異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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弔い合戦

 

 駐屯地まで撤退してきた騎士たちは、全員怯えているようだった。

 

 正門からぞろぞろと駐屯地の敷地内へと戻ってくる彼らには、ムジャヒディンを救出した奴らの攻撃を命じていた筈だ。100人以上の騎士を送り込んだのだから、彼らが戻ってきたと見張りの騎士からの報告を聞いた時は勝利して戻ってきたのだろうと思っていた。

 

 しかし、戻ってきた騎士たちは―――――――――まるで魔物を生まれて初めて目にした子供のように怯え、しかも武器を手にしていなかったのである。持っていた筈の槍と盾どころか、腰に下げていた筈のロングソードやダガーすら持っていない。戦いの中で破損し放棄したにしては、あまりにも不自然過ぎる状態である。

 

 違和感を感じた私は、副官を連れて司令塔の階段を駆け下りた。警備の騎士に敬礼されながらフェンスを開け、戻ってきた騎士たちの元へと向かう。

 

 駐屯地の正門からやってきた騎士たちは、やはり怯えているようだった。

 

 なんとみっともない。お前たちは訓練を積んだ騎士だろうが…………!

 

「貴様ら、なんだその有様は!?」

 

「あっ、アドルフ准将……………」

 

「ムジャヒディンは討ち取ったのだろうな!?」

 

 望み薄だ。戻ってきた奴らがこんな状態では、討ち取れている筈がない。

 

 案の定、問い詰められた騎士は目を逸らすように下を向くと、ぶるぶると震えながら答えた。

 

「そ、それが………………奇妙な車輪の襲撃を受け、撤退しました」

 

「奇妙な車輪だと?」

 

 何だそれは?

 

「は、はい………………火を噴く奇妙な車輪の大軍が、我が騎士団に襲い掛かってきたのです。反撃を試みましたが、魔術の集中砲火が全く通じず………………被害を抑えるため、装備を廃棄して撤退してきたのです」

 

「馬鹿馬鹿しい! 車輪ごときに怯えるとはッ! 貴様、それでも我がフランセンの騎士かッ!!」

 

「も、申し訳ありませんッ!!」

 

 なんと無様な騎士たちだ。たかが車輪に怯えて敗走するなど………………!

 

 大体、火を噴く車輪など存在するわけがないだろう。そんな魔物を聞いたこともないし、ムジャヒディンの奴らにはそんなものを作りだす技術などない筈だ。あのモリガンの傭兵たちの使っていた飛び道具を持っていた小娘たちならばその可能性はあるが、騎士たちを撤退させてしまうほどの車輪を大量に生産できるとは思えない。

 

 だからといって、ここにいる騎士たちがそんな幻を見たと決めつけることもできない。しかもよく見ると、その車輪にやられたのか、騎士たちの人数が減っているではないか。

 

 100人以上だった筈の騎士たちが、今ではもう40人足らず。しかも中には片足や片腕を失い、仲間の肩を借りながらここまで逃げてきた者もいる状態だ。

 

 なんという事だ……………。

 

「准将、いかがいたしましょう?」

 

「……………本国に連絡し、飛竜部隊を含めた増援を要請しろ。負傷者は直ちに治療し、復帰できる者は復帰させて駐屯地の警備にあたらせろ。警戒態勢だ」

 

「はっ!」

 

 本国からの増援を含めれば、先ほどの兵力の10倍になる筈だ。恐ろしい車輪が待ち構えているようだが、それだけの兵力ならばいくら騎士たちを撤退させた車輪でも粉砕できるだろう。10倍の魔術の集中砲火を喰らわせれば、跡形もなく消し飛ぶに違いない。

 

 ムジャヒディンの奇襲で度々大きな損害を出しているが、これほど大きな損害を出したことは一度もない。ムジャヒディンの名前を出せば、本国の連中も増援部隊の派遣を認めてくれる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターに映る映像が、変わった。

 

 今まではひたすら逃げ続ける騎士たちの情けない姿と、延々と続く砂の大地が映し出されるだけだった。稀に襲い掛かってくる砂嵐が晴れる度に、もしかしたら敗走する敵を見失ってしまったのではないかとひやひやしたけれど、派遣した小型のカメラを搭載したドローンはきっちりと敵を追尾し続けてくれていたらしく、彼らの〝家”の位置を主人である俺にちゃんと教えてくれた。

 

