異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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第二世代の転生者

 

 セレクターレバーをセミオート射撃に切り替え、大型のキャリングハンドルに搭載されているドットサイトを覗き込む。真ん中にある紅い点を高速移動する緑色の魔法陣に重ね、トリガーをすぐに引く。エジェクション・ポートから排出された薬莢が床に落下して金属音を奏でるよりも先に素早く照準を動かし、消滅していく魔法陣の残光の奥からやって来た魔法陣の中心を性格に射抜く。

 

 1秒足らずで2つの的を撃ち抜いた俺は、息を吐きながらドットサイトから目を離した。

 

 生産したばかりのG36Kは、もう既にカスタマイズを済ませてある。折り畳み式だった銃床は取り外してサムホールストックに変更し、銃身の下にはドイツ製40mmグレネードランチャーのAG36を装備。もし5.56mm弾やそれの強装弾が通用しなかった敵に遭遇した時のための装備だ。あとは暗所を照らせるように、銃身の左側にはライトを装備している。ダンジョンの探索を意識してのカスタマイズだ。

 

 既に照準器やスコープの調整は済ませてある。何度も試し撃ちを繰り返して満足した俺は、サムホールストックに変更したG36を背中に背負い、コントロール用の魔法陣をタッチ。訓練を終了させ、火薬の臭いを纏いながら地下室を後にする。

 

 出発はいよいよ明日だ。既に冒険者の資格は取得したし、今は持って行くアイテムの準備をしつつ、銃の試し撃ちや調整を行っているところだ。

 

 階段を上り切って廊下に出る。旅に出れば、14年間も過ごしたこの家とはお別れだな。小さい頃はよくこの廊下で、俺らに帽子を取られた親父と追いかけっこをしていたものだ。小さい頃は巨大に見えた洗面所の鏡をちらりと見ると、そこには確かに美少女と見間違えられそうな今の自分が、アサルトライフルを背負って立っているのが見える。

 

 一応男の服を着ているつもりなんだが、やっぱり女子が男子の服を着ているようで、全く男には見えない。

 

 やっぱり顔つきと髪型が原因なのか? でも、ポニーテールにしていない時でもやっぱり女みたいな顔だし、この髪型から変えるとラウラが嫌がるしなぁ………。

 

 後ろで結んでいるポニーテールを片手で掴んで弄っていると、背後から甘い香りが近づいてきたような気がした。香水の匂いではない。石鹸の匂いと花の香りを混ぜたような優しい香り。その中に少しだけ火薬の臭いが混じっているのは、おそらく先ほどまで試し撃ちをしていたせいだろう。

 

 はっとして後ろを振り向くと、そこには炎のような赤毛が特徴的な少女が立っていた。見た目は昔から成長してかなり大人びているけど、子供の時と全く変わらない笑い方をするから幼く見えるし、性格も幼い。

 

 彼女が身に着けていたのは、いつもの私服ではなかった。胸元が大き、所々が紅くなっている上着に、同じ色のミニスカート。そのミニスカートの中から下へと伸びる美しい足を覆っているのは黒いニーソックスだ。

 

 角を隠すためにかぶっている大きめのベレー帽には、いつの間にかハーピーの真紅の羽根が2つ付けられていた。

 

「じゃじゃーんっ! どう?」

 

「似合ってるよ。相変わらず胸元は開いてるけど………」

 

 何で胸元を開くんだよ………。最近はパジャマもボタンをいくつか外すようになってきたし。

 

「えへへっ。これね、フィオナちゃんがデザインしてくれたんだよっ!」

 

「フィオナちゃんが?」

 

 フィオナちゃんはこの世界で普及し始めたフィオナ機関を発明した天才技術者だ。モリガンのメンバーだった彼女は、現在はモリガン・カンパニーの製薬分野でエリクサーなどのアイテムの開発をしながら発明を続けているらしいけど、服のデザインもやってたのか。

 

 そういえば、前に母さんが「モリガンの制服はフィオナがデザインしていたんだ」って言ってたな。ということは、あの転生者ハンターのコートも彼女がデザインしたんだろうか?

 

 フィオナちゃんって、すごいんだなぁ……。発明家だし、薬草の研究もしてるんだろ?

