異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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タクヤVSジョシュア

 

 真紅の光が、刀を振り払い終えた直後の俺の頭上を掠めた。頭を消し飛ばす筈だったその閃光は荒れ狂いながら草原を真紅に染め上げつつ、俺たちの周囲で蠢いていたゾンビたちを巻き込むと、地面にめり込んで光の粒子と化す。

 

 喰らえば、転生者でも消滅は免れない。一撃も攻撃を喰らう事を許されない状況で研ぎ澄まされた集中力が、辛うじて今の一撃を見切って避けるだけの余裕を俺に与えてくれたらしい。

 

 だが、ここで安堵すれば次の一撃は避けられないだろう。それゆえに安堵は許されない。そう、安堵していいのはこいつをぶち殺し、仲間が1人もかけていない事を確認してから屋敷に戻ってからだ。そこで仲間たちと祝杯をあげ、文字通り勝利の美酒を楽しむべきなのだ。

 

 小太刀を鞘に戻し、ホルスターからトカレフを引き抜く。拳銃用の7.62mm弾を連続で放って牽制するが、怒り狂ったジョシュアが防ぎ損ねた数発以外は魔剣の刀身に弾かれ、金属の細かい破片と化して地面に落下するか、周囲のゾンビを掠めて消えていく。

 

 肝心な命中した弾丸も、人間に例えるなら無駄死にと言ったところだろうか。普通の弾丸ならば、戦車や装甲車でない限り命中すれば貫通して敵を殺傷し、〝戦果”をあげる。しかし、敵が再生能力を持っていて、ありったけの攻撃をお見舞いしても徒労でしかないというのであれば無駄死にと同じだ。

 

「くそったれが…………!」

 

 ジョシュア自身の戦闘力は、それほど高くはない。あれから俺への憎しみを思い出しながらそれなりに鍛錬したのかもしれないが、結局こいつの戦い方は魔剣に頼っているだけだ。銃を撃ったこともない一般人が、最新型のアサルトライフルを手にしてはしゃいでいる状態でしかない。そして敵に一方的に攻撃され、癇癪を起こしているだけだ。

 

 だが、その程度の敵を倒し切れないのはあの再生能力のせいだろう。

 

 魔剣は元々は神々が作り上げた大天使のための剣であり、レリエル・クロフォードの魔力と血で汚染されたために魔剣と化した剣である。汚染されたという事は吸血鬼の体質まで受け継いでいるという事であり、それの担い手となったジョシュアにもその体質が反映されているという事になる。

 

 つまり今のあいつは、吸血鬼と同等の再生能力を持っているのだ。

 

 少々吸血鬼よりは劣るようだが、今の戦い方のままでこいつを倒し切れるのか? いっそのこと一度だけ戦線を離脱し、その隙に銀の弾丸でも用意して再戦するべきなのではないかとも思ったけれど、仲間たちが必死に耐えているというのに戦線を離脱するわけにはいかないという理性がその作戦をすぐに頓挫させる。

 

 先ほどから、無線機から必死に報告する仲間たちの声が聞こえてくる。ドローンの弾薬がつき、ターレットの隊列がゾンビの群れに呑み込まれ、2層目の塹壕が突破されたという報告。メインアームの弾薬がつき、サイドアームに切り替えたり、白兵戦を挑むという報告。作戦が始まってから、状況が好転しているような報告は一つもない。

 

 万一俺たちが負けるような事があった時のため、屋敷で指揮を執るフィオナには昏睡しているエミリアを連れてネイリンゲンから脱出するように指示を出している。

 

 もし目を覚ましたら、彼女は悲しむだろう。彼女が心臓を貫かれた時に俺が悲しんだように。

 

 でも―――――――彼女を守るために俺の命を代償にする必要があるのならば、喜んで代償を払ってやろうじゃないか。ナイフで心臓を抉り出し、拳銃で自分の頭を撃ち抜き、命を彼女にささげても俺は構わない。

 

 俺は、それほどエミリアが好きなのだ。

 

 ―――――――だが、ここで俺たちが死ねば生まれてくる筈のあの2人はどうなるのだろうか。

 

 産業革命が起き、急速に発展した21年後の世界。中世ヨーロッパを思わせる異世界の景色が消えていく産業革命の時代に生まれることになるタクヤとラウラは、生まれなかったことになってしまうのではないか。

 

 くそったれ、死ねないじゃないか。

 

 ああ、死ぬな。必ず生き延びろ。

 

 勝って生き延びろ。敵を殺して生き延びろ。

 

 諦めるな!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 弾切れになったトカレフを投げ捨て、両手で刀の柄を握ってジョシュアに急迫する。ハンドガンで散々身体中を撃ち抜かれていたジョシュアは、鬱憤を晴らせると言わんばかりに俺に魔剣を向けると、切っ先から矢継ぎ早に真紅のレーザーを連射し始めた。まるでマシンガンを連射してくる塹壕に、刀を手にして突っ込んでいるような気分だ。俺たちと逆じゃないか。

 

「死ね、余所者ぉぉぉぉぉぉぉっ!! 死ね! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 悪いけど、俺はしぶといんだよ! レリエルと戦っても生き残った元会社員なんだからなぁッ!!

