異世界でミリオタが現代兵器を使うとこうなる   作:往復ミサイル

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ネイリンゲン防衛戦

 

 端末で生産したAK-47を肩に担ぎながら、俺は草原の向こうを睨みつけていた。ドローンが送って来た映像では、既に無数のゾンビたちは国境警備隊の要塞を突破し、オルトバルカ王国へと侵入している。ネイリンゲンは一番ラトーニウス王国に近い街であるため、あと数分でゾンビたちがここにやって来るということになる。

 

 敵の数は10万体以上。こっちの戦力は10人足らず。ドローンを含めたとしても、全く有利になったとは思えないほどの物量である。改造したMG3を搭載したドローンが飛行し、ブローニングM2重機関銃を搭載したターレットが草原の向こうを睨みつけている傍らでは、21年後の未来からやってきたという俺たちの子供たちが、グレネードランチャーを装備したアンチマテリアルライフルを構え、草原の向こうへと照準を合わせていた。

 

 その2人が銃口を向ける先にあるのは、目印として等間隔に木の棒が立てられた地点だった。

 

 このような塹壕での戦いの場合、突撃してくる敵を兵士たちが別々に撃っていると弾幕が一ヵ所に偏ってしまったり、極端に弾幕が薄くなってしまう箇所が現れて敵に突撃の隙を作ってしまう事が多々ある。それを防ぐために、塹壕内から敵に集中砲火を浴びせる時は、攻撃を開始する目安として『突撃破砕線』と呼ばれるポイントを用意しておくのである。

 

 俺は制服の上着を羽織ったまま、肩に担いでいたAK-47のチェックをしておくことにした。銃身の下にグレネードランチャーを装着しており、それ以外には特にカスタマイズはしていない。サイドアームはロシア製ハンドガンのトカレフTT-33となる。

 

 他の仲間たちもAK-47やAKS-74Uを装備している。俺の隣に立っているエリスのAK-47の銃身の下には、グレネードランチャーではなく射撃がしやすいようにフォアグリップが装着されている。

 

 ちなみに、エリスが身に纏っているのはラトーニウス王国騎士団の制服ではなく、エミリアが前まで身に着けていた黒い軍服のような制服だった。相手はゾンビとジョシュアだけど、彼らの着ているのはラトーニウス王国騎士団の防具や制服であるため、誤射(フレンドリー・ファイア)を防ぐために俺たちが見慣れている服を着てもらっている。彼女はエミリアよりも少々胸が大きいみたいだけど、基本的にそれ以外は彼女とあまり変わらないため、エミリアの制服は丁度いいみたいだった。

 

「エリス、大丈夫か?」

 

「ええ」

 

 彼女はそう言いながら俺の顔を見ると、にっこりと笑いながらアサルトライフルを構えて見せた。右手でフォアグリップを握り、左手でアサルトライフルのグリップをしっかり握って、銃床を左肩に付けながらライフル本体の上に装着されている照準器を覗き込んでいる。作戦会議の前に、俺が地下の射撃訓練場で彼女に教えた構え方だった。

 

 エリスは右利きではなく左利きであるため、一応エジェクション・ポートやコッキングレバーなどの位置を逆にしている。

 

「頼んだよ、兄さん」

 

「ああ。お前らも無理するなよ」

 

「うん。…………必ず、エミリアさんを殺したジョシュアに報復してね」

 

「任せろ」

 

 俺の隣にやって来た信也は、フォアグリップとドットサイトを装備したAKS-74Uを背負いながらそう言った。

 

 今度はあの時のように見逃さない。必ずぶち殺す。

 

「CP(コマンドポスト)、聞こえるか?」

 

『はい、力也さん』

 

 無線機から聞こえたのは、屋敷に設置した本部で指揮を執るフィオナの声だった。本部といっても、エミリアが眠っている医務室にターレットやドローンに指示を出すためのモニターと無線機を設置しただけだ。彼女には自衛用に武器をいくつか渡しておいたけど、もし俺とエリスが魔剣の破壊に失敗し、信也たちがゾンビたちに突破されてしまった場合は、昏睡状態のエミリアを連れて脱出するように指示を出してある。

 

 それと、医務室にはエミリアが目を覚ました時のために、彼女が愛用していた装備を一式置いておいた。目を覚ましてくれれば、彼女はきっとそれを装備して駆けつけてくれる筈だ。

