異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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フィエーニュの森

 

 生まれ育った故郷が、燃え上がる。

 

 近所の友達の家も焼け落ち、いつもママの知り合いのおじさんが野菜を売っていた露店も燃え上がっている。レンガの色と空の色で染められた開放的な田舎の街は炎に支配され、いつも街中を漂っていた焼き立てのパンの香りは、焼け焦げる家のレンガと死体の臭いで蹂躙されていた。

 

 ママともはぐれてしまった。まだ3歳だった私は、お気に入りだったぬいぐるみを抱えたまま、熱風と陽炎の渦の下で泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 私は何もしていないのに、どうして私の故郷にこんなひどい事をするの?

 

『おい、お嬢ちゃん!』

 

 その時、燃え上がる大通りの向こうから人影が私の方へと走ってきた。この街を燃やした悪い人たちの仲間だと思って逃げようとしたんだけど、何だかその人は悪い人たちとは雰囲気が違った。

 

 周りの炎よりも真っ赤な髪を後ろで結んでいる、大人の人だった。手にはクロスボウみたいな武器を持っていて、炎みたいな真っ赤な瞳をしている。

 

 この人だ。いつもこの夢に現れて、私をママのところまで連れて行ってくれる人だ。

 

 私はこの人に憧れたから、冒険者になった。

 

『お、おにいさん、だれ………!?』

 

『俺は――――――』

 

 ――――――あなたは、傭兵さん。

 

 私を助けてくれた命の恩人で、私の憧れの人―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 藁と腐食した木の板の臭いが、目を覚ましたばかりの俺から強引に眠気を奪っていった。王都の家に住んでいた頃はいつも目を覚ませばラウラの甘い香りがしたんだが、その香りを上回るほどの臭いのせいでいつもの香りは全くしない。

 

 顔をしかめながら起き上がると、ラウラはまだ俺の膝の上で猫のように眠っていた。コートと同じく黒い革で作られたズボンには甘噛みされた痕とよだれがついていて、俺は朝っぱらから苦笑いをする。

 

 今度からはこんな臭いのしない場所を選びたいものだ。魔物の襲撃から身を守るのが第一なんだが、こんな悪臭の中で目を覚ますのは嫌だな。

 

 あくびをしながら背伸びをし、ラウラを起こすために彼女に手を伸ばす。

 

「ほら、ラウラ。起きてー。朝だよー」

 

「ふにゃ…………」

 

「ん? お、おい、尻尾出てる………!」

 

 黒と真紅の2色のミニスカートの中から、ラウラの赤黒い鱗に覆われた尻尾がいつの間にか伸びていた。時折尻尾を振りながら幸せそうに眠るのは可愛らしいんだが、さすがにナタリアの前で尻尾を見せるのは拙いだろ! キメラだってバレちまう!!

 

 俺ら人間じゃなくてキメラなんだから、ちゃんと正体は隠せって!!

 

 大慌てで尻尾を鷲掴みにしたのはいいんだが、確かラウラって尻尾は上着の中に隠してるんだっけ? それほど太い尻尾じゃないから違和感はないし、生えているのが腰の後ろからだからここに隠すしかないんだろうけど、何で寝ながら尻尾出してるんだよ!? 俺もそれなりに寝相が悪い筈だけど、尻尾はまだズボンの中に隠れてるぞ!?

 

 と、とにかく、ラウラが2人が寝てるうちに隠さないと………!

 

 さっと2人が眠っているか確認し、今がチャンスだと再認識した俺は、大急ぎで彼女の上着を少しだけたくし上げ、鷲掴みにしたラウラの尻尾をその中へと放り込んだ。そしてすぐに上着を元通りに戻し、額の冷や汗を腕で拭い去る。

 

 あ、危なかった……。もし俺たちが人間じゃないってバレてたら厄介な事になってたぞ。お姉ちゃん、もう少し気を付けてくれ。

 

 朝っぱらから頭の角を伸ばす羽目になった俺は、呼吸を整えながらちらりと隣で寝息を立てるナタリアの方を見た。ナタリアはまだ目を覚ました様子はない。見られては無いようだ。

 

「ん………ようへい……さん………」

 

「…………」

 

 きっと、昨日の夜に話してくれた傭兵の事だろう。その傭兵の夢を見ているのだろうか?

