異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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レナとラウラ

 

 

 隣で眠る可愛い弟から、あの嫌な臭いが消えた。

 

 いつもの甘い香りがする。石鹸と花の香りを足したような、小さい頃から嗅ぎ慣れている甘い匂い。不順で汚らわしいものが一切混じっていない純粋な匂いに戻せたことに満足しながら、私は隣でベッドに手足を縛られた状態で眠るタクヤの頭を優しく撫でた。

 

 寝ている間に手足を縛っておいたんだけど、起きたらびっくりするかな? 申し訳ないけど、こうしないとダメなの。大切なタクヤがこれ以上汚れないようにするためには、こうして逃げられないようにしておかないと。

 

 最初は手足を切り落としてしまおうと思ったんだけど、そうしたら出血で死んじゃうかもしれないし、私の可愛いタクヤが痛がっちゃうからね。そんなことをしたらタクヤが可哀そうだから手足を縛ることにしたんだけど、許してくれるかな?

 

「………………」

 

 タクヤの蒼い髪はとてもさらさらしている。小さい頃から私はこうやってタクヤに抱き着いて、髪の匂いを嗅ぎながら眠っていた。幼少の頃のことを思い出しながら、眠っているタクヤの頬にそっとキスをする。

 

 もうあの女(レナ)の臭いはしない。私の匂いでたくさん上書きしたから、もうあんな女の臭いはしないと思う。

 

 私はタクヤのためなら何でもする。だからあの子が何かを望むならば、私にできる事ならば全力で手伝うようにしている。けれど、もしタクヤがレナちゃんを望むようなことがあるならば、私はそれを全力で止める。

 

 だって、あんなの(あの子)はタクヤのためにならないもん。あんな女と一緒にいたら、私の大切なタクヤが一緒に腐っちゃう。あれは確実にタクヤのためにならない。タクヤの近くにいるだけで、私の可愛い弟がダメになってしまう。

 

 だから、あの女(レナ)にだけは絶対にタクヤは渡さない。あんな自分勝手でいろんな男と一緒にいるような女には、絶対に渡してたまるか。

 

「………………壊した方がいいのかな」

 

 昨日、タクヤは買い物に行ったときにレナと遭遇してしまったんだと思う。夜中にタクヤを襲いながら問い詰めてみたんだけど、タクヤから会いに行ったわけではないというのはよく分かった。タクヤは私や他の仲間をとても大事にしてくれる優しい子だし、最初にレナと会った時も嫌そうな顔をしていたから、自分から会いに行ったとは考えられないよね。

 

 ということは、偶然買い物の最中に遭遇してしまった可能性が高い。それかレナが狙ってタクヤに接近した可能性もある。

 

 あいつ、まだガルガディーブルにいるのかな? あの街にはこれからもタクヤが出かけると思うから、あの街に居座られると本当に厄介。隙を見てタクヤに近づいてくるかもしれないし、タクヤを奪うつもりなのかもしれない。

 

「――――――――渡さない」

 

 絶対に渡さない。

 

 この子は、私の大切な弟なんだから。

 

 あの女はタクヤにとって病原菌でしかない。放っておいたらタクヤが病気になっちゃう。

 

 病原菌はちゃんと〝駆除”しないとね………………。

 

 うん。もう―――――――――駆除しちゃおう。

 

 だって、タクヤの手からもあの女の嫌な臭いがしたんだよ? それに唇からはもっと嫌な臭いがしたし、タクヤに「お姉ちゃんに甘えるのはよくない」って説教したんだって。

 

 タクヤを奪うつもりなのかな? そうやって自分の臭いでタクヤを汚して、タクヤを私から切り離すつもりなのかな?

