異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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21年後への帰還

 

「失礼するわ」

 

 ドアをノックする音が聞こえた直後、ドアの向こうからエリスが書斎へと入り込んできた。身に着けている服はエミリアが以前に来ていた黒い軍服のようなモリガンの制服で、彼女のように凛々しい雰囲気を放つエリスによく似合っている。

 

 俺は彼女に「ああ、よく来たな」と言うと、ひとまず羽ペンから手を離した。

 

「それで、何の用なの?」

 

「ああ、お前についての事なんだが…………。エリス、行く当てはあるのか?」

 

「ないわね…………」

 

 エリスはラトーニウス王国騎士団の切り札で、絶対零度の異名を持つほどの騎士だ。でも、ジョシュアに利用されていたとはいえラトーニウス国内では裏切者扱いされており、国に戻ったとしても処刑されてしまうに違いない。

 

 それに、実家ももう焼き払ってしまった。しかも祖国の騎士団を離反しているから、肉親の所に逃げ込むわけにもいかない。

 

 今の彼女は、転生したばかりの頃の俺と同じ状況だった。

 

 だから、俺は彼女を呼び出したんだ。

 

「だろ? だからさ、その……………行く当てがないなら、ここで傭兵をやらないか?」

 

「え?」

 

 行く当てがないと言ったエリスは、書斎の椅子に座っている俺を見下ろした。

 

「大丈夫だ。もう仲間たちは説得してある」

 

 特に、彼女を警戒していたギュンターにも話をしておいた。ギュンターはエリスをまだ警戒していたようだったけど、彼女の出生と事情を詳しく話したら、涙を流しながら合意してくれたんだ。

 

 他のメンバーは特に反対しなかったし、賛成してくれている。

 

 エリスがモリガンのメンバーになってくれれば、確実に戦力はアップするだろう。なにしろラトーニウス王国の切り札が仲間になってくれるんだからな。しかも、エミリアも喜ぶはずだ。

 

「どうだ?」

 

「でも……………いいの?」

 

「ああ。みんな歓迎してくれるさ」

 

「――――――――なら、お世話になろうかしら」

 

 彼女はそう言って微笑んだ。どうやらここで俺たちと一緒に傭兵をやってくれるらしい。

 

 ここならば祖国の事を気にしなくていい。もし彼女を連れ戻そうと騎士団がやってくるならば、仲間たちと共に現代兵器を使って返り討ちにすればいいのだから。

 

 それがモリガンという傭兵ギルドだ。

 

「よろしくな、エリス」

 

「ええ、よろしく。……………それと、力也くん」

 

「ん?」

 

 彼女は微笑みながら俺に近づいて来ると、デスクを回り込んで俺の隣へとやって来た。何をするつもりなのかと思いながら彼女の方を向くと、彼女はそっと俺の両肩に手を置いて顔を近づけ――――――――唇を、俺の頬に静かに押し付けた。

 

 ―――――――――え? キスされた?

 

 何で? 顔を真っ赤にしながら顔を離していく彼女を見つめていると、エリスは楽しそうに笑いながら言った。

 

「……………君のおかげで、またエミリアと姉妹に戻る事が出来たわ。私たちを繋ぎ止めてくれてありがとっ」

 

「あ、ああ」

 

「それと、私………………惚れちゃったかも」

 

「え?」

 

「ふふふっ。―――――――それじゃ、みんなに挨拶してくるわね」

 

 彼女は楽しそうに笑いながらそう言うと、顔を真っ赤にして狼狽している俺の顔を見てウインクしてから書斎を後にする。

 

 惚れちゃったって………………まさか、俺にか?

 

「りょ、両手に花………………?」

 

 エリスの甘い香りが残る書斎の中で、俺は顔を赤くしながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパたちに事情を話した後、私はタクヤと一緒に寝室で荷物の準備をしていた。どういうわけなのかは分からないけど、今日の午前10時に元の時代に戻ることができるんだって。タクヤの能力で転送する事ができるようになったみたいなんだけど、どうしてなのかな?

