異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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航空支援を要請するとこうなる

 

 

 戦況は現時点では有利なようだ。

 

 いきなりカチューシャで先制攻撃され、しかも続けて突っ込んできたのは歩兵ではなく、数時間前に偵察部隊を徹底的に叩きのめしたパンジャンドラムの群れ。彼らの恐怖心をこれでもかというほど刺激するような攻め方をして、止めに屈強なムジャヒディンたちの銃剣突撃。いきなり大損害を被り、精神的にかなり狼狽している状況でそんな攻撃を受ければ、どんな猛者でもひとたまりもない。

 

 モニターを覗き込み、駐屯地の奥へと進撃していくムジャヒディンたちの後姿を見守りつつ、近くに置いておいたアイスティー入りの水筒を口へと運ぶ。

 

 飲み込みつつモニターを何度かタッチし、自動装填装置を操作してHEAT-MPを装填。そしてすぐ車長の座席に移動してキューポラから顔を出し、双眼鏡を覗いて味方の様子を確認する。

 

 現時点で苦戦している味方はいないようだ。このまま進撃しても問題はないだろう。

 

「ラウラ、前進しよう」

 

『了解(ダー)』

 

「ドレットノート、こっちは前進する。そっちはどうする?」

 

『こっちも前進するわ。ここで待ってても支援できないし』

 

「了解(ダー)。……………ウォースパイトよりウラルへ。応答せよ」

 

 無線機を片手で押さえながら、戦闘中のウラルを呼ぶ。きっと今頃、ウラルは敵陣へとなだれ込むムジャヒディンの先頭に立ち、返り血を浴びながら奮戦している事だろう。というか、照準器の向こうにAK-74の銃剣を騎士の喉元に突き立て、身体中に返り血を浴びているウラルの姿がちらりと映る。

 

 よ、予想以上に昂ってますねぇ……………。

 

「あ、やっぱり応答しなくていいや。とりあえず聞いてくれ。……………戦車も前進する。以上」

 

 ものすごく単純でアバウトな連絡だったけど、あの状況で応答しろって言われても無理だよね。銃剣を振るってる間に斬られる可能性もあるし、白兵戦の最中の口の役割は、雄叫びを上げるか敵に噛みつくかのどちらかだ。狙撃や塹壕からの集中砲火と比べると、白兵戦は大忙しなのである。

 

 敵はすぐ近くだし、油断すれば殺される。運よく昏倒しても、目を覚ました瞬間に殺されることもあるし、目を覚まさない間に殺されることもある。白兵戦で戦闘不能になるのは、どんな負傷であれ死を意味するのだ。

 

 次の瞬間、ウラルへと突撃しようとしていた5人の騎士が、まとめて爆風に呑み込まれたかと思うと、黒焦げの肉片になって宙を舞った。ドレットノートの支援砲撃かと思ったが、隣を進むチャレンジャー2ほ砲口から煙は出ておらず、砲撃した形跡はない。

 

 すると、一瞬だけグレネードランチャーにグレネード弾を凄まじい速度で再装填(リロード)するイリナの姿が一瞬だけ見えた。短時間しか訓練していない筈なのに、まるで使い慣れた得物を再装填(リロード)するかのように、滑らかにグレネード弾を再装填(リロード)していくイリナ。弾倉を元の位置に戻した彼女だが、さすがに敵との距離が近いと判断したのか、素早くRG-6を腰に下げてスコップを引き抜くと、ロングソードを振り下ろそうとしていた騎士の胸板に、斜め下から鋭くスコップを突き上げていた。

 

 騎士団の防具が段々と軽装になっているとはいえ、胸元などの部分に防具を付けることを好む騎士も数多い。彼女が串刺しにした哀れな騎士もそんな考えの持ち主だったらしいが、吸血鬼の誇る華奢と思いきや強靭な腕力と、彼女が持つ優れた瞬発力によってちょっとした砲弾と化したスコップは、まるで杭のように騎士の防具に突き刺さると、そのまま金属製の防具を突き破って騎士の胸骨を寸断し、肺と心臓を滅茶苦茶にした。

 