 

 本当に病原菌みたいな女。本格的に駆除しないと、タクヤが本当に汚れちゃう。

 

 消さないとね。あの女がいなければ、タクヤが汚れることはないし。

 

「ふふふっ………………タクヤっ♪」

 

 もう一度頬にキスをしてから、静かに顔を離す。

 

「待っててね。お姉ちゃんが病原菌を駆除してあげる」

 

 そうすれば、タクヤのためにもなる。

 

 ニッコリと微笑んだ私は、もう一度タクヤに抱き着きながら眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きた時に手足が動かない感覚には、もう慣れてしまった。というか、昨日の夜にあんなことがあった時点で、次の日の朝には手足をベッドに縛り付けられているんじゃないだろうかと推測はしてたんだけど、やっぱり的中しちゃったよ。

 

 瞼をこすることもできないまま、そっと顔を上げて両手と両足を確認する。やっぱり男子にしては華奢に見える俺の手足はロープでベッドに縛り付けられていて、俺の身体の上にはこんなことをやってくれた張本人が、下着の上にワイシャツを羽織った状態でのしかかりながらすやすやと眠っている。

 

 目が虚ろになった時の彼女は怖いけれど、こうやって眠っている姉の寝顔は小さい頃から全然変わんない。いくら成長して大人びても、寝顔というのはそんなに変わらないものなんだろうか。俺だって小さい頃から彼女とずっと一緒にいたのだから、幼少の頃の彼女の寝顔はちゃんと覚えている。

 

 それにしても、この縛られてる手足を何とかしたいものだ。俺の筋力なら強引に引き千切って逃げられるんだけど、そんなことしたらラウラに怒られるかもしれないし、下手をすれば今度こそ殺されるかもしれない。

 

 とりあえずこのまま大人しくしていよう。ラウラだって俺をずっと監禁するつもりはない筈だ。

 

「ふにゃ………………」

 

「おはよう、お姉ちゃん」

 

 すると、俺の上にのしかかっていたヤンデレのお姉ちゃんが目を覚ました。ゆっくりと自分の手を持ち上げて瞼をこすりつつ、あくびをしてから俺の胸板に頬ずりを始める。

 

 いつもなら微笑ましい仕草だけど―――――――――まだ彼女の紅い瞳は、虚ろだ。

 

「えへへっ、おはよう」

 

「……………ところで、いつの間に縛ったの?」

 

「ええとね、タクヤが眠ってる間に縛っちゃったの♪ ずーっとこのままでもいいよ?」

 

「いや、さすがにそれは困るんだけど」

 

 俺無防備じゃん。ずっとこのままってことは、ラウラに毎日のように搾り取られるってことですよね?

 

 発情期の衝動がきた時のラウラもヤバいけど、昨日の夜のラウラもかなりヤバかった。あんなに徹底的に搾り取られたのは人生で初めてかもしれない。まあ、あんなに徹底的だったのは俺の身体からレナの臭いを完全に消すためだと思うんだが、多分今すぐに解放されたとしても歩いたら力が入らなくてふらついてしまうかもしれない。

 

 何でハヤカワ家の男子はこんなに女に襲われやすいんでしょうね。呪われてんの?

 

 でも、親父は「子供が2人で済んだのが奇跡だと思えるレベルで搾り取られた」って言ってたし、親父が経験したのと比べればまだこれは序の口なのか。

 

 あれ? そういえば昨日襲われる前にあの薬飲んだっけ? ラウラの発情期対策に母さんから渡された妊娠を抑制するあの錠剤はまだ半分以上残ってたはずなんだけど……………。

 

 そう思いながら昨日の夜のことを思い出してみるけど―――――――――あの便利な薬を飲んだ覚えはない。

 

 ま、まさか、飲まない状態でラウラに襲われちゃった………………?

 

「………………!?」

 

「えへへへっ。タクヤの子供なら大歓迎だよっ♪」

 

 いや、旅をしながら子育てするのは無理があるでしょ。せめて子供を作るのは結婚してからにしようぜって前言わなかったっけ?

