異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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イリナが冒険者になるとこうなる

 

 

 一通り訓練で乗り方を覚えたとはいえ、戦車や装甲車に比べると乗った回数は少ないのだから、それほど運転に慣れているというわけではない。それでも適度に警戒しつつ、乗り慣れないウクライナ製のバイクの運転を楽しんでいれば、50kmの距離を駆け抜けるのに費やした時間はほんの数分のように感じられる。

 

 とはいえ、そのほんの数分に感じられた移動中の時間を、一刻も早く終えてくれと願っている仲間がいる事も分かっている。何度もラウラが渡したアイスティーを口に含み、嘔吐するのを必死にこらえ続けたイリナの目の前でドライブを楽しむわけにはいかないのだ。

 

 砂を孕んだ風の壁を通り抜けた先には、偵察部隊の情報通りに街が広がっていた。タンプル搭から南東に50kmの地点に存在したその街は、カルガニスタンの伝統的な建築様式の建物と、この国を占領して植民地にしているフランセン共和国の建築様式の建物が入り混じった独特な世界になっていて、入り口の門には槍を手にしたフランセンの騎士たちが数名ほど見張りをしている。

 

 その入り口から見る限りではそれなりに繁栄している街のようだった。ラクダに乗った商人が商品を売り、買い物客が露店の前に群がる。産業革命の影響をあまり受けていないせいなのか、ラガヴァンビウスやエイナ・ドルレアンのしっかりと舗装された大通りに比べると質素な感じはするけれど、貧しいという感じはしない。

 

「到着だ」

 

「ふにゃー、なかなか大きな街だね」

 

「うう…………は、早く、日陰に……………」

 

「おいおい、大丈夫かよ!?」

 

 慌ててKMZドニエプルから降り、サイドカーから今にも転がり落ちそうになっていたイリナをサイドカーから引っ張り出す。がつん、と彼女の太腿がサイドカーに備え付けられている機関銃の銃床がぶつかってしまったが、とりあえずそのままイリナを引っ張り出し、肩を貸して何とか立たせる。

 

 ここまで来る途中に何度も吐きそうになっていたイリナだったが、結局彼女がそんなことをする羽目にはならずに済んだ。俺が可能な限り飛ばしたことと、道中に珍しく魔物が出現しなかったのが功を奏したのだろう。後は彼女の忍耐力か。

 

 吸血鬼はあらゆる種族の中でも最もプライドが高い種族だという。他の種族が持たない再生能力と強靭な身体能力を持つため、強い種族の名を挙げるとすれば必ずその中に吸血鬼の名前が並ぶほどだ。それゆえに彼らは吸血鬼として生まれた自分に誇りを持ち、吸血鬼という種族に敬意を持つ。

 

 きっとそのプライドの高さも、彼女の忍耐力につながったんだろう。――――――「吐いてたまるか」という、なんだか間抜けな執念に。

 

 メニュー画面を開き、バイクを装備していた兵器の一覧の中から解除する。何の前触れもなく消滅したバイクを一瞥し、俺はイリナに肩を貸したままラウラを連れて街のほうへと歩いていく。

 

 さて、何とか街についたのはいいんだが、ここはどうやらまだフランセン共和国の支配下にある街のようだ。ムジャヒディンたちのように支配から解放されたわけではないらしい。

 

「ん? 街に入るのか?」

 

「はい、冒険者です」

 

 門の前で見張りをしていた騎士の1人に声をかけられたので、とりあえず冒険者の証である銀のバッジを提示する。このバッジは身分証明書代わりにもなるので、こういった場合に提示するとすんなりと門を通らせてくれるのだ。しかも各国共通の身分証明書となるので、いちいち国境を超える度に書き換える必要もない。

 

 ラウラも同じようにバッジを見せるが、俺の肩を借りながら何とか立っているイリナにバッジはない。彼女だけ持っていないというのも不自然だが…………何とか嘘をつこう。相手を欺くのだったら得意分野だ。

 

「で、その子は? バッジを持ってないのか?」

 

「ああ、はい。こいつも冒険者になるらしくて、今から資格を取りに行くんです。ここって管理局あります?」

 

