異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる 作:往復ミサイル
本拠地の名前に『タンプル塔』の名を冠したのは、史実でもテンプル騎士団の本拠地だったという事と、地上に設置された大砲の砲身が長く、天空へと向けている様子はまるで塔のように見えるからという2つの理由だった。
最終的には岩山の外周にレーダーサイトを設置したり、ヘリポートや飛行場を作りたいところなんだが、現時点では人手不足だ。なので、現時点では大砲以外には何も地上に用意されていない。
元々は騎士団の古い駐屯地のあった場所のようだったが、建物の老朽化がかなり進行しており、眠っている間に倒壊して生き埋めになるのは嫌だったので、仕方なく大砲を設置する前に建物を全てC4爆弾で爆破して更地にしておいたのだ。では、どこに寝泊まりするのかというと、駐屯地の地下に残された部分を補強し、いくらか拡張して再利用させてもらっている。
日光が当たらない分涼しいんだが、できるならば風が欲しいところだ。まあ、ラウラの氷を活用すれば涼しくはなるんだが、ごくわずかとはいえ氷の生成にも魔力を使うのだから、ラウラにも負担をかけてしまう。お姉ちゃんにはあまり無理をさせたくない。
AK-12を背負ったまま、俺は地下に用意した自室のドアを開ける。
元々は地上の兵舎に収容しきれなかった騎士たちの自室として用意されていたらしく、部屋はそれほど大きくはない。ちょっと安めの宿屋と言った感じか。
床には木の板が張られており、壁は灰色のレンガで覆われている。地下なので窓はなく、その代わりに小さなランタンが3つほど壁にかけてある。部屋の真ん中には木製の小さなテーブルがあり、その奥には一般的な1人用のベッドが1つだけ置いてある。
この光景を見れば、誰もが1人部屋だと思う事だろう。スペースは狭いし、ベッドも1人用。だから同居人などありえない。
しかし、俺のすぐ近くにはそんな部屋でも一緒にいようとする困った人物がいるのである。
「あっ、おかえりっ♪」
ベッドの上に腰を下ろし、ミニスカートの中から紅い鱗に覆われた尻尾を伸ばしているのは、腹違いの姉のラウラ。氷を操る強力なキメラなんだが、氷属性であるため暑さには弱いらしく、俺が試し撃ちをしている最中は地下室で待っていたらしい。
まあ、溶けちゃったら大変だからな。ありえないけど。
しかも部屋で待っていたのは、どうやら1人ではないらしい。もう1人の客人が、俺が不在の間に俺のポジションを奪っていた。
「ああ……………お姉様の膝枕、最高ですわ……………!」
「えへへっ。どう?」
「柔らかい太腿と黒ニーソの組み合わせは最強ですわ……………!」
カノン、何やってんだ。
俺のポジションを奪っている妹分を見下ろしながら、俺はわざとらしく背負っていたAK-12をテーブルの上に置いた。そして足音を立てながらベッドの方へと向かうが、カノンはラウラの太腿が気に入ってしまったらしく、彼女から離れる気配はない。
こ、こいつ…………。
せっかくお姉ちゃんに膝枕してもらおうと思ってたのに…………!
「あら、お兄様」
「おう」
やっと俺に気付いたカノンが、顔を上げながらにっこりと微笑んだ。そのまま起き上がってからぺこりと頭を下げると、ラウラの反対側に腰を下ろし、テーブルの上に置いてあるアイスティーのカップに手を伸ばす。
すると、ラウラがいきなり俺の方に手を伸ばしたかと思うと、そのまま肩を掴んで引っ張り始めた。いきなり引っ張られると思っていなかった俺は、びっくりしてそのままベッドの上に転がってしまう。
ベッドの上に投げ出された俺の頭を支えてくれたのは、甘い香りのする柔らかい感触だった。ベッドの上にある毛布ではなく、もっと優しい柔らかさだ。それにその甘い香りは、幼少の頃から嗅ぎ慣れている親しい香りである。
上を見上げてみると、赤毛の少女が微笑みながら唇を近づけてくるのが見えた。彼女の顔の後ろに見えるのは、部屋の天井。
ああ、膝枕してもらってるのか…………。やっぱりラウラの太腿は柔らかいなぁ…………。
そんな事を考えているうちに、俺と彼女の唇が触れ合う。そのまま少しずつ距離を詰め、舌を絡ませながら抱き締め合う。
