異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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燃え落ちた魔剣

「おいおい………………」

 

「嘘でしょ………………?」

 

 俺たちの目の前で、いきなりジョシュアが纏っていた紅いオーラが膨れ上がった。そのオーラは無数の触手のように拡散して周囲のゾンビたちへと伸びていくと、ゾンビたちの体に突き刺さり、彼らの体内から魔力を吸い上げ始める。

 

 オーラの触手たちが少しずつ太くなっていき、魔剣が纏っていたオーラとレリエルの血で汚染された魔力が濃くなっていく。

 

「ハッハッハッハッハッ!」

 

 親父とエリスさんに追い詰められ、更に俺とラウラの連続攻撃で嬲り殺しにされたジョシュアは、なんと周囲のゾンビたちから魔力を吸収し始めたんだ。そのせいで、もう既にジョシュアの股間から血痕が消えている。

 

 拙いな……………。俺は周囲を見渡しながらため息をつく。

 

 俺たちの周囲はゾンビだらけだ。ジョシュアは魔剣を使って、そいつらから汚染された魔力を吸収する事ができるようだ。ゾンビたちは俺たちやモリガンの傭兵たちが大量に倒した筈だけど、まだまだ残っている。だからジョシュアにとって、自分の傷を治しながらパワーアップするための〝道具”はまだ残っているということだ。

 

「これじゃ埒が明かないぞ…………。なあエリス。魔剣ごとジョシュアを氷漬けにできないか?」

 

「無理よ。私の氷は魔力で生成してる氷だから、あんな汚染された魔力に触れたら私の氷まで浸食されちゃうもの。……………力也くんこそ、ジョシュアだけさっきの炎で火達磨にできないの?」

 

「うーん……………タクヤ、できるか?」

 

「難しいッス。お姉ちゃんは?」

 

『○○○を何度もぶち抜けばいいの?』

 

「「や、やめろって……………」」

 

 しかも20mm弾だろうが。ぶち抜くじゃ済まないぞ、確実に。

 

 親父と同時に呟いた俺は、予想以上に親子で息が合っていることに驚きながらも、ゾンビたちから次々に汚染された魔力を吸収していくジョシュアを睨みつけた。

 

 実際に、他者から魔力を奪うような魔術は存在する。でも詠唱が長い上に、吸収できる範囲は魔術師の持つ魔力の量と集中力に依存するため、大概は剣で斬りつけられるような間合いに入らなければ魔力を吸われずに済む事が多い。

 

 だが…………それほど実用性がないため、脅威にはならないというのは常人が使った場合の話だ。目の前にいるクソ野郎は確かに魔剣さえなければ脅威にはならないような雑魚だけど、魔剣を持っているからこそ脅威になる。

 

 みるみるうちにジョシュアの体内の魔力が膨れ上がり、増大していく。身体から溢れ出した真紅のオーラにも似た魔力の奔流が荒れ狂い、奴の足元に生えていた花を瞬く間に汚染して枯らせてしまう。

 

 くそったれ、パワーアップしてやがる…………!

 

 舌打ちしながら、俺はCz75SP-01のマガジンを交換した。もしかしたら、このパワーアップしたジョシュアはちょっとヤバいかもしれない。あいつの体内から溢れ出した魔力の量は、現時点でもう既に俺とラウラの魔力を足した量を超えている。両親の素質をそのまま受け継いだ俺たちの魔力の量よりも多いのだから、今から繰り出される攻撃の威力が劇的に上がっているのは想像に難くない。

 

「ふん。またその飛び道具に頼るのか」

 

「お前こそ、まだ魔剣に頼るのかよ」

 

 撃鉄(ハンマー)を元の位置に戻しながらジョシュアを睨みつけ、トリガーを引く。俺がジョシュアに向かって発砲すると同時に、隣でAK-47を構えていた親父とエリスさんもフルオート射撃を開始し、遠距離で狙撃の準備をしていたラウラの20mm弾も、ジョシュアへと向けて叩き込まれる。

 

