異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
旅に出ても、毎朝目を覚ます俺を包み込んでいる甘い匂いは変わらない。石鹸と花の香りが混ざったような優しく甘い匂い。赤子の時からずっと嗅いできた匂いだ。
この匂いがするという事は、彼女が俺の傍らで眠っているという事なんだろう。
瞼を指で擦ろうと思って、ぼさぼさしている安物の毛布の中から手を引き抜こうとする。家が裕福だったおかげで実家のベッドの毛布は触り心地が良かったんだが、この貧しい村の宿の毛布は、まるで何日も手入れしていないかのようにぼさぼさだ。端の方には穴が開いている。
親父が会社を経営しているおかげでラウラと俺は裕福な家で育ったが、新しい親たちの育て方のおかげなのか、貴族の子供たちのように傲慢な性格になることはなかった。ラウラもこの宿に泊まると言った時は文句を言わなかったし、ぼさぼさする安物の毛布をかぶって寝ることになっても何も言わなかった。
瞼を擦ろうとした手が、俺の顔の近くでふわふわした何かにぶつかる。眠気のせいでまだ瞼が開かなかった俺は、手がぶつかったそのふわふわする物を撫で回す。この毛布よりも遥かに触り心地がよく、撫でる度に俺の好きな甘い香りが舞い上がる。
なんだこれ………?
「ふにゅう………」
「………」
ラウラか。俺が撫でてたのはラウラの頭だったんだな。
納得して手を引っ込めようとするが、手が毛布の中の温もりへと戻っていくよりも先に違和感が滲み出す。
手がぶつかった位置がおかしいんだ。いつもラウラは俺の隣に寝てるんだが、隣に寝てるならば俺の顔の前で彼女の頭にぶつかるわけがない。それに何だか今日は、俺の上に何かが乗っているような気がする。
あれ? ………まさか、俺に乗って寝てる?
そんな仮説が出来上がった瞬間、瞼を開くことを妨げていた眠気が全て吹っ飛んだ。大慌てで瞼を開くと、いつもならば隣で横になっている筈の少女が、確かに俺の身体の上に乗って両手で抱きしめながら寝息を立てていた。
しかも、何故かパジャマのボタンは全て外れている。おいおい、ここは北国だぞ? 寒くないのか?
ちなみにブラジャーの柄はピンクと白の縞々だ。どうやらラウラは縞々模様の下着がお気に入りらしい。
いきなり俺が動いたことに驚いたのか、「ん………」と眠そうな声を出しながら更にぎゅっと抱き付いてくるラウラ。大きな胸を押し付けられて顔を赤くしてしまった俺は、角が伸びるのを少しでも阻害するために大慌てで視線を逸らす。
目を逸らした先では、毛布の後ろから伸びたラウラの尻尾が、まるで楽しそうに尻尾を振る犬のように揺れていた。
「ふにゅ……………ふにゃー…………」
「ラウラ」
「ふにゅ? ……あ、タクヤ。おはよう」
「おはよう。…………ところで、なんでボタン外してんの? 寒くないの?」
上に乗っていたラウラは、瞼を擦りながら顔を近づけてくる。そのまま手を伸ばして俺の髪を掴むと、匂いを嗅いでから頬ずりを始めた。
「えへへっ、全然寒くないよ。タクヤの身体は暖かいし」
「ちゃんとボタン付けとけって。風邪ひくぞ?」
「ふにゅ………タクヤが興奮してくれると思ったのになぁ…………」
頬を膨らませながらそう言うラウラ。俺は慌てて角に向かって手を伸ばしてみるが、頭から生えているこの角は、ラウラの期待通りに見事に伸びていた。彼女に気付かれる前に手を離すつもりだったんだが、手を離そうと思ったところでラウラに気付かれてしまう。
「………角伸びてる?」
「う、うん………」
「ふふっ………。そういえば、昨日は巨乳の方が好きって言ってたよねぇ?」
「あっ………」
確かにそう言った。自分のおっぱいをナイフで切り落そうとするラウラを止めるためにそう言ったんだが、俺は本当に貧乳よりも巨乳の方が好きなんだよ。
実の姉に向かってそんなことを言ったのを思い出して顔を赤くする俺に追撃を仕掛けてきたのは、寝る前にベッドの上で彼女とキスをした記憶だった。
「えへへっ。……ほら、大きいおっぱいが好きなんでしょ?」
