異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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みんなで転生者を救出に行くとこうなる

 

 

 揺れるBTR-90の兵員室の中でAK-12の点検を終えてから、兵員室の中に座って正面を見据える仲間たちを見渡す。訓練を始めたころはまだぎこちない動きばかりしていた彼らだけど、今ではもう銃の扱いにも慣れたようだし、それを駆使してダンジョンの調査を行ってかなりの額の報酬を手に入れられるほどの実力を持つ猛者ばかりである。

 

 俺の隣ではAK-47にそっくりな銃を持つイリナが、同じように今回の作戦に使う得物の点検を行っている。俺も人のことは言えないかもしれないけど、彼女の装備を見るといつも「重そうだ」と思ってしまうほどの重装備だ。まず、背中にはロシア製ロケットランチャーのRPG-7V2。対戦車用の弾頭や対人用の対人榴弾なども用意されている汎用性の高いロケットランチャーだ。腰には予備の弾頭を何発か吊るしているようで、その傍らには同じくロシア製グレネードランチャーのRG-6を装備している。強力なグレネード弾を6発も連発できる代物で、砲弾の種類を変えれば装甲車にも通用する破壊力を誇る。というか、RPG-7V2があるから大丈夫なんじゃないだろうか。

 

 そして彼女が点検している代物も、とんでもない代物である。傍から見るとAK-47のようにも見えてしまうけれど、実はそれはアサルトライフルではなく、『サイガ12K』というショットガンなのだ。

 

 やはりサイガ12Kもロシア製。非常に堅牢な銃で、しかも様々なバリエーションがある。やはり汎用性では西側の銃に劣ってしまうけれど、非常に高い信頼性と破壊力でそれを補えるほどの性能を秘めているのである。しかも彼女が装備するサイガ12Kが発射するのは、普通の散弾ではない。

 

 なんと――――――――『フラグ12』と呼ばれる、ショットガン用の炸裂弾をぶっ放せるようになっているのである。

 

 さすがに本来のグレネード弾と比べると破壊力や爆発の範囲は劣るものの、連射力と運用のし易さではこちらが上。立て続けに連発すればちょっとした絨毯爆撃の真似事もできるというとんでもない代物である。

 

 そしてサイドアームには、炸裂弾を装填したドイツ製のカンプピストル。近接武器は迫撃砲を内蔵したロシア製のスコップ。そう、彼女の得物に〝爆発しない武器”は存在しないのだ。

 

 仲間を巻き込まないか心配だが、今のところ彼女の攻撃で吹っ飛ばされた味方がいるという報告は聞いたことがないし、武器についての座学では、特に爆発範囲や砲弾の種類の時は常に目を輝かせてメモを取っていたほどだから、きっと殺傷力が発揮される範囲まで熟知してるんだろう。

 

『砂嵐よ』

 

 イリナの得物を見た他のやつと一緒に冷や汗を浮かべていると、BTR-90の車長を担当するナタリアの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

 微かに表面の装甲に激突する砂たちの叫び声が聞こえてくるし、彼女が報告するよりも前から砂嵐の中での作戦になるんじゃないかと薄々思っていたが、どうやら的中してしまったらしい。後ろにある小さな窓から外を見てみると、砂と蒼空しか存在しなかった世界はもう既に砂に埋め尽くされており、太陽の光がかなり弱まっていることが分かった。

 

「くそったれ、何も見えねえじゃねえか」

 

「ははははっ。慣れれば大丈夫ですよ、同志」

 

 悪態をつくと、ウラルと一緒に加入したムジャヒディンの1人がそう言って励ましてくれた。彼らは長年この砂漠で戦ってきたんだし、こういった砂嵐の中での奇襲も経験済みなんだという。確かに彼らなら何度も経験してきたことをまたやるようなものなのだから簡単かもしれないが、こっちは今までいろんな場所を旅してきた冒険者。〝広く浅く”ではこの砂漠の戦いに慣れるのに時間がかかりそうだ。

 

「それに、俺やイリナにとってはこの砂嵐はありがたい。忌々しい太陽に苦しめられずに済むからな」

 

 向かい側でAK-12を点検していたウラルもそう言いながら窓の外を確認し、ニヤリと笑った。

 