 

 うーん…………タクヤの能力も転生者の能力だから、転生者の能力を作った人が関係しているのかな? そもそも、私たちはどうしてこの時代に飛ばされたんだろう? 無作為に選ばれたわけではないみたいだし…………。

 

「ふにゅー……………わかんない」

 

「うん、俺もだよ。どうして戻れるようになったんだろう……………」

 

 そう言いながら、タクヤは腰に下げていた剣を見下ろした。

 

 魔剣は絵本で何度も見たことがあったけど、タクヤが腰に下げている〝魔剣だった剣”からはもう禍々しさは感じない。むしろ、まるで本当の星空のように透き通っていて、開放的で、蒼い刀身を見つめているだけで安心できるような、安寧の塊みたいな剣だった。

 

 星剣スターライトっていう名前みたい。

 

 歴史の通りなら魔剣は破壊されている筈なんだけど、タクヤが変異させたとはいえ、スターライトは元々は魔剣だから、元の時代に持って帰ったら存在しない筈の魔剣が残っているという事になっちゃうね。過去から持ってきたとはいえ、それの影響はないのかな?

 

「あー、母さんからもっとまじめに剣術習ってればよかった」

 

「ふにゅ? なんで?」

 

「剣よりナイフの方が得意だったんだけど、スターライト(これ)使うなら剣術は必須だろ?」

 

「あっ、そうだね」

 

「しかも発動すると滅茶苦茶魔力使うし…………常時使うと一瞬で魔力が空っぽさ」

 

 リスクがないわけじゃないんだね。

 

 もう一回剣を見せてもらおうと手を伸ばしていると、寝室のドアがノックされた。タクヤが「どうぞ」って返事をするとドアが開いて、モリガンの黒い制服に身を包んだママが入ってくる。

 

 何だか、騎士団の制服よりもこっちの方が似合ってるような気がする。この頃のママってまだ18歳だから………あっ、私たちと同い年なんだ! ふにゅう、なんだか変な感じがするね。自分の母親と同い年って。

 

「失礼するわ」

 

「ふにゅ? ママ、どうしたの?」

 

「ええと、ラウラと話があるの。できれば………2人で話がしたいなって」

 

「ああ、なるほど。………じゃあ、俺は親父たちに挨拶してくるわ」

 

 タクヤはそう言うと、私とママに向かって小さく手を振りながら壁際に置いてあったAN-94を背負うと、部屋を出ていった。私とママが2人きりに慣れるようにするついでに、パパたちとお話してくるつもりなんだろうね。

 

 何だか寂しいけど、すぐ戻ってきてくれるよね。あの子、いつも私と一緒だったし。

 

「ええと………………あのね、ラウラ」

 

「ふにゅ?」

 

 ママ、どうしたの?

 

 首を傾げていると、ママは私の手を握った。

 

「ナバウレアで、私の事ビンタしたじゃない」

 

「あっ」

 

 ふにゃああああああああああっ!! そ、そうだった!!

 

 私、若い頃のママに向かってビンタしちゃったんだ! えっと、あれはママを一緒に連れて行くためだったんだし、許してくれるよね!? ま、まさか私と2人きりになったのって、2人の状態でじっくりと仕返しするため!?

 

 予想が的中してしまったからなのか、私の手を握るママから何だか冷たいオーラのようなものがあふれ始める。私の氷でも太刀打ちできないほど冷たい冷気にも似たオーラが、私の身体を撫で始める。

 

 あ、ああ…………ご、ごめんなさい、ママ…………怒らないでぇ…………!

 

「………………ありがとね、ラウラ」

 

「…………えっ?」

 

 あ、あれ……………? ママにお礼言われちゃった……………?