 

「んっ……………」

 

「おう、ナタリア」

 

「あれ……もう朝………?」

 

「ああ。おはよう」

 

「おはよう…………」

 

 瞼をこすりながら起き上がった彼女にそう言った俺は、ラウラの身体をまた揺すり始めた。俺にしがみつくようにして眠っていた彼女は、身体を揺すられることを嫌がるように「んん………」と声を上げると、寝返りをうつようにそっぽを向きながら頬を俺の太腿に擦り付け始める。

 

 めげずにそのまま揺すっていると、ラウラの白くて柔らかい手が伸びてきて、揺すっていた手を包み込んでしまう。

 

「甘えん坊なお姉ちゃんなのね……」

 

「ああ、こいつはブラコンだからな」

 

「え? ブラコン?」

 

 あれ? 何でナタリアが驚いてるんだ?

 

 あ、そういえば俺の性別は男だって言ってなかったな。きっと彼女も俺の容姿のせいで、俺を女だと思っていたんだろう。

 

「えっと、あの………俺、男なんだよ…………」

 

 申し訳ない、ナタリア。言い忘れてたんだ。

 

 目を覚ましたばかりのナタリアは、今まで同じ女だと思い込んでいたうちの1人が男だったと知って驚愕しているらしく、完全に眠気を吹っ飛ばされた状態で目を見開いている。

 

 だが、高温の金属が徐々に冷却されていくように少しずつ落ち着き始めたナタリアは、もう一度俺の顔を見て首を傾げると、いきなり微笑み始めた。

 

「嘘でしょ? 全然男子に見えないわよ?」

 

「本当だって。母さんに似たらしいんだけど………」

 

「きっとその顔つきと髪の長さのせいでしょ。それに声だって高いから女の子としか思えないわ」

 

 やっぱり声も高かったか……。髪型のせいだという事は分かってたんだが、きっと髪型を変えても女と見間違えられると思うぞ? 短髪にしても女の子だと思われたことがあるし。

 

 だから俺は、髪型はポニーテールのままにしている。どうやらこの状態で騎士団の防具を身に着けると、若かった頃の母さんに瓜二つらしい。実際にやったことはないんだが、洗面所で歯を磨いている時に試しに鏡の前で母さんと並んでみたんだが、確かに瓜二つだった。違いは瞳の色くらいで、もし母さんが俺と同い年だったらそれと胸の大きさ以外で見分けるのは不可能だろう。

 

 実は女だったんじゃないだろうか? でも、息子は搭載済みなんだよなぁ。

 

 俺の性別ってどっちなんだ?

 

「ふにゅ………」

 

「あ、ラウラ。おはよう」

 

「ふにゅー………タクヤ、おはようっ!」

 

 家にいた時のように、目を覚まして数秒後にしがみついてくるラウラ。また甘えてくると予測していたせいで押し倒されることはなかったが、俺の性別をナタリアに教えたせいなのか、今度は彼女は実の姉に抱き付かれている俺を見て驚愕しているようだった。

 

 引き剥がそうとするが、ラウラは目を瞑って首を横に振りながら全力で抵抗する。

 

「は、離れてくれって!」

 

「やだやだぁ! 甘えさせてよぉっ!」

 

 冒険に出ても、俺のお姉ちゃんは変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、ありがとね。楽しかったわ」

 

「おう、こっちこそ。気を付けろよ」

 

 非常食を朝食代わりにした俺たちは、野宿に使った馬小屋の跡で別れることにした。ナタリアは村の露店でアイテムを買ってから、早速ダンジョンであるフィエーニュの森へと向かう予定らしい。

 

 俺たちも肩慣らしにフィエーニュの森へと行く予定だったところだ。もしかしたら、ダンジョンの中でナタリアともう一度出会う事になるかもしれない。

 