 

 真紅のレーザーが肩を貫き、太腿を掠め、脇腹に突き刺さる。でも、立ち止まって逃げることは出来なかった。激痛を恐れて逃げ出そうという気持ちもあったけど、俺の身体と理性が逃走を許さない。死にたくなかったら、なおさらこのまま突っ込むしかないのだ。

 

「力也くん、無茶よ!」

 

 無茶は専売特許なんだよ、エリス。

 

 刀の切っ先を地面に擦らせながら、レーザーを連射するジョシュアへとやっと接近した俺は、歯を食いしばりながら刀を思い切り振り上げた。エミリアやエリスのような整った剣術ではなく、自分で勝手に編み出した滅茶苦茶な我流の剣術。美しさや実用性は二の次になっている雑な一撃だったけど、その一撃は受け止めようとしたジョシュアの魔剣を掠めると、そのまま彼の胸板へと襲い掛かり、ジョシュアの胸筋と胸骨を右下から左斜め上へと切断していた。

 

 鮮血がジョシュアの豪華な鎧を汚し、切断された鎧の隙間から鮮血が噴き出る。クソ野郎の返り血を浴びながらさらに一歩踏み込み、内蔵している機能のせいで従来の刀よりも重い自分の得物を力任せに振り下ろす。

 

 今度の一撃は受け止められたけど、胸を斬りつけられたダメージのせいでジョシュアの腕が一瞬だけ痙攣する。力が抜けたその隙に更に体重を乗せて刀を押し込み、強引にジョシュアのガードを突き破る!

 

「!?」

 

「УРаааааааа!!」

 

 俺の刀身はジョシュアの魔剣を払い除けると、早く斬らせろと言わんばかりにジョシュアの右の鎖骨の辺りへと激突した。みし、と鎖骨に刀身が喰い込んだ感覚がしたと思った直後、すぐに肉が切り裂かれる感触が復活し、刀の刀身が更にめり込んでいく。

 

 振り下ろした刀身はジョシュアの鎖骨にめり込むと、そのまま脇腹の方へと突き進み、彼の胴体を覆っていた鎧を両断して血肉まみれの姿で再び姿を現した。付け根もろとも右腕を抉り取られるように斬りつけられたジョシュアも予想以上のダメージだったらしく、大き過ぎる傷口を左手で必死に押さえながら絶叫する。

 

「ぎゃあああああああああああッ!! あっ、あぁ…………お、俺の腕がぁぁぁぁぁッ! ま、また…………斬りやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 傷口を早くも再生させながら絶叫するジョシュア。もっと痛めつけてやれるのは嬉しい事だが、戦いを長引かせると仲間たちがゾンビの餌食になってしまう。早いうちに魔剣を破壊し、あのゾンビたちをどうにかしなければならない。

 

 あの再生能力をどうやって封じるべきかと考えていたその時だった。――――――――何の前触れもなく、俺とエリスの傍らを、蒼い影が突き抜けていったのである。

 

「!?」

 

「今のは―――――――」

 

 蒼い髪。その髪型は、ポニーテール…………。

 

 まさか、エミリアが復活して参戦してくれたのか!?

 

 でも、何だかエミリアにしては胸が小さかったような気がする。彼女の胸は訓練の腕立て伏せやスクワットの時はこれでもかと言うほど良く揺れるサイズだから、あんなに小さいのはありえない。

 

 最早貧乳じゃないかと失礼なことを考えた直後、ジョシュアの絶叫が俺の考察を強制終了させた。

 

 はっとして顔を上げると、その貧乳のエミリアにそっくりな美少女が再生しているジョシュアに襲い掛かっていたのである。ナックルダスターを思わせる無骨なナイフを振り回し、辛うじて魔剣を拾って反撃してくるジョシュアの斬撃を軽々と躱しながら、攻撃を空振りするジョシュアの身体を少しずつズタズタにして行く。

 