 砂の大地の上に屹立する司令塔。その司令塔を取り囲むように兵舎や馬小屋が並び、テントの群れがずらりと並ぶ外側には有刺鉄線付きのフェンスが配置されている。そしてそこを警備しているのは、砂嵐から身を守るために制服の上に外套を纏った十数人の騎士たち。

 

 ドローンを旋回させ、ざっと駐屯地の全体を観察する。中には敗走した騎士たちが辿り着いていて、指揮官と思われる男に大声で叱責されているようだった。残念ながらこのドローンは映像のみを送信するタイプとなっているため、音声は全く聞こえないんだが、指揮官と思われる男の口の動きを見ていると、叱責しているのだという事は分かる。

 

 頬杖をつき、片手で皿の上から少なくなったスコーンを摘まみ上げる。ナタリア特製のストロベリージャムをたっぷりと塗りつけてから口へと運び、スコーンを咀嚼しながら映像を見つめる。

 

 うーん、このままじゃ俺も甘党になっちまうな……………。

 

「規模は……………現時点で200人くらいかな?」

 

 兵舎の部屋の数と、敷地内をうろつく騎士たちの人数を確認しながら頭の中で敵の数を予測し、その結果を叩き出す。外周部にあるテントはおそらく、物資や食料を一時的に保管しておくための簡易的な倉庫なのだろう。もしくは馬たちに与える餌を保管しておくためのテントなのかもしれない。すくなくとも、人間が寝泊まりする場所ではないらしい。

 

 タンプル塔から南東に30kmくらいか。

 

「クラン、聞こえるか?」

 

ドラゴン(ドラッヘ)、どうしたの?』

 

「36cm砲の射程距離はどれくらいだ?」

 

『偶然かもしれないけど、36kmよ。口径と同じ』

 

「了解」

 

 つまり、あの駐屯地は36cm砲の射程距離内という事だ。タンプル塔の36cm砲の命中精度がどれほどなのかはまだ未知数だが、少なくともビーコンを使用したり、偵察ヘリやドローンに砲撃地点を誘導してもらう事さえ出来れば百発百中になるという。

 

 砲撃で片付けるのも面白そうだが、それではウラルたちが敵討ちに行くことはできないし、いくら強力な砲撃とはいえ再装填(リロード)には手間がかかる。機能の大半は自動化されている模様だが、再装填(リロード)するには一旦砲身を天空へと向け、専用のクレーンで砲弾を側面のハッチから装填する必要がある。そのため、2発目の砲弾をぶっ放すまでに早くても3分はかかるという。

 

 まだそれほど訓練をやっているわけではないため、再装填(リロード)の時間はさらに下がる事だろう。そこは砲手の坊や(ブービ)と、装填手の木村の2人の腕に期待するしかない。

 

 下手に砲撃すれば、敵は逃げ出してしまう。そうしてしまえばウラルたちの敵討ちを邪魔してしまう事になるから、あくまで砲撃は先制攻撃ではなく、支援用と考えるべきだろう。

 

 ならば、やっぱり戦車や装甲車と歩兵で攻撃するのが最善か。

 

「……………」

 

 こっちのシナリオは出来上がりつつあるが、敵のシナリオは?

 

 作戦通りに進むとは限らない。敵は訓練を受けた騎士たちなのだから、攻撃を受ければ臨機応変に対応してくるだろう。それに敵は既に大損害を被っているため、もう少し慎重になる筈だ。

 

 増援を要請し、兵力を増強してから再び攻め込んでくる事も考えられる。

 

 また迎え撃つか?

 

「…………いや、何か対策をしているかもしれない」

 

 ならば、先ほどと似たシチュエーションでの戦いはダメだ。可能な限り異なるシチュエーションで、なおかつ相手の想定を裏切るような戦い方をしなければ。

 

 そうなればなおさらこちらから攻撃するのが望ましい。出来るならば増援がやってくる前に決着をつけたいところだが、戦いが終わった直後に増援部隊と連戦になるのも面倒だ。

 

 スコーンを口に咥えながら考えていたその時だった。

 

《リキヤ・ハヤカワよりメッセージです》

 

「ん?」

 

 いきなり目の前に勝手にメニュー画面が現れたかと思うと、蒼白い文字でそのようなメッセージが表示されたのである。

 

 この前に行われた能力のアップデートで追加された機能だ。仲間の転生者限定だが、まるでケータイやパソコンのようにメールを送る事ができるという新しい機能である。

 

 画面をタッチしてみると、親父からのメールが届いていた。更に画面をタッチし、メールを開く。

 

《フランセンと一戦交えたそうだな》

 

 何故知ってるんだ…………。

 

