異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

212 / 534
第10章
本拠地


 

 ここには砂と蒼空と陽炎しかない。どんな角度から双眼鏡で覗いても、それらの割合がほんの少しだけ変わるだけで、全身を包み込む熱い風は全く容赦がない。そう、ここは砂と蒼空と陽炎が支配する砂の世界なのだ。大昔から太陽の元に広がり、俺たちの祖国から発せられる冷たい風をシャットアウトしてきた、灼熱の領域。

 

 カルガニスタンの砂漠は、大昔から変わらない。

 

 ペリスコープを覗き込みながら、よくこんな場所でのタンクデサントに耐えたと驚いてしまう。雪山の寒さにも耐え、この暑さにも耐えた。生まれつき頑丈で、少しばかり特殊な身体だったからこそ耐えられたのかもしれない。後は時折車内から仲間たちが分けてくれる、差し入れのジャム入りアイスティーの恩恵だろう。

 

 すぐ近くに巨大な岩石が着弾し、砂を巻き上げる。砂粒の雨が装甲の上に降り注ぎ、漆黒と灰色の迷彩模様に塗装された戦車の装甲を少しずつ汚していく。

 

 戦車の車体と変わらない大きさの岩石の塊がすぐ近くに着弾したというのに、俺は全く狼狽していなかった。ペリスコープを覗き込み、カーソルを少しだけ右に逸らして攻撃してきた目標を確認し、左手に持っていた食べかけのスコーンを全部口の中へと放り込む。オイルと炸薬の臭いが充満する車内に美味しそうなバターの香りをばら撒いていたスコーンを平らげ、こちらもそろそろ本腰を入れて反撃をすることにする。

 

「『ウォースパイト』より『ドレッドノート』へ。目標、3時方向。距離3000m」

 

『了解。カノンちゃん、やれる?』

 

『当たり前ですわ!』

 

『『ヴァイスティーガー』へ。目標は3時方向よ!』

 

『了解(ヤヴォール)、お嬢さん(フロイライン)!』

 

 さて、味方に敵の位置は教えた。これで1分以内のあの哀れなゴーレムは木端微塵になるに違いない。

 

 攻撃をせずに逃げればいいのに…………。

 

「ラウラ、こっちも移動だ。早く移動しないとあの岩でマッシュポテトにされちまう」

 

「ふにゅ? 私たちはお芋じゃないよ?」

 

「ジョークだって」

 

「ああ、なるほど」

 

 正確に言うなら『マッシュキメラ』か。しかも戦車のスクラップ添えまでついてくる。あらら、随分と豪華な料理だねえ。調理されるのはごめんだけど。

 

 ラウラがアクセルを踏み込んだ直後、俺たちの乗っている戦車が唸りを上げた。

 

 いつもは『ドレッドノート』というコールサインの付いたチャレンジャー2に乗っている俺たちだけど、今回は彼女たちとは別の戦車に乗って別行動をしている。実は昨日討伐した魔物から珍しく戦車がドロップしたんだが、その戦車が性能の良い戦車で、装備可能な兵器の中で死蔵したままにしておくのは勿体ないという事で、俺とラウラの2人だけで操縦できるように改造して運用しているのである。

 

 その魔物からドロップした戦車の正体は、イギリスで開発された『チーフテン』と呼ばれる主力戦車(MBT)である。主力戦車(MBT)はかなり数が多いが、このチーフテンは〝第二世代型”に分類される戦車で、第三世代型であるチャレンジャー2やレオパルト2から見れば父親のような立ち位置なのである。

 

 開発されたのは冷戦の真っ只中だ。当時は歩兵の持つロケットランチャーや対戦車兵器の破壊力が発達しており、当時の戦車の装甲では耐える事が出来ないと言われていた。更に第二次世界大戦中の独ソ戦で、ドイツから戦車の製造技術のノウハウを学んだソ連軍は日に日に強力な戦車を配備しており、それらの主砲を装甲で防ぐのは不可能だと西側諸国では判断されていたのである。

 

 そこで、当時の西側諸国は可能な限り戦車を軽量化し、相手の攻撃を回避しつつ強力な戦車砲や対戦車ミサイルで反撃するという作戦を考えていた。その影響を受けて開発されたのが第二世代型主力戦車(MBT)たちだ。

 

 しかし、その第二世代型の戦車の中でも、このチーフテンは異彩を放っていたと言える。周囲の戦車がどんどん軽量化していくのに対し、むしろ装甲を分厚くし、武装も強力にした戦車を開発していたのだから。