「おう、あるぞ。通りを真っ直ぐ進んでいくと鍛冶屋の看板があるんだが、その隣だ」

 

「どうも」

 

「ところで、お前らの連れはどうしてぐったりしてるんだ?」

 

「あははははっ。馬車が苦手らしくて…………」

 

「あー、酔っちゃったのか。よくいるよな、そういうやつ」

 

 何とか誤魔化せたんだろうか。以前にはフランセン共和国の騎士団を相手に派手な戦闘をやったばかりだし、できるならばこんなところで一戦交えたくはないものである。

 

 フランセンを憎んでいる筈のイリナもこんな状態だし、面倒なことにはならないだろう。まあ、もし仮に彼女がいつも通りの状態でも、感情的になっていきなり攻撃を仕掛けるような真似はしない筈だ。いくらテンプル騎士団の誇る変人の1人とはいえ、冷静さも兼ね備えている。

 

 挨拶して入口へと入ろうとしていると、先ほどバッジを提示した騎士が「ああ、待て」と言いながら、入口へと向かって歩き出していた俺たちに向かって何かを放り投げた。

 

 小さな容器に入っていたのは――――――――錠剤のようだ。何でもヒールやエリクサーで治せてしまうこの世界では珍しい、前世の世界の薬品に近い代物である。

 

「もしまた馬車に乗るんだったら、それ飲ませてやりな」

 

「あっ、すいません」

 

 酔い止めか。でも、イリナの場合って酔うっていうよりは日光が苦手なだけなんだよなぁ。

 

 とっさに思い付いた言い訳に見事に騙されたわけだ。申し訳ない…………。

 

 頭を下げてから踵を返し、入口へと向かう。防壁の真っ只中に穴をあけてちょっとしたトンネルにしたようなデザインになっているため、一時的にとはいえそこは日陰だ。足を踏み入れると、俺の肩にのしかかりながら、まるで瀕死の負傷兵のようなとてつもない呼吸をしていた彼女がちょっとだけ息を吹き返す。

 

「あー……………暗闇って気持ち良い……………」

 

「でもあと数歩でまた日が当たるぞ」

 

「……………嘘でしょ?」

 

 嘘じゃねえよ。防壁をくり抜いたトンネルと言っても、ラガヴァンビウスみたいな分厚い防壁じゃない。せいぜい厚さは4m程度である。

 

 絶望してぶるぶると震えながら、目の前に広がる空間を見上げるイリナ。俺の肩を借りながら歩く彼女の目の前には、天空から照らし出す太陽の光にこれでもかと満たされている、灼熱の大地である。部分的に石畳で舗装されているものの、大半はまだ砂の地面のままになっているようだ。

 

 いくらフードで日光から頭を守り、チャックをしっかり占めて胸元を保護したとしても、やはり日光が苦手な吸血鬼にとって昼間に外に出るのは自殺行為のようなものなんだろう。…………やっぱり、イリナには留守番を頼んでおけばよかった。

 

「で、できるだけ日の当たらない場所を通るよ。路地裏とか」

 

「ぜ、ぜひお願いします……………」

 

「イリナちゃん、辛かったら日陰で休んでていいからね?」

 

「大丈夫だよ………ぼ、僕、我慢するのには慣れてるんだ」

 

 いや、無理したら拙いだろ。

 

「とりあえず、街の中を調査してみるか。…………あ、そうだ。イリナも冒険者の資格を取っておいたほうがいいんじゃないか?」

 

「ふにゅ、そのほうがいいかもね」

 

「ぼ、冒険者…………?」

 

「ああ」

 

 冒険者の資格を取れば、ダンジョンに入って内部を調査し、それをレポートにして最寄りの管理局へと提出すれば、調査した内容にもよるが、一般的な職業と比べると高額の報酬を受け取ることができる。

 

 生息している魔物や環境が過酷すぎるせいで全く調査できていない、世界地図の無数の空白の地域を調査しに行くのだから、やはりそれは命懸けの仕事だ。けれども報酬の金額が基本的に高いため、一攫千金を狙って冒険者となる若者たちは後を絶たない。