 

「それでね、これ見て!」

 

 ラウラはそう言うと、訓練を終えたばかりの俺に真っ黒なコートを渡してきた。黒い革のコートみたいだが、表面にはベルトのような装飾がついているし、肩から胸の高さくらいまでの長さのマントがついている。

 

 渡された漆黒のコートを広げ、まじまじと見つめていると、そのコートの襟の後ろにフードがついていることに気が付いた。フードには真紅のハーピーの羽根が2枚付いている。

 

 見覚えのある特徴的なコートだった。

 

「このコートって……転生者ハンターのコートか?」

 

「うん。パパのコートを、フィオナちゃんが冒険者用に改良してくれたんだよ!」

 

 あの拘束具を彷彿とさせるベルトのような装飾の数は減っていて、その代わりに短いマントが追加されている。マントの後ろにはアイテムや小型のナイフの収納に使えそうなホルダーが用意されているようだ。回復アイテムはここに収納できそうだな。

 

 ラウラから受け取ったコートを広げていた俺は、そのコートを身に着けてみることにした。G36Kを彼女に預け、試しにシャツの上から漆黒のコートを羽織ってみる。

 

 袖を通して漆黒のジッパーを上げ、襟の後ろにある大きめのフードをかぶる。後ろにあった洗面所の鏡の方を振り返ってみると、禍々しい漆黒のコートを身に纏った少女のような少年が鏡の向こうに立っていた。武器は持っていないが、この黒いコートとフードの真紅の羽根が放つ威圧感はなかなか強烈だ。自分だと分かっている筈なのに、鏡を見た瞬間に一瞬だけ思わずビビってしまった。

 

 これが、転生者を殺す者の象徴か……。

 

 黒いから夜間での隠密行動には向いているだろう。この世界では魔術もよくフード付きのコートを身に纏っていることが多いため、あまり目立つ事もあるまい。

 

「少しでかいかな。親父よりも体格は細身だからか………」

 

 当時の親父の体格はがっちりしてたんだろう。転生する前はラグビーをやってたらしいし。

 

「ねえ、ラウラ。どう思――――――」

 

「ふにゃあぁ……………か、カッコいいよぉ………………!」

 

「………」

 

 後ろを振り返ってみると、俺のアサルトライフルを抱えながらラウラが目を輝かせていた。どうやらこんな格好は彼女の好みだったらしい。

 

 預けておいたアサルトライフルを一旦壁に立て掛けるラウラ。両手を空けたということは、まさか抱き付いてくるつもりじゃないよな!?

 

「ふにゃぁぁぁぁぁぁっ! タクヤ、大好きっ!!」

 

「ふにゃあああああああああああああああああ!?」

 

 やっぱり抱き付いてきたよ。しかも押し倒された俺が床に背中を強打した上に洗面台に後頭部を叩き付けて呻き声を上げているのもお構いなしに、俺の上にのしかかって大きなおっぱいを押し付けながらいつも通りの頬ずりを開始。甘えん坊にもほどがあるぞ、お姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれぇ? おかしいわねぇ」

 

「姉さん、どうしたのだ? 探し物か?」

 

 夕食に使った食器をキッチンまで運んでいると、一足先に食事を終えていたエリスさんが必死にソファの下やテーブルの下を覗き込みながら首を傾げていた。エリスさんはしっかり者の母さんと違って整理整頓をほとんどやらないらしく、物をなくすのは日常茶飯事らしい。本当にかつてラトーニウス王国で絶対零度の異名を持っていた最強の騎士なんだろうか?

 

 さすがに自分の姉がいつも物をなくすのを見慣れているらしく、母さんは両手を腰に当てて苦笑いしながら、「姉さん、何をなくしたのだ?」と問いかけている。

 

 やっぱり俺の母さんはしっかり者だなぁ。俺も母さんを見習って、マイペースで甘えん坊なお姉ちゃんの世話をしないと。

 

 ちらりとこっちを見て来た母さんに向かって肩をすくめると、俺は荷物の準備のためにリビングを後にしようとする。

 

「あのね、私のマンガがなくなっちゃったの」

 

「マンガ? 誰かに貸したのか?」

 

「いえ、貸してないわ。だって私のエロ本だもの」

 

「なっ……!?」

 

「え、エロ本ッ!? ま、まだ持ってたのか!! 姉さん、この間燃やしたばかりだろうッ!? 30冊以上も!!」

 

 エロ本をまだ持ってたのかよ! しかも母さん、エリスさんのエロ本を燃やしたのか! なんと容赦のない事を………!