 だがジョシュアはニヤリと笑うと、ゾンビたちから魔力を吸収したまま左手を殺到する弾丸たちに向かって突き出した。すると紅いオーラが奴の手の平の前でシールドを形成し、弾を全て弾き飛ばしてしまう。

 

「馬鹿な………!? 20mm弾も混じってたんだぞ!?」

 

「くそったれ………!」

 

「接近戦しかないみたいね…………」

 

 ああ、接近戦は俺の得意分野だ。でも、あんな汚染された魔力の塊ともいえるような奴と接近戦をやるのは気が引けるなぁ…………。

 

 俺はちらりと隣でハルバードを構えるエリスさんを見る。彼女はあの汚染された魔力の浸食を警戒して、ハルバードには氷を纏わせていない。

 

 相手は周囲のゾンビたちを使ってパワーアップと回復が出来る。こっちは男女が4人だけで、残っているのはなけなしの弾薬だけだ。

 

 不利だな…………。

 

 俺たちも不利だが、塹壕で防衛戦を続けている仲間たちはどうなっているのだろうか。

 

 銃弾を防いで高笑いしているジョシュアにもう一発お見舞いしようと思った俺は、もう一度ハンドガンのトリガーを引こうとする。でも、俺たちの後ろの方から蒼い光が近づいてきているような気がして、トリガーを引く前に俺たちは後ろを振り返った。

 

 暗くなった夜の草原を、先ほどまで照らしていた親父の炎の代わりに蒼い光が照らし出す。その蒼い光は一瞬で俺とエリスの間を駆け抜けて行くと、蒼い電撃を纏いながらジョシュアに突撃し、ゾンビから魔力を吸収していたオーラの触手をあっさりと両断してしまった。

 

 俺たちの間を蒼い光が突き抜けていった瞬間、俺は安心したような気がした。まるでその光に断ち切られた紅いオーラが霧散するように、焦燥が消滅していく。

 

「な、なにぃッ!?」

 

「今のは…………!?」

 

 蒼い光が紅いオーラの触手たちを断ち切る。両断された触手たちが紅い塵になりながら消滅していく。飛び入り参加と言わんばかりに戦場に乱入してきたそれの攻撃は、それだけでは終わらなかった。立て続けに蒼い電撃のような閃光で周囲のゾンビを切り刻んだかと思うと、今度はそのままジョシュアに向かって襲い掛かったのである。

 

「!?」

 

 一体それが何なのか、全く分からない。

 

 人間なのか? それとも、遠隔操作型の新しい魔術?

 

 レーザーにも似た蒼い電撃のような光が何度も煌めき、ジョシュアの紅いオーラに傷痕を付けていく。さすがにオーラごとジョシュアを切り裂くことはできていないようだけど、汚染された魔力に触れているにもかかわらず、全くその光は汚染されていない。

 

 いや、あれは…………〝汚染される前にオーラを切り刻んでいる”のだ。

 

 それほどまでに、あの攻撃は素早い。

 

「ぐっ!? こ、これは…………ッ!?」

 

「まさか…………」

 

 ――――――――俺は、あの攻撃を見たことがある。

 

 幼少の頃から、朝早くに子供部屋の窓を開ければ、その下でいつも煌めいていた蒼い剣戟の軌跡。俺たちの目の前で何度も煌めき、ジョシュアを追い詰めている光の軌道は、あの時目にしたそれにそっくりだった。

 

 そう、それは―――――――――母であるエミリア・ハヤカワの剣術。

 

 まさか、今のは…………!?

 

 紅いオーラの触手を両断した蒼い光が、電撃を引き連れながら俺たちの間に着地する。

 

 漆黒のドレスのような制服と防具を身に纏い、右手にバスタードソードを持ったその蒼い髪の人影は、隣に立っている親父の顔をじっと見つめてから微笑んだ。

 

「―――――――――ただいま、力也」

 

「エミリア…………?」

 

 間違いなく俺たちの隣に降り立った少女は、若き日の母さんだった。

 

 親父がこの異世界で初めて出会った仲間。そしてギルドを一緒に作ってからも、ずっと一緒に激戦を経験してきた、親父の妻になる少女。心臓を移植してから昏睡状態だった筈の彼女が、目を覚まして俺たちの所に来てくれたんだ!