 

「あの時、ラウラのビンタがなかったら私………………死んじゃってたかもしれないわ。あなたのおかげよ」

 

「ふにゃ…………? え? えっと…………ど、どういたしまして…………」

 

「うふふっ。………………それにしても、未来からやってきた自分の娘に助けられるなんてね。私、ダメなママかも」

 

「そ、そんなことないよっ! ママ優しいし、美人だし、毎日おやつくれたもんっ!」

 

 本当だよっ! 毎日3時になると、絶対おやつ準備してくれてたんだもん! もちろんお手製じゃなくて近所のお店から買ってきてたやつだけど。

 

 でも、そんな優しいママがダメなママなわけないもん!

 

「ふふふっ…………そうかしら?」

 

「うんっ! だから自信持ってよ、ママ!」

 

「そうね。……………うん、頑張るわ。頑張って結婚するんだから!」

 

「えへへっ。うん、頑張って。ママは優しい人だから、きっといい奥さんになるよっ♪」

 

 そしてエミリアさんと一緒に、みんなで家族になるんだもんね。

 

 だから頑張ってね、ママ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――それは本当か?」

 

「ああ」

 

 ラウラがエリスさんと話をしている間、俺は親父の部屋を訪れていた。転送されると告知された時刻まであと30分。それまでに若き日の親父や母さんに挨拶をしておきたかったんだが、最後にもう一つだけ、彼らに伝えておかなければならない事があった。

 

 これを伝えたら後味が悪くなるだろうと思ったんだが――――――――大参事を防ぐためには、必要な情報だ。

 

「……………7年後、転生者の襲撃でネイリンゲンが………………」

 

「ああ、壊滅する。生存者はわずかだ」

 

 そう、これを伝えなければならなかった。

 

 俺とラウラが3歳の時の事だ。当時、モリガンは〝勇者”と呼ばれていたある転生者が率いる大規模な勢力と対立関係にあり、情報を集めつつ少しずつ反撃の準備を進めていた。敵の規模はモリガンの規模とは比べ物にならないほど強大だったそうだが、作戦中に知り合った、中国出身の『張李風(チャン・リーフェン)』という転生者の率いる部隊と共に軍備を拡張していたのである。

 

 だが、それに先手を打つかのように、勇者の部隊がネイリンゲンへと大規模な襲撃を仕掛けたのだ。しかも標的はモリガンのメンバーだけでなく、住民まで標的にした無差別攻撃。この惨劇が原因で、俺たちの時代ではネイリンゲンは壊滅し、廃墟と化してダンジョンになってしまうのである。

 

 とはいえ、どのような襲撃だったのか詳しく聞いたわけではなかったから、どう対処すればよかったのかは分からない。あくまでも「しっかり警戒しておけ」というアバウトな忠告しかできないのが歯がゆいが、襲撃の事を知っていれば対処できる筈だ。

 

「…………そうか、この街が…………」

 

 片足を失ったばかりの親父に付き添っていた母さんが、窓の外を見つめながら呟いた。逃走劇の終着点であるこの田舎の街が、21年後には危険な魔物が徘徊するダンジョンと化していることが信じられないのだろう。

 

 この時代ではまだ武器の製造方法が発達しておらず、魔物と戦う難易度は産業革命以降とは比べ物にならないほど高かったという。それゆえに簡単なダンジョンでも冒険者の生存率は30%を下回るのが当たり前で、人気の職業と言われている冒険者も、経験者からすれば自殺行為と変わらないのだ。

 

「分かった、忠告ありがとう。……………しかし、いいのか?」

 

「何がだ?」

 

「俺たちがもしその襲撃を撃退すれば、歴史は変わる。お前たちが元の時代に戻ったとしても、お前たちの知っている歴史ではないかもしれんぞ?」

 

「それは……………」

 

 歴史が変われば、結果も変わる。

 

 行きつくことのなかった結果は予想がつくが、その結果から先にどのような結果があるのかは、全く想像がつかない。下手に歴史を変えれば、元の時代に戻ったとしても全く別の世界になっている可能性もあるのだ。