 

 勿体ないな。一冊くらいプレゼントして欲しかったぜ。

 

「ちなみに表紙はメイド服姿の美少女なんだけど、知らない?」

 

「し、知るかッ!! しかもそれって明らかに男性向けだろうがぁッ!?」

 

「何言ってるのよ! メイド服の格好をした美少女って萌えるじゃないッ! あ、そうだ。今夜ラウラにメイド服を着せて――――――」

 

「自分の娘にそんなことをするんじゃないッ!!」

 

「じゃあタクヤにメイド服を――――――」

 

「わ、私の息子にそんなことはさせんぞッ! というか、タクヤは男の子だッ!!」

 

 お、俺まで巻き込まれそうになってませんか!?

 

 お母さん、がんばって! 俺のプライドがかかってるから!!

 

 巻き込まれる前にとっとと部屋に戻ることにした俺は、逃げるように階段を駆け上がって2階の廊下を突っ走り、2階にある俺とラウラの部屋に駆け込んだ。

 

「ふにゅ? タクヤ、どうしたの?」

 

「い、いや、何でもない。………それより、荷物は?」

 

「うん、アイテムはちゃんとあるし、保存食もあるよ」

 

 一応、管理局が設置した冒険者向けの宿泊施設は各地に用意されているんだが、もしかしたらダンジョンの中で野宿をする羽目になるかもしれない。それに管理局の施設が無い地域もあるらしいので、保存食や少量だが調味料も持って行くことにしている。

 

 それに、魔物から内臓を摘出するためのメスも持って行くことにしている。冒険に手術に使うようなメスを持って行くのはおかしいかもしれないが、魔物の中には内臓を何かの素材に使う奴もいるし、そのまま売れば大金になる場合もある。もし内臓を取り出さなければならなくなった場合、手持ちのナイフで取り出そうとすれば内臓が傷だらけになってしまうため、冒険者は内臓を取り出すためにメスを持ち歩く者が多いんだ。

 

 しかもこの世界では化学よりも魔術が発達しているから、医療は治療魔術師(ヒーラー)と呼ばれる医療用の魔術専門の魔術師頼りというのが現状で、メスを使って手術をしたりする医者は大昔に廃れてしまっている。中にはその技術を代々受け継ぐ医者の末裔もいるらしいが、親父たちも出会ったことはないらしい。

 

 モリガン・カンパニー製の漆黒のメスを布の上に並べ、刃にカバーを付けた状態で分ける。管理局のショップで購入してきた本数は20本。ホルダーの数も考えて10本ずつ分ければちょうどいいだろう。メスは安価だし、これを使う冒険者もいるため、管理局のショップだけでなく露店でも販売されていることが多い。

 

 それに、冒険者の中にはこのメスを投げナイフのように使う奴もいるらしい。サプレッサーを付けた銃の代わりに使えるかもしれないな。

 

 寝袋は必要ないだろう。俺は横になるだけで眠れるし、ラウラもそれで問題ないと言っている。管理局も施設などを用意して支援してくれているから、持って行く者は非常食やアイテムを最優先に選んだ方が良いだろう。物を持ち過ぎて動きが鈍くなり、魔物に囲まれて食い殺されたら元も子もない。

 

 あとは回復アイテムだ。モリガン・カンパニー製の3種類のエリクサーが入った試験管のような細長い容器を並べた俺は、中に入っている液体の色でどんな効果があるのか判別すると、3種類ある容器をそれぞれ2本ずつラウラに渡す。

 

 ピンク色の液体は、傷口を治療するヒーリング・エリクサー。従来のエリクサーを大幅に改良したもので、一口飲むだけで傷を一瞬で塞いでくれるという優れものだ。味はオレンジジュースみたいな香りと甘みがあるらしい。

 