 

「―――――――――おかえり、エミリア」

 

「ああ」

 

 帰ってきてくれた。

 

 親父の一番最初の仲間が参戦してくれる!

 

 母さんは、親父の隣に立つエリスさんの方を見た。エリスさんも嬉しいと思っている筈なんだけど、やっぱり今まで冷たくしていたから、申し訳なさそうな顔をしている。

 

「―――――――――姉さん」

 

「エミリア…………」

 

「一緒に戦おう」

 

「…………いいの? 私は、あなたの事…………」

 

「全く気にしてないさ。―――それに、また姉さんが昔の優しかった姉さんに戻ってくれて嬉しいよ」

 

「…………ありがと、エミリア」

 

 エリスさんも母さんに向かって微笑んだ。そして目の前で魔剣を持っているジョシュアを睨みつけ、ハルバードの先端部を向ける。

 

「あなたは、私の妹よ!」

 

「ああ! いくぞ、みんな!」

 

「おう! フィオナ、サポートを頼むぜ!」

 

『はい、力也さん!』

 

 俺はにやりと笑うと、隣で刀を構えている親父を見つめながら頷いた。やっぱり、自分の一番最初の仲間が参戦してくれて嬉しいのだろう。生死の境をさまよっていた母さんが、帰ってきてくれたのだから。

 

「あれれ? 偽物の妹が参戦したのかぁ? まだ生きてたんだねぇ。邪魔だからさっさと死んでくれればよかっ――――――――――」

 

 だが、エミリアは奴の言葉を全く聞いていなかった。蒼い電撃を俺たちの間に置き去りにし、先陣を切るかのように一瞬でジョシュアの目の前まで急接近すると、バスタードソードを振り下ろして弾丸を防ぐために突き出していたジョシュアの左腕を斬りつけた。

 

 漆黒の刃がジョシュアの腕に食い込み、そのまま骨を粉砕して断ち切ってしまう。傷口から紅いオーラと共に鮮血を吹き出しながらジョシュアの左腕がどさりと草原に落下し、彼女のスピードに驚きながらジョシュアが絶叫する。

 

「な、何だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! い、痛いッ! 腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「うわ、速っ…………!」

 

 おいおい、母さんの剣術がチートなのはこの頃からか!? 訓練で模擬戦やった時は互角だと思ってたけど、あの時は本気出してなかったのか!?

 

 これがモリガンの傭兵たちか…………!

 

 …………本当に、親子喧嘩しなくて良かった。

 

 はっきり言うと、今の母さんのスピードは転生者以上だ。おそらくあらゆるスキルや能力を装備したとしても、転生者たちが彼女に追いつくことは不可能だろう。

 

 自分で生み出した電撃すら置き去りにして腕を切り落したエミリアは、鼻水と脂汗を垂らしながら自分の左腕を再生しようとしているジョシュアを見下ろし、冷たい声で言った。

 

「――――――――確かに私は人間ではない。…………だが、お前は私以下だ。ただの虫けらと同じだよ」

 

「な、何だとぉ…………!? ほ、ホムンクルス(クローン)の分際でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 左腕の再生を終えたジョシュアが、激昂しながら魔剣を振るう。でも母さんは既に蒼い電撃を置き去りにして後ろにジャンプしていたから、ジョシュアが切り裂いたのは彼女が残した蒼い電撃の残滓だった。

 

「ラウラ!」

 

『うん、撃ちまくるよ!!』

 

 こいつを発動させて一気に攻めるのは今しかない!

