異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
ラウラが戻ってきてくれたのは、本当に喜ばしいことだ。今まで彼女がいなかったからかなり寂しかったし、それに戦力的にも彼女の復帰のおかげで、後方支援は問題にならないと思えるほどだ。
スコープを装着せずに2km先の標的を正確に撃ち抜いたり、ボルトアクション式の銃を愛用しているというのにセミオートマチック式に匹敵する連射速度で、しかも高い命中精度を維持したままの狙撃を当たり前のように披露する彼女の狙撃は、これから最前線へと向かう兵士たちを守ってくれるに違いない。
それに、個人的な理由だが……………これでお姉ちゃんと一緒にいられる。
こっちに戻ってきてから、お姉ちゃんは余計俺に甘えるようになった。ただ廊下を歩いている時も俺の片腕にくっついているのが当たり前だし、食事の時やシャワーを浴びる時も一緒にいるのが当たり前。眠るときは1人用のベッドの上で2人でイチャイチャしながら眠るようになっている。
けれども、ちょっとだけ困っていることがある。
「………………」
夜中の3時くらいだろうか。枕元に置いてある目覚まし時計で時刻を確認した俺は、静かにベッドから起き上がろうとした。ベッドの右隣には相変わらずイリナの棺桶――――――吸血鬼のベッドだ――――――が鎮座しており、目を覚ましたばかりの俺をぞっとさせてくれる。
文化の違いなのかもしれないけど、もう少し棺とは思えないようなデザインにしてもらいたいものだ。
そう思いながらベッドから脱出しようとしたその時、俺の左腕にくっついたまま眠っていたラウラが、瞼を擦りながら起き上がった。どうやら俺が動いたせいで起こしてしまったらしい。
「ふにゅ……………どうしたの?」
「ああ、ちょっとトイレ行ってくる」
「え……………? や、やだ……………やだよぉ……………!」
「えっ?」
眠そうな表情をしていた彼女は一気に目を覚ましたのか、涙目になりながら俺の左手を思い切り引っ張ると、立ち上がりかけていた俺を再びベッドの上へと無理矢理引きずり戻し、尻尾を体に巻き付けながら上にのしかかってきた!
「ら、ラウラ?」
「やだぁ…………もう離れ離れになるのはやだぁ……………っ!」
「わ、分かった。トイレは我慢するから」
「ふにゅ……………えへへっ、これで一緒だね♪」
彼女が懲罰部隊から戻ってきてから、俺と離れることをやたらと嫌がるようになってしまったのである。戦闘中に別れる時は仕方がないと思って我慢してくれているみたいだけど、こういう日常生活では今しがたのように俺と少しでも離れ離れになるのを怖がるようになってしまった。
しかも襲われる時も、前よりも徹底的に搾り取られるようになってしまった。一応母さんから貰った薬はちゃんと飲んでるけど、それでも子供ができてしまわないか心配になるレベルである。
やっぱり、彼女も1人になるのは辛かったんだろう。だからもう二度と離れることがないように、俺を必死に引き留めているに違いない。
そう思ってしまうと、彼女を無理矢理引き剥がしてトイレに行くわけにもいかない。なので俺はトイレを朝まで我慢することにして、寝息を立て始めたお姉ちゃんを抱きしめた。
前にもステラが俺の上でこうやって寝ていた時があったけど、幼い外見の彼女と比べるとラウラは大人びているから、なんだか違和感を感じてしまう。
「………………」
しかもよく見ると、パジャマのボタンがいくつか外れてるんですけど。
ちょっと、お姉ちゃん?