ニヤニヤ笑いながら、ラウラは俺の胸に自分のおっぱいを押し付けてくる。おそらくEカップかFカップくらいはあるだろう。何とかベッドから出ようとするが、いつの間にかラウラの尻尾が俺の腰の辺りに絡みついていたせいで逃げられない。
両手を使って引き離そうとしたんだが、もう俺の両手はラウラに押さえつけられてしまっていた。
「ら、ラウラ、そろそろ着替えてこの宿を出ようぜ?」
「まだ早いよぉ。もっとタクヤに甘えたいなぁ………」
「何言ってんだよ。もう7時だぞ?」
「大丈夫。ママやエミリアさんはいないから甘え放題だよ? それにね………た、タクヤも、甘えたかったら…………お姉ちゃんに甘えていいんだからね………?」
恥ずかしそうに言いながら顔を近づけてくるラウラ。いつもはこんな風に胸を押し付けたり抱き付いてくる時は恥ずかしそうにしないんだが、何故か甘えていいと言った時だけ顔を赤くしていた。
ならば、甘えさせてもらおうか。お前がいつも甘えてくるせいで俺はシスコンになっちまったんだし。それに、仕返しもしないとな。
「ひゃんっ! た、タクヤっ………!?」
またキスをするつもりだったのか、ラウラが唇を近づけてきた隙に両手を振り払い、パジャマ姿のラウラの身体を抱き締めた。いきなり抱き締められたお姉ちゃんは、顔を真っ赤にしながら頭の角を伸ばし始めている。
やっぱり良い匂いがするなぁ………。ふわふわする彼女の赤毛を撫でながら、今度は俺が尻尾をラウラの身体に絡みつかせる。
彼女は自分の角が伸びていることに気付いたらしく、慌てて白い手で伸びている角を隠そうとしているようだった。でもダガーのように伸びる角を隠すには、ラウラの手は華奢で小さ過ぎるだろう。可愛らしい指の後ろから角の先端部が見えていた。
顔を真っ赤にするラウラに向かってにやりと笑い、彼女の角へと手を伸ばす。必死に隠そうとする白い手を退けて角の表面を撫で始めると、ラウラは俺の上に乗ったままぴくりと小さく震えた。
「ラウラも角伸びてるじゃん」
「の、伸びてない………っ!」
「あははははっ」
「ふにゅう…………」
甘えていいって言ったのはお姉ちゃんだからな。
傍らで頬を膨らませていたラウラはちらりと俺の顔を見ると、顔を真っ赤にしたまま唇を近づけてきた。どうやらキスがしたかったらしい。
お姉ちゃんをからかうのはここまでにしよう。俺は彼女の身体を抱き締めながら、彼女の唇に自分の唇を押し付けた。
朝っぱらから甘え過ぎたかもしれない…………。
宿屋が用意してくれたパジャマからいつもの服装に着替え、宿屋の主に挨拶をしてから宿の外に出た俺は、朝っぱらから実の姉とキスをしたことを思い出して顔を真っ赤にする羽目になった。
ついにシスコンになっちまった…………。
部屋を出た時からずっと俺の手を握りながら鼻歌を口ずさむ姉を見下ろした俺は、苦笑いしながら一緒に歩き出す。
フィエーニュの森はもう調査したし、あの森にはもう用はない。この村を出て目的地であるエイナ・ドルレアンへ向かうとしよう。俺たちが線路を吹っ飛ばしたせいで運休になっているエイナ・ドルレアン線も、もう再開している筈だ。
ここから最寄りの駅は、『ナギアラント』という町にある駅だ。そのナギアラントもこのフィエーニュ村と同じく田舎らしいが、鉄道の駅があるおかげで観光客は多いという。そこから列車に乗って一気にエイナ・ドルレアンへと向かえば、すぐに到着する筈だ。既に親父が信也叔父さんやカレンさんに紹介状を送っているらしいから、あまり時間をかけるべきではないだろう。
左手を突き出してG36KとMP412REXを装備し、ラウラにもSV-98とPP-2000を装備させる。普通のスナイパーライフルはスコープを調整しなければならないんだが、ラウラの場合はスコープを装着せずに使うから照準の調整は必要ない。視力がいいのは便利だなぁ………。
アンチマテリアルライフルはラウラ用のやつがあるが、そろそろ俺もアンチマテリアルライフルを装備しておいた方が良いかもしれない。普通のスナイパーライフルよりも射程が長いから対人用の狙撃にも使えるかもしれないし、トロールみたいにでかい魔物が出てきた時にも力になってくれるに違いない。