 

 Cz75SP-01を立て続けに連射する。後方からも矢継ぎ早に20mm弾が飛来し、ジョシュアの纏うオーラへと叩き付けられる。

 

 母さんの素早い剣戟でオーラが削れていたのか、今度は弾かれることなく、弾丸たちはオーラを削ってジョシュアの弱体化に貢献してくれた。

 

「調子に乗るなよ、雑魚どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 魔剣を突き出し、紅いエネルギー弾を何発も放ってくるジョシュア。だが、彼は魔剣を手にしているにもかかわらず左腕を切断されたことでかなり焦っている上に激怒しているようで、エネルギー弾は全く俺たちに命中しなかった。避ける必要はないだろう。真っ直ぐに突っ走っているだけでも回避できる。

 

 地面に命中して紅いエネルギーの柱と化すエネルギー弾の群れの中を突っ走り、ジョシュアへと接近していく。俺が近くを通過したエネルギー弾の柱から炎が吹き上がり、俺の背後で火柱と化している。

 

 ジョシュアは必死に叫びながら俺たちにエネルギー弾を撃ち続けているけど、全く命中していない。しかも奴は俺たちを狙わず、親父だけを狙っているらしい。

 

「行くぞ、姉さん!」

 

「ええ、エミリア!」

 

 バスタードソードを構えた母さんが、エリスさんと共にジョシュアに向かって突っ走っていく。親父にエネルギー弾を連射していたジョシュアは蒼い雷を纏いながら突っ込んでいく母さんに気付いたようだったが、2人は既に蒼い雷と氷を纏った武器を振り上げていた。

 

「――――――――電皇(でんこう)!」

 

 蒼い雷を纏ったバスタードソードを振り払う母さん。だが、ジョシュアは辛うじて紅いオーラを纏った魔剣で彼女のバスタードソードを受け止めた。母さんの纏う蒼い雷と、魔剣が放つ紅いオーラが互いに浸食を始める。

 

 しかし、母さんがさっき魔力を吸収している最中にオーラを両断したせいで十分に汚染された魔力を補給できなかったらしく、魔剣の纏う紅いオーラが、徐々に母さんの蒼い雷に飲み込まれ始める。

 

 やがて紅いオーラが全て蒼い雷に飲み込まれてしまい、逆に蒼い雷が燃え移った炎のように魔剣の刀身を侵食していく。

 

「―――――――――雪花(せっか)ッ!」

 

 そして、その魔剣の刀身にエリスさんの氷を纏ったハルバードが直撃した。あのオーラを纏った状態ならば彼女の氷も侵食されてしまうが、今の魔剣のオーラは母さんの蒼い雷によって逆に侵食されてしまっている。

 

 だから、魔力を最大出力で流し込んでせいせいした氷を使った攻撃ができるんだ。

 

 エリスさんはすぐに魔剣からハルバードを引き戻し、今度は母さんのバスタードソードを受け止めるために踏ん張っていたジョシュアの右足を貫く。呻き声を上げながらジョシュアががくりと体勢を崩したところで母さんも鍔迫り合いを止め、一歩踏み込んでからジョシュアの腹に向かってバスタードソードを叩き付けた。

 

「ゲェッ!!」

 

 真っ白な刀身がジョシュアの腹にめり込み、肋骨と内臓を切り裂いていく。母さんはジョシュアの返り血を浴びながら更に剣を振り下ろして再び左腕を切断すると、攻撃を止めて右にジャンプする。

 

 さて、そろそろ俺も嫌がらせするか。

 

 懐から最後の火炎瓶を取り出し、着火。蒼い炎で少しずつ燃え上がり始めたその火炎瓶を携え、俺はジョシュアの背後から忍び寄る。

 

 俺は卑怯者なんでね。表舞台から堂々と登場するよりも、舞台裏からこっそりと登場する方が性に合ってるのさ。そういう派手な戦いは、親父や母さんたちにお任せしておこうじゃないか。

 

 それに、この時代の主役は親父たちなのだから。

 

 ジョシュアが剣を空振りした瞬間に、俺は左手に持っていた火炎瓶を思い切り放り投げた。着火された瓶がくるくると縦に回転しながらジョシュアの背中へと飛んでいき、オーラに命中すると同時に砕け散る。

 

 ガラスの破片が舞い散る中で溢れ出したオイルに炎が燃え移り、それがそのままジョシュアの身体に付着した。炎はオーラの周囲にへばりつくと、凄まじい勢いでジョシュアのオーラを削り始める。

 

「くっ…………調子に乗るなよ、この雑魚がぁッ!」

 