 

 エンジンの信頼性が非常に低かったという欠点があったが、改良を重ねることで辛うじて問題をいくつか解決し、最終的には信頼性が大きく向上している。更に当時の戦車の中では破格の攻撃力と防御力を兼ね備えており、冷戦中の戦車の中では間違いなく最強クラスの戦車の中に含まれるだろう。

 

 残念ながらあまり戦果をあげられないうちに、息子にあたるチャレンジャー1に取って代わられてしまうが、そのチャレンジャー1のベースはこのチーフテンとなっており、更にそのノウハウが発展型のチャレンジャー2へと受け継がれているのである。

 

 『ウォースパイト』というコールサインの付けられた俺たちのチーフテンは、改良を重ねられたMk11。エンジンの信頼性も向上しているため、馬力を心配する必要はない。ただ、さすがに冷戦中の戦車を改造しない状態で運用するのは無理があったので、せめて第三世代型の戦車に対抗できるように色々と改造を施している。

 

 まず、車体の装甲をできる限り複合装甲に変更する。これで車体に被弾しても、砲弾に貫通される恐れは減る。複合装甲は様々な種類の装甲を組み合わせた装甲の事で、第三世代型の主力戦車(MBT)には必ず装備されているのだ。それに対して、チーフテンが元々装備していた装甲は複合装甲ではないため、貫通力が極めて高いAPFSDSや形成炸薬(HEAT)弾の直撃を喰らうと一撃で貫通される恐れがあるのである。

 

 魔物がそんな攻撃をしてくる可能性は低いが、将来的には戦車に乗る転生者との戦闘も発生する可能性がある。実際に、親父たちは旧日本軍の戦車に乗った転生者の部隊と交戦した事があるというから、念のため第三世代型の戦車への対策はしておいた方が良いだろう。砲塔に複合装甲は装備していないが、その代わりに爆発反応装甲を搭載することでカバーしている。

 

 主砲は120mmライフル砲から、55口径120mm滑腔砲へと変更。これで発射できる砲弾の種類も増やすことができる。そして主砲同軸に搭載する機銃を、大口径の14.5mm弾を使用するソ連製のKPV重機関銃へと変更する。これは装甲車の主砲としても搭載された事がある機関銃で、対人だけでなく、装甲車にも対処することが可能だ。

 

 そして砲塔の上には、車内から操作する事ができる『プロテクターRWS』というターレットを搭載している。巨大なカメラのレンズを思わせるセンサーの上に武装を搭載したような形状の砲台で、搭載されている武装は『MK19オートマチック・グレネードランチャー』だ。40mmのグレネード弾を矢継ぎ早に連射できる武装であるため、こちらも対人だけでなく強靭な防御力を持つ目標へも対処できるようになっている。

 

 それと、念のために車長用のハッチの上にはロシア製LMGの『PKM』を搭載している。AK-47と同じく7.62mm弾を使用するLMGであり、大口径の銃弾で弾幕を張ることが可能となっている。やはり堅牢な機関銃で、信頼性は極めて高い。他の武装が大口径のものばかりなので、掃射用にとこれを用意しておいたのだ。後は対人用にダメ押しと言わんばかりにSマインをいくつか装備している。

 

 更に、乗組員を削減するために自動装填装置を搭載している。本来は4人乗りの戦車なんだが、装填手を自動装填装置に任せて装填手を削減し、俺が車長と砲手を兼任することで、辛うじて2人での操縦が可能となっているのだ。

 

 まあ、接近してくる敵兵とか小型の魔物に警戒しつつ、自分で敵を観測して砲撃して撃破する必要があるし、ラウラにちゃんと指示も出さないといけないんだけどね。過労死しちゃうよ、俺。

 

 …………ん? これってタンクデサントよりも過酷なんじゃない?