 

 親戚に冒険者が1人いれば、家族や親戚をそれなりに養うことができるほどと言われている。まあ、これは比較的貧しい家庭が多い国の話だから言い過ぎかもしれないけど、オルトバルカ王国でも家族の誰か1人が冒険者であれば少なくとも金がなくなる心配はないと言われている。

 

 今のテンプル騎士団には、資金がない。そのため冒険者の報酬は貴重な資金源となる。だから円卓の騎士たちの間では、戦闘員たちに極力冒険者の資格を取らせ、ダンジョンに送り込むべきだという意見がいくつも出ている。

 

 リスクは確かにあるが、高額の報酬が資金となるわけだし、それに戦闘員たちの錬度を向上させるいい訓練にもなる。もちろん彼らが頑張って手に入れた報酬を全額資金にするわけではなく、その中の何割かを組織のための資金として分けてもらい、残りは調査に向かった戦闘員たちの物にすればいい。どれだけ資金にするかはその戦闘員たちとこれから相談していく予定である。

 

「そ、そうしようかな…………おえっ」

 

「あ、日陰!」

 

「急げ急げ!」

 

 とりあえず、急いでイリナを日陰に連れて行こう。このままじゃマジでイリナが吐いちゃう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、こちらが冒険者のバッジになります」

 

「ありがとうございまーすっ!」

 

 カウンターの向こうにいるエルフの係員にバッジを渡されたイリナは、すっかり元気になっていた。受け取った銀のバッジをまじまじと見つめた彼女は、嬉しそうに笑いながらこれ見よがしにバッジを俺たちの方へと向けてはしゃいでいる。

 

 見張りの騎士が教えてくれた通りの場所に、この管理局の建物は建っていた。砂嵐に晒されたせいで屋根の上にも砂が乗っている鍛冶屋の隣にそびえ立つ管理局へと、街の入り口から〝普通に”歩いていけば10分ほどで到着していたことだろう。だが俺たちはイリナのために極力日陰を通り、更に日の当たらない路地裏を通っていくことを余儀なくされたため、結果的にここに到着するまでに費やした時間は3倍の30分。しかもいきなりぐったりした少女を連れた2人組が転がり込んできたのだから、冒険者たちや係員たちは全員唖然としていた。

 

 まあ、ちゃんとバッジも交付してもらえたみたいだし、イリナの体調も一時的に回復しているからこれで問題はないだろう。

 

 冒険者のバッジを貰うには名前と生年月日などの個人情報を記入し、自分の種族を記入してから、申込用紙の下の方にあるアンケートにも答えなければならない。窓口に行けば数秒で終わるような簡単な手続きである。

 

 ちなみにイリナの場合は種族を〝吸血鬼”と正直に答えると非常に面倒なことになるので、人間と書き込むように指示を出してある。ステラのように絶滅したと言われている種族ではないが、吸血鬼は今やレリエルの支配の影響で、あらゆる種族から敵だと見なされている種族であるため、こんなところで正直に吸血鬼だと名乗れば袋叩きにされた挙句、また奴隷に逆戻りという最悪な運命を辿ることになってしまう。

 

「よし、早速街を見て回るか」

 

「あ、待って。もう少し休みたいな………」

 

「そうだな…………よし、あそこの酒場で休もう」

 

 管理局の施設の中には、冒険者向けの酒場も用意されている。街にある普通の酒場を利用する冒険者もいるけれど、ここでレポートを書いて窓口に提出し、その報酬の一部で仲間と打ち上げをする冒険者も数多い。

 

 そういった冒険者のための酒場だからなのか、メニューは基本的に高カロリーの物ばかりだ。まあ、魔物に追い掛け回されたり、過酷な環境の中で調査してくる仕事なんだから、低カロリーの食い物ばかり食べていたらあっという間にやせ細ってしまうからな。そういう配慮なんだろう。

 

 ラウラとイリナを連れ、酒場の椅子に腰を下ろす。テーブルに置いてあるメニューを開いて2人に見せ、俺は椅子の背もたれに背中を預ける。

 