 

「現在の敵の位置は?」

 

『12時方向。距離は5km先です』

 

「よし、ドローンによる先制攻撃を開始しろ」

 

『了解です。ドローンによる空襲を開始します』

 

 ドローンが搭載しているのは、搭載できるように改造したMG3やグレネードランチャーだ。俺たちの頭上を旋回していたドローンたちが、改造された銃をぶら下げながら草原の向こうから接近してくる敵の隊列に向かって突進していく。

 

 まず最初にドローンの攻撃で敵の数を減らし、敵が接近して来たら地中に仕掛けておいた無数のC4爆弾を爆破して更に数を減らす。そしてさらに、後方で待機しているカレンや信也たちに追い討ちをかけてもらってから、俺たちが攻撃を仕掛けることになっている。

 

 エリスを連れて、最前列にある塹壕へと滑り込む。塹壕の中へと入ってきた俺を見てにやりと笑ったタクヤが、C4爆弾の爆破スイッチを用意した。ドローンが攻撃を終えて戻ってきたら爆破するつもりなんだろう。

 

「親父、決戦だな」

 

「ああ」

 

「えっ? お、親父?」

 

「あっ、エリスには言ってなかったな。ここにいる2人は、信じられないと思うが21年後からやってきた俺の子供たちだそうだ」

 

「え? …………えぇ!? こ、こっ、子供ぉ!?」

 

「ふにゅ。初めまして、ママ。ラウラ・ハヤカワですっ!」

 

「ま、ま…………ママ?」

 

 これは言うべきなんだろうか。

 

 ラウラは、どうやら俺とエリスの間に生まれる子供らしい。彼女がいるという事は最終的に俺はエリスとも結ばれるという事なんだろうけど、今の段階で彼女は俺の事を全く気にしていないに違いない。いきなり赤の他人に「俺たちは結婚するらしい」って言われても、困るだけなのは明白だ。

 

 でも…………言うべきだろうなぁ。

 

「えっと…………か、彼女は、俺と…………お前の娘なんだってさ」

 

「――――――はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 戦闘前に大声出すなよ…………。

 

「わ、私が力也くんとっ!? あ、あ、ありえないわよそんなの! 私をからかわないでちょうだいっ!」

 

「ふにゃっ!? ご、ごめんなさい、ママ…………」

 

『うふふふっ。エリスさん、どう? 娘さんは自分にそっくりかしら?』

 

「ちょっと、カレンちゃん!?」

 

 カレン、あまりエリスをからかわないでやってくれ。戦闘中にまで狼狽したら大変だろうが。

 

『とりあえず、あの野郎をぶっ殺して姉御が目を覚ませばハッピーエンドってわけだ。旦那、勝ったらお祝いだな! ガハハハッ!!』

 

「何言ってんだよ。俺にとってのハッピーエンドは、幸せな余生を満喫してから子供たちや孫たちにに看取ってもらって死ぬことだ。それ以外は全部バッドエンドだぜ」

 

 そう、老衰以外で死ぬのはバッドエンドだ。俺はそう思っている。

 

 戦闘中に敵に殺されるのはバッドエンドだ。例え自分の死と引き換えに仲間を助ける事ができたとしても、それは自分にとってのバッドエンドでしかない。そう言う死に方が嫌だというわけではないけれど、理想的な人生の終わり方は、やっぱり家族に看取ってもらいながら老衰でこの世を去る事なのではないだろうか。

 

 成長して結婚した子供たちや、その子供たちから生まれた孫たちに看取られて死ぬ。銃を手にし、制服に身を包んで戦場で命を落とすよりも、その方が人生の達成感があると思う。

 

「――――でも、ハッピーエンドになるためにはこの戦いに勝たなければならない。負ければもちろんバッドエンドだ。本や演劇の物語でバッドエンドが好きな奴もいるかもしれないが、自分の物語までバッドエンドにするわけにはいかん。――――俺たちの物語は、必ずハッピーエンドにするんだ。いいな!?」

 

『了解!』

 

『おう!』

 

『はい!』

 

『うん!』

 

『了解ですっ!』

 

「ええ!」

 

「ふにゅっ!」

 

「了解、親父」

 

