異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
男たちを蒸し焼きにでもしようとしているかのように、足元から熱い風が吹き上がってくる。しかしそれとは裏腹に頭上へと強制的に向けられた自分たちの両腕――――――――ラウラに片腕を吹っ飛ばされた男は左腕のみだ―――――――――だけは、まるで冷凍庫の中にでも突っ込まれているかのように冷たい。
男の1人が、恐る恐る足元を見下ろした。足の裏と靴底には床を踏みしめている感か悪がないため、自分たちは宙に吊り下げられているということは分かる。下を見てみると、やはり彼らの足の下には床などなかった。しかしそれ以上に恐ろしい光景が彼らの真下で待ち受けていたことを知った男は顔を青くしながら目を見開き、一瞬で顔中に冷や汗を浮かべる羽目になった。
彼らの眼下で待ち受けているのは、簡単に言うならば巨大な鉄の鍋である。大きな牛どころか巨人さえもそのまま煮込んでしまえそうな巨大な鍋の中では、まるで灼熱のマグマにも似たドロドロの赤い液体が待ち構えており、時折その中から火柱を噴き上げていた。
鉄の溶ける臭いと、熱い空気。工業が発展したこの世界でも段々と増えてきた環境の中で、男たちは目を覚ました。
溶鉱炉だ。
そして彼らの頭上には――――――――天井から彼らを吊るす、謎の紅い氷にも似た物体が、彼らの手をしっかりと包み込んでいた。鮮血を思わせるほど紅い氷が存在するなど信じられないが、彼らの手を包み込む冷たさと、眼下の溶鉱炉の熱で実際に溶け出していることから、その紅い物体が氷であるという事が分かる。
「やあ、諸君」
なぜ自分たちがこんなところにいるのか理解できないうちに、彼らの手を包み込む紅い氷のように冷たい男の声が聞こえてきた。
しかも、聞き覚えのある声である。このオルトバルカ王国に住んでいるならば、多くの国民が耳にしたことはある声。貴族たちからは煙たがられる半面、多くの平民や労働者からは爆発的な支持を受けている、産業革命が生んだ〝魔王”。
声の聞こえてきた方向を見てみると、そこには立派な黒いスーツとシルクハットを身に着けた赤毛の男が、同じく赤毛の少女を引き連れてキャットウォークの上に立っていた。雰囲気が似ていることから、その2人が親子であるという事が分かる。
「り、リキヤ・ハヤカワ…………ッ!」
「こ、ここはどこだ!?」
「安心したまえ。ここは我が社の工場にある溶鉱炉だ」
彼の声を聴きながら、片腕を吹き飛ばされた男は気を失う前のことを思い出していた。アグスト要塞へと武器を届ける任務を引き受け、その立場を利用してかなりの数の武器を貴族の元へと横流しする予定だった。しかし搬入する数を誤魔化してそのまま武器を持ち去るよりも先に計画がバレてしまい、逃走しようとしたところをあの赤毛の少女に襲撃されてしまったのである。
片腕を吹き飛ばされる激痛を思い出した男だが、彼の腕の傷はいつの間にか塞がれていた。あのまま放っておけば出血で命を落としていた筈だが、わざわざヒールかエリクサーで傷を塞いで延命させたということは、あの男はこれから尋問でも始めるつもりなのだ。
リキヤ・ハヤカワは労働者たちに支持されている男だ。他の貴族と違い、自分の下で働く労働者たちを「同志」と呼んで尊重してくれる上に、様々な要望を聞き入れてすぐに反映させてくれることから、彼らは労働者や平民たちの間で理想的なリーダーとまで言われている。しかし敵に対しては全く容赦をしないことでも有名で、その気になれば負傷兵でも躊躇わずに殺すという。
眼下の溶鉱炉と、頭上から伸びる氷の命綱。これが溶けてしまえば、あの溶鉱炉の中へと飛び込む羽目になるのは明らかである。
「さて、少しばかり聞きたいことがある。正直に答えてくれたまえ。言っておくが、時間をかけるために黙るのも無しだ。そうすればその氷が溶けてしまうからね」
「貴様…………!」
時間をかければ、溶鉱炉の熱でこの氷が溶けてしまう。だから口を割らないようにずっと黙り続けていれば、いずれ氷が溶けて溶鉱炉の中へとまっさかさまに落ちてしまうというわけだ。だから死にたくなければ本当のことを話すしかない。
