異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤがシスコンになるとこうなる

 

「ふにゅー………タクヤぁ、退屈だよぉー」

 

「ちょっと待ってろって。レポート書かなきゃいけないんだから」

 

 後ろから抱き付いてくるラウラを説得しながら、片手に持った羽ペンで原稿用紙に文字を書き込んでいく。冒険者はダンジョンを調査するのが仕事なんだが、調査が終わったらどのようなことが判明したのかレポートに書いて管理局に提出するという義務がある。基本的に提出期限はダンジョンから離脱した日から1ヵ月以内となっている。期限が長いような気がするが、これは最寄りの管理局の支部や施設が遠かった場合のための措置だ。管理局の施設は世界中にあるが、まだ施設が建設されていない場所もある。

 

 このフィエーニュ村にも、まだ管理局の施設はない。だがダンジョンの中にいたトロールを倒してしまったのだから、じきにこのダンジョンも他の冒険者たちによって調査されてしまう事だろう。

 

 ダンジョンから離脱してフィエーニュ村の宿屋で宿泊することにした俺たちは、銀貨6枚で1人用の部屋に宿泊することにしていた。こうすれば1人分の宿泊費で済むし、別々の部屋にするとラウラが心配だ。泣き出すかもしれないし、俺の部屋に来るだろうから1人分の宿泊費が無駄になる。

 

 宿屋の1階には昨日の夜は何人も冒険者がいた筈だが、帰ってくると人数はかなり減っていた。下に用意してあったテーブルに腰を下ろして酒を飲んでいるのはたった数人で、昨日の夜のようにトランプをしながら大騒ぎしていた奴らの姿はない。

 

 みんなあのトロールにやられてしまったんだろう。

 

「ねえ、タクヤぁ」

 

「ちょっと待って」

 

「やだ。退屈だよぉ」

 

 文章を書くのが苦手なラウラは、先ほどからレポートを書いている俺の後ろにしがみついて、頬ずりをしたり俺の髪を弄っている。退屈かもしれないが、レポートは早いうちに書いておいた方が良い。移動中に書くわけにはいかないし、野宿している間は見張りもしなければいけないからレポートどころではない。提出期限は1ヵ月も先だが、レポートを書く事ができるチャンスは今夜しかないかもしれない。

 

 もし提出期限を過ぎた場合は注意されるが、何度も提出期限を過ぎた場合はダンジョンの調査禁止か、冒険者の資格が剥奪されてしまう。

 

 だから今のうちに書いておくことにしていたんだ。

 

 レポートに書いている内容は、トロール以外の魔物はゴブリン程度で、危険度は極めて低かったという事だ。あれならばダンジョンに指定されていない森の中や草原を歩いている時と全く変わらないんだが、そんな場所にトロールのような魔物が1体居座るだけでダンジョンに指定されてしまうらしい。

 

 おそらく、世界中に存在する危険度の低いダンジョンも、危険な魔物が縄張りにしてしまったせいでダンジョンに指定されてしまったんだろう。

 

 トロールとの戦闘に銃を使ったとは書かないように気を付けながら羽ペンで書き込んでいると、いきなり俺の両肩の上に暖かくて柔らかい何かがのしかかり、両肩と首筋を包み込んでしまう。ラウラが抱き付いてきたのかと思ったんだが、彼女の手にしては大きい。

 

 びっくりして羽ペンを止めた直後、椅子に腰を下ろしてレポートを書いていた俺の顔を、上からラウラの笑顔が覗き込んでいた。

 

 彼女は俺に抱き付いていたわけじゃない。なんと大きな胸を俺の両肩に乗せて、顔を真っ赤にしている俺の顔を覗き込んでにこにこと笑っているんだ。

 

「ラウラ」

 

「ふにゅ? どうしたの?」

 

「俺の両肩におっぱいを乗せるんじゃない」

 

「えへへっ」

 

 肩に大きな胸を乗せたまま、わざと揺らし始めるラウラ。成長して大きくなった彼女の胸を押し付けられた俺は、レポートを書くのを中断して抗議したが、彼女は顔を赤くしながら角を伸ばす弟の顔を見て楽しんでいるようだった。

 

 ラウラの胸は間違いなくでかい方だろう。母親であるエリスさんと同じくスタイルはかなりいい方だ。もしこんなに幼い性格でなければ、大人びたレディーになっていたに違いない。