 

 だから、歴史を変えるという行為のリスクは大きい。

 

「…………でも、あの惨劇が起こるよりはマシだ」

 

「……………そうか」

 

 生存者はわずか100名程度。しかもその生存者の中で、五体満足で済んでいたのは4割ほどだという。

 

 それよりはマシだ。歴史が代わり、未来が変異するとしても。

 

「とにかく、忠告ありがとう。その惨劇は何とか防いでみせるさ」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

 あの惨劇で、ナタリアも怖い思いをしたのだから……………。

 

 俺たちの仲間の1人であるナタリアも、ネイリンゲン出身だ。あの襲撃で母親と離れ離れになり、転生者たちに殺されそうになっていたところを親父に救われ、その親父を目標にして冒険者になったという。

 

 もしあの惨劇が起こらなかったら、ナタリアは冒険者ではなくなってるのではないだろうか。

 

 もしかしたら、冒険者以外の職業についているかもしれないし、王都まで出稼ぎに行っているかもしれない。そう、あの惨劇で親父と出会ったことが、ナタリアにとって冒険者になるきっかけになったのだ。だからその惨劇を防いでしまったら、ナタリアは冒険者にならずに他の道を選んでしまう可能性もある。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いや、何でもない。…………とにかく、健闘を」

 

「おう」

 

 2人に挨拶をしてから、俺は部屋を後にした。

 

 転送予定の時刻まで、あと20分になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 21年前にやってくる事は、もうないだろう。そもそも過去の世界へと迷い込む事自体ありえないのだから、ここで転送されてしまったらここにいるモリガンの傭兵たちとはもう二度と再会することはありえない。

 

 未来にいる彼らの記憶の中には、思い出としてこの出来事は残るかもしれないが、もうここにいる親父たちに出会うことはないのだ。そう思うとなんだか寂しくなってしまうけど、そう言う俺たちがこの時代似ることの方が異常なのだから、早く元の時代に戻るべきだろう。

 

 俺たちが生きている時代は、21年後の未来なのだから。

 

《転送まで、あと2分》

 

 目の前にメッセージが表示され、カウントダウンが始まる。もう一度忘れ物がないか確認しようとした俺だったけど、そもそも持ち物は殆どない。あるとすれば、迷い込んだ時に身に着けていたアイテムとか、ラウラから貰った大切なリボンくらいだろう。

 

 ああ、あとは未来には存在しない筈の星剣(こいつ)だな。とりあえず、忘れ物はない。

 

「ラウラ、元気でね! …………ぐすっ、なんだか寂しいけど…………また、会えるわよね?」

 

「ふにゅう…………うん、会えるけど…………うう、なんだか寂しいよぉ……………!」

 

 な、何だかこんな場面を見たことがあるんだけど。確か、王都から旅立つ時だったっけか。あの時もこんな感じにエリスさんとラウラが抱き合って、2人で泣いてたな。

 

 おいおい、それは21年前でも同じか。

 

「まあ、達者でな」

 

「おう」

 

 抱き合う母と娘を苦笑いしながら見守っていると、片足を失った親父が松葉杖をつきながら近くまでやってきた。相変わらずモリガンの黒い制服に身を包み、まだ引退するつもりはないと言わんばかりに背中にAK-47を背負っている。

 

 ここで引退されても困るけどな。親父にはぜひ義足を付けてもらってキメラになってもらわなければ。

 

「なんだか、変な体験だな。未来からやってきた子供たちに救われるなんて……………」

 

「こっちこそ、若き日の親父と共闘するなんて思ってなかったよ」

 

「はははっ、クソガキめ」

 

《転送まで、あと30秒》

 

 俺と親父の間に、カウントダウンが表示されたメッセージが割り込んだ。少しばかり苛立ちながらメッセージを横へ届けると、いつの間にか親父の表情も寂しそうになっていた。

 