「ふにゃ……………えへへっ……………。大好き………………」
「……………やれやれ」
思い切り甘えさせてあげよう。
俺は苦笑いしながら、ラウラにのしかかられたままの状態で瞼を閉じた。けれども彼女の大きい胸が乗っているせいなのか、なかなか眠れる気配がなかった。
「おう、団長」
「お疲れさま、バーンズさん」
テンプル騎士団の工房の中を覗いてみると、前よりも作業している職人の人数が増えていたし、工房の広さも変わっているようだった。より広くなり、工具や鍛冶に使う道具も充実した工房の中は大都市にある大きな鍛冶屋と遜色ないほどで、奥の方では中年のドワーフの男性から技術を教わる若い職人たちが、彼の作業を見学しながらメモを取っているところだった。
その奥の方では鉄パイプに予備のライフル用の銃剣を溶接し、無数のホームガード・パイクを作っている職人の姿も見える。そしてそれを嬉しそうな表情で購入していく兵士たち。中にはパイプレンチや釘バットを購入していく奴らもいるんだけど、本当にそれを実戦で使うつもりなんだろうか。
工房の光景を見つめながら苦笑いした俺は、出迎えてくれたバーンズさんの後について行った。もちろん俺の左手を当たり前のようにぎゅっと握っているのは、数日前にこっちに戻ってきたばかりのお姉ちゃんである。
バーンズさんは棚の上に置いてあった木製の箱を取り出すと、それを作業台の上に置いた。特に装飾もついていないような何の変哲もない木製の箱で、短剣を何本か入れられそうな大きさである。
「開けてみてくれ」
「ああ」
言われた通りに、木箱の蓋を開けてみる。
てっきり短剣とかナイフが入っているんだろうと思っていたんだが、木箱の中で俺とラウラを待ち構えていたのは予想外の代物だった。
「こ、これって……………!」
「え………………!?」
「ガッハッハッハッハッ。自信作だぜ」
木箱の中に入っていたのは――――――――なんと、銃だった。
銃とはいえ、俺たちが使っているような最新型のハンドガンではない。大昔に発明されたフリントロック式のような旧式の拳銃を彷彿とさせる、古めかしいデザインの銃だった。まるでラッパを思わせる形状の漆黒の銃身と、その武骨な銃身を包み込む木製のグリップ。左脇には、フリントロック式の銃ならば火薬を入れておく『火皿』と呼ばれる部品らしきものも見受けられる。
この世界には銃が存在せず、代わりにコンパウンドボウやクロスボウが遠距離武器の主役として活躍しているような状態だ。近年では、モリガン・カンパニーが高圧の蒸気で小型の矢を撃ち出す『スチーム・ライフル』という遠距離武器を各国に売り込んでいるらしく、先進国の騎士団では爆発的な速度で正式採用が進んでいるというが、どうやらこの得物はそのスチーム・ライフルとは異なるらしい。
スチーム・ライフルは、矢を撃ち出すライフル本体に加え、射手は背中に高圧の蒸気が充填された大型のタンクを背負い、それから伸びるケーブルをライフルに接続する必要がある。だからライフルだけでは何の意味もなさず、射手は必然的に重装備になってしまうのだという。
もしかするとタンクは別に用意してあるのかもしれない。そう思いながら箱の中のピストルをまじまじと見つめていると、バーンズさんが「見てみろ、お嬢ちゃん」と言いながら笑った。
お言葉に甘えて拾い上げ、細部を見てみる。アイアンサイトのような照準器は見当たらないことに違和感を感じたけれど、少しばかり重いことを除けば銃とあまり変わらない。
「お前らが使ってる銃とかいう武器を見て思ったんだ。異世界の武器を、こっちの世界の技術で再現できないかってな」
「それで、これはどういう武器なんです?」
「ああ、ちょっと射撃訓練場までついてきてくれや」
バーンズさんに言われた通りに、俺はそのピストルらしき得物を手にしたまま、彼と共に工房を後にした。
近距離用の武器を購入しに来た兵士たちに品物を渡す若いドワーフに手を振りながら、射撃訓練場へと向かう。もし仮にこれが異世界の技術で再現された銃ならば、すぐに戦力にすることができるだろう。もうテストはしたのだろうか。
射撃訓練場に到着すると、レーンの近くに立ったバーンズさんが小さな石ころのようなものがいくつも入った袋をポケットから取り出した。それを俺に手渡しながら説明を開始する。
「こいつは魔力を使って弾丸をぶっ放す代物だ」
「魔力を?」
「ああ。まず、魔力を銃口から流し込むんだ。できるだけ加圧した方が望ましい」
「はいよ」
言われた通りに銃口の中へと片手を向け、そのまま魔力を流し込んでいく。さすがにフィオナ機関のように魔力を加圧できるわけではないんだけど、普通の人間でもある程度ならば魔力を加圧した状態で放出することが可能だ。その加圧済みの魔力を使って魔術を発動すると、暴発の可能性が大きくなる代わりに弾速が上がるという利点がある。
「次はこの弾薬を銃口から詰めるんだ」
「これは石なんですか?」
「いや、余った金属で作った金属製の弾丸さ。その気になれば、その辺の石とか釘も弾薬にできる」
「作動不良は?」
「ガッハッハッハッ。お嬢ちゃん、ドワーフの技術を舐めるなよ? そいつは泥まみれの小石を弾薬にして100回以上も試し撃ちをしたが、1回も作動不良はねえよ」
100回以上も泥まみれの弾薬を使って、作動不良がない!?
どうやら信頼性は非常に高いようだ。それに小石のような小さいものを弾薬としてぶっ放せるなら、いざという時に近くにあるものを弾薬として〝調達”できるという大きな利点がある。
「後は火皿の中にも魔力を注入して、撃鉄を起こせば発射準備は終わりだ」
フリントロック式に似ているようだ。
言われた通りの発射準備を終えた俺は、バーンズさんが離れるのを確認してからトリガーを引いた。
普通の銃とは異なり、まるで鉄筋を思い切り叩いたような甲高い金属音が轟いた。マズルフラッシュは出なかったけれど、その代わりに銃口から放出された魔力の残滓が、まるで黒色火薬が生み出した白い煙のように目の前に広がる。
その煙の向こうでは、装填された無数の小さい弾丸たちが、目の前に置かれた的を蹂躙しているところだった。ラッパを思わせる形状の銃口から解き放たれた弾丸たちに食い破られた的が容易くズタズタになり、首から上が千切れ飛ぶ。
「おお………!」
すげえ………! 装填には手間がかかるけど、威力は申し分ないぞ、これ!