 まあ、モリガン・カンパニーの諜報員たちならこの状況を掴んでいてもおかしくはないか。誤魔化せるわけがないので、素直に返信する。

 

《ああ、やった》

 

 咥えていたスコーンを噛み砕くと、すぐに返信がくる。

 

《手を貸そうか?》

 

 短すぎるメールを見た瞬間、俺はすぐに返信をタッチし、「頼む」と返信したくなった。モリガン・カンパニーが助太刀してくれるのならば、小細工をせずに敵を正面から粉砕するのは容易い。仲間にいるだけで勝利が確定するようなものだ。

 

 しかし、親父たちはヴリシア侵攻のために兵力を増強し、作戦を立てている最中だ。そんな重要なタイミングで俺たちの助太刀に割ける兵力があるというのか?

 

《派遣できる兵力は?》

 

《A-10C2機》

 

 A-10かよ…………!

 

 A-10は、アメリカで開発された攻撃機である。地上の目標を攻撃する事に特化した機体で、耐久性は航空機の中でもトップクラスと呼べる程に高く、もはやちょっとした戦車と呼んでも過言ではないレベルだ。しかも火力も戦車や装甲車を容易く吹き飛ばし、敵の地上部隊を瞬く間に粉砕してしまうほどであるため、航空機の支援を受けられない状況でこの機体に地上部隊を襲撃されれば、壊滅はほぼ確実になる。

 

 その代わり、火力と防御力に特化しているため速度や旋回性能は二の次にされているが、元々戦闘機と戦う事は想定していないため、制空権を確保している限り全く問題にはならない。

 

 A-10Cは、そのA-10を近代化改修したタイプと言える。親父は短すぎるメッセージで、あっさりとA-10を2機も派遣できると通達してきたのだ。

 

 今回の敵は地上の敵ばかり。飛竜に乗った騎士がいる可能性もあるが、飛竜の旋回速度や加速はたかが知れている。航空機の中では遅い方とはいえ、A-10の敵ではない。

 

 制空権は確保されたも同然だ。念のため仲間にはスティンガーミサイルを渡しておくが、A-10にとって飛竜は脅威にはならないだろう。

 

《親父、頼めるか?》

 

《息子の頼みだ。もう少し時間をくれれば10機くらい派遣してもいい》

 

《オーバーキルだろ》

 

《とりあえず、現時点で派遣できるのは2機だ。どうする?》

 

 2機もあれば十分すぎる。ムジャヒディンとの共闘で、地上の兵力は充実しているのだ。救出してきた捕虜たちは60名だが、次の襲撃に参加できるメンバーの人数は40人前後。熟練の戦士ばかりだが、AK-74の扱いにはまだ慣れていないという状況だ。慣れ始めたのはウラルをはじめとする古参の戦士と、俺が個別に武器の扱い方を教えたイリナくらいだろう。

 

 地上戦力は十分。ただ、航空戦力が不足している。ここは素直に頼っても良いだろう。

 

《頼む》

 

《了解!》

 

 メールの画面を閉じ、カップに残っているアイスティーを全て飲み干す。

 

 よし、これでいい。次の戦いは―――――――――必ず勝てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生者ハンターのコートを身に着け、チャックを上まで上げてからフードをかぶる。転生者ハンターのシンボルともいえる真紅の羽根が折れていないか確認してから、AK-12を背負って地上へと向かう。

 

 階段の上からは、もう熱風はやってこなかった。涼しくなった砂漠の風を浴びながら階段を上がり、タンプル塔の地上へと出る。

 

 先ほど出撃準備が完了したとナタリアからの通達があった。いよいよ、ジナイーダの弔い合戦が幕を開ける。

 

 地上へと出ると、もう既にムジャヒディンのメンバーたちや、テンプル騎士団の同志たちが装備を身に着けて整列していた。ずらりと並ぶムジャヒディンの戦士たちも、AK-74を背負って整列している。もう夜だからなのか、日光を苦手とするウラルとイリナの2人はフードをかぶっておらず、特徴的な桜色の髪を冷たい風に晒していた。

 

「同志諸君、聞いてくれ。…………いよいよ、フランセン共和国騎士団への攻撃を開始する」

 

 もちろん、ざわめく者はいない。敵は誰なのかもう理解しているし、その敵は仲間たちの仇でもあるのだから。

 

 ムジャヒディンの戦士たちだけではない。他のゲリラや武装組織のメンバーたちから見ても、フランセン共和国騎士団は憎たらしい敵。この戦いが、散っていった仲間たちの弔い合戦となる。