 安心しろって。あんたが歴史の通りに2人と結ばれてくれれば、また会えるんだ。寂しそうにしてんじゃねえよ、クソ親父め。

 

《転送まで、あと10秒》

 

 それにしても、この過去で良い体験ができた。何度か死にかけたけれど、モリガンの傭兵たちの戦いを学ぶ事ができたし、新しい力も手に入ったんだからな。

 

 そして、親父たちの若い頃の姿も見る事ができたし。この不思議な体験もノエルに教えてあげよう。他の仲間は信じてくれないかもしれないけど、ノエルは純粋な子だから信じてくれるに違いない。

 

「―――――――じゃ、未来を頼んだぜ」

 

「おう。あんたこそ、死ぬんじゃねえぞ」

 

「何を言っている。こいつは私たちの夫になる男だぞ?」

 

「あははははっ。…………じゃあ、また未来で」

 

「ああ」

 

 親父と握手してから、隣に立っていた母さんとも握手する。2人の手をぎゅっと握ってから、見送りに来てくれた他の傭兵たちの顔を見渡す。

 

 親父たちは様々な激戦を経験し、その度に死にかけてきた。けれど、五体満足のままでなくても1人も欠けずに未来まで生き残り、最強の傭兵ギルドと呼ばれるようになるのだ。俺たちは彼らの実力を信じて、元の時代に戻るとしよう。

 

《5、4、3、2、1…………転送します》

 

 じゃあな、親父。また未来で会おう。

 

 若き日の母さんと並んで立つ親父に向かって微笑んだ直後、俺とラウラの身体が光に包まれた――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇妙な夢を見た。

 

 21年前のネイリンゲン防衛戦の夢だ。そう、私と姉さんがネイリンゲンの草原で殺し合い、そして力也に繋ぎ止められたあの戦いの夢を、私は先ほどまで見ていたのだ。

 

 本当に奇妙な夢だった。あの戦いに――――――――未来からやってきたタクヤとラウラが、参戦してくれたのだから。

 

 確か、本当ならばあの戦いは……………ああ、そうだ。確か、本当にあの2人が加勢してくれたんだったな。未来から過去の世界に迷い込んだあの2人が、私たちに手を貸してくれたのだ。そしてタクヤはジョシュアの奴から魔剣を奪い取り、ラウラと共に未来へと帰っていった。ああ、懐かしい。あの時の夢だ。

 

 ベッドから身体を起こそうとしていると、毛布が揺れた音で目が覚めたのか、同じベッドで眠るリキヤがほんの少しだけ目を開けた。

 

「どうした?」

 

「いや、目が覚めてしまってな。…………ふふっ。リキヤ、聞いてくれ。昔の夢を見たぞ」

 

「ん? いつの?」

 

「ネイリンゲン防衛戦だ。ほら、未来からラウラとタクヤが来てくれただろう?」

 

 すると、リキヤは瞼を擦ってから顔をしかめた。てっきり「ああ、懐かしいな」と言ってくれると思っていたのだが、私が何を言っているのか理解できていないかのようにもう一度首を傾げると、また髭が伸びてきた顎を片手で撫でてから再び毛布をかぶり直す。

 

「何言ってんだ。あの時は俺たちだけだっただろ?」

 

「む? そんなわけないだろう? 確かにタクヤたちが加勢してくれたぞ?」

 

 あの2人のおかげで、私たちはネイリンゲンを守り切る事ができたのだ。……………それから7年後の惨劇は食い止めることは出来なかったが……………。

 

「ほら、いいから寝ようぜ。明日は休みだし…………」

 

 眠そうにあくびをしてから大きな手を伸ばし、身体を起こしていた私を抱き寄せるようにして寝かせるリキヤ。こいつもあの場にいた筈なのに、覚えていないのか?

