異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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海上戦力を決めるとこうなる

 

 

 テンプル騎士団の規模は、段々と大きくなりつつある。

 

 偵察部隊の活躍によって移送されている奴隷たちを次々に救出しているうちに、いつの間にかこのタンプル搭は、人々に虐げられていた奴隷たちにとっての、ちょっとした楽園のようになっている。居住区を歩いていれば奴隷だった痩せ細った人たちが俺たちの仲間に笑顔で迎えられ、ちゃんとした食事をしている姿を見ることができる。廊下では小さい子供たちが大笑いしながら走り回り、工房ではドワーフの職人に弟子入りした様々な種族の人たちが汗を流しながら仕事をしている。

 

 もちろん、その分彼らに支払う給料も増えた。でもそれは増加した志願兵たちに冒険者の資格を取らせ、訓練を兼ねてダンジョンの調査をさせることによって、何とか対処している。現時点では志願兵を含めると、タンプル搭にいる兵士の人数は483名。兵士たちの家族や非戦闘員を含めれば、人数はその倍以上となる。

 

 いくら優秀なドワーフの職人たちが、施設の拡張と並行して居住区を拡張しているとはいえ、さすがにこのままタンプル搭の設備を拡張して対応するのには限界がある。ここは地上に設備を作るわけにはいかないため、拡張するとすれば地下に新しく作らなければならないわけだけど、いたずらに穴を掘り続けていれば地盤の強度にも影響が出るし、内部の構造が複雑になってしまうという欠点がある。

 

 自分たちにとっては故郷ともいえる拠点で迷子になったら洒落にならない。だからと言って奴隷たちや虐げられている人々の受け入れをやめれば、テンプル騎士団の目的に反することになる。俺たちの目的は虐げられている人々の救済。どのような事情があっても、「見て見ぬふり」だけは絶対に許されない。

 

「はぁ……………」

 

 集計係から送られてきた書類を見つめながら、俺はため息をついていた。偵察部隊がまた移送中の奴隷を救出し、更にその取引先の貴族の元から一気に80人も奴隷を救出してきたという。先陣を切ったのは例の鉄パイプ野郎で、最終的に救出した奴隷の人数は120人。その中から兵士に志願してくれた志願兵の人数は半分以上の70人だ。

 

 またシルヴィアたちに畑の拡張をお願いしなければならないし、彼らの分の制服も用意しなければならない。そして彼らに使わせる武器も用意し、更に冒険者の資格も取らせたうえで基礎体力を上げるための訓練や射撃訓練も行わせる必要があるし、ダンジョンの中でも食料を調達できるようにサバイバルの訓練もやらせる必要がある。

 

 同志が増えてくれるのは喜ばしいことだけど、やはり彼らの育成には手間がかかるし、居住区の拡張には限度がある。

 

「どうしよう」

 

「ふにゅー……………仲間がいっぱいいるのはいいんだけどね」

 

 俺の後ろから抱き着きながら書類を見下ろすラウラの頬を撫でながら、俺は再びため息をついた。

 

「いっそのこと、タンプル搭の近くに前哨基地みたいな小規模な拠点を作ったら?」

 

 部屋に遊びに来ていたナタリアが、テーブルの上に置かれている車輪のような形をした大きめのパンを興味深そうに見つめながらそう言った。

 

 前哨基地か……………。確かに、敵がタンプル搭へと進行してきた際にいきなりここで防衛戦を展開するのではなく、周囲にある前哨基地と連携して防衛ラインを形成した方が戦術的にも優位に立てる。それにそちらにも居住区を作って兵士たちを駐留させれば、本格的な前哨基地として機能するだろう。

 

 そこにレーダーサイトを設置すれば、タンプル搭や他の拠点との連携も取りやすくなる。特にレーダーを設置することによる索敵能力の強化は、タンプル搭の要塞砲をより運用しやすくなるから魅力的だ。

 

 でも、もちろん問題もある。

 

 まず、前哨基地を作るために人材を分散させることになるという点だ。防衛のために兵士たちを展開させておいても、もし仮に大量の魔物や転生者からの襲撃を受ければひとたまりもないし、前哨基地へと送られることになった兵士や非戦闘員が、「安全なタンプル搭から放り出された」と勘違いして反発しないかどうか心配である。

 

 それに、前哨基地を建設できそうな場所も考えなければならない。あまり近過ぎれば意味はないし、遠過ぎれば連携が取りにくくなる。

 

「でも、問題は多いぞ。そこに派遣される仲間たちが反発しないか心配だし、それに前哨基地を建設できる場所はあるのか?」

 

