異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
訓練しているタクヤを見ていると、なんだか不安になります。
5日前に父親に呼び出されたタクヤは、ラウラを連れて2人で王都へと一旦戻りました。どうやら今度実行される大規模な作戦の会議に出席してきたらしくて、ラウラはその作戦のための特別な訓練を受けるため、王都に残ったそうなのです。だから2日前に帰ってきたのは、タクヤだけでした。
その次の日の訓練をみんなで行ったのですが――――――――その時のタクヤは、様子がおかしかったです。
いつもは当たり前のようにアサルトライフルの射撃を命中させていくのに、昨日は何発も外していました。銃剣突撃の訓練の時もぼーっとしていることが多く、いつもは先陣を切っていくのに昨日はみんなに遅れて走り出していました。
いったい何があったのでしょう? 何かを気にしているように見えるのですが……………。ステラはタクヤが心配です。
相談に乗ってあげたいところなのですが、彼に様子を尋ねると「ああ、大丈夫だよ。心配かけてごめんな」と笑顔を浮かべるタクヤに誤魔化されてしまうのです。
どうすれば、タクヤは元気になってくれるでしょうか。訓練の時だけあのような失敗をするならまだ許せますが、さすがに実弾を使った訓練や実戦であんな失敗をすれば死んでしまうかもしれません。彼のためにも何とかしてあげたいのですが、ステラにはどうすればいいのか分かりません。
「………………」
「あら、ステラさん。どうしましたの?」
訓練に使ったRPK-12の整備をしていると、射撃訓練を終えたカノンが近くにやってきました。愛用のSVK-12を背負いながらやってきたカノンは、部屋の床に座りながら銃の整備をしているステラの近くに2人分の椅子を持ってくると、その椅子に座りながらスコープのレンズを磨き始めました。
「ステラは、タクヤのことが気になるのです」
「お兄様が?」
「はい。王都から戻ってきてから元気がないというか、様子が変なのです」
「確かに………………なんだか、いつものお兄様とは思えませんわね」
もしかすると、元気がない原因はラウラと離れ離れになってしまったことなのでしょうか。いつもあの姉弟は一緒にいますし、基本的に片方が欠けた状態を見たことは少ないです。メウンサルバ遺跡とシベリスブルク山脈で離れ離れになったことはありますが、あれはあくまでもダンジョンの調査中に起きたアクシデントが原因。今回のように別れたことは一度もありません。
タクヤはラウラがいつ帰ってくるかわからないと言っていました。下手をすれば何年もかかるんじゃないかと言いながら笑っていましたが………………あの時のタクヤは、涙目だったような気がします。
やっぱり、お姉ちゃんと離れ離れになるのは辛いのでしょう。若干違いますが、ステラにも気持ちは分かります。ステラも大昔にたくさんの友達と大切な家族を全て失ってしまいましたから。
しかも、ステラが失ったものは2度と返ってくる事はありません。ラウラは返ってくる望みがありますが、ステラが失ったものは返ってくることはありえないのです。
「カノン、お兄様をどうやって励ませばいいのでしょうか?」
「うーん………………下手に励まさずに、気持ちが整理できるまでそっとしてあげるのがベストなのではないでしょうか?」
「放っておくのですか?」
「それも一つの手ですわ」
レンズを磨き終えたカノンは、マガジンを取り外し、銃の中に弾薬が残っていないことを確認してからマークスマンライフルの掃除を始めました。
いつもえっちなことを考えているカノンとは思えないほど真面目な声音で、彼女は言いました。
「けれども、もしダメなようだったらそっと支えてあげるべきですわ」
「………………」
そうですね。
もう少し、様子を見てみましょう。タクヤが自力で立ち直るならばベストですが、もしダメだったらみんなでタクヤを助けてあげるのです。
目の前に置いてある的に空いた穴の数を目の当たりにした俺は、予想以下の結果だったという事を知ってため息をついた。こんな結果が続くのはこれで3日連続。下手をすると、銃の撃ち方に慣れ始めてきた頃の自分自身よりも酷い結果かもしれない。
