅡの準備が整いました」

 

「よし、艦隊に射線上から退避するように伝えろ」

 

はい(ヤー)

 

 奴らがこちらを遥かに上回る物量を用意してくることは、ある程度予想できていた。だからこそ現代兵器ではなく、こういった大型の兵器を用意しておいたのだ。

 

 ゲイボルグⅡの原理は、簡単に言うならば8本の柱の中心に高圧縮した魔力を生成し、8本の柱から均等に圧力をかけることによって高圧縮を維持させつつ、攻撃したい方向にある柱からの圧力を弱めることによって非常に速い弾速の魔力を敵へと放つというものだ。しかも原型となったゲイボルグよりも弾速が速い上に、敵へと放たれる魔力のエネルギー弾もより巨大。直撃すれば空母さえも甲板の端を微かに残して消滅するほどの威力がある。

 

 ただし敵の攻撃で柱を1つでも破壊されれば簡単に無力化されるという弱点がある。しかしそれはある機能を追加したことで克服できているから、気にする必要はない。

 

「友軍、射線上より退避しました」

 

「魔力圧縮率、90%。拘束を開始します」

 

 8本の柱の中心には、いつの間にか成人男性の伸長くらいの直径の深紅の球体が浮遊していた。しかしそれを取り囲む柱の表面に刻まれた複雑な模様が紫色に輝きだしたかと思うと、まるで全方向から凄まじい力で押さえつけられているかのように、震えながら一気にサッカーボールほどの大きさまで縮んでしまう。

 

 深紅の球体は押さえつけられながらも膨張しようと足掻き続けるが、周囲の柱が発する圧力がそれを更に押さえつける。あの柱の内側では、拘束しようとする柱たちと、膨張しようとする魔力の力比べが始まっていた。膨張する度にスパークを周囲にまき散らしながら震える魔力でできた球体には、人間どころか戦艦の装甲を容易く押し潰すことができるほどの圧力がかけられているのが分かる。

 

 あとはこれを、解き放つだけだ。

 

 砲撃を担当する魔術師の目の前に魔法陣が出現したかと思うと、その魔法陣の中に敵艦隊の様子が映し出される。それを目にした数が魔術師が「うわ、凄い数だ」と呟いたのが聞こえた。

 

 やはり、あいつらの戦力はこちらを遥かに上回っている。おそらく15倍だろうと思っていたが、間違いなく15倍以上だ。20倍くらいの差があるかもしれない。

 

 この一撃で、敵の戦力をどこまで削れるのだろうか。

 

「魔力圧縮率、100%! 拘束解除、いつでも行けます!」

 

 さらばだ、モリガン。

 

 俺はこの戦いで、父の仇を取る。この世界を支配する筈だったレリエル・クロフォード(俺の父親)を奪った憎きリキヤ・ハヤカワを殺し、吸血鬼の栄光を俺たちが取り戻す。

 

「――――――撃て(フォイヤ)ぁッ!!」

 

 号令を発した瞬間―――――――荒れ狂った紅い魔力の塊が、ついに解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親父からの命令を聞いた瞬間、さすがに無茶な作戦だと思った。いくら戦力ではこっちが明らかに上回っているとはいえ、たった5隻の艦隊で敵艦隊を側面から奇襲すれば袋叩きにされる。それどころか接近する前にレーダーで探知され、そのまま対艦ミサイルを叩き込まれるのは明らかだ。

 

 いくら戦艦でも、対艦ミサイルの集中砲火を叩き込まれれば容易く轟沈する。それほど威力の高い兵器である上に、当たり所が悪ければ弾薬庫の弾薬が一気に爆発し、乗組員もろとも木っ端微塵になる可能性もある。

 

 けれども、そのような危険な任務を俺たちに任せるという事は、それだけ俺たちを信頼しているという事だ。それに現時点で少数の艦隊として派遣できるうえに、練度もそれなりに高く、連携も取れるのはテンプル騎士団艦隊しかいない。殲虎公司(ジェンフーコンスー)艦隊はこの連合艦隊の一翼を担う大艦隊だし、両者の艦隊の中から駆逐艦を派遣するわけにもいかない。