 

 訓練の時も、ラウラが走ったりナイフを振ったりする度に揺れてたからちらちらと見てしまったんだよね。だからランニングの訓練の後は、よく頭の角が伸びていた。

 

「ねえ、タクヤは巨乳と貧乳ならどっちが好きなの?」

 

「い、いいからやめてって。レポート書けないだろ………?」

 

「ふにゅ………大きいおっぱいは嫌いなの? 分かった…………小さいほうが好きなのね?」

 

 先ほどまで楽しそうに笑っていたラウラは、そう言われてから静かにおっぱいを離してくれた。これでレポートが書けるんだが、再びレポートを書こうとして原稿用紙を見下ろすよりも先に、俺の後ろに数歩下がりながら虚ろな目になったラウラがいきなりボウイナイフを鞘の中から引き抜いたのが見えて、俺はぎょっとしながら再び後ろを振り返った。

 

 な、何をするつもりだ? まさか、俺を殺すつもりか………!?

 

 慌てて椅子から立ち上がり、腰のホルスターに収めておいたアパッチ・リボルバーのグリップを掴む。もしかしたら彼女を甘えさせてあげなかったから機嫌を悪くさせてしまったのかもしれないと思っていたんだが、彼女がナイフの切っ先を向けたのは俺ではなく、自分の方だった。

 

「お、おい、何やってんだよ?」

 

「タクヤは小さいおっぱいの女の子が好きなんでしょ? だ、だから………が、頑張ってタクヤの好みの女の子になるから………ッ」

 

 ちょっと待て。ラウラの奴、まさか自分の胸をナイフで切り落すつもりか!?

 

「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 勿体ないだろうがぁぁぁぁぁぁぁ! 俺は貧乳よりも巨乳が好きなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!

 

 大慌てで彼女と距離を詰め、ラウラの手から漆黒のボウイナイフを奪い取る。彼女は俺と同じく身体能力の高いキメラだが、接近戦が苦手な彼女から得物を奪い取るのは容易い。訓練の時も、何度も彼女からナイフを奪い取って打ち負かしている。

 

「か、返してよぉっ!」

 

「ラウラ、落ち着け。俺は巨乳の方が好きなんだよ」

 

「………ほ、ほんとう?」

 

「ああ。だから切り落しちゃダメだよ。お姉ちゃんが痛がってる姿は見たくないし、勿体ないよ。こんなに大きいんだから」

 

「ふにゅう…………」

 

 やっと安心したのか、いつもの目つきに戻ってから何も言わずに抱き付いてくるラウラ。彼女の甘い香りに包み込まれながら、俺も片手で彼女を抱き締めながら頭を撫でる。

 

 すると、俺に抱き締められているラウラが、まるで楽しそうに遊ぶ犬のように真っ赤な尻尾を左右に振り始めた。これは幼少期からの彼女の癖だ。安心したり嬉しがると、ラウラはいつもこうやって尻尾を振っている。無意識に動いてしまうらしいんだが、尻尾を振りながら喜ぶ彼女は本当に可愛らしい。

 

「えへへっ。タクヤの匂いも私と同じ匂いだねっ」

 

「そうだな。匂いまでおそろいだ」

 

「ふにゅー……………」

 

 ふわふわする赤毛を押し付けながら頬ずりを開始するラウラ。今はレポートを書くよりも、俺もお姉ちゃんに甘えてしまおう。レポートは彼女を寝かしつけた後でも書くことは出来る筈だ。

 

 もっとラウラの頭を撫でようと思って手を伸ばしたら、彼女の頭の角も伸び始めていた。先端部の色以外は俺と同じく真っ黒で、先端部はまるで炎のように真っ赤になっている。俺と真逆だ。でも、彼女が操る属性はエリスさんの遺伝のせいで氷属性となっている。

 

 静かに彼女の角に触れてみる。キメラの特徴でもあるこの角は頭蓋骨の一部が変異して頭から突き出たものらしいんだが、かなり硬いためへし折られることはありえないだろう。親父が言っていたんだが、ライフルの弾丸を叩き込まれても傷はつかなかったらしい。

 

 まるでナイフの刀身に触れているような感触がする。でも身体の一部だからなのか暖かい。姉の角を優しく撫でていると、揺れていたラウラの尻尾がぴくりと動いた。

 