今しがた、俺がセミオートでぶっ放した弾丸は31発。マガジンの中の30発と、最初から薬室の中に装填されていた1発である。だからラウラの狙撃のように同じ穴に弾丸をぶち込んでいない限り、目の前の的には順調に31個の風穴があいている筈だ。
しかし―――――――――目の前にある的に空いている穴の数は、どこから見ても31個に満たない。それどころか20個にすら届いていないかもしれない。15個か14個だろうかと少し多めに予測しながら穴の数を数え、やはり実際の結果が甘い予測を下回っていたことを知って落胆する。
11個。31発もぶっ放しておきながら、実際に命中した弾丸は11発である。
「酷いな、このスコアは」
いつも通りなら31発の弾丸を全て命中させている筈だ。もし仮に外していたとしても、少なくとも27発を下回ることはない。フルオート射撃でぶっ放せばさすがに命中精度も落ちてしまうが、セミオートでの射撃や3点バースト射撃でこんなに外すのは考えられないことだった。
ちなみに一昨日は12発で、昨日は14発である。
こんなに外してしまったのは幼少の頃以来だろうか。やっと銃に触ることを許してもらい、王都の自宅の地下にある射撃訓練場で本格的な射撃訓練を始めたばかりの頃は、これよりももう少し多く外していたような覚えがある。
ため息をつきながら空になったマガジンをAK-12から外し、安全装置(セーフティ)をかけてから射撃訓練場を後にする。
どうしても、射撃する瞬間にラウラのことを考えてしまう。もしかしたら懲罰部隊で過酷な任務を遂行させられ、大怪我を負っているのではないだろうか。作戦中に行方不明になったり、転生者に捕まって暴行を受けているのではないだろうか。
必死に集中しようとしているんだけど、どうしてもラウラのことが脳裏に浮かぶ。結局それが原因で全く集中できず、いつの間にか照準がずれてしまって命中率がとてつもなく悪化している。
このままでは――――――――みんなの足手まといになってしまうに違いない。
情けない自分に舌打ちしながら、とりあえず自室へと向かう。そろそろ夕食の時間だけど、できれば今は1人で過ごしたい。それに自室には買い溜めしておいた食材もあるから、それを調理して夕食を作ることにしよう。
料理も趣味の1つだし、気晴らしにはなるだろう。
すれ違った仲間たちに挨拶しながら、第一居住区へとたどり着く。自室のドアの前に立った俺はいつもの癖でノックしそうになったけれど、そういえばこの部屋に住んでいるのは俺だけだという事を思い出し、ドアをノックするために持ち上げた右手をすぐに引っ込めた。
無造作にドアを開け、真っ先にソファへと向かう。いつもは訓練から戻ってくるとドアを開けたばかりの俺に甘えてくるお姉ちゃんがいたけれど、今は俺だけだ。ソファに座ればしがみついてくる優しいお姉ちゃんはいない。
テンプル騎士団を率いる団長が、いつまでもこんな情けない状態でいるわけにはいかない。そういう自覚はあるのに、身体が言うことを聞いてくれない。今は1人なのだと何度も確認しても、もしかしたらラウラが返ってきてくれるのではないかと期待してしまう。訓練を終え、部屋のドアを開ければいつものようにお姉ちゃんが抱きしめてくれるのではないかと思い、ついつい期待しながらドアを開けてしまう。
ソファから立ち上がり、部屋にあるキッチンへと向かう。冷蔵庫の中から野菜や自作したソーセージを取り出し、鍋も準備しておく。
今夜は野菜スープにしよう。昨日は肉ばっかりだったし、なんとなく今夜は野菜が食べたい。野菜スープとパンで十分だろう。パンもライ麦のパンを買い溜めしておいたし。
手順を思い出しながら、てきぱきと野菜を洗い、切っていく。ニンジンとキャベツを切り終え、玉ねぎを切ろうとして包丁に力を込めた瞬間――――――――玉ねぎを押さえていた指に、ちょっとした痛みが襲い掛かった。
「……………」
ああ、指をちょっと切っちまった。
当たり前だけど、いつもはこんなミスはしない。間違えて指を切ってしまうのはいつ以来だろうか? こっちの世界に来てからは切った覚えはないから、多分前世以来だろう。18年以上もやらかすことがなかったミスをこんなところでやらかすとは思っていなかった俺は、手早く傷口を水で洗ってからヒーリング・エリクサーを少しだけ口に含み、さっさと傷口を塞いでしまう。