リキヤの容赦のなさを考えれば、裏切者を生かしておく可能性は低い。それも考えてみると、仮に本当のことを彼らに話してしまったとしても、そのまま解放されるとは思えない。
だからと言って黙っていれば、あの溶鉱炉の中に突き落とされる羽目になるのは明白だ。その可能性を考慮しながらリキヤを睨みつけていたその時、装甲車を奪取した際に砲手を担当していた男が叫んだ。
「誰が答えるか! 貴族に牙を剥いた無礼者め!」
「……………やれやれ」
呆れたように首を横に振り、懐からモリガン・カンパニーで正式採用となっているPL-14を引き抜くリキヤ。彼はそれの安全装置(セーフティ)を素早く解除すると、罵声を発した男の手を拘束している氷の命綱へと9mm弾を3発も叩き込んだ。
いくら貫通力が低く、威力も低い傾向にあるハンドガンの弾丸とはいえ、溶鉱炉の熱で溶けかけていた氷程度は容易く粉砕するのが当たり前だ。ただでさえ細くなり始めていた命綱を容易く粉砕された砲手の男の身体が、氷の命綱から解放され――――――――重力の命令を聞き入れてしまったことによって、溶鉱炉へと落下する羽目になった。
「うわっ――――――――」
すぐ近くで聞こえた仲間の断末魔。しかし数秒もたたないうちに叫び声が聞こえなくなり、残った紅い氷の命綱が、まるで鮮血のような紅い雫を溶鉱炉へと滴らせるだけになった。
共にこの企業へと潜入し、この任務のための下準備を続けてきた仲間が溶鉱炉で焼かれる光景を目にしてしまった車長と操縦士は、顔を青くしながらリキヤを睨みつけた。仇を取ろうとする憎しみよりも、自分たちもあのような殺され方はしたくない、という恐怖の方がずっと大きかった。
「安心したまえ。1人減っても、まだ2人いる」
先ほどと彼の口調は変わらない。その変わらない口調にもぞっとしてしまう。
「我が社の同志と違って、クソ野郎の命は軽いからな。……………さて、答えてくれなければ君たちも同じ運命を辿ることになる。……………それで、君たちのクライアントは誰だ?」
「……………………!」
この男は、魔王だ。
仲間たちからは慕われ、敵からは恐れられる。敵を徹底的に蹂躙していく魔王。もし仮に最強の勇者が現れたとしても、この男を止めることはできないかもしれない。
リキヤが作り上げたモリガン・カンパニーという兵力を除いて考えたとしても、この男を倒せるものなど存在しないのかもしれない。あのレリエル・クロフォードを単独で討伐したほどの実力を持つ男なのだから、もはやあの男と同じ怪物ですら勝率は低い。
怪物ですら勝てないからこそ―――――――魔王と呼ばれる。
「は、ハロルド侯爵だ…………!」
「おい、ニック!」
魔王(リキヤ)が発する恐怖に耐えられなくなったのか、操縦士だった男が口を割ってしまった。顔を青くしたまま彼の方を睨みつけると、それを聞いていたリキヤは興味深そうに眼を開いた。
「ほう、ハロルド伯爵か。これはいい。あの老人には前々からよく横槍を入れられて目障りだと思っていたところだ。……………それで、他に君たちのクライアントは?」
「な、なに?」
「いるだろう? …………………ハロルドの爺さんは貴族たちの筆頭だからな。いざというときに責任を擦り付けるための〝駒”も用意している筈だ」
片腕を失った男は、リキヤにまだクライアントがいることを見破られて絶句していた。
仲間が口を割ってしまった以上、もはや報酬は受け取れない。それどころか仮にここから逃げ出せたとしても、今度はモリガンだけではなくハロルド侯爵の私兵にまで命を狙われる羽目になる。国外への逃亡しか平穏に暮らせる道はないが、そもそもここから出られる可能性も限りなく低い。
すると、リキヤが再びハンドガンを向けた。そして正確に2人の手を包んでいる氷の命綱へと1発ずつ9mm弾を撃ち込み、2人の〝余命”を削っていく。
「さあ、答えろ」
真下にある溶鉱炉。あの中に落とされるよりも、まだ生存できる確率が低い方に賭けるべきかもしれない。