周囲を歩いている村人は殆どいないから気にしなくてもいいだろう。歩きながらもう一度メニュー画面を開き、武器の生産をタッチ。武器の種類の中からアンチマテリアルライフルを選んだ俺は、予め作ろうとしていたライフルの名前を探すと、にやりと笑ってからそれをタッチした。
俺が選んだアンチマテリアルライフルは、ロシア製のOSV-96。ボルトハンドルを引く必要のないセミオートマチック式のライフルで、ラウラのゲパードM1と同じく12.7mm弾を使用する。しかも5発入りのマガジンを搭載しているため、破壊力の大きな弾丸を連発する事が可能だ。命中精度ではゲパードM1に劣るけれど、こちらの方が連射できる。ボルトアクション式のライフルよりもセミオートマチック式の武器を好む俺にはうってつけだ。
ちなみに親父もこのライフルを使って活躍していたらしい。しかも、このアンチマテリアルライフルの銃身の下にロケットランチャーや迫撃砲を装備して火力を上げていたという。
普通ならばあり得ないカスタマイズだ。重火器を搭載するのだから武器の重量が増して非常に扱いにくくなるだろう。
だが、ステータスによって身体能力を強化できる転生者ならばそのような武器でも使いこなせるだろう。親父もそのありえないカスタマイズのライフルを使いこなしていたと母さんが話していたし、なんと片手でぶっ放したこともあるという。
本当に、あの親父に喧嘩を売らなくて良かった。恐ろしい腕力だよ。
800ポイントを使ってアンチマテリアルライフルを生産し、カスタマイズのメニューを操作し始める。スコープとバイポットはあらかじめ装備されているようなので、カスタマイズするのは他の部分だろう。本当にどんなカスタマイズもできるらしく、普通ならば装着することはありえない銃剣まで用意されている。
とりあえず、銃床にモノポッドを追加しておこう。伏せて狙撃する時にこれも展開して狙撃すればさらに狙撃しやすくなる筈だ。俺はラウラのように狙撃が上手いわけではないが、親父から狙撃の訓練は受けているため射撃には自信がある。もし遠距離戦になったら、観測手(スポッター)として彼女をサポートしながら狙撃で援護しよう。
更に50ポイントを使ってT字型のマズルブレーキを装着。カスタマイズに使うポイントは非常に少ないんだが、あまりカスタマイズし過ぎるとポイントを使い果たしてしまうかもしれない。
「ん?」
《RPG-7V2の取り付け》
ロケットランチャーが本当に取り付けられる…………。
タッチしてみると、どうやらアサルトライフルの銃身の下にグレネードランチャーを装備するように、アンチマテリアルライフルの銃身の下にロケットランチャーの装備が可能になるようだ。だが、RPG-7は発射する際に後方にバックブラストと呼ばれる爆風を噴射する仕組みになっている。そのまま取り付けたら俺がバックブラストで吹っ飛ばされちまうぞ。
《バックブラストを噴射しない方式に変更して装着します。それにより反動は増大し、射程距離もやや低下しますが、アンチマテリアルライフルとロケットランチャーを併用できるようになります》
射程距離が落ちるのか………。でも、装着してみるか。俺たちは冒険者だから人間よりも魔物と戦う回数の方が多くなるだろうし。
60ポイントを使ってロケットランチャーを取り付ける。重量は約20kgになってしまうが、常に背負うわけではないので問題はないだろう。レベルを上げれば重い武器でも重さを感じなくなっていく筈だ。
試しに画面をタッチして早速それを装備してみる。OSV-96をタッチした瞬間、いきなり背中が一気に重くなった。やっぱりアサルトライフルよりも遥かに重いぞ。
「ふにゅ? また作ったの?」
「あ、ああ。試しに構えてみたいから、手を離してもいい? 尻尾触ってていいから」
「うんっ!」
ラウラが俺の尻尾を触っている間に、俺は背負っていたOSV-96を構える。カスタマイズしたとおり銃床にはモノポッドが装着してあって、1.7mの長い銃身の下にはやっぱりRPG-7V2が装着されていた。どうやら照準器は別々になっているらしく、ロケットランチャーで砲撃する際はランチャー本体の左斜め上に装着されているスコープを覗き込まなければならないらしい。トリガーも別々で、ロケットランチャーのトリガーはランチャー本体の左側から突き出ている折り畳み式のグリップに装備されていた。