 

 まあ、寝ぼけているだけだろう。明日の朝にもう一度話してやれば思い出す筈だ。

 

 ふふっ。それにしても、随分と頼もしい子供たちだったな。彼らから私たちが結ばれるという事を教えられた時、私がリキヤを愛しているという事がばらされて恥ずかしい思いをしたが…………ちゃんと結ばれたし、こうして立派な子供たちを生む事ができたのだ。

 

 またあの時の事を思い出しながら、私は再び瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体中が熱風に包まれている。身体を動かそうとすると、服の中に入り込んだ熱いざらざらした砂が蠢いて嫌な感触がした。その感触から逃れるように目を開いて起き上がった俺は、小さく頭を振りながら周囲を見渡す。

 

 おかしいな。眠ってたのか…………?

 

 というか、ここはどこだ? さっきまでネイリンゲンの郊外にある草原の上で、若き日の親父たちに見送られてたはずだけど…………?

 

「ふにゃ…………?」

 

「ラウラ、無事か?」

 

「ふにゅ、大丈夫…………。ねえ、ここどこ………?」

 

「ええと…………」

 

 そうだ。確か俺たちは、あの時代に迷い込む前に奇妙な塔の調査をしていた筈だ。そして地下で奇妙な蒼い桜を―――――――――。

 

 ん? 蒼い桜? ちょっと待て、俺は何を考えてるんだ?

 

 ずきん、と頭が軽く痛む。片手で頭を押さえようとしたけど、俺の手が頭に触れるよりも先にその痛みは消え去ってしまう。

 

 そうだ、蒼い桜なんてあるわけがない。桜ってピンク色の花だろ? 蒼い桜なんて存在しないんだよ。俺は何を考えてるんだ? 疲れちまったのか?

 

「あっ、こんなところにいた!」

 

「ん?」

 

 痛みが止んだ頭を押さえていると、階段の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。中世の城の中にも似たレンガ造りの壁の方を見てみると、上へと続く階段の近くに、黒い制服に身を包んだ金髪の少女が立っているのが見える。

 

 金髪のツインテールの少女は俺たちを見てため息をつくと、ゆっくりとこっちへやってきた。

 

「ちょっと、どこに行ってたの? 心配したのよ?」

 

「ナタリア………?」

 

 あれ? テンプル騎士団の制服に身を包んでいるっていう事は、ちゃんと俺たちの仲間になったのか?

 

 ということは、あの惨劇は起きた………? 親父たちは、ネイリンゲンの惨劇を食い止める事が出来なかったのか?

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや…………なんでもない」

 

 おかしいな。そもそも、あの21年前の世界に迷い込んだあの体験は何だったんだ? 夢だったのか?

 

「ん? ねえ、タクヤ」

 

「ん?」

 

「その剣、何?」

 

「え?」

 

 ナタリアが指差していたのは、俺の腰に下げられている大きな剣の鞘だった。その鞘の中に納まっているのは、大昔にスコットランドで使われていたクレイモアを彷彿とさせる、大きめの剣である。

 

 これは確か、あの時ジョシュアの野郎から奪い取った剣だ。元々は魔剣だったんだけど、俺が奪い取った瞬間に蒼い刀身の剣に変わったんだ。

 

 ということは、あれは現実だったのか………?

 

「とにかく、みんなの所に戻りましょ。ここ、拠点にするんでしょ?」

 

「ん? ここってどこだっけ?」

 

「何言ってんのよ。砂漠の中で見つけた、大昔の騎士団の城でしょ?」

 

「あれ? 塔じゃなかったっけ?」

 

「はあ? ちょっと、いい加減にしてよね。寝ぼけてるんじゃないの?」

 

 あ、あれ………? 俺たち、砂漠の中で塔を見つけたんじゃなかったっけ………?

 

 ラウラの方を見ると、彼女も首を傾げていた。

 

 まあ、無事に元の世界に戻ってこれたんだし、変な事を言ってナタリアのビンタを喰らうのは嫌だからな。この調子だと、仲間たちに21年前に言ってきたって言っても信じてもらえそうにないし、あの冒険譚は内緒にしておこう。

 

 

 


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