 その隣にある水色の液体は、解毒剤を強化したような効果があるホーリー・エリクサー。一口で体内の毒を分解する効果があるし、なんと呪いなども解除してくれるらしい。ただし効果があるのは服用した人間に対しての呪いのみだ。

 

 そして、血のように紅いエリクサーはブラッド・エリクサー。負傷して大量出血した場合にこれを飲むと、体内で吸収されてすぐに血管へと侵入しつつその人の血液型を解析し、その人の血となって血管を流れることで大量出血による死亡を防ぐというアイテムだ。致命傷を負った場合に有効なアイテムだが、もし吸血鬼のような血を吸う敵に遭遇した場合にも役立つかもしれない。

 

 でも、吸血鬼は大昔に大天使が彼らの首領である『レリエル・クロフォード』という吸血鬼の王を倒して封印してしまっており、その後の人類の大規模な反撃でかなり数を減らしているため、遭遇する確率は低いだろう。

 

 しかし、信じられない話だが親父たちはそのレリエルと戦った事があるらしい。海の向こうにあるヴリシア帝国という島国で奴らと戦った親父たちは、メンバー全員が殺されかけるという窮地に陥ったが、何とか撃退する事ができたという。

 

 レリエルの封印はもう解けているというわけか。旅の最中に遭遇したらヤバいな。あの親父が殺されかけたんだから。

 

 親父が殺されかけるような相手を想像してぞっとした俺は、首を傾げながらこっちを見ているラウラに「ああ、気にしないで。考え事だから」と言ってから、自分の分のエリクサーを壁に掛けてある転生者ハンターのコートのホルダーに入れておく。

 

「あ、そうだ。ラウラ」

 

「どうしたの?」

 

「これ。物騒だけど、お前にプレゼントだ」

 

 旅立つ前に渡しておこうと思ってたんだ。夕飯の前にこっそり300ポイントを消費して生産しておいたあるものを、俺はホルスターごとラウラに渡す。

 

「何これ?」

 

 ホルスターの中に納まっていたのは、まるでハンドガンのスライドのような銃身を持つ銃だった。ハンドガンのようにも見えるが、グリップの上の方に円柱状のシリンダーがあるため、リボルバーであるという事が分かる。

 

 彼女に渡した銃は、ロシア製ダブルアクション式リボルバーのMP412REX。アメリカ製リボルバーであるコルト・パイソンが使用する弾薬と同じ.357マグナム弾で、再装填(リロード)の方式はイギリス製リボルバーやアメリカ製リボルバーのスコフィールドM3などで採用された中折れ(トップブレイク)式。その名の通りシリンダーの辺りから折るように展開して再装填(リロード)する方式の事で、他の方式であるソリッドフレーム方式とスイングアウト方式と比べるとあまり頑丈ではないという弱点があるが、その2つの方式よりも素早く再装填(リロード)できるという大きな利点がある。

 

「ふにゅ? ねえ、何で紅く塗装してあるの?」

 

 ラウラに渡したMP412REXは、シリンダーの一部と撃鉄(ハンマー)とグリップの一部を紅く塗装してある。それ以外の色は黒だ。

 

「えっと、その………なんとなくだけど、ラウラの色をイメージしてみたというか…………」

 

「え? 私の?」

 

「う、うん。………ちなみに、こっちは俺のなんだけど」

 

 そう言いながらもう1丁のMP412REXを取り出す。こちらも漆黒に塗装してあるが、ラウラに渡した方のリボルバーのように、シリンダーの一部や撃鉄などが蒼く塗装されていた。

 

「あ、そっちはタクヤの分?」

 

「あ、ああ」

 

「えへへっ。おそろいなんだね」

 

「そういうこと」

 

 リボルバーは頑丈だし、排莢不良も起こらない。持っておいた方が良いだろう。

 

 嬉しそうにリボルバーを見つめたラウラは、にっこりと笑ってからホルスターを腰に下げると、俺の手をぎゅっと握った。

 

「えへへへっ。………ありがとっ!」

 

「!」

 

 ヤバい……俺のお姉ちゃん、滅茶苦茶可愛い………。

 

 シスコンになっちゃおうかな。

 