 一般的に、平均的な吸血鬼の腕力ならば素手でゴーレムの外殻を叩き割ることは可能だと言われている。だから彼らは丸腰の状態でも、完全武装した騎士以上の戦闘力を持つ。

 

 では、その吸血鬼が人間と同じように完全武装すればどうなるのだろうか。

 

 人間とは違い、彼らは弱点で攻撃されない限り何度でも再生を繰り返す。人間ならば即死しているような攻撃を喰らっても数秒で蘇り、何事もなかったかのように獰猛な反撃を継続する。そのような種族の軍勢が襲撃してきたからこそ、かつて一度人間たちは完敗したのだ。

 

 吸血鬼と戦った時は手を焼いた再生能力だが、味方として戦っている彼らを見ていると、ヒヤヒヤする部分はあるが安心できる。……………でも、普通なら死んでる攻撃を喰らっているのを見るのは慣れないな……………。心強いけど。

 

 支援砲撃は不要なのではないかと思ったその時、ウラルが率いるムジャヒディンたちの目の前に、またしても騎士たちの隊列が姿を現す。武装は……………杖ではないな。魔術師部隊ではないらしい。

 

 だからといって安心するわけにはいかない。彼らの持つ武装を確認した俺は、すぐに照準を合わせつつ、戦車砲の発射スイッチへと手を伸ばす。

 

「ドレットノート、ムジャヒディンの前方にクロスボウ部隊およびバリスタ!」

 

『任せなさい! こっちには百発百中の砲手が乗ってるのよ!』

 

『必ず当ててみせますわ!』

 

「俺だって当ててやるさ」

 

 もう既にHEAT-MPは装填してある。照準も合わせたから、後は発射スイッチを押すだけでカーソルの向こうの騎士たちは1人残らず黒焦げになる。

 

 当然ながら、スナイパーライフルの狙撃と戦車砲の砲撃はかなり違う。発射する物体のサイズも違うし、射程距離も段違い。更にこのような状況の場合、着弾した瞬間に生じる爆発や破片が味方を殺傷してしまう事がないか、注意しながら砲撃しなければならない。弾丸ならば炸裂弾でも使わない限りそのような心配は無用だが、戦車砲や自走砲での支援は、味方を巻き込むリスクがより高くなる。

 

 威力が上がれば上がるほど、仲間を巻き込む可能性も上がる。砲弾はそのようなリスクがあるがまだ序の口だ。砲弾の爆発は、燃料気化爆弾や核爆弾の爆発に比べればまだまだ小さいのだ。

 

 まあ、今から砲弾をぶち込むのは遮蔽物の多い駐屯地の真っ只中。それに発射する前にはちゃんと警告するし、味方が隠れたことも確認する。せっかく仲間たちの弔い合戦に来ているのだから、味方の砲撃で戦死させるわけにはいかない。

 

「ウォースパイトより歩兵部隊へ。これより砲撃を開始する。ただちに退避せよ」

 

『了解だ! おい、みんな! 戦車が攻撃するぞ! 逃げろッ!!』

 

 敵の前衛の数が減っていたのか、思ったよりもムジャヒディンたちの退避はスムーズだった。ただ単に隠れるだけでなく、先に退避を終えた数名の仲間が、退避する仲間への攻撃を防ぐためにバリスタや敵の隊列に向けて制圧射撃を叩き込んでいたのも功を奏したのだろう。

 

 頭にターバンを巻いたムジャヒディンたちが建物の陰に隠れたのを確認したウラルが、こちらに向けて銃剣付きのAK-74を大きく振り上げた。『やれ』という事なんだろうか。

 

 任せてくれ、ウラル。

 

(トゥリー)(ドゥーヴァ)(アジーン)、発射(アゴーニ)ッ!!」

 

『発射(アゴーニ)ッ!!』

 

 発射スイッチを押した直後、今までにぶっ放してきたどんな銃でも超えられないと断言できるほどの凄まじい轟音が、チーフテンの車内を満たした。こんな轟音を生み出すほどの衝撃ならば、車体がひっくり返ってしまうのではないかと思ってしまうが、チーフテンの重量は第二世代型主力戦車(MBT)の中でもトップクラスだ。いくら主流の戦車砲とされている120mm滑腔砲の猛烈な反動でもひっくり返るなんてありえない。