 

 とりあえず、旅の最中に子供ができないことを祈ろう。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

「ふにゅ?」

 

「いつまで俺は縛られてるの?」

 

「うーん………………どうしようかなぁ。またあの女の臭いが付いたら嫌だし、お姉ちゃんは一生縛ってたいところなんだけど………………そしたら旅ができないもんね」

 

「うん、かなり困る」

 

「ふにゅー………………ずっと縛られてるのは嫌?」

 

「うーん……………嫌と言うか、困る」

 

「そうだよね………………うん、だったらあと2時間くらい縛ってるねっ♪」

 

 あれ? てっきり一生縛るつもりかと思ったけど、ちゃんと俺のことを考えてくれてるんだろうか。随分と優しいヤンデレだな、ラウラは。

 

 あ、でも2時間って思ってるより長いかも。一生よりははるかにマシだけど。

 

 今はもう目つきを除けばいつもの優しいお姉ちゃんに戻りつつあるラウラだけど、昨日の夜は怖かった。俺のことを襲いつつ、あの虚ろな瞳で睨みつけながらレナのことについて問い詰めてきたんだからな。

 

 お姉ちゃんに嘘はつきたくなかったし、もし仮に誤魔化そうとしていてもすぐにバレそうだったから、正直に話した。やむを得ず手をつないだことだけではなく、「お姉ちゃんに甘えるのはよくない」と説教されたことや―――――――――キスされたことまで。

 

 特にキスをされたことを離した瞬間、ラウラの顔が険しくなった。戦闘中しかあんな顔を見たことがない。いつも俺に甘えている彼女からは想像できないほど殺意を剥き出しにした表情だった。そんな表情をしていた彼女が枕元にナイフをさりげなく置いた時は殺されるんじゃないかと思ったけど、ただそこに置いといただけだったらしい。

 

 というか、あのナイフは何のために置いといたんだろうか? 辛うじてバッドエンドは回避できたみたいだけど、もしまたこんなことがあったら今度こそ殺されるかもしれない。

 

 うん。もうレナを見つけたら一目散に逃げよう。

 

「あっ、そういえば結局夕飯食べなかったね」

 

「そうだな……………」

 

 帰ってきてからすぐに襲われたからな。おかげでシャワーも浴びてない。

 

「ごめんね、お姉ちゃんのせいで……………」

 

「い、いいんだよ。俺だってレナの臭いがするの、嫌だったし」

 

「ふにゅ………………あっ、じゃあもう少ししたらシャワー浴びてきなよ。その間にお姉ちゃんがご飯作ってあげる♪」

 

「え? 大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。最近ナタリアちゃんからいろいろとお料理を教えてもらってるし、私のせいで夕飯が食べれなかったんだから」

 

 ナイスだナタリア!

 

 ああ、これは期待できるぞ。今のラウラはもう料理が上手くなってるから少なくとも彼女の飯を食って戦死するようなことはない!

 

 彼女が作ってくれる朝食を楽しみにしながら、俺はもう少しお姉ちゃんとイチャイチャすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中に、巨躯が浮遊していた。

 

 それの〝原型”となった機体よりもいくらかはすらりとしているけれども、まだ武骨と言える形状をしている。左右に伸びたスタブウイングの下にはこれでもかというほど対戦車ミサイルやロケットポッドがぶら下げられており、その傍らにある兵員室のハッチからは、アサルトライフルを装備した歩兵たちがロープを使って地上へと降下する訓練を行っている。

 

 テンプル騎士団で採用することになった、南アフリカ製攻撃ヘリの『Mi-24/35Mk.Ⅲスーパーハインド』だ。原型となったのはソ連で開発された『Mi-24ハインド』で、それを南アフリカで改造したのがこのスーパーハインドになる。

 

 対戦車ミサイルや機首の大口径の機関砲による圧倒的な攻撃力を持ちつつ、さらにヘリの中でも装甲が厚いため防御力も高い。その分機動性はやや低めになっているが、それはこの機体が持つもう1つの利点でカバーすることができる。

 