 するとナタリアは、先ほどまで興味深そうに見つめていた車輪のような形状のパンを皿の上に置くと、こっちを見ながらニヤリと笑った。どうやら彼女は、俺がこういう質問をすることをもう想定していたらしい。

 

「安心して。偵察部隊に命令して、前哨基地が建設できそうな場所を確認してもらっているから」

 

「さすがだな」

 

 もう既に人数が増える事と、前哨基地のような小規模な拠点を作る必要性を考慮して、ナタリアはもう既に手を打っていたのだろう。

 

 彼女はテーブルの上にある地図を拾い上げると、鉛筆をポケットの中から取り出し、地図にいくつか印をつけ始めた。1つ目はタンプル搭の周囲の岩山の中へと流れている河の上流。2つ目は南方にあるオアシスだ。ここは昔はダンジョンだったらしいが、冒険者たちの活躍で指定が解除されてる場所である。3つ目は西にある洞窟が多い岩山で、4つ目は以前に壊滅させたフランセン共和国騎士団の駐屯地があった場所のようだ。

 

 4つ目の場所は、要塞砲の砲撃で木っ端微塵に吹っ飛んだはずだ。だから再利用できそうな建物は残っていないし、資源も偵察部隊がほとんど回収してしまったから何も残っていない場所である。他の場所ならば、まだ選んだ理由は分かる。河の上流にはちょっとした山岳地帯があり、砂漠の中だというのに草原があるから食物の栽培に向いている。それに河にダムでも作れば、洪水で建設予定の軍港が水没するのを防ぐことができるだろう。オアシスの中は木々がいくつも生えているため設備を隠すにはうってつけだし、岩山ならばタンプル搭の設備と似通ったものが使える筈だ。

 

「駐屯地の跡地は何で選んだんだ?」

 

「ここしかなかったのよ。東西南北に隙ができないように前哨基地を建設するには、妥協せざるを得なかったの」

 

「ふむ……………」

 

 他の場所ならば地形を利用できるけど、さすがにこの駐屯地の跡地はそうはいかない。周囲には何もない砂漠が広がっているだけだし、場合によっては魔物に襲撃される可能性もある。それにオアシスや洞窟のように設備を隠すことも期待できない。

 

 ここは防壁で周囲を囲んで、ちょっとした城郭都市みたいな感じにするべきだろうか。地形を利用できない以上、小細工はせずにがっちりとした要塞にした方が安全性が高いだろう。

 

「ふにゅう…………それで、前哨基地まではどうやって行き来するの? やっぱりヘリ?」

 

「うーん…………大量に物資を輸送する場合は陸路が望ましいな」

 

 大型のトラックとか、列車ならば物資を大量に輸送できるだろう。列車はレールを敷く手間がかかってしまうけど、もしそれの用意ができれば、重厚な装甲と強烈な武装をいくつも搭載した『装甲列車』も運用できるようになる。

 

 武装した装甲列車は強力な兵器として活躍したんだけど、近年では戦車が発達して陸上戦力の主役となったことや、列車である以上はレールがなければまともに運用できないという欠点があるため、最近ではあまり運用されていない。

 

 けれどもその火力は魔物が生息する砂漠を進軍する際には頼りになるのは確実だ。これの運用も検討しておかないとな。レールの用意はやっぱりドワーフの職人たちに頼むことになりそうだけど、それは居住区の拡張を一旦停止してもらえば何とかなる筈だ。

 

「ひとまず、前哨基地については他の仲間と話してみるよ」

 

「ええ、お願い」

 

 この件は、他の仲間にもちゃんと話しておかなければならない。タンプル搭から放り出されたと案違いされて反乱が起きたら洒落にならないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるでそこは、地底湖のような場所だった。

 

 重厚な岩盤で囲まれた空間に溜まった綺麗な水が、作業用の照明の光を反射して頭上の真っ黒な岩の天井を照らし出している。傍から見れば本当に地底湖のように見えてしまう場所だけれど、よく見ると美しい水面は常に波打っていて、水底へと伸びるポンプの配管に寸断されてから、俺から見て右側へと流れている。

 

 そう、ここには〝流れ”がある。

 

 ここは地底湖などではない。まるで巨大な湖をいくつも横に並べてそのままつなげてしまったようにも見えるこれは、カルガニスタンの砂漠を流れる河の一部に過ぎないのだ。その河がタンプル搭を取り囲む岩山の中を流れていて、しかも大型の軍艦を停泊させたり、潜水艦を潜航させたまま航行させられるほどの面積と水深があるため、俺はドワーフの職人たちに依頼してここを拡張し、軍港として利用できるように改造してもらっていた。