ついに口を割る事にした彼は、気が付けば仲間と同じようにクライアントの名前を次々と挙げていた。
彼らはリキヤの手によって溶鉱炉に突き落とされるまで、仲間を売り続けたのだ。
「これはすごいな」
メモ用紙にずらりと並んだ貴族の名前。ほとんどの名前を、リキヤは知っている。
すべての貴族が、リキヤやカノンの母であるカレンを煙たがっている連中である。彼らが新しい法案を議会に持ち出して提唱すると反論し、それをあの手この手で妨害してくる老害たち。いったい彼らの妨害でどれだけ対応が遅れ、人々が苦しむ羽目になったのだろうかと思うと、リキヤはどうしても怒りを感じてしまう。今の利益や地位が崩壊し、私腹を肥やせなくなるという理由だけで邪魔をする貴族たちが本当に目障りだ。
だがこれで、彼らを議会から〝消す”口実ができた。裏でこういった妨害工作を行わせ、モリガン・カンパニーの社員たちの命を脅かしたという事実を来週の議会で公表すれば、この一件の主犯格は間違いなく失脚する。
「パパ、どうする? 命令すれば私が消すけど」
「いや、お前は手を汚さなくていい。それでは奴らがまだ〝楽”をしてしまうからね」
ラウラやリディアを裏で動かして暗殺させれば手っ取り早い。しかしそれでは貴族たちの名誉は守られたままで、ただ単に〝暗殺者に殺された哀れな貴族たち”で終わってしまう。今まで散々邪魔をされたのだから、彼らの名誉をズタズタにしてからあの世に送ってやりたい。
裏切者たちが燃え尽きた溶鉱炉を見下ろしながら、リキヤは貴族たちの名誉を木っ端微塵にしたうえで消すための作戦を考え始めていた。
あのような貴族たちは、今までにかなりの不正やスキャンダルを溜め込んでいる。手元に残っている諜報部隊を動かせば、おそらくすぐにでもそういった情報が集まる筈だ。それを暴露してやればどれだけの貴族が議会から消えるのかは想像がつかないし、おそらく中には死刑になるようなことをしている貴族もいる筈である。
しかし、いくらそういった〝矛”を持つとはいえ、彼1人では少しばかり力不足かもしれない。
(カレンに協力を頼むか)
来週の議会までに諜報部隊に情報を集めさせ、なおかつ戦友のカレンの協力を得て貴族たちを一気に叩き落す。
書き上がったシナリオを頭の中に思い浮かべたリキヤは、ニヤリと笑った。
オルトバルカ王国の議会には、100人以上の貴族が出席する。まるで劇場のようにも見える議場には豪華な装飾のついた数多の座席がずらりと並び、そこに国中の貴族とその秘書が腰を下ろす。そして「民のことを第一に考える」という割には私腹を肥やすのを促進するような法案ばかり、ここで議論するのだ。
いつもこの会議に出席する女王もその状況にうんざりしているという。正直に言うと、俺もそんな状況にかなりうんざりしている。労働者が苦しんでいる状況を現場で目にしているのだから、その憤りはより一層強い。
しかし、こんな腐敗した議会は今日で終わる。腐りきった貴族たちはこの議席から消え、新たに現実をよく知っている者たちが彼らの後任となるのだ。
そのための一撃を、俺は用意してここへとやってきた。
「リキヤ」
議場の中心にあるステージへと上がろうとする俺を、真っ赤なスーツに身を包んだ金髪の女性が呼び止めた。
鋭い蒼い瞳は妻のエミリアを彷彿とさせるが、ややつり上がった目つきはしっかり者であるという雰囲気も放っている。実際にカレンはモリガンのメンバーの中でも、数少ないまともな性格のメンバーなのだ。だからこそこうして父親の後を継ぎ、南方のドルレアン領の領主として腐敗した貴族たちと戦っている。
「しっかりね」
「ああ、任せろ」
これで彼女の敵が一気に減り、理想の実現に近くなる。
カレンに向かって微笑んでから、俺はステージへと続く階段をゆっくりと上がっていった。
今日は特別に、貴族ではなく平民出身の男がここにきてスピーチをすることになっているというのに、議席に座る奴らはごく一部の貴族しか俺に拍手をくれなかった。俺に味方をしてくれている数少ない貴族たちだ。それ以外の貴族は腕を組みながら、邪魔者である俺に敵意を向けている。