 なんと、兵員室に歩兵を数名乗せて降下させることができるのだ。だから降下させた歩兵を上空から援護することもできるし、逆に歩兵に対空兵器を破壊して支援してもらうことで、より効果的な対地攻撃ができるようになるという利点がある。歩兵の展開と対地攻撃を迅速に行える優秀な兵器であるため、最初からヘリを運用することになればこれを採用しようと決めていた機体でもある。

 

 実際にスーパーハインドは、親父が率いるモリガンでも本格的に運用され、あらゆる作戦で大きな戦果をあげたという。ドワーフたちの働きによって予定よりも早くヘリポートが完成したので、早速訓練を開始したというわけだ。

 

 歩兵を降下させる訓練を行っているのは2機のスーパーハインド。タンプル搭には最終的に訓練用の2機を含め、10機のスーパーハインドを配備する予定になっている。俺たちの目の前で飛んでいるのはその訓練用の2機で、残りの8機は格納庫ですやすやと眠っている。

 

 テンプル騎士団のエンブレムが描かれ、黒と灰色の迷彩模様に塗装されたスーパーハインドから最後の歩兵が降下していき、とりあえず空中からの降下の訓練は終了だ。歩兵部隊は続けて地上の敵の殲滅戦の訓練へと移行するらしい。

 

「まだちょっとぎこちないな」

 

「でも、あの兵器をちゃんと運用できるようになれば戦力はアップするわね」

 

「まあな」

 

 隣で訓練の様子を見守っていたナタリアにそう言いながら、傍らのヘリポートへと戻ってくる2機のスーパーハインドへと手を振る。

 

 テンプル騎士団本部の戦力は、これまで地上戦力にばかり偏っていた。しかしこれからはヘリがあるし、最終的にはこの岩山の内部をくり抜いて大規模な軍港と飛行場を作り、海上戦力と航空機の本格的な運用も視野に入れている。特に海上戦力は、岩山の中を流れる大きな河がそのままヴリシア帝国へと続くウィルバー海峡まで伸びているので、軍港にすればヴリシア侵攻の際に役に立つはずである。

 

 とりあえず、スーパーハインドの運用はこれから本格化するだろう。けれどもさすがにスーパーハインドに依存しすぎるのも問題なので、汎用ヘリや輸送ヘリなどの他のヘリの運用も視野に入れなければならない。

 

 ヘリにも様々な種類がある。あのスーパーハインドのように本格的な攻撃を視野に入れて設計されているヘリは「攻撃ヘリ」に分類されるし、様々な任務に使用できるようなヘリは「汎用ヘリ」に分類される。スオミ支部に配備されているブラックホークがこれにあたる。

 

 輸送ヘリは大型の奴がいいな。他の支部への物資の輸送も任せられそうだし、兵員の輸送にも投入できそうだ。まだ仲間たちには話していないけど、現時点での候補はソ連製の『Mi-26』や『Mi-12』だろうか。どちらもかなりでかいヘリなので、輸送できる物資の量はかなり期待できる。ただし小回りが利かないので、護衛にヘリをつける必要がありそうだ。

 

「それにしても、傭兵さんの住んでた世界の兵器ってすごいわね………………あんなに大きな物体が飛ぶなんて考えられないわ」

 

「今度乗ってみるか? 俺も操縦できるぜ?」

 

「えっ? ………………わ、悪くないわね……………」

 

 顔を赤くしながら、ナタリアは下を向いてしまう。

 

 スーパーハインドが着陸するのを見守っていると、格納庫のハッチの向こうからバイクが飛び出したのが見えた。偵察部隊かと思ったけど、姿を現したのは偵察用のバイクではなく、俺がよく愛用しているウクライナ製のKMZドニエプルである。

 

 黒と灰色の迷彩模様に塗装されたバイクに乗っているのは――――――――黒いベレー帽をかぶった、赤毛の少女だった。

 

「ラウラ、どこ行くんだ?」

 

 無線機で問いかけると、彼女はバイクを走らせながら返事を返してきた。

 