 仲間たちの返事を聞いた俺は、ニヤリと笑ってから草原の向こうで見えた爆炎を睨みつけた。おそらく、ドローンがグレネードランチャーで攻撃を開始したんだろう。MG3の銃声も聞こえてくるようだ。

 

 爆発の残響をフルオート射撃の銃声の群れが叩き潰し、その残響を次の爆音が粉砕する。銃声と爆音の争いが続く草原の向こうでは、ゾンビたちが次々に吹っ飛ばされて肉片になっていることだろう。

 

 だが、相手は10万体以上だ。武装したドローンが搭載している弾薬を全て叩き込んだとしても殲滅できる筈がない。それに、その後に待っているC4爆弾の爆破でも殲滅は出来ないだろう。

 

 だから俺たちがゾンビの群れを突破して、魔剣を破壊する必要がある。

 

「あ、そう言えば、21年後の俺ってどうなってんの?」

 

「え?」

 

「いやぁ、すっかり聞き忘れてたぜ。何だか未来の俺も気になるんだよね。一番は家族だけどさ」

 

「えっと…………」

 

 タクヤはアンチマテリアルライフルのスコープから目を離し、数秒ほど目を瞑ってから答えてくれた。

 

「とりあえず、ハゲる気配はない」

 

「ケンカ売ってんのか、ガキ」

 

 当たり前だろうが! 38歳でハゲてたまるか!! 出来れば頭のこと以外を教えてくれるか!? 相変わらず元気とか、そういう事を教えてくれよ! 何で真っ先に髪の事を言うんだよ!?

 

「ええと…………相変わらず妻たちに襲われまくり」

 

「何ぃっ!?」

 

『う、羨ましいよ、旦那ぁ…………痛ぇっ!?』

 

『この変態ハーフエルフ!!』

 

 お、襲われまくりって…………つまり、エミリアとエリスの2人に何度も押し倒されてるって事だよな…………? ハヤカワ家の男は女に襲われ易いって高校生の頃に親父が言ってたけど、本当に俺まで襲われるのか!?

 

 何でその体質まで転生した後も維持されてんだよ。

 

「そして、母さんのドロップキック喰らいまくり」

 

「夫婦喧嘩!?」

 

「いや、きっと妻の愛だろ」

 

「俺はドMじゃねえっつーの!!」

 

 な、何だそりゃ。ちょっと待って、21年後の俺はどうなってんの? ハゲる気配がないのは当たり前だけど、どんな状況になってんの…………?

 

 困惑しながら、タクヤがC4爆弾を起爆する前に、もう一度AK-47をチェックしておくことにする。グレネードランチャーにはしっかり40mmグレネード弾が装填されているし、マガジンもちゃんと装着されている。安全装置(セーフティー)も既に解除しておいた。

 

 あとはフロントサイトとリアサイトで照準を合わせてからトリガーを引けば、ゾンビを射殺できる。

 

 アイアンサイトを覗き込んで確認していると、銃声と爆音の争いが終わっていた。互いの轟音の残響が、そろそろ聞こえてくる筈のゾンビたちの呻き声をかき消してしまっている。

 

「――――C4爆弾、起爆する」

 

「やれ!」

 

 攻撃を終えて戻ってくるドローンたちを確認した直後、タクヤは耳に装着している無線に向かってそう言うと、塹壕の中に置かれてあったC4爆弾の起爆装置を起動させた。

 

 起爆装置のボタンを押した瞬間、草原の向こうに出現した黒煙と、その足元でふらつきながら歩いていた無数の人影が、地中から吹き上がった爆炎と爆風に飲み込まれ、一気に吹き飛んだ。ドローンたちが生み出した黒煙と残響を追い出すように姿を現したC4爆弾の爆風は既にズタズタだったゾンビたちを木端微塵に粉砕し、爆音で彼らの呻き声をかき消してしまう。

 

 まるで、爆炎の防壁が誕生したような光景だった。吹き飛ばした土と肉片を纏って吹き上がった爆炎の防壁は、追い出されて天空へと逃げようとしている黒煙の残滓に襲い掛かると、段々と黒煙に変貌していった。

 

 無数のC4爆弾たちが生み出した巨大な黒煙の防壁と陽炎を突破して、生き残ったゾンビたちが前進してくる。

 

「…………ふにゃあ、来たよ」

 