「本日はこの議会のステージに上がることを許していただき、誠にありがとうございます」
まずは、簡単な挨拶だ。このステージに上がることを許してもらえたことだけは、本当にありがたいと思っている。だからこそ誠実に挨拶をする。数分後にはこの議席から消えている貴族が一体何人に上るのだろうかという事を想像しながら。
「早速ですが、本日は少しばかり貴族の皆様方にお尋ねしたいことがありましてここへとやって参りました。………………ええとですね、まずハロルド侯爵にお尋ねしたいのですが」
いきなり名前を挙げたのは、この議会の貴族たちを率いる、貴族のトップともいえるハロルド侯爵。オルトバルカ王国で最大の権限を持つのは言うまでもなく女王だが、彼の発言力は大きく、さらに味方に付く貴族も多いため、女王でも迂闊に敵に回せないという厄介な男だ。
ただの平民出身の男がいきなりそのトップに狙いを定めたのだから、貴族たちの顔が一気に強張る。もちろん名前を挙げられた侯爵も不機嫌そうな顔をしながら、俺の顔を見下ろしていた。
「先週、我が社の輸送部隊が離反しましてね。我が社の兵器を横流ししようとしていたので、身柄を拘束して少しばかり〝尋問”いたしました。すると彼らは、『ハロルド侯爵に雇われた」と口を割ったのですが………………これは事実なのでしょうか?」
「知らんな。第一、モリガン・カンパニーはこの世界の工場を支える巨大企業だ。そんな企業を敵に回すわけがあるまい?」
「そうだそうだ!」
「平民の分際で、ハロルド侯爵に楯突くつもりか!」
「静粛に! ………………ハヤカワ殿、続きを」
「どうも。………………言うまでもありませんが、我が社の兵器は我が社の社員たちが命を預けるものです。そして社員たちの技術こそ、この世界の工場の動力源。言うなれば我が社の兵器は、彼らにとっての〝命綱”でもあるのです。それを横流しすれば数が合わず、社員たちを危険に晒すことになる。そんなことは許されません。………………侯爵、本当のことを教えていただきたい」
少しばかり威圧感を出しつつ、太り切った老人の顔を睨みつける。立派な紅い服を身に着けた老人が少しだけ怯えるが、すぐに自分の権力の大きさを思い出したのか、すぐに表情を元に戻すと、鼻で笑ってから話し始めた。
「だから知らぬと言っている。我らの富を支えてくれる労働者に、そのような仕打ちをするわけがあるまい。そのような仕打ちが許されるのは奴隷だけだ」
本当はそんなことを思っていないくせに。
偉そうに言うあの太った老人を今すぐ撃ち殺したくなったが、ここで耐えればそれよりもつらい運命を与えることができる。そのためにいろいろと用意してきたのだから、もう少し耐えなければ。
「なるほど。では、奴隷ならば何をしても許されると仰りたいわけですな?」
「そうだ」
「分かりました。――――――――では、奴隷でもない人々を奴隷にするような真似は、果たして許されるのでしょうか?」
「なに?」
「ちょっと失礼。ヘンシェル」
「はい、社長」
ステージの下で待っていた秘書のヘンシェルを呼ぶと、彼は大きな茶色い封筒に入った書類と数枚の写真を俺に手渡してくれた。その書類を確認してから、俺は再び話し始める。
「昨年の7月、西方の村が謎の武装集団の襲撃で壊滅した事件はご存知ですよね?」
「ああ、悲惨な事件だ」
「その事件で少しばかり奇妙な事が発覚しましてね。………………半年前に、その村の住民と顔や名前が全く同じ奴隷が、数多く市場で販売されたのだそうです。集計をしてみましたところ、人数も住民と同じく268人。消失した戸籍を復元し、奴隷たちと面会して確認を取ったところ、記録とも一致しました」
ハロルド侯爵の額に、冷や汗が浮かんだ。
よし、これでいい。少しずつ奴の防壁は崩れ落ちている。後はとどめの一撃をぶちかませば、奴は終わりだ。
ヘンシェルから受け取った写真を手元の魔法陣の上に乗せると、ステージの後方に拡大された写真が映し出される。その写真に写っているのは白黒の写真で、燃え上がる村の中で暴れまわる数人の男たちが写っているのだが、その防具の肩には――――――――太陽とドラゴンを組み合わせたような家紋が写っているのが分かる。