 ラウラの嬉しそうな笑顔を見て顔を赤くしてしまった俺は、そう思いながら彼女の顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 家の玄関から外に出れば、やはりあの重々しくて殺風景な防壁が出迎えてくれる。でも、今日は快晴だ。夏が終わり始めているせいで少し寒くなり始めているが、綺麗な蒼空と日光が心地良い。

 

 蒼空に防壁の重々しさを洗い流してもらってすっきりした俺は、襟の後ろにあるフードをかぶり、隣に立つラウラと共に家の敷地の外へと出た。

 

 持ち物はしっかりと確認したから忘れ物はない筈だ。財布や冒険者のバッジも持ったし、回復アイテムも持っている。

 

「ラウラ、気を付けるのよ……! うぅ、寂しいわ………ッ!」

 

「ママ………ラウラも寂しいよぉ………!」

 

 見送るために外に出た瞬間、旅立とうとしている俺たちの姿を見ていきなり泣き崩れるエリスさん。ラウラも泣き崩れた母親の姿を見て寂しくなったのか、俺とつないでいた手を離して、泣きながらエリスさんと抱き合っている。

 

「安心しろ、エリス。タクヤも一緒だから大丈夫だ」

 

「グスッ……そ、そうよね。タクヤも一緒だしっ…………!」

 

 泣き崩れているエリスさんの肩に手を置いて慰める親父。ポケットから取り出したハンカチで自分の妻の涙を拭き取りながらこっちを見て頷いた親父は、エリスさんの涙を拭き終えてから、ハンカチをポケットへと戻す。

 

 その後ろからやってきた母さんもなぜか泣きそうになっていたが、すぐに泣き崩れたエリスさんと違って、何とか堪えているようだ。親父がハンカチをスタンバイしているが、母さんは泣く様子はない。きっと家に戻ってから泣き出すんだろうな。

 

「わ、私たちの子供だ。あんな訓練に耐えたのだから………だ、大丈夫だろう………ッ」

 

 お母さん、涙声になってるよ。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「おう。………冒険を楽しんで来い」

 

 親指を立て、笑顔で見送ってくれる親父。前世の親父は旅行などで遠くに行く俺を全く見送ってくれることはなかったから、嬉しくなってしまう。

 

 俺も親父に親指を立て、まだ泣き続けるラウラにハンカチを差し出してから2人で歩き始める。

 

 そういえば、ガルちゃんは見送りに来てくれなかったな。親父に仕事を任されて世界中を旅しているらしいんだが、家に帰ってきたのは数回だけだった。きっと彼女も大変なんだろう。出発する前に会いたかったんだけどなぁ………。

 

 やっと泣き止んでくれたラウラにハンカチを返してもらい、2人で防壁の外へと向かう。

 

 最初の目的地は、傭兵ギルドであるモリガンの本部があり、カノンの母親であるカレンさんが統治するエイナ・ドルレアン。南にある大都市だ。俺たちが線路を吹っ飛ばしてしまったため徒歩で移動する羽目になっちまったが、その途中にも小さなダンジョンがあるらしいから、手始めにそのダンジョンを調査していこう。

 

 カレンさんや信也叔父さんには親父が紹介状を書いていてくれているらしいから、無事に到着すれば力を貸してもらえるだろう。

 

 見慣れたあの重々しい防壁を潜り、防壁の外に出る。街の中は産業革命の影響ですっかり変わってしまったが、その先にある草原は、魔物を倒して素材を売り、小遣いを貯めていた頃と何も変わらない。緑と蒼が支配する開放的な世界だ。

 

 これからは、この世界が俺たちの旅路となる。

 

「―――――いよいよ冒険が始まるんだね、タクヤ」

 

「ああ……。行こうぜ、ラウラ」

 

「うんっ!」

 

 親父から受け継いだ転生者ハンターのコートについているフードをかぶり直した俺は、隣に立っているラウラと手を繋ぎながら、開放的な世界に向かって歩き出す。

 

 転生者は親父が若い頃に狩り続けたせいで激減しているらしいが、まだこの世界には転生者が残っている。もし人々を虐げているクソ野郎に出会ったのならば、ラウラと一緒に狩るつもりだ。

 

 俺たちは、2人で2代目の転生者ハンターなのだから。

 

 この冒険の主人公は――――――俺たちだ。

 

 

 

 

 


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