 致命傷を負っているかのようにふらつきながら歩いて来るゾンビたち。ジョシュアが魔剣で操っている戦死者たちの隊列が、呻き声をあげながらネイリンゲンへと向かってきている。

 

「よし…………カレン、信也。ロケット弾による攻撃を開始せよ」

 

『了解!』

 

『了解(ヤヴォール)!!』

 

 隣に立っていたタクヤは起爆装置から手を離すと、俺の顔をじっと見つめながら頷いた。C4爆弾の爆破とドローンの先制攻撃で殲滅できないという事は知っている。この後に用意されている攻撃でも殲滅は難しいだろうが、これで敵の数は大幅に削れる筈だ。

 

 これから投入するのは、それほど攻撃範囲の広い攻撃なのだから。

 

「――――――『BM-13カチューシャ』、攻撃用意」

 

 俺の号令が無線機へと送り込まれた直後、後方にある塹壕の向こうで、鋼鉄の塊が鳴動を始めた。

 

 鳴動という比喩表現をするには、その兵器はいささか小さ過ぎたかもしれない。隣に平均的な身長の兵士が立てば追い越してしまいそうなほど全高は低く、小ぢんまりとしている。がっちりした金属で構成された小さな車体の両サイドには小さなキャタピラが装着されており、その胴体の左側からは2連装の機銃が突き出ている。

 

 動き出した兵器の正体は、かつて第二次世界大戦の際にイタリア軍が大量に使用したと言われている、小型戦車の『L3』だった。戦車に分類されている兵器だが、肝心な戦車砲は搭載されておらず、主な武装は2連装の機銃のみである。他の戦車と比べれば装甲も薄く、武装も貧弱で、歩兵くらいしか相手にできなさそうな戦車と呼べる兵器ではないけれど、これは第一次世界大戦中の戦車と同じ目的で使う事を前提とした設計であるからである。

 

 第一次世界大戦の『ソンムの戦い』と呼ばれる激戦の最中に、敵の塹壕を突破する切り札として投入された戦車の目的は、『塹壕の強行突破』と、『進撃する歩兵の支援』とされていた。つまり、そもそも戦車同士で戦うのは想定外だったというわけだ。

 

 でも、第二次世界大戦ではむしろ戦車同士で戦う機会の方が多くなり、開発される戦車も対戦車戦闘を想定したものばかりが生産されるようになった。このように歩兵を支援するための戦車は『軽戦車』という種類の戦車として生き残っていくけど、近年ではその座は重武装化された装甲車に取って代わられ、完全に廃れてしまっている。

 

 戦車を相手にするには完全に非力と言わざるを得ない兵器だが、今回の相手は無数のゾンビたち。機銃しか搭載していないL3でも十分に相手にする事ができる。

 

 本来は機銃手と操縦士の2名のみで動かすL3だが、モリガンの人員不足を何とかするために無人型に改造してある。オペレーターを担当するフィオナちゃんが指示を出し、無人の小型戦車を戦わせるというわけだ。

 

 それに、そのL3は頼もしい兵器を牽引している。これから数多のゾンビを焼き払うという華々しい戦果をあげるのは、そっちの方だろう。

 

 L3の小ぢんまりとした車体の後方に連なるのは、まるで電車用のレールと金具を組み合わせたかのような物体を乗せた荷台だった。一見すると鉄道用のレールを運搬しているようにも見えてしまうけれど、そのレールの根元の方には無数のロケット弾がセットされている。

 

 その兵器が、これから数多のゾンビを焼き払うのだ。

 

 第二次世界大戦中のドイツ軍が恐れた、旧ソ連製のロケットランチャーの『BM-13カチューシャ』である。装填された無数のロケットをひたすら連発し、敵陣にばら撒くという恐るべき兵器で、第二次世界大戦中ではこれが大量に投入され、数多のドイツ軍の陣地を焦土と化していったという。

 

 それを搭載した荷台を牽引したL3が2両配備されており、塹壕の後方に展開している。カチューシャの再装填は力自慢のギュンターに担当してもらっている。

 

 攻撃を担当するのはカレンとミラの2人だが、元々このカチューシャは攻撃範囲のみを重視した兵器であるため、圧倒的な攻撃力と攻撃範囲を発揮する代わりに命中精度は劣悪と言わざるを得ない。とりあえず1体でも多くのゾンビを巻き込む事が出来れば上出来だ。