 基本的にダンジョンの中で冒険者同士が出会った場合、敵対して成果を独り占めするか、共闘して戦果を山分けするかは自由となっている。そのため、危険な魔物を倒すまでは共闘して、倒した瞬間に裏切るような冒険者もいるらしい。ダンジョンの中で他の冒険者は、敵か味方か分からない。だからその冒険者の人格で判断するしかないという事だ。

 

 あの宿屋の1階にいた冒険者たちは裏切るような奴らばかりかもしれないが、ナタリアは裏切るような奴じゃないだろう。過去に虐げられる理不尽な経験をした奴は、同じように理不尽なことはしない。

 

 遠ざかっていく彼女に手を振っていると、ナタリアが曲がり角を曲がった直後にいきなりラウラがしがみついてきた。いつもみたいに甘えたがっているだけなのかと思って頭を撫でようとしたが、甘えたがっているだけにしては両手の力が強過ぎるような気がする。

 

「ラウラ………?」

 

「ねえ、タクヤ………」

 

 大きめの可愛らしいベレー帽の下から見上げてくる赤い瞳は、虚ろな目へと変貌していた。幼少の頃に他の女の子に抱き付かれた俺を見て、機嫌を悪くした時と同じ目つきだ。

 

 あの時は確か、家に帰ってから気が済むまでずっとしがみついたまま頬ずりしていたような気がする。いつもみたいに頭を撫でてあげても、きっとラウラは機嫌を直してくれないだろう。

 

「ど、どうした?」

 

「ナタリアと何の話をしていたの?」

 

「えっと、彼女の昔の話だよ。ナタリアが自分を助けてくれた傭兵に憧れてたって話」

 

「………本当に?」

 

「ああ、本当だよ」

 

 別に告白されたわけじゃないし、あの時みたいに抱き付かれてはいない。少しだけこの虚ろな目になった姉に慣れてしまった俺は、前のように出来るだけビビらずに、優しくラウラの頭を撫で続けた。

 

 これで機嫌を直してくれるだろうかと思っていると、ラウラは虚ろな目の状態でにやりと笑い、くんくんと俺のコートの匂いを嗅ぎ始めた。まだ少し藁の臭いが残っているけど、出発した時の甘い匂いも残っている。

 

 ラウラはやっと機嫌を直してくれたのか、やっと俺から手を離してくれた。いつもの元気な目つきに戻ってにっこりと笑い、自分の赤毛を弄り始める。

 

「良かった。ナタリアに私のタクヤが取られちゃったのかと思ったよぉ」

 

「そ、そうか。―――――それより、俺たちもダンジョンに行こうぜ。ここのダンジョンは危険度も低いらしいし」

 

「うん、そうだね。何だか楽しみになってきた!」

 

 冒険者の仕事はダンジョンの調査だからな。中にはダンジョンに入らず、魔物の素材を売って生計を立てている冒険者もいるらしいが、大半はやはりダンジョンの調査で報酬をもらっている奴らだ。

 

 中には味方になってくれるかもしれないが、これから始まるのは戦果と報酬の争奪戦というわけだ。場合によっては、他の冒険者をぶちのめさなければならない。

 

 ナタリアと戦う羽目にならなければいいなと思いながら、俺は左手を突き出してメニュー画面を開いた。既にアイテムは買いそろえてあるし、使ってしまったアイテムもない。あとはこれで武器を出して装備すれば、出撃準備は完了する。

 

 そういえば、生産できる物の中に『服装』って書いてあるんだが、これは何だ? 服装も生産できるのか?

 

 まだ一度もタッチしたことがなかったため、タッチしてメニューを開いた直後、蒼白いメッセージが目の前に表示された。

 

《ここでは、その名の通り服装を生産できます。中にはスキルを標準装備している服装もありますので、チェックしてみましょう。なお、身につけたことのある服も生産済みの装備品の中に登録されますので、すぐに着替える事ができます》

 

 へえ。スキルを持っている服装もあるのか。しかも能力で生み出した服じゃない服にもこの能力ですぐに着替える事ができるらしい。ということは、この転生者ハンターの服からすぐに別の服に着替えられるって事か?