 

 上流へ進むのは軍艦では無理だけど、下流へとそのまま進めばヴリシア帝国へと続く『ウィルバー海峡』へと行きつく。帰還する場合は再び河を上ってここまで戻ればいい。

 

 頭上は分厚い岩盤に守られており、軍港の出入り口は巨大な洞窟のようになっているため、軍艦を隠すにはうってつけだ。しかも頭上の岩盤が敵の攻撃から虎の子の艦隊を守ってくれる。貫通力に優れるバンカーバスターや核爆弾でも落とされない限り、この軍港はびくともしないだろう。

 

 今はまだ停泊している船はなく、タンプル搭のあらゆる場所へと水を供給するポンプの配管が水の中へと伸びているだけだ。

 

 これから俺たちが進撃することになるヴリシア帝国は島国である。だからそこまで行くには航空機や船を使わなければならないわけだからここからすぐにウィルバー海峡に駆逐艦や巡洋艦を展開できるのは非常に大きな利点といえる。

 

 ただし、海上戦力を揃えるには大きな問題もある。

 

 まず、乗組員の問題だ。人数が増えてきたとはいえ、艦隊を戦力にするならば今のテンプル騎士団のメンバーを全員乗組員にしたとしても全然足りない。まあ、これは駆逐艦や空母を生産した際にあらゆる箇所を自動化して乗組員を削減すれば解消できる問題なんだが、今度はその改造に使うポイントや、駆逐艦を生産するのに使う大量のポイントが問題になる。

 

 戦闘ヘリならば4300ポイントくらいで生産できるし、戦車なら5000ポイント前後で生産できる。しかし駆逐艦や空母のような大型の兵器は10000ポイントを超えるのは当たり前で、更に自動化や近代化改修などに使うポイントも考慮すると、下手をすれば俺が今まで貯めたポイントを全て使い果たしてしまいかねないほどのポイントを使うのだ。

 

 なので、艦隊といってもおそらく規模は小さくなるだろう。駆逐艦が数隻と巡洋艦が1隻か2隻くらいの規模になりそうだ。

 

 ポイントを節約する方法は、魔物や敵からのドロップに頼る方法がある。けれどもこの方法は非常に不確定で、欲しい武器や兵器がなかなかドロップしないことがある。幸い武器を生産できる画面で、その武器がどんな敵からドロップするのかという情報は記載されているんだけど、確実にドロップするわけではないので、運がよくない限りこの方法を活用して戦力を整えるのは難しい。

 

 うーん、どうしよう。レベル上げでもしながらドロップを狙うべきだろうか。

 

 島国への侵攻作戦をするならば、やはり海上戦力は必須だ。航空機よりも火力があるし、持久力もこちらの方がはるかに上だ。それに空母を運用することができれば敵の拠点への航空攻撃を行うこともできるんだが、空母を生産するのに必要なポイントは50000を超えるのが当たり前なので、今の俺がそんな代物を作っちゃったら空母1隻以外は何も作れなくなってしまうかもしれない。

 

 ちなみにモリガン・カンパニーと李風さんが率いる殲虎公司(ジェンフーコンスー)も海上戦力を数多く保有しているんだけど、俺たちが乗組員とポイント不足で苦しんでいるのに対し、親父たちは『軍艦が多すぎるせいで、停泊させられる軍港が少ない』というのが悩みらしい。

 

 ねえ、何それ。俺たちにも駆逐艦を分けてほしいんですけど。

 

 親父たちの戦法は、その圧倒的な物量を生かした『飽和攻撃』と呼ばれる戦法である。

 

 飽和攻撃とは、無数の味方と共に、敵に向かってひたすら大量の攻撃を叩き込み続ける戦法のことだ。圧倒的な物量を持つモリガン・カンパニーと殲虎公司(ジェンフーコンスー)の連合軍だからこそできる戦法で、それらの大量の駆逐艦から矢継ぎ早にぶっ放される無数の対艦ミサイルを全て迎撃するのは不可能と言われている。

 

 きっと今度の作戦でも、親父はその飽和攻撃をフル活用するだろう。しかも親父たちの艦隊は物量だけでなく、〝質”まで兼ね備えている。

 

 それに対して俺たちは、そんな飽和攻撃を実行できるほどの物量がない。だからこそ軍拡を急ぎつつ、経験を積んでいかなければならないのだ。

 

 とはいえ、海軍を編成したとしても肝心な経験が浅いから、ヴリシア侵攻作戦では十中八九足を引っ張ることになってしまうだろう。今のうちにトレーニングモードで駆逐艦や巡洋艦の運用方法や操艦の方法を訓練しておいた方がいいかもしれない。

 

 とりあえず、海上戦力は何にしようかな。やっぱりロシアの船にしようかな?