 

「―――――――撃て(アゴーニ)ッ!」

 

『発射(アゴーニ)!!』

 

 号令を発した瞬間、カチューシャ(スターリンのオルガン)が火を噴いた。

 

 停車したL3に牽引された荷台から、矢継ぎ早に無数のロケット弾が、まるで隕石のように凄まじい勢いで連射され始めたのである。立て続けに炎を吐き出しながらすっ飛んでいくロケットたちと、彼らが残した煙に包まれる発射用の荷台。あそこで作業しているカレンとミラは、今頃咳き込んでいるだろうか。

 

 仲間の心配を始めた直後、踵を返しかけた俺の左側で熱風を纏った閃光が産声を上げた。慌てて戦場を振り返った俺の目の前には見慣れた火柱が誕生していて、土や焦げた雑草の破片と共に、鎧を身に纏ったゾンビたちの身体の一部を空へと舞い上げている。

 

 カチューシャの最初の一撃が、地面に着弾したのだ。少しでも多くのゾンビを巻き込めるように調整されたロケット弾は地面に激突すると、偶然そこを歩いていた運の悪いゾンビを一瞬で叩き潰し、地面にある程度めり込んでから爆発した。

 

 膨れ上がる爆炎と爆風。それが消え去るよりも先に次の爆炎が生まれ、同じようにゾンビを次々に焼いていく。

 

 たった2基のカチューシャの砲撃とはいえ、立て続けにロケットが地面に撃ち込まれることによって生じる爆発は、戦車砲の集中砲火よりも派手だった。

 

「す、すごい…………」

 

「さて、俺たちもそろそろ突っ込むか」

 

 そう言いながら、AK-47を構える。傍らで伏せていたタクヤとラウラの顔を見下ろして頷いた俺は、息を吐きながら火柱を凝視した。

 

 火柱の向こうから火だるまになったゾンビたちが、ゆらり、と次々に姿を現す。酔っぱらいの歩き方にも似た動きだけど、苦手な炎に包まれたゾンビたちは、1体、2体、と次々に崩れ落ち、二度と動くことのないローストビーフと化していく。

 

 今ので、どれだけ数を減らせただろうか。せめて3桁以上のゾンビは減っているのならばありがたいと思いつつ、近くに備え付けてあったスコップを拝借しながら俺は立ち上がる。

 

 タクヤたちには、ある程度狙撃で援護してもらうとしよう。この2人が突っ込むタイミングは、俺とエリスよりも少し後だ。

 

「頼んだぞ、同志(タクヤ)」

 

「おう。行け、同志(親父)

 

 はははっ。まさか、未来からやってきた息子に援護してもらえるなんてな。

 

 ――――――――奮い立つじゃないか。

 

 これが父親の戦いなのだと教えてやらねば。

 

 何度か魔物の大軍と戦ったことはあったけど、無数のゾンビたちと戦ったことはない。でも、あのグロテスクな隊列を突破しなければ、ジョシュアをぶち殺して報復することができない。

 

 突破するしかなかった。

 

 俺たちの仲間を殺し、彼女の姉を利用したクソ野郎に必ず報復する。そして、今度こそ止めを刺す。

 

「いくぞ、エリス!」

 

「ええ!」

 

「―――――――УРааааааааааааа!!」

 

 接近してくる無数のゾンビの群れに向かって、俺とエリスが走り出した。首のないゾンビや肋骨があらわになっているグロテスクなゾンビたちが、口から血の混じった涎を垂らして呻き声をあげながら、突撃してくる俺とエリスに向かって得物を振りかざし始める。

 

 だが、あいつらの得物は基本的に剣や槍だ。こっちの武器はロシア製の優秀なアサルトライフルだぜ? 