静かに唇を離すと、ラウラはまだ足りないと言わんばかりにまた唇を押し付けてきた。しかも今度は俺が逃げられないようにと、自分の尻尾を俺の腰の辺りに巻き付け、先ほどよりも強引なキスをしてくる。
最近はよくキスをするようになったけど、キスを止めるタイミングを間違えるとこうなる。こうやって尻尾で俺を押さえつけ、逃げられないようにしてから強引にキスをしてくるのだ。しかもナタリアやステラが見ている前でもお構いなしに唇を奪ってくるし、強引に逃げようとすると顔以外の部分を氷漬けにしてでもキスをしようとするレベルなので、迂闊に断れば殺されるかもしれない。
ああ、なんで俺のお姉ちゃんはヤンデレになっちゃったんだろうか。俺はクーデレ派だったのに…………。
「ああ…………お、お姉様とお兄様が………き、きっ、キスを……………!?」
「―――――――ぷはっ。……………えへへっ。大好きだよ、タクヤっ♪」
「お、おう……………」
「ふにゅう…………タクヤの唇ってとっても柔らかくて、ずっとキスしてたくなっちゃうよ♪」
こ、呼吸整えないと…………。
はっとして、片手を頭の上に伸ばす。案の定、髪の中に隠れる程度の長さだったキメラの角は、今しがたの長時間のキスでフードを突き破らんばかりの勢いで屹立しており、それを確かめてからため息をついてしまう。
とりあえず、今のうちに装備の点検でもしておこう。21年前にタイムスリップした際に、向こうで経験したネイリンゲン防衛戦でかなりレベルも上がり、ポイントも溜まっているので今は余裕があるのだ。
現時点で、俺のレベルはやっと90を突破し96となった。攻撃力のステータスは9044となり、防御力も9007まで上がっている。スピードは3つのステータスの中で一番高くなっており、9200となっている。最初は均等に伸びてきた俺のステータスだが、最近は段々とスピードに特化しつつある。まあ、接近戦ではナイフを使うし、動きも早い方が狙撃地点の変更や敵への接近の際に便利になるからありがたい伸び方ではある。
もしかして、このステータスってその転生者の戦い方に合わせて伸びるようになってるんじゃないだろうか。だから転生者の得意分野と不得意な分野がはっきりとわかるようになっているのかもしれない。
もしこれが俺のようなタイプの転生者ではなく、端末を持つ従来の転生者も同じ仕組みなのだとしたら、戦い方を見れば大方のステータスが予測できるかもしれない。例えば動きが早く、攻撃力がそれほどでなければスピード特化型だし、攻撃力だけ高くて防御力が貧弱ならば攻撃力特化型という事になるだろう。
そうなるとオールラウンダー型が面倒だな。
自分のステータスを確認してから起き上がろうとすると、起き上がりかけた俺の両肩をラウラの柔らかい両手が掴んだ。そしてそのまま再び俺の身体を引っ張り、太腿の上に寝かせてしまう。
「お、おい、ラウラ?」
「ふふふっ。ダメだよ、お姉ちゃんと一緒にいないと」
どうやらお姉ちゃんはまだ満足していないらしい。
最近はラウラと離れ離れになる状況が多かったから、多少は甘えても良いだろうと思って好き勝手に甘えさせていたけれど、なんだか最近はエスカレートしつつある。タンプル塔を拠点にしてからはまだ1回も襲われていないけど、下手をすれば今すぐにでも襲われそうな感じがする。
うーん、来年の誕生日まで突発的な発情期に耐えなければならないのか。
「ところでお兄様」
「ん?」
ラウラと俺がキスをしているところを間近で見せつけられ、顔を真っ赤にしていた妹分がいつの間にかホルスターの中に収めていたPL-14のマガジンを点検しながら、俺に質問してくる。
普段は変態にしか見えないカノンだが、真面目な話をする時はちゃんと真面目になってくれる。こういう切り替えが素早い点は評価できるけど、いきなり真面目になるとこっちも対応できないんだよね。
さて、彼女は何の話をするのだろうか? 武器の要望か?
「――――――――姉と弟が○○○○する成人向けのマンガが欲しいのですが、この辺に書店はないのでしょうか?」
「あるわけねえだろ」
ま、真面目な顔で変な質問すんなよ! そのマンガの内容、絶対俺たちの影響受けてるだろ!?