残っていた玉ねぎを切り終え、水を入れておいた鍋の中に野菜とソーセージをぶち込む。
俺が不在の間に、偵察部隊がまた砂漠を進む商人たちの元から50人も奴隷を救出したらしい。やはり帰るべき故郷は焼き払われて残っていないらしく、独断でこちらで受け入れることにしたという。
俺も確認したけれど、50人の奴隷たちは種族だけでなく年齢までさまざまで、少なくとも奴隷として使い物になる年齢の人々が集められていた。最も幼い奴隷は5歳くらいで、最年長は人間を基準に考えると、50代後半くらいの成人男性まで含まれていた。
その中で、テンプル騎士団の力になりたいと志願した志願兵の人数は35名。早くも3日前からナタリアが訓練させているらしく、今日も彼女に率いられてタンプル搭の岩山の内側をランニングしている彼らの姿を目にした。
念のため、一緒に受け入れた彼らの家族や非戦闘員にも最低限の戦闘訓練をさせるべきだろうか。人数が少ないし、もし戦闘部隊が出払っているうちに襲撃を受ければ、まだ防衛網が完全に機能していないタンプル搭はひとたまりもない。実質的に各ルートにつき2ヵ所ずつある検問所を突破されれば〝本土決戦”の始まりなのだから。
使い方が簡単で、なおかつコストがかからないものを中心に選び、訓練させるべきだろう。とりあえずこの案は今度の会議で円卓の騎士たちの判断に委ねてみようと思う。もちろん、幼い子供に銃を持たせるつもりはない。せめて10歳になっていれば訓練させるが、10歳未満は絶対に認めない。
スープに味付けし、もう少し煮込んでから火を止める。おたまで皿にスープを注いでから、俺は2人分のスープを持ってリビングの方へと向かった。
「お姉ちゃん、ごはん―――――――――ああ、そうか。1人か」
またいつもの癖だ。ラウラの分まで用意しちまった……………。
「……………」
くるりと踵を返し、余計に用意してしまった皿の中身を鍋の中へと戻す。鍋の中へとUターンする羽目になった具材を見届けてから、新しい皿の上に買い溜めしておいたライ麦のパンをこれでもかというほど盛り付け、スプーンを用意してから1人でテーブルへと向かう。
そういえば、ラウラはちゃんとしたご飯を食べさせてもらっているだろうか。残飯のようなものを食べさせられていないことを祈りながら、1人しかいない部屋の中で、黙々とパンを齧り、スープを飲み込んでいく。
今夜は早めに寝よう。明日は訓練があるし、シュタージとの打ち合わせもある。
再来週にはシュタージはヴリシア帝国へと向けて出発し、到着した日のうちに諜報活動を開始することになっている。大きな作戦の前に、団長が落ち込んでいる場合じゃない。
円形の大地から屹立する巨大な砲身の外周を、金髪の少女に率いられた兵士たちが走っている。年齢や種族はバラバラで、俺やナタリアと同年代に見えるエルフの少年や少女もいるし、人間ならば50代に差し掛かっていそうな男性もいる。テンプル騎士団の黒い制服に身を包み、背中には全面的に採用されているアサルトライフルのAK-12を背負いながら、息を切らしつつランニングする兵士たち。
彼らは全員、俺が不在の間に加わった志願兵たちだ。
故郷を失い、帰る場所を失ってしまった哀れなカルガニスタンの住人達。人手が足りないテンプル騎士団にとって、彼らの加入は本当に心強い。
先頭をナタリアが走り、最後尾ではウラルが走っている。呼吸を荒くしながら今にも脱落しそうな志願兵を励ましながら、何とか完走させようとしている姿が伺える。
「ほら急げ!」
「はぁっ、はぁっ…………!」
テンプル騎士団は基本的に人手不足だ。だから戦うことが苦手なメンバーは後方支援や工房での仕事など、戦うことにあまり関係ない部署に配属するようにしている。
人手不足だし、志願してくれたのならば彼らには熱意があるという事だ。それを無駄にしないためにも、そういった措置をとるようにしている。
休憩した後は銃剣突撃の訓練だ。もう既に号令を担当するイリナが腰に真っ黒に塗った法螺貝を下げているのが見えるんだが、気に入ったんだろうか? またノリツッコミするの嫌だよ?