 

 狭い55口径120mm滑腔砲の砲身に別れを告げ、流星のように飛び出していったHEAT-MPは、照準器の上方へと飛び出そうとしているかのように上昇したが、すぐに大人しくなったかのように高度を下げると、俺が照準を合わせている中心部まで高度を下げ―――――――大人しく、そのまま敵の隊列を飛び越え、設置されていた大型のバリスタを2発のHEAT-MPが蹂躙した。

 

 鋼鉄製とはいえ、複合装甲と比べれば防御力は遥かに劣る。いや、バリスタなのだから防御力を重視しているわけがない。盾どころか防具すら身に着けない生身の人間と同じだ。あっさりとバリスタに突き刺さった砲弾が瞬く間に膨れ上がり、メタルジェットと爆風でバリスタを木端微塵にしつつ、内蔵していた無数の鉄球でその周囲にいた騎士たちを蜂の巣にしてしまう。

 

 小さな鉄球とはいえ、爆風によって弾き飛ばされているのだから、その殺傷力は弾丸と変わらない。しかもそれで死ぬのを免れても、鉄球の後方にはまだ人体を引き千切るのに十分な殺傷力を温存した爆風の壁がある。

 

 蜂の巣にされるか、引き千切られた挙句焼かれるしかないのだ。

 

 貫通力があり、更に鉄球を内蔵しているため攻撃範囲も広い。これが『多目的対戦車榴弾』とも呼ばれる、HEAT-MPの恐るべき威力である。

 

 あっという間に爆風が生み出す閃光が騎士たちを飲み込んだかと思うと、その輝きが消えた頃には、やはり穴だらけになった挙句黒焦げになった死体が、四肢をバラバラにされた状態で転がっていた。戦場では、五体満足で倒れている死体を見つける確率は思ったよりも低い。見つけたとしても、綺麗に殺してもらえている死体などないのだ。よく見たら頭の半分がなくなっていたり、上顎が消し飛んでいたりするのも当たり前。だからあの死体も当たり前だ。少なくとも戦場という場所にある以上は、あれが普通の死体だ。

 

 それにしても、この駐屯地には予想以上に多くの騎士たちが駐留していたらしい。カチューシャの先制攻撃で数を減らし、パンジャンドラムの突撃で潰し、ムジャヒディンたちの銃剣突撃が蹂躙しても、彼らの隊列はまだ残っている。

 

 ここまでやられれば、敵の指揮官も撤退を視野に入れる筈だ。なのに騎士たちは、まだ俺たちへと戦いを挑み続けている。復讐心と殺意を剥き出しにし、肉食獣を思わせる獰猛さで殺到してくるムジャヒディンたち。普通なら逃げ出している騎士が大勢いる筈だが、なぜこいつらは逃げない?

 

 士気は限界まで下げた。偵察部隊から俺たちの持つ兵器の威力は効いている筈だし、それを目の当たりにした筈だ。これだけ追い詰められれば上官の命令を無視し、我先にと逃げ出す騎士がいてもおかしくはない。

 

 またウラルたちの目の前に騎士の隊列が出現していないか確認しようと、俺は砲塔をそちらへと向けつつ照準器を覗き込む。すると、そのカーソルの奥に、信じられない行動をする騎士たちの姿が見えたのである。

 

 なんと―――――――――味方の騎士たちに、クロスボウを向けているのだ。まるで彼らの退路を断つかのように隊列を展開し、後方へと向けて逃げ出していた騎士たちをそこで塞き止めているのである。

 

 あれは何だ? 逃亡するなとでも命令しているつもりか?

 

『お兄様、あれは何を―――――――――』

 

 ドレットノートに乗るカノンが、無線で俺に尋ねようとしたその時だった。

 

 俺たちやムジャヒディンが迫っているという恐怖に耐えられなくなったのか、騎士の1人が剣を投げ捨て、クロスボウを構える騎士を押し退けて後方のゲートへと向けて走っていこうとする。明らかな命令違反だが、無理もないだろう。最前線で戦う騎士たちの士気を維持できなかった指揮官が悪い。

 

 しかし、次の瞬間、素早く後ろを振り向いたクロスボウを持つ騎士の1人が、その逃亡した騎士の背中に向かって矢を撃ち込んでいたのである。

 

 ―――――――――味方を殺した?