「つ、角………伸びてた………?」

 

「ああ。結構伸びてるぜ」

 

「……は、恥ずかしい…………」

 

 珍しいな。いつも俺に甘えてくるラウラが恥ずかしがってる。

 

 レポートを書いてる最中に甘えてきたお返しだ。もっと角を撫でてやろう。

 

「ふにゅ………っ」

 

 更に伸びていくラウラの角。俺の胸に顔を押し付けているラウラは、角を撫でている俺を恥ずかしそうな顔で見上げてきては、すぐに顔を真っ赤にして可愛らしい声を出しながら顔を隠してしまう。

 

 顔を赤くしてしまった俺は、角で指を切らないように気を付けながら彼女の角を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 右手からドライヤーのように熱風を出し、風呂から上がったばかりのラウラの髪を乾かしていく。前まではこの世界にドライヤーは存在しなかったんだが、最近ではモリガン・カンパニーでフィオナちゃんが魔力で動くタイプのドライヤーを発明したらしく、王都や大都市の家庭などで普及し始めているらしい。だがさすがにこんな小さな村では購入する資金が無いようだ。

 

 ちなみにドライヤーが発明される前は、炎属性の魔術でこんな感じに熱風を出して乾かすか、タオルで拭くだけで済ませる人が多かったという。魔術が使えない人は髪を濡らしたままベッドで眠っていたというわけか。

 

 洗面所で髪を乾かしてもらいながら歯磨きをするラウラ。その後ろで彼女の髪を乾かしている俺は、いつものポニーテールではなく髪を下ろしているため、濡れた蒼い髪が両肩を覆っている。

 

 2人とも母親に似ている上にその母親たちが姉妹だったせいなのか、洗面所の鏡の前に立つ俺とラウラは腹違いの姉弟ではなく、まるで双子のようだ。顔つきもそっくりだし、身長も少しだけ俺の方が高いくらいだ。それ以外の違いは髪の色くらいだろう。

 

 鏡の前に立つ度に思うんだが、俺は本当に男に見えない。前世の自分は部活で格闘技をやっていた経験があったせいでがっちりしていたんだが、今の俺は本当に女になってしまったかのようだ。姉弟ではなく姉妹にしか見えない。

 

 甘えん坊の姉としっかり者の妹か。

 

「ほら、乾いたよ」

 

「ありがとっ! タクヤはどうするの?」

 

「俺は自分で乾かすよ。ラウラは熱風出せないだろ?」

 

 彼女は氷を操る強力な能力を持っているが、体内にある膨大な量の氷属性の魔力が属性への変換を阻害してしまうせいなのか、氷属性以外の魔術が一切使えないんだ。

 

 魔術を発動するには、魔力を詠唱や魔法陣によって別の属性へと変換する必要がある。彼女の場合はその変換するべき魔力が既に氷属性に変換されてしまっているため、上書きしなければならない。でも変換されている魔力の量が多過ぎるため、魔術に使う分の魔力を上書きして変換しても、すぐに他の魔力によって上書きされてしまう。プールの中に火をつけたマッチ棒を放り込むのと同じだ。

 

 俺の体内にも、雷属性と炎属性に変換された魔力があるため、この2つの属性以外の魔術は使う事ができない。常人のように汎用性はないが、何かの属性に特化している。これがキメラの体質という事なんだろうか。

 

 手のひらから熱風を出し、鏡を見ながら髪を乾かしていく。歯を磨き終えたラウラが暇そうにこっちを見ていたので、俺は髪を乾かしている間に尻尾でラウラと遊ぶことにした。

 

「ふにゃ?」

 

 能力を使って着替えたパジャマの後ろから、静かに俺の蒼い尻尾を伸ばす。紅い鱗に覆われているラウラの尻尾と違って、俺の尻尾は堅牢な蒼い外殻にしっかりと覆われているため非常に硬い。しかも先端部はダガーのように鋭くなっているから武器としても使えるし、更に強力な攻撃にも使う事ができるようになっている。

 

 俺とラウラで尻尾の特徴が異なるのは、体内にあるサラマンダーの特徴が反映されているからだという。サラマンダーは炎を操る非常に獰猛なドラゴンの一種で、主に火山に生息している。今まで数多の冒険者を焼き殺してきた恐ろしい怪物だが、様々な冒険者や傭兵に知られているのは雄のサラマンダーだ。非常に硬い外殻に全身を覆われていて、頭からはダガーのような鋭い角が生えている。しかも炎を変幻自在に操るという強敵だ。