 個人差が大きいらしいが、吸血鬼にとって太陽は弱点の1つだ。中には日光を浴びた瞬間にたちまち体が崩壊してしまう吸血鬼もいるというが、大昔から生き続けている古い吸血鬼などは日光を浴びてもほんの少し再生能力が低下する程度だという。

 

 ウラルやイリナの場合は、身体が崩壊するほどのダメージは受けないらしいけれど、まるで風邪をひいている状態で無理矢理体を動かそうとしている時のように気分が悪くなるという。だからできるだけ昼間にはこのブリスカヴィカ兄妹は外に出さず、夜間の任務や警備を担当してもらっている。

 

 それにしても、今回の任務はかなり変わっている。今まで狩る標的だった転生者を、俺たちが救うことになるのだから。

 

 おそらく救援要請を発したのは、転生者の中でも兵器や銃にそれなりに詳しい転生者に違いない。無線機でそういった要請ができるのが証拠だ。けれども魔物に包囲されて窮地に陥るという事は、それほどレベルは高くないという事が伺える。

 

 レベルが40や50を超えた転生者は、もう魔物を相手にした場合は瞬殺するのが当たり前となる。人々が恐れるような凶悪な魔物にスピードのステータスを生かして一瞬で肉薄し、剣を振り下ろして外殻ごと切断する。そんな力押しを堂々と披露できるほどのステータスに成長するのが、大体そのあたりなのだ。

 

 ちなみに俺のレベルはおかげでもう110。ステータスも10000を超えるのが当たり前となっており、おかげで前よりも動き易くなった。

 

『まもなく目標地点に到着するわ。戦闘準備を』

 

「了解(ダー)。同志諸君、戦闘準備!」

 

「「「了解(ダー)!」」」

 

 念のため、サイドアームの方も確認しておこう。

 

 そう思った俺が大きめのホルスターから引き抜いたのは、ハンドガンやリボルバーではなかった。一見すると古めかしいフリントロック式の銃に見えるかもしれないけれど、トリガーを覆うように装着されているフィンガーガードのような部品が特徴的である。

 

 それは、『レバーアクション式』と呼ばれる銃の特徴だ。レバーアクション式とは西部開拓の時代にアメリカなどで使われていたライフルの方式で、このようにトリガーの周囲に装着された『ループ・レバー』と呼ばれる部品を上下に手動で動かすことにより、次の弾丸を装填するのである。しかし華奢な構造であり、信頼性に問題があったため、構造が単純で信頼性の高いボルトアクション式が登場してからはすっかり廃れてしまった方式だ。

 

 俺が装備に選んだサイドアームは、そのレバーアクションライフルの中でも異質な『ウィンチェスターM1895』と呼ばれるモデルの銃身を切り詰め、銃床を取り外したソードオフ型である。

 

 ウィンチェスターM1895は、アメリカで開発されたレバーアクションライフルの1つであり、他のアメリカ製レバーアクションライフルと比べるとかなり異質なモデルでもある。

 

 他のレバーアクションライフルがショットガンのような『チューブマガジン』と呼ばれる弾倉を採用していたのに対し、こちらはボルトアクションライフルを彷彿とさせる固定式の弾倉を採用しているのである。チューブマガジンの容量は長さに比例するため、このように銃身を切り詰めるとそれに比例して弾数まで少なくなってしまうという欠点がある。けれども銃の上から5発のライフル弾を装填するこちらはその影響を受けないため、ソードオフのデメリットを受けにくいという利点がある。

 

 このウィンチェスターM1895はアメリカで開発されたライフルだけど、実際に運用したのはアメリカではなくロシア軍であった。そのため使用する弾薬もアメリカ製の物ではなく、ロシア軍で使用されている7.62×54R弾を使用する構造になっているし、銃剣を装着することも可能という異質なモデルである。

 

 ソードオフ以外のカスタマイズは、照準を合わせやすいように大きめのピープサイトに変更したくらいだろう。サイズは大型のリボルバーよりも少し大きいくらいだけど、こっちが使用するのはモシン・ナガンの弾薬にも使用されたライフル弾。ハンドガン用の弾薬やリボルバーのマグナム弾とは格が違う。