とりあえず冷静なツッコミを返すけど、結構動揺してしまう。ここは先進国であるフランセン共和国の植民地とはいえ、近代的な街に作り替えられているのは総督のいる首都だけだ。それ以外の場所は共和国側の兵士が駐留しているだけで、小さな村などは全く手が付けられていない。
そういう書店があるのは首都かな。
俺も書店があったら立ち寄ってみようかなと思っていると、部屋のドアがノックされる音が聞こえてきた。「どうぞ」と言いながらそっちの方を向くと、木製のドアの向こうから、漆黒の制服に身を包んだ小柄な少女が部屋の中へと入ってきた。
少し大きいのではないかと思ってしまうサイズの制服に、ロシアの帽子であるウシャンカをかぶっている。そのウシャンカの下から伸びるのは、お尻の辺りまで届きそうなほど長い銀髪だ。ただの銀髪ではなく、毛先の方だけ桜色になっているという特殊な色彩の髪である。
「おう、ステラ」
「タクヤ、クランたちが戻ってきました」
「了解。ラウラ、行こう」
「はーいっ!」
スコーンを用意しておけば良かったなと思いつつ、やっとラウラから解放された俺は、テーブルの上のAK-12を拾い上げてから部屋を後にする。部屋の外でステラと合流し、古めかしい城の中を思わせる薄暗い廊下を進んでいく。
老朽化した地下の部分を補修しているとはいえ、元々限界が近かった設備だ。人手が増えてきたら本格的な改装も視野に入れなければ、下手をすれば本当に目を覚ましたら生き埋めになっているかもしれない。
板を張り付けて塞いだ壁の穴を一瞥し、所々欠けている階段を登っていく。いつの時代の騎士団が使っていた施設なのかは不明だが、所々に古いオルトバルカ語が刻まれている事と、シベリスブルク山脈の向こうにあるという事を考えると、おそらくは大昔のオルトバルカ王国騎士団の橋頭保か前哨基地のような場所だったのかもしれない。魔物の侵攻か、補給の維持が難しくなって放棄されたのだろう。
階段を登ると、周囲の岩山の中に穿たれた階段の出入り口から熱風が飛び込んでくる。微かに砂を孕んだその熱風に出迎えられながら外に出ると、チーフテンとチャレンジャー2の隣に、まるで砂漠で戦う事を全く考慮していないと言わんばかりに純白に塗装されたレオパルト2A4が停車し、一足先に出迎えにきていたナタリアが戦車の傍らでクランと話をしているようだった。
ヴァイスティーガーの装甲を見る限り、被弾した様子はない。戦闘が行われた可能性は極めて低いだろう。まあ、攻撃を受ける恐れのある距離よりもはるか遠くから、滑腔砲で仕留めてしまったという可能性もあるが。
「おかえり」
「あら、団長」
AK-12を背負ったまま戦車に近付いていくと、ナタリアと話をしていたクランが俺に気付いた。右手に持っていたXM8PDWを腰に下げた彼女は、にっこりと笑いながらこちらを振り返り、手を小さく振る。
「どうだった? 何か見つけたか?」
「別に? 紅茶を飲んでスコーンを食べながら砂漠の旅をしてきたわ。――――――――お客さんを拾っちゃったけど」
「お客さん?」
お客さんって何の事だ? 偵察中に誰かを保護したという事なんだろうか。
考え込もうとしていると、まるで答え合わせを始めようとするかのように戦車の砲塔の上のハッチが開き、その中からひょっこりと
そんな事を考えているうちに、
彼らが掴んでいたものを目にした瞬間、俺や傍らにいたナタリアは唖然としてしまう。
それは、戦車の中から出てくるようなものではなかったからだ。てっきり俺は、そのお客さんはどこかの商人からはぐれてしまった護衛とか、近くの貴族の屋敷――――――――砂漠しかないからあまり考えられない――――――――から逃げ出してきた奴隷を想像していたのだ。だから彼らが運び出すのは、衰弱した人間やエルフのような見慣れた種族だと思い込んでいた。
しかし彼らが担ぎ出したのは……………人間の身体ではなく、やや茶色く染まった、まるで秋に家の外で何度も目にするような、冬になる前に枯れていく草のような物体だったのである。それをそのまま大きくし、人間を彷彿とさせる胴体と四肢を取り付け、頭を思わせる部分を付けたしたような、まるで植物で作られた人間のようなものを彼らは車内から運び出し始める。
「あれは……………アルラウネか?」
「ええ、砂漠で倒れてたの」
小さい頃に読んだ図鑑に載っていた、希少な種族である。