 アキレス腱を斬りつけて動きを止め、ジョシュアが膝をついた瞬間にすかさず後ろへと回り込むと、ナイフの切っ先を喉元へと突き立てて何度も捻る。刀身の峰の部分にはやけに大きなセレーションがあったし、刀身そのものもマチェットをボウイナイフくらいに縮めたような無骨な形状だったから、あんなナイフを突き刺した後に捻られたらすぐに筋肉繊維が挽肉になっちまう。

 

「ガッ………ゲッ、ギィッ………!」

 

「どうだ、クソ野郎ッ!!」

 

「タクヤか!?」

 

 エミリアじゃなくてタクヤだったのか。ああ、それじゃ美少女じゃなくて美少年だな。訂正しとかないと彼に失礼だ。

 

 それにしても、タクヤは母親に似過ぎてるんじゃないか? もう顔の使い回しとか双子って言われてもおかしくないぞ?

 

 ジョシュアの首の肉をズタズタにしたタクヤは、すぐにナイフを強引に引き抜いてジョシュアから離れた。すぐにその傷も塞がり始めたのを目の当たりにしたタクヤは「はぁっ!? 何あれ!?」と驚愕している。

 

 吸血鬼の再生能力だ。それがジョシュアの奴にも反映されているんだよ。

 

「―――――――ラウラ」

 

『―――――――了解(ダー)』

 

 次の瞬間だった。

 

 ズドン、と重々しい轟音が響き渡ったかと思うと、何の前触れもなくジョシュアの腹に何かがめり込み――――――――そのまま、彼の上半身を食い破ってしまったのである。

 

「………!?」

 

 ちょっと待て。今のは………狙撃か!?

 

 しかも、ジョシュアの上半身が木端微塵になったという事は、少なくともバトルライフルやマークスマンライフルが使用するような7.62mm弾ではないだろう。もっと大口径の弾薬だ。おそらく、重機関銃やアンチマテリアルライフル用の12.7mm弾か、対戦車ライフル用の14.5mm弾に違いない。

 

 それ以上の口径の可能性もあったけど、人間を相手にするのに20mm弾を投入するのは正気の沙汰じゃないぞ? そんな弾薬があったら、装甲車の撃破も何とかできるかもしれない。

 

 それにしても、今の狙撃をやったのはラウラか? 全く気配がしなかったぞ………!?

 

 はっとした俺は、その弾丸が飛来したと思われる方向を振り返った。あの弾丸はジョシュアの肉体を派手に破壊した―――――――とはいえ、もう既に再生が始まっている―――――――ため、ジョシュアの肉片が飛び散っている方向と逆の方向を見れば、弾丸の飛来した方角となる。

 

 しかし、その先には何も見えない。蠢くゾンビの群れだけだ。

 

 錯覚だったのかと思ったその時、ゾンビたちの向こうにある倒木の上で―――――――鮮血を思わせる長い赤毛が、揺らめいた。

 

 全く気配がしなかった狙撃手は、そこにいたのだ。大人びた容姿をしているにもかかわらず子供のような性格で、いつも腹違いの弟に甘えている姉は、そこで17歳か18歳の少女が持つにしては大き過ぎる銃を構え、アイアンサイトを睨みつけている。

 

 スコープを付けずに遠距離から正確に狙撃する彼女は、まるで異世界のシモ・ヘイヘだ。

 

 もしこの戦いに勝利したら、この戦いは『ネイリンゲンの奇跡』と呼ばれるんだろうか。

 

 そんな事を考えながら、俺は再生を終えたジョシュアを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまらない的ね。まだ訓練用の的を撃ってる時の方が楽しいわ』

 

 珍しいな。ラウラが標的を罵り始めたよ………。

 

 しかもいつも俺に甘えてくる時の彼女の声音じゃない。幼い子供とか、飼い主に遊んでもらって喜ぶ子犬を思わせる可愛らしい声音ではなく、本当に冷酷な声。戦闘中の彼女の声よりも更に冷たいんじゃないだろうか。

 

 ズドン、と再び銃声が響き渡り、再生を終えたばかりのジョシュアの左足が唐突に消し飛んだ。弾丸に食い破られた足は原形を留めることなく空中分解すると、肉のへばり付いた骨の破片や肉片をまき散らしながら地面に落下した。

 

「がぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 痛いっ、ああ………あっ、足があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『ふん、痛いのが嫌なら無様に逃げ回りなさいな。徒労になるけど』

 

 お、お姉ちゃん………? 

