異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第11章
みんなで訓練をやるとこうなる


 

 

 舞い上がる砂と熱風。長年そこに積もっていた砂を押しやって大地を無礼に抉るのは、ほんの数秒前に着弾したグレネード弾が生み出した爆風だった。炎と破片をまき散らして気が済んだのか、その爆風が残した黒煙はやがて熱風に掻き乱され、散々形を崩されて灼熱の大地へと消えていく。

 

 そして、再び着弾。同じ現象がまたしても繰り返される。

 

 マーマイトを塗った食べかけのトーストを口の中へと放り込み、咀嚼してから飲み込む。水筒の中に入っていたアイスティーも全て飲み干しつつ、そろそろ彼女のグレネードランチャーは弾切れだなと予測した俺は、彼女に文句を言われる前に予備の40mmグレネード弾をこっそりと足元に置く。

 

 我ながら紳士的なサポートじゃないか。

 

 母さんには小さい頃から「紳士的で立派な男の子になるのだぞ」って言われながら育てられたし、これで合ってるよね。というか、身内でまともに俺の事を男だと認識してくれているのって母さんくらいなんじゃないだろうか。エリスさんが俺にコスプレをさせようとしていた時も「タクヤは男の子だ」って言って咎めてたし。

 

 うん、やっぱりママは俺の味方だね。ありがとう、お母さん。絶対親孝行する。紳士を目指すならレディー・ファーストが鉄則だから、親孝行は一番最初に母さんにしよう。その次がエリスさんで、次はガルちゃんだ。エンシェントドラゴンには寿命と性別という概念が存在しないらしく、性格に言えばガルちゃんは〝男でも女でもない”らしいんだけど、俺たちにとっては姉のような存在だからな。恩返ししないといけない。

 

 親父、あんたは最後だ。

 

 母さんには本当にお世話になった。初めて狩りに行く時も承認してくれたし、剣術の訓練はいつも母さんが担当だった。俺の得物はナイフだけど、戦い方の半分は母さんの戦い方をベースにしている。

 

 それに……………赤ん坊の頃は滅茶苦茶お世話になったからな。特にミルク。

 

 うん。……………ミルク、最高でした。転生っていいですね。

 

「ちょっとタクヤッ!」

 

「は、はいっ!?」

 

 おっと、赤ん坊の頃の事を思い出してたら怒られた。

 

 びっくりして声の聞こえてきた方を振り向くと、グレネードランチャーを肩に担いだ薄着の少女が、俺の方を睨みつけていた。

 

 砂漠で身に着けるにしては薄着と言えるかもしれないけれど、露出が多めになっているせいなのか、とても活発で健康的という印象がある少女だ。フードの下の桜色の髪も短めで、気が強そうな紅い瞳も彼女が簡単には屈しない強い少女であるという事を主張している。

 

 彼女の名は『イリナ・ブリスカヴィカ』。カルガニスタンを支配するフランセン共和国に立ち向かうために結成されたムジャヒディンの一員であり、現在は仲間たちと共にそのままテンプル騎士団の一員として訓練を続けている。

 

 ムジャヒディンには様々な種族が参加している。人間は当然ながら見かけるし、エルフやハーフエルフも共に戦っている。あまり見かけないダークエルフやオークも参加しており、しかも組織内では全然差別がなかったらしく、みんな平等だったという。人間だろうと身分が低ければ当たり前のように奴隷にされる先進国とは違い、この組織の中はとても平等だ。まさにあらゆる種族の理想郷である。

 

 イリナと彼女の兄のウラルは、かつて奴隷にされていた吸血鬼の兄妹だ。両親はレリエルに従わずに人間たちとの共存を選んだ穏健派の吸血鬼だったらしく、レリエルを殺したキメラを恨んでいるわけではないらしい。

 

 吸血鬼はあらゆる種族の中でも強力な種族で、なんと再生能力を持っているのである。弱点で攻撃されない限りは永遠に再生を続けるため、他の種族よりも死ぬ確率が低い。そのため大昔の戦争では人間の騎士団を蹂躙し続けたという。

 

 けれども日光には弱いらしく、日光を浴びると高熱が出た時みたいにだるくなるらしい。それに元々吸血鬼は夜行性らしく、昼間は眠いという。だから昼間は寡黙に見えても、夜になると別人のようにテンションが上がる吸血鬼も珍しくはない。

 

 2人の制服には、日光を防ぐためにフードがついている。特に頭と胸を日光から守れれば2人の場合は問題ないらしいので、露出が多めなイリナの制服でもその2ヵ所はしっかりとガードしている。

 

 仲間になってくれたのはかなり頼もしいんだが……………ちょっとこのブリスカヴィカ兄妹には問題がある。

 

「ねえ、早く次の弾ちょうだいっ!」

 

「え? さっき足元に置いたろ?」

 

 そう、ついさっき彼女の足元に、紳士的にグレネード弾をそっと置いておいた筈だ。訓練中の彼女の邪魔をしないようにあえてこっそり置いたんだけど、気付かなかったのかな?