「コンタクトッ!」

 

「了解!」

 

 隣を走るエリスに向かって叫びながら、俺は目の前のゾンビの隊列に7.62mm弾のフルオート射撃をお見舞いする。もちろん、アイアンサイトで照準を合わせているのはゾンビたちの頭だ。首のないゾンビには、胴体に弾丸を2発ほど叩き込んでおく。

 

 目の前のゾンビをフルオート射撃で薙ぎ倒しながら、左手をグレネードランチャーのグリップから離し、先ほど塹壕から拝借してきたスコップを近くのゾンビの頭に叩き付ける。隣を走るエリスも、同じようにフルオート射撃で次々にゾンビの頭を撃ち抜きながらスコップを引き抜くと、呻き声をあげながらゾンビが突き出して来た先端部の欠けている槍を塹壕のスコップで受け流し、そのまま反時計回りに回転すると、下顎が欠けているゾンビの顔面にAK-47の銃床を叩き付ける。銃床を叩き込まれてよろめいたゾンビの喉元にスコップを放り投げて止めを刺したエリスは、そのまま近距離射撃で次々にゾンビを仕留め始めた。

 

 俺もグレネードランチャーのトリガーを引き、40mmグレネード弾で槍を構えていたゾンビたちの隊列を粉砕すると、その爆炎の中に飛び込みながらAK-47を乱射した。そしてすぐに空になったマガジンを投げ捨て、新しいマガジンを装着してからコッキングレバーを引き、目の前で剣を振り上げようとしていたゾンビの額に左手のスコップを突き刺す。

 

 そしてスコップを引き抜きゾンビが突き出して来た槍を銃で受け流しながら、左側にいた首のないゾンビの胴体にフルオート射撃をお見舞いする。胸に風穴を3つも開けられたゾンビが崩れ落ち始めたのを確認した俺は、スコップと近距離射撃でゾンビを蹂躙しながらエリスに追いついた。

 

「どうだ!?」

 

「良い武器ね!」

 

 AK-47のフルオート射撃でまとめて3体のゾンビの喉元を引き裂きながらエリスが叫ぶ。。

 

「今までこんな武器を使ってたの!?」

 

「ああ! 俺の世界の武器だ!」

 

「なるほど、これがモリガンの武器の正体というわけなのね!?」

 

「そういうことだ!」

 

 隣でフルオート射撃を続けていたエリスのAK-47のマガジンが空になる。俺は右手でトリガーを引きながら左手をグレネードランチャーから離し、銃床のホルダーに戻すと、ホルダーの中のマガジンを彼女に放り投げた。

 

 エリスは空になったマガジンを投げ捨ててから俺のマガジンをキャッチすると、笑顔で「ありがと!」と言いながらそのマガジンを装着し、コッキングレバーを引いた。

 

「ちっ!」

 

 次々に接近してくるゾンビを射殺していると、俺のマガジンも空になった。マガジンを取り外して放り投げた瞬間、隣でゾンビの喉元をスコップで串刺しにしていたエリスが、銃剣を引き抜きながら今度は俺にマガジンを放り投げた。

 

「はい、恩返しよ!」

 

「助かるぜ!」

 

 俺は目の前のゾンビを蹴飛ばしてからグレネード弾を叩き込み、まとめてゾンビを粉々にしてから受け取ったマガジンを取り付け、コッキングレバーを引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 銃声が聞こえてくる。

 

 聞き慣れた音を聞いた私は周囲を見渡すが、どこにも銃は見当たらない。私の周囲には蒼い草原が広がっているだけだ。

 

 蒼と空が支配する幻想的で殺風景な世界だ。私は先ほどから、ずっとここに立っている。

 

 私の事を抱き締めてくれた力也が燃え尽きてしまった瞬間、私の立っていた草原は蒼く変色してしまったのだ。

 

 この銃声はどこから聞こえてくるのだろう? もしかして、力也が戦っているんだろうか?

 

『―――――――――こんにちは』

 

「………?」

 

 草原を見渡していると、いきなり目の前から声が聞こえてきた。明らかに力也の声ではない。私と同い年くらいの少女の声だった。だが、聞いたことのない声だ。明らかにカレンの声ではないし、姉さんの声ではない。

 

 私に声をかけて来たのは、いつの間にか目の前に立っていた蒼い髪のツインテールの少女だった。水色のワンピースを身に纏い、私の顔を見つめながら微笑んでいる。

 

 誰だ…………? 姉さんと私に似ているような気がするが、誰なんだろうか?

 

『もう、みんな戦ってるよ?』

 

 みんなだと…………?

 

 まさか、モリガンの仲間たちが戦っているのか?

 

 いきなり私の目の前に現れた少女は、どこからか聞こえてくる銃声を聞きながら楽しそうに笑った。

 

 


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