 

 またしても銃声が聞こえ、今度はジョシュアの腕が千切れ飛ぶ。今回は彼に絶叫させる暇を与えないつもりなのか、矢継ぎ早に次の弾丸が放たれ、今度は下半身が丸ごと消し飛んだ。

 

『ほら、逃げなさいよ。まだ片腕とご立派な魔剣が残ってるじゃない。………フフフフフフッ…………………』

 

 な、嬲り殺しじゃねえか…………。

 

「おいおい、ラウラって…………ドS?」

 

「いや、ヤンデレの筈だけど……………」

 

 とりあえず、俺も攻撃しよう。

 

 ナイフを鞘に戻し、2丁のCz75SP-01を引き抜く。折り畳み式のストックを展開して肩に当て、両方のハンドガンの照準器を覗き込んだ俺は、ラウラに嬲り殺しにされているジョシュアに追い討ちをかけることにした。

 

 何度もトリガーを引き、とにかく弾丸を叩き込み続ける。1発の破壊力は20mm弾に遠く及ばないのだから、高い殺傷力を発揮させるためにはとにかく撃ちまくるしかない。

 

 それにしても、ジョシュアも吸血鬼みたいな再生能力を持っているようだった。どれだけラウラが手足を吹き飛ばしても断面から新しい手足が生えてくるし、俺が開けた風穴もすぐに塞がってしまう。このまま銃弾を撃ち込み続けたり、弾切れになったらリンチすればこいつもかなり苦しむ羽目になるだろうとは思うけど、そんな事をしている時間はない。もう塹壕は2層目まで突破され、戦闘可能なドローンの数は20%未満。モリガンの傭兵たちも弾切れになった武器を放棄し、白兵戦に突入している。

 

 一刻も早くこいつを殺さなければならない。

 

 やっぱり接近戦しかないか。得意分野の1つで決着をつけるしかないらしい。

 

 折り畳み式のストックを折り畳んだのを遠距離から見ていたのか、ぴたりとラウラの容赦のない狙撃が止まる。彼女と一緒に戦う際は、こういう時にいちいち狙撃を止めてくれと言わなくても彼女が察して止めてくれたり、逆に俺がラウラのやりたいことを察して動きやすいように援護したりする事が多いので、このような状況で言葉を使わなくても連携を取れるのは大きなメリットだと思う。

 

 銃剣を装着し、折り畳み式のストックを装備した異形のハンドガンを2丁装備した俺は、まだ伊豆口の再生が終わっていないジョシュアへと追撃を仕掛ける。

 

「なっ……………え、エミリアッ!? 馬鹿な、彼女は心臓を抉られて――――――――」

 

「初めまして、エミリアの息子のタクヤですッ!」

 

 よく分からないけど、お姉ちゃんと一緒に21年前の世界に迷い込んじまったんだよ!

 

 動揺しながら振り払われたジョシュアの剣をあっさりと躱し、前傾姿勢になっているジョシュアの脇腹へと銃口を向ける。親父にトカレフで散々風穴を開けられていたジョシュアは、俺が手にしている武器がどのような威力なのかをもう理解しているのだろう。盾代わりにするつもりなのか、魔剣で銃口の前を遮ろうとする。

 

 確かに、9mm弾で魔剣を貫通するのは不可能だろう。……………でも、俺のハンドガンは2丁あるんだぜ?

 

 別に、9mm弾の飽和攻撃で魔剣を粉砕しようというわけではない。というか、そんな事をしたら魔剣を破壊する前にこっちの弾薬が底を突いてしまう。マケドニアシューティングでも、魔剣を打ち破ることは不可能だ。

 

 だからこそ、俺の専売特許を使う。俺は卑怯者だからな。

 

 銃弾の発射前に魔剣を構え、防いでやるぞと言わんばかりににやりと笑うジョシュア。このクソ野郎はもう勝ち誇っているようだが、残念ながら俺の得物は右手のCz75SP-01だけじゃない。

 

 左手にも――――――――もう1丁あるんだよ、バーカ。

 

 これ見よがしに、がちん、と左手の親指でハンドガンのスライドを叩く。その音に気付いたジョシュアが俺の左手を見て、意表を突かれる羽目になったということを理解した瞬間の顔を見ながら、今度は俺がニヤニヤと笑っていた。

 

 ジョシュアの神経を逆なでするような笑みが消えていくにつれて、俺の顔に笑みが浮かんでいく。

 

 少なくとも、ラウラや仲間たちに向けるような微笑ではない。―――――――俺の作戦にひっかかり、無様に殺されていく間抜けに向けるような、俺からの嘲りだ。

 

 左手の銃が下を向く。ジョシュアみたいなクソ野郎には、ヘッドショットや胴体に何発も撃つだけでは物足りない。

 

 だから、下を狙う。

 

 銃口を下げ―――――――トリガーを引く。

 

 スライドがブローバックし、銃口からマズルフラッシュが姿を現す。その真っ只中から飛び出した9mm弾はマズルフラッシュの残滓を纏うと、回転しながらジョシュアの魔剣の傍らをすり抜け――――――――奴の息子へと、突き刺さった。

 

「――――――――がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

「ぎゃはははははははははははははッ!!」

 

 ざまあみろ、クソ野郎!