『ちょっとお買い物! すぐ戻るから! ナタリアちゃん、私の代わりにタクヤのお世話をお願いね!』

 

「えっ? わ、私っ?」

 

 せ、世話って、俺はもう18歳だぞ? それに少なくともラウラよりはしっかり者だって自信もあるし………………。

 

 そう思いながらちらりと隣を見ると、顔を赤くしているナタリアと目が合ってしまう。どういうわけか俺まで恥ずかしくなってしまい、俺も彼女と同じように顔を赤くしながら下を向く羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンから戻ってから、近くの席ですぐに簡単なレポートを書いて提出し、報酬を受け取って酒場へと向かう。そこで夕食を摂りつつ男の冒険者に声をかけ、一緒に夕食を食べたり、次の日にダンジョンへと一緒に向かうのが彼女の日課だった。

 

 その日も同じように難易度が適度に低いダンジョンから戻ったレナは、レポートを手早く書いて窓口へと提出し、報酬を受け取って管理局を後にしていた。彼女の武装はダガーのみで、攻撃力は極めて貧弱と言わざるを得ないが、基本的に彼女は魔物とは戦わない。魔物に気付かれないようにダンジョンの奥へと進み、内部の様子を調査してから戻ってくるようなタイプの冒険者である。冒険者の仕事は魔物の退治ではなく、あくまでダンジョンの調査だから間違っているわけではない。

 

 実際にこのようなやり方の冒険者も多いのだから、咎められる筋合いもないのだ。

 

(それにしても、タクヤ君も成長してたなぁ……………)

 

 幼少の頃、一緒に遊んでいた少女のような容姿の少年のことを思い浮かべながら、酒場へと続く路地裏を進んでいく。無造作に置かれている樽をあっさりと躱し、ゴミ箱の近くに集まっていた野良猫たちを飛び越えながら、鼻歌を歌いつつ酒場へと向かう。

 

 予想以上に少女のような容姿になっていた事には驚いたが、知り合いに異国の街で再会できたのは嬉しい。もしあそこに彼の仲間や姉がいなかったら、ダンジョンの調査に誘っていたところである。

 

(それにしても、あのお姉さんは本当に邪魔ね。タクヤ君と一緒にいれないじゃん)

 

 あわよくばタクヤと付き合おうと少しばかり考えていた彼女にとって、ラウラはまさに邪魔者だった。あんな姉と一緒に育ったから、タクヤは彼女から離れられなくなっているに違いない。

 

 だから街で偶然出会った時、タクヤには「あまりお姉さんに甘えるのはよくない」と少しばかり説教したのだ。

 

 もう少しで路地裏を抜けられると思った彼女だったが、その出口の近くに人影が立っていることに気付き、少しだけ歩く速度を落とす。

 

 ただそこに立っているだけではない。こちらを向き、明らかにレナを先へは進ませないと言わんばかりに立ちはだかっている。路地裏にいるのはレナだけだから、他の誰かに用事があるわけでもない。

 

 誰だと問いかけようとしたレナだったが―――――――――目の前に立ちはだかる人影の後ろを通過した馬車のランタンが、その人影の姿を少しの間だけ照らし出した。

 

 大人びた容姿と特徴的な長い赤毛。ツーサイドアップになっている赤毛には、紅いラインの入った長くて黒いリボンが結ばれている。タクヤが髪に結んでいたリボンと同じデザインで、違う部分は色だけである。

 

 一瞬だけ大人の女性かと思ったが―――――――――レナを不機嫌そうな目つきで睨んでくるその女には、見覚えがあった。

 

 幼少の頃からタクヤを束縛している、彼の姉である。

 

「――――――――私に何か用?」

 

「ええ」

 

 こちらも不機嫌そうな口調で尋ねると、目の前に立ちはだかる赤毛の少女は――――――――虚ろな目で言った。

 

「――――――――話があるんだけど、いいかしら?」

 

 

 

 


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