 

 見慣れない銃だからなのか、俺のウィンチェスターM1895を他の仲間たちがまじまじと見つめてくる。向かいに座るウラルが珍しく興味を持ったように見つめてくるので説明しようかなと思っていたんだが、装甲車が速度を落とし始めたことを察した俺たちはすぐに臨戦態勢に入った。

 

「今回の目標は転生者の救出だ。あまり転生者にいいイメージはないかもしれないが……………彼らを保護するのも、俺たちの役目だ」

 

「もしクソ野郎だったら?」

 

「その時は射殺してよし」

 

 罠だったら打ち破ってやる。そのためにバイクではなく、重装備の装甲車に乗ってきたのだから。

 

 やがてBTR-90が完全に停車し、スピーカーから『目標地点に到着!』という声が聞こえてきた瞬間、俺たちは天井のハッチへと手を伸ばし、素早く身体を持ち上げて車外へと踊り出していた。

 

 オイルの臭いのした兵員室から顔を出した瞬間、猛烈な砂の殴打が俺たちを包み込んだ。そのまま呼吸すれば瞬く間に砂で鼻の穴が詰まってしまうのではないかと思えるほどの密度の砂が、熱風に押し出されて荒れ狂う。目に入らないように腕で顔を守りながら周囲を見渡したけれど、やっぱり普段と比べると何も見えない。これほど強烈な風なのだから、キメラの強力な嗅覚も役には立たないだろう。

 

 もしラウラがいればエコーロケーションで探知してもらえるのにと思いつつ、俺たちは正面へと進み続けた。

 

 砂嵐のせいで何も見えないが、どこに向かうべきなのかは幸いすぐに分かった。まだ持ちこたえている転生者たちのものと思われる銃声が、まだ響いているからだ。銃声の残響と魔物の断末魔が混ざり合うあの音は、何度も聞き慣れた音でもある。

 

 後ろにいる仲間たちに合図し、その音が聞こえてくる方向へと進む。黄土色の砂が舞い上がる砂漠の真っ只中を突っ走っていると、段々と銃声が大きくなっているのが分かった。やがて舞い上がる砂の壁の向こうにマズルフラッシュと思われる黄金の閃光が何度も煌き、そこに転生者がいるという事を教えてくれた。

 

 俺たちは、もう戦場のすぐ傍らにいたのである。

 

 その時、砂嵐の中を突き進む俺たちから見て10時の方向に広がっていた砂の地面が、何の前触れもなく膨れ上がった。何かが飛び出したのかと思った瞬間、ドン、と重々しい爆音が膨れ上がった砂の中から姿を現し、それに少し遅れて紅蓮の火柱が吹き上がる。

 

 砲弾がそこに着弾したのだ。爆発の範囲を見ると、おそらく砲弾の種類は爆発範囲の広い榴弾に違いない。魔物を狙った一撃なのか、それとも接近していく俺たちを敵だと誤認してぶっ放した一撃なのかは定かではないけれど、もし後者なら最悪だ。

 

 念のため姿勢を低くして前進しつつ、俺は無線機に向かって叫んだ。

 

「ヘンゼルよりマイホームへ! 救援要請を送ってきた無線の周波数は!?」

 

『待って、こっちで呼びかけるわ!』

 

「そうしてくれ! 榴弾でハンバーグにされるのはごめんだ!」

 

 幸い、こっちの服装はみんな真っ黒。いくら砂嵐で日光が遮られているとはいえ、この黒服は目立つはずである。

 

 続けて今度は俺たちの目の前の地面が立て続けに弾けた。さっきの榴弾みたいに爆発するわけではない。あくまでほんの少し吹き上がる程度である。

 

 機関銃の掃射だ。しかも、今度は俺たちを狙っているようだった!

 

 くそったれ、こっちは味方だぞ!? まだ助けたわけじゃないけど、恩人に向かって銃と榴弾砲なんか向けやがって! こっちに負傷者が出たら全員粛清してやるからな!