「うるせえ、ミスター火達磨」

 

 もっと火達磨になりな。

 

『―――――――До свидания(バイバイ)』

 

「ッ!?」

 

 激昂していたせいで、俺しか見えていなかったんだろう。

 

 どんな剣術の達人や熟練の兵士でも、冷静さを失ってしまえばいつも通りには動けない。ただでさえ剣術や戦術が全く新兵と変わらないレベルのこのバカが、冷静さを失って俺以外を見れる筈がない。

 

 それゆえに、ラウラの放った一撃は、奴にとっては視覚からの奇襲にも等しかった。

 

 遠距離から照準器を覗き込んでの、グレネードランチャーによる連続砲撃。装填されているのは通常の対人用の榴弾などではなく、対人用に限っていえばあらゆる兵器よりも凄まじい殺傷力を持つ白燐弾である。

 

 一度燃え上がれば消火は極めて難しい白燐を、これでもかと言うほど詰め込んだ砲弾だ。それを、中国やロシアの〝お家芸”ともいえる人海戦術や飽和攻撃の如く、矢継ぎ早に連射してきたのである。

 

 元々、ラウラの持つアンチマテリアルライフルに装備した中国製の87式グレネードランチャーは連射力を考慮したフルオートマチック式。アメリカやロシアで開発された同型の兵器と比べれば弾数と威力で劣るものの、両者よりも遥かに軽いために使い勝手がいいという長所がある。更に、設置して使用するタイプのオートマチック・グレネードランチャーよりも弾数は劣るものの、従来のグレネードランチャーと比べると弾数は多く、連続攻撃に向いているのだ。

 

 最初の1発目がジョシュアに着弾した直後、後続の白燐弾がまるでピラニアのようにジョシュアに殺到する。純白の煙と、白燐が発する強烈な臭い。9発の白燐弾を立て続けに叩き込まれたジョシュアは、オーラを完膚なきまでに削り取られ、防御力を奪われてしまう。

 

 再生能力は残るが、これで防御力はゼロだ。しかも、あの状態ではさすがにオーラの再展開は難しいだろう。

 

 畳みかけるならば今しかないけれど、俺は意地悪なんだよね。

 

 いや、仲間には優しくするよ。特にナタリアにそんなことしたら叩かれるから、できるだけ紳士的になりたいところだ。お母さんもそういう子供に育てっていつも言ってたし。

 

 でもさ、敵には意地悪してもいいよね?

 

 泣き出してしまうほどの、最低最悪の攻撃を。

 

「お客さん」

 

 俺も背中に折り畳んでいたOSV-96を取り出して銃身を展開し――――――――銃身の下に搭載されている87式グレネードランチャーのグリップに、手を伸ばす。

 

 装填されているのはもちろん、相手を焼き尽くす素敵な砲弾である。

 

「―――――――おかわり(追加の白燐弾)、ありますぜ?」

 

「――――――!!」

 

 ほら、あげるよ。

 

 トリガーを引きっ放しにした瞬間、目の前で白燐弾のショーが始まった。9発の白燐弾が装填されたドラムマガジンから白燐弾が次々に発射され、オーラによる防御力を失ったジョシュアに次々に着弾する。

 

 オーラを失い、むき出しの状態になってしまったジョシュアがどうなってしまったのかは言うまでもないだろう。白燐の放つ悪臭と白煙に包まれた彼がどうなったのかは分からないが、消火が困難な白燐に包まれ、悶え苦しんでいるというのは彼の呻き声からも理解できる。

 

 中華風(中国製)白燐弾のお味はいかがかな? ミスター・ジョシュア。

 

「ガァッ…………アァァァァッ! 熱いッ、アァァァァァァァッ!!」

 

「まだおかわりあるよ?」

 

「や、やめっ――――――――」

 

 何言ってんの。まだドラムマガジンが3つも残ってんだよ?