アルラウネは簡単に言えば人間と植物が融合したような種族だ。植物を彷彿とさせる手足を持ち、その機能は植物と人間の手足の機能を融合させたようなものだが、両足は植物の根のように発達しており、普段は土の中にその両足を突っ込んで養分を吸収しているのが当たり前なので、人間のような歩行は出来ない。というより、移動できない。
そのため種から発芽した場所が、アルラウネたちにとって一生を過ごす場所になるのである。生息する地域は主に暖かい場所で、ジャングルに多く生息する傾向にある。性格は温和な者が多く、中には身体に実る木の実を動物や魔物に分ける個体も存在するというが、中には食虫植物のような身体を持つ個体もいるらしく、そのようなアルラウネは極めて好戦的だという。人間や魔物を見つけると捕食してしまうと言うが、彼らが拾ってきたそのアルラウネはごく普通の温和なタイプのようだ。
それにしても、いくら暖かい場所に生息する種族とはいえ、砂漠にいるというのはおかしい。いくらなんでも暖かすぎるのではないだろうか。というか、むしろ暑い。根を張ることすらできず水分を奪われ、枯れていくのは分かっている筈だ。
なのに、なぜ砂漠の中にいたのか。
「生きてるか?」
「ええ。でもかなり衰弱してるみたい。拾った時にアイスティーをいくらかあげたんだけど、私たちが持ってた分では足りなかったわ」
「ふむ……………」
アイスティーをあげたのか………。
とりあえず、外にいさせるのは危険だ。涼しい地下に連れて行かないと。それと植木鉢と土も必要だな。土は地下を掘っていれば確保できるけど、植木鉢は地下に置いてないから…………自作するしかないか。まあ、素材に使えそうなレンガはあるし、くり抜けば簡単な植木鉢は作れるだろう。
『巨躯解体(ブッチャー・タイム)』という便利な能力とナイフがあれば、植木鉢の作成はお手の物だ。爆発的に切れ味を増したナイフで大きなレンガをくり抜き、その中に地下で手に入れた土を入れておくだけでいいのだから。
僅か5分で制作した即席の植木鉢に、そのアルラウネが収まっている。まるで大きなレンガの中から人間の上半身が生えているような、なかなか怖い光景だけれど、アルラウネの頭から大きな髪飾りのように生えている花が、徐々に桜色に戻りつつあることを考えると、このアルラウネの体調は徐々に回復しているようである。養分のある土だったのか、それともケーターたちがあげたアイスティーが効果的だったのかもしれない。
「女の子なのかしら?」
「さあ」
興味深そうにアルラウネを見つめるナタリアに言いながら、傍らに置いてある瓶の中の水を植木鉢の中に放り込む。少しだけ湿った土は瞬く間に水を吸い込むと、その水をアルラウネの根へと伝達し始める。
確かに、体つきは人間の少女を彷彿とさせる。運び込まれた時は皺があって老婆のように見えたんだけど、今ではまるでカノンやノエルのような年齢の少女に見える。
胸はちょっと小さいか。緑色の服にも見える植物の皮の下で膨らんでいるそれを一瞬だけちらりと見てから後ろを振り返り、興味深そうに見つめているノエルの頭を少しだけ撫でておく。
「それにしても、拾った時は婆ちゃんみたいな見た目だったのに、回復すると一瞬で美少女になっちまったぞ。……………異世界ってすげえな」
「この子、本物のアルラウネなのかな?」
「多分な。まあ、アルラウネは人類よりも数が少ないし…………」
移動できない種族だからな。両足は根になってるし。
そう思いながら見つめていたその時だった。目の前でぐったりとしていたアルラウネが、静かに両目を開けたのである。
見慣れない光景を目の当たりにしてびっくりしているらしく、目を丸くしながら周囲を見渡すアルラウネ。自分の足元にある植木鉢を見てから再びこっちを向いた彼女は、黒い制服に身を包む俺たちを凝視してから――――――――絶叫した。
「―――――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「えっ?」
「やだっ、やだやだやだぁっ! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! もう逃げませんから! お願いです、痛い事しないでくださいっ!! なんでもしますからぁっ!!」
「まっ、待て待て。落ち着け。何もしないから……………」
人間にかなり怯えているようだな…………。というか、「もう逃げませんから」ってどういうことだ? 彼女は奴隷だったのか?