 

 まあいいや。車内にいるから紅茶飲み放題だし、自作のスコーンもちゃんと持ってきた。それにナタリアがチャレンジしたストロベリージャムもある。ちょっと砂糖を入れすぎちゃったのかもしれないけど、紅茶に入れると丁度いいんだよね、このジャム。

 

 もう1つスコーンを食べようと思って手を伸ばした瞬間、ドン、とまたしても猛烈な衝撃がチーフテンMk11を突き抜けた。あのゴーレムが放り投げた岩石が、また近くに着弾したんだろう。やはりチーフテンのエンジンはチャレンジャー2と比べるとうるさいから目立ってしまうらしい。

 

 反撃しようかと思って砲塔を旋回させた瞬間、陽炎が支配する砂漠の上を、炎に包まれた金属の塊が疾駆した。陽炎のカーテンに大穴を開け、真下の砂を舞い上げながら突き抜けていったその金属の塊は、やがて空中分解を起こしてしまったかのように外殻を脱落させると、その中に秘めていた攻撃的な姿をあらわにする。

 

 まるで巨大なクジラを仕留めるための鋭利な銛にも似た、銀色の弾頭だった。最新型の戦車の装甲を貫通することが可能な、APFSDSである。

 

 その砲弾は陽炎をことごとく貫通して突き進むと、足元から岩を拾い上げようとしていたゴーレムの胸板に飛び込んだ。岩石のような外殻で構成された身体が弾け飛び、太い両腕が血肉をばら撒きながら吹っ飛んでいく。

 

 みぞおちから上を消し飛ばされたゴーレムは、足元の砂を自分の血で一時的に湿らせると、そのまま砂埃を少しだけ巻き上げてから動かなくなった。

 

『命中! さすがカノンちゃん!』

 

『ちょっと坊や(ブービ)、先越されてるじゃない!』

 

『罰ゲームが必要だな』

 

『はぁ!?』

 

 どうやらあのゴーレムを仕留めたのは、チャレンジャー2(ドレッドノート)に乗るカノンらしい。遠距離から俺の親父に粘着榴弾を直接命中させるほどの腕前を持つのだから、3000mからの砲撃なんぞ朝飯前なんだろう。

 

 おかげで先を越されてしまった坊や(ブービ)は、仲間から滅茶苦茶文句を言われている。

 

 とりあえず、罰ゲームを考えるのは面白そうなので俺も参加させてもらおう。傍らの皿の上からジャム付きのスコーンを拾い上げ、口へと運びながら思い浮かんだ罰ゲームを提案する。

 

「パンジャンドラムに縛り付けて転がそう」

 

『何それぇ!?』

 

『じゃあV2ロケットに縛り付けて飛ばすのは?』

 

『く、クラン!?』

 

『3日間女装で過ごす!』

 

『『『それはタクヤのポジションでしょ』』』

 

「ムグッ!?」

 

 ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 く、くそ、スコーンが喉に詰まるところだったじゃねえか……………。こ、紅茶はどこだっけ………?

 

「はぁっ、はぁっ……………」

 

『メイド服とか』

 

『いえいえ、ここはスク水でしょ』

 

『何言ってるの。日本(ヤーパン)のユカタでしょ! ねえ、ケーター?』

 

『うーん…………制服でいいんじゃないの? 女子高生の』

 

『みなさん、お兄様に一番似合うのは騎士団のコスプレですわ! 制服をボロボロにしておいて、粘液まみれにして、後は触手を…………』

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

 しかも罰ゲームの話から俺の女装の話に変わってるし!! というか、触手!?

 

『もしくはニヤニヤ笑うゴブリンの群れッ!』

 

『『『うおおおおおおおおおおおおおっ!!』』』

 

『そしてそのままお兄様は、下衆なゴブリンの群れに――――――――』

 

『『『УРааааааааааааааааааа!!』』』

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 も、もうやめて…………お願い、俺は男なの。女の子じゃないの。

 

「うぐ…………」

 

「ふにゅう…………えへへっ、女装したタクヤも可愛いかもっ♪」

 

「四面楚歌!?」

 

 ラウラまで妄想始めてるよ…………。

 

 くそ、なぜこんな顔つきになってしまったんだろうか。いくら母さんに似過ぎているとはいえ、男なのに男装すると違和感があるってどういうことだ。

 

 車長の座席の上で落胆しながら、とりあえずナタリアが作ってくれたジャム入りのアイスティーを飲む。砂糖を入れ過ぎて甘くなってしまったジャムの味が、なんとなく俺の心の傷を癒してくれるような気がする。

 

 ああ…………まともな人って、大事なんだなぁ。ナタリアは最後の砦だよ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揺れる戦車の中で紅茶を飲みながら、何とか予想外の精神へのダメージを回復し終えた頃、岩山の向こうにその巨大な塔が見えてきた。

 