 ちょうど昼食の時間らしく、利用している冒険者たちの人数は多い。厨房の向こうからあふれる肉の焼ける香りと、ピザの生地の上で溶ける香ばしいチーズの香り。それに混じるのは冒険者たちの汗の臭いと、彼らがぶつけ合うビールのジョッキが発するアルコールの臭い。

 

 お洒落な喫茶店というよりは、豪快な男性が好みそうな店だ。

 

「こういうお店、兄さんが好きそうだね」

 

「そうなのか?」

 

「うん。兄さんはこんなワイルドな雰囲気が大好きだから」

 

 さすが兄貴。

 

「あ、このピザ美味しそう…………!」

 

「ミノタウロスのステーキだって。うわぁ…………この肉すごく大きいよ!」

 

「ああ、どれでもいいぞ。値段は気にすんなよ」

 

 ついさっき、イリナが登録している間に溜まってたレポートを出しておいたんだよね。とは言っても危険度の低い小さなダンジョンもあったし、提出期限が切れているレポートもあったけど、そこは書いた日付を誤魔化しておいた。

 

 レポートの提出期限はダンジョンの調査が終わってから1ヵ月後までと決まっているんだけど、俺が提出したのはとっくに期限の過ぎたシーヒドラと戦った海底神殿のレポートだ。提出期限は定められているが、細かくチェックする仕組みはないため、日付を誤魔化す冒険者がほとんどである。

 

 もちろん天秤のカギのことは書いてないし、シーヒドラを討伐したという情報も記入していなかったけど、最深部に黄金が保管されていたと記入したからなのか、報酬の金額は思ったよりも多かった。だから騎士団の資金にする分と使ってもいい分に分け、そのいくらかをここで使おうというわけだ。

 

「じゃあ、私はきのこのパスタかな。イリナちゃんは?」

 

「ええと、僕はミノタウロスのステーキにする! こういうお肉食べてみたかったんだよねー♪」

 

 吸血鬼は血を吸わない限り、空腹感が消えないような体質になっている。つまりステラと同じような体質というわけだ。

 

 イリナが第二の大食い(ステラ)にならないことを祈ろう…………。

 

 せっせと料理を運ぶウェイターを呼ぼうとしたその時だった。

 

「やあ、こんにちは」

 

「君たちも冒険者? 3人でパーティー組んでるの?」

 

 いつの間にか、テーブルの近くに2人の冒険者がやってきていた。片方は大剣を背負った黒髪のがっちりした男で、もう片方はレイピアとマンゴーシュを腰に下げた金髪の優男だ。

 

 どうせ俺たちだけで男はいないと思って声をかけたんだろうが、男ならここに1人いるんだって。ちゃんと息子搭載してるけど、確認します?

 

「そ、そうですけど…………?」

 

「そうなんだ。みんな可愛いね」

 

「俺も?」

 

 会話に参加すると、すかさず金髪の優男が俺を褒め始めた。

 

「ああ、もちろん。とても気が強そうだし、凛々しい感じがする。……………僕は君みたいな子が好みだな」

 

 おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

 や、やめて! そういう話はマジでやめて!

 

 うわ、最悪だ! 会話に参加しなきゃよかった! くそ、トラウマだよこれ! よりにもよって男に面と向かって「君みたいな子が好みだな」って言われるなんて……………!

 

 ぞっとしていると、その金髪の男が急に俺の手を握り始めた。おい、追撃すんじゃねえよ! トラウマになったらどうすんだ!?

 

「きれいな手だね……………汚らわしい魔物の血で汚れるのがもったいない」

 

「……………」

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

 最悪だ! くそ、余計なことしちまった!

 

 ええと、C4の起爆スイッチどこだっけ!? 今すぐ自爆したいんだけど、大丈夫だよね!? こんな男に女だと誤解されたままこんな恥ずかしいこと言われ続けるくらいなら、いっそC4爆弾で自爆したいんだけど、大丈夫!? いいよね!?