 

 そう思いながらメニュー画面を開き、生産のメニューの中から兵器を選択し、更に姿を現したメニューの中から『海上戦力』をタッチする。親父たちのような転生者は端末を使うけど、俺はこのように立体映像みたいに目の前に投影される方式が気に入ってるんだよね。なんだかSFみたいだ。

 

 というわけでまずは駆逐艦から決めよう。真っ先に第二次世界大戦で使われていた旧式の駆逐艦がずらりと並んだけれど、対艦ミサイルによる飽和攻撃が前提の海戦に旧式の駆逐艦で突っ込めば、攻撃どころか迎撃すらできないまま撃沈されるのが関の山なのでこれらはダメだ。せめて対艦ミサイルを搭載した駆逐艦で、できる限り最新型の物が理想的だ。

 

「うわ、こんなに使うのかよ……………」

 

 アメリカ軍で採用されている『アーレイ・バーク級』という駆逐艦に使うポイントを目にした瞬間、俺は我が目を疑った。高性能なレーダーや、『イージスシステム』と呼ばれるシステムを搭載した恩恵でほぼ確実にミサイルや戦闘機を迎撃できるほどの性能を持つ優秀な駆逐艦なんだけど、生産するのに必要なポイントは28000ポイント。他の駆逐艦ですら12000ポイントで済むのに、これは少し高すぎる。

 

 できるならば駆逐艦は最低でも3隻ほどは運用したので、可能な限りコストが低く、なおかつ性能もそれなりに高いものがベストだ。性能が高すぎる代わりにポイントまで高すぎて、数を揃えることができなければ話にならない。

 

 とりあえず、アーレイ・バーク級は俺のレベルがもう少し上がるまで我慢しよう…………。

 

 あ、そうだ。ロシアの船を探さないと。

 

「おお」

 

 画面を下へと進めていくと、ロシアの駆逐艦が何種類かずらりと並んでいた。アメリカの駆逐艦と比べるとポイントは低めで、その代わり性能も少し低くなっているけれど、そこは数を揃えて補えば問題ないだろう。

 

 というわけで、早速駆逐艦を選び始める。まず最初にタッチしたのは、ソ連で開発された『ソヴレメンヌイ級』と呼ばれる駆逐艦だ。艦橋の両脇に対艦ミサイルを装填した大型のボックス型ミサイルランチャーを搭載しているのが特徴で、更に主砲は130mm連装砲。戦車砲よりもやや大型だけれど、基本的に最近の海戦ではミサイルが主な攻撃となっており、こういった主砲はミサイルや戦闘機の迎撃に使用されることがほとんどだ。

 

 イージスシステムは搭載していないし、さすがにアーレイ・バーク級には劣ってしまうけれど、生産に使うポイントが14100ポイントとなっているので、こちらの方が数を揃えやすそうだ。

 

 ただし攻撃力は優秀だけど、水中の敵に対する攻撃力はかなり低い。なのでこのソヴレメンヌイ級だけで艦隊を編成すれば、水上の敵に対して猛烈な攻撃を叩き込めても、水中から襲い掛かってくる敵には極めて貧弱になるというわけだ。

 

 そこで、対潜攻撃に優れた駆逐艦をもう1隻用意しておくことにする。もちろんこちらもソ連製だ。

 

 俺が選んだのは、『ウダロイ級』と呼ばれるソ連の駆逐艦である。ソヴレメンヌイ級に形状が似ており、こちらも艦橋の両脇に大型のボックス型ミサイルランチャーを搭載しているけれど、ウダロイ級が主砲を艦首と艦尾に1基ずつ搭載しているのに対し、ウダロイ級は艦首側に2基搭載している。

 

 こちらはソヴレメンヌイ級とは逆で、水中の敵に対する攻撃力が高い代わりに、水上の敵に対する攻撃力が極めて貧弱という特徴を持つ。だからこのウダロイ級に対潜攻撃を任せ、水上攻撃をソヴレメンヌイ級に任せるのが理想的だろう。

 

 さて、護衛を担当する駆逐艦はこの2種類にしておこう。主役の巡洋艦も決めたいところだけど……………近代化改修してミサイルを搭載した戦艦を主力にするのも面白いかもしれない。

 

 でも問題点が多いんだよなぁ。コストも高くなっちゃうし。

 

 まあ、レベルを上げてポイントを増やしながら考えておこう。そう思いながら俺は踵を返し、建設途中の軍港を後にするのだった。

 

 


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