 

 空になったドラムマガジンを取り外し、新しいドラムマガジンに交換する。コッキングレバーを引いてマガジン内の白燐弾を装填し、もはや焼死体と化しているジョシュアに砲口を向けた。

 

「―――――――ほら、お食べ♪」

 

『私のもあげるっ♪』

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 合計で18発の中華風白燐弾が、ジョシュアに殺到した。

 

 もうオーバーキルだな。でも、どうせ再生するんだからオーバー〝キル”ではないよね。オーバー〝アタック”と言うべきか。

 

 でもさ、クソ野郎に同情する必要なんてないよ。前世の俺だったらこんな攻撃をするどころか、人を殺すことも躊躇ってたかもしれないけど、今の俺から見ればそれこそ正気の沙汰とは思えない。

 

 躊躇いなく人を殺すことが要求されるのは兵士だけだ。一般的な男子高校生にそんな感覚を持てと言うのは無茶があるし、平和な日本に生まれた奴らにそんな事を言うのも無理な話である。でも、幼少の頃からこの世界で生き残り、クソ野郎を狩るために、俺とラウラは両親からあらゆる『殺し方』を教わった。

 

 平和な世界なら殺すことを躊躇うのは必要な事だ。それ自体が最大の安全装置(セーフティ)なのだから。

 

 でも、殺し合いや虐殺が日常的な世界では、ただの足枷でしかない。前世の常識が不要となるこの異世界では、その箍(たが)を外さない限り生き残れない。

 

 命乞いをするクソ野郎でも、戦いが始まる前には泣き叫ぶ少女の奴隷を犯していたような奴だ。一目散に逃げる肥えた貴族の奴も、普段は庶民から金を搾り取っているようなクソ野郎だ。どんなクソ野郎でも、確実に狩る。それゆえにクソ野郎と遭遇したのならば、真っ先に銃口を向けなければならないのだ。

 

 言っておくが、俺は相手がクソ野郎ならば絶対に〝交渉”はしない。「話し合おう」と言われても、一方的に断って皆殺しにする。

 

 こいつも同じだ。この、俺たちの母さんを弄んだようなクソ野郎もだ。

 

「クソがッ!!」

 

「おっと」

 

 起き上がると同時に魔剣を振り上げるジョシュア。まだ白燐弾に焼かれた火傷が再生していないらしく、顔の半分が焼死体のようになっている。真っ黒に焦げた皮膚と、固まってしまった血肉の紅のグラデーションで彩られた痛々しい顔で俺を睨みつけるジョシュアを嘲笑いながら、俺はそろそろ舞台裏へと戻る。

 

 やり過ぎたら、親父たちの出番がなくなるからな。なあ、ラウラ。

 

「このガキ―――――」

 

「―――――――――未来の子供たちを馬鹿にしないでくれるかしら?」

 

「え、エリ―――――――――」

 

 母さんの後ろにいたエリスさんが、ジョシュアの顔面に向かって氷のハルバードを突き出していた。俺たちが中華風白燐弾のフルコースを満漢全席の如くお見舞いしている間、エリスさんは母さんの後ろで攻撃の準備をしていたんだ。

 

 ジョシュアは顔を再生させている最中で、身体中の火傷もまだ再生が始まっていない。しかもオーラも全く纏っていない。そんな状態で、エリスさんの強烈な氷のハルバードを受け止めることは不可能だ。

 

「ガァァァァァァァァァァッ!!」

 

 蒼白い氷に覆われたハルバードの先端部が、ジョシュアの左目を貫いていた。そのまま後頭部まで貫通し、ジョシュアの頭に大穴を開けてしまう。

 

「タクヤ!」

 

 親父たちの戦いを見物しようとしていた俺に声をかけたのは、刀を構え、今から傷を負ったジョシュアに切り込んでいこうとしている親父だった。

 

「――――――何やってんだ。行こうぜ」

 

 まるで、友達を遊びに誘う少年のように、親父はそう言った。

 

 親子で攻撃か。ああ、悪くないな。最高じゃないか。

 

 アンチマテリアルライフルを背中に背負い、腰の鞘からテルミットナイフを2本引き抜く。黒色火薬とカートリッジの交換は行っていないので、テルミット反応による攻撃は不可能だが―――――――俺には、刃物を装備している場合に限って強力な能力がある。