 戦艦がひっきりなしに停泊しているのではないかと思えるほどの高さの岩山の向こうから見えるそれが、俺たちの本拠地の印である。数日前にカルガニスタンの砂漠を進んでいる最中にここを見つけ、調査してから本拠地にしているのだ。

 

 岩山に挟まれた谷を超えると、その塔の根元が見えてくる。まるで地面からせり上がった岩盤のテーブルを思わせる岩山の中心部だけ、円形にくり抜かれたようになっているんだが、俺たちの本拠はそのくり抜かれた部分と、その地下に広がっている。

 

 くり抜かれた中心部には、合計で7本の巨大な塔が屹立していた。6本の巨大な塔が円形の大地の外周部に立ち、中心部に立つひときわ大きな塔を取り囲んでいる。周囲の塔はおよそ20mほどの高さがあり、よく見ると根元には高高度に砲弾を発射する高射砲や対空砲を思わせる駆動部がある。その付近には砲弾を装填するためのクレーンが用意されており、そのクレーンを動かすためのコンソールもある。

 

 その塔の正体は、ドイツが第二次世界大戦の際に投入した『クルップK5(レオポルド)』をベースにした巨大な対空砲だった。

 

 クルップK5は元々列車砲で、これを搭載した車体を機関車で牽引して運用する方式なんだが、強度を増強するためにあえて地面に固定して運用している。スオミの里に用意してきた『スオミの槍』を小型化したものと言っても過言ではないほど近代化改修しており、偵察ヘリやビーコンを装備した歩兵と連携すれば誘導砲弾の運用も可能となっている。ちなみに口径は戦艦金剛や扶桑と同じく36cmとなっている。

 

 つまり、地面から金剛や扶桑の主砲が単装砲バージョンになって伸びているという事だ。ちなみにこれは地上の敵を砲撃するだけでなく、炸裂弾を使用することで航空機の撃墜も可能だという。

 

 これを設置したのはクランたちなんだが、彼女はどうやらさらにレーダーサイトの設置も検討しているらしく、それと連動して機能し始めた暁には『本部への空爆及び航空機による攻撃は夢物語となる』って断言してた。ただ、人員不足のため肝心な砲手がいないんだよね…………。

 

 ちなみに、中央に立つ塔はこれの3倍である60m。大空を睨みつけたままぴくりとも動かないが、実はこれがテンプル騎士団の〝決戦兵器”なのである。まあ、こちらも砲手がいない上に運用するリスクが大きいので、積極的に使うわけにはいかないのだ。下手をすれば本部の設備が損傷しかねない。

 

 この巨大な大砲の群れが塔に見えるため、俺たちはここを『タンプル塔』と呼んでいる。

 

 タンプル塔は、大昔にフランスにあったという史実のテンプル騎士団の本拠地だったという。フランス革命の際には国王たちが拘束されていた場所とされていたが、ナポレオンによって取り壊されてしまったため、現在のフランスにはもう残っていない。

 

 テンプル騎士団の本拠地に付ける名前としてはうってつけだろう。

 

 地上には、現時点でこの7門の巨大な主砲が鎮座している。最終的にはもう少し対空兵器を充実させたり、この岩山をくり抜いてトンネルを作り、滑走路でも用意して航空機の運用も考えている。それと前に調査した際、この岩山の中には洞窟があり、その先にはかなり広い川が流れていたという。そのままその川はヴリシア帝国とフランセン共和国の間にある『ウィルバー海峡』まで続いているらしいので、拡張すれば駆逐艦とか空母を収納できる超巨大軍港を作り上げる事ができるかもしれない。

 

 とはいえ、現時点ではシュタージのメンバーと俺たちしかいないため、飛行場の準備も軍港の準備も手付かずなんだけどね。

 

 とりあえず人員を集めて色々と施設を拡張したいところだが…………いつまでもここにいるわけにはいかない。俺たちの目的はテンプル騎士団の規模を大きくする事だが、その前にヴリシア帝国へと向かい、最後の1つの鍵を手に入れなければならないのだ。

 

 しかも敵は、モリガン・カンパニーを率いる親父たちと吸血鬼。今度は間違いなく、三つ巴になる。

 

 今のうちに兵力を集め、ヴリシア帝国で総力戦を仕掛けるべきなのか、それともこのまま少数で乗り込み、巧く裏をかいて鍵を奪うべきなのかは、もう少し仲間と話し合うべきだろう。

 