 

 左手で血まみれになった股間を抑え、絶叫するジョシュア。俺は苦しむジョシュアを見下ろしながら、思い切り笑った。

 

 母さんやエリスさんを弄ぶからだ、クソ野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉刀を思い切り薙ぎ払って何体もゾンビの首を両断しているんだけど、目の前からやって来るゾンビたちの隊列はまだまだ残っている。騎士団の防具と武器を装備し、呻き声を上げながらやって来る戦死者たちの隊列。もうシンが私のために作ってくれた柳葉刀の黒い刀身は、彼らの血肉で赤黒く変色してしまっていた。

 

 シンは隣でまだ弾薬の残っているワルサーP99とスペツナズ・ナイフで応戦している。お兄ちゃんは塹壕のスコップでまとめてゾンビの群れを両断しているし、カレンさんもリゼットの曲刀が持つ風の力で、ゾンビたちを次々に粉々にしている。

 

 力也さんたちが魔剣を破壊してくれれば、このゾンビたちは消滅する筈。だから私たちはここでゾンビたちと戦っていたんだけど、アサルトライフルやカービンの弾薬はもう撃ち尽くしてしまったから接近戦を挑むしかない。

 

「拙いぞ。数が多すぎる……………!」

 

(くっ…………!)

 

 このままでは、突破されてしまう!

 

 私は近くにいたゾンビを柳葉刀で斬り倒しながら、ちらりと隊列の奥を見た。

 

 さっき向こうから男の絶叫が聞こえたけど、まだその絶叫が聞こえる辺りからは笑い声と銃声が聞こえてくる。

 

 やっぱり、まだ魔剣を破壊できていないんだ。

 

 またゾンビの頭を切断した私は、目の前のゾンビの隊列を睨みつける。

 

 その時だった。マズルフラッシュが見えなくなったせいで真っ暗になっていた草原が蒼い光でいきなり照らし出されたかと思うと、無数の蒼い電撃たちが槍のようにゾンビの隊列に襲い掛かり、次々に串刺しにしていった。

 

「なっ…………!?」

 

(で、電撃……………?)

 

 私とシンは、その電撃が放たれた方向を振り向いた。

 

 そこには、黒いドレスのような制服と防具を身に纏い、蒼い電撃を引き連れた1人の少女が立っていた。右手には腰の鞘に収まっていたバスタードソードを持ちながら、鋭い紫色の瞳でゾンビたちを睨みつけている。

 

 彼女は右手のバスタードソードから無数の蒼い電撃を放つと、ゾンビの隊列を一気に薙ぎ倒していく。中には発火しながら崩れ落ちていくゾンビもいるようだった。

 

「――――――――すまないな。私たちも参戦するぞ」

 

「え、エミリアさんっ!」

 

(もう目を覚ましたんですか!?)

 

 私たちを助けに来てくれたのは、真っ黒な制服と防具を身に纏ったエミリアさんだった。彼女は力也さんとエリスさんに心臓を移植してもらってからずっと昏睡状態だった筈なんだけど、目を覚ましてくれたんだ!

 

 エミリアさんの傍らには、真っ白な杖を持ったフィオナちゃんもいる。

 

「力也と姉さんは?」

 

(この隊列の向こうです。……………魔剣と戦っています)

 

「ありがとう。―――――――死ぬなよ、2人とも」

 

「はい!」

 

(分かってます!)

 

 エミリアさんはもう一度微笑むと、バスタードソードを構えて「行くぞ、フィオナ」と呟いてから、ゾンビの群れの中に斬り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ 

 

 ラウラVSジョシュア

 

ジョシュア「ぐあぁっ!」

 

ラウラ「ほら、避けなさいよ。どうしたの?」

 

ジョシュア「あっ…………!」

 

ラウラ「無様ね。まだゴブリンを相手にしてる方がずっと楽しいわ」

 

ジョシュア「ああ…………っ!」

 

ラウラ「フフフフッ…………」

 

タクヤ(容赦ねえなぁ…………)

 

ジョシュア「も、もっと………撃ってくださいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

タクヤ「!?」

 

 完

 




※マケドニアシューティングは、ソ連で考案された二丁拳銃の戦法です。

普段のラウラが「お姉ちゃん」なら、今のラウラは「お姉様」ですかね(笑)


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