 

『き、聞こえるか!?』

 

「誰だ!?」

 

 姿勢を低くしながら進んでいると、無線機から聞き覚えのない少年の声が聞こえてきた。

 

『救援要請を発した張本人だ! すまん、さっきのは誤射だ! 負傷者は!?』

 

「なし! ただ次やったらぶっ殺すぞ! そっちの状況は!?」

 

『兵力は8人! そのうち3人は変な端末を持ってる日本人だ! それと、途中で保護した奴隷が10人!』

 

 8人のうち転生者は3人か。ということは、残りの5人はこっちの世界の人というわけだな。それにしても、転生者って奴隷を逆に売っているイメージがあるから、自分たち以外の転生者が〝奴隷を保護した”と言うのには凄まじい違和感を感じる。

 

 けれども、まだそうやって人を助けようとする転生者が残っていたのは喜ばしいことだ。

 

『負傷者は幸い0! でも頼みの戦車は擱座して、肝心な主砲の砲弾も残りわずかだ!』

 

「了解! とりあえずそっちに向かう! もう少し持ちこたえろ! それと黒い服を着てるのは俺たちだから、見えたら撃つなよ!」

 

『分かった、ありがとう!』

 

 救出するべき目標は合計で10名。そのうち10名は非戦闘員だ。とりあえず彼らは装甲車に乗せて、それ以外は装甲車の屋根の上に乗るしかない。

 

 無事に彼らを助け出した後のことを考えつつ、目の前で繰り広げられている状況を確認する。

 

 砂嵐の中なのではっきり見えるわけではないけれど、砲撃の際に生じる閃光で時折映し出される巨大な影は、おそらくゴーレムやそれらの変異種だろう。外殻は7.62mm弾でも貫通できる程度の厚さなのでそれほどの脅威ではないかもしれないけれど、それはあくまでも世界中に数多く生息しているごく普通のゴーレムの場合だ。亜種や変異種の中には、下手をすれば第三世代型主力戦車(MBT)並みの防御力を持つ奴もいるという。

 

 特に、背中からも多くの剛腕が生えている『ヘカトンケイル』と呼ばれるゴーレムの変異種は極めて厄介だ。それが敵の中に紛れ込んでいないことを祈りながら、AK-12の安全装置(セーフティ)を解除し、セレクターレバーを3点バーストに切り替えた。

 

「――――――――続け(ザムノイ)ッ!!」

 

 砂嵐の中で立ち上がり、俺たちは一斉に魔物に包囲されている転生者たちの元へと突っ走った。さすがに砂嵐の中でいつものように突っ走るわけにはいかなかったけれど、左腕で目を守りながら可能な限り全速力で走る。

 

 やがて、俺たちに背を向けている魔物の影が見えてきた。表皮の色は若干違うようだけど、成人男性のみぞおちの高さくらいの伸長の影は、おそらくゴブリンだろう。鋭い爪を生やしている小型の魔物で、主な攻撃は噛みつきや爪で引き裂く程度。中には棍棒を持っていたり、人間から奪い取った剣で武装する個体もいるし、稀に魔術を使ってくる賢い個体もいる。けれども、口元からよだれを垂らして金切り声を上げるゴブリンたちは、どこからどう見ても賢い生き物には見えない。

 

 最後尾にいたゴブリンの1体が、俺たちの接近を察知してこちらを振り向く。けれどもその濁った眼球に写っていたのはただ突進する俺たちではなく――――――――そのゴブリンへと向けられた、AK-12の銃口だった。

 

『ギッ―――――――』

 

「Пока(あばよ)!!」

 

 銃口からマズルフラッシュが飛び出し、3発の7.62mm弾が猛威を振るう。

 

 ゴブリンの防御力は生身の人間とそれほど変わらない。だからこいつを相手にするだけならば、小口径の5.56mm弾や5.45mm弾でも十分だ。さすがに7.62mm弾を3発も叩き込むのはオーバーキルだったと思いつつ、胸元と左肩を大きく抉られたゴブリンを蹴飛ばして突っ込む。

 