 

 そう思いながら彼女の太腿をちらりと見て、足元を見下ろす。6発のグレネード弾が仲良く置かれてる筈だったんだが…………1発で歩兵を何名も吹っ飛ばすおそろしいグレネード弾の姿はない。

 

「もう撃っちゃった!」

 

「早くない!?」

 

 えぇ!? もう撃ったの!?

 

 いや、確かにイリナの使っているRG-6は6連発が可能なグレネードランチャーだけど、いくら俺が赤ん坊の頃の事を思い出してぼーっとしていたとはいえほんの数秒の筈だぞ!? その間に撃ち尽くしたって言うのか!?

 

「ねえ、早くちょうだいっ! 爆発を感じたいのっ……………!」

 

「あ、ああ……………」

 

 イリナは吸血鬼であるため、戦闘力が高い。だから非常に頼りになる戦力の1人なんだが……………爆発が大好きらしく、色んなものを爆破するのを最優先に行動してしまうという大問題を抱えたボクっ娘なのである。

 

 なので、使う武器は一部を除いて全て爆発する武器となっており、下手をすれば仲間を巻き込んだり、自分も自爆する危険性がある。いくら吸血鬼の身体能力が高いとはいえ、グレネードランチャーとロケットランチャーを装備した挙句、対戦車手榴弾やC4爆弾をこれでもかというほど携行するのは正気の沙汰とは思えないんだけど……………。

 

 おまけに魔術も爆発するようなものを優先して習得しているという。いったいどうして爆発に興味を持ってしまったんだろうか。これってただの爆弾魔だよね?

 

 とりあえず怒らせると血を吸われてしまうかもしれないので、大人しく渡しておく。とはいえこれが最後だ。

 

 グレネード弾を受け取ったイリナは、拾い上げたグレネード弾のうちの1発を見つめながらうっとりすると、それに頬ずりしてから装填を始めた。6発のグレネード弾を、まだ訓練を始めて日が浅い筈なのに素早く装填し、フォアグリップを握って射撃を開始する。

 

 もう既に残骸と化していた的が、近くに着弾したグレネード弾の破片を一気に浴びて木端微塵になる。噴き上がった爆炎が砂を舞い上げ、爆音がこちらへと押し寄せてくる。

 

「ああ……………この音、最高…………………ッ! ねえ、爆音って気持ちいいよね!?」

 

「そ、そうだな………………」

 

「えへへっ。それぇっ♪」

 

 これを撃ち尽くしたら、次は背負ってるRPG-7の訓練でも始めるつもりなんだろうな。とりあえず弾頭だけ彼女の足元に置いて、バックブラストに巻き込まれないように離れておこう。

 

 彼女には擲弾兵と工兵を兼任してもらう予定だ。あれだけ爆発物を持っているならば敵の歩兵や魔物をまとめて吹っ飛ばすだけでなく、装甲車や戦車などの高い防御力を持つターゲットも破壊することが可能である。俺たちもそう言った武器は装備するようにしているけれど、彼女のように爆発物に特化したメンバーは今のところいない。

 

 自爆の危険性もあるが、火力はトップクラスだ。

 

「イリナ、とりあえずそれ撃ち尽くしたら訓練終了な」

 

「えぇ!? 全然足りないよ!」

 

「あのな、そんなに撃ちまくったらタンプル塔の地形が変わっちまうだろ?」

 

 さすがに歩兵が携行できるような武器で地形を変えるのは難しいけれど、こんな調子で訓練を続けていたら本当に地形が変わってしまうかもしれない。

 

 勘弁してくれよ。ここにはヘリポートや飛行場を作る予定だっていうのに…………。

 

「うー……………が、我慢しなきゃダメ……………?」

 

「うっ…………」

 