貧しい村だからカメラを購入する資金もないだろうと高を括っていたのだろう。しかし、偶然知り合いの商人から古いカメラを譲り受けたという男性がこっそりとその一部始終を撮影し、焼け跡に隠していたのだという。
奴隷たちとの面会でそれが明らかになってからは、諜報部隊にすぐカメラの回収をさせておいて正解だった。
「この家紋ですが――――――――ハロルド侯爵の家紋ですよね?」
「し…………知らん。その辺のごろつきが真似をしただけだろう」
「そう言うと思って、この襲撃に関与した男のうち1人もお呼びしていますよ」
「なっ!?」
手招きすると、ステージの下にいたヘンシェルがやせ細った1人の男を連れてきた。写真と比べるとかなり痩せてしまっているが、まだ面影は残っている。
「教えてくれ。この襲撃には関与したのかな?」
「はい、あの写真に写っているのは私です」
貴族たちがざわつき始める。それを聞きながらニヤリと笑った俺は――――――――ついに、とどめの一撃をぶっ放すためのスイッチを押した。
「では、クライアントは?」
「――――――――ハロルド侯爵です」
「な、なんだと!?」
「侯爵がそんなことを!?」
「静粛に! ――――――――ハロルド侯爵、これはどういうことですかな?」
ハロルド侯爵を睨みつけながら、俺は問い詰めた。
オルトバルカ王国の法律において、奴隷の売買そのものは違法ではない。しかし、奴隷は敗戦国からの調達か囚人からの調達しか認められておらず、普通の生活を送っているような人々を襲撃して奴隷にする行為は禁止されている。
この写真に写っていた男を探し出して尋問したら、あっさりと教えてくれた。まあ、家族を人質に取っていたのも功を奏したのかもしれないが。
「で、でたらめを言うなッ! 私がそんなこと――――――――!」
「では、他にも襲撃に関与していた者を呼んでおりますので壇上で証言していただきますかな?」
「……………!?」
もう、決着はついた。
ちらりとカレンの方を見てウインクすると、彼女は口をぽかんと開けたままこっちを見ていた。予めこうやって奴らを失脚させるという事は話していたけど、どうやら予想以上の結果だったことに驚いているらしい。
だが、俺の目的なあんな他愛もない老人の失脚だけではない。この場にいるすべての腐敗した貴族を排除することにある。
「―――――――ちなみに、このようなスキャンダルが発覚したのはハロルド侯爵だけではありませんぞ。ここにいる大半の貴族のスキャンダルの証拠を用意してきましたので、皆様には覚悟していただきましょう」
さあ、大粛清の始まりだ――――――――。
議場に残ったのは、ごくわずかな貴族だけだった。先ほどまで議席に腰を下ろしていた貴族の大半はスキャンダルをここで暴露されてことごとく失脚したし、中にはその場で女王に死刑を言い渡された貴族もいる。
あとは俺の息のかかった議員たちを、あの議席に座らせてやるだけでいい。これでかなり計画を進めやすくなるだろうし、この国も民主主義に近くなる。
軍事力ではモリガン・カンパニーがトップ。そして議会もこちらが手中に収める。もう実力行使でも、言論でも俺たちを邪魔できる貴族はいない。もちろん独裁政治を始めるわけではない。この国を民主主義に近づけるだけだ。
貴族の大半が消えた議場を見渡していると、役目を終えた資料の入った封筒を抱えたヘンシェルが、俺の顔を見上げていた。
国を支配していた貴族たちをことごとく消し、この大国を掌握しつつある魔王の存在を恐れているのだろうか?
「同志」
「なんだ?」
「……………あなたは、何者なのですか?」
労働者たちの立場が、モリガン・カンパニーの存在で大きく変わった。ヘンシェルもそれで変わった男の1人である。
俺はただ、彼らのために力を振るっただけだ。立ち塞がった敵を蹂躙し、彼らを脅かす敵を粛正して道を確保しただけだ。
「そうだな」
だから俺は、魔王でいい。
だからついてこい。
そう思いながら、俺は微笑んだ。
「――――――――ただの魔王(スターリン)だよ」