「ふにゃあ……………!」
「どうだ?」
「すごいですよ、バーンズさん! これ、すぐ量産できます!?」
「もちろんだ。ただ、その代わり命中精度は最悪だぜ。20m先の標的にぶっ放して命中するかどうかっていう程度だからな。やるんだったら、できるだけ弾薬をたっぷり詰めて拡散させるのが望ましいぜ」
「分かりました。では、これの量産をお願いします」
「おう!」
命中精度の低さは問題かもしれないけど、この武器は非常用の武器として有効活用できる。いろんなところから弾薬を調達できるから、場所にもよるけど弾切れを起こす可能性が低いという利点があるし、何よりも信頼性が高いからな。
試作型の銃をバーンズさんに返した俺は、早速その銃の量産を許可する書類を作成するため、ラウラを連れて部屋へと戻っていくのだった。
スコップで石炭を拾い上げ、すぐ後ろにある窯の中に放り込む。そして圧力計や温度計を確認し、温度が低くなり過ぎないようにちゃんと調節する。もちろん圧力が低くなれば機械に伝達されるパワーが低くなるから、こちらも注意しなければならない。
それが俺に与えられた仕事だった。薄汚れた服に身を包み、ハンカチで汗を拭き取りながら、後ろにある窯に石炭を食わせてやる仕事を一週間ほど続けたからなのか、少しずつ慣れ始めてきた。
ハンカチで汗を拭き取り、それをポケットの中に突っ込んでから再び圧力計を確認する。今のところは圧力は安定しているようだ。これで班長から怒鳴られないで済む。
「ケータ、サボるなよ?」
「おいおい、ウィル。サボるのはお前の方だろうが」
圧力計から目を離しつつ、俺が窯に放り込む石炭を近くにある石炭置き場へと運んでいくエルフの同僚にそう言った。俺と同じく薄汚れた服に身を包むウィルは苦笑いしながら石炭の入ったでっかいバケツを両手で持ち、石炭置き場に向かってぶちまけてから再び戻っていく。
ヴリシア侵攻の下準備のため、吸血鬼の情報収集の任務を始めてからもう一週間が経過している。吸血鬼による被害が急増した南の区画にある工場に、田舎から出稼ぎにやってきた若者を装って入り込んだ俺は、こうしてちゃんと労働者の1人としてこの工場に紛れ込んでいた。
他の仲間たちも同じだ。ノエルちゃんは新聞配達のバイトをしながら情報収集をしているようだし、クランは近所の喫茶店で働いている。どうやら彼女は早くも喫茶店の看板娘になっているらしい。
やっぱり、こういう場所に潜伏するのに労働者を選んだのは正解だったようだ。冒険者だと奇抜な恰好をしていても目立たないけれど、労働者の方がより目立たないし、同じ場所で働く同僚からも情報を聞き出しやすい。
現時点では吸血鬼についての直接的な情報は何も得られていないが、先ほど話していた同僚のウィルから、この工場を取り仕切っている工場長の変な噂をよく教えてもらっている。
どうやら工場長は、最近仕事が終わってから1人でどこかへと向かっているというのだ。そしてその次の日に、必ず吸血鬼に血を吸われて殺される犠牲者が出ているという。
吸血鬼の被害が出た日付を確認し、更にウィルが教えてくれた工場長が姿を消した日を照らし合わせてみたが、どうやら工場長は本当に犠牲者が出る前日に姿を消しているようだ。
何度か尾行してみようと思ったが、いきなり仕事中に職場から姿を消したら怪しまれる。だからと言って俺の休日に確実に動いてくれるわけではない。現場でこうやって見張りつつ、何とかチャンスを見つけて尾行するしかない。
いっそのこと、仮病でも使ってみるかな。
そんな計画を考えながら、俺は再び窯の中へと石炭を放り込むのだった。
おまけ
これが騎士団なのだろうか
エミリア「ふむ、タクヤの奴も組織を作って大型化に勤しんでいるようだな。それにしても……………テンプル〝騎士団”か」
エリス「あら、懐かしいわね」
エミリア「ああ。今はもうやめてしまったとはいえ、昔は騎士だったからな。やはり剣と防具を身に着けた騎士たちが、騎士道精神を重んじながら鍛錬を―――――――」
テンプル騎士団兵士1「鉄パイプ持ってこい!」
テンプル騎士団兵士2「クソ野郎は粛清だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
テンプル騎士団兵士3「あぁ……………釘バットって、たまんねぇ……………!」
エミリア「!?」
完