 

 ナイフを握り、絶叫するジョシュアへと向かって突っ走る。

 

 エリスさんは俺と親父が追撃しようとしていることを知ったらしく、すぐにジョシュアの頭から氷のハルバードを引き抜くと、横にジャンプする。

 

『ヒーリング・フレイム!』

 

「お」

 

 次の瞬間、親父の身体についていた傷口が真っ白な炎に包まれた。確かあの炎は、光属性の魔術であるヒーリング・フレイムだ。傷口に着火することで治療する事ができる、強力な治療魔術である。

 

 それを使って親父の傷を癒してくれたのは――――――戦いを見守っていた、フィオナちゃんだった。

 

 まだ彼女のエリクサーが全く普及していなかったこの時代では、彼女の治療魔術が重宝されていたという。

 

「ありがとな、フィオナ!」

 

「こ、このっ………!」

 

 頭の大穴を再生させながら俺を睨みつけ、魔剣を振り上げるジョシュア。他の傷の再生は全く終わっていないようだ。間違いなく、俺が攻撃を叩き込む前に再生を終えるのは不可能だろう。

 

 再生能力はかなり厄介だが、あのレリエルたちよりも遅い。再生する前に殺せる!

 

「僕は世界を支配するんだ…………! こんな余所者に負けるわけがないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「だから、やかましいって言ってんだろうが」

 

 呟きながら、親父は走り続けた。

 

 もう、この戦いを終わらせなければならない。今頃塹壕の最終防衛ラインは限界に達している事だろう。

 

 だから、今から放つ一撃で終わらせる。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 絶叫しながら再び魔剣からオーラを噴出させ、俺たちに向かって振り下ろしてくるジョシュア。だが、紅いオーラの刃が俺の頭に振り下ろされる前に、俺と親父はもうジョシュアに接近していた。

 

 そろそろ、俺は能力を発動させる。

 

 高周波で劇的に切れ味を向上させる、『巨躯解体(ブッチャー・タイム)』を。

 

 頭上から紅いオーラを纏った魔剣が落ちてくる。おそらくガードしても得物ごと真っ二つにされてしまうだろう。転生者の防御力でも殺されてしまうに違いない。

 

 でも、防御する必要はない。

 

 なぜならば―――――――――遅すぎるからだ。

 

 俺と親父は姿勢を低くしながらジョシュアの顔を見上げ―――――――――ニヤリと笑った。

 

 21年前の初代転生者ハンターと、21年後の二代目転生者ハンター。異世界で現代兵器を武器に戦い抜く2人の転生者が、同時にクソ野郎に襲い掛かる。

 

「――――――――巨躯解体(ブッチャー・タイム)!!」

 

「――――――――皇火(おうか)!!」

 

 2本のナイフと1本の刀が――――――――蒼と紅の炎を纏いながら、夜の草原の中で振り払われた。

 

 誰も気付かないほどの速度で薙ぎ払われた真っ赤な刀と蒼い2本のナイフが、陽炎と高熱を纏いながら駆け抜ける。

 

 世界を置き去りにしてしまうほどの速さの剣戟と、全てを切り裂いてしまう剣戟を同時に叩き込まれたジョシュアは、もう原形を留めていない。ジョシュアの面影を残したただの肉片だ。

 

「――――――――もう喋るな」

 

「クソ野郎は、狩る」

 

 俺たちがそう言った瞬間、ジョシュアの身体がバラバラになった。

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 ラウラVSジョシュア その2

 

ジョシュア「あっ、まだ…………お、お願いしますぅ!」

 

ラウラ「…………死になさい」

 

ジョシュア「はぁッ…………あぁ………!」

 

ラウラ(キモ…………)

 

タクヤ「おいジョシュアぁ!!」

 

ジョシュア「?」

 

タクヤ「お姉ちゃんに撃たれるのはごめんだけどなぁ…………ッ!!」

 

ラウラ「?」

 

タクヤ「………お姉ちゃんに構ってもらうのは、俺のポジションだぞッ!!」

 

 完

 

 


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