でも、アルラウネって移動できない種族だから、逃げたいと思っても自分で移動することは出来ない。それに、強引に両足を土から引き抜くと衰弱して死んでしまう可能性があるから、誰かに引っこ抜いてもらって逃げるという選択肢はリスクが大き過ぎるのだ。
まあ、そんな〝逃げられない種族”だからこそ、特に女性のアルラウネは奴隷としての価値があるらしいが……………。
「やだ、やめてぇ…………! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……………!」
「……………」
「ラウラ?」
すると、俺の手を握っていたラウラがそっと手を離した。ぎょっとする俺の顔を見てから頷いた彼女は、まるで怯える子供を慰める母親のように優しそうな笑みを浮かべると、両手を広げながらそっと怯えるアルラウネの少女の方へと近付いていく。
「ひいっ……………!」
「大丈夫だよ。私たちはあなたに何もしないから」
「……………ほ、本当? もう……………殴ったり、葉を千切ったりしない……………?」
「うん、大丈夫。だから怖がらなくてもいいのよ」
すげえな。あんなに怯えてたのに、もう怖がってないぞ…………。
怯えていた彼女を優しく抱きしめるラウラ。その光景を目の当たりにして顔を真っ赤にしながら「ああ、お姉様…………さすがですわ…………!」と小声で言っているカノンに向かって苦笑いしつつ、俺も彼女に質問する。
「初めまして。俺はタクヤ・ハヤカワ。ええと…………まあ、ここにいるメンバーを率いてるリーダーだ」
「えっと…………わ、私、『シルヴィア』って言います。見ての通り、アルラウネです…………」
「なるほどね。…………ところでシルヴィア、質問してもいいかな?」
「は、はい」
「君はどうして砂漠で倒れていたんだ?」
ラウラが消した彼女の恐怖を、再び蘇らせてしまうかもしれない。でも、ジャングルや密林に生息する筈のアルラウネがどうして砂漠で倒れていたのか、その理由は知る必要がある。
特に、彼女の先ほどの発言は奴隷を彷彿とさせる。もし彼女が奴隷だというのならば、他にも奴隷がこの近くにいるのかもしれない。そうなのだとしたら保護する必要がある。
「ええと…………私、元々はジャングルに住んでたんです。でも、ある日怖い人間がやってきて、私を引っこ抜いてどこかへと連れて行ったんです」
「…………ふむ」
「それで、そこで酷い事されて…………。無理矢理葉を千切られたり、殴られたんです。それに私は動けませんから…………色んな酷い事をされました」
やはり、奴隷だったか…………。
「でも、この砂漠に住んでいる人たちが私を助けてくれたんです。〝ムジャヒディン”という組織の人たちでした」
「ムジャヒディン…………?」
前世の世界にも、そのような武装勢力は実在していた。
第二次世界大戦後、ソ連軍がアフガニスタンへと侵攻したことがある。アメリカに対抗するためにと軍備を拡張していたソビエト連邦軍の本格的な侵略に立ち向かったのが、アフガニスタンで共産主義に抵抗を続けていた人々だ。
圧倒的な数で攻め込んでくるソ連軍を迎え撃った戦士たちが、その〝ムジャヒディン”なのである。
「おいおい、ここはアフガンか?」
肩をすくめながら、ケーターがそんな冗談を言う。アフガン侵攻を知っている転生者のみんなは苦笑いしたけれど、それを知らないラウラやナタリアたちは首を傾げながら彼らを見ているだけだ。
「ああ、すまん。シルヴィア、続けてくれ」
「はい。…………でも、ムジャヒディンの拠点もフランセン共和国の駐留部隊に襲撃され、構成員の皆さんは捕虜に…………。私は護送の途中で魔物の襲撃を受け、その時に馬車から振り落とされてしまって……………」
「そのまま砂漠に放置か。可哀そうに……………」
すると、シルヴィアが涙を流し始めた。自分を助けてくれた命の恩人たちが、襲撃で命を落としていった事を思い出してしまったんだろうか。
「お願いです、タクヤさん。まだそれほど時間は経っていません。今すぐ助けに行けば、ムジャヒディンのみんなを助けられるかも……………! お願いします、みんなを助けて下さいっ!!」
頭を掻き、仲間たちの顔を見渡す。
彼女の命の恩人が、クソ野郎共に囚われている。どれだけの損害を与えたのかは不明だけど、処刑される可能性もあるだろう。処刑を免れたとしても、奴隷として各地に売られてしまう可能性もあるし、そのまま過酷で危険な労働をさせられる可能性もある。
助けられるのは、今しかない。
「シルヴィア、その場所は分かるのか?」
「はい。前に私が囚われていた場所が前哨基地になってるんです。まずはそこに護送される筈です!」
場所は分かっているようだ。ならば、彼女に道案内をしてもらおうか。
アフタヌーンティーはお預けだな、と思いながら、俺は息を吐いた。
「―――――――――同志諸君、戦争の時間だ」