 チーフテンのハッチから身を乗り出し、相変わらず熱い空気を吸い込む。オイルの臭いも混ざった砂漠の熱風は、車長と砲手を兼任して疲れた俺にはまさに追い討ちだ。砂まみれになった砲塔の上に何とか這い上がり、車体の後方へと滑り降りてから息を吐く。隣にチャレンジャー2とシュタージの保有するレオパルト2も停車し、各車両から車長を担当していた2人が顔を出した。

 

 ちなみに、チャレンジャー2とレオパルト2も同じくプロテクターRWSを搭載している。チャレンジャー2はチーフテンと同じくMK19オートマチック・グレネードランチャーを装備しているけど、レオパルト2の方はブローニングM2重機関銃を4門も装備している。対空用に使うのも考慮して装備したらしい。

 

 まさに近代化改修型ティーガーⅠといったところか。

 

「兼任お疲れ様」

 

「おう、ナタリア」

 

 車体から下りると、真っ黒な軍帽を取りながらナタリアが労ってくれた。彼女と握手をしてから、後ろで停車しているチーフテンを振り向いて息を吐く。

 

「せめてもう1人は乗組員が欲しいところだ」

 

「だから無理するなって言ったのに…………」

 

「いや、出来そうな感じがしたからさ」

 

「ふふふっ、バーカ」

 

「あははははっ。………あ、そうだ。ジャム美味しかったぞ」

 

 ちょっと砂糖を入れ過ぎだと思うけどな。

 

「あっ、本当? じゃあまたいっぱい作るね」

 

「おう。それにしても、ナタリアって料理上手いんだな」

 

 現時点では俺とケーターがトップという事になってるけど、ナタリアの料理も絶品だ。まあ、料理というよりはお菓子の方が得意らしいけど。この前は手作りのプリンを作ってくれたんだよね。

 

 ジャムの事を褒めると、ナタリアは頭の上から取ったばかりの軍帽を何故か再び目深にかぶると、顔を赤くしながら下の方を向いてしまった。

 

「あ、あんたを………その、目標にしてた…………から…………」

 

「え?」

 

 随分と小さい声だな……………。

 

「な、なんでもないわよ……………。そっ、それより、本当に美味しかった?」

 

「ん? ああ。今度はもっとたくさん欲しいな」

 

「そ、そっか……………。よしっ、頑張ってたくさん作るから、待ってなさい!」

 

「おう、頼む」

 

 まあ、甘すぎるのもいいか。紅茶に入れればちょうどいい甘さだし、スコーンにもよく合う。今度はパンの中に入れてジャムパンにでもしてみようか。

 

 そんな事を考えていると、空の方からヘリのエンジン音のようなものが聞こえてきた。はっとして仲間たちの方を見てみるけど、まだこのタンプル塔にはヘリポートなんてないし、戦車の周りにはメンバーが全員そろっている。仲間の誰かがヘリを飛ばしたとは考えられない。

 

 まさか、誰かがヘリで接近しているのか?

 

 そう思った俺は、反射的に首に下げていた双眼鏡を覗き込み、ヘリのエンジン音が聞こえてくる方角へと向けていた。

 

 ズームされた蒼空の中に、黒とグレーの迷彩模様で塗装されたヘリが1機だけ飛んでいる。蒼空の真っ只中だというのに、まるで見つけて下さいと言わんばかりの目立つペイントだが、そのヘリの側面には見覚えのあるエンブレムが描かれている。

 

 一番下で交差する2枚の長い真紅の羽根と、その上で交差するハンマーとレンチ。そしてさらにその上には、真紅の星が描かれている。明らかにソビエト連邦の国旗の影響を受けたとしか言いようがないあのエンブレムは――――――――モリガン・カンパニーのエンブレムだ。

 

 しかもそのヘリは、強力な武装を大量に搭載することが可能な、南アフリカ製の『スーパーハインド』。それの原型となったヘリは、ソ連のアフガン侵攻の際に猛威を振っている。

 

「モリガン・カンパニーのヘリ…………?」

 

 まさか、いきなり対戦車ミサイルをぶち込んでくるようなことはしないよな…………?

 

 対空戦闘の指示を出すべきか悩みながら、俺は静かに双眼鏡を下げた。

 

 

 




※チーフテンのコールサインの由来は、クイーン・エリザベス級戦艦の2番艦『ウォースパイト』から。原案では金剛級戦艦の原型となった『エリン』にする予定でした。というか、そもそもエリン案はチーフテンではなくもう1両のチャレンジャー2の予定でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。