 

 雄は戦闘力が非常に高いんだが、雌は逆に非常に戦闘力が低い。基本的に雌はずっと巣にこもったまま卵を見張ったり、生まれてきた子供たちを温め続けるのが役目だ。縄張りに近付いてくる外敵を仕留めるのは全て雄の役目となっている。だから耐熱性が非常に高い外殻は退化し、子供たちを温めやすい身体に進化しているんだ。

 

 ちなみに子供たちが成長して巣立ってからも、雄は雌が老衰で死ぬまでひたすら守り続けるという。まるで俺たちの親父みたいだな。

 

 戦闘力の高い雄の特徴が反映された尻尾を持ち上げ、ラウラの頭の上でぴくぴくと揺らし始める。するとラウラはその尻尾を見上げ、目を細め始めた。

 

「ふにゅ………ふにゃっ」

 

「おっと」

 

 まるで猫じゃらしを見た猫のように、俺の尻尾を捕まえようと手を伸ばすラウラ。だが彼女よりも反応速度が速い俺は、尻尾を掴まれる前に動かして彼女の手を回避し、鏡の向こうで尻尾を追いかけ回す姉を見ながらニヤニヤする。

 

 可愛いなぁ………。

 

 自分の尻尾も使って俺の尻尾を捕まえようとしているみたいだけど、ラウラの尻尾よりも俺の尻尾の方が長い。ラウラは必死に尻尾を伸ばしているんだけど、俺の尻尾までは届いていなかった。

 

 その隙に後ろ髪を乾かし終え、側面を乾かしてから前髪を乾かし始める。

 

「ふにゃっ! あれ? ―――にゃあっ! …………ふにゅう」

 

「あははははっ。残念でしたっ」

 

 残念だったね。俺はもう髪を乾かし終えたよ。

 

 尻尾をまたパジャマの中に戻そうと思ったんだけど、ラウラが寂しそうな目でこっちを見てきたので、しばらく尻尾を出しておくことにした。

 

 早速俺の尻尾に触れたラウラは、尻尾を握ったまま洗面所の外までついてきた。そのままあくびをしてから部屋の窓際に用意されている1人用のベッドに腰を下ろすと、尻尾を引っ張って俺まで強引にベッドに座らせる。

 

「おっと………」

 

「えへへっ。…………タクヤってさ、優しいよね」

 

「そうか?」

 

「うん。いつもお姉ちゃんと一緒にいてくれるし…………」

 

「当たり前だろ? 大切なお姉ちゃんなんだから」

 

 彼女は俺の大切な家族だ。もう誘拐された時みたいに傷つけさせるわけにはいかない。

 

 虐げられるのは当然ながら理不尽で、辛い事だ。俺は前世でそれを長いこと経験している。弱い奴は力を振りかざす奴の暴力に耐え続けなければならないんだ。

 

「………やっぱり、タクヤは優しいよ」

 

「ありがと」

 

「ふふっ。…………タクヤ」

 

「ん?」

 

「大好きだよ」

 

「俺もだよ、お姉ちゃん(ラウラ)

 

「えへへっ、両想いだね」

 

 腕を伸ばし、隣に座る姉を抱き締める。風呂から上がったばかりだから、いつもよりも甘い香りがする。石鹸のような匂いと花の匂いが混じり合ったラウラの匂いだ。

 

 抱き締められたラウラの顔が赤くなっていく。いつもなら頬ずりを始めるラウラは、今日は頬ずりをせずに顔を赤くしているだけだ。背中に手を回しながらそっと顔を離したラウラは俺の顔を近くで見つめると、少しだけ微笑んでから唇を近づけてくる。

 

 彼女が何をしようとしているのか理解した俺はどきりとしたけど、いつも甘えられているせいでシスコンになってしまったせいなのか、俺も唇を近づけていた。

 

 そして、互いに唇を奪い合う。

 

 ヤンデレになった姉のせいで彼女を作っていなかった俺は、この異世界でもまだキスをしたことがない。同じくヤンデレになってしまったラウラもキスをしたことはない筈だ。

 

 つまり、2人ともファーストキスだった。

 

 

 

 

 

 

 


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