水筒の中のアイスティーを飲もうと思って蓋を開けようとしたその時、西側にある検問所のゲートが開き、その向こうから分厚い装甲と重火器に全身を覆われた金属の怪物が、がっちりしたキャタピラで地面を蹂躙しながらタンプル搭の敷地内へと入り込んできた。
両サイドにキャタピラがある車体と、その上に太い砲身が伸びる砲塔が乗っていることから、一目で戦車であるという事が分かる。しかしその戦車にはチーフテンのような流線形の部分は見受けられず、全体的な形状はチャレンジャー2に近い。
その戦車の正体は、アメリカ軍で正式採用されている『M1A2エイブラムス』。実戦を経験しつつ強化されてきた
こんな高性能な戦車が開発された経緯は、冷戦の真っ只中まで遡る。
当時のアメリカ軍では、『M60パットン』と呼ばれる戦車を採用していた。こちらも優秀な戦車だったんだが、当時のソ連の軍事力はかなり強大であり、このM60パットンではソ連軍の戦車部隊を食い止めるには役不足であるとアメリカ軍は判断し、第二次世界大戦中には優秀な戦車を開発していた西ドイツと共同でソ連の戦車を上回る高性能な戦車を生み出そうという計画を始動させる。
その計画でアメリカ軍が試作型の戦車として開発したのが、『MBT-70』と呼ばれる試作型戦車である。当時のアメリカと西ドイツで採用されていた戦車を上回る性能を持つことが立証された優秀な兵器だったが、コストが大きくなり過ぎてしまったために計画は失敗してしまい、この開発されたMBT-70は実戦投入されることなく埃をかぶる羽目になった。
しかしこの計画でヒントを得たアメリカは、このMBT-70をベースにして改良を進めていき、後に世界でも最強クラスの戦車と言われることになるM1エイブラムスを開発することになるのである。
性能は優秀で、しかもカスタマイズがしやすい汎用性の高い戦車。まさに理想的な戦車である。
もちろんテンプル騎士団仕様のエイブラムスたちにも、もう既にカスタマイズが施してある。とはいえもともと優秀な戦車なので大掛かりな改造はされていない。主砲同軸とキューポラの近くに備え付けてある重機関銃をブローニングM2からロシアのKordに変更し、砲塔の上にKordを2丁搭載したプロテクターRWSを搭載したくらいだ。後は必要に応じて装甲を追加したり、カスタマイズすればいい。
格納庫へと戻っていくM1A2エイブラムスを見送っていると、休憩していた兵士たちが立ち上がり、アサルトライフルに銃剣を装着し始めた。どうやらそろそろ休憩時間は終わりらしい。
そういえば、ドワーフたちが俺が王都に行っている間に飛行場の建造にも着手し始めたという。彼らはすぐに居住区を作ってしまうほどの技術を持っているから、きっと飛行場もすぐに完成するだろう。もし完成したらすぐに戦闘機を飛ばせるように、今のうちに採用する戦闘機を考えておいた方がいいかもしれない。
それに岩山の中を流れる大きな河も、水深は潜水艦が潜航して航行できるほどの深さがあるし、空母が何隻も停泊できるほどのスペースがある。洞窟の中を補強してやれば、軍港に早変わりするに違いない。しかも河はそのままウィルバー海峡まで続いているので、河を下るだけで簡単に海へと艦隊を展開することができる。帰還する時は逆に河を上ってくればいい。
運用する海上戦力も考えておかないと。
やることはたくさんある。いつまでもラウラがいないからと落ち込んでいる場合じゃない。
息を吐きながら水筒をしまった俺は、手にしていたAK-12に銃剣を装着すると、銃剣突撃の訓練のために集合し始めた仲間たちの元へと走っていった。
……………突撃の時の合図は、やっぱりイリナの法螺貝だった。
おまけ
この人もでした
タクヤ「ああ、お姉ちゃん大丈夫かなぁ…………ケガしてないよな……………?」
エミリア「心配し過ぎだぞ。ラウラなら頑張ってるし、大丈夫だ」
タクヤ「で、でも、お姉ちゃんっていろいろと不器用だし……………」
エミリア「まったく…………。なあ、リキヤ。タクヤがずっとラウラのことを心配しているんだが、ラウラは大丈夫だよな?」
リキヤ「だ、大丈夫かな…………? た、体調崩したりとか、負傷してないよな…………?」
タクヤ&エミリア「!?」
リキヤ「ああ、心配だ…………あいつ不器用だし、大丈夫かな…………?」
エミリア「大黒柱が戸惑ってどうするんだ馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
リキヤ「こんからー!?」
タクヤ「親父ぃっ!?」
完
※コンカラーはイギリスの重戦車、もしくは原子力潜水艦です。
……………いつかMBT-70も出したいです(血涙)