 涙目になりながらこっちを見つめるイリナ。まるで大好きなおもちゃを取り上げられた小さな子供や、飼い主に置き去りにされる子犬のような目つきでじっと俺を見つめつつ、唇を噛み締めている。

 

 うーん、いつもこんな感じに頼まれちゃうんだよなぁ…………。

 

「わ、分かった。ほら、こっちにもう1つRG-6と弾薬を全部置いておくから、撃ち尽くしたら戻って来い」

 

「やったぁっ♪」

 

 ひ、卑怯だぞ、イリナ…………。

 

 彼女のために武器と弾薬を置き、額の汗を拭いながらタンプル塔の地下へと続く階段を下りていく。背後からは先ほどよりも大きな爆音とバックブラストの轟音が響いてくるし、その音にイリナの「ああ…………爆発って気持ちいい……………ッ♪」といううっとりしたような声が混じる。

 

 何でテンプル騎士団にはまともな人が少ないんだろうか。いや、テンプル騎士団どころかモリガンもまともな人が少ないような気がする。下手したらモリガン・カンパニーも変人ばっかり集まってる企業かもしれないし。

 

 身の周りの仲間は変わり者ばかりだなぁ。現時点でまともな仲間はナタリアくらいだろうか。彼女のリアクションがあるからこそ俺たちの方が変わってるんだっていう実感を感じることができるし、彼女のツッコミがあるおかげで俺がツッコミをしなくて済んでいる。

 

「お疲れ様です、同志」

 

 イリナの性格を思い出して頭を抱えながら歩いていると、部屋の中でAK-12の点検をしていた仲間がいきなり立ち上がり、俺に向かって敬礼しながらそう言った。俺も微笑みながら敬礼を返す。

 

 確か彼は、ムジャヒディン以外のゲリラ出身だった筈だ。フランセンの騎士たちによってレジスタンスが壊滅し、捕虜となっていたのをあの前哨基地で救出されたのだ。

 

「ああ、お疲れ様。調子はどう?」

 

「最高です。このAK-12という武器は素晴らしいですね。どんどん当たるんですよ」

 

「それは良かった。何か要望があったら遠慮なく言ってくれよ」

 

「はい、同志」

 

 仲間からの要望も聞かないとな。ここはもう、彼らを虐げるための牢獄ではないのだから。

 

 ちなみに、テンプル騎士団本部の歩兵部隊ではAK-12を採用している。AK-47と同様に堅牢だし、命中精度が高い上に汎用性も向上している。標準的な弾薬は5.45mmだけど、要望があれば7.62mm弾に変更するようにしている。異世界では人間だけではなく魔物も相手になるので、できるだけ銃弾は大口径の方が都合がいいのだ。

 

 現時点ではまだちゃんと編成を決めているわけではないが、いずれは偵察部隊とか砲兵隊も編成したいところだ。この周囲の状況をまだ確実に把握しているわけではないし、前進する歩兵部隊を支援するための部隊もまだ編制できていない。編成するだけではなく、その部隊に運用させるための兵器も用意しないとな。

 

 とりあえず、偵察部隊は基本的にバイクを使うようにする。武装も軽装で良いが、危険な魔物が生息していたり、盗賊団のアジトがあるという情報があるような危険地帯に派遣する場合は、完全武装の装甲車1両とその支援用の軽戦車に加え、歩兵を14名から18名程度同行させるようにしようと思う。

 

 でも、そんな部隊を次々に編成できるだけの人員はいないし、ポイントも少ない。そんな部隊が機能し始めるのはもう少し後になりそうだ。

 

「あら、タクヤ」

 

「おう、ナタリア」

 

 テンプル騎士団の黒い制服に身を包み、金髪のツインテールの上に黒い軍帽をしっかりとかぶって廊下を歩いていたのは、テンプル騎士団のメンバーの中で数少ない〝まともな人”のナタリア・ブラスベルグ。一番最初にできた仲間であり、半年だけとはいえ俺たちよりも冒険者としては先輩だ。

 

 テンプル騎士団が設立されてからは、戦車の車長や参謀として活躍してもらっている。それと変わり物ばかりの仲間たちにツッコミを入れる唯一のメンバーでもあるため、本当に助かっている。

 

 先ほどグレネードランチャーを乱射して爆発を楽しんでいたイリナとは違い、ナタリアの制服は露出度が低い。制服と言うよりはもう軍服のような感じの制服で、第二次世界大戦中のドイツ軍の指揮官を彷彿とさせるデザインになっている。