 

「――――――――督戦隊(とくせんたい)気取りか……………ッ!」

 

『と、とくせんたい……………?』

 

「ああ。敵を殺すのではなく、敵前逃亡をする味方の兵士を殺すのが任務のクソッタレ部隊さ…………!」

 

 そのような部隊は実際に存在していたが、やはり有名なのは第二次世界大戦中のソ連軍だろう。迫りくるドイツ軍よりも、ドイツ軍から逃げ出す友軍の兵士を射殺するためにこの督戦隊が後方で待機していたという。

 

 くそったれ。敵に容赦をしないように教育された俺たちだが、やはりあのような光景を見せられると気分が悪い。これならばまだ逃走する敵を追撃し、そのまま皆殺しにした方がずっと後味がいい。

 

 そいつらを吹っ飛ばしてやろうと思い、照準を合わせたが……………どうやら俺は手を汚さずに済むらしい。

 

『―――――――こちら航空支援部隊。そろそろ作戦地域上空に到達する』

 

「……………シンヤ叔父さん?」

 

『やあ、タクヤ君。助太刀に来たよ』

 

『パパ!?』

 

『ノエル、ママもいるわよ♪』

 

 シンヤ叔父さんとミラさんの2人が、支援に来てくれたのである。しかも親父が派遣すると約束した兵力は、最強の攻撃機と言われているA-10C。モリガンの傭兵が操る最強の攻撃機が2機も、俺たちの作戦の支援をしてくれる!

 

『これより攻撃準備に入る。標的(ターゲット)の指示を頼むよ』

 

「了解(ダー)、同志シンヤスキー」

 

『ははははっ。期待してるよ、同志タクヤチョフ。こっちのコールサインはヴェールヌイ2だ』

 

 さてと。ウラルにスモークグレネードでも投げてもらうとするか。

 

 A-10Cを派遣してもらえると知った俺は、前衛部隊として突撃するムジャヒディンのメンバーたちに着色された特殊なスモークグレネードを支給していた。それを放り投げれば、後はパイロットがそれを確認して攻撃してくれるというわけである。

 

 飛び込んでくるのはA-10Cが2機。そしてその機体がばら撒くのは、無数の爆弾や徹甲弾だ。いったいどれだけの戦車がスクラップになるのだろうか。

 

「ウラル、聞こえるか?」

 

『ああ、聞こえるぞ! 何だ!?』

 

「まもなく航空支援が始まる。スモークグレネードを頼む」

 

『了解! ……………おい、みんな! 航空支援の時間だ!』

 

 砲手の座席から移動し、キューポラのハッチを開けて身を乗り出す。隣のチャレンジャー2も今の無線を聞いていたらしく、A-10C2機の容赦の無い爆撃に巻き込まれるのを防ぐため、進撃を停止しているところだった。

 

 双眼鏡を覗き込み、先ほどの督戦隊の様子を確認する。まだ騎士たちが立ち塞がり、逃亡しようとする騎士たちを戦いに戻そうと躍起になっているようだ。後味の悪い光景だが、あのまま雪隠詰めになってくれるのならば好都合だ。味方に指示を出しやすくなるし、誤って攻撃機が味方の歩兵を爆撃する危険性も減る。

 

 双眼鏡の向こうで、ウラルがスモークグレネードの安全ピンを引き抜き、奥にあるゲートの前へと思い切り放り投げた。やがてスモークグレネードから真紅の煙が噴き上がり、夜空に向かって伸びる紅い柱のように屹立を始める。

 

 ええと、叔父さんのコールサインはヴェールヌイ2だっけ。

 

「ウォースパイトよりヴェールヌイ2へ。真紅のスモークの周囲を徹底的に爆撃してください。容赦はいりません。どうぞ」

 

『こちらヴェールヌイ2。容赦がないのはモリガンの専売特許だよ、同志』

 