 

 俺たちに攻撃が集中しないことを祈りながら、俺はちらりとラウラの顔を見てから命令を下す。

 

「これよりテンプル騎士団艦隊は、敵艦隊を側面より奇襲するため艦隊を離れる! 取り舵いっぱい!」

 

『了解(ダー)! とーりかーじいっぱーい!!』

 

「まだ敵の航空機部隊が接近している! 警戒を維持したまま―――――――」

 

「艦長、敵機の編隊が左右に分かれました!」

 

「…………なに?」

 

 左右に分かれた? 片方に俺たちを攻撃させ、残った編隊で本隊を空襲するつもりか?

 

 敵の作戦を読み、少しでも早く対応しようとした俺の頭がすぐに仮説を組み上げる。しかし目の前のモニターに表示されている敵機の編隊の反応を見た瞬間、強烈な違和感を感じた。

 

 敵機の編隊は、ほぼ半分ずつ左右に分かれているのである。

 

 たった5隻しかいない俺たちの艦隊を、圧倒的な数で襲撃するのならばまだ分かる。しかし、そうすれば肝心な本隊を叩く戦力が一気に少なくなり、そのまま対空ミサイルや対空砲で迎撃され、返り討ちにされるのが関の山だ。それならば俺たちを無視して艦隊に任せ、全機で本隊を叩いた方が理に適うのではないか?

 

 モニターの反応が、更に変わっていく。二手に分かれてこっちの艦隊を襲撃しようとしているよりは、まるで後ろからやってくる何かに道を譲るような飛び方だ。左右に編隊を散開させ、ど真ん中には何もいない。開けられた道の向こうを堂々と進むのは、連合艦隊の本隊。

 

「ねえ、タクヤ。敵機の動き……………おかしくない?」

 

 隣に立っていたナタリアが、不安そうに言う。俺も首を縦に振り、何か罠でも仕掛けている可能性があると言おうとした次の瞬間だった。

 

「かっ、艦長!」

 

「どうした!?」

 

「敵機の後方より、強烈な魔力の反応!」

 

「!?」

 

 当たり前だが、近代化改修をしたとはいえ、本来ならばこの世界に存在しない兵器に魔力を探知する機能などない。しかしこのヴリシア侵攻作戦に参加する際、作戦に投入される5隻の艦には魔力を探知するためのセンサーを新たに装備しておいたのである。これはこの作戦の最高指揮官である親父からの命令だった。

 

 全く役に立たないとは思わなかったが、現代兵器を主戦力とする敵に役に立つことはないだろうと思っていた。しかし、その活躍しない筈の装備が、ここで敵の強烈な一撃が襲来すると告げている。

 

「なんだこれ……………超高圧の魔力が一ヵ所に拘束されて―――――――」

 

 そういえば、似たような兵器を見たことがある。

 

 21年前の世界にタイムスリップした時、親父たちと若き日の母さんを救出するためにナバウレアに襲撃を仕掛けた際に、そのような兵器が俺たちに牙を剥いたのだ。

 

 複数の柱によって中心の魔力を拘束し、それを解除することで強烈な高圧の魔力を凄まじい弾速で撃ち出す、この異世界が生んだ大量破壊兵器。

 

 確か―――――――ゲイボルグという名前だったような気がする。

 

 名前を思い出した瞬間、俺は冷や汗を浮かべながら立ち上がり、叫んだ。

 

「ぜっ、全艦、機関最大! 回避しろ!!」

 

「えっ? ど、どうしたんですか?」

 

「いいから、味方の艦隊にも知らせろ! このままじゃ本隊が壊滅―――――――」

 

 驚愕してこちらを振り向いた乗組員の1人に命令しようとした、次の瞬間だった。

 

 CICに移し出されていた魔力の反応を意味する点が一気に膨れ上がったかと思うと――――――まるで瞬間移動を繰り返しているかのように、その反応が一気に艦隊へと接近してきたのだった。

 

 


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