 

 ティーガーⅠのハッチから顔を出すナタリアの姿を想像した俺は、その想像したナタリアの姿に予想以上に違和感がないことに驚きながら、彼女と並んで廊下を歩きだす。

 

 ムジャヒディンに所属しているドワーフたちのおかげで、地下はかなり拡張されたうえに舗装された。石畳を敷き詰めたような廊下はきっちりと整えられ、砂埃をかぶっているのが当たり前だった石畳を見下ろせば自分の姿が映り込む。壁も同じように磨かれており、更にランタンも用意されているため全く暗いとは感じない。

 

 現在はこの下の階に新しい居住区を作っている最中らしく、耳を澄ますと足元から金槌で何かを叩く音や、スコップで土を掘る音が聞こえてくる。

 

「ドワーフさん、頑張ってるみたいね」

 

「差し入れ持って行こうかな。あっ、そういえばナタリアのジャムってかなり好評だぞ。『甘くておいしい』ってさ」

 

「ほ、本当!?」

 

「ああ。俺もあのジャム大好きなんだよね。スコーンとかアイスティーによく合うし」

 

「そ、そっか…………よしっ、今度は本格的にお菓子作ってみるわ! そしたら味見しなさいよね!」

 

「おう、楽しみにしてるぜ」

 

 ちなみに、現時点で料理を担当する事が多いのは俺やケーターだ。俺は前世でも料理をしていたし、こっちの世界に生まれ変わってからも母さんに料理を教わっていたので、料理には自信がある。最近はお菓子作りにも興味が出てきたので、いつか本格的にお菓子を作ってみようと思ってる。

 

 …………この女子力、何とかしないと。

 

「そういえばナタリアはこの後何か予定あるの?」

 

「特に無いわよ? あんたは?」

 

「俺は今から筋トレに行くところだけど」

 

「筋トレ? あんたキメラなんだし、転生者みたいなステータスもあるんだから必要ないでしょ?」

 

「いやいや、スタミナって大事だぞ? キメラでも息が上がる時はあるし、ステータスもスタミナは強化してくれないんだよ。それに身体を動かさないと気が済まないんだ」

 

「ふーん」

 

 もちろん、トレーニングする場所もちゃんと準備している。

 

 俺たちの部屋がある場所は『第一居住区』と呼ばれており、主に元々ここにあった部屋を改装して使っている。この隣にあるのが『戦術区画』で、そこでは展開した部隊や防衛部隊の指揮だけでなく、他の支部との連絡や情報交換なども行っている。その他にも戦闘に関する必要な機能がここに集中しているため、このタンプル塔の〝脳”ともいえる区画だ。

 

 いったいあのドワーフの同志たちがどこまで拡張するつもりかは定かじゃないけど、この調子だと今週中には第四居住区くらいまで拡張してしまいそうだ。ドワーフには仕事熱心な人が多いって聞いたんだけど、過労死しないか心配である。

 

 第一居住区の隣には『訓練区画』と呼ばれる区画があり、戦闘訓練は基本的にここで行う。学校の体育館くらいの広さがある部屋があり、その中には市街地やジャングルなどの全く違う環境を想定した訓練スペースが用意されているほか、射撃訓練用のレーンも用意されており、そこで銃の試し撃ちや慣熟訓練もできるというわけだ。

 

 ちらりと中を覗いてみると、早くもテンプル騎士団の制服に身を包んだ様々な種族の団員たちが、AK-12を装備して建物内への突入訓練をやっているところだった。ドアの中へとスタングレネードを投げ込み、炸裂してからすぐに突入していく団員たち。まだぎこちないけれど、訓練を続ければ彼らも慣れてくれることだろう。

 

 その近くにあるレーンでは、見覚えのある赤毛の少女がモシン・ナガンM1891/30で的を狙撃している後姿が見える。やはりスコープはつけておらず、距離は100m未満のようなので彼女にとっては命中させるのは当たり前と言える。

 

 少し寄っていこうと思った俺は、隣にいるナタリアと目を合わせてからにやりと笑い、こっそりと射撃訓練場のドアを開けた。

 

「ねえ、あの子だれ?」

 

「え?」

 

「隣にいる子たち」

 

 後ろを歩いているナタリアに言われた俺は、目を擦ってからもう一度レーンの方を見てみる。

 