 無線での連絡が終わると同時に、夜空にエンジンが発する轟音が響き渡り始める。戦車の発するような音ではなく、空を飲み込んでしまうのではないかと思ってしまうほど広範囲に響く、航空機のエンジン音だ。

 

 さあ、CAS(近接航空支援)が始まるぞ……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで、大地から血飛沫が上がっているかのような禍々しい真紅の柱だった。いや、柱と呼ぶにしては上の方で拡散し過ぎているから、まるで真紅の巨木が夜空に向かって、葉のない枝を必死に伸ばしているようにも見える。

 

 禍々しい真紅の煙が呼び寄せるのは、最強の攻撃力を誇る攻撃機の空爆。あれが僕たちの目印だ。

 

 タクヤ君たちの指示では、あのスモークの周囲を徹底的に撃すればいいらしい。

 

 僕の乗るA-10Cの主翼にあるハードポイントには、ありったけのロケットポッドとクラスター爆弾が搭載されている。ロケットポッドは大量のロケット弾を装填した武器で、まるでマシンガンを連射するかのように立て続けにロケット弾を連射することが可能だ。

 

 そしてクラスター爆弾は、普通の爆弾のように投下された後に爆発するようなタイプではなく、空中で無数の小型爆弾をばら撒いて広範囲を爆撃する爆弾だ。破壊力も高い上に攻撃範囲が広いため、これを投下されれば瞬く間に投下された地点の周囲は焦土と化す。

 

 それに加え、機首の30mmガトリング機関砲もある。更にミラの機体は、機体の操縦が難しくなるのを承知の上で強引に105mm榴弾砲を2門も主翼にぶら下げている。ちょっとした戦車砲クラスの砲撃を攻撃機が繰り出すのだから、敵からすればいきなり空を飛ぶ戦車が出現したようなもの。しかし、A-10がいくら頑丈だからと言って機体に無茶をさせ過ぎだと思う。

 

 夜空の真下に広がる大地が、紅蓮の炎にこれから彩られるのだ。

 

『シン、懐かしいね』

 

「ファルリュー島のこと?」

 

『うん。……………シン、あの時空母の艦橋で私の事見てたでしょ』

 

 懐かしいな……………。

 

 あれはまだ、ノエルが生まれる前だった。ネイリンゲンを焼き払った転生者たちに復讐するために、傷だらけになった僕たちはありったけの戦力をかき集め、転生者たちを率いていた『勇者』と呼ばれる転生者の本拠地へと襲撃を仕掛けた。この異世界で最大規模の転生者同士のぶつかり合いは、今では『転生者戦争』と呼ばれている。

 

 その真っ只中に、ミラはF-22で飛び込んでいった。あの時の彼女のコールサインも、今と同じく『ヴェールヌイ1』。

 

 数多の戦闘機に取り囲まれ、ミサイルの流れ弾の爆発に運悪く巻き込まれるというアクシデントがあったものの、僕の妻は墜落してもおかしくない損傷を受けたF-22を操り、仲間たちが撃墜されていく中で奮戦を続け、機体が火を噴いて緊急脱出(ベイルアウト)する羽目になるまで空を舞い続けた。

 

 あの時の損傷は凄かった。エンジンは2基のうち1基が機能を停止して黒煙を吐き出しており、尾翼は片方だけ千切れ飛び、主翼に搭載されているフラップはひしゃげていた。キャノピーにも亀裂が入っていたし、ウェポン・ベイのハッチは外れてミサイルが搭載されている部分が剥き出しになっていたんだ。しかも胴体にもミサイルの破片がいくつも突き刺さっていて、まるで猛禽(ラプター)がゾンビになって蘇ったかのようだった。

 

 僕が乗っていた空母を救ったボロボロのF-22(ラプター)は爆炎を突き破り、その炎を纏いながら、ひたすら敵を圧倒し続けたのである。

 

 その時、僕は彼女を見て怯える敵の無線を傍受していた。その転生者はこう言っていた。―――――――『なんてこった…………! 猛禽(ラプター)が不死鳥(フェニックス)になりやがった……………!!』と。

 

 彼女は、誰にも撃墜できない。

 