「ふにゅ? タクヤも狙撃するの?」
「トロールみたいなでかい魔物用だよ。一緒に遠距離から撃ちまくった方が安全だろ?」
「えへへっ、そうだね。一緒にいられるし」
魔物を撃破するよりも一緒にいたいのかよ………。
威圧感が倍増したアンチマテリアルライフルを装備から解除すると、再びラウラは俺の手を握ってきた。彼女の手も俺の手と同じように華奢で、肌も真っ白だ。
「ん?」
手を繋いだまま村の門を出ようと思ったその時だった。一足先にこの村を後にした冒険者がいたらしく、俺たちと同じ方向に向かって歩いていく金髪の少女の後姿が見えたんだ。大きめのククリ刀を腰の後ろに下げ、背中には折り畳み式のコンパウンドボウを背負っている。
離れているが、彼女が放つ凛々しい雰囲気を感じ取った俺は、ラウラと手を繋いだまま彼女に向かって手を振っていた。
「おーい、ナタリアー!!」
「ふにゅ………」
ま、拙い。ラウラがヤンデレだという事を忘れてた…………。
ぞっとしながら隣にいる姉の顔を見てみると、やっぱり炎のように赤い瞳は虚ろな瞳に変貌していた。先ほどまでは楽しそうに笑っていたというのに、甘えん坊の姉の笑顔は無表情に変わっている。
しかも、ナタリアに俺の声が聞こえたらしい。草原へと向かって歩いていたナタリアはこっちを振り向くと、手を振りながら俺たちの方へと駆け寄ってきた。
もう呼んでしまったから仕方ないな。あとでお姉ちゃんをいっぱい甘えさせてあげよう。そうすれば機嫌を直してくれる筈だ。
「あら、タクヤ。2人も別の街に行くの?」
「ああ。エイナ・ドルレアンの叔父さんの所に行くんだ。その前にナギアラントに行くんだが――――――」
「え、そうなの? 実は私もなのよ」
「えっ?」
どうやらナタリアも目的地が同じらしい。ナギアラントで列車に乗って、実家のあるエイナ・ドルレアンへと帰るところなんだろう。
墓穴を掘ってしまった。なんという事だ。これではラウラの機嫌はずっと悪いままじゃないか………。そう思っていると、俺の隣で虚ろな目つきになっているラウラが早くも自分の手の爪を噛み始めた。しかも俺の手を握っている方の手には力を入れ始めている。キメラとして生まれた彼女の握力は非常に強いため、本気をだぜば常人の手を握りつぶすことも出来るだろう。
「あ、あのさ………もし良ければ、一緒に行かないか?」
「え?」
墓穴が更に深くなる。どうやら俺は墓穴ではなく奈落を掘ってしまったらしい。
ナタリアは優秀な冒険者なのかもしれない。だが、トロールとの戦いで彼女は逃げようとはせず、そのままトロールと戦おうとしていた。もし俺たちが到着していなかったならば、ナタリアも他の冒険者たちと同じように食い殺されていたに違いない。
虐げられている人々を守ろうとする彼女の理想に共感した俺としては、彼女に死んでほしくない。なんとしても生き残って、人々を救ってほしいんだ。
それに俺たちはまだ新人だ。半年だけとはいえナタリアの方が先輩なのだから、アドバイスしてもらえるかもしれない。
「なんというか、2人っきりで旅すると大変だし…………先輩がいた方が助かると思ってさ。もし迷惑だったら……気にしないでくれ」
手に力を入れているラウラ。片手で彼女の頭を撫で始めると、彼女は「ふにゃー…………」と気持ち良さそうな声を出しながら、手から力を抜き始める。良かった、これで左手が握りつぶされることはなくなったぞ。
「…………い、いいの?」
「ああ、大歓迎だ。――――なあ、お姉ちゃん?」
「ふにゃ…………よろしくね、ナタリアちゃん。……ふにゃあー…………」
癖で尻尾を振り始めたラウラを見て微笑んだ俺は、同じようにラウラを見て微笑んでいたナタリアに向かってにやりと笑う。
「―――――うん、よろしくっ!」
暖かい風の中で、俺とナタリアは握手を交わす。
俺たちのパーティーに、ナタリアが加わった。