 その新しい銃声が、魔物たちへのちょっとした挨拶だった。今まで目の前で包囲されている転生者たちに殺到していた魔物たちが、後方から襲来した新しい外敵の存在に気付いて一斉にこっちを振り向くが、防御力の低いゴブリンは振り向いた瞬間に7.62mm弾に撃ち抜かれ、ゴーレムも瞬く間に集中砲火を浴びて、自慢の外殻を亀裂だらけにしながら崩れ落ちていく。

 

 しかし、やはりゴーレムの中には変異種か亜種も混じっていたらしく、7.62mm弾の集中砲火に耐えやがった個体も混じっていた。ウラルや他のメンバーたちが必死に3点バーストやセミオートでの射撃を叩き込んでいるというのに、それに耐えている奴がいる。あれを放置すれば被害が拡大するし、こっちも弾薬の無駄になる。

 

「イリナ!」

 

「ぶっ放すよ!」

 

 傍らを走っていたイリナが、その変異種にサイガ12Kを向けた。装填されているのは通常の散弾ではなく、それよりも獰猛で破壊力のあるフラグ12。グレネード弾と比べると非力な炸裂弾だが、その分連射ができるし、グレネードランチャーよりも小回りが利く。威力が足りないならばその分叩き込んでやればいいだけの話である。

 

 AK-47に似たショットガンの銃口から、獰猛な炸裂弾が立て続けに放たれた。それほど距離が離れているわけでもなかったし、肝心な射手が爆発に仲間を巻き込まずに大きな戦果を挙げるほどの実力の持ち主であるのだから、狙いを外すわけがない。しかも彼女もムジャヒディンの一員だったのだから、砂嵐の中からの奇襲は朝飯前だという。

 

 案の定、イリナと彼女に持たせたフラグ12は期待通りの戦果を挙げてくれた。黄土色の砂嵐の中で立て続けに紅蓮の閃光が煌いたかと思うと、その度にゴーレムの重々しい呻き声が轟き、やがて5mほどの巨躯が外殻の割れ目から鮮血と黒煙を漏らして崩れ落ちていく。

 

「よくやった!」

 

「ありがとうっ!」

 

 この調子で正面の敵だけ攻撃しよう。側面と後方の敵には必要最低限の応戦だけ行い、正面の敵に集中攻撃。そして包囲されている奴らと合流して包囲網から脱出し、装甲車の支援を受けつつ魔物を殲滅する。

 

 さて、そろそろ魔物との距離が近くなってきたな。

 

「白兵戦だッ!」

 

「待ってましたぁ!!」

 

 なんだか嬉しそうな声が聞こえてきたと思いつつ後ろを見てみると……………選抜して連れてきた歩兵たちが、本部の工房で購入したと思われる色んな武器を引き抜き、やたらと獰猛な笑みを浮かべて魔物たちを睨みつけていた。

 

 その得物なんだけど…………はっきり言うと、鈍器が8割を占めている。しかもその中には明らかに鈍器以外の使い方が本来の使い方なのではないかとツッコミを入れたくなる代物が紛れ込んでいた。

 

 何で戦場にパイプレンチを持ち込んでるんだろうね。しかもやけにでかいやつ。

 

 その隣には意気揚々と釘バットを振り回してるやつがいるし、その隣にいるやつはバルブとか圧力計がまだくっついたままになっている2本の鉄パイプをうっとりしながら見つめている。……………ん? 確かあいつ、偵察任務に鉄パイプを装備していったあのエルフじゃない?

 

 ちょっと待て、選抜して連れてきた覚えがないんだけど。

 

「同志、早く命令を!」

 

「いや、お前呼んだっけ?」

 

「いえ、呼ばれてないッス!」

 

「いつの間に紛れ込んだ!?」

 

「ずっと装甲車の屋根に乗ってました!」

 

 何ぃッ!?

 

 こ、この鉄パイプ野郎、選抜されてねえくせに勝手についてきたのかよ!? しかも砂嵐なのに!?

 

 まあいい。いろいろと大問題だが、こいつの接近戦での強さは今までに何度も目撃している。鉄パイプで転生者を撲殺したこともあるし、魔物相手ならばむしろ蹂躙してくれるに違いない。

 

 他の仲間たちと一緒に苦笑しながら、俺は敵を睨みつけて号令を発した。

 

「――――――――突撃だぁッ!!」

 

 

 

 

 


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