 

 ラウラにスナイパーライフルを渡してから、俺は少し服装をチェックしてみることにした。

 

 色んな服装がある。普通の洋服もあるし、この異世界の民族衣装や騎士団の防具も用意されていた。中にはなぜか女性用の服も用意されているんだが、これはラウラたちには内緒にしておいた方が良いだろう。バレたら絶対女装させられる。

 

「ん?」

 

《エミリアの騎士団時代の制服》

 

 なんで母さんの若い頃の服装まで用意されてるんだよぉッ!? 親父に出会う前の母さんのコスプレしろってことなのか!? 

 

 ちなみに服装は蒼い制服とズボンの上に銀色の防具という格好だ。男性用の制服と同じデザインらしいから問題はないな。母さんの前でこの格好になったら懐かしがるだろうか?

 

《エリスの騎士団時代の制服》

 

 しかもエリスさんの分まである………。すごい能力だな。

 

 こっちの服装は、蒼い制服とスカートの上に銀色の防具。防具には騎士団のエンブレムが刻まれていて、胸元は少しだけ開いている。女性用の制服らしい。こっちは絶対に着ないぞ。

 

 他にもなぜかメイド服とか裸エプロンがあったが、俺は男だ。絶対にこんな服装はするつもりはない。大恥だ。

 

 少し傷ついた俺は、すぐにメニューを閉じてから今身に着けているこの服装に何かスキルが装備されていないかチェックすることにした。装備している服装をタッチして確認してみると、銃ばかり作ってスキルや能力を全く使っていないせいで空欄になっていたところに、『転生者ハンター』というスキルが追加されている。

 

《転生者に対する攻撃力が2倍になる》

 

 それ以外の敵にはステータス通りの攻撃力というわけか。異名とスキルの名前の通り、転生者を狩ることに特化したスキルになっているらしい。これならばこっちの攻撃力が不足しているせいで攻撃を弾かれることはないだろう。このスキルを装備した状態でも弾かれるほどステータスに差がある敵と出くわした時は、無理をせず撤退するようにしよう。

 

 自分のスキルを確認してからG36Kを装備する。サムホールストックと40mmグレネードランチャーとライトを装備したドイツ製アサルトライフルの点検を済ませた俺は、サイドアームにMP412REXとプファイファー・ツェリスカを装備し、すぐに点検を終わらせる。

 

 ラウラの装備は、スナイパーライフルのSV-98とSMG(サブマシンガン)のPP-2000。この前俺が渡したMP443も持たせてある。銃以外の装備では内臓摘出用のメスと、近距離戦闘用のボウイナイフとサバイバルナイフ。どちらも俺が作ったものではなく、日本刀の素材である玉鋼を使用したモリガン・カンパニー製の頑丈なナイフだ。

 

 それに、両足にはやっぱりあの武器を装備しているようだ。

 

 ラウラの持つもう1つの能力を最大限に生かす事ができる上に、かなり変則的な接近戦を可能とする凶悪な武器。何度も俺はラウラと模擬戦をやったが、これを使われた時は何度も防戦一方になってしまった。

 

 見た目は、冒険者用のブーツの踵の辺りに装着されているナイフの鞘のようなカバーだ。あの中にはサバイバルナイフの刀身が仕込んであり、接近戦の際は刀身を展開して合計4本のナイフで連続攻撃が出来るという代物で、足技を得意とするラウラのために開発された試作型の装備なんだが、それ以外にもギミックがある。

 

 もしかしたら、久しぶりにあのギミックがみられるかもしれないな。

 

「よし、冒険に行こうぜ!」

 

「うんっ!」

 

 アサルトライフルを背負った俺は、ラウラと手を繋ぎながらフィエーニュの森がある方向へと向かって歩き出した。

 

 現代兵器があれば、魔物はすぐに殲滅できる。もし魔物が襲い掛かって来るのならば殲滅するつもりだし、他の冒険者が邪魔してくるようならば魔物もろとも蜂の巣にしてやるだけだ。

 

 

 


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