 それに、誰にも撃墜させない。

 

 ミラは僕の女で、僕の妻だ。だから僕が絶対に守る。

 

「いくよ、ミラ!」

 

『了解!』

 

 ミラが僕の先を飛び、僕は彼女の後に続く。目指すのは、大地から立ち上がる真紅の煙。

 

 機体の体制を微調整しつつ、ロケット弾の発射スイッチにそっと指を近づける。照準を合わせ、このスイッチを押せば、主翼の下のハードポイントにこれでもかというほどぶら下げられたロケットポッドが矢継ぎ早に火を噴き、地上を蹂躙するだろう。

 

 ミラの場合は105mm榴弾砲を装備した関係で、僕よりもロケットポッドの数が少ない。けれども、彼女の機体には機動性をさらに悪化させる代わりに、戦車並みの火力を誇る重火器が搭載されている。何度かそれで訓練飛行してたのを見たけれど、途中でバランスを崩したり、発射した瞬間に失速して落下を始めた時はヒヤヒヤしたよ。

 

 ミラ、落ちないでよ。

 

『ヴェールヌイ1、斉射(サルヴォ)!』

 

 次の瞬間、僕よりも先を飛んでいたミラのA-10Cのロケットポッドが一斉に火を噴いた。僕よりも数が少ないとはいえ、搭載しているポッドの数は攻撃ヘリを上回る。瞬く間に主翼下部のポッドから夥しい数のロケット弾が飛び出していき、紅蓮の光と純白の煙で夜空を引き裂きながら、鮮血を思わせる煙の根元へと殺到する。

 

「ヴェールヌイ2、斉射(サルヴォ)!」

 

 僕もトリガーを押し、飛び出すのを我慢していたロケットたちを一斉に解き放つ。

 

 幼少の頃に、道端で見つけたタンポポの綿毛を吹き飛ばしてばら撒いたように、僕は1つ1つが敵を蹂躙するのに十分な破壊力を秘めたロケット弾をばら撒いていく。それらが芽吹かせるのは新たなタンポポの花ではなく、爆薬と血肉が生み出す殺戮の花弁だ。

 

 一足先に放たれたミラのロケット弾の群れが、煙の根元に喰らい付く。あそこは駐屯地のゲートなのだろうか。何人もの騎士たちが集まって怒鳴り合っているみたいだけれど、何があったのかな。

 

 まあ、いいや。そのまま僕らの戦果になってもらうよ。

 

 一番最初に放たれたロケット弾が、その騎士たちのすぐ近くに突き刺さった。砂の地面が容易く抉れ、舞い上がった砂と黒煙が騎士たちの肉体を吹き飛ばす。それらが落下して砂の中に埋まるよりも先に、立て続けに放たれた後続のロケット弾が突き刺さり、騎士たちの身体を更に細切れにしていく。

 

 ダメ押しに、僕とミラは30mmガトリング機関砲の発射スイッチを親指で押し続けていた。

 

 天空を舞うA-10Cの機首が炎を吐き出す。まるで怒り狂ったドラゴンが、地面で蠢く人間たちに向かってブレスを吐き出すかのような姿だ。けれども、こいつが秘めている火力は間違いなくドラゴン以上だ。吐き出すのは炎ではなく破壊兵器で、全身を覆うのは強靭な外殻ではなく装甲なのだ。例えドラゴンを討伐した実績を持つ騎士を連れて来ても、この世界最強の攻撃機は絶対に撃ち落とせない。

 

 照準器の向こうで、次々に人間の身体が砕け散っていく。砂煙が連鎖的に立ち上がり、次に噴き上がる場所にいた騎士の肉体が引き千切られる。そんなに簡単に木端微塵になってしまうのかと思ってしまうほど容易く、次々にバラバラになっていく。

 

 最初の攻撃で地上を蹂躙した僕とミラは、ゲートの上空を通過して旋回を始める。旋回しつつ地上を見下ろし、まだ健在なターゲットを探す。

 

『お次はクラスター爆弾かな?』

 

「うん、それがいいかも」

 

 それなら一網打尽にできるからね。

 

 旋回しながら、僕は首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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