 

「我々は地上から敵を攻撃する。敵の方が数は上だが、我々には強力な武器がある。それに、モリガン・カンパニーの部隊も我々を支援してくれる手筈になっている。――――――――我々はここに来たばかりだが、諸君らはあの騎士団が憎たらしいのだろう。多くの仲間を殺されながら、今まで耐え続けてきたに違いない」

 

 だからもう、我慢しなくていい。

 

 クソ野郎共は、そこにいる。

 

「もう耐えるのはお終いだ。……………ジナイーダのためにも、仲間を奪われながら耐え続ける日々を今日で終わらせよう」

 

 ムジャヒディンの戦士たちの目つきが鋭くなる。きっと今まで殺されていった仲間たちの事を思い出しているのだろう。

 

 それを終わらせるんだ。

 

「――――――――――血も涙もないクソ野郎共に、カラシニコフの鉄槌を!!」

 

「「「УРааааа(ウラァァァァァ)!!」」」

 

 いよいよ――――――――弔い合戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モリガンカンパニーは、王都ラガヴァンビウスの郊外に大きな飛行場を保有している。技術分野とインフラ整備分野の社員たちの尽力によって建設されたばかりの飛行場には早くも戦闘機がずらりと並び、近日中に実行されるヴリシア侵攻作戦に備えて訓練を繰り返していた。

 

 日が沈み始めたその飛行場の滑走路へと、2機のがっちりした機体が進んでいく。モリガンの保有する兵器と同じく黒とグレーの迷彩模様に塗装されたその機体は、がっちりして目立つフォルムだというのに見事に暗闇へと溶け込んでおり、滑走路を突き進んでいても全く目立たない。

 

 先進的なフォルムのステルス戦闘機と比べると、第二次世界大戦で使用されていたような機体に幾分か似ているともいえる。しかしプロペラは見当たらず、エンジンは機体の後端にしっかりと搭載されている。大きな主翼の下部にぶら下げられているのは無数の爆弾や地上攻撃用のロケットポッド。1発で戦車を破壊できるほどの武装を、これでもかというほど搭載している。

 

 しかしやはり一番目立つのは、機首から突き出た大きなガトリング機関砲だろう。『GAU-8アヴェンジャー』と呼ばれるそのガトリング機関砲は、30mmの砲弾を凄まじい連射速度で連射する兵器である。集中砲火すれば戦車でもスクラップにできるほどの威力を誇る、最強の機関砲だ。

 

 前後に並んで滑走路に進んでいく2機のA-10Cだが、先を進む機体の兵装は、後ろについてくる機体と比べると少々変わっている。

 

 いくつかミサイルが取り外されている代わりに、短く切り詰められたマガジン付きの砲身のようなものが主翼にぶら下がっているのである。

 

 ぶら下げられているのは、アメリカ製の105mm榴弾砲。爆発範囲が広い榴弾を発射する強力な榴弾砲だが、攻撃機に搭載するような武装ではない。下手をすれば反動で機体が不安定になる可能性もあるというリスクの大きな武装だが、それを搭載するように要求したのは、その機体のパイロットであった。

 

『ミラ、本当にそのまま行くの?』

 

(何言ってるの。当たり前だよ、シン)

 

 105mm榴弾砲を搭載したA-10Cを操るのは、ノエル・ハヤカワの母であるミラ・ハヤカワ。転生者同士の大規模な戦闘となった『転生者戦争』では、『ヴェールヌイ1』というコールサインが付けられたF-22を操り、墜落してもおかしくないダメージを受けながらも奮戦し、数多のF-35を撃墜したという実績を持つエースパイロットである。

 

 その後も37mm砲を搭載したシュトゥーカを操り急降下爆撃を繰り返すという物騒な生活を送っていた彼女だが、ついにその相棒をグレードアップさせたような機体に乗りたいと言い出した時は、今まで黙認していた夫のシンヤも必死に止めたのだ。

 

(ヴェールヌイ1、オールグリーン。出撃準備良し)

 

『ヴェールヌイ2、オールグリーン。出撃準備良し。管制塔、こちらはいつでもOKです』

 

『了解、離陸を許可します。幸運を!』

 

(了解!)

 

 目的地はカルガニスタン上空。ミラとシンヤの目的は、フランセン共和国騎士団の駐屯地を空爆し、奮戦する我が子たちを支援する事。

 

 最愛の子供たちが戦う姿を思い浮かべながら、ミラとシンヤは滑走路から飛び立っていった。

 

 

 

 

 


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