 

 ああ、もう片方の男に口説かれているラウラの目つきが段々と虚ろになっていく……………。正確には、男に口説かれるのが鬱陶しくてキレてるんじゃなくて、目の前で自分の弟が口説かれていることが気に食わないからキレているに違いない。きっとあの男の言葉は一言も聞いていないのだろう。

 

 拙いぞ、ラウラがキレたら絶対とんでもないことになる。問答無用でナイフを抜いて、このバカ共を目の前で八つ裂きにしかねない!

 

 さすがにそれは拙い。こいつらは転生者共みたいに人に危害を加えたわけではないし、第一ここは管理局の中の酒場。そんな大騒ぎになれば、資格の剥奪だけでは済まない。

 

 うわ、どうしよう!? 

 

 そろそろ俺が男だということを告げてもいいだろうかと思ったその時だった。

 

「やっほー、お兄さんたちっ♪」

 

「「え?」」

 

 酒場の入り口からやってきた金髪の少女が、俺たちを口説いていた2人の冒険者に声をかけたのである。とりあえずパーティーに女を誘えればいいと考えていたからなのか、2人の男はすぐに声をかけてきた少女の方を振り向いてしまう。

 

 まあ、なかなか首を縦に振らずに微妙な反応を返す女よりも、自分から声をかけてくれる女のほうがマシだろうな。口説こうとしていた女が自分の好きな女ならば話は別だけどさ。

 

 その男たちに声をかけた少女も冒険者らしかった。革製の防具を両足や肩に装備しているようだけど、防御力はそれほど期待していないらしい。腰に下げているのはマチェットをそのまま短くしたような短剣で、武装はそれだけのようだ。かなり身軽そうな冒険者である。

 

「ねえねえ、私1人で冒険者やってるんだけど、ダンジョンが怖くてなかなか出発できないの。お兄さんたちにエスコートしてほしいんだけど……………ダメかな?」

 

「ああ、いいよ。喜んでエスコートしよう。な?」

 

「おう。俺たちがちゃんと守ってあげるぜ!」

 

「ありがとうっ! 私、優しいお兄さんが大好きなの!」

 

 人懐っこそうな笑みを浮かべ、レイピア使いの男の胸に飛び込む金髪の少女。いきなり抱き着かれた金髪の男はすっかり顔を赤くしてしまっている。

 

 おいおい、初対面なんだろ? なんだか積極的すぎるというか、早過ぎないか? そう思いながら見守っていたんだが、美少女が自分から誘ってきたのだからいいだろうと思っているらしく、その2人組は納得してしまっているらしい。

 

 うーん、俺だったら詳しい事情を聴くけど、内容次第によっては断るな。第一、ヤンデレのお姉ちゃんの目の前で抱き着かれたら―――――――――。

 

 ―――――――ん? ちょっと待て。お姉ちゃんの前で抱き着く?

 

 なんだか幼少の頃、そんなことをしてきた女の子がいたような気がする。確かみんなで公園でサッカーをしていた時に、ラウラの目の前で堂々と俺に抱き着いてきた馴れ馴れしい女の子がいたんだ。

 

 その幼い頃の記憶の中に浮かんできた少女の顔つきと、目の前にいる金髪の少女の顔つきが―――――――重なる。

 

「あ、あれ? もしかして、レナ?」

 

「えっ? ……………君…………まさか、タクヤ君!?」

 

「え、知り合い?」

 

「うん! この子、私の幼馴染なの!」

 

 幼馴染じゃねえよ。公園で何度か一緒に遊んだ程度だろうが。

 

 というか、ラウラの前でそんなこと言わないでくれよ。彼女がまた機嫌を悪くしちまう。ため息をつきながらゆっくりとラウラの方を見てみた俺だったけど――――――――もうすでに、ラウラは機嫌を悪くしていた。

 

 虚ろな目でレナを睨みつけながら爪を噛んでいる。ナイフを抜いて襲い掛かるよりはましだけど、このままだと面倒なことになりそうだ。

 

 くそ、なんてこった。こんな砂漠の中にある街で―――――――お姉ちゃんがヤンデレになった元凶と再会するなんて……………。

 

 

 

 


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