 よく見てみると、ラウラは1人で訓練をしているわけではないらしい。訓練というよりは、仲間になったばかりのムジャヒディンの戦士たちに狙撃の指導をしているらしく、他のレーンには同じようにモシン・ナガンを手にした戦士たちが並び、彼女から指導を受けているようだ。

 

 でもラウラの狙撃って彼女の体質のおかげで成り立っている部分もあるし、教えられるノウハウにも限りがあるんじゃないだろうか。現時点でスコープなしでの狙撃ができるのはラウラだけだし。

 

「そうそう、落ち着いて。無理に動いてる標的を狙う必要はないの。動きを止めるまで、集中して…………いい?」

 

「はい、教官」

 

「やあ、ラウラ」

 

「ふにゃ?」

 

 ああ、大人びていた雰囲気が一瞬で幼くなっちまった…………。

 

 教え子たちもラウラのギャップに驚いたらしく、スコープを覗いていた狙撃手の卵たちが一斉にラウラの方を振り向き、ポカンとしている。さっきまで様々な標的を狙撃してきたベテランの狙撃手の雰囲気を放ち、みんなに「お姉様」と呼ばれてもおかしくないほど大人びた喋り方で指導していたのに、俺の姿を見た途端に「ふにゃ?」って言ったんだからな。

 

 すると彼女はモシン・ナガンを近くの壁に立て掛け、ミニスカートの中から赤い鱗に覆われた尻尾を伸ばすと―――――――――いつも通りに、何の前触れもなく俺に抱き付いてきた!

 

「ふにゃあああああああああっ! タクヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「びぞんっ!?」

 

「タクヤっ!?」

 

 やっぱり床に押し倒され、後頭部を強打してしまう俺。起き上がろうとする俺の身体にすぐ尻尾を巻きつけたラウラは、くんくんと匂いを嗅ぎ始めながらうっとりし始める。

 

 ちょっとラウラ。教え子の前でキャラ崩壊してるよ。さっきまではプロのスナイパーだったのに、今ではただのブラコンのお姉ちゃんじゃないか。

 

「えへへっ。どうしたの? お姉ちゃんに会いたくなった? お姉ちゃんもタクヤに会いたかったの。ふふふっ…………やっぱり私たちって両想いなんだね♪」

 

「お、おう」

 

 何とか起き上がるが、まだラウラは尻尾を巻きつけながら頬ずりをしたままである。起き上がった俺を見てやっと正気に戻ったらしく、狙撃手の卵たちは一斉に姿勢を整えると、踵を素早く合わせてから敬礼してくれた。

 

「「「「「「お疲れ様です、同志!」」」」」」

 

「同志諸君、お疲れ様。休んでくれ」

 

 敬礼を止め、足を少しばかり開く狙撃手たち。ラウラの教え子は6人で、種族や年齢はバラバラだ。ハイエルフやドワーフがいるし、俺たちと同い年くらいの奴や30代くらいの男性もいる。ベテランのゲリラなんだろうか。

 

 とりあえず俺も敬礼を止めるが、俺にくっついているブラコンのお姉ちゃんは離れる気配がない。それどころか、教え子たちの目の前だというのに俺の耳に甘噛みし始めている。

 

 ちょ、ちょっとお姉ちゃん止めて。くすぐったい。気持ちいいけど滅茶苦茶くすぐったい。

 

「ええと…………そ、狙撃は……むっ、難しいけど…………ひゃあっ…………その、狙撃手は我々に必ッ…………要な存在だから……………ど、同志しょ……んっ、諸君には、き、期待してるぞ……………? ―――――――ひゃんっ!?」

 

「「「「「「……………」」」」」」

 

 へ、返事がないぃっ!!

 

 しかもラウラが甘噛み止めないし! せっかく狙撃手の卵たちを励まそうとしてたのに、台無しじゃないか! 変な声出たし、途切れ途切れだったぞ!? あんなの団長の激励じゃない!

 

「えへへへっ♪ 紹介するね、みんな! この子は私の弟のタクヤっ! 可愛いでしょ?」

 

「「「「「「は、はい……………」」」」」」

 

 こ、困ってるよ…………。ラウラ先生、生徒を困らせちゃダメでしょ。

 

 まったく。やることがいっぱいあるし、仲間は変人ばっかりだから大変だ。

 

 

 

 

 

 




※PP-